〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ボーイングvsエアバス、世界の航空会社はどっち派?

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世界の航空機メーカーは100席以上の機体に限るとほぼボーイングとエアバスの2社に分かれ、大半の航空会社で両社の航空機が使用されています。しかし中には「ボーイングだけ」「エアバスだけ」という会社もありますし、大型機はボーイングだけど小型機はエアバスだけ、逆に大型機はエアバスしか使ってないけど小型機はボーイングだけ、という会社もありますので、航空会社によってボーイングとエアバス、両者の機材の使い方は様々です。

昔、月刊エアライン2001年1月号でボーイングとエアバスのライバル関係を取り上げた特集がありましたが、その中に世界の航空会社がボーイング派か、エアバス派かを比較した記事がありました。この頃はまだボーイングが吸収した旧マクドネル・ダグラス機がまだ多数残っており、エアバスは当時はまだ新興メーカーと言う事もあって、古くから航空会社との関係を築いてきたボーイング優勢、と言う感じでした。あれから18年、ボーイングとエアバスの複占がすっかり定着し、機材更新サイクル的にも一回りした今、世界の航空会社での両社の勢力図はどうなっているのでしょうか?調べてみました。

ルール

今回対象にするのは保有機数50機以上の旅客航空会社ですが、国を代表するフラッグキャリアに限り30機以上を対象にします。とは言っても対象機数に満たなくてもそれに近い機数であれば有名どころの会社は対象にしている場合もありますし、逆に抜けてる会社があるかも知れませんがご容赦下さい。フェデックスなどの貨物航空会社は旅客会社に比べて機材情報が少ないので対象外にしますが、旅客航空会社が保有する貨物機は比較対象にします。

機材についてはボーイングとエアバスのみを比較対象とし、エンブラエルやスホーイなど他の会社は仮に両者の資本が入った会社でも対象外です。但し、ボーイングに吸収された旧マクドネル・ダグラス機はボーイング機、A220になった旧ボンバルディアCシリーズはエアバス機としてカウントします。機材については787やA350などの双通路機を大型機、737やA320などの単通路機を小型機として分類してそれぞれの割合を比較します。

比較する航空会社についてですが、LATAMやエアアジアのように国籍の関係で会社は別でもブランドが統一されている場合は同一会社として扱います。逆にエールフランスKLMや、カンタスとジェットスターのように資本は同一でもブランドや運営は別な場合、ヴァージングループのようにブランドは同じでも経営や資本が別の場合は別会社として扱います。

 

 なお、各航空会社の機材データについては基本的に月刊エアライン2018年11月号の特集を参考にしました↓

 

①全部ボーイング

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ダグラスが弱体化してボーイングに吸収され、エアバスが今ほど力を持っていなかった頃はボーイングだけと言う会社は珍しくありませんでした。コンチネンタル航空やKLMオランダ航空、カンタスやJALなどエアバス機は買わず吸収した旧マクドネル・ダグラス機を含めてボーイングのみと言う会社は結構ありましたが、現在ではそう多くはありません。

現在ボーイング機のみの会社で一番大きいのはは737オンリーのサウスウエスト航空。まあここは単一機材がセオリーの元祖LCCですから当然と言えますが、その737だけで735機保有は圧巻です。他にも737オンリーで機材の多いLCCはアイルランドのライアンエアーやブラジルのGOL、UAEのフライドバイが挙げられます。この他はカナダのウエストジェットは767と737の2機種体制ですがボーイングだけ、ノルウェージャン・エアシャトルも機材は787と737の2機種を保有しておりボーイングだけの構成ですが、将来的にはA321neoも導入予定ですので、いずれこのグループからは外れます。

次にフルサービスキャリアでボーイングオンリーの会社ですが、メキシコのアエロメヒコ、エルアル・イスラエル航空、ロイヤル・エア・モロッコ、アイスランド航空、LOTポーランド航空、ケニア航空、厦門航空、山東航空の8社。このうちエルアルはアメリカとの強固な同盟関係もあってその歴史の殆どでアメリカ製の旅客機を使い続け、特にジェット時代になってからは1機だけMD-11をリースで使った以外は全てボーイング機という筋金入りのボーイング派です。また、エアバスのおひざ元である欧州でもボーイングのみのフラッグキャリアが2社いるのは特筆されますが、昔に比べるとボーイングだけ、という会社はずいぶん減ったなと言う印象です。

 

②全部エアバス

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昔はエアバスのみ、という会社はいませんでしたが、旧ダグラス機をメインに使用していた会社や欧州の航空会社を中心にエアバスに鞍替えするケースが目立っています。また、近年ではLCCがエアバスA320シリーズを採用する例が目立っており、単一機材に統一というLCCのビジネスモデルも相まってエアバスのみと言う会社は実は結構多いんです。

 

まずフルサービスキャリアでエアバスだけと言う会社ですが、イベリア航空、フィンエアー、アイルランドのエアリンガス、ブリュッセル航空、TAPポルトガル航空、南アフリカ航空、スリランカ航空、天津航空、吉祥航空、四川航空の10社。将来的には737NGをA320neoに置き換える予定のスカンジナビア航空もこのグループに入る予定です。また、中国でエアバスのみの会社4社のうち3社は海南航空グループに属していますが、海南本体はボーイング寄りな機材構成なのが面白いところです。

次にLCCですが、これは本当に多いです。まずボーイングのおひざ元アメリカではジェットブルー、スピリット航空、フロンティア航空の3社がA320シリーズだけ。かなりアメリカ市場に食い込んできています。さらにアジアLCCの雄、エアアジアもA330とA320のエアバス機のみでボーイング機は創業期に737を使用しただけ。また、イギリスのイージージェットも創業後しばらくは737シリーズを使用していましたが、途中でエアバスに鞍替えして現在はA320シリーズのみの運航です。

この他LCCでエアバス機のみの会社はメキシコのボラリス、インテルジェット(SSJ100も購入してます)、スペインのブエリング航空、ハンガリーのウィズエアー、インドのIndiGo、フィリピンのセブパシフィック航空、ベトナムのべトジェットエア中国の春秋航空、北京首都航空が挙げられ、LCCでエアバス機だけという会社は14社とボーイングを引き離しています。ちなみに、ルフトハンザ傘下のユーロウィングスも機材の殆どはエアバス機なのですが、なぜか1機だけ737-800を運航しているため、後述の⑥のグループに入ります。

 

③大型機ボーイング、小型機エアバス

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「そんな奇麗に分かれるもんなの?」と思われるかもしれませんが、意外や意外、このタイプの会社は結構あるんです。代表的なのがカンタス系列のLCC,ジェットスター。かつては短距離はA320、中長距離はA330とエアバスオンリーの構成でしたが、近年中長距離機をB787に置き換えたため、このグループになりました。また、ニュージーランド航空もかつてはボーイング機のみの構成でしたが、小型機をA320に置き換える一方、長距離路線は引き続きボーイング製の777や787を購入したため、奇麗に分かれたという経緯があります。この他にもエアインディアとパキスタン航空がこのグループに該当します。

④大型機エアバス、小型機ボーイング

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では逆パターンはどうでしょうか?実は意外とこのグループに該当する会社も何社か存在するんです。小型機は長年慣れ親しんで互換性もある737を使い、大型機はエアバスに置き換える、というタイプの会社が多いですね。

代表的なのはマレーシア航空。以前は大型機、小型機共にボーイング製の割合が多かったのですが、大型機に関してはエアバス機の比率が増えてきたところに、2014年にボーイング777の連続事故(もっとも、これはボーイングの責任ではないですが)が発生し、2016年までに全機売却。結果、大型機はエアバス、小型機はボーイングという機材構成になりました。また、インドネシアのLCC、ライオンエアも元々は737オンリーの機材構成でしたが、中距離路線用にA330を購入した結果、このグループになりました。この他、アルゼンチン航空がこのグループに該当します。

 

⑤大型機ボーイング、小型機両方

 

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このグループの代表格はユナイテッド航空でしょう。元々ユナイテッドはボーイングとは同根企業だったうえに、合併相手だったコンチネンタル航空もボーイングのみの機材構成とボーイング寄りな会社でしたが、今でもエアバス機はA320シリーズのみでボーイング機が主力です。ただし、そのユナイテッドもA350を45機発注していますので、将来的には⑨のグループに移行する見込みです。

