8月8日、JR東海は10月31日をもって東海道新幹線「のぞみ」「ひかり」での車内ワゴン販売を終了すると発表しました。代替措置としてグリーン車の乗客向けにモバイル端末から飲み物や軽食等を注文できる「東海道新幹線モバイルオーダーサービス」を開始するほか、ホーム上に特に人気の高いドリップコーヒーやアイスクリームの自動販売機を設置するとしています。
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000042867.pdf
販売終了の理由としては
1.駅周辺店舗の充実による飲食の車内持ち込みの増加
2.静かな車内環境を求める意見
3.将来にわたる労働力不足
の3つであり、以前のJR東日本の車内販売縮小やJR在来線特急での車内販売終了の時と違い、単なる売り上げ不振だけが理由ではなさそうです。特に3つめの労働力不足に関しては、車内販売に限らず数多くの職種で抱える問題であり、一部の鉄道会社やバス会社では運転手不足を理由にした減便が相次ぐほど。人員不足が深刻化してどうしようもなくなる前に、先手を打って辞めることにした、という印象です。
↓車内販売については当ブログの過去記事もご覧下さい。
こちらの記事では車内販売終了の理由をもう少し詳しく解説しています。それによると16両編成の東海道新幹線では車内販売が一巡するのに時間がかかり、とてもじゃないが手が回らないこと、多客期で自由席の通路に立ち客がいるとワゴンの通行すら困難で車内販売自体を打ち切ることが多々あり、車内販売サービスの実施自体が厳しい状況だったようです。
加えて車内販売担当だったパーサーを本来の業務である案内や保安業務に廻すことで、車掌2名・パーサー2名の4名業務を確実なものにして安全・安心につなげるという狙いもあるようです。車内販売の終了自体は残念ですが、旅客サービスの基本である安全・安心を最優先にするのはJR東海らしい経営判断ですし、一時的なサービス低下を覚悟の上で、従業員の負担軽減を優先するJR東海の判断自体は支持したいと思います。
車内販売復活の条件とは?
さて、そうは言いつつもやはり人情としては車内販売はあった方が便利ですし、買い物をする時間も無く列車に飛び乗った場合、何かしら飲食物を調達できる手段があると嬉しいもの。ここからは労働力問題を解決した上で、東海道新幹線の車内販売を復活させる方法を勝手に考えていきたいと思います。まあ、一個人の素人考えですので、過度な期待はしないで下さい。
まず、東海道新幹線の車内販売が困難になった理由を整理すると
1.車内販売に廻す人員の不足
2.車両数・乗客が多すぎる故にサービスの提供が困難
3.駅ナカやホームの物販充実による収益性低下
の3つが挙げられます。3の理由に関しては一度脇に置いておくとして、車内販売復活のハードルとなるのはやはり人員の問題と、サービス提供のやり方でしょう。
まず従来通りの「人がワゴンを押して販売・金銭の収受・商品の受け渡しを行う」というやり方は、1と2の問題をクリアしない限り到底無理だと思います。4年前の私のブログでも車内販売問題を取り上げていますが、この時は簡素化を進めるJR東日本と充実化を図るJR東海を対比して書いており、少なくともこの時点ではJR東海は車内販売に積極的な姿勢だった事を考えると、今回の車内販売終了も積極的に無くしたいわけではなかったと思います。
となると、車内販売復活の条件は「人的な手間を極力省きつつ、公平にサービスを提供する事ができ、混雑時でも車内販売を続けられる」ことが前提となります。
ちなみに、この時の記事では簡素化一辺倒のJR東日本を批判的に、JR東海や西日本を好意的に書いていますが、その後JR東日本はドリップコーヒーやアイスクリームの販売を復活させるなど、車内販売のサービス内容を見直しています。結果的に車内販売を取りやめるJR東海とサービス格差が逆転することになり、正直この展開は予想外でした。
・・・JR東日本さん、あの時はやる気が無いとか顧客ニーズを汲み取らないとか散々言って済みませんでした。
話がそれてしまいましたが、上記の条件を満たせそうな方法を3つほど考えてみました。
復活の方法1.車内に売店を設置
これは90年代に100系に設置されていたカフェテリアや300系に設置されていたサービスコーナーを復活させると言うもの。もっと言えば駅ナカやホームの売店を新幹線車内に持ってくるようなものです。この手法なら混雑時も営業断念と言う事態は避けられますし、ワゴン販売よりは販売員の負担も軽減できます。また、グリーン車向けのモバイルオーダーの準備基地も兼ねることができますから、ワゴン販売の代替としては有力なように思えます。
