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航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

JALもA321neo発注で737との両刀遣いに。これからは両刀遣いがトレンド?

3月21日、日本航空はエアバスA350-900型21機とA321neo型11機、ボーイング787-9型10機を発注したと発表しました。このうちA350-900型1機は1月の羽田空港の事故の代替ですが、残りの20機と787-9型は北米、アジア、インドなどの国際線用、A321neoは767-300ERの代替として国内線に投入される見込みです。また、787-9の大半は子会社の長距離LCC「ZIPAIR」用になるようです。

 

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さて、A321neoと言えば既にANAが導入済みですが、以前の記事でA320と737の両方を使用する航空会社は意外に少ないという事に言及しました。

 

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ANA位の規模で両方の機種を使い続けるのはむしろ少数派だったんですが、近年の737MAXのトラブルで、むしろ単一機種(特に737MAX)に統一する方がリスクが高いという認識が広がっています。これから単通路機は737MAXとA320neoシリーズの両方を導入する会社が増えていくのではないでしょうか?その根拠と理由を考察しました。

 

・アメリカや中国のメガキャリアは両方発注済み

アメリカの3大メガキャリアのうち、ユナイテッドとアメリカンは既に737MAXとA321neoの両方を発注・就航済み。デルタ航空も当初はA320neoシリーズのみの発注で、737MAXは発注しませんでしたが、2022年7月に737-8を100機発注。将来的にはアメリカのメガキャリア3社は737MAXとA320neoの両方を保有する見込みです。

大手航空会社が6社あった時代は737のみ保有の会社(コンチネンタル・デルタ)、A320のみ保有の会社(ノースウエスト、USエアウェイズ)、両方保有の会社(アメリカン・ユナイテッド)に分かれていました。しかし、2010年代の再編統合でアメリカン、デルタ、ユナイテッドの3社に集約された結果、程度の差こそあれど3社とも737・A320の両方を保有するようになりました。

アメリカの場合、保有機数が700~900機と桁違いに多く、単一機種統一はむしろイレギュラー時のリスクが高くなります。また、単一機種統一によるコスト削減よりも、両社を競わせて値引きなどの条件を引き出す方が得策であり、無理に機種統一する必要性は少なくともアメリカのメガキャリアでは薄いのです。また、アメリカに関してはエアバスがモービルに最終組み立て工場を設置した事も、エアバス機発注に対する心理的・政治的ハードルを下げているのではと思います。

 

同じ事は中国のメガキャリア3社にも言えます。元々中国の航空会社、特に中国国際、東方、南方の元民航系大手3社は機材統一よりも国家の移行が優先される傾向にあり、機種に関しては割と雑多であまり統一感はありません。元来航空機の発注は外交的な交渉材料や貿易摩擦の緩和策として国策的に行われる事が少なからずありますが、特に中国の場合は有効な「外交カード」として使われます。航空機発注の見返りに現地企業との合弁や航空機技術の供与、あるいは他の分野での交換条件などで使われるケースが多く、結果的に大手三社の機種構成は雑多でA320と737の両方が当たり前のように使われています。

とはいえ、近年の中国大手3社はアメリカのメガキャリア3社に次ぐ規模となっており、結果的に両刀使いでも問題ないくらい大規模になっているんですが。

 

後は急速に規模を拡大しているトルコのターキッシュエアラインズも737とA320をそれぞれ100機以上保有しており、737MAXとA320neoも発注済み。一定以上の規模を持つキャリアは、今後両方の機種を導入してリスク回避をするのが主流になると思います。

 

・JALやANAと同等規模の会社も両刀使いに?

737MAXの連続事故と運航停止措置以来、徐々にではありますが、単一機種から両刀使いに切り替えていく航空会社が増えてきました。
例えば中国の厦門航空。厦門航空は元々ボーイング派で、導入した機材は全てボーイング機という筋金入りのボーイング派でしたが、米中貿易摩擦や737MAXの運航停止でボーイング機の追加購入が見通せなくなり、2020年1月にA321neo10機をリース導入すると発表しました。その後2022年9月にA320neoシリーズ40機を発注し、2023年から順次納入されるなど、エアバス機の比率が増えてきました。

また、一度はA320シリーズから737MAXへの置換え方針だったエアカナダも、2022年3月にA321XLR型26機(うち20機はリース)を発注。こちらは大西洋路線を中心に投入するつもりなので、国内線やアメリカ路線が中心の737MAXとは微妙に目的が違いますが、A220も含めるとエアカナダも両刀使いに転換したと言えます。

更に単通路機派737シリーズが中心で、2015年には737MAXも発注していた大韓航空も、2022年にA321neoの初号機を就航させてからはA321neoの発注を増やし、統合予定のアシアナ航空の機体も含めると、今後大韓航空ではA320neoシリーズが多数派になる見込みです。とは言え737-8も平行して導入し続けていますので、大韓でも737MAXとA320neoの両刀使いが定着する見込みです。

先のアメリカや中国などのメガキャリアと違い、1機種数十機クラスの会社でも両方の機種を運用する動きが増えているのも今後両刀使いが増えていくと考える理由です。

 

・単一機種に統一するリスク

では逆に単一機種に統一したままだと、どういうリスクが考えられるでしょうか?

真っ先に考えられるのは「その機種が事故や欠陥で納入・運航停止になるリスク」でしょう。古くはDC-10の運航停止措置で幹線や長距離路線で供給不足に陥ったことや、787のバッテリー問題による運航停止措置でANA(JALもですが)が国際線・国内線とも大規模運休を余儀なくされたこと、そして737MAXの運航停止で世界中の航空会社が長期間運休や老朽機の退役先延ばしを余儀なくされた事など、単一機種に統一するとその機種が使えなくなった場合、まともな運航ができずに経営に大きな影響を与えてしまうリスクがあるのです。


また、余りにも長い期間単一機種に頼りすぎると、他の機種への転換が困難になるリスクも考えられます。今後このリスクが出る航空会社の代表がアメリカのサウスウエスト航空でしょう。

航空ファンならご存じだと思いますが、サウスウエスト航空は創業期のごく一部を除いて保有機を737で統一しており、単一機材にすることで整備コストや部品調達コスト、乗務員や整備士などの訓練費用コストなどを削減して従業員の習熟スピードを上げる戦略をとっています。サウスウエストに取って737は会社のポリシーそのものであり、切っても切れない関係。単一機種でコストを削減するサウスウエストのビジネスモデルが世界のLCCのビジネスモデルのひな形となったのも有名な話です。
しかし、737MAXの事故でその強みは大きなリスクに変わってしまいました。ボーイングが737NGの後継を新設計機ではなく改良型にした理由の一つが、サウスウエストをはじめとした長年の737ユーザーの存在。彼らをつなぎ止めるために737MAXの開発に踏み切った部分は少なからずありますが、この時既に737は地上クリアランスやブレーキ性能などの問題で現代技術への対応が難しくなっており、737MAXの開発は「半ば無理矢理」な面がありました。この無理矢理な改良型開発は、言い換えればボーイングやサウスウエストから新型機開発による変革のチャンスを奪ったとも言え、結果的にサウスウエストは737シリーズと「心中」することになりそうです。