この他ロシア航空と30機以下ではありますがウズベキスタン航空も該当しますが、実はこのグループ、該当するのはこの3社しかありません。大型機はボーイング、エアバスともに複数機種あるのに対し、小型機に関してはボーイングは737のみ(生産中止になった機種も含めると717、757もあり)、エアバスもA220が加わるまではA320のみとバリエーションが少なく、航空会社も機材統一の観点からどちらか片方に集約する傾向にありますので、今後もあまり出てこないグループと言えます。ちなみに、ANAも少し前まではこのグループでしたが、空飛ぶサンパチ君A380を導入してエアバスの大型機も運航するようになったため、後述する⑨のグループに移動しました。

 

⑥大型機エアバス、小型機両方

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現在はスカンジナビア航空がこのグループに該当しますが、前述の通り、将来的にはエアバス機に統一される予定で②のグループに移行します。あとは深圳航空が大型機はA330型4機だけですが、一応このグループに該当します。また、767が退役して大型機はA330のみになったハワイアン航空も今はこのグループですが、将来的にA330は787に置き換えられる予定ですので、⑤のグループに移行します。ちなみにハワイアン航空はボーイングの小型機は717のみという、レアパターンな航空会社です。

こちらのグループも⑤のグループと同じ理由で今後出てくることはあまりないでしょう。

 

⑦大型機両方、小型機ボーイング

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⑤や⑥とは打って変わり、このグループは該当する会社が結構出て来ます。つい最近A350が納入されたJALも①のグループからこちらのグループに移行しました。

このグループの代表格はKLMオランダ航空。ヨーロッパの航空会社の中では珍しく、伝統的にボーイングと親密な航空会社ですが、エールフランスとの統合後はA330がフリートに加わっています。と言ってもA330は5機だけであり、ボーイング優位の機材構成に変わりはありません。また、スペインのチャーター会社、エアヨーロッパもこのグループに該当します。

また、中東ではオマーンエア、アフリカではエチオピア航空、アジアではガルーダ・インドネシア航空やチャイナエアライン、海南航空、上海航空が該当します。オセアニアではカンタス、ヴァージン・オーストラリアの2大エアラインが機材構成は違えど仲良くこのグループに入りました(会社自体は仲良くはないですが)

 

しかし、このグループは将来的には数を減らすかもしれません。737MAXの連続事故に伴う運航停止でA320に切り替える動きが出ているためです。事故の当事者の一人であるエチオピア航空は737MAXの発注をキャンセルしましたし、ガルーダも発注取り消し。チャイナエアラインも次期小型ジェット機としてA321neoを発注しましたので、将来的には⑧のグループに移る事が見込まれます。ボーイングにとって737MAXを諦められないのはこういった事情もあるんです。

 

⑧大型機両方、小型機エアバス

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実はこのグループに該当する航空会社は今までのパターン以上に多いんです。欧州の有力キャリアが小型機をA320に統一したり、以前は737を使用していた会社が置き換えを機にA320に鞍替えしたりするケースが多い為です。これも単通路機がエアバス優位という今の航空機情勢を示していると言えます。

 

欧州ではルフトハンザ、エールフランス、ブリティッシュエアウェイズといった三大キャリアが揃ってこのグループ。大型機に関してはルフトハンザはエアバス優位、エールフランスは中間、BAはボーイング優位と差はありますが、小型機はA320に統一している点は共通です。この他欧州ではルフトハンザグループのオーストリア航空とスイスインターナショナルエアラインズ、その他ではアリタリア航空の合計6社が該当します。

中東でもこのパターンの会社は多く、エティハド航空とカタール航空、サウジアラビア航空、オマーンエア、クウェート航空、ガルフエアの6社が該当します。アジアではアシアナ航空、エバー航空、フィリピン航空、ベトナム航空が該当。また、子会社運行分も含めるとタイ国際航空とキャセイパシフィック航空もこのグループです。

また、南米では二大航空グループのLATAMとアビアンカもこのグループ。LATAMの前身のうちブラジルのTAMはエアバス寄り、チリのLANはボーイング寄りでしたが、近年はLANもエアバス機の比率が増えていました。こうしてみると小型機をA320シリーズに統一する会社はかなり増えて来ている事が分かりますね。

 

⑨大型機も小型機もごちゃ混ぜ

このグループは保有機数が多くなればなるほど該当する会社が増えてきます。数百機にもなるとどちらかのメーカーで統一してもスケールメリットは小さく、逆に両方の機種を保有して両者を競わせた方が値引きやリスクヘッジの観点から有利な為です。

実際、アメリカン航空とデルタ航空中国国際航空、南方航空、東方航空とアメリカの三大メガキャリアのうち2社と中国の三大メガキャリアは両方の機種を保有してますし、基本大型機のみですがエミレーツ航空とシンガポール航空も両方の機種を導入しています。ちなみにエミレーツは2機種に絞られていますが、その2機種がA380と777。絞り方おかしいでしょ・・・

その他アエロフロートやエジプト航空ターキッシュエアラインズや大韓航空もこのグループ。また、大型機のみですがヴァージンアトランティック航空、小型機のみですがアラスカ航空とS7航空もこのグループに該当します。また、以前は⑤のグループだったANAもA380導入で大型機もボーイング・エアバス両方の機種を保有する事になりました。

 

⑩ボーイング?エアバス?両方ないわ!

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冷戦時代はこのパターンは珍しくはありませんでした。ソ連を中心とした東側諸国は西側の機体を買わないのが当たり前だったからです。

しかし冷戦崩壊後はアエロフロートを含めた旧東側のキャリアはこぞって西側の機体を買うようになり、このグループの航空会社はほとんどいなくなりました。例外はスカイウエストなど元々小型機のみの運航なアメリカの大手地域航空会社くらいです。

 

しかし、「フラッグキャリアで30機以上」と言う縛りを外せば一社だけ、ボーイングもエアバスも使ったことのない航空会社が存在します。北朝鮮の高麗航空です。政治的な理由で西側の新造機が買えない上に、イラン航空のように中古機購入のツテもない高麗航空は事実上ロシア製の機体しか調達できません。そのロシア製の機体も稼働しているのは比較的新しい4機だけで、後は野ざらしらしいので西側の機体を買えたとしてもまともに飛ばせないかも知れませんが・・・

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?こうして見ると一口にボーイング・エアバスと言っても、その機材構成は航空会社によってさまざまなパターンがあるのが分かります。どちらか片方だけ、と言うケースは少ないですが、航空会社の機材戦略や路線特性、メーカーとの関係や時には外交関係も絡んで機材構成が分かれているのが分かりますね。

また、エアバス機のみ保有と言う会社や以前よりエアバス機の比率が増えている会社が多い事も分かるのではないでしょうか。特に単通路機ではエアバスの方が優勢になっていますので、小型機はA320シリーズに統一、という会社が欧州を中心に増えている事も伺えます。逆に737MAXで躓いたボーイングはただでさえ劣勢の単通路機市場で更に不利になってしまいましたので、是が非でも早期に運航再開させなければエアバスとの差は開くばかりです。

とは言え、ボーイングも787などの大型機ではエアバスよりも優位ですし、長年の実績や顧客との信頼関係でまだまだ多くのユーザーがいますので、今のところはエアバスが若干優勢だがまだまだ互角、と言ったところでしょうか。こういった観点からも航空会社の機材構成を見るのも面白いと思いますよ。

 

 

 

 

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元日本政府専用機、29億円で売り出し中。これってお買い得なの?

