〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

北陸新幹線が東海道新幹線の「対抗勢力」になる可能性

長年ニコニコ動画やYouTubeのサブチャンネルの方で投稿していた「東海道交通戦争」ですが、遂に先日完結することができました。皆様本当にありがとうございました!

 


東海道交通戦争・最終回「陸と空の未来予想図」

 

 

さて、今回からしばらく「東海道交通戦争」の動画の補足説明などをしていきたいと思います。今回は動画の終盤で触れた「北陸新幹線が割引運賃やスピードアップで東海道新幹線に勝負を仕掛ける可能性」についてもう少し掘り下げてみたいと思います。

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スピード面で勝負を仕掛ける可能性

まずスピード面からですが、結論から言うと絶対にのぞみには敵いません。

「藪から棒に何を」と思われるかもしれませんが、北陸新幹線の東京~新大阪間の距離は700km以上になるのが確実であり、実キロベースで515kmの東海道新幹線と比較して200kmもの距離の差をスピードで埋めるのは不可能なためです。

加えて北陸新幹線(と言うよりJR東日本の新幹線全てに言える話ですが)は東京~大宮間の最高速度が騒音問題などの関係で110km/hに制限されており、この区間で約25分前後かかってしまう事も時間短縮の足かせとなっています。

現在、この区間の最高速度を130km/hに引き上げるべく工事が進められていますが、引き上げられるのは一部区間で、完成後も短縮されるのは1分程度と劇的な速度向上にはならない見込みです。

trafficnews.jp

 

さらに北陸新幹線と共用される上越新幹線の大宮~新潟間で最高速度を275km/hに引き上げる工事が着工される予定で、2022年度末に完成すれば北陸新幹線も2分程時間短縮の恩恵を受ける事になりますが、それでも時間短縮効果はわずかであり、短期的には北陸新幹線の所要時間が劇的に改善される見込みはありません。

trafficnews.jp

 

では実際のところ、北陸新幹線経由での東京~新大阪間の所要時間はどのくらいでしょうか。石川県の北陸新幹線特集ページによると、2022年度末の金沢~敦賀間開業時には金沢~新大阪間は現在の2時間半から2時間程度に短縮される見込みです。東京~金沢間の最速列車が2時間28分ですから、合わせて約4時間半程度になります。しかしこの所要時間では「のぞみ」はおろか「こだま」にすら負ける上に乗り換えが必要になるので全く勝負になりません。東海道新幹線に万が一の事が起きた時の代替交通機関としてはある程度機能するでしょうが、対抗勢力にはまずなり得ないです。

www.pref.ishikawa.jp

 

北陸新幹線が東海道新幹線の対抗勢力になり得るとすれば、新大阪まで全通した時でしょう。全通した時の金沢~新大阪間は1時間20分程度にまで短縮される見込みであり、仮に東京~新大阪間を直通する列車を設定したとすれば先の東京~高崎間の時間短縮と合わせ、3時間45分程度で走破することができます。この距離なら少なくとも「こだま」には勝てますし、大宮~新大阪間で見れば約3時間20分程度になり、東京乗り換えが必要になる東海道新幹線周りと互角になります(リニアを使えばもっと速い!というツッコミはこの際目をつぶって下さい)

 

さらに北陸新幹線には「スピードアップの余力がある」事も見逃せません。現在の北陸新幹線の最高速度は260km/hですが、これはいわゆる「整備新幹線」の設計最高速度であり、東北新幹線の盛岡以北や北海道新幹線、九州新幹線も最高速度は260km/hに統一されています。

とは言っても実際には320km/h運転にも耐えられるよう設計されているらしく、騒音や法律、新幹線設備のリース料の問題(整備新幹線は鉄道・運輸機構が施設を保有し、JRに貸し付けている)さえ解決できれば最高速度の引き上げは不可能ではありません。実際、JR東日本も盛岡~新青森間で最高速度を320km/hに引き上げるべく、200億円を投じてこの区間の防音対策工事を行い、5年後をめどに最高速度引き上げを実現するとしています。

toyokeizai.net

www.asahi.com

 

もし同じことを北陸新幹線で行うとすれば、東京~新大阪間の所要時間はさらに縮まります。仮に大宮~新大阪間の最高速度を320km/hに引き上げれば、碓氷峠など減速が必要な区間が考あるものの、今の計画よりも30~40分程度は短縮できるのではないかと思います。

3時間10分台なら「ひかり」と十分勝負になりますし、大宮~新大阪なら北陸新幹線が優位。さらに同じ都心でも埼京線で大宮に出る事が可能な池袋や新宿あたりなら、乗り換え時間を考慮しても東海道新幹線とそう大差はないので、多少なりともシェアは奪えるのではないでしょうか。