既にサウスウエストでは737MAXの納入が遅れることや、運航停止が長引くことを見越し、減便や新規採用の停止を行っているようですが、737MAXの問題は刑事事件やボーイングの品質問題に発展しており、短期間での解決は難しそうです。

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かと言ってサウスウエストが今からA320neoシリーズを発注するのも無理な話。既に737MAXの一件でA320neoシリーズは大量の受注残を抱えており、エアバスも取引実績の無いサウスウエストの大量受注を受け入れる余裕はないでしょう。仮にそれを乗り越えて発注できたとしても、長年737に慣れきったサウスウエストの従業員が操縦システムも座席配置も思想も違うエアバス機をすんなり受け入れられるかは疑問。737による単一機種でのビジネスモデルで躍進を遂げたサウスウエストですが、今後はそのビジネスモデルが自らのクビを締めるリスクも考えられるのです。

 

・単一機種が基本のLCCはどうする?

では、サウスウエストのビジネスモデルをひな形としている世界各地のLCCは、そのビジネスモデルを捨てて複数機種保有に移行するのでしょうか?基本的には単一機種のままで行くと思いますが、既に複数機種保有になっているLCCは少数ながら存在しており、今後は数百機単位の保有機を持つLCCは複数機種体制に移行する可能性があります。

複数機種保有のLCCの代表例がアメリカのジェットブルー。当初はA320のみでしたが、その後エンブラエルE190を大量発注し、2機種体制に移行。近年はE190の後継としてA220を発注しており、2機種体制は今後も続く見込みです。ジェットブルーの場合、路線特性や需要に応じて2機種を使い分けているようですが、単一機種のリスクヘッジの側面もあるでしょう。

また、大韓航空系のLCC・ジンエアーも737と777の2機種体制。ジンエアーの場合は777は高需要路線や長距離路線用であり、同様のケースはシンガポール航空系のスクートやカンタス系のジェットスター、フィリピンのセブパシフィック航空なども挙げられます。これらのケースはリスクヘッジと言うよりは、事業拡大で長距離運航可能な機材が必要になったからと言えます。

 

今のところ置換え途上での一時的な併用を除けば、LCCで737とA320の両方を保有するケースは見当たりませんが、特に737を使用しているLCCのうち保有機が数百機規模の会社は、A320との併用に踏み切るケースが出てくるかも知れません。コスト面や運用面では単一機種の方が遙かに優位ですが、737MAXのような事例が出てしまうと話は別。ひとたび運航停止に陥ってしまうと最悪の場合全便運航停止に追い込まれてしまい、倒産にも繋がりかねません。そしてそれは、一機種への依存度が高ければ高いほど、リスクも大きくなってしまうのです。

一般的には1機種で20~30機程度を運航していれば、シミュレーターを含めた機材全体の投資効果は最大限発揮できるとされ、複数機種保有もこの機数が一つの基準となるでしょう。単一機種が前提のLCCでは事情はまた違ってくると思いますが、それでも数百機単位となれば機種を増やしても投資効果的にはさほどマイナスにはならないかも知れません。今後は737MAXを大量発注しているサウスウエストやライアンエアーなどの大手LCCが、他の機種を発注するかにも注目です。

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・まとめ

以上、JALのA321neo発注に伴う、737とA320の両刀使いについて考察しました。これからは小型機の分野でも分散発注が一種のトレンドになっていく可能性は十分あると思います。特に737MAXに関しては、この機種だけに依存すること自体が大きなリスクになってしまいましたから、今後もエアバス機発注でリスクを分散する動きは続くと思います。

しかし、エアバスだけでは小型機の需要を賄えないのも事実。だからこそボーイングには全ての膿を出し切って、安全重視の昔の姿勢を取り戻して欲しいと思います。

737MAXとA320neoの両方を保有する会社が増えているのは、ボーイングと距離を置いたり、見限ったりする前兆かも知れません。だからこそ、まだ市場への影響力があるうちに、ボーイングは根本から立て直さなければいけないのです。

さもなくばボーイングに待っているのは破産か、ロッキード辺りに身売りされるか、中国のCOMACに駆逐されて消えるかでしょう。数十年前はマクドネル・ダグラスがエアバスにシェアを取られて消滅するとは誰も思わなかったように。どうか、そんな悲しい未来が訪れませんように・・・

 

パリ航空ショー2023の受注ニュースまとめ

6月19日から25日まで開催されたパリ航空ショー。イギリスのファーンボロ航空ショーと一年おきに交互に開催されますが、これらの航空ショーは航空機メーカーの商品アピールや新型航空機のお披露目の場であると同時に、メーカーと航空会社、メーカーとサプライヤーなどとの商談の場でもあり、毎回大規模な航空機発注が発表されるのが通例です。

今回のパリ航空ショーでもインドの航空大手の大規模発注が発表されるなど、大型発注が相次いで発表された一方、一部メディアで可能性が報道されたANAとJALからの発注は今回はありませんでした。

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今回はパリ航空ショーで発表された受注状況をまとめてみました。

 

エアバス

今回のパリ航空ショーで最大のニュースは何と言ってもインディゴのA320neo大量発注でしょう。これまでもインディゴは2019年に300機のA320neoファミリーを発注しており、当時でも単一航空会社としては最大の発注数でしたが、今回はその数を大幅に上回る過去最大の発注数です。何をするか分からない航空会社もビックリ

これでインディゴの総発注数は1330機となりますが、実際には一部のA320ceoの代替用ですので、全ての機材が同時にフリートに加わるわけではありません。ですが、将来的には世界最大のLCCであるサウスウエスト航空(但し、近年のサウスウエストのビジネスモデルは多少FSC寄りになってきてますが)と同等か、それを上回る保有機数となる事になり、インド市場とインディゴの勢いの凄さを改めて感じます。

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19日の発表はまだまだ続きます。エアモーリシャスからA350型3機の追加発注を発表しました。モーリシャスはアフリカの島国で、かつてはサトウキビ栽培がほぼ唯一の産業でしたが、現在は工業や観光業も発達するなどアフリカでも有数の裕福な国です。

モーリシャス航空はモーリシャスの観光産業の一翼を担う存在であり、ヨーロッパを中心にアジア・アフリカ各地に路線もを広げています。日本には未就航ですが、上海や香港には就航しており、今回のA350追加発注もこれらの国際線強化のためと考えられます。これ使って日本にも飛んでこないかなあ・・・

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また、サウジアラビアの格安航空会社・フライナスもA320neoを30機追加発注。これでフライナスのA320neoファミリー発注数は120機となります。

