〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

両備の捨て身の問題提起・・・もう「自由競争」「民間任せ」だけでは地域の足は維持できない

このブログでは基本的に航空と鉄道の話を中心にするつもりでしたが、今回の話は単なるバス路線の話だけでなく、地方の交通インフラ全般に関わる話ですので取り上げたいと思います。

2月8日、岡山県を地盤とする両備グループが、グループの両備バス、岡山電気軌道のうち赤字31路線を一斉廃止するとの報道がありました。

 

www.sanyonews.jp

 

実際のところ、廃止になる31路線は他社との共同運行路線や他の路線と重複する区間もあるので、廃止になったからと言ってバス路線がごっそりなくなるというわけではなさそうですが、それでも地元岡山県にとっては大きなニュースです。

 

そして、このバス路線廃止が今までのケースと違うのが、路線維持が限界に達して廃止になるのではなく、今後の地域公共交通の在り方に対する問題提起として発表されたこと。そもそもの発端は岡山市内循環線「めぐりん」を運行する新規参入業者・八晃運輸が、両備グループのドル箱路線に両備よりも100円~150円安い運賃で参入しようとして認可申請を行った事。両備グループのバス路線大量廃止計画はこの参入への反発が原因ではありますが、この経緯だけを見ると両備グループが赤字路線を人質に取って八晃運輸に撤退を迫っているように見え、「大手企業による新規参入社いじめ」とも取れます。

しかし、この問題はそんな単純なものではありません。地方であればどこでもそうですが、バスの利用者はマイカーの普及が進んだ1970年代以降右肩下がりを続けており、どこの会社も路線バス部門は赤字。それでも90年代までは路線バス部門の黒字路線や貸切バス部門、高速バス部門などで赤字路線の内部補てんが可能でしたが、それもバス業界の規制緩和で貸切バスへの参入が容易となり、高速ツアーバスが急速に伸びてくると貸切バスや高速バス部門は競争激化で収益性が低下し、内部補てんができなくなってしまいます。

それまでもジリ貧だった地方の不採算バス路線を支えきれなくなったバス会社は次々と路線廃止を行いますが、自治体がお金を出してコミュニティバスを走らせられたのはまだいい方。自治会でお金を出して乗り合いタクシーを運行しなくてはいけなくなったり、最悪はバス路線そのものが消えたケースも少なくありません。元々構造的に維持が難しかった地方のバス路線にとどめを刺したのが規制緩和と言っても過言ではありません。

 

そんな中でも地域の足を守るために奮闘してきたのが両備グループ。「たま駅長」で一躍有名になった和歌山電鉄を始め、広島県福山市の中国バスや破産した井笠鉄道バスの経営を引き受けるなど、地方交通の救世主として注目を集めてきた会社であり、グループ代表の小嶋光信CEOも「地方交通再生請負人」として話題となっている方です。

 

日本一のローカル線をつくる: たま駅長に学ぶ公共交通再生

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地方交通を救え!―再生請負人・小嶋光信の処方箋 (交通新聞社新書)

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そんな両備グループが問題提起として掲げた今回の廃止届。両備グループも決して経営に余裕があるわけではなく、3~4割の黒字路線で残りの赤字路線を支えている状況。両備グループ全体を見ても一番の稼ぎ頭は売り上げベースでは1割しかない不動産部門で、交通部門は一番売上高が高いにも関わらず利益は不動産部門の半分ほどしかありません。両備グループの試算では今回の八晃運輸の参入が現実となった場合、競合路線の運賃収入減少などで岡電バス、両備バスともに4割の減収を見込んでおり、収益性悪化で内部補てんが難しくなるのも当然のように思われます。

 

これまでの両備グループの取り組みを考えても、今回の廃止届が私利私欲の為ではないと思いますし、本当なら両備グループも小嶋氏もこんな形で廃止届なんて出したくはなかったでしょう。人口増加傾向にあり、需要の伸びが見込まれる首都圏のバス路線ならともかく、地方都市クラスで競争を起こしても過当競争になって疲弊し、共倒れになり兼ねません。両備グループも昨年3月に路線の認可申請がされた後、意見書を提出していますが、全く協議されることもなかった為、「最後の手段」として今回の廃止計画を出して関心を持ってもらおうとしたのではないでしょうか。