今年3月に退役し、6月に離日した政府専用機2機のうち1機がアメリカの中古市場で売りに出されました。航空機販売サイト「コントローラー」によると、販売価格は2800万ドル(29億6000万円)で、売り文句は「世界で最も飛行時間が短い747-400の一つ。新品同様に見える」で、相当状態のいい掘り出し物として扱われているようです。実際、この機体の飛行時間は1万6332時間、飛行回数は1万3569回と経年機の割には少ない飛行時間です。

 

www.aviationwire.jp

 

政府専用機は3月の退役後、産業廃棄物のリサイクルを手掛けるエコネコルという会社に2機13億円(推定値)で売却され、2号機は6月17日に、1号機は27日に日本を離れました。今回売りに出されたのは1号機の方の様で、日本のみならず、アメリカでも「天皇陛下や日本の首相が使ってきた機体が売りに出されている」と報じています。機内は政府専用機時代の会議室やシャワールームなどがそのまま残されているようで、VIP機としてもそのまま転用できそうです。

 

www.aviationwire.jp

 

trafficnews.jp

 

さて、この元政府専用機の売り出し価格、妥当と言えるのでしょうか?「コントローラー」には他にもう一機、747-400が売りに出されていますが、こちらは1992年製で飛行時間は6万6千時間と元政府専用機の4倍以上。お値段は1600万ドルと元政府専用機の半分強であり、この機体だけで比較すると確かに「お買い得」と言えそうです。

https://www.controller.com/listings/aircraft/for-sale/list/category/3/jet-aircraft/manufacturer/boeing/model/747-400

 

では他の飛行機はどうでしょうか。こちらのサイトには何と最新のボーイング787も売りに出されています。787-8型5機、-9型1機が掲載されていますが、うち値段が付いているのは-8型一機のみ。2017年製で飛行時間はわずか3時間、ビジネス18席、エコノミー244席の合計262席仕様でお値段は1億2200万ドル。カタログ価格は2億4600万ドルですから、年式や飛行時間を考えるともの凄いお買い得品と言えます。そう考えると元政府専用機もかすんで見えるなあ・・・

https://www.controller.com/listings/aircraft/for-sale/list/category/3/jet-aircraft/manufacturer/boeing/model/787-8

 

続いて売れ筋機のボーイング737-800型。こちらは2機が売りに出されており、1機は2018年製で飛行時間20時間のこれまた新品同様の機材。お値段も4800万ドルとカタログ価格9600万ドルと比較すると半値で買えます。もう1機は2010年製で飛行時間2万6500時間、お値段は2900万ドルと年式相応の値段と言えます。

https://www.controller.com/listings/aircraft/for-sale/list/category/3/jet-aircraft/manufacturer/boeing/model/737-800

 

 

ではエアバス機はどうでしょうか。ボーイングに比べると機数は少なく、半分近くがVIP仕様のA320シリーズでした。値段も「要問合せ」が多いです。そんな中、A380が1機売りに出されているのを発見・・・例の元シンガポール航空機でしょうか。

値段が付いている飛行機の中でいくつか特徴的な機体をピックアップしたいと思います。まずは1997年製のA340、飛行時間46000時間の機体がわずか900万ドルで売られていました。中古市場でも不人気機種となったA340ですが、中古価格からも不人気ぶりが伺えます。一方、2002年製のA330も売りに出されていて、こちらは飛行時間は不明ですが2700万ドルで売りに出されていました。こちらの方が新しいとはいえ、A340の3倍の値段・・・

そしてもう一機、1998年製のA321も販売されていますが、こちらは飛行時間約6万6千時間で950万ドル。先ほどのA340よりも小型な上に飛行時間も2万時間多いのにA340よりも高い・・・どれだけ不人気なんだA340。

 

https://www.controller.com/listings/aircraft/for-sale/list/category/3/jet-aircraft/manufacturer/airbus

 

こうして見ると1991年製の元政府専用機の2800万ドルという値段はあまりお買い得とは言えないのではないかと思います。いくら飛行時間が少ないとはいえ、これに近い金額を出せば10年以上も新しいA330や2010年製の737-800が手に入るのですから、航空会社としてはこっちを買った方がいいに決まってます。VIP仕様の旅客機を買うにしても、これに近い金額で中古のA318やBBJが手に入りますし、この値段は単純に「飛行機そのものの価値」だけで決められているわけではないような気がします。

恐らく、この2800万ドルと言う販売価格は本来の金額プラス「元日本の政府専用機」という経歴と内装分のプレミアムが付けられているのではないかと思います。そうでなければいくら状態がいいとはいえ、これだけの金額は付けられないでしょう。いいとこ2000万ドルだと思います。さて、果たしてこの元政府専用機、一体誰の手に渡る事になるのでしょうか・・・

 

↓世界中の政府専用機を紹介した本。大型旅客機を新造機で買う国は実はそんなに多くはなく、大抵はもっと小型だったり中古機だったり航空会社の機体を借り上げたりしています。そう考えると日本ってまだまだ余裕があるのかな・・・?

 

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YouTubeメインチャンネルについてのご案内

本日私のYouTubeのメインチャンネルの収益化が復活しました。

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2月に収益化を止められてから半年、この間2度再審査申請を行いましたが却下され、アップした過去動画の大半を削除せざるを得ませんでした。映像の比率を増やした修正動画をアップし、サムネも手を加えたものに差し替えて3度目の再審査申請を8月12日に行いましたが、わずか2日でスピード承認されました。

この間、視聴者の皆様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたが、励ましのコメントやアドバイスが支えになり、何とか復活する事が出来ました。改めて感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

嬉しいは嬉しいのですが、いつまた収益化がストップするかと思うと手放しでは喜べないのが正直なところです。結局何がダメだったのか、収益化復活の決め手が何だったのかは分からずじまいでモヤモヤした気分でもあります。Twitterを見てても何の対策もせず、無効になった時のまま再申請して通ったというケースもあるようなので、AIの判定ちょっといい加減過ぎじゃない?という気もしますが、とりあえずは気持ちを切り替えて新作や修正版をアップして行きたいなと思います。

 

今後についてですが、遅れに遅れていた「東急の空への夢」第五回を最優先で作ります。また、再アップですが9月1日にJALのA350に乗りに行く際に東京や福岡など素材の撮影もやりますので、東急の空への夢などはその素材の準備ができた後、9月以降の再アップを予定しています。当面は素材の都合が付きやすいANA貧乏くじ伝説やLCC三部作を優先して再アップする予定です。

また、以前から触れていた新シリーズ「交通機関の栄枯盛衰」ですが、第一回の原稿は出来ました。ただし、こちらは動画の構成を変える予定ですので、公開できるのはもうしばらく後になりそうです。そのタイミングでメインとサブのチャンネル名も変えるつもりですので、よろしくお願いします。

 

色んな意味でYouTubeに振り回された半年間でしたが、YouTubeに依存しすぎていた自分の立ち位置を見直すきっかけになりました。幸い、ブログの方もpv数が伸びてきてメインチャンネルの穴を埋めるには至らないものの、気持ちの面でも収入の面でも支えになっています。今までおまたせした分、これからは動画制作に力を入れていきますのでこれからもよろしくお願いします!

 

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両備グループバス廃止問題のその後 ~動き出した岡山市の公共交通再編~

 

・バス廃止問題から1年半、あれからどうなった?

昨年の2月に岡山県などで路線バスや鉄道などを運航する両備グループが、八晃運輸の「めぐりん」益野線参入に反発して赤字バス路線31路線の廃止申請を出した問題から1年半が経ちました。当ブログでもこの問題を3回取り上げましたが、2018年4月以降、この問題を取り上げることはありませんでした。今回はこの問題を継続して取り上げなかった自らへの自戒も込めつつ、その後の両備グループバス廃止問題を取り上げて、改めてこの問題を考えていきたいと思います。

 

↓以前の記事はこちらをご覧下さい。

www.meihokuriku-alps.com

 

www.meihokuriku-alps.com

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 

・法定協議会の議論で動き出した岡山市のバス再編

まずは2018年4月以降のこの問題の進展について見ていきましょう。2018年5月27日に「岡山市地域公共交通網形成協議会」の第一回の協議会が開催され、岡山市内の交通事業者や町内会・婦人会などの利用者代表、国交省・岡山県・岡山市と言った行政関係者が参加しました。これは両備グループのバス廃止問題をきっかけに開催が決定されたもので、岡山市の公共交通の在り方を協議し、解決のための法定計画を策定するための「法定協議会」。今回は公共交通と言っても路線バスの再編問題が議論の中心で、持続可能な路線バス網の再構築や不採算路線の維持の方法、議題の中心ではありませんが問題の発端となった新規参入問題や内部補助による不採算路線維持の在り方、運転手不足による路線廃止と言った問題も議題に上がりました。

www.city.okayama.jp

 

 8月24日に開かれた第二回協議会では「これからの公共交通の方向性について」議論が行われました。利用者の減少や事業者間の過当競争と言った問題に加え、便数の少なさやバス路線や時刻の分かりにくさと言った問題を解決する為、「誰もが利用しやすい公共交通サービスの提供」「公共交通の経営の健全化・安定化」という目標を設定し、「幹線+支線」と言った路線網のハブアンドスポーク化や連接機能の強化、事業者間のダイヤ調整やバスの方面別の見える化やバリアフリー化などを進めて「利用しやすい公共交通サービス」を目指す、としています。

