〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ANAが737MAX 8を発注。世界的にも珍しいA320と737の共存はまだまだ続く・・・

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1月29日、ANAホールディングスはボーイング737MAX 8を最大30機発注すると発表しました。737-800型の後継機として2021年度から2025年度にかけて納入される予定で、内訳は確定発注20機、オプション発注10機となります。

737MAXシリーズの発注は以前スカイマークが発注意向を示していましたが、経営破たんの混乱から延期され、日本トランスオーシャン航空も737-800型12機を発注した際に後半の6機を737MAXに変更できるオプションを持っていましたが、結局その権利を行使することはなさそうですので、結果的に日本ではANAが最初の発注者と言う事になりました。
www.aviationwire.jp

www.ana.co.jp

 

正直、今回のANAの737MAXの発注は予想外でした。と言うのもANAの737-800型は1号機の納入が2008年5月とまだ10年程度しか経っておらず、先月も新造機が納入されたばかり。さらに現在エアバスA320neoシリーズの納入が進んでおり、新型機を慌てて発注する必要は全くないためです。さらに今年はA380と787-10型、2021年度には777Xの納入も控えていますから、737MAXを発注するにしても777Xの納入が一段落してからだろうと思っていました。それに新型機発注の必要性という観点から言えば、ANAよりも2年早く737-800型を導入しているJALや、737-800型の生産終了で今後の事業拡大には新型機の選定が必要になるスカイマークの方が先だろうと思っていましたので、一番必要性の低いANAが先に発注というのは意外です。

別の記事では日米貿易交渉との関連性を匂わせています。もちろんANAは否定していますが、これまでもANAは日本企業が製造に関わるボーイング787や777X、国産初のジェット旅客機三菱MRJ、日本企業が関わっているエンジンを搭載したA320neoシリーズと、日本に関係のある機種を率先して選んできた経緯がありますので、全く影響はなかった、とは言えないのではないでしょうか。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

さて、以前からANAは単通路ジェット旅客機の双璧であるボーイング737シリーズとエアバスA320シリーズの両方を保有してきましたが、「737-800型の後継機」という観点から見れば、737MAXの発注は部品やパイロット資格の面からは共通する部分が多いので妥当と言えます。しかし、「ANAの機材構成」という観点から見れば、全部合わせても80機程度しかない単通路機で737とA320の両方を持つ状態が続く事になり、コスト面では不利になります。実はこの構図、1991年にA320がANAに納入されて以来四半世紀以上続いており、A320neo納入中に737MAXの発注を決めた事で今後十数年はこの状態が続く事が確実になってしまいました。

 

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バスやトラックと違い、航空機はパイロットが操縦できる機種は1機種のみであり、整備や部品供給の観点からも機種は少ない方が効率がいい、とされています。以前はその観点から保有する機材を単一メーカーでそろえる航空会社も多く存在しましたが、ボーイングとエアバスの複占になってからは、リスク分散や競合する機種を競わせて値引きを引き出した方が得策と考える航空会社の思惑から、両メーカーの機体を保有する会社が主流になっています。

しかしその場合でも複数のラインナップがある双通路機でボーイングとエアバスが分け合うというケースや、双通路機はボーイング、単通路機はエアバスのみと言うように、ある程度の棲み分けがされるのが普通。同じような大きさの737とA320の両方を保有する航空会社はそれほど多くありません。例えばお隣韓国ではアシアナ航空が大型機はボーイングとエアバスの混成ですが小型機は傘下のLCCも含めA320で統一してますし、台湾でもチャイナエアラインが大型機は747、777、A350、A330とボーイング機とエアバス機で分かれていますが、小型機は737-800に統一されています。

ドイツのルフトハンザグループも大型機に関してはボーイング機とエアバス機の殆どを保有していますが(但し777、767はグループ会社のオーストリア航空やスイスインターナショナルエアラインズのみの保有)、小型機はグループ会社も含め全てエアバス機で統一され、ルフトハンザで使用されていた737は売却してしまいました。身近な所では現在はボーイング機のみ保有のJALも、A350就航後はこのケースに該当します。

 

この他大型機はボーイング・エアバス混成、小型機はどちらか片方と言う会社は以下の通り。

小型機はA320シリーズのみ:ブリティッシュエアウェイズ、アリタリアーイタリア航空、エティハド航空、サウジアラビア航空、南米のLATAMグループ、タイ国際航空、ベトナム航空、フィリピン航空、エバー航空、ウズベキスタン航空

小型機は737シリーズのみ:カンタス(子会社のジェットスターでA320保有)、ガルーダインドネシア、マレーシア航空、インドのジェットエアウェイズ、ヴァージンオーストラリア

 

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もちろん、737とA320の両方を保有している会社はANA以外にも存在します。例えばアメリカのアメリカン、デルタ、ユナイテッドは737とA320の両方を保有していますが、この3社に関しては単通路機の保有数自体が500~600機と巨大すぎるので、無理にどちらかに統一しても大したコスト削減は見込めない事や、リスクヘッジや競合による値下げ効果の観点からも両方を発注した方がメリットが大きいためです。同じ事は737とA320をそれぞれ100機以上保有するトルコ航空や、中国国際、東方、南方の中国メガキャリア3社にも言えます。

また、エアカナダや北欧のスカンジナビア航空も現在は737とA320の両方を保有していますが、これはあくまでも過度的なもの。将来的にはエアカナダは前者に、スカンジナビア航空は後者に統一される予定です。エールフランスKLMもグループ全体で見れば737とA320の両方を保有していると言えますが、737はKLMのみ、A320はエールフランスのみで使用されていますので、会社単位で見ればどちらかに統一されています。

 

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LCCについてはそのビジネスモデル上、1機種に統一されている会社がほとんどです。737シリーズに統一されているサウスウエスト航空やライアンエアー、A320シリーズに統一されているイージージェットやピーチなどはそのいい例でしょう。

ちなみにANA同様、それほど多くはないし置き換えの過度的なものではないのに737とA320両方を保有する航空会社は、ロシアのアエロフロートとS7航空、中国の深圳航空、エジプト航空とLCCのノルウェーエアシャトル(予定)くらいです。こうして見るとそれほど多いわけでもないのに737とA320の両方を保有し続けるANAが世界的に見れば少数派であることがお分かり頂けるのではないでしょうか。

 

もちろん、今回の決定が社内で検討に検討を重ねた結果のものでしょうし、ボーイングとエアバスとの関係やANAを取り巻く状況、運航コストや整備コストを考慮した上での決断だとは思います。しかし近年、ANAの機種数が増加傾向にあり、一方のJALが機種の絞り込みを行っている中での今回の決定は、一抹の不安を覚えてしまうのです。今後ANAが737MAXとA320neoシリーズをどう使い分け、活用していくのか。それともどこかのタイミングで機種統一に動くのか。今後の展開に注目していきたいところです。

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