フライナスは2007年に設立され、中東地域を中心に路線を広げています。サウジアラビアの航空会社というと国営のサウジアラビア航空くらいしか思いつきませんが、近年サウジアラビアは観光客受け入れの強化と乗り継ぎ需要の取り込みに力を入れており、最近では首都のリヤドをハブとする第二の国営航空会社・リヤド航空を設立するなど航空事業の投資に積極的。インドと同じく、将来的にはサウジアラビアの存在も業界内の新たな「台風の目」となるかもしれません。

 

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続いて20日にはエアインディアがA350を40機、A320neoを210機の合計250機を正式に発注。これは2月に発注意向を表明していた分の正式発注ではありますが、インディゴに続く超大型発注で、インドの航空業界は爆発的に規模を拡大する見込みです。

 

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↓エアインディアの飛行機爆買いについてはこちらもどうぞ。

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更にフィリピン航空がA350-1000型9機を確定発注。こちらも5月に発注意向を表明したものの正式発注ですが、フィリピン航空は最重要路線の北米路線に投入する見込みです。ちなみに2021年に破綻したこの会社、しれっと去年に裁判所管理から脱却しています。

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そして22日、カンタスがA220型9機の追加発注をしたと発表。A220自体は昨年5月に20機の発注を発表しており、この時にA350-1000型12機とA321XR20機を発注済み。これらの路線は現在使用している機材よりもより長距離を飛ぶことが可能であり、カンタスはこれらの機材を使ってより長距離の路線を開拓することになるでしょう。

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最後に6月23日、アイルランドのリース会社・アボロンがA330neo20機の発注意向を表明。アボロンは所有・管理している機体やコミットメントを含め830機の航空機を保有していますが、その大半はエアバス機。20機のA330neo発注は順当なものと思われます。

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ボーイング

初日こそ発注発表がなく、インディゴの巨額発注でエアバスに持って行かれた感のあるボーイングでしたが、20日から発注のニュースが相次ぎました。口火を切ったのはエアインディアの正式発注で、737MAX190機、787型20機、777X10機の合計220機。

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22日は発注ニュースが一段落したエアバスに代わってボーイング機の発注ニュースが相次ぎました。チャイナエアラインが787-9型のオプション分8機を確定発注に変更し、併せて既存発注分の787-9型16機のうち6機を-10型に変更しました。小型機はエアバスに鞍替えされてしまったボーイングですが、787の追加発注で巻き返した形です。

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続いてアフリカのアルジェリア航空から737-9型8機を受注したことを発表し、併せて既存の737の貨物型改修計画も受注。こちらも大型機はエアバスのみで先日の新型機受注もエアバスでしたが、小型機は737シリーズに統一されており、今回の受注で牙城を守った形です。

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そして先ほどエアバスの方でも出ていたアボロンからも737MAXを40機受注したと発表。737-8型の需要が旺盛なことを受けての発注のようで、2019年の運航停止でイメージダウンとなった737MAXも順調に市場の信頼を回復しているようです。

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また、ルクセンブルクのルクスエアからも737-7型4機を受注したと発表。737MAXの中でも最小サイズの-7型は受注が低迷していたので、久しぶりの受注となったのではないでしょうか?

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アメリカの航空リース大手・ALCからも787を2機受注しました。

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最後に、インドのLCC・アカサエアから737-8型4機の受注を発表しました。アカサエアは2022年に運行を開始したばかりの新しい航空会社で、既に2021年11月に72機の737MAXを発注済み。CEOはジェットエアウェイズとゴーエアのCEOを歴任しており、「インドのバフェット」とも言われたラケシュ=ジュンジュンワラ氏が後ろ盾になっていました。そのジュンジュンワラ氏はアカサエアの就航直後に亡くなってしまい、将来が不安視されていますが、インディゴとエアインディアの2強体制になりつつあるインドの航空業界で存在感を発揮できるか注目です。

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その他のメーカー

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2大メーカー以外で注目されたのは、デ・ハビランド・カナダのDHC-6ツインオッターの新型・クラシック300-G。ツインオッター自体は1965年に初飛行したかなり古い飛行機ですが、機体の頑丈さと未整備の飛行場でも離着陸できるタフさで根強い人気を誇ります。1988年に一旦製造を終了したものの、2006年に製造権を買い取ったバイキングエアによって、2008年に生産が再開。この際、エンジン換装とグラスコクピット化で近代的にした400型を発表し、日本でも沖縄の離島路線参入を目指した第一航空によって2機が購入されています。

今回発表されたクラシック300-Gは機体をより軽量化して搭載量をアップしたほか、機内インテリアも一新。今回のパリ航空ショーでも3社から発注または購入意向をゲットし、滑り出しは順調のようです。

 

また、受注とは直接関係ありませんが、ブラジルのエンブラエルと日本のニデック(旧日本電産)が空飛ぶクルマ用のモーター開発で合弁会社を設立したというのも大きなニュース。スペースジェットの開発中止など良いニュースの少ない日本の航空機産業ですが、航空機の電動化によって今まで考えられなかったメーカーの参入が見込まれるなど、航空機業界の変革で思いもしないメーカーが航空機産業に名を連ねるのかも知れません。

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まとめ

以上、2023年のパリ航空ショーでの受注ニュースをまとめました。航空ショーで発表された総受注数はエアバス846機に対しボーイングは358機と、これだけ見るとエアバスの圧勝のように思われます。とはいえ、エアバスの受注数のうち500機はインディゴの多量発注であり、これを除けばエアバスとボーイングの受注数はほぼ互角。737MAXの運行停止や777Xの開発遅延、787の品質問題など課題山積なボーイングですが、少なくとも受注数だけを見れば信頼を取り戻しつつあるのではないでしょうか?

今回のパリ航空ショーでもボーイングは777Xと737-10の展示飛行でアクロバティックな飛行を披露しており、自社機の性能と技術力の高さをアピールしました。エアバスの一人勝ちでは旅客機も面白くなくなりますし、ジェット旅客機の老舗としてボーイングにはこれからも頑張って欲しいですね。

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また、今回の受注傾向としてインドの航空会社からの受注が目立ちました。インドの航空需要の急速な伸びを受けてのものですが、エアインディアがアジア~ヨーロッパ・アフリカの乗り継ぎ需要を狙っているように、インドの航空会社も将来的には中東御三家やターキッシュエアラインズなどがしのぎを削る国際ハブ競争に名乗りを上げてきそうですし、今後世界の航空業界で存在感を増してくることでしょう。

 

来年はイギリスのファーンボロ航空ショーが航空機発注のお披露目の場になると思われます。どんな会社がどんな発注をして世界を驚かせるのでしょうか?