協議会の資料を見て見ると、岡山の都心から地域の拠点までは幹線バスを高頻度で運航し、拠点から地域内の各生活圏を結ぶ支線系統を小型バスや乗り合いタクシーで新設してつなぐことで交通の利便性を確保するという未来図が描かれています。持続可能な公共交通の在り方としてはこれがベターな方法だろうと思いますし、よく考えられているなと言う印象です。

www.city.okayama.jp

 

そして2019年4月11日に開かれた第三回の協議会では、前回掲げられた目標実現のための施策について課題などが議論されました。また、実際のケーススタディとして両備バスの岡南方面と下電バス・岡電バスの2社が運航する妹尾方面の路線を対象に再編の具体案を示し、9月末をめどにマスタープランの策定を行う予定です。重複して岡山駅まで運行されている系統を幹線一系統のみの運行に再編し、他の路線は乗り換え拠点からの支線系統に変更するというもので、試算ではそれぞれ年間2000万円程度の経費削減を見込んでおり、路線キロ削減で人員的にも余裕が出るとしています。本数削減や一部系統の乗り換えなど利用者側にはデメリットも予想されますが、再編で出た余力を経営の安定化や別路線の拡充に廻すことで利用者にも再編の恩恵が受けられるとしています。

www.city.okayama.jp

www.nikkei.com

 

協議会の資料を見る限りだと単なるポーズではなく、岡山市の公共交通の在り方や事業者の健全経営を本気で考えているなと言う印象です。バス事業者の多い岡山市では各社が同じ路線で競合するケースも多く、事業者間の仲もいいとは言えなかったので、岡山市全体で公共交通を考える旗振り役が不在でした。そう考えると法定協議会での議論で「幹線+支線への路線網再編」「事業者間のダイヤ調整」「利用しやすい公共交通サービス」という方向性が打ち出されたことは大きな意義があったのではないかと思います。そういう意味では手段はともかく、議論の場を設けることにこぎつけた両備グループには先見の明があったと言えるでしょう。もっとも、そこまで強硬な手段に訴えないと行政や事業者が動かなかった、と言うのも考え物ですが・・・  

 

 

 ・両備vs八晃のその後

問題の発端となった「めぐりん」益野線ですが、両備側は参入を認めた国の手続きに不備があるとして益野線の認可取り消しを求める訴訟を東京地裁に起こしました。今年5月には両備HDの小嶋会長が法廷に立ち、今の制度のままでは全国で黒字路線の取り合いになり、地方の生活路線は維持できなくなって半減すると、公共交通の存続にかかわると危機感を訴えました。一方の国は「両備HDは原告としての適格がない」として却下を求めています。訴訟は現在も係争中で、8月30日には判決が出る予定です。「めぐりん」益野線参入問題についてはこの裁判の判決が一つの答えになりそうですので、判決が出たら改めて紹介したいと思います。

 

www.sankei.com

 

【8月30日追記】

上記の訴訟の判決が出ました。結論から言いますと両備側の全面敗訴です。

両備側の「道路運送法に違反している」という主張については「道路運送法や関係法令に、既存業者の営業上の利益を保護する趣旨の規定は見当たらず、両備グループには原告適格がない」と、違反の是非以前にそもそも両備には原告の資格がないとされました。両備側の全面敗訴と言ってもいい判決です。

判決について両備側は「結果は非常に残念に思うし遺憾」としており、今後の対応を検討するとしています。両備側にしてみれば門前払いだった今回の判決は到底受け入れられないでしょうが、かと言ってこの判決をひっくり返せるほどの材料があるとは思えません。残念ながら、法律に基づいて判断する裁判所にしてみれば両備側の主張である新規事業者の黒字路線狙い撃ちや「黒字路線で赤字路線の損失を埋める」バス業界の事業構造は事業者間の問題であり、法令違反とは別問題という認識だったのでしょう。

八晃側の認可取り消しが困難になった以上、両備側は次の一手を考える必要があります。法定協議会で持続可能な公共交通の在り方を模索する一方、八晃憎しの今のやり方を変える時期に来ているのではないかと思います。今回の判決で事実上、既存事業者の利益の保護が否定されたことで両備側の立場は苦しいものになったと言えます。個人的には地方交通の維持を真剣に考えてくれている両備を推したいところですが、今のままではいずれ両備グループが「既得権益にしがみつく既存事業者」と見られてしまうかも知れません。そうなる前に何か手を打つ必要があると思いますが、果たして両備の次の一手はどうなるか、今後の発表に注目していきたいです。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

 

 

最後に両備、八晃双方のその後について。まず両備側ですが、「地方バス路線網維持・発展に向けた特設情報サイト」をグループのHP内に開設して両備側の見解やお知らせなどを掲載しています。しかし、サイトの更新は2018年5月21日の第一回法定協議会で止まっており、その後の協議会の進展や八晃との訴訟の状況、小嶋代表のメッセージなどは掲載されていません。正直言うとあれだけ世間に問題提起したのであれば、見る人が少なかったとしてもその後の経過やメッセージは発信し続けて欲しいなと思います。係争中の裁判を抱えているからあまり表だって発言できないのかも知れませんが・・・

 

www.ryobi-holdings.jp

 

一方の八晃運輸側ですが、益野線運行開始前はほぼ沈黙と言った感じでしたが、両備とは逆に運航開始後は「めぐりん」のHPなどを通じて自社の言い分を主張しているようです。両備側の赤字路線廃止と言う「奇策」ですっかり悪者扱いされてしまい、自分達の主張を発信しなければ立場が悪くなると考えたのでしょう。

八晃側の言い分としては「益野線は法令に基づいて適法かつ適切に認可申請したものであり、要件を満たしていると判断されたから認可されたもの」「不採算路線の維持に黒字路線の収益が充てられるのは利用者の利益保護・利便増進の面から見ても賛同できない」「不採算路線の維持は行政による支援で行うべきであり、黒字路線の競争と赤字路線の維持の問題は切り離して考え、利用者の利益に資する方向で議論されることを望む」と、両備の「競争による値下げよりも路線網の維持を重視」「少ない黒字路線への参入は消耗戦となり、事業者の体力が奪われると内部補助による不採算路線の維持ができない」という主張と真っ向から対立しています。

また、八晃側は岡山駅東口広場への「めぐりん」乗り入れを求めていますが、両備側の反対で実現していません。これについても八晃側は「一部事業者が東口広場を独占的に使用している既得権を維持しようとして反対している」として反発しています。

 

news.megurin-okayama.com

 

・岡山のケースは地方の公共交通問題の縮図

八晃側の主張は競争原理の観点から見れば正しいと思います。「黒字路線の利益は黒字路線の利用者に還元されるべき」という言い分は高速道路の料金プール制で他の高速道路の償還も負担している名神高速道路などのドル箱路線のケースや、国鉄時代に東海道新幹線の利益が地方路線の赤字の穴埋めに使われて新幹線の再投資に使われず、競争力を落としていった例もありますので、八晃の主張にも一理あります。

しかし、地方の公共交通維持は事業者の自助努力でどうにかできる問題ではなく、両備の言うように1980年代のイギリスが公共交通に「競争原理」を持ち込んだ結果、地方の不採算路線は法外な運賃になって路線網全体の健全性と公共性が損なわれたという事例もあるため、地方の公共交通を考える観点からは両備の主張の方がより持続可能な将来を描けるのではないかと思います。

 

いずれにせよ、地方の公共交通網維持の問題は早急に手を打たなければいけないものであり、今回の岡山市の法定協議会が一つのモデルケースになるのではないかと思います。この法定協議会で全ての問題が解決できるとは思えませんし、事業者間の対立が解消できるわけでもありませんが、それでも解決に向けた一つの答えは出してくれるのではないかと期待しています。今後の議論の進展とケーススタディーの実現を見守っていきたいですね。

 

 ↓両備グループの小嶋代表の地方交通再生や街づくりへのグランドデザインを通して地方交通の現状と課題を書いた本。決して全面的に賛同しているわけではないですが、公共交通維持への小嶋氏の熱意は本物ですし、応援したいなと思います。

