〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ロールスロイスの新エンジンは電動化への危機感?

 

今年の5月から実証運転を開始しているロールスロイスの次世代エンジン・UltraFan。先日、最大出力運転に成功したというニュースが流れました。現行のトレントエンジンよりも10%効率が向上し、次世代の代替燃料(SAF)にも対応したもので、短期的には試験で得られた知見や技術をトレントにフィードバックさせますが、将来的には2030年代に登場する新しいナローボディ機やワイドボディー機への採用を目指すとしています。

 

www.aviationwire.jp

https://www.rolls-royce.com/country-sites/japan/discover/2023/rr-announces-successful-first-tests-of-ultrafan-technology-demonstrator-in-derby-uk.aspx

 

現在、二大航空機メーカーであるボーイングとエアバスの新型機はボーイングが777Xを、エアバスがA321XLRを開発中ですが、両社とも既存機種の改良型であり、A350以降、完全新設計の旅客機開発の話はこれと言ってありません。一時期ボーイングが次世代の中型旅客機として797計画を進めていたことがありましたが、737MAX問題への対応を優先するために2020年1月に計画凍結を表明。当面は同クラスの旅客機は737MAXで行くことになります。新型コロナウイルスの感染拡大で一時的に航空機需要が蒸発したこともありますが、特にボーイングは開発中の777Xをはじめ、既存機種の不具合が次々に発覚してその対応に追われているので、新型機開発どころでないのが現状です。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

航空機メーカーが新型機開発に及び腰になるもう一つの理由は、将来の航空機の電動化でしょう。ご存じの通り、航空機はジェット燃料などの化石燃料を使用しており、電動化から一番遠いところにある乗り物でしたが、近年の地球温暖化対策、特に温室効果ガス削減が叫ばれている現在、航空業界も温室効果ガスの削減を求められており、「飛び恥」運動に代表されるように、欧州などでは化石燃料を使い続ける航空機の使用がやり玉に挙げられる事がしばしばあります。ICAOも2050年までに航空機からの二酸化炭素排出量を50%削減する目標を掲げていますが、現在のエンジン技術のままでは不可能。そこで根本的な解決策として、航空機の電動化技術の研究が進められており、ボーイングやエアバスをはじめとした様々な企業で研究開発が行われています。

 

www.aero.jaxa.jp

 

とはいえ、現在はまだ航空機の完全電動化の見通しは立っておらず、特に航空機の場合は安全性が確保されない限り、実用化は不可能でしょう。少なくとも大型の旅客機では5年から10年のスパンでは実現できないと思います。ロールスロイスも大型機に関しては完全な電動化は不可能で、ハイブリッド機になるだろうという予測を立てています。

 

www.aviationwire.jp

 

とはいえ、エアバスもボーイングも次の新型機は完全電動化までは行かなくとも水素エンジンやハイブリッド機などの新技術を盛り込みたいと考えているでしょうし、実際、エアバスは2035年の「ゼロエミッション航空機」の実用化を目指しています。現在の旅客機が一定の低燃費化を進めた今、新たな旅客機開発を急ぐ必要はなく、当面は既存機種を販売しつつ、10年から15年のスパンで次世代技術の旅客機開発を進めたいと言ったところでしょうか?

news.yahoo.co.jp

 

で、本題のロールスロイスエンジンですが、SAFなどに対応したり脱炭素を目指しているものの、あくまでもUltraFanは現行のガスタービンエンジンの発展型という印象です。ロールスロイス自体が次世代の大型機はハイブリッドが主流になるという見方をしていましたが、このエンジンもハイブリッド技術搭載を見込んでのものでしょう。しかし、搭載する旅客機が決まってないのにエンジン開発を先行させるというのは、電動化に対するロールスロイスの危機感と捉えることもできます。

 

自動車でも電動化は複雑で技術力が必要な内燃機関エンジンが不要となり、ハード面でより部品点数を簡素化できるメリットがありますが、それは部品メーカーの淘汰や、完成車メーカーのエンジン技術が無に帰す事を意味します。特にハイブリッド技術で欧米メーカーに差を付けてきた日本のメーカーにとっては、完全電動化はそのアドバンテージを失うことを意味し、自動車産業全体の国際競争力を低下させる危険性もはらんでいるのです。

もし航空機の完全電動化が実現した場合、真っ先に影響を受けるのはエンジンメーカーです。航空機の中でもエンジンは最も重要性の高い部品であり、エンジンだけで一基数億から十数億する代物。部品点数も自動車とは比較にならないくらい多く、それだけ高価なものになります。それだけに航空機エンジンの電動化が進めば自動車同様部品点数の減少による部品メーカーの淘汰が進む可能性がありますし、異業種からの参入で既存エンジンメーカーの優位性が一気に崩れる可能性があります。

ロールスロイスが言うように、大型機の完全電動化自体はすぐには実現できないでしょう。しかし、航空機メーカーが電動化の研究に乗り出している以上、完全電動化は無理でも将来的に電動化の比率は上がっていくものと思われます。ロールスロイスが新たなエンジン開発を行うのも、既存のジェットエンジンの将来性に危機感を持っている表れであり、既存エンジンでもより環境負荷の低い商品を送り出してジェットエンジンの商品寿命を延ばそうとしているのではないでしょうか?自動車と同じように、航空機の分野でも、電動化と既存技術のせめぎ合いが始まっているのかも知れません。