世間ではANAのA380受領と日本初飛来が大きな話題となっていますが、これはあえて無視して今日は他の話題を取り上げたいと思います。だって成田行ってないしw
今回は来年の就航を目指して準備を進めている台湾の新興航空会社・「スターラックス航空(星宇航空)」について。
エアバスは3月19日、元エバー航空会長の張國煒氏が設立した台湾の新興航空会社「スターラックス航空(星宇航空)」がA350XWB17機(内訳-900型5機、-1000型12機)を確定発注したと発表しました。2021年後半から順次受領する予定です。既にエアバスA321neo10機を確定発注済で今年10月から受領を開始、2020年の春節前をめどに東京、大阪、香港に就航させる予定です。その後A350の受領後2022年をメドに北米路線に進出し、2024年度にはアジアと北米20都市に就航する計画です。
スターラックス航空社長の張國煒氏はエバー航空を傘下に持つ台湾大手物流・ホテルグループ「エバーグリーングループ(長栄集団)」の創業者・張栄発氏の四男ですが、エバーグリーングループ内の後継者争いに敗れ、グループを追われた経緯があります。そんな張國煒氏が再起を図るべく設立したのが「スターラックス航空」であり、ある意味エバー航空とは同根企業。「台湾のエミレーツ航空」を目指したプレミアムエアラインという立ち位置で他社との差別化を図る戦略を取ります。
日本ではまだそれほど名は知られていませんが、台湾での注目度は非常に高く、CA1期生の募集は倍率68倍と非常に狭き門となっています。張氏自身もボーイング777型の操縦資格を持って自ら定期路線で操縦桿を握った経験があるほか、700億円の資産を持ち、エバーグループ時代の経験と人脈もスターラックス航空の資金調達と政財界の支持取り付け、許認可時の規制緩和に大きく役立ちました。大手企業集団の内紛に敗れたプリンスが新会社で反撃ののろしを上げるという分かりやすいストーリー性も台湾世論の支持に一役買い、現地では航空ビックバンの旗手として最も注目される航空会社と言えます。
さて、早ければ来年にも姿を見せることになる「スターラックス航空」ですが、果たして台湾の「第三極」、ひいては「台湾のエミレーツ航空」として成功するのでしょうか?個人的な考えですが、正直言って可能性は五分五分だと思います。
プラス要素としては前述の通り、台湾国内での大きな支持でしょう。少なくとも台湾国内では「星宇航空」のブランドはかなり浸透しており、張氏のカリスマ性もあって就航後しばらくは大きな注目を集めるのではないかと思います。また、スターラックス航空の目指すプレミアムブランドは、東アジア地域では意外と同じようなコンセプトの会社は少ないので(アジアで中東御三家的なプレミアムかつトランジット需要がメインの会社はシンガポール航空とキャセイパシフィック位でしょうか)、このコンセプトがアジアで受け入れられれば、強いブランド力を持った航空会社として人気を集めるかも知れません。
一方、不安要素は近年の台湾市場の競争の激しさです。当初スターラックス航空が就航する台湾~日本線と香港線はアジア有数の激戦区であり、FSCとLCCが多数入り乱れて激しい競争を繰り広げています。台湾の会社に限っても少し前までFSCのチャイナエアラインとエバー航空、トランスアジア航空にファーイースタン(遠東)航空、LCCのタイガーエア台湾(チャイナエアライン系列)とVエア(トランスアジア系列)の6社がしのぎを削っており、人口2000万人台の台湾市場では明らかに供給過剰でした。この過当競争のあおりを受けてトランスアジア航空は2016年9月にVエアの運航を終了した直後に突然運航停止し、会社解散に追い込まれましたファーイースタン航空も1度破産して数年間運航が止まった時期もあります。
スターラックス航空はプレミアム路線を取り、価格競争はしないと言っていますが、目論見通りに乗客が伸びないと安売りに手を伸ばさざるを得ないかも知れません。就航後1~2年はアジア路線が中心になると思いますので、その間いかに価格競争に巻き込まれずにブランド力とリピーター客を構築できるかが最初の壁になると思います。
しかしスターラックス航空にとって最大の正念場は北米路線の開設後になると思います。スターラックス航空自身も台湾市場だけでの市場拡大は難しい事を認めており、アジア地域の北米・欧州へのトランジット需要、高運賃・高サービスでハイエンド市場を狙っていくとしています。台湾市場を基盤とし、ミドルエンド~ハイエンド市場が中心のチャイナエアラインとエバー航空、ローエンド市場が主戦場で価格競争が激しいLCCとは別の市場を狙う、と言う点では経営的には正しい判断です。
しかし、ハイエンド市場狙いのブランド構築はともかく、こういった乗り継ぎ需要を狙う会社はアジア地域には多く存在します。台湾周辺だけを見てもスターラックス自身ベンチマークの一つとしている香港のキャセイパシフィック航空、仁川ハブで乗り継ぎ客取り込みを基本戦略としている韓国の大韓航空とアシアナ航空、そして近年アジアー北米間の乗り継ぎ需要獲得に力を入れている日本のANA、JALと、実は乗り継ぎ需要も結構競争が激しいです。もちろんチャイナエアラインやエバー航空も乗り継ぎ需要取り込みを狙っていますから、余計スターラックス航空には他社とのブランド差別化と、乗り継ぎ需要を取り込むための仕掛けづくりが必要になってくるのです。
北米路線開設後、いかに早く台北のハブ機能を確立できるか、どれだけリピート客を確保できるかでスターラックス航空の成否が分かれるのではないかと思います。アライアンス加入については特に言及されていませんが、乗り継ぎ需要を重視するのであれば、いずれどこかのアライアンスに属す必要があるかも知れません。とは言え、台湾航空業界のカリスマがどんな航空会社の形を見せてくれるかは楽しみなところ。まだスターラックス航空の全容は見えませんが、どんなサービスで私たちを驚かせるのか、これからの動きに注目していきたいですね。
【7月7日追記】
一部のネットニュースでスターラックス航空の日本路線が台湾当局から承認されたと報じられました。記事によると承認されたのは台北(桃園)から成田・関西・中部・福岡・那覇・仙台・新千歳・函館の8路線。この他定期チャーター便として台中~成田・関西線が承認されたほか、台北~バンコク・チェンナイ線も承認を受けたそうです。
計画では2019年10月にA321neoの初号機を受領後、近距離アジア路線を開設。日本路線は2020年後半以降に就航し、A350受領後に北米路線就航を目指すとしています。恐らくETOPSの関係もあるので当初は近距離路線で実績を積んでからになると思いますが、そうなればスターラックス航空のA350最初の就航先は案外日本になるかも知れません。
それにしても8都市に就航とはずいぶん強気な計画です。機材納入計画の関係や人員の準備、日本側との航空交渉や乗り入れ準備もありますから、一気に全部就航とはならず、まずは2~3都市程度になるとは思いますが、スターラックス航空が日本市場を重視していることがこの強気な就航計画からも伺えます。秋に機材が到着する頃には具体的な就航スケジュールも見えてくると思いますので、続報を待ちたいところです。