 

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「妥協と変更の繰り返し」が招いた長崎新幹線問題の泥沼化

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8月7日、佐賀県の山口知事は九州新幹線長崎ルートの新鳥栖~武雄温泉間整備を巡り、与党検討委員会が「フル規格での整備」を決定した事に反発し、フル規格方式が前提であれば国土交通省、JR九州、長崎県、佐賀県の「4者協議」には参加しないと表明しました。以前から佐賀県フル規格での新幹線整備には否定的で、フル規格で建設したい長崎県やJR九州と対立していましたが、与党がフル規格整備を決定した事で更に反発を強めた格好です。着工には佐賀県を含めた沿線自治体の同意が必要であり、現時点では着工の見通しは全く立っていません。

www.nishinippon.co.jp

 

 

対立のきっかけはフリーゲージトレインのとん挫 

元々新鳥栖~武雄温泉間は異なる軌間でも走れるフリーゲージトレイン(FGT)でつなぐ予定であり、線路も在来線のものをそのまま使用する予定でした。ところがそのFGTの開発は難航し、安全性や採算性の問題からJR九州は2017年に採用断念を表明。2018年には与党の検討委員会も正式に採用を諦めると表明した事で、長崎新幹線建設問題は振り出しに戻ってしまいました。

この時長崎県とJR九州が求めたのは新鳥栖~武雄温泉間のフル規格での建設。既に長崎~武雄温泉間はFGT乗り入れを前提にフル規格で建設を進めており、このままでは武雄温泉駅で乗り換えが必要になります。そうなると時間短縮効果が薄れるどころかリレー方式が固定化されれば「離れ小島」となる武雄温泉~長崎間の運用が非効率となり、採算面やバスや飛行機と言った他の交通機関との競争面で不利になるためリレー方式の固定化だけは絶対に避けなければいけません。

一方の佐賀県は九州の中心である福岡市に近く、既に佐賀~博多間は特急で35分で結ばれており、高速道路も整備済み。交通の利便性がよく、新幹線がなくても時間短縮効果は薄く、別段なくても困りません。それどころか新幹線が建設されてしまうと運賃の値上がりや特急廃止による本数低下が懸念され、場合によっては在来線の経営分離で佐賀県の負担が増える可能性すらあります。そうでなくとも整備新幹線は沿線自治体の一部負担が前提の為、佐賀県にしてみれば望まない新幹線の為に何百億と言うお金を払い、運賃が上がったり在来線も不便になるかも知れないというデメリットの方が大きい公共工事と言えます。

そんな相反する両県の主張を叶える救世主となるはずだったのが、新幹線と在来線の両方を走る事ができるFGTでした。実際、FGTによる直通運転が計画されていた頃は佐賀・長崎両県の足並みは建設推進で揃っていました。しかしそのFGT計画がとん挫して再度フル規格での建設が蒸し返されたことで、一旦は収まったはずの佐賀県と長崎県の立場の違いが再度表面化し、今回の対立を招いてしまったわけです。

digital.asahi.com

 

 長崎ルートの計画当初はルートも整備方式も別物だった

整備新幹線の建設は長期間の建設凍結や建設財源確保の問題、並行在来線分離という「負の部分」など、その時々の社会情勢や政治の思惑などに翻弄されてきた歴史でした。しかし九州新幹線長崎ルートの迷走ぶりは他の新幹線よりも群を抜いており、ルートや整備方式が何度も変わったことが今回の問題がこじれる原因の一つになったのではと思います。今回はその長崎新幹線の歴史を振り返って、問題がこじれた原因を考えてみたいと思います。

 

 ↓今回の記事を書くにあたり、整備新幹線の歴史や長崎ルートの現状などはこちらの本を参考にしました。

 

長崎ルートの計画が初めて世に出たのは1972年に基本計画が公示された時。翌1973年には他の整備新幹線(東北新幹線盛岡~新青森間、北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線鹿児島ルート)と同じく建設指示が出されました。しかしその後オイルショックや国鉄の経営悪化によって新幹線どころではなくなり、着工は先送り。1982年には整備新幹線全線の建設凍結が閣議決定され、解除されたのは国鉄民営化直前の1987年1月の事でした。

1985年1月に公表された当初のルートは原子力船「むつ」の改修工事を受け入れた佐世保市への配慮から、早岐駅を経由するルートで計画され、整備方式も全線フル規格でした。しかしJR九州発足後の1987年12月、運営事業者の同意を得る手続きでJR九州が「早岐経由では収支改善効果は表れない」と表明した事で同意を得る見通しが立たなくなり、翌年発表された運輸省案でも長崎ルートは北海道新幹線とともに外されました。もっとも、運輸省案で示された他の新幹線もフル規格とミニ新幹線の組み合わせだったり、スーパー特急方式での一部区間のみの着工だったりするのですが、この運輸省案に入った新幹線と外された新幹線とでは、その後の開業時期で大きな差が付くことになります。

その後JR九州は1992年2月に独自の試算結果を公表しますが、その前提は長崎本線肥前山口~諫早間の経営分離と短絡ルート、スーパー特急方式の3つでした。11月には地元も「短絡ルート」である武雄温泉~嬉野温泉~大村間の経路とスーパー特急方式での建設に合意しました。これで運営事業者であるJR九州の同意を得る見通しは立ちましたが、今度は在来線の経営分離問題が発生します。新幹線のルートが佐世保寄りなのに対し、分離予定の肥前山口~諫早間は新幹線のルートからは大きく離れているにも関わらず「並行在来線」扱いされた為、新幹線駅ができないのに特急も走らず経営分離だけを強いられる沿線自治体は鹿島市を中心に反対運動を起こします。さらに長崎ルートがフル規格ではなくスーパー特急を選択したのも、先述の佐賀県が負担の大きいフル規格よりも在来線を活用できるスーパー特急方式を支持した為でした。

 

 

沿線の「不協和音」を抱えたまま計画だけが進んでいく

その後、1998年2月には武雄温泉〜新大村間のルートが公表され、2002年1月に武雄温泉〜長崎間のスーパー特急方式による工事実施計画認可申請が行われます。しかし、着工の条件だった並行在来線の経営分離は沿線自治体が反対した為、着工のめどは立ちませんでした。

建設推進派の長崎県や、駅が建設される佐賀県嬉野市などは早期着工を求めて活動します。一方、既設新幹線の譲渡収入の前倒し活用が決まると北海道新幹線や北陸新幹線に予算を取られ、長崎新幹線が取り残されかねないと2004年12月に佐賀県は「並行在来線分離やむなし」を表明し、2005年度末までには鹿島市と江北町以外の自治体から分離同意を取り付けました。

 

しかし、残る鹿島市と江北町は経営分離は認めないと反対の立場を崩しません。特に鹿島市はルートから大きく離れて新幹線開業のメリットはない上に、特急廃止や経営分離による負担増と言う重荷を背負う事になる為強硬に反対を続け、膠着状態に陥りました。

 

この状態を打開する為に長崎・佐賀両県とJR九州は「奇策」を用います。分離予定だった肥前山口〜諫早間は開業後20年間は両県が施設を保有、JR九州が運行を行う「上下分離方式」とし、開業後も博多〜肥前鹿島間で特急を運行すると言うもので、JR九州が運行を続けることで「経営分離の同意」は必要なくなり、着工のハードルを消すと言う力技でした。

なりふり構わぬ奇策に走ったのは、他の新幹線に予算を取られ、長崎だけが取り残されかねないと言う「焦り」からでした。2007年12月には両県とJR九州の間で基本合意にこぎ着け、2008年3月には武雄温泉〜諫早間の着工認可が認められました。しかし、鹿島市など反対した自治体の同意は最後まで取り付ける事は出来ず、しこりを残す事になりました。

 

フリーゲージトレインがもたらした直通運転の「希望」

こうして、ようやく一部区間の着工にこぎ着けた長崎ルートですが、この時点では狭軌のスーパー特急方式での整備であり、博多〜武雄温泉間は在来線をそのまま使う予定でした。これは全線フル規格に難色を示す佐賀県に配慮したものであり、新幹線と言っても事実上は新線建設による長崎本線の高速化に過ぎませんでした。しかしこの方式であれば在来線を残したい佐賀県の意向が反映されますし、最初から全線フル規格整備を主張していれば佐賀と長崎で対立し、永久に話は進まなかったでしょう。

