ボーイング737MAXの運航停止問題で新たな疑惑です。10月18日、アメリカの主要メディアは一斉にボーイングが737MAXの認可に際して、FAA(アメリカ連邦航空局)に実際とは異なる報告をしていた事、そのやり取りの記録を数か月前に把握しながらFAAへ開示していなかったと報じました。この報道を受けてボーイング株は前日比6%も下落し、この日のニューヨーク株式市場の下落の大きな要因の一つとなりました。
↓これまでの737MAX問題の経緯はこちらの記事もご覧下さい。
ボーイング737MAXの連続事故の原因は失速防止システム「MCAS」の誤作動との見方が強いですが、2016年の737MAXの認証試験の際、ボーイングのチーフテクニカルパイロットが同僚に「MCASが作動しまくっている」と言った旨のメッセージを送っていました。シミュレーター試験の際に作動していたようですが、FAAはボーイングとのやり取りでMCASはまれにしか作動せず、航空機の安全性に問題はないという認識を示していました。
もしこれが本当だとすれば、ボーイングはMCASの問題を認識していたにも関わらず、737MAXの認可手続きを進めていた可能性があり、FAAにも不具合の可能性がある事を報告せずに認可を通した事になります。FAAはボーイングを非難する声明を出して即時の説明を求めており、ボーイングとFAAとの溝は更に深まっています。
737MAXの運航再開に関してはアメリカン航空が年内のFAAの安全認証発行を見越して2020年1月16日からの運航再開を計画していますが、そのFAAはこの問題が解決しない限り、安全認証を発行することはないと思われます。今後のボーイングの対応次第とも言えますが、上記の疑惑が真実だった場合はボーイングはFAAを欺いて737MAXの認可を通したことになり、安全認証どころか737MAXの形式証明自体が取り消される可能性すら考えられます。
既にボーイングは737MAXの運航停止に伴い、少なくとも84憶ドル(9100億円)のコストを負担していますが、万が一形式証明取り消しとなると、既に納入した387機の737MAXの補償やすでに製造した737MAXの廃棄、受注済みの737MAX約4600機の受注取り消しに発注した航空会社への補償など、取り返しのつかない大ダメージを負う事になります。下手したらボーイングという会社そのものが吹き飛びかねず、アメリカの航空産業全般への信用問題にもなりかねない程大きな問題に発展する可能性がありますが、それだけこの疑惑が重大な問題であることの裏返しとも言えます。ボーイングには速やかな情報開示と疑惑の全容解明、FAAやカスタマー、取引先に対する誠意ある説明が必要なのではないかと思います。
そして、737MAXの運航停止問題は日本も他人事ではありません。幸か不幸か、737MAXに関しては日本のメーカーが関わる割合はそれほど大きくありませんが、現在日本の航空会社が使用している737NGの置き換えと言う問題があります。現在は各社様子見というところですが、もしこのまま737MAXの運航再開の見通しが立たない場合、置き換えはどうなるでしょうか?
現在、日本の737NGのうち各社最も古い機材と保有機数は以下の通りです。
ANA 2005年11月登録 737-700型・JA01AN 保有機数48機
JAL 2006年11月登録 737-800型・JA301J 保有機数50機
JTA 2016年1月登録 737-800型・JA01RK 保有機数12機
SKY 2007年8月登録 737-800型・JA737N 保有機数29機
SNA 2011年6月登録 737-800型・JA801X 保有機数13機
ADO 2006年10月登録 737-700型・JA06AN 保有機数8機
SJO 2013年7月登録 737-800型・JA01GR 保有機数6機
合計すると166機の737NGが日本の空を飛んでいますが、一番古い機材でも13~14年程度なので、当面は置き換えの必要はありません。しかし、一般的に20年程度とされる航空機の置き換えサイクルを考えると、既にA320neoと737MAXを発注しているANAはともかく、JAL、ADO、SKYの3社はそろそろ後継機を考える必要があります。また、737NGの製造が終了した事で737NG1機種のみ運行しているSNA(ソラシドエア)とSJO(スプリングジャパン)の2社も追加機材導入の際はどうするかと言う問題も出て来ます。
で、本題の737MAXかA320neoかという問題ですが、実際のところは「ボーイングの対応次第では全部A320neoにひっくり返ってもおかしくない」と思います。A380問題でエアバスに迷惑をかけたSKYや長年ボーイング機だけだったJALなど、簡単にはエアバスに靡かなそうな会社もいるように見えますが、SKYは佐山会長が737MAXの安全性に度々懸念を示すツイートをしており、ボーイングに対する微妙な温度差が見受けられます。
また、JALにしてもA350導入でかつてのボーイング一辺倒から「周りに左右されず、その時のJALにとってベストな機材を選択する」と言うスタンスに変わって来ている感がありますので、737NGの後継機に関してもゼロベースで考える可能性が高いです。その場合、ゴタゴタが続く737MAXを選ぶとは思えず、機種選定のタイムリミットまでに737MAXの問題が解決しない場合、A320neo鞍替えを決断するかも知れません。
他の各社も似たり寄ったりでしょう。ADOはANAの動向次第とも言えますが、そのANAもA320neoを既に使用しているだけに、737MAXに見切りをつけようと思えばつけられます。SJOも春秋航空本体はA320シリーズを使用していますし、残るSNAも737MAXの導入は様子見の姿勢です。他社に比べると737NGの投入は遅かった分、当面機材繰りに困る心配はないですが、長期的に737NGの調達が難しいとなると、エアバスへの鞍替えも選択肢の一つになりますし、事実ソラシドエアの社長もエアバス機導入の可能性を否定していません。今後のボーイングの対応が不誠実なものであれば、様子見の各社も737MAXに見切りをつけ、A320neoに殺到する可能性も否定できません。
そしてこれは日本のみならず、世界中の737カスタマー全てに言えることでもあります。特におひざ元であるアメリカのメガキャリアが737MAXに見切りをつけたら、737MAXのみならず、ボーイング自体が揺らぎかねない事態に陥るかも知れない危機的状況であると言えます。ボーイングはこれまで以上にこの問題や疑惑に対して真剣に応える義務があるのではないかと思います。どれだけ大きな航空機メーカーでも、「安全」という基本かつ最も重要なことをおろそかにしてはいずれ航空会社や利用客の信用を失い、立ち行かなくなってしまいますから。