 

 

「一応」商業運航にこぎ着けたC919とダメだったスペースジェットの違い

2023年5月28日に初めての商業運航を開始した中国商用飛機有限責任公司(COMAC)のジェット旅客機、C919。最初に就航させたのは中国東方航空で、路線も中国国内最大のドル箱路線・北京~上海線。翌日には上海~成都線にも就航し、今後は中国国内の各航空会社が国内線に投入していく見込みです。

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さて、近年の中国製ジェット旅客機の発達は目を見張るものがあり、量産化にこぎ着けたのはなぜかDC-9によく似ているARJ21に続いて2例目。しかもこちらはMD-90の治具を流用しまくったARJ21と違い、完全新設計の機体です。もっとも、当初は2018年の納入開始を見込んでいたものの、試験飛行の遅れや中国当局側の対空審査体制整備の難航などで、4年以上遅れてしまいました。それでも就航までこぎ着けたのは素晴らしいことですし、審査体制整備の遅れは某高速鉄道と違い下手にメンツを優先して安全性をおろそかにしなかった為と考えることもできます。

toyokeizai.net

 

さて、C919の商業運航開始のニュースを見て感じたのは、同じくノウハウが乏しい状態から開発を開始したものの、開発が遅れに遅れて結局計画中止になってしまった三菱スペースジェットの存在。150~200席級で需要が大きい分、ボーイングやエアバスと正面からぶつかるC919と、100席以下で需要もライバルメーカーも違うスペースジェットを同列に扱うこと自体、ナンセンスだとは思いますが、曲がりなりにも就航にこぎ着けたC919と、多額の資金をつぎ込みながら幻に終わったスペースジェットとは何の違いがあったのか、考察してみました。

 

 

1.国家の「本気度」の違い

C919計画は中国のジェット旅客機の国産化という「国家プロジェクト」であり、中国政府も計画段階から深く関わっていました。そもそもCOMAC自体が中国国内の民間航空機製造会社を政府主導で統合して発足した企業ですし、株主構成も中国政府や上海地方政府などが名を連ねる国営企業です。更にC919の開発目的の一つが「国産ジェット旅客機を生産することで、ボーイングやエアバスへの依存度を減らす事」ですから、C919計画は国策に基づいたものであり、中国政府から資金的、人的なバックアップがあったことは容易に想像できます。

 

一方のスペースジェットですが、三菱重工が主体となった民間企業のプロジェクトであり、経済産業省もバックアップはしたものの、国家プロジェクトと言えるC919に比べると、その割合は小さいものでした。

YS-11の時は政府と民間の共同出資で特殊会社「日本航空機製造」を設立し、どちらかと言うと政府主導のプロジェクトでしたが、結果的には格好の天下り先となって経営はうまくいかず、販売網やアフターサービスの構築に失敗。コスト意識も低く、参加したメーカーも軍用機の開発経験はあるものの民間機のノウハウがなく、各社横並びで主導権を取るメーカーもなかったため、責任の所在が曖昧になった事も経営の迷走に拍車をかけました。結局、YS-11は多額の赤字を抱えたまま182機で生産終了。日航製も解散してプロジェクト的には失敗に終わりました。

スペースジェットの時に三菱重工が単独でプロジェクトを立ち上げ、政府の関与が限定的だったのもYS-11の時の教訓を生かしてのことでしたが、それが逆に三菱一社では複雑化したFAAの型式証明取得に対応できず、巨額になった開発費用を賄うことができずに事業中止に追い込まれた原因のひとつになりました。政府の関与が少なかったのも、今にして思えばFAAやEASAとの交渉や審査の面では不利だったのではないかと思います。

 

2.型式証明の申請先の違い

C919は最初から中国国内の需要を満たすことを目的としており、海外への輸出は余り考慮されませんでした。このため、型式証明取得に関しても中国国内のみで行い、FAAやEASAへの型式証明取得申請もしませんでした(EASAの方は後にしれっと申請していたようですが)。当の中国当局が大型ジェット旅客機の型式証明のノウハウがなかったため、結果的に時間はかかってしまいましたが、それでも同じ中国国内での審査や交渉ですから、意思疎通は比較的スムーズだったと思います。

 

これに対してスペースジェットは海外への輸出ありきの計画であり、特にメインターゲットとしていたのはリージョナル機の需要が大きいアメリカ市場。このため、FAAとEASAの型式証明取得は必須であり、試験機をアメリカに送り込んで試験飛行を行うことにします。

しかし、このFAAの型式証明取得が事業化への最大のハードルとなり、当初三菱重工は自社スタッフだけで乗り切ろうとしたこともあって、審査はなかなかうまくいきませんでした。途中から型式証明作業に長けた外国人スタッフを雇ったものの、新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限もあって時既に遅し。結局、FAAの形式取得証明に時間がかかりすぎたことがスペースジェットにとっては致命的な痛手となってしまいました。

 

3.背景にあった「需要」の違い

C919が当初事業展開しようとしたのは中国国内だけですが、既に中国の航空会社だけでも数千機単位のジェット旅客機需要があり、中国国内だけで十分ペイできるだけの発注量が見込めたためです。

中国国内の大手航空会社と言えば中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空の3社ですが、本体だけでも400~500機単位の保有機数を誇り、しかも傘下の航空会社も数十機から100機単位の航空機を保有するなど、大手3社グループだけでもかなりの需要が見込めます。更に大手以外でも海南航空、四川航空、吉祥航空、春秋航空などのグループがあり、ざっと計算したら3200機以上の民間航空機が飛んでいます。

既にC919がオプションも含め1000機程度の受注を得ていることからも分かるとおり、既に中国国内では2~3割のシェアをCOMACが取っている計算になりますし、今後の中国の航空需要の伸びを考えれば、もっと多くの受注が見込めるでしょう。つまり、アメリカやヨーロッパの航空当局の証明が取れなくとも、COMACは中国国内の需要だけで十分食べていける訳であり、旺盛な国内需要で当座の地盤固めをし、運航実績を重ねた上で、将来的にはFAAやEASAの型式証明取得にチャレンジする、という青写真も描けるわけです。

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一方のスペースジェットですが、国内企業で発注したのはANAとJALの2社だけで、オプション分を合わせても僅か57機。日本国内の民間航空機の登録数が600機程度、100席以下のリージョナル機に限ると50席以下のATR機を含めても100機程度しかないことを考えると、とても日本国内だけでは食べていけません。それ故三菱重工は当初からアメリカ市場をメインターゲットにしてFAAの型式証明取得を目指したわけですが、その割にはFAAの審査を甘く見ていた節があるように感じます。C919と違い、国内需要だけでは食べていけない事は最初から分かっていたはずなのに・・・

 

 

まとめ

以上、C919とスペースジェットの明暗を分けた理由について考察しました。国家レベルでの力の入れようが違いましたし、型式証明取得へのハードルもスペースジェットの方が高かった事、地盤となる国内需要の差が違いすぎたのも明暗が分かれた理由なのかなと思いました。

