〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

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JALもA321neo発注で737との両刀遣いに。これからは両刀遣いがトレンド?

3月21日、日本航空はエアバスA350-900型21機とA321neo型11機、ボーイング787-9型10機を発注したと発表しました。このうちA350-900型1機は1月の羽田空港の事故の代替ですが、残りの20機と787-9型は北米、アジア、インドなどの国際線用、A321neoは767-300ERの代替として国内線に投入される見込みです。また、787-9の大半は子会社の長距離LCC「ZIPAIR」用になるようです。

 

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さて、A321neoと言えば既にANAが導入済みですが、以前の記事でA320と737の両方を使用する航空会社は意外に少ないという事に言及しました。

 

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ANA位の規模で両方の機種を使い続けるのはむしろ少数派だったんですが、近年の737MAXのトラブルで、むしろ単一機種(特に737MAX)に統一する方がリスクが高いという認識が広がっています。これから単通路機は737MAXとA320neoシリーズの両方を導入する会社が増えていくのではないでしょうか?その根拠と理由を考察しました。

 

・アメリカや中国のメガキャリアは両方発注済み

アメリカの3大メガキャリアのうち、ユナイテッドとアメリカンは既に737MAXとA321neoの両方を発注・就航済み。デルタ航空も当初はA320neoシリーズのみの発注で、737MAXは発注しませんでしたが、2022年7月に737-8を100機発注。将来的にはアメリカのメガキャリア3社は737MAXとA320neoの両方を保有する見込みです。

大手航空会社が6社あった時代は737のみ保有の会社(コンチネンタル・デルタ)、A320のみ保有の会社(ノースウエスト、USエアウェイズ)、両方保有の会社(アメリカン・ユナイテッド)に分かれていました。しかし、2010年代の再編統合でアメリカン、デルタ、ユナイテッドの3社に集約された結果、程度の差こそあれど3社とも737・A320の両方を保有するようになりました。

アメリカの場合、保有機数が700~900機と桁違いに多く、単一機種統一はむしろイレギュラー時のリスクが高くなります。また、単一機種統一によるコスト削減よりも、両社を競わせて値引きなどの条件を引き出す方が得策であり、無理に機種統一する必要性は少なくともアメリカのメガキャリアでは薄いのです。また、アメリカに関してはエアバスがモービルに最終組み立て工場を設置した事も、エアバス機発注に対する心理的・政治的ハードルを下げているのではと思います。

 

同じ事は中国のメガキャリア3社にも言えます。元々中国の航空会社、特に中国国際、東方、南方の元民航系大手3社は機材統一よりも国家の移行が優先される傾向にあり、機種に関しては割と雑多であまり統一感はありません。元来航空機の発注は外交的な交渉材料や貿易摩擦の緩和策として国策的に行われる事が少なからずありますが、特に中国の場合は有効な「外交カード」として使われます。航空機発注の見返りに現地企業との合弁や航空機技術の供与、あるいは他の分野での交換条件などで使われるケースが多く、結果的に大手三社の機種構成は雑多でA320と737の両方が当たり前のように使われています。

とはいえ、近年の中国大手3社はアメリカのメガキャリア3社に次ぐ規模となっており、結果的に両刀使いでも問題ないくらい大規模になっているんですが。

 

後は急速に規模を拡大しているトルコのターキッシュエアラインズも737とA320をそれぞれ100機以上保有しており、737MAXとA320neoも発注済み。一定以上の規模を持つキャリアは、今後両方の機種を導入してリスク回避をするのが主流になると思います。

 

・JALやANAと同等規模の会社も両刀使いに?

737MAXの連続事故と運航停止措置以来、徐々にではありますが、単一機種から両刀使いに切り替えていく航空会社が増えてきました。
例えば中国の厦門航空。厦門航空は元々ボーイング派で、導入した機材は全てボーイング機という筋金入りのボーイング派でしたが、米中貿易摩擦や737MAXの運航停止でボーイング機の追加購入が見通せなくなり、2020年1月にA321neo10機をリース導入すると発表しました。その後2022年9月にA320neoシリーズ40機を発注し、2023年から順次納入されるなど、エアバス機の比率が増えてきました。

また、一度はA320シリーズから737MAXへの置換え方針だったエアカナダも、2022年3月にA321XLR型26機(うち20機はリース)を発注。こちらは大西洋路線を中心に投入するつもりなので、国内線やアメリカ路線が中心の737MAXとは微妙に目的が違いますが、A220も含めるとエアカナダも両刀使いに転換したと言えます。

更に単通路機派737シリーズが中心で、2015年には737MAXも発注していた大韓航空も、2022年にA321neoの初号機を就航させてからはA321neoの発注を増やし、統合予定のアシアナ航空の機体も含めると、今後大韓航空ではA320neoシリーズが多数派になる見込みです。とは言え737-8も平行して導入し続けていますので、大韓でも737MAXとA320neoの両刀使いが定着する見込みです。

先のアメリカや中国などのメガキャリアと違い、1機種数十機クラスの会社でも両方の機種を運用する動きが増えているのも今後両刀使いが増えていくと考える理由です。

 

・単一機種に統一するリスク

では逆に単一機種に統一したままだと、どういうリスクが考えられるでしょうか?

