〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

大韓航空とアシアナ航空の合併が認められないかも・・・破談になったらどうなる?

2020年に発表され、海外の規制当局の審査中だった韓国の大韓航空とアシアナ航空の合併ですが、ここに来て合併が認められない可能性が出てきました。5月17日に両社の合併を審査していた欧州委員会(EC)が予備審査の結果を発表し「合併により圧倒的に大きな航空会社となり、顧客にとって代替手段が失われたり、価格上昇やサービスの低下につながる可能性もある」という内容の見解を大韓航空に送付しました。最終決定は8月3日までに出すとし、大韓航空はその間に異議告知書に対する回答や口頭審理などで反論の機会が与えられますが、競争が制限される恐れがあるのが旅客便はフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国、貨物便に至っては欧州全域と広範囲であり、欧州委員会を納得させるには大幅な発着枠放出や路線整理が必要になりそうです。

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大韓とアシアナの統合には韓国を含む14カ国の規制当局の承認を受ける必要があり、このうち韓国を含む11カ国で承認を受けています。残りはアメリカ、EU、日本の3カ国ですが、元々EUは独占的地位に繋がりかねない統合には否定的な見解を出す傾向にあり、過去にも航空エンジン大手ハネウェルのGEによる買収や、鉄道車両メーカー大手のシーメンスとアルストムの統合、現代重工業と大宇造船の統合などがEUの不承認で破談になっています。今回の統合に関しても韓国1位と2位の統合であること、傘下のLCCも含めた統合であることから結合審査は難航することが予想されており、計画発表から2年半経った今でも全ての審査をクリアできていません。最大の関門とみられていたEUが否定的な見解を出したことで、大韓とアシアナの統合には黄信号が灯った形です。

 

 

さらに18日には複数のメディアが、アメリカ司法省が大韓航空の提訴を検討していると報道しました。それによると司法省は大韓とアシアナの統合計画が韓国とアメリカの旅客及び貨物双方の競争を阻害すると懸念し、買収阻止のため提訴を検討していると言うものです。現段階ではまだ何も決まっていませんが、仮に提訴となるとアメリカでの審査にも大きな影響を与えることになり、判決が出るまで統合審査そのものがストップする可能性もあります。jp.reuters.com

japanese.joins.com

 

では、実際に提訴された場合、統合スケジュールはどうなるのでしょうか?実は司法省は他にも航空会社の提携・統合に対して訴訟を起こしており、アメリカン航空とジェットブルーの提携差し止めの訴訟に加え、ジェットブルーによるスピリット航空の買収差し止めの訴訟を起こしています。このうちアメリカン航空との提携に関しては、30日以内のアライアンス終了を命じる判決がちょうど今日出されました。提訴が2021年9月ですから、約1年8ヶ月で判決が出た計算になります。

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大韓とアシアナの統合差し止めの訴訟が起こされた場合、判決が出るまでに1年以上かかる可能性が高く、少なくともその間は統合審査はストップする可能性が高いと思われます。また、EUに続いてアメリカでも統合却下の機運が高まれば、大韓側は2方向で対応を迫られることになります。更に日本もまだ本審査に至っていないようなので、欧州、アメリカの動向次第では日本も態度を硬化させる可能性があり、統合計画は厳しくなったと言えるでしょう。元々が大型合併過ぎて規制当局の承認を得るのが難しい案件ですが、残り3カ国の規制当局、特にEUの審査をパスできるかどうかはこの数ヶ月が山場と言えそうです。

 

 

さて、もし大韓とアシアナの統合が認められず破談になった場合、韓国の航空業界はどうなるのでしょうか?個人的な見解ですが、このまま統合前と同じになるとは思えず、LCCも含めた業界再編が起こる可能性があると思います。

 

そもそもなぜ大韓航空とアシアナ航空の経営統合が持ち上がったかというと、アシアナ航空及び親会社である錦湖アシアナグループの経営危機が発端です。2015年頃からアシアナ航空の経営はLCCとの競争激化で悪化しており、2018年には本社ビルを売却していますがそれでも経営を立て直せず、2019年4月にはアシアナ航空の売却を発表。一度は現代財閥系の現代産業開発(HDC)と未来アセット大宇のコンソーシアムに売却が決まりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年9月に破談。その後、政府主導で大韓航空によるアシアナ買収に至った、と言う経緯です。

www.nikkei.com

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アシアナ航空の経営危機が買収の理由な訳ですから、それが破談になると言うことはアシアナ航空の経営が行き詰まるリスクを抱えています。2020年ほど危機的状況ではないとは言え、アシアナ航空の経営は低迷を続けており、LCCとの競争激化も続く一方。もし大韓とアシアナの統合計画が破談になれば売却交渉も振り出しに戻り、資金確保の当てが無くなったアシアナ航空が法的整理に追い込まれる可能性は十分にあります。

ティーウェイ航空やチェジュ航空の経営は好調とは言え、韓国2位のアシアナ航空をまるごと飲み込む体力は無く、大韓航空の他に有力な買収先が現れる保障はどこにもありません。最悪の場合、アシアナ航空は再建も買収もうまくいかず、傘下のLCCごと他社に切り売りされて消滅する可能性すらあると思います。その場合の引受先は、欧米路線は大型機導入で長距離路線進出に意欲を見せるティーウェイ航空に売却か、アシアナ航空の受け皿会社を作って一部路線を移管、近距離路線やLCCは大韓航空も含めた他の航空会社で取り合い、国内線は路線維持の観点から大韓航空に譲渡、といった感じでしょうか。

もしアシアナ航空が助かる可能性があるとすれば、所属アライアンスのスターアライアンスが韓国での権益確保のために支援に乗り出した時だろうと思います。特にユナイテッド航空は大韓とアシアナの統合に対して問題提起もしており、アシアナ航空を救うことがアライアンス全体の権益確保に繋がると判断すれば支援に乗り出す可能性があります。その場合、ルフトハンザやANAなども協力する可能性があるでしょう。

sky-budget.com

 

統合が認められるかは予断を許しませんが、仮に統合不承認で破談になったとしても、アシアナ航空のブランドが残るかどうかは不透明です。EUとアメリカの動きで一気に不透明感が増した大韓航空とアシアナ航空の統合問題ですが、考えようによっては2年半経っても出なかった結論が出るときが近いのかも知れません。今後の動きに注目です。