〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

そう言えばジェイ・キャスってどうなったっけ?

2019年に当ブログで取り上げた航空準備会社「ジェイ・キャス」。あれから3年以上経ち、半分存在を忘れかけていましたが、最近また名前を聞くようになったのでこの会社のその後を調べてみたいと思います。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

2019年に取り上げた時の事業計画では「関空・中部空港と地方空港を結ぶ近距離航空路線を構築し、地方空港の活性化を図る」として、70~80席級のターボプロップ機2機をリース購入し、関空を拠点に富山・能登・米子・岩国に就航、2021年秋の就航を目指すとされていました。

 

公式HPは現在も存在しており、そのHP内では新型コロナウイルスの感染拡大でしばらく活動自粛せざるを得なかったものの、航空経験者数名が入社しており、2022年7月には石川県志賀町に北陸準備室を設置。9月には米子に山陰準備室を、12月には富山市内に富山オフィスを開設し、地域への情報発信や人脈作りに本腰を入れているようです。

 

www.jcas.co.jp

 

最近では就航予定先のメディアでも紹介されたり、月刊エアラインでも取り上げられるなどメディア露出も徐々に増えているようです。

 

しかし、今のところはまだ準備会社の域を出ず、資金調達にも苦戦しているようで、12月にはクラウドファンディングを実施して支援を呼びかけたようです(現在は終了しています)

congrant.com

 

しかし、そのクラウドファンディングも目標の500万円に対し実際に集まったのは100万円と2割程度。就航予定も2024年秋にずれ込むなど、傍目から見ても苦戦しているのは明らかです。資金調達についても新たな出資先や支援企業などの話も聞こえてこないので、うまくいっているとは言い難い状況です。

sky-budget.com

 

ところで、新規参入を目指す地域航空会社というと、新潟を拠点に就航準備を進めているトキエアが挙げられます。会社設立は2020年7月とジェイ・キャスよりも後ですが、こちらは新潟県内の企業や金融機関から順調に出資金を集め、新潟県からも11億6000万円の融資を受けたことで目標金額の45億5000万円の調達に成功。リース会社の経営破綻などはあったものの、今年に入って2機が無事新潟空港に到着し、3月31日には東京航空局からも航空輸送事業許可を取得し、スタートラインに立つことができました。現在は6月30日の新潟~丘珠線の就航を目指し、訓練飛行を続けています。その後も新潟~仙台・中部・神戸線の就航を目指しており、将来的にはSTOL機のATR42-600Sを使用して佐渡空港から東京方面への直行便開設を計画するなど、新規参入を目指している他の会社に比べると順調に進んでいます。

tokiair.com

 

では、なぜ先行していたはずのジェイ・キャスが未だに計画の域を出ず、後から設立されたトキエアが就航までこぎ着けられたのでしょうか?ジェイ・キャスの場合、計画発表後にコロナ渦に見舞われたという不運はありますが、トキエアの場合はコロナ渦の渦中に設立された訳ですから、外的な条件は一緒なはず。両社に決定的な差がついた理由は「就航地域のバックアップを得られたか否か」ではないかと思います。

 

トキエアの場合、設立当初から新潟空港を拠点にすることを明言しており、資金調達の際も新潟県内の企業や行政にターゲットを絞って活動しています。「新潟県の航空会社」というイメージや新潟県や佐渡の活性化といった「大義名分」が企業や行政の共感を呼び、出資金や融資を受けやすくなったのではないかと思います。

加えて、トキエア社長の長谷川氏は日本航空での勤務後に新潟県庁交通政策局での勤務経験があり、新潟空港活性化にも携わっています。この時の経験と人脈がトキエアの資金調達や新潟県との折衝にプラスに働いたのではないでしょうか?

www.travelvision.jp

 

一方のジェイ・キャスですが、就航予定地域が富山・能登・米子と分散しており、拠点や人員も3カ所に分散しています。一応、最初の就航路線は関空~富山線のようですが、2024年内に関空~能登・米子・石見への路線も展開するとしており、どの地域をメインにするかはあまりはっきりしていません。この辺の曖昧さや人的リソースの分散が就航予定地域での機運が盛り上がらず、資金調達がうまくいっていない理由なのではないかと思います。

sky-budget.com

 

資金力や人的リソースが豊富な大手企業がバックに付いているならともかく、ジェイ・キャスのようなゼロからのスタートの場合は就航予定地域を一カ所に絞り、その地域に溶け込む覚悟で資金調達や人脈作りに注力した方が成功の可能性は上がるのではないかと思います。トキエア以外に就航までこぎ着けた新規参入会社の例を見ても、北海道を拠点にしたエアドゥ、宮崎を拠点にしたソラシドエア、北九州を拠点にしたスターフライヤー、静岡を拠点にしたフジドリームエアラインズと、最初の拠点は一カ所で就航してそこから拠点を拡大したケースが多く、最初から複数拠点で準備して就航にこぎ着けたケースは余り見当たりません(IBEXエアラインズは複数拠点で就航したケースに近いですが、一応拠点は仙台に置いてます)

残念ながら東京に本社を置き、地方拠点も分散している今のジェイ・キャスの営業体制では、就航予定地域の共感も広がらず、出資企業も現れないのではないかと思います。せめて最初の就航地域を北陸か山陰のどちらかに絞り、人的リソースを集中させて資金調達をしないと、どちらも中途半端になって計画倒れに終わる可能性が高くなるのではないでしょうか?

個人的には地方間の航空路線をもっと増やして交流を活発させて欲しいですし、ジェイ・キャスの地方創生というコンセプト自体は共感できるものです。ですが、今の状態のままでは就航など夢のまた夢というのも事実。ここまで来てどこか一カ所に絞るというのは難しいかも知れませんが、就航の可能性を上げるためにも決断するべき時期に来ているのではないでしょうか?