〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

米原~敦賀間の「しらさぎ」が残った理由を考えてみた


来年3月の金沢~敦賀延伸に向けて準備が進められる北陸新幹線。12月には詳細なダイヤも発表され、開業に対する期待は日に日に高まっていきます。

www.westjr.co.jp

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/231215_00_press_daiyakaisei_hokuriku.pdf

また、当ブログでもダイヤ概要発表直前に予想記事を書きましたが、ものの見事に大ハズししておりますw

 

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で、その時に一番驚いたのが米原止まりの「しらさぎ」が敦賀短縮だけでほぼ丸々残ったこと。正直、米原止まりのしらさぎは東京方面への東海道新幹線接続列車の意味合いが強く、北陸新幹線敦賀延伸でその必要性が薄れること、残る米原~敦賀間は所要時間30分程度、走行距離45.9kmしかなく、特急としての必要性そのものも薄れることから名古屋行きだけ残して米原行きの列車は廃止になると思っていました。しかし実際は早朝深夜の1往復が廃止(快速格下げ)になっただけで、本数そのものは現在とほぼ変わりありません。

東京方面への接続需要が激減するはずなのに、なぜJR西日本は米原止まりの「しらさぎ」を丸々残したのでしょうか?今回はその理由を考察するとともに、今後も米原止まりの「しらさぎ」が走り続けるのか考えてみました。

 

理由1 福井県や敦賀市への配慮

理由を考察する、と書いておきながら、実際はこれが一番大きな理由なのではと思います。と言うのも過去福井県は「しらさぎ」の福井乗り入れ存続を求めてJRに働きかけてた時期がありましたし、敦賀市視点で見れば実は東京直通の北陸新幹線の方が「遠回りで時間もかかる上に高い」からです。

 

以前の当ブログでも書きましたが、福井県は敦賀延伸後、福井県内の特急廃止で関西・中京方面へのアクセスが不便になることなどから、サンダーバードやしらさぎの福井乗り入れを存続させようと運動を行っていました。しかし、当然ながらJRから切り離される三セクで特急を走らせ続けるのは難しいことなどから、運動は立ち消えになっていきました。今回、敦賀~米原のしらさぎが残ったのも、過去の福井県への配慮の一環なのではと思います。

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それ以上に、延伸区間の終点ともなる敦賀市への配慮の意味合いが大きいと思います。現在の東京~敦賀間は米原乗り換えが一番近く、所要時間は最短2時間40分で大抵の列車は3時間前後、料金は1万3820円ですが、敦賀延伸後の東京~敦賀間の「かがやき」は最短3時間8分、料金1万6360円と、新幹線開業で便利になるどころか逆に所要時間も料金も増えてしまいます。普通、新幹線ができれば所要時間が短縮されて利便性が上がるものですが、敦賀市に限って言えば新幹線ができたのに逆に時間がかかるという、本末転倒な事態になります。

更に言えば越前市や周辺自治体の最寄り駅となる越前たけふ駅も東京直通の列車は7往復しか無く、早朝の「かがやき」が出た後は10時台まで列車が無いどころか昼間に5往復停車する「はくたか」では3時間40分以上かかるので、時間帯によっては敦賀~米原乗り換えの方が早く東京に着くケースもあります。つまり、敦賀市や越前市などの一部地域にとっては、東京へのアクセスは引き続き米原経由の方が早いのです。

 

そんな状態で米原止まりの「しらさぎ」を廃止して「しらさぎ」の本数を半減させれば敦賀市民や越前市民の反発を受けるのは確実。JR西日本の本音は収入の大半をJR東海に持って行かれる米原廻りよりも、北陸新幹線を使って貰いたいところでしょうが、正直言って東京直通列車が必ずしも便利とは言い難い現状では理解を得られるとは考えにくいので、今回は新幹線開業による「激変緩和」を優先した、と言ったところでしょうか。

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理由2 北陸~中京圏の需要をまだ諦めていない

金沢開業時は富山~名古屋間の所要時間は減るどころかむしろ金沢乗り換えで所要時間が延び、利便性は低下してしまいました。少なくとも富山~名古屋の公共交通に関しては乗り換えなしで所要時間は余り変わらず、それでいて格安な高速バスが主流となった感があります。

今回の敦賀開業で福井~名古屋間の所要時間はほぼ変わらないものの、金沢や富山に関しては所要時間短縮になります。更に米原で東海道新幹線に乗り換えれば富山~名古屋間は2時間35分と、高速バスに比べて1時間程度短くなりますので、以前よりは競争力が上がります。

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但し、この所要時間も敦賀と米原、2カ所での乗り換えが必要ですので、所要時間が短縮されたからと言ってJRに流れるとは限りません。その不便さをカバーできるような割引切符や企画商品を用意して需要喚起できるかが課題となりますが、JRが本気で米原止まりの「しらさぎ」を残すのであれば、そのくらいのテコ入れは必要なのではないでしょうか?

 

理由3 実は米原ルート復活の布石・・・?

まあ、これは話半分程度に見て頂きたいのですが、敦賀~新大阪間が京都府内の反対運動などで未だに着工できないことから、一部沿線自治体では米原ルート復活を求める声が出始めています。米原止まりの「しらさぎ」を残したのは、米原ルートを復活させた場合の需要予測をするため・・・というのは考えすぎでしょうか。

 

まとめ

以上、敦賀~米原間の「しらさぎ」が残った理由を考察しました。実際のところ、残した最大の理由は「敦賀市民が不便にならない為」なのだと思います。

歓迎ムード一色にはなっていますが、敦賀市的には「新幹線ができても東京は近くならない」と言う水を差しかねない事実があり、一見すると短距離で無駄と思われかねない「米原しらさぎ」を残したのも、敦賀市や福井県に対するJR西日本の配慮なのかなと思います。

 

では、敦賀〜米原間の「しらさぎ」は今後も残り続けるのでしょうか?恐らくですが、今のままではいずれ減便・消滅する可能性が高いと思います。

「敦賀市的には米原廻りの方が早い」と言っても、敦賀市の人口自体が6万人強と多くは無く、周辺の南越前町や美浜町を含めても8万人程度。越前たけふ駅周辺の自治体である越前市や越前町、池田町の人口を合わせても、合計人口18万人程度の需要でしかありません。決して小さい需要ではありませんが、1時間ヘッドで特急を維持するほどの需要でないのも事実。利用率が悪ければいずれ本数削減の憂き目に遭うでしょう。

更に「しらさぎ」に使用されている681形電車も1995年~98年製と四半世紀以上経っていること、その中には北越急行直通の「はくたか」で160km/h運転を行っていた車両も含まれていて、高速走行による老朽化が進んでいると思われることからも、いずれ車両の置き換えが必要になる時が来ると思われます。

 

果たして取り替え時期になったときに、新車を製造して置換えるほどの需要が米原止まりの「しらさぎ」にあるのか。数年後にはその結論が出ると思われますが、敦賀延伸後の「しらさぎ」が抱える東京方面への接続需要を考えると、その前途は明るいとは言えません。

だからこそ北陸~中京方面の需要拡大が「しらさぎ」存続のカギとなります。ダイヤ改正以降、JR西日本が名古屋方面の企画切符や割引切符をどれだけ充実させるかで、需要取り込みの本気度と「しらさぎ」の将来が見えてくるのではないでしょうか?