5月24日に成田~ホノルル線で就航を果たしたANAのエアバスA380「フライングホヌ」は7月1日から週10往復に増便され、本格的に運航を開始しました。現在は2機体制ですが、来年春には3号機を受領し、成田~ホノルル線の全便がA380での運航になる見通しです。
事前のプロモーションやブランディングの効果もあってA380の話題性は抜群。7月30日に発表されたANAの2019年4-6月期決算によるとホノルル線の搭乗率は91%と絶好調で、7-9月期以降も9割以上を見込んでいるとの事。「夏場の数字はしっかり取れており、順調に推移している」との事ですので、目下のところA380投入の効果は十分あった事になります。
その一方で、ANAはA380を来年納入予定の3号機を含め、全て自社保有すると発表しました。導入段階では購入後にリースに切り替える「セールス・アンド・リースバック」方式や、リース組成も検討されたそうですが、「リース組成ではあまりいい条件が出てこなかった」そうで、費用対効果を考えると自社保有が一番良かったみたいです。
航空機リースは航空会社から毎月支払われるリース料と、リース期間満了後の航空機の売却益がリース会社の収益となりますが、例えばボーイング737やエアバスA320のように航空会社からの引き合いが多い機種だとリース期間満了後も次のリース先が決まりやすかったり、再販や部品取りとしての売却も十分利益が見込める為、リース料は低めに抑えられるケースが多いです。しかし、A380の場合は再販しても買い手が付きにくい不人気機種の為、リースにしたとしても満了後の再販があまり見込めないことから、相対的にリース料は高額を提示されたのではないでしょうか。リースと言う選択肢を取らなかったのも、A380という飛行機の中古市場での評価の低さを表していると言えます。
実際、A380の生産中止と前後して、世界の航空会社ではA380の保有数を削減したり、退役スケジュールを発表するケースが相次いでいます。以前A380の生産終了の話題を取り上げた記事ではシンガポール航空のA380売却と部品取りでのスクラップに触れましたが、A380の初就航から12年目を迎え、初期導入機は減価償却を終える頃ですので、そろそろそういう動きが出てもおかしくない頃ではあります。
まずはルフトハンザ。3月に保有する14機のA380のうち、6機を2022年から2023年にエアバスに売却すると発表しました。ルフトハンザのA380就航は2010年ですから、こちらも減価償却が終わったタイミングで削減に動くことになります。残り8機は継続運航の予定です。
同じ時期にカタール航空のCEOも保有する10機のA380を2024年以降、段階的に退役させる計画を発表しました。機齢10年を迎えた機体から順次退役させていくそうで、こちらも減価償却が終わったタイミングで手放すつもりの様です。
そして7月30日、エールフランスが保有する10機のA380を2022年までに退役させると発表しました。エールフランスのA380は5機が自社保有、5機がリース機でしたが、以前からリース機の分の契約を更新させず、そのまま退役させて半減するとの報道がありました。今回は更に踏み込んで全機退役を明言した格好です。エールフランスのA380初就航は2009年。退役時期から考えても、やはり減価償却が終わった機体から順次放出していくようです。既にシンガポール航空が初期導入機5機を退役させましたが、2022年以降、少なくともこの3社から合計26機のA380が中古市場に放出されることとなります。
A380の退役動向を考える際は「就航から10年後」が一つの節目になるのではないかと思います。日本の場合、航空機の減価償却は最大離陸重量5.7トン以上130トン以下のものは8年、最大離陸重量130トン以上のものは10年と定められており、航空会社やリース会社はこの耐用年数を基に減価償却をしていきます。減価償却期間中に航空機を売却する場合は売却益と残存価値の差額を損金処理する必要があり、リスクが伴いますが、減価償却が終われば例え売却価格がゼロだったとしても会計上の影響はありません。他国では減価償却年数はどのように定められているかは分かりませんが、恐らく大きな差はないと思います。
つまり、中古市場での再販が期待できないA380の場合、減価償却期間が終わる就航後10年までは売りたくても売れないが、減価償却期間が過ぎれば一気に売却の動きが加速することが考えられます。一時期マレーシア航空がA380の売却や子会社への移管を検討した事がありましたが、結局はそのまま自社で運航を続けています。赤字続きのマレーシア航空としてはA380は真っ先に削減したい機種でしょうが、それでも売却していないのはまだ就航から7年程度しか経っておらず、減価償却が終わっていないからでしょう。言い換えれば減価償却が終わるであろう2022年以降、本格的に退役を検討するのではないでしょうか。
マレーシア航空以外でも経営危機で売却交渉中のアシアナ航空や、保有機が5~6機程度しかなく運用効率の悪いタイ国際航空や中国南方航空など、「A380退役予備軍」は他にも存在します。一般的な航空機の置き換え時期である就航後20年を待たず、数年後にはA380の退役ラッシュが加速する可能性は十分あるのではないでしょうか。
その一方で捨てる神あれば拾う神あり。数は少ないですが、中古のA380を購入したり、購入を検討する会社も出現きました。ポルトガルの航空会社「ハイフライ」はシンガポール航空が放出したA380を購入し、ウエットリース事業に使用すると発表しました。7月のファーンボロエアショーにはハイフライが購入したA380が展示されており、エアバスもA380の中古市場構築のきっかけになると期待を寄せています。
そしてもう一社、ブリティッシュエアウェイズもA380の中古機6機を調達することを検討しています。BAがハブとするロンドン・ヒースロー空港はイギリス最大の空港であり、世界でも有数の利用者数を誇りますが、滑走路は2本しかなく、慢性的な発着枠不足に悩まされている空港でもあります。BAが未だに30機以上の747-400を保有しているのもヒースロー空港の発着枠がないためであり、今年から就航するA350も長胴型の-1000のみの発注だったり、現在販売中の機体で世界最大となる777-9Xを18機発注するなど、長距離路線では極力大型の機体を選択する傾向にあるようです。A380の中古購入も以前から検討されていたものであり、実現するにはA380の調達価格と改装費用の折り合いがハードルになりそうですが、実現すればエミレーツ航空と並び有力な中古A380の購入先となりそうです。
こうして見ると、現在就航しているA380も、寿命まで飛び続けられるかは不透明な状況である事が伺えます。2020年代半ばには減価償却が終わったA380の退役ラッシュが起こりそうですし、通常よりも早く部品取りとなって解体されるA380が続出するかもしれません。ANAのA380も、減価償却が終わる2030年頃が一つの節目になりそうですし、恐らく寿命一杯までは飛ばさないのではないかと思います。10年後の2030年頃もA380を飛ばしていそうなのはA380を大量保有するエミレーツと、ハブ空港の事情で大型の機体が必要になるBA、初期機体のリース更新で比較的保有数が多いシンガポール航空、8機をキャンセルしたものの残る12機の改修を行い、ロンドン線と言う高需要路線に投入しているカンタスの4社くらいなのではないでしょうか。そう考えると乗ろうと思えばA380に乗る事ができる今の状況は、そう長いものではないのかも知れません。そうなって後悔する前に、今のうちにA380には乗っておきたいですね。
↓就航したばかりのANAのA380を特集したムック。人気は上々ですし、10年と言わずできる限り長く飛ばして欲しいところですね。