思えば日本の自動車産業や電機産業が世界的なシェアを取れたのも、技術力の高さに加え、旺盛な国内需要という「地盤」があったからであり、国内で力を蓄えた上で海外市場に打って出ることができたのが良かったのだと思います。同じ事は鉄道車両業界にも言えることであり、世界的に見ても車両需要の大きかった国内需要があったからこそ近年まで複数の大手車両メーカーが存在していましたし、日立が海外進出してシェアを伸ばす下地があったのだと思います。

言い換えれば戦後航空機産業が育たなかったのも国内需要がそこまで大きくなかったからであり、スペースジェットが失敗に終わったのも、早いうちから海外需要取り込みを目指して型式証明取得を最優先にしなかったのが原因の一つなのかも知れません。そういう意味では「まともに飛ぶ飛行機さえ作れば国内の航空会社が大量に買ってくれる」状況にあったC919は機体の開発さえ上手くいけば、一定の成功が約束されていたのかも知れません。

 

但し、C919が今後中国国内だけの飛行機で終わるのか、世界市場に打って出てボーイングやエアバスを脅かす存在になるかは、また別の問題だと思います。中国国内での商業運航を開始したとは言え、FAAやEASAの型式証明を取得するにはまだ程遠い状況ですし、仮に取得を目指したとしても国内よりも高いハードルがあるのは明白。また、国産機とは言ってもエンジンを始め多くの部品は海外製に依存していますし、ロシアの航空機がそうだったように、今後の国際情勢次第では一気に部品供給を止められて生産さえおぼつかなくなるリスクもあります。

近年の中国脅威論や国際的な不安定要素、アメリカ製品の中国への輸出制限に型式証明の取得問題など、C919が海外市場に打って出るには問題が多すぎるので、当面は国内での安定供給に注力すると思われます。しかし、実績を積んだ5年後、10年後は世界市場に打って出る可能性があるでしょう。案外、中国は航空機の安全に関しては厳しい方ですし、国際関係さえ悪化させず、海外のサプライヤーや航空会社と良好な関係を築いて信頼を高めれば、ボーイングやエアバスに対抗する勢力となる可能性もあると思います。後はロシアによるウクライナ侵攻で自国の航空産業の未来を閉ざしたような事が無いことを祈るばかりですが・・・

 

大韓航空とアシアナ航空の合併が認められないかも・・・破談になったらどうなる?

2020年に発表され、海外の規制当局の審査中だった韓国の大韓航空とアシアナ航空の合併ですが、ここに来て合併が認められない可能性が出てきました。5月17日に両社の合併を審査していた欧州委員会(EC)が予備審査の結果を発表し「合併により圧倒的に大きな航空会社となり、顧客にとって代替手段が失われたり、価格上昇やサービスの低下につながる可能性もある」という内容の見解を大韓航空に送付しました。最終決定は8月3日までに出すとし、大韓航空はその間に異議告知書に対する回答や口頭審理などで反論の機会が与えられますが、競争が制限される恐れがあるのが旅客便はフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国、貨物便に至っては欧州全域と広範囲であり、欧州委員会を納得させるには大幅な発着枠放出や路線整理が必要になりそうです。

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大韓とアシアナの統合には韓国を含む14カ国の規制当局の承認を受ける必要があり、このうち韓国を含む11カ国で承認を受けています。残りはアメリカ、EU、日本の3カ国ですが、元々EUは独占的地位に繋がりかねない統合には否定的な見解を出す傾向にあり、過去にも航空エンジン大手ハネウェルのGEによる買収や、鉄道車両メーカー大手のシーメンスとアルストムの統合、現代重工業と大宇造船の統合などがEUの不承認で破談になっています。今回の統合に関しても韓国1位と2位の統合であること、傘下のLCCも含めた統合であることから結合審査は難航することが予想されており、計画発表から2年半経った今でも全ての審査をクリアできていません。最大の関門とみられていたEUが否定的な見解を出したことで、大韓とアシアナの統合には黄信号が灯った形です。

 

 

さらに18日には複数のメディアが、アメリカ司法省が大韓航空の提訴を検討していると報道しました。それによると司法省は大韓とアシアナの統合計画が韓国とアメリカの旅客及び貨物双方の競争を阻害すると懸念し、買収阻止のため提訴を検討していると言うものです。現段階ではまだ何も決まっていませんが、仮に提訴となるとアメリカでの審査にも大きな影響を与えることになり、判決が出るまで統合審査そのものがストップする可能性もあります。jp.reuters.com

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では、実際に提訴された場合、統合スケジュールはどうなるのでしょうか?実は司法省は他にも航空会社の提携・統合に対して訴訟を起こしており、アメリカン航空とジェットブルーの提携差し止めの訴訟に加え、ジェットブルーによるスピリット航空の買収差し止めの訴訟を起こしています。このうちアメリカン航空との提携に関しては、30日以内のアライアンス終了を命じる判決がちょうど今日出されました。提訴が2021年9月ですから、約1年8ヶ月で判決が出た計算になります。

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大韓とアシアナの統合差し止めの訴訟が起こされた場合、判決が出るまでに1年以上かかる可能性が高く、少なくともその間は統合審査はストップする可能性が高いと思われます。また、EUに続いてアメリカでも統合却下の機運が高まれば、大韓側は2方向で対応を迫られることになります。更に日本もまだ本審査に至っていないようなので、欧州、アメリカの動向次第では日本も態度を硬化させる可能性があり、統合計画は厳しくなったと言えるでしょう。元々が大型合併過ぎて規制当局の承認を得るのが難しい案件ですが、残り3カ国の規制当局、特にEUの審査をパスできるかどうかはこの数ヶ月が山場と言えそうです。

 

 

さて、もし大韓とアシアナの統合が認められず破談になった場合、韓国の航空業界はどうなるのでしょうか?個人的な見解ですが、このまま統合前と同じになるとは思えず、LCCも含めた業界再編が起こる可能性があると思います。

 

そもそもなぜ大韓航空とアシアナ航空の経営統合が持ち上がったかというと、アシアナ航空及び親会社である錦湖アシアナグループの経営危機が発端です。2015年頃からアシアナ航空の経営はLCCとの競争激化で悪化しており、2018年には本社ビルを売却していますがそれでも経営を立て直せず、2019年4月にはアシアナ航空の売却を発表。一度は現代財閥系の現代産業開発(HDC)と未来アセット大宇のコンソーシアムに売却が決まりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年9月に破談。その後、政府主導で大韓航空によるアシアナ買収に至った、と言う経緯です。

www.nikkei.com

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アシアナ航空の経営危機が買収の理由な訳ですから、それが破談になると言うことはアシアナ航空の経営が行き詰まるリスクを抱えています。2020年ほど危機的状況ではないとは言え、アシアナ航空の経営は低迷を続けており、LCCとの競争激化も続く一方。もし大韓とアシアナの統合計画が破談になれば売却交渉も振り出しに戻り、資金確保の当てが無くなったアシアナ航空が法的整理に追い込まれる可能性は十分にあります。

