〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

737MAX、全世界で運航停止。ボーイングとFAAの「3日遅れ」の決断がもたらした代償

先日のエチオピア航空機墜落事故から始まる737MAXに関わる記事の続報です。まずは3月12日以降の各国の対応からご紹介します。それ以前の動向は以前の記事もご参照ください。

www.meihokuriku-alps.com

 

まずは3月12日(日本時間13日朝)、EASA(欧州航空安全局)が欧州での737MAXの飛行を一時停止する措置を取りました。事故原因が判明するまでの間としていますが、FAA(アメリカ連邦航空局)に次いで世界の民間航空に影響力を持つEASAが飛行停止措置を取ったことで「737MAX包囲網」は更に狭まってしまいました。しかし、この時点ではまだボーイングもFAAも737MAXの安全性に自信を持っており、運航停止は考えていないとのスタンスでした。


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ところが翌13日、FAAは一転して737MAXの飛行停止を指示しました。ボーイングがFAAに運航停止を提案し「事故現場での新たな証拠や衛星データの分析に基づいて運航停止を判断した」としていますが、中国や欧州などの飛行停止措置や、737MAXの安全性を不安視した利用客の声をかわし切れなくなったのも大きいと思います。12日にトランプ大統領が「現代の航空機は複雑になり過ぎている」「複雑さが危険を生み出す」と、意味深なツイートをしたのも、暗にボーイングに運航停止を求めたものだったのかも知れません。ボーイングのCEOは大統領に直接電話して安全性をアピールしたそうですが、結局、劣勢を覆すことはできませんでした。

 

さて、FAAの飛行停止命令でようやく全世界が運航停止で足並みをそろえることになりました。14日には国土交通省も737MAXの運航停止措置を取っています。

しかし、事故当初は「安全性に絶対の自信を持っている」と言い張って飛行停止の措置を取らなかったボーイングに対する不信感は想像以上に広まっているようです。通常の事故調査は機体の製造国であるアメリカのNTSB(アメリカ国家運輸安全委員会)が調査の主体となるケースが多いのですが、今回のエチオピア航空の場合はBEA(フランス航空事故調査局)が調査を行う事になり、ブラックボックスもパリのBEAに送られて解析されることになりました。中国や欧州が737MAXの飛行停止措置を相次いで行う中、FAAは安全性を表明し続けて飛行停止措置を行わなかった事でエチオピア航空やエチオピア政府が不信感を持ち、「事故原因の特定で信頼できない」と判断したためです。

また、ノルウェーエアシャトルはボーイングに対して補償を求める他、ベトナムのべトジェットエアも737MAXの発注キャンセルを検討しています。ライオンエアの発注キャンセル検討と合わせると、仮に両社が発注キャンセルを行えば400機もの受注が消えることになります。現在はボーイング機が大半を占めるエチオピア航空も、今後のボーイングの対応次第ではエアバス機に全面的に鞍替えするかもしれません。運航停止までの「3日間の遅れ」は、ボーイングからの顧客離反を招きかねない事態になりつつあります。

 

ボーイングが737MAXの飛行停止措置にすぐに踏み切れなかったのは、737MAXがボーイングにとって最大の稼ぎ頭であり、4636機の受注残を抱える737MAXの製造が止まればボーイングの経営に計り知れない損失を与えるからです。737の月産レートは52機とボーイング機のラインナップで群を抜いて多く(787は12機→2019年に14機に引き上げ、777は4機、747-8は0.5機、767は2機)製造がストップすればその影響は他機種以上に大きく、工場の設備や人員は丸々コストになってしまいます。さらにライバルのエアバスA320neoシリーズの受注は約6500機と737MAXは水をあけられている状態であり、生産を止めたら新規受注が見込めなくなってその差はさらに広がりますので、ボーイングとしても止めるに止められなかった部分はあると思います。

www.aviationwire.jp

 

しかし、結果的にはその対応が顧客や利用者の不信感を招いてしまいました。いくら「安全に自信を持っている」と言っても具体的なデータもなく、他国が次々と飛行停止措置を取る中頑として飛行停止を求めなかったボーイングの姿勢は、連続事故という深刻な事態を軽視したと取られても仕方なかったと思います。737MAXのオートパイロットシステムの問題点を指摘したパイロットも複数いたそうで、これが本当ならボーイングは737MAXの問題点に十分対処していなかった可能性すら出て来ました。事故後、ボーイングの時価総額は400億ドル(約4兆4000億円)も下落しており、ボーイングの事故後の対応は裏目に出てしまった形です。

headlines.yahoo.co.jp

 

ボーイングには一刻も早く事故原因を究明し、必要な対策を施して737MAXの安全性を証明する必要があります。また、航空当局や顧客である航空会社に対し、誠実な対応と納得のいく説明をして信頼を取り戻す努力をしなくてはなりません。ここまで事態が深刻になった以上、「安全だ」と言い続けるだけでは失った信用は取り戻せません。これ以上対応が後手に回れば、737MAXを見限ってエアバス機に乗り換える顧客は更に増えるでしょうし、今後の受注活動でもエアバスに水を空けられる一方です。1967年の就航以来、半世紀以上に渡って改良を繰り返しながら世界最多の生産機数を誇るジェット旅客機となったボーイング737。今回の事故は737シリーズ最大の危機であり、ここで事故原因を突き止められず、対応を誤ってしまえば737シリーズそのものの歴史に幕が下ろされかねません。ボーイングには早急な対策と誠実な対応を望みたいところです。

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