 

この間、残る諫早〜長崎間の着工や肥前山口〜武雄温泉間の複線化が検討されましたが、2009年の民主党への政権交代で一旦白紙になります。そんな中、2011年12月には政府・与党確認事項で武雄温泉〜諫早〜長崎間をフル規格に格上げし、フリーゲージトレイン方式で整備する方針が決まりました。

FGTの開発試験は1997年に一次試験車が制作されてから本格化し、2007年には二次試験車を投入、日豊本線や九州新幹線で走行試験を重ねました。2010年9月には「技術的な目処はついた」とのお墨付きを得て、急曲線や一部分岐器でクリアできなかった目標値をクリアすべく、改良した台車を新製してより条件の厳しい予讃線で走行試験を続けます。そして2011年10月、「基本的な走行性能に関する技術は確立」と評価されました。

武雄温泉〜長崎間がフル規格に変更されたのもFGT投入の技術的な目処がついた為であり、在来線を残したい佐賀県と更なる高速化と山陽新幹線直通で利便性を上げたい長崎県の思惑を実現するにはFGTは格好の技術だったのです。2014年3月にはより営業状態に近い車両として第三次試験車が落成し、走行試験はJR九州が行う事になります。予定では2022年度にリレー方式で武雄温泉〜長崎間を開業させた後2025年度にフリーゲージトレインを投入し、全てが丸く収まるはずでした。

 

FGT計画とん挫で再燃した佐賀県と長崎県の「対立」

しかし走行試験開始から2ヶ月後の方2014年11月末、3万キロを走行した時点で車軸とすべり軸受の接触部に摩耗痕が確認され、試験はストップします。その後対策を施した台車を開発し、2016年12月から試験を再開しますが、やはり3万キロを越えた段階で摩耗が見つかります。摩耗は以前の100分の1までには減ったものの、2025年度の投入には間に合わないとの見解を示しました。

さらにFGTは特殊な構造故に保安設備を新幹線と在来線の二系統搭載し、その重量増を抑制する為に高価な軽量化素材を使用、短期間の部品交換も想定されるなど経済的にもコストがかかる事が予想されました。JR九州は技術的な問題に加え年間50億円の負担増につながるFGTに見切りをつけ、「FGTによる西九州ルートの運営は困難」と発表しました。

その後もFGTを諦めきれない国交省は交換部品の再利用などの対策を進めたり、量産化によるコスト引き下げの精査も行いますが、2018年3月の評価結果では技術的問題はないとしながらも経済性の不利を覆すことはできず、2018年7月、与党整備新幹線建設推進プロジェクトチームも導入を断念。長崎ルートの建設は再び暗礁に乗り上げてしまいました。

 

ここで再び長崎ルートの全線フル規格整備が浮上してきます。既に武雄温泉〜長崎間はフル規格での整備が進んでおり、FGTが無理となった以上、リレー方式の固定化だけは絶対に避ける必要があり、残るミニ新幹線方式かフル規格かとなると、JR九州や長崎県にとっては速達効果の高いフル規格の整備が最適、と言うわけです。実際、両者はFGTの断念辺りからフル規格整備の実現に向けて国に働きかけを行ってきました。

 

しかし、元々在来線の維持とテコ入れが優先で、新幹線建設に消極的な佐賀県にしてみれば、FGT断念とフル規格建設の復活は晴天の霹靂でした。加えて長崎県やJR九州が佐賀県の事情や言い分を考慮せず、フル規格ありきで話を進めたことや、国交省も佐賀県の反対を条件闘争程度にしか考えず、負担額を減らせば説得できると考えていた節があり「フル規格の場合佐賀県の負担は660億円」と一方的に通知した事で佐賀県の怒りは頂点に達しました。

そして2019年4月、佐賀県の山口知事は与党の検討委員会で「新鳥栖〜武雄温泉間にこれまでも新幹線整備を求めたことはないし、今も求めていない」と、明確に反対の意思表明をしました。これで長崎新幹線を巡る佐賀県と長崎県の対立は決定的となり、解決の見通しが立たないまま現在に至っています。

 

要は長崎ルートは「最初から沿線自治体の全てが新幹線を望んでいた訳ではなく、何とか建設を進める為に何度も妥協と変更を重ねてきた」と言えます。最初から新幹線建設に積極的だった長崎県と消極的だった佐賀県と言う相反するスタンスが問題の根本であり、その溝を埋めるべくスーパー特急やFGTといった他の整備新幹線と異なる整備方式が選択されましたが、FGT頓挫で遂に破綻してしまった格好です。

 

 

「フル規格」ありきでは話は進まない。本当に地域の為になる答えを

長崎ルートの建設にあたっては武雄温泉〜長崎間に関しては佐賀県も同意し、反対する鹿島市を押し切って建設を進めた経緯がありますので、佐賀県に責任が100%ないとは言えません。しかし、これまでの経緯を考えると佐賀県が「新鳥栖〜武雄温泉間の整備を求めたことはない」と言うのはその通りであり、建設に同意したのはこの区間が在来線で維持すると言う大前提があったからでした。

従って、その前提であったFGTが頓挫した以上、責任を取るべきなのはFGTを推進した国交省と与党、走行試験を請け負ったJR九州であり、今のフル規格ありきの議論と佐賀県への負担要請は、佐賀県にその責任をなすりつける行為と取られても仕方ありません。まずは完成が遅れてでも一旦工事をストップし、佐賀県にFGTが頓挫した事を謝罪し、ゼロベースで今後の方向性を議論するのが先決ではないでしょうか。

 

にも関わらず推進派がフル規格を出したのは8月が概算要求の時期であり、ここで話をまとめなければ予算は下りず、北海道新幹線や北陸新幹線に予算を取られるとの焦りからでしょう。

しかし推進派が結論を急かそうとすればする程佐賀県の態度は硬化して膠着状態になるのは目に見えています。一方の佐賀県も拒否一辺倒では限界があるでしょうし、問題が長期化すれば非難の矛先が佐賀県に向かないとも限りません。諫早湾干拓問題の前例があるように、問題の長期化や対立の激化は双方にとって何のメリットもありません。

まずは佐賀県の言い分や問題点を聞いた上で、どうすれば両県民にとってベターな結論になるのか、とことん話し合うしか事態打開の道はないのではないでしょうか。

 

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関西国際空港に欧米路線やフルサービスキャリアが戻り始めているワケ

 

8月4日、スイスインターナショナルエアラインズは2020年3月1日から関空~チューリッヒ線を週5便で開設すると発表しました。機材はA340-300で、前身のスイス航空が2001年10月に運航停止して以来19年ぶりの路線復活になります。

 

www.aviationwire.jp

 

ここ一年で相次いだ欧米フルサービスキャリアの関空就航

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一時期関空発着の欧米路線は撤退が相次ぎましたが、ここ最近はその欧米路線、特にフルサービスキャリアの路線開設が相次いでいます。2019年4月にはブリティッシュエアウェイズが関空~ロンドン線を週4便で、デルタ航空が関空~シアトル線を1日1便就航させましたし、2020年4月からはターキッシュエアラインズが関空~イスタンブール線を週5便で3年ぶりに再開させる予定です。

また、昨年3月までは週5便だったフィンエアーの関空~ヘルシンキ線

https://www.finnair.com/jp/jp/も、2019年4月からは倍の週10便にまで増便され、子会社のエアカナダ・ルージュの運航だった関空~バンクーバー線も今年5月からエアカナダ本体の運航に切り替えられるなど、数年前の停滞期やその前の撤退ラッシュがウソの様です。

 

 

関西空港の旅客数は2009年度にはリーマンショックによる航空需要低迷や、JALやANAの関空路線整理などで過去最低の1351.6万人にまで落ち込み、その後2011年度までは低迷が続きました。2012年度はピーチやジェットスターと言った和製LCCの就航で国内線が急回復し、それに加え2015年度以降はインバウンド需要の急増や海外LCCの誘致成功で国際線の利用者数が急増。2018年度の利用者数は台風による閉鎖期間があったにも関わらず2904万人と過去最高を更新し、2009年の倍以上になっています。

でもちょっと前はLCC重視だったのになぜ急に増えたの?