ティーウェイ航空やチェジュ航空の経営は好調とは言え、韓国2位のアシアナ航空をまるごと飲み込む体力は無く、大韓航空の他に有力な買収先が現れる保障はどこにもありません。最悪の場合、アシアナ航空は再建も買収もうまくいかず、傘下のLCCごと他社に切り売りされて消滅する可能性すらあると思います。その場合の引受先は、欧米路線は大型機導入で長距離路線進出に意欲を見せるティーウェイ航空に売却か、アシアナ航空の受け皿会社を作って一部路線を移管、近距離路線やLCCは大韓航空も含めた他の航空会社で取り合い、国内線は路線維持の観点から大韓航空に譲渡、といった感じでしょうか。

もしアシアナ航空が助かる可能性があるとすれば、所属アライアンスのスターアライアンスが韓国での権益確保のために支援に乗り出した時だろうと思います。特にユナイテッド航空は大韓とアシアナの統合に対して問題提起もしており、アシアナ航空を救うことがアライアンス全体の権益確保に繋がると判断すれば支援に乗り出す可能性があります。その場合、ルフトハンザやANAなども協力する可能性があるでしょう。

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統合が認められるかは予断を許しませんが、仮に統合不承認で破談になったとしても、アシアナ航空のブランドが残るかどうかは不透明です。EUとアメリカの動きで一気に不透明感が増した大韓航空とアシアナ航空の統合問題ですが、考えようによっては2年半経っても出なかった結論が出るときが近いのかも知れません。今後の動きに注目です。

 

スターラックス航空会長の「神対応」に見る経営トップの危機管理対応

5月6日に強風で欠航し、成田空港で一夜を明かす羽目になったスターラックス航空の乗客に対し、張国煒会長が取った「神対応」がTwitterなどで話題となりました。

 

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リンク先の記事によると、この日の成田空港は強風による悪天候で多くの便が着陸やり直しや他空港へのダイバードを余儀なくされており、スターラックス航空の台北発成田行きJX800便も成田空港で何度も着陸やり直しをしましたが着陸できず、やむなく中部国際空港にダイバード。その後天候の回復を待って再度成田に飛び、当初の予定時刻12時45分よりも7時間以上遅れの19時52分にようやく着陸しました。

しかし問題だったのはこの便の折り返しとなる成田発台北行きのJX801便。当然、これだけの遅れとなると折り返しの準備や代替乗員の手配が付かず欠航になり、後続のJX803便への振り替えや代替便の準備で対応する予定でした。しかし間の悪いことに振り替え先のJX803便も機材故障で出発が遅延し、乗務員の勤務時間を超過することからこの便も欠航。代替便も調整に失敗して成田に飛ばすことができず、最終的にJX801便と803便の乗客合計308人が制限エリア内に取り残され、寝袋で一夜を過ごす羽目になりました。

 

で、ここから凄かったのがタイトルにもある張会長の「神対応」。乗客が取り残されたことを知るや、一番早く成田に到着できるジェットスタージャパンの深夜便で7日早朝に成田空港に到着。その足で乗客のところに出向いて謝罪し、往復分のチケットの全額払い戻しと他社便も含めた帰国便の手配を約束しました。そして、航空機のパイロット資格を持つ会長自ら立ち往生していた自社機を操縦して帰るという、並の経営者ではまず聞かないであろう最強エピソードを残して台湾に帰っていきました。

 

さて、私は最初このニュースを聞いたとき「悪天候が原因の欠航なら会社責任じゃないし、わざわざ会長が出張る必要は無いんじゃない?」と思っていましたが、振り替え便も機材故障で欠航するなどスターラックス側にも落ち度は見られたこと、プレミアム路線でブランディングを行っているスターラックスにとってこの手のトラブルで顧客満足度を下げることは決して得策ではないことを考えると、今回の張会長の迅速な対応はむしろ賞賛に値するものではないかと思いました。

実際、今回の対応は日本でも台湾でも好意的に報道され、SNSでも賞賛の声が挙がるなど、結果的にスターラックス航空の企業イメージ向上に大きく寄与しました。危機管理対応の原則である「速やかな情報の共有」「迅速な対応」「顧客への誠意ある謝罪」を実践し、自社の被害を最小限に抑えた素晴らしい対応ではなかったかと思います。ここまで完璧な対応を会長自ら取れるスターラックス航空は、今回の対応で今後急成長する可能性が高い有力航空会社に育つのではないかと思えてきました。

 

 

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当ブログでもスターラックス航空はコロナ渦前に一度取り上げたことがあり、この時は期待半分、不安半分で成功の可能性は五分五分と書いていました。そして、成功のカギは他社とのブランド差別化と早期の乗り継ぎネットワークの構築、リピート客の獲得にあるとも書いています。

しかし、2020年1月23日に台北~マカオ・ペナン・ダナン線を就航させた直後ににコロナ渦で航空需要が蒸発。就航直後でこれは危ないかな・・・と思いましたが、その後もスターラックスは路線拡大の手を緩めず、その年の12月15日には発の日本路線として台北~関空線、翌16日には成田線を開設。コロナ渦で利用客も見込めないのに強気すぎるのでは?と思ったのですが、他社の運休でむしろ希望する時間帯が取れる好機と判断したようで、成田線の初便は張会長自ら操縦桿を握って就航させる力の入れようでした。

 

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更にスターラックスは2022年に福岡・札幌・那覇便を開設し、2023年4月からは仙台線も開設。4月26日には初の太平洋路線となる台北~ロサンゼルス線も開設し、今後は東南アジア~北米の乗り継ぎ需要開拓を本格化させることになると思います。

 

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それにしても就航からわずか3年、しかもコロナ渦という逆風がある中での拡大っぷりは目を見張るものがあります。張会長自身が700億もの個人資産があり、181億台湾元(約818億円)の資本金を集めるなどそれなりに潤沢な資金を確保しているとは言え、就航からしばらくはコロナ渦の影響をもろに受けてしまい、2022年第三四半期には111億元(約502億円)の累積損失を計上。それでも「台湾のエミレーツ」を目指した高品質・高サービス・高価格帯のコンセプトは崩さず、コロナ渦が収束に向かうと業績を急回復させました。今年1月の売り上げは15億2000万元と過去最高を記録し、2月の売り上げは前年同期比20倍の13億7000万元(約62億円)を計上。この急成長を好感してスターラックス株は2月14日から急上昇し、19.55元から最高50.5元に伸びるなど、台湾国内でも注目度が高まっています。

張会長自身、パイロット資格の他に整備士資格も持つなど現場感覚も持っており、現場を知っているトップの方が大成する可能性が高いのはコンチネンタル航空やJALの再建などの過去の例からも明らか。成長軌道に乗ったことで、今後スターラックス航空は本格的に拡大路線を進めるものと思われます。

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今後は先発2社であるチャイナエアラインやエバー航空との競争に加え、スターラックス航空がいつアライアンスに加盟するかが焦点となるでしょう。加入するとしたらほぼワンワールド一択になると思われますが、加入すればアジア地域で加盟会社が少ないワンワールドにとって、有力なパートナーになると思います。ただ、現段階では就航から日が浅く、路線網も十分ではないので、まずは路線拡大とブランドの世界的な浸透が優先になるでしょう。今後スターラックスがどのような成長戦略を見せ、どんな拡大を見せるのか。今後も注目していきたいと思います。

 

そう言えばジェイ・キャスってどうなったっけ?