 

もう一方の当事者である八晃運輸は今回の廃止計画に対し、「まだ新路線の運行が始まっておらず、何も結果が出ていない段階で今から赤字路線をやめるというのは理解しがたい。利用者目線で考えてほしい」というコメントを出しています。八晃運輸にしてみれば正規の手続きを踏んで認可申請を出したのに何でうちが悪者扱いなんだ、という気持ちかも知れませんが、黒字路線だけを狙い撃ちできる新規参入会社と、赤字路線を多く抱えながらも地域の住民のためにと長年踏みとどまってきた老舗のバス会社を同列に語るわけには行きませんし、老舗のバス会社は深く地域に根差してきた分、簡単に辞めることは許されません。まるで当てつけかのように路線廃止計画を発表したその日の夜に認可を出したのも、行政サイドが事の重大さを認識していないような気がします。

 

今回の一件は交通弱者の最後の砦ともいえる路線バスの在り方を考えるきっかけにしなければならないと思います。行政も、バス会社も、利用者も、そして私を含むドライバーも真剣に公共交通の在り方や将来にわたる維持の方法を議論すべき時ではないでしょうか。長年地盤の岡山県のみならず、他県の公共交通も守ってきた両備グループが出した問題提起だからこそ、その意義は非常に重いです。最後に両備グループのポータルサイトに掲載された今回の路線廃止計画に対する小嶋代表のメッセージの一部を抜粋します。全文は下記のサイトに掲載されています。是非全文を読んで、今回の問題について考えるきっかけにしてもらえれば幸いです。

 

緊急発表 (平成30年2月8日午前) 全国の地域公共交通を守るために、敢えて問題提起として赤字路線廃止届を出しました。 | 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ ポータルサイト - Ryobi Group -

 

何故急いだ競合会社の路線認可? | 小嶋光信代表メッセージ | 両備グループ ポータルサイト - Ryobi Group -

 

~以下、上記代表メッセージから引用~

昨日の朝「全国の地域公共交通の路線網の維持のために、敢えて、問題提起として路線を廃止」という記者発表をしたら、異例にも、その晩に急遽、その路線が当局で認可になったようです。
本件は、地域公共交通を守るためには国はどうあるべきか、地域の自治体や市民、識者の判断はどうか等々の多角的な視点から検討されなくてはならない影響の大きな事案です。道路運送法や交通政策基本法の理念や責務、努力義務などに照らしてみても本来前述のような多くの方々の間で協議すべき事案ですが、昨年3月末に申請されて以来、認可までの間には十分な時間があったにも拘わらず全く議論がなされていないのです。それは、何故なのか?当局は、なぜここで地域公共交通の実情を直視し、寄り添って考えてみようとしなかったのか、疑問が湧くと同時に、非常に残念です。

(中略)

規制緩和で、地域を守るべき地方自治体には財政負担が重くのしかかり、バス事業者は歯を食いしばって必死に路線網を支えてきたという苦労を国はご理解いただけているのでしょうか?
真に理解されているのであれば、本件のような申請に対して、供給が十分な路線に3割もの供給過剰と、3割から5割の低運賃を認めて、滅びゆこうとしている地域公共交通の足を引っ張ることはないでしょう。

~引用ここまで~

 

個人的にはガソリン税の一部を公共交通維持のための設備更新費や乗務員の育成、給与補助に使う事を提案したいと思います。地域の足を利用者の運賃収入と事業者の自助努力だけで維持するのはもう限界ですが、今更マイカーを手放すというのも難しい相談ですので、我々ドライバーも含めた全員が薄く広く負担して、地域全体で地域の足を支えるシステムが必要なのだと思います。その目的のために使われるのであれば、私は喜んで負担増に応じます。いつか車に乗れなくなった時の事を考えると移動手段が全くなくなるのは非常に困りますから、将来の為の保険、という意味も込めて。

 

もう、自分達の足をバス会社任せにして見て見ぬふりをするのは辞めませんか?

 

【2/25追記】

両備バス廃止問題の続報記事も書きました。こちらも合わせてご覧下さい。

 

www.meihokuriku-alps.com