〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

スターラックス航空会長の「神対応」に見る経営トップの危機管理対応

5月6日に強風で欠航し、成田空港で一夜を明かす羽目になったスターラックス航空の乗客に対し、張国煒会長が取った「神対応」がTwitterなどで話題となりました。

 

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リンク先の記事によると、この日の成田空港は強風による悪天候で多くの便が着陸やり直しや他空港へのダイバードを余儀なくされており、スターラックス航空の台北発成田行きJX800便も成田空港で何度も着陸やり直しをしましたが着陸できず、やむなく中部国際空港にダイバード。その後天候の回復を待って再度成田に飛び、当初の予定時刻12時45分よりも7時間以上遅れの19時52分にようやく着陸しました。

しかし問題だったのはこの便の折り返しとなる成田発台北行きのJX801便。当然、これだけの遅れとなると折り返しの準備や代替乗員の手配が付かず欠航になり、後続のJX803便への振り替えや代替便の準備で対応する予定でした。しかし間の悪いことに振り替え先のJX803便も機材故障で出発が遅延し、乗務員の勤務時間を超過することからこの便も欠航。代替便も調整に失敗して成田に飛ばすことができず、最終的にJX801便と803便の乗客合計308人が制限エリア内に取り残され、寝袋で一夜を過ごす羽目になりました。

 

で、ここから凄かったのがタイトルにもある張会長の「神対応」。乗客が取り残されたことを知るや、一番早く成田に到着できるジェットスタージャパンの深夜便で7日早朝に成田空港に到着。その足で乗客のところに出向いて謝罪し、往復分のチケットの全額払い戻しと他社便も含めた帰国便の手配を約束しました。そして、航空機のパイロット資格を持つ会長自ら立ち往生していた自社機を操縦して帰るという、並の経営者ではまず聞かないであろう最強エピソードを残して台湾に帰っていきました。

 

さて、私は最初このニュースを聞いたとき「悪天候が原因の欠航なら会社責任じゃないし、わざわざ会長が出張る必要は無いんじゃない?」と思っていましたが、振り替え便も機材故障で欠航するなどスターラックス側にも落ち度は見られたこと、プレミアム路線でブランディングを行っているスターラックスにとってこの手のトラブルで顧客満足度を下げることは決して得策ではないことを考えると、今回の張会長の迅速な対応はむしろ賞賛に値するものではないかと思いました。

実際、今回の対応は日本でも台湾でも好意的に報道され、SNSでも賞賛の声が挙がるなど、結果的にスターラックス航空の企業イメージ向上に大きく寄与しました。危機管理対応の原則である「速やかな情報の共有」「迅速な対応」「顧客への誠意ある謝罪」を実践し、自社の被害を最小限に抑えた素晴らしい対応ではなかったかと思います。ここまで完璧な対応を会長自ら取れるスターラックス航空は、今回の対応で今後急成長する可能性が高い有力航空会社に育つのではないかと思えてきました。

 

 

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当ブログでもスターラックス航空はコロナ渦前に一度取り上げたことがあり、この時は期待半分、不安半分で成功の可能性は五分五分と書いていました。そして、成功のカギは他社とのブランド差別化と早期の乗り継ぎネットワークの構築、リピート客の獲得にあるとも書いています。

しかし、2020年1月23日に台北~マカオ・ペナン・ダナン線を就航させた直後ににコロナ渦で航空需要が蒸発。就航直後でこれは危ないかな・・・と思いましたが、その後もスターラックスは路線拡大の手を緩めず、その年の12月15日には発の日本路線として台北~関空線、翌16日には成田線を開設。コロナ渦で利用客も見込めないのに強気すぎるのでは?と思ったのですが、他社の運休でむしろ希望する時間帯が取れる好機と判断したようで、成田線の初便は張会長自ら操縦桿を握って就航させる力の入れようでした。

 

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更にスターラックスは2022年に福岡・札幌・那覇便を開設し、2023年4月からは仙台線も開設。4月26日には初の太平洋路線となる台北~ロサンゼルス線も開設し、今後は東南アジア~北米の乗り継ぎ需要開拓を本格化させることになると思います。

 

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それにしても就航からわずか3年、しかもコロナ渦という逆風がある中での拡大っぷりは目を見張るものがあります。張会長自身が700億もの個人資産があり、181億台湾元(約818億円)の資本金を集めるなどそれなりに潤沢な資金を確保しているとは言え、就航からしばらくはコロナ渦の影響をもろに受けてしまい、2022年第三四半期には111億元(約502億円)の累積損失を計上。それでも「台湾のエミレーツ」を目指した高品質・高サービス・高価格帯のコンセプトは崩さず、コロナ渦が収束に向かうと業績を急回復させました。今年1月の売り上げは15億2000万元と過去最高を記録し、2月の売り上げは前年同期比20倍の13億7000万元(約62億円)を計上。この急成長を好感してスターラックス株は2月14日から急上昇し、19.55元から最高50.5元に伸びるなど、台湾国内でも注目度が高まっています。

張会長自身、パイロット資格の他に整備士資格も持つなど現場感覚も持っており、現場を知っているトップの方が大成する可能性が高いのはコンチネンタル航空やJALの再建などの過去の例からも明らか。成長軌道に乗ったことで、今後スターラックス航空は本格的に拡大路線を進めるものと思われます。

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今後は先発2社であるチャイナエアラインやエバー航空との競争に加え、スターラックス航空がいつアライアンスに加盟するかが焦点となるでしょう。加入するとしたらほぼワンワールド一択になると思われますが、加入すればアジア地域で加盟会社が少ないワンワールドにとって、有力なパートナーになると思います。ただ、現段階では就航から日が浅く、路線網も十分ではないので、まずは路線拡大とブランドの世界的な浸透が優先になるでしょう。今後スターラックスがどのような成長戦略を見せ、どんな拡大を見せるのか。今後も注目していきたいと思います。