〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

日本の航空会社で購入表明が相次ぐ737MAX、A320neoの巻き返しや主力機の鞍替えはある?

昨年から今年にかけて日本の航空各社で737MAXの購入表明が相次いでいます。かねてより737MAXを購入する意向を表明していたANAホールディングスは2022年7月11日に737-8シリーズ20機の確定発注の最終購入契約を締結したと発表。2025年から導入予定となります。また、今年の1月18日にはスカイマークも次期主力機として737MAXを正式発注したと発表。737-8と-10を各2機ずつで2026年度納入予定ですが、その前の2025年4-6月期から737-8を6機リース導入する予定です。

さらに3月21日には日本航空が737-8型21機を確定発注したと発表。こちらも2026年からの運航開始を予定しており、2025年から26年は737MAXの就航ラッシュになりそうです。

 

皆様ご存じの通り、737MAXは2018年と2019年に相次いで墜落事故を起こし、FAA【アメリカ連邦航空局)をはじめとした世界各国の航空当局から運航停止処分を受けていましたが、ボーイングが安全確保のための改修措置を行い、2020年12月以降、順次運航が再開されています。運航再開後は墜落事故はもちろん、目立った不具合や運航トラブルは起きておらず、ANAやJALも安全性の面で問題ないと判断して発注に踏み切ったようです。各航空会社に737MAXが納入される頃には更に運航実績を重ねて信頼性が上がり、初期不良や不具合も出尽くしていると思いますので、今回の発注のタイミングは「絶妙」と言えるでしょう。

 

↓737MAXについては当ブログの過去記事もご参照下さい。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

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さて、これだけ相次いで737MAXの発注表明が相次ぐと、ライバルのエアバスA320neoシリーズの動向が気になるところ。当初は737MAXの「敵失」もあってANAやピーチ、ジェットスターやスターフライヤーで発注されてきましたが、これらの会社は元々A320シリーズを使用していた会社であり、737ユーザーがA320に鞍替えするケースは今のところ日本ではありません。また、今回737MAXを発注した航空会社にしても元々737を使用しており、こちらもA320からの鞍替えとなるケースはありません。見方によっては「それぞれの機種のユーザーが改良版を発注した」というある意味順当な結果になっているとも言えます。

では、これから先、A320ユーザーが737に鞍替えしたり、その逆のケースが発生するといったことは今後あり得るのでしょうか?

 

まずはANAグループ。今やANAの子会社となったピーチや、ANAとコードシェア関係にあるエアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーを含めても、当面は鞍替えする可能性は低いと思います。

当ブログでも過去に取り上げたことがありますが、ANA位の規模で737とA320の両方を保有するケースは実はそれほど多くはなく、世界的に見ても珍しい事。当時の記事では否定的に書いていましたが、今は「両方の機種を持っていてもそこまで不利ではないかもな」と思うようになってきました。

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確かにANA単体で見れば737MAXとA320neoをそれぞれ30機程度というのは余り効率がいいとは言えません。しかし、ANAグループ全体や提携航空会社も含めてみれば、実はかなり大きな規模を持っていることで、両方の機種を保有していてもスケールメリットは十分生かせますし、リスクヘッジもできているのではと思うのです。

ANAグループ及び提携会社(独立性が強く、ANAへの依存度が薄いスカイマークは除く)の737とA320の保有機数は以下の通り。

 

ANA本体(ANAウィングスも含む)

737      39機

A320・A321  36機

ピーチ

A320・A321  33機

エアドゥ

737      8機

ソラシドエア

737      14機

スターフライヤー

A320    11機

 

合計 737 61機 A320 80機

 

いかがでしょうか?ANA単体だとそれぞれ3~40機程度しかなさそうですが、グループや提携航空会社も含めると結構な規模になりますし、ピーチやスターフライヤーも合わせるとむしろエアバスの方が機数が多いことが分かります。既にANAはピーチの分もまとめて発注していますし、今後は経営統合したエアドゥとソラシドエアが共同で新型機を発注と言うことも考えられますから、グループ全体で見れば両方の機種を保有しても十分スケールメリットを生かせられそうです。

また、エアドゥとソラシドエアの後継機も今の機種との連続性やANAグループ全体の単通路機のバランスを考えると737MAXに傾く可能性が高いと思われます。ただ、もし将来的にスターフライヤーとの統合を考えているなら、思い切ってA320neoに切り替えるという選択肢もあります(既にA320neoを導入する予定のスターフライヤーが737に合わせるとは思えませんし)。

ただ、他の2社に比べて独自性も高く、上場会社であるスターフライヤーが今更この2社に合流するとは考えにくいので、統合や鞍替えの可能性は低いかなと思います。

 

 

一方のJALグループ。現在保有している単通路機は737-800のみ56機ですが、今回発注したのは21機と3分の1強。全ての737-800を737MAXで置換えるわけではありません。JALの場合、同じ737-800でも初期導入期は2005年製と間もなく更新時期を迎えるのに対し、日本トランスオーシャン航空に納入された機材は2016~2019年製と比較的新しいなど納入時期にかなりのばらつきがあるため、慌てて全機置換える必要が無いと言う事情があります。また、JALは737-800以外にも28機の767-300ERの置換えも控えていますので、一部の767-300ERを737-10かA321neoで置換えるというシナリオも考えられます。

下記のリンク先の記事にもあるように、今回の発注だけで「JALの次期単通路機=737MAX」と決めるのは早計であり、ANAと同様、今後A320neoシリーズも発注して737MAXと併用する可能性も十分考えられます。よって、JAL本体に関しては「A320neoに統一される可能性はなくなったが、737MAXと併用する可能性は残っている」と思います。

 

www.aviationwire.jp

 

また、JALグループでもジェットスタージャパン(JALが50%出資)とスプリング・ジャパン(JALが66.7%出資)というLCC2社を抱えており、前者はA320シリーズ21機を、後者は737-800を6機保有しています。特にスプリング・ジャパンは2024年4月からJALとヤマト運輸の合弁貨物航空会社の運航受託を予定しており、その機材はA321ceoの貨物機改造型。スプリング・ジャパンの出資先の一つである中国の春秋航空もA320シリーズの単一機種であり、今後A320の機種移行養成も春秋航空と協力する予定ですので、将来的にはA320neoに移行してもおかしくないのではと思います。よって、今後鞍替えの可能性があるとすればスプリング・ジャパンではないでしょうか?

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JAL本体は737、傘下のLCCはA320と棲み分ける可能性もありますが、JAL本体は737だけでもグループ全体で見れば実はA320の割合もそれなりにあり、この点も今後JAL本体がA320neoシリーズを発注する可能性が十分考えられる理由です。以前JALの社長、会長を務めた大西賢氏も「基本的に機材計画は20機が目安。1機種あたり20~30機の規模になれば、別の機種を投入しても投資が無駄にならない」と発言しており、グループ会社も含めたJALの規模から考えると、737MAXとA320neo、両方持っても問題ないと言うことになります。今後はJAL本体がA320neoシリーズも発注するのか、スプリング・ジャパンの主力機鞍替えがあるのか、この点に注目していきたいですね。