関西空港の利用者数急増はここ数年のインバウンド需要の急激な増大があるのは間違いありません。また、ここ数年の関空の利用者急増はLCCの誘致が主な要因であり、新規就航路線もLCCが主体でした。羽田空港の再国際化に伴って世界のフルサービスキャリア(FSC)が羽田乗り入れを目指し、それに危機感を持った成田が長距離路線の維持や誘致に動く一方、関空はピーチの設立を機にLCC重視に舵を切りました。羽田や成田と同じ土俵に立たなかった事でLCC誘致に成功し、それが関空復権の原動力となりましたが、その分FSCの誘致に関しては羽田や成田に比べると出遅れた感があり、関空発の長距離路線の便数はしばらく停滞期に入りました。

 

また、ANAやJALは利用率低迷と不採算を理由に2007年~2010年頃に関空路線を国内、国際問わずバッサリと整理し、一時は日系航空会社の長距離路線はゼロになりました。実際、現在でもANAとJALの関空路線は限られており、国内線で運航されているのは羽田、札幌、福岡、那覇の他は石垣、宮古くらいでたまに季節運航の北海道路線がある程度。国際線を見てもJALの関空~ロサンゼルス線の運航再開が目立つ程度で、ここ7~8年はその顔触れはほとんど変わらりません。特にANAの関空発国際線は中国路線しかないのが現状です。そんな中、なぜここに来て関空発着の欧米路線が戻り始めたのでしょうか?

toyokeizai.net

 

理由1.「LCC一本足打法」からの脱却

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関空躍進の原動力がLCCであった事は疑いようのない事実ですが、副作用がなかったわけではありません。2016年に関空の国際線の便数はLCCが25%になりましたが、LCCのビジネスモデルが短距離路線中心な事もあり、ソウルや台北、上海などのアジア路線は軒並みLCCが席巻しました。このあおりを受けてフルサービスキャリア、特に日系の会社は関空発の短距離路線から手を引き始め、特に韓国路線はJALもANAも撤退して日系フルサービスキャリアはゼロになりました。先述の日系FSCの関空路線が増えないのも、LCCの影響力が大きくなりすぎたのもあるのではないでしょうか。

一般的にはLCCは観光需要中心、フルサービスキャリアは観光需要も満たしつつビジネス需要がメインとなりますが、観光需要は好況の時は需要が大きくなる一方、テロや戦争、景気動向と言ったイベントリスクに左右されやすいという欠点があります。一方のビジネス需要は変動幅は少ないものの、安定した需要があり、客単価も高いというメリットがあります。特にビジネスクラスなどの上級クラスは収益性が特に高いため、FSC各社はもちろん、空港にとっても単価の高いビジネス客の確保は収益性確保の為に必須と言えます。LCCの誘致が一巡した今、「LCC一本足打法」のリスクを回避するためにもFSC誘致は急務と言えるのです。

www.sankei.com

 

理由2.関西3空港の経営一本化

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以前の関西三空港は関空が特殊会社、伊丹が国(2008年以降は地元自治体も一部負担)、神戸が神戸市と運営管理者がバラバラで、国土交通省や各空港の地元自治体、大阪府と兵庫県、航空会社の思惑が複雑に絡み合い、限られたパイを巡ってお互いに足を引っ張り合う構図でした。関西三空港成立の経緯を考えると仕方ない部分もありますが、この三空港の対立が航空会社の誘致や路線拡大に支障をきたし、関西の航空網が低迷する一因でした。

この対立の構図が変化したのは2012年7月からの関空と伊丹の経営統合でした。統合で両空港の運営が一本化されたのを機に、関空への路線誘導が目的だった伊丹空港の規制が段階的に撤廃され、低騒音ジェット枠の新設によるジェット機増加や長距離国内線の伊丹復便などで伊丹空港の利便性は飛躍的に上がります。一方の関空も伊丹空港の利益が入る事で巨額の負債を抱えて悪化していた財務も健全化に向かい、経営改善に大きく寄与することになり、両空港は対立から共存へと舵を切る事になりました。

更に2016年4月1日からは関空・伊丹の運営権はオリックスとフランスの空港運営会社ヴァンシ・エアポートなどが出資する新会社「関西エアポート」に移管され、純民間企業による運営に移行します。運営権移管後は免税店などの非空港収入を中心に収益を伸ばし、2018年4月1日からは子会社の関西エアポート神戸を通じて神戸空港の運営権を取得し、関西三空港の運営権は「関西エアポートグループ」に一本化されることになりました。経営が一本化されたことでかつてのような利害対立は少なくとも空港間では解消され、関空にとっては空港間の競争と対立に注いでいた人的、金銭的リソースをFSC誘致に振り向けることができるようになったのもプラスに動いたのではないでしょうか。


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理由3.バンシ・エアポートの誘致ノウハウとコネクション

オリックスと共同で関西エアポートの運営に携わる「ヴァンシ・エアポート」は、世界的建設会社「ヴァンシ・グループ」がフランスの13空港とポルトガルの10空港を中心に、ドミニカ6空港、チリ1空港、カンボジア3空港、日本3空港の合計36空港を運営する世界的な空港運営会社です。運営する空港の中にはリスボンやプノンペン国際空港と言った首都のハブ空港も含まれており、この他にもイギリスやスウェーデン、アメリカなどで運営権取得の交渉を進めています。

世界中で空港運営を行っているだけあって、空港運営だけでなく、路線誘致のノウハウもヴァンシは持っており、路線開設の為の専門チームが緻密なマーケティングによる需要予測を調べ、季節や競合状況に応じて着陸料を柔軟に変動させるなど、航空会社を納得させる提案をして数々の路線誘致に成功してきました。また、ヴァンシが持つ海外の150もの航空会社とのコネクションも路線誘致にはプラスに働いているとみられ、運営権取得直後から行っているであろう航空会社との誘致交渉がここに来て功を奏しているのではないかと思います。ヴァンシ自身も運営権移管前のインタビューで欧米の長距離路線の誘致が課題だと語っていましたので、今でも水面下で欧米路線誘致交渉を進めているのではないでしょうか。
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それでも関空が日本の航空会社を誘致できない理由

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LCC誘致に成功し、海外FSCの誘致も効果が出つつある関空ですが、今後の課題は日系FSCのJALとANAの新規路線誘致でしょう。しかし、こちらに関しては今のところ成果はなく、関空発の新規路線が開設される見込みもありません。これにはJALとANAのハブ戦略と関空のビジネス客の少なさが関係しています。

羽田空港の再国際化以後、JALもANAも羽田と成田からの国際線を拡充し、羽田は国内線からの乗り継ぎと都心のビジネス客をメインターゲットに、成田はアジア→北米の乗り継ぎ需要と観光路線を中心にする「デュアルハブ戦略(この戦略を取っているのはANAなのですが、結果的にJALも同じような路線展開になっています)」を取っています。両社とも乗り継ぎ需要の獲得を今後の成長戦略の柱ととらえており、そのためには羽田や成田発着の国際線ネットワークを拡充させることが不可欠。その成長戦略から外れ、旅客需要が分散しかねない関空発の国際線にはJALもANAも消極的になりがちです。

また、羽田や成田は単価の高いビジネス客の比率が多いのですが、一方の関空は単価の安い観光客の比率の方が高く、ビジネス客の比率が少ない事も日系FSCから敬遠されている理由の一つです。関空でLCCが急増したのも、観光需要の大きい関西の航空需要とマッチしたのもあるのではないでしょうか。実際、JALの関空~ロサンゼルス線の搭乗率は80%台と好調なものの、単価の高いビジネス客が伸び悩んで採算性はそれほど良くないそうです。

さらに自社による運航が当たり前だった関空開港直後と違い、今はアライアンス内の提携会社や個別に提携した海外航空会社とのコードシェアである程度はカバーできるのもJALやANAが路線開設に消極的になる一因かも知れません。要は日系FSCにとっては関空発の国際線、特に長距離路線は「開設しても旨味が少なく、乗り継ぎ需要も見込めないため国際線戦略上もメリットは少ない」為開設には消極的になる、という訳です。

逆に海外FSCが関空路線を開設するのは、関西地方がハブアンドスポークの「スポーク」にあたり、直行便を飛ばすことで自社のハブ空港からの乗り継ぎ需要を狙えるという効果もありますので、日経FSCよりも路線開設に積極的になるのも当然と言えます。

 