2019年に当ブログで取り上げた航空準備会社「ジェイ・キャス」。あれから3年以上経ち、半分存在を忘れかけていましたが、最近また名前を聞くようになったのでこの会社のその後を調べてみたいと思います。

 

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2019年に取り上げた時の事業計画では「関空・中部空港と地方空港を結ぶ近距離航空路線を構築し、地方空港の活性化を図る」として、70~80席級のターボプロップ機2機をリース購入し、関空を拠点に富山・能登・米子・岩国に就航、2021年秋の就航を目指すとされていました。

 

公式HPは現在も存在しており、そのHP内では新型コロナウイルスの感染拡大でしばらく活動自粛せざるを得なかったものの、航空経験者数名が入社しており、2022年7月には石川県志賀町に北陸準備室を設置。9月には米子に山陰準備室を、12月には富山市内に富山オフィスを開設し、地域への情報発信や人脈作りに本腰を入れているようです。

 

www.jcas.co.jp

 

最近では就航予定先のメディアでも紹介されたり、月刊エアラインでも取り上げられるなどメディア露出も徐々に増えているようです。

 

しかし、今のところはまだ準備会社の域を出ず、資金調達にも苦戦しているようで、12月にはクラウドファンディングを実施して支援を呼びかけたようです(現在は終了しています)

congrant.com

 

しかし、そのクラウドファンディングも目標の500万円に対し実際に集まったのは100万円と2割程度。就航予定も2024年秋にずれ込むなど、傍目から見ても苦戦しているのは明らかです。資金調達についても新たな出資先や支援企業などの話も聞こえてこないので、うまくいっているとは言い難い状況です。

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ところで、新規参入を目指す地域航空会社というと、新潟を拠点に就航準備を進めているトキエアが挙げられます。会社設立は2020年7月とジェイ・キャスよりも後ですが、こちらは新潟県内の企業や金融機関から順調に出資金を集め、新潟県からも11億6000万円の融資を受けたことで目標金額の45億5000万円の調達に成功。リース会社の経営破綻などはあったものの、今年に入って2機が無事新潟空港に到着し、3月31日には東京航空局からも航空輸送事業許可を取得し、スタートラインに立つことができました。現在は6月30日の新潟~丘珠線の就航を目指し、訓練飛行を続けています。その後も新潟~仙台・中部・神戸線の就航を目指しており、将来的にはSTOL機のATR42-600Sを使用して佐渡空港から東京方面への直行便開設を計画するなど、新規参入を目指している他の会社に比べると順調に進んでいます。

tokiair.com

 

では、なぜ先行していたはずのジェイ・キャスが未だに計画の域を出ず、後から設立されたトキエアが就航までこぎ着けられたのでしょうか?ジェイ・キャスの場合、計画発表後にコロナ渦に見舞われたという不運はありますが、トキエアの場合はコロナ渦の渦中に設立された訳ですから、外的な条件は一緒なはず。両社に決定的な差がついた理由は「就航地域のバックアップを得られたか否か」ではないかと思います。

 

トキエアの場合、設立当初から新潟空港を拠点にすることを明言しており、資金調達の際も新潟県内の企業や行政にターゲットを絞って活動しています。「新潟県の航空会社」というイメージや新潟県や佐渡の活性化といった「大義名分」が企業や行政の共感を呼び、出資金や融資を受けやすくなったのではないかと思います。

加えて、トキエア社長の長谷川氏は日本航空での勤務後に新潟県庁交通政策局での勤務経験があり、新潟空港活性化にも携わっています。この時の経験と人脈がトキエアの資金調達や新潟県との折衝にプラスに働いたのではないでしょうか?

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一方のジェイ・キャスですが、就航予定地域が富山・能登・米子と分散しており、拠点や人員も3カ所に分散しています。一応、最初の就航路線は関空~富山線のようですが、2024年内に関空~能登・米子・石見への路線も展開するとしており、どの地域をメインにするかはあまりはっきりしていません。この辺の曖昧さや人的リソースの分散が就航予定地域での機運が盛り上がらず、資金調達がうまくいっていない理由なのではないかと思います。

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資金力や人的リソースが豊富な大手企業がバックに付いているならともかく、ジェイ・キャスのようなゼロからのスタートの場合は就航予定地域を一カ所に絞り、その地域に溶け込む覚悟で資金調達や人脈作りに注力した方が成功の可能性は上がるのではないかと思います。トキエア以外に就航までこぎ着けた新規参入会社の例を見ても、北海道を拠点にしたエアドゥ、宮崎を拠点にしたソラシドエア、北九州を拠点にしたスターフライヤー、静岡を拠点にしたフジドリームエアラインズと、最初の拠点は一カ所で就航してそこから拠点を拡大したケースが多く、最初から複数拠点で準備して就航にこぎ着けたケースは余り見当たりません(IBEXエアラインズは複数拠点で就航したケースに近いですが、一応拠点は仙台に置いてます)

残念ながら東京に本社を置き、地方拠点も分散している今のジェイ・キャスの営業体制では、就航予定地域の共感も広がらず、出資企業も現れないのではないかと思います。せめて最初の就航地域を北陸か山陰のどちらかに絞り、人的リソースを集中させて資金調達をしないと、どちらも中途半端になって計画倒れに終わる可能性が高くなるのではないでしょうか?

個人的には地方間の航空路線をもっと増やして交流を活発させて欲しいですし、ジェイ・キャスの地方創生というコンセプト自体は共感できるものです。ですが、今の状態のままでは就航など夢のまた夢というのも事実。ここまで来てどこか一カ所に絞るというのは難しいかも知れませんが、就航の可能性を上げるためにも決断するべき時期に来ているのではないでしょうか?

 

日本の航空会社で購入表明が相次ぐ737MAX、A320neoの巻き返しや主力機の鞍替えはある?