 

・・・とは言え、どう逆立ちしてもリニアの所要時間には絶対に敵いませんし、スピードアップにしても投資に見合った効果を得られるかどうかという問題があるので、最後はJR東日本と西日本の経営判断次第、と言う事になります。そもそも、今の段階では新大阪までの着工もまだ決まってませんし、完成時期もまだ不明ですが・・・

 

割引運賃で勝負を仕掛ける可能性

スピード云々は時間とお金がかかりますが、割引運賃なら今からでも手っ取り早く勝負を仕掛ける事が可能です。

現在、東京〜新大阪間を金沢経由で移動した場合の料金は、運賃10150円、東京〜金沢間の指定席特急料金6980円、金沢〜新大阪間の指定席特急料金は新幹線乗り継ぎ割引が適用されて1550円、合計18680円になります。東海道新幹線経由が「のぞみ」が14650円、それ以外が14340円なのに比べると高いのですが、その差は4000円強と思ったほど大きな差ではありません。

仮に価格面で勝負を仕掛けるとなると、時間的なハンデを覆すには多少安い程度では勝負になりません。少なくとも10000円程度でないとインパクトは与えられないでしょう。しかしそうなると東京〜金沢間の料金14320円との整合性の問題も出てきますし、先に挙げた所要時間の問題もあります。第一、今の北陸新幹線は東京〜北陸の需要だけで十分なので、JR東日本と西日本に敢えて安売りを仕掛ける理由はありません。

 

仕掛けるとすれば最低でも敦賀開業後。と言うのも対関東では福井県内からの需要がプラスされる上に、関西〜北陸の需要を満たす為に「つるぎ」の敦賀延長が見込まれ、座席供給量の増加や増発が予想される為です。供給量に合うだけの需要が増えれば問題ないですが、そうでない場合、空席を埋める為に首都圏〜関西圏の需要に手を伸ばす可能性は十分にあると思います。

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その場合、ただ単に格安切符を売るだけでなく、新幹線開業前に設定されていた首都圏の在来線も乗り放題な「首都圏フリー切符」的な商品を売れば、成功の可能性は高まります。

首都圏向けにはJR東日本の首都圏の在来線フリー切符付き、関西圏向けにはJR西日本の京阪神の在来線フリー切符を付け、価格も往復25000円〜26000円程度で販売すれば、割引率が低くてもお得感は演出でき、中高年層を中心に一定の支持は得られるのではないでしょうか。

但し、これもJR東日本と西日本の利害が一致し、その気になればの話。ですが在来線乗り放題付きのフリー切符は豊富な在来線網を持つ両社だからできる商品ですし、JR東海にはないアドバンテージなので、スピードアップよりは可能性が高いのではと思います。

 

それ以外の分野で勝負を仕掛ける可能性

価格以外でも北陸新幹線が東海道新幹線にないもので対抗できる要素は存在します。「グランクラス」と「観光」です。

グランクラスは効率性重視の東海道新幹線では当分出現する見込みはないので、逆にグランクラスを前面に出して、お金も時間も余裕のある層をターゲットにした旅行商品を企画しても面白いのではないでしょうか。

 

また北陸新幹線の好調を支えている要素の一つが金沢を中心とした観光需要。敢えて東京〜大阪間の直行需要は狙わず、北陸内や長野県内での途中下車を認める「寄り道推奨」の企画乗車券を販売すれば、新たな需要掘り起こしや北陸新幹線沿線の観光需要創出が見込めます。

速達化・直行化の観点から考えると北陸新幹線の不利ばかりが目立ちますが、観光・レジャー要素は北陸周りの方が優位。視点を変えれば需要を掘り起こす方法はいくらでもあると思います。

 

まとめ

以上、北陸新幹線が東海道新幹線の対抗勢力になる可能性について考えてみました。遠回りの北陸新幹線が東海道新幹線に取って代わる、と言う事はまずありませんが、工夫すれば需要の一部は北陸新幹線に引っぱれるのではないかと思います。

北陸新幹線の建設理由の一つは東海道新幹線の災害時のバックアップであり、全線開通の暁には東京〜大阪通し運転の列車が設定されるかも知れません。もし通し運転の列車が設定されれば関西〜長野・北関東や関東〜小浜〜丹後半島といった新たな観光ルートを創出する可能性を秘めています。そう言う意味では北陸新幹線が一日も早く全線繋がる日が来ると良いのですが・・・

 

 

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