真っ先に考えられるのは「その機種が事故や欠陥で納入・運航停止になるリスク」でしょう。古くはDC-10の運航停止措置で幹線や長距離路線で供給不足に陥ったことや、787のバッテリー問題による運航停止措置でANA(JALもですが)が国際線・国内線とも大規模運休を余儀なくされたこと、そして737MAXの運航停止で世界中の航空会社が長期間運休や老朽機の退役先延ばしを余儀なくされた事など、単一機種に統一するとその機種が使えなくなった場合、まともな運航ができずに経営に大きな影響を与えてしまうリスクがあるのです。


また、余りにも長い期間単一機種に頼りすぎると、他の機種への転換が困難になるリスクも考えられます。今後このリスクが出る航空会社の代表がアメリカのサウスウエスト航空でしょう。

航空ファンならご存じだと思いますが、サウスウエスト航空は創業期のごく一部を除いて保有機を737で統一しており、単一機材にすることで整備コストや部品調達コスト、乗務員や整備士などの訓練費用コストなどを削減して従業員の習熟スピードを上げる戦略をとっています。サウスウエストに取って737は会社のポリシーそのものであり、切っても切れない関係。単一機種でコストを削減するサウスウエストのビジネスモデルが世界のLCCのビジネスモデルのひな形となったのも有名な話です。
しかし、737MAXの事故でその強みは大きなリスクに変わってしまいました。ボーイングが737NGの後継を新設計機ではなく改良型にした理由の一つが、サウスウエストをはじめとした長年の737ユーザーの存在。彼らをつなぎ止めるために737MAXの開発に踏み切った部分は少なからずありますが、この時既に737は地上クリアランスやブレーキ性能などの問題で現代技術への対応が難しくなっており、737MAXの開発は「半ば無理矢理」な面がありました。この無理矢理な改良型開発は、言い換えればボーイングやサウスウエストから新型機開発による変革のチャンスを奪ったとも言え、結果的にサウスウエストは737シリーズと「心中」することになりそうです。

既にサウスウエストでは737MAXの納入が遅れることや、運航停止が長引くことを見越し、減便や新規採用の停止を行っているようですが、737MAXの問題は刑事事件やボーイングの品質問題に発展しており、短期間での解決は難しそうです。

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かと言ってサウスウエストが今からA320neoシリーズを発注するのも無理な話。既に737MAXの一件でA320neoシリーズは大量の受注残を抱えており、エアバスも取引実績の無いサウスウエストの大量受注を受け入れる余裕はないでしょう。仮にそれを乗り越えて発注できたとしても、長年737に慣れきったサウスウエストの従業員が操縦システムも座席配置も思想も違うエアバス機をすんなり受け入れられるかは疑問。737による単一機種でのビジネスモデルで躍進を遂げたサウスウエストですが、今後はそのビジネスモデルが自らのクビを締めるリスクも考えられるのです。

 

・単一機種が基本のLCCはどうする?

では、サウスウエストのビジネスモデルをひな形としている世界各地のLCCは、そのビジネスモデルを捨てて複数機種保有に移行するのでしょうか?基本的には単一機種のままで行くと思いますが、既に複数機種保有になっているLCCは少数ながら存在しており、今後は数百機単位の保有機を持つLCCは複数機種体制に移行する可能性があります。

複数機種保有のLCCの代表例がアメリカのジェットブルー。当初はA320のみでしたが、その後エンブラエルE190を大量発注し、2機種体制に移行。近年はE190の後継としてA220を発注しており、2機種体制は今後も続く見込みです。ジェットブルーの場合、路線特性や需要に応じて2機種を使い分けているようですが、単一機種のリスクヘッジの側面もあるでしょう。

また、大韓航空系のLCC・ジンエアーも737と777の2機種体制。ジンエアーの場合は777は高需要路線や長距離路線用であり、同様のケースはシンガポール航空系のスクートやカンタス系のジェットスター、フィリピンのセブパシフィック航空なども挙げられます。これらのケースはリスクヘッジと言うよりは、事業拡大で長距離運航可能な機材が必要になったからと言えます。

 

今のところ置換え途上での一時的な併用を除けば、LCCで737とA320の両方を保有するケースは見当たりませんが、特に737を使用しているLCCのうち保有機が数百機規模の会社は、A320との併用に踏み切るケースが出てくるかも知れません。コスト面や運用面では単一機種の方が遙かに優位ですが、737MAXのような事例が出てしまうと話は別。ひとたび運航停止に陥ってしまうと最悪の場合全便運航停止に追い込まれてしまい、倒産にも繋がりかねません。そしてそれは、一機種への依存度が高ければ高いほど、リスクも大きくなってしまうのです。

一般的には1機種で20~30機程度を運航していれば、シミュレーターを含めた機材全体の投資効果は最大限発揮できるとされ、複数機種保有もこの機数が一つの基準となるでしょう。単一機種が前提のLCCでは事情はまた違ってくると思いますが、それでも数百機単位となれば機種を増やしても投資効果的にはさほどマイナスにはならないかも知れません。今後は737MAXを大量発注しているサウスウエストやライアンエアーなどの大手LCCが、他の機種を発注するかにも注目です。

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・まとめ

以上、JALのA321neo発注に伴う、737とA320の両刀使いについて考察しました。これからは小型機の分野でも分散発注が一種のトレンドになっていく可能性は十分あると思います。特に737MAXに関しては、この機種だけに依存すること自体が大きなリスクになってしまいましたから、今後もエアバス機発注でリスクを分散する動きは続くと思います。

しかし、エアバスだけでは小型機の需要を賄えないのも事実。だからこそボーイングには全ての膿を出し切って、安全重視の昔の姿勢を取り戻して欲しいと思います。

737MAXとA320neoの両方を保有する会社が増えているのは、ボーイングと距離を置いたり、見限ったりする前兆かも知れません。だからこそ、まだ市場への影響力があるうちに、ボーイングは根本から立て直さなければいけないのです。

さもなくばボーイングに待っているのは破産か、ロッキード辺りに身売りされるか、中国のCOMACに駆逐されて消えるかでしょう。数十年前はマクドネル・ダグラスがエアバスにシェアを取られて消滅するとは誰も思わなかったように。どうか、そんな悲しい未来が訪れませんように・・・