しかし、現実問題としてこれは難しいと思います。新たにサービスコーナーを設置する工事が必要になりますし、労働力不足問題の根本的解決にはなりません。また半数以上の列車が山陽新幹線区間に直通する事を考えると、JR西日本との調整や新大阪駅でのクルー引き継ぎ問題なども発生します。
何より300系のサービスコーナー自体が2003年10月に利用率低下とワゴンサービスの充実を理由に廃止された事を考えると、同じ轍を踏みかねない売店の再設置はJR東海は考えないでしょう。
方法2.車内に自動販売機を設置
先程の売店に比べれば、こっちの方がスペースも取らず、人手不足問題も解決しつつ車内で飲食物を販売できる理想的な解決法に思えます。ホームにドリップコーヒーやアイスの自販機を設置するならいっそ車内に設置した方が便利じゃないか、と言う発想です。考えてみれば長距離フェリーの中には売店やレストランを廃止した代わりに冷凍食品やおつまみ・お菓子などの自販機を充実させたケースもありますから、この手法を新幹線にも応用すれば車内の飲食物調達問題も一気に解決できそうです。
しかし、残念ながらこの方法も採用の可能性は低そうです。かつては車内に飲料の自販機を設置した列車が多く存在していましたし、東海道新幹線も一時期設置されていた時期がありましたが、現在はその多くが営業を取りやめています。利用低迷に加え、列車用の自販機は特別仕様で一般的なペットボトル飲料を詰めない、自販機のサイズが小さく、商品のラインナップが限られるなどの問題があったからです。採算性が取れないと、自販機の更新時期が来たのを機に辞めてしまうと言うケースが多いようで、今更大金かけて自販機を設置とはならなさそうです。
ただ、ドリップコーヒーについては可能性が残っています。ビジネスホテルのロビーやオフィスなどに設置されているドリップコーヒーの無人販売機。これならさほどスペースも取らず、設置コストも抑えられそうですが、これを鉄道車両用に応用するのはどうでしょうか?JR独自のブレンドを売りにすれば車内で買える希少性も相まって多少高くてもバカ売れするような気がしますが・・・
方法3.AI搭載の自走式販売ワゴンを開発
個人的には人手不足を気にせず、設置スペースに頭を悩まさなくても車内販売を復活させる方法はこれくらいしかないんじゃないかと思います。
最近ファミレスなどで配膳ロボットが急速に普及していますが、これを応用して自販機的な機能をつけて車内を巡回させれば結構面白いんじゃないかと思います。通路を通れる大きさとなると搭載スペースの問題があるので扱える商品は限られますが、ロボットなら人の手配を気にせず何台でも置けますから、決済はキャッシュレスのみにしてコーヒー販売用、アイス販売用、お菓子販売用などと役割を分担させて車内を回せばある程度多様なニーズにも対応できるかも知れません。
ただし、狭い車内で販売ロボ同士、または販売ロボと乗客が安全にすれ違いできるのかと言う不安はありますし、そもそも列車内で安全に動ける移動式の自動販売ロボット自体実用化できるのかと言う問題があります。仮に実用化できたとしても、コスト面や需要面で割に合うかと言う問題もありますので、こればかりは鉄道会社やメーカーが開発に乗り出すかどうか・・・
まとめ
以上、東海道新幹線で車内販売が復活する可能性について考察しました。労働力不足と言う根本的な問題がある以上、従来通りのワゴンサービスでの復活は難しいと思われるので、比較的低コストで導入できそうなドリップコーヒーを除けば車内販売復活は技術の進歩を待つしかなさそうです。自走式ワゴン販売にしても技術的問題や導入・運用コストの問題、採算性の問題などが山積しているので実用化されたとしても数年単位の月日が必要になると思います。
もし東海道新幹線の車内販売が復活する可能性があるとすれば、車内販売復活を求める乗客の声が大きくなったときでしょう。JR東日本の車内販売でコーヒーやアイスが復活したのも人気商品だったことに加え、乗客からの要望が大きかったから。車内販売単独で採算が取れるのが一番ですが、顧客満足度向上に繋がって新幹線利用の動機付けになるのであれば、多少不採算でもJRにとってメリットがありますから復活を検討する可能性が上がりますし、自販機設置や自走式販売機の開発の後押しになると思います。
結局のところ、車内販売が消えるのは利用する人が減って採算性や人員不足と言った問題に目をつぶってまで残す必然性が薄れたから。JR東海に車内販売復活を決断させるには、これらの問題を解決する方法を模索するのに加え、「必要なサービスだから残して欲しい」と訴える事が必要では無いかと思います。単に寂しいとか残してくれと言うだけで無く、この商品は車内販売が必要だとか、どういう時に利用する、こうすれば負担が減るんじゃ無いかと言った提案や要望を添えたり、車内販売にまつわるエピソードや想いなどをぶつけてJRの心を動かすことが、車内販売復活への第一歩になるのではないでしょうか?