昨年から今年にかけて日本の航空各社で737MAXの購入表明が相次いでいます。かねてより737MAXを購入する意向を表明していたANAホールディングスは2022年7月11日に737-8シリーズ20機の確定発注の最終購入契約を締結したと発表。2025年から導入予定となります。また、今年の1月18日にはスカイマークも次期主力機として737MAXを正式発注したと発表。737-8と-10を各2機ずつで2026年度納入予定ですが、その前の2025年4-6月期から737-8を6機リース導入する予定です。

さらに3月21日には日本航空が737-8型21機を確定発注したと発表。こちらも2026年からの運航開始を予定しており、2025年から26年は737MAXの就航ラッシュになりそうです。

 

皆様ご存じの通り、737MAXは2018年と2019年に相次いで墜落事故を起こし、FAA【アメリカ連邦航空局)をはじめとした世界各国の航空当局から運航停止処分を受けていましたが、ボーイングが安全確保のための改修措置を行い、2020年12月以降、順次運航が再開されています。運航再開後は墜落事故はもちろん、目立った不具合や運航トラブルは起きておらず、ANAやJALも安全性の面で問題ないと判断して発注に踏み切ったようです。各航空会社に737MAXが納入される頃には更に運航実績を重ねて信頼性が上がり、初期不良や不具合も出尽くしていると思いますので、今回の発注のタイミングは「絶妙」と言えるでしょう。

 

↓737MAXについては当ブログの過去記事もご参照下さい。

 

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さて、これだけ相次いで737MAXの発注表明が相次ぐと、ライバルのエアバスA320neoシリーズの動向が気になるところ。当初は737MAXの「敵失」もあってANAやピーチ、ジェットスターやスターフライヤーで発注されてきましたが、これらの会社は元々A320シリーズを使用していた会社であり、737ユーザーがA320に鞍替えするケースは今のところ日本ではありません。また、今回737MAXを発注した航空会社にしても元々737を使用しており、こちらもA320からの鞍替えとなるケースはありません。見方によっては「それぞれの機種のユーザーが改良版を発注した」というある意味順当な結果になっているとも言えます。

では、これから先、A320ユーザーが737に鞍替えしたり、その逆のケースが発生するといったことは今後あり得るのでしょうか?

 

まずはANAグループ。今やANAの子会社となったピーチや、ANAとコードシェア関係にあるエアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーを含めても、当面は鞍替えする可能性は低いと思います。

当ブログでも過去に取り上げたことがありますが、ANA位の規模で737とA320の両方を保有するケースは実はそれほど多くはなく、世界的に見ても珍しい事。当時の記事では否定的に書いていましたが、今は「両方の機種を持っていてもそこまで不利ではないかもな」と思うようになってきました。

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確かにANA単体で見れば737MAXとA320neoをそれぞれ30機程度というのは余り効率がいいとは言えません。しかし、ANAグループ全体や提携航空会社も含めてみれば、実はかなり大きな規模を持っていることで、両方の機種を保有していてもスケールメリットは十分生かせますし、リスクヘッジもできているのではと思うのです。

ANAグループ及び提携会社(独立性が強く、ANAへの依存度が薄いスカイマークは除く)の737とA320の保有機数は以下の通り。

 

ANA本体(ANAウィングスも含む)

737      39機

A320・A321  36機

ピーチ

A320・A321  33機

エアドゥ

737      8機

ソラシドエア

737      14機

スターフライヤー

A320    11機

 

合計 737 61機 A320 80機

 

いかがでしょうか?ANA単体だとそれぞれ3~40機程度しかなさそうですが、グループや提携航空会社も含めると結構な規模になりますし、ピーチやスターフライヤーも合わせるとむしろエアバスの方が機数が多いことが分かります。既にANAはピーチの分もまとめて発注していますし、今後は経営統合したエアドゥとソラシドエアが共同で新型機を発注と言うことも考えられますから、グループ全体で見れば両方の機種を保有しても十分スケールメリットを生かせられそうです。

また、エアドゥとソラシドエアの後継機も今の機種との連続性やANAグループ全体の単通路機のバランスを考えると737MAXに傾く可能性が高いと思われます。ただ、もし将来的にスターフライヤーとの統合を考えているなら、思い切ってA320neoに切り替えるという選択肢もあります(既にA320neoを導入する予定のスターフライヤーが737に合わせるとは思えませんし)。

ただ、他の2社に比べて独自性も高く、上場会社であるスターフライヤーが今更この2社に合流するとは考えにくいので、統合や鞍替えの可能性は低いかなと思います。

 

 

一方のJALグループ。現在保有している単通路機は737-800のみ56機ですが、今回発注したのは21機と3分の1強。全ての737-800を737MAXで置換えるわけではありません。JALの場合、同じ737-800でも初期導入期は2005年製と間もなく更新時期を迎えるのに対し、日本トランスオーシャン航空に納入された機材は2016~2019年製と比較的新しいなど納入時期にかなりのばらつきがあるため、慌てて全機置換える必要が無いと言う事情があります。また、JALは737-800以外にも28機の767-300ERの置換えも控えていますので、一部の767-300ERを737-10かA321neoで置換えるというシナリオも考えられます。

下記のリンク先の記事にもあるように、今回の発注だけで「JALの次期単通路機=737MAX」と決めるのは早計であり、ANAと同様、今後A320neoシリーズも発注して737MAXと併用する可能性も十分考えられます。よって、JAL本体に関しては「A320neoに統一される可能性はなくなったが、737MAXと併用する可能性は残っている」と思います。

 

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また、JALグループでもジェットスタージャパン(JALが50%出資)とスプリング・ジャパン(JALが66.7%出資)というLCC2社を抱えており、前者はA320シリーズ21機を、後者は737-800を6機保有しています。特にスプリング・ジャパンは2024年4月からJALとヤマト運輸の合弁貨物航空会社の運航受託を予定しており、その機材はA321ceoの貨物機改造型。スプリング・ジャパンの出資先の一つである中国の春秋航空もA320シリーズの単一機種であり、今後A320の機種移行養成も春秋航空と協力する予定ですので、将来的にはA320neoに移行してもおかしくないのではと思います。よって、今後鞍替えの可能性があるとすればスプリング・ジャパンではないでしょうか?

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JAL本体は737、傘下のLCCはA320と棲み分ける可能性もありますが、JAL本体は737だけでもグループ全体で見れば実はA320の割合もそれなりにあり、この点も今後JAL本体がA320neoシリーズを発注する可能性が十分考えられる理由です。以前JALの社長、会長を務めた大西賢氏も「基本的に機材計画は20機が目安。1機種あたり20~30機の規模になれば、別の機種を投入しても投資が無駄にならない」と発言しており、グループ会社も含めたJALの規模から考えると、737MAXとA320neo、両方持っても問題ないと言うことになります。今後はJAL本体がA320neoシリーズも発注するのか、スプリング・ジャパンの主力機鞍替えがあるのか、この点に注目していきたいですね。