 関空が日系FSCの誘致を成功させる妙薬は正直言ってないでしょう。着陸料の減免だけではJALやANAはもはや動かないと思うので、当面はビジネス客の利用増加に努めて既存路線の採算性向上に努める以外ないのではと思います。どちらかと言えばJALの方がまだ関空発長距離路線開設には意欲があると思いますので、今後は誘致ターゲットをJALに絞り、着陸料の支援はもちろん、ビジネス客増加の支援策や共同での誘客キャンペーンと言ったなりふり構わぬ支援策を提案していくしかないのではないでしょうか。また、引き続き海外航空会社の長距離路線誘致に努め、長距離路線自体を増やしていけば日系キャリアも無視はできなくなってくると思います。そう考えると地道にでもアプローチを続けて魅力を高めていくしか日系キャリアを振り向かせる方法はないのではないでしょうか。

 

↓関西3空港の特徴や空港内の楽しみ方など、関西3空港の現状が分かる本。以前に比べると関空も伊丹も空港の魅力は増してきています。

 

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ANAのエアバスA380就航の裏で・・・世界で進む航空会社の「A380離れ」

5月24日に成田~ホノルル線で就航を果たしたANAのエアバスA380「フライングホヌ」は7月1日から週10往復に増便され、本格的に運航を開始しました。現在は2機体制ですが、来年春には3号機を受領し、成田~ホノルル線の全便がA380での運航になる見通しです。

事前のプロモーションやブランディングの効果もあってA380の話題性は抜群。7月30日に発表されたANAの2019年4-6月期決算によるとホノルル線の搭乗率は91%と絶好調で、7-9月期以降も9割以上を見込んでいるとの事。「夏場の数字はしっかり取れており、順調に推移している」との事ですので、目下のところA380投入の効果は十分あった事になります。

 

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その一方で、ANAはA380を来年納入予定の3号機を含め、全て自社保有すると発表しました。導入段階では購入後にリースに切り替える「セールス・アンド・リースバック」方式や、リース組成も検討されたそうですが、「リース組成ではあまりいい条件が出てこなかった」そうで、費用対効果を考えると自社保有が一番良かったみたいです。

航空機リースは航空会社から毎月支払われるリース料と、リース期間満了後の航空機の売却益がリース会社の収益となりますが、例えばボーイング737やエアバスA320のように航空会社からの引き合いが多い機種だとリース期間満了後も次のリース先が決まりやすかったり、再販や部品取りとしての売却も十分利益が見込める為、リース料は低めに抑えられるケースが多いです。しかし、A380の場合は再販しても買い手が付きにくい不人気機種の為、リースにしたとしても満了後の再販があまり見込めないことから、相対的にリース料は高額を提示されたのではないでしょうか。リースと言う選択肢を取らなかったのも、A380という飛行機の中古市場での評価の低さを表していると言えます。

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 実際、A380の生産中止と前後して、世界の航空会社ではA380の保有数を削減したり、退役スケジュールを発表するケースが相次いでいます。以前A380の生産終了の話題を取り上げた記事ではシンガポール航空のA380売却と部品取りでのスクラップに触れましたが、A380の初就航から12年目を迎え、初期導入機は減価償却を終える頃ですので、そろそろそういう動きが出てもおかしくない頃ではあります。

 

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まずはルフトハンザ。3月に保有する14機のA380のうち、6機を2022年から2023年にエアバスに売却すると発表しました。ルフトハンザのA380就航は2010年ですから、こちらも減価償却が終わったタイミングで削減に動くことになります。残り8機は継続運航の予定です。

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同じ時期にカタール航空のCEOも保有する10機のA380を2024年以降、段階的に退役させる計画を発表しました。機齢10年を迎えた機体から順次退役させていくそうで、こちらも減価償却が終わったタイミングで手放すつもりの様です。

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そして7月30日、エールフランスが保有する10機のA380を2022年までに退役させると発表しました。エールフランスのA380は5機が自社保有、5機がリース機でしたが、以前からリース機の分の契約を更新させず、そのまま退役させて半減するとの報道がありました。今回は更に踏み込んで全機退役を明言した格好です。エールフランスのA380初就航は2009年。退役時期から考えても、やはり減価償却が終わった機体から順次放出していくようです。既にシンガポール航空が初期導入機5機を退役させましたが、2022年以降、少なくともこの3社から合計26機のA380が中古市場に放出されることとなります。

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A380の退役動向を考える際は「就航から10年後」が一つの節目になるのではないかと思います。日本の場合、航空機の減価償却は最大離陸重量5.7トン以上130トン以下のものは8年、最大離陸重量130トン以上のものは10年と定められており、航空会社やリース会社はこの耐用年数を基に減価償却をしていきます。減価償却期間中に航空機を売却する場合は売却益と残存価値の差額を損金処理する必要があり、リスクが伴いますが、減価償却が終われば例え売却価格がゼロだったとしても会計上の影響はありません。他国では減価償却年数はどのように定められているかは分かりませんが、恐らく大きな差はないと思います。

つまり、中古市場での再販が期待できないA380の場合、減価償却期間が終わる就航後10年までは売りたくても売れないが、減価償却期間が過ぎれば一気に売却の動きが加速することが考えられます。一時期マレーシア航空がA380の売却や子会社への移管を検討した事がありましたが、結局はそのまま自社で運航を続けています。赤字続きのマレーシア航空としてはA380は真っ先に削減したい機種でしょうが、それでも売却していないのはまだ就航から7年程度しか経っておらず、減価償却が終わっていないからでしょう。言い換えれば減価償却が終わるであろう2022年以降、本格的に退役を検討するのではないでしょうか。

マレーシア航空以外でも経営危機で売却交渉中のアシアナ航空や、保有機が5~6機程度しかなく運用効率の悪いタイ国際航空や中国南方航空など、「A380退役予備軍」は他にも存在します。一般的な航空機の置き換え時期である就航後20年を待たず、数年後にはA380の退役ラッシュが加速する可能性は十分あるのではないでしょうか。

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その一方で捨てる神あれば拾う神あり。数は少ないですが、中古のA380を購入したり、購入を検討する会社も出現きました。ポルトガルの航空会社「ハイフライ」はシンガポール航空が放出したA380を購入し、ウエットリース事業に使用すると発表しました。7月のファーンボロエアショーにはハイフライが購入したA380が展示されており、エアバスもA380の中古市場構築のきっかけになると期待を寄せています。

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そしてもう一社、ブリティッシュエアウェイズもA380の中古機6機を調達することを検討しています。BAがハブとするロンドン・ヒースロー空港はイギリス最大の空港であり、世界でも有数の利用者数を誇りますが、滑走路は2本しかなく、慢性的な発着枠不足に悩まされている空港でもあります。BAが未だに30機以上の747-400を保有しているのもヒースロー空港の発着枠がないためであり、今年から就航するA350も長胴型の-1000のみの発注だったり、現在販売中の機体で世界最大となる777-9Xを18機発注するなど、長距離路線では極力大型の機体を選択する傾向にあるようです。A380の中古購入も以前から検討されていたものであり、実現するにはA380の調達価格と改装費用の折り合いがハードルになりそうですが、実現すればエミレーツ航空と並び有力な中古A380の購入先となりそうです。

 

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こうして見ると、現在就航しているA380も、寿命まで飛び続けられるかは不透明な状況である事が伺えます。2020年代半ばには減価償却が終わったA380の退役ラッシュが起こりそうですし、通常よりも早く部品取りとなって解体されるA380が続出するかもしれません。ANAのA380も、減価償却が終わる2030年頃が一つの節目になりそうですし、恐らく寿命一杯までは飛ばさないのではないかと思います。10年後の2030年頃もA380を飛ばしていそうなのはA380を大量保有するエミレーツと、ハブ空港の事情で大型の機体が必要になるBA、初期機体のリース更新で比較的保有数が多いシンガポール航空、8機をキャンセルしたものの残る12機の改修を行い、ロンドン線と言う高需要路線に投入しているカンタスの4社くらいなのではないでしょうか。そう考えると乗ろうと思えばA380に乗る事ができる今の状況は、そう長いものではないのかも知れません。そうなって後悔する前に、今のうちにA380には乗っておきたいですね。

 

 

 ↓就航したばかりのANAのA380を特集したムック。人気は上々ですし、10年と言わずできる限り長く飛ばして欲しいところですね。

 

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