世界の航空機メーカーは100席以上の機体に限るとほぼボーイングとエアバスの2社に分かれ、大半の航空会社で両社の航空機が使用されています。しかし中には「ボーイングだけ」「エアバスだけ」という会社もありますし、大型機はボーイングだけど小型機はエアバスだけ、逆に大型機はエアバスしか使ってないけど小型機はボーイングだけ、という会社もありますので、航空会社によってボーイングとエアバス、両者の機材の使い方は様々です。
昔、月刊エアライン2001年1月号でボーイングとエアバスのライバル関係を取り上げた特集がありましたが、その中に世界の航空会社がボーイング派か、エアバス派かを比較した記事がありました。この頃はまだボーイングが吸収した旧マクドネル・ダグラス機がまだ多数残っており、エアバスは当時はまだ新興メーカーと言う事もあって、古くから航空会社との関係を築いてきたボーイング優勢、と言う感じでした。あれから18年、ボーイングとエアバスの複占がすっかり定着し、機材更新サイクル的にも一回りした今、世界の航空会社での両社の勢力図はどうなっているのでしょうか?調べてみました。
ルール
今回対象にするのは保有機数50機以上の旅客航空会社ですが、国を代表するフラッグキャリアに限り30機以上を対象にします。とは言っても対象機数に満たなくてもそれに近い機数であれば有名どころの会社は対象にしている場合もありますし、逆に抜けてる会社があるかも知れませんがご容赦下さい。フェデックスなどの貨物航空会社は旅客会社に比べて機材情報が少ないので対象外にしますが、旅客航空会社が保有する貨物機は比較対象にします。
機材についてはボーイングとエアバスのみを比較対象とし、エンブラエルやスホーイなど他の会社は仮に両者の資本が入った会社でも対象外です。但し、ボーイングに吸収された旧マクドネル・ダグラス機はボーイング機、A220になった旧ボンバルディアCシリーズはエアバス機としてカウントします。機材については787やA350などの双通路機を大型機、737やA320などの単通路機を小型機として分類してそれぞれの割合を比較します。
比較する航空会社についてですが、LATAMやエアアジアのように国籍の関係で会社は別でもブランドが統一されている場合は同一会社として扱います。逆にエールフランスKLMや、カンタスとジェットスターのように資本は同一でもブランドや運営は別な場合、ヴァージングループのようにブランドは同じでも経営や資本が別の場合は別会社として扱います。
なお、各航空会社の機材データについては基本的に月刊エアライン2018年11月号の特集を参考にしました↓
①全部ボーイング
ダグラスが弱体化してボーイングに吸収され、エアバスが今ほど力を持っていなかった頃はボーイングだけと言う会社は珍しくありませんでした。コンチネンタル航空やKLMオランダ航空、カンタスやJALなどエアバス機は買わず吸収した旧マクドネル・ダグラス機を含めてボーイングのみと言う会社は結構ありましたが、現在ではそう多くはありません。
現在ボーイング機のみの会社で一番大きいのはは737オンリーのサウスウエスト航空。まあここは単一機材がセオリーの元祖LCCですから当然と言えますが、その737だけで735機保有は圧巻です。他にも737オンリーで機材の多いLCCはアイルランドのライアンエアーやブラジルのGOL、UAEのフライドバイが挙げられます。この他はカナダのウエストジェットは767と737の2機種体制ですがボーイングだけ、ノルウェージャン・エアシャトルも機材は787と737の2機種を保有しておりボーイングだけの構成ですが、将来的にはA321neoも導入予定ですので、いずれこのグループからは外れます。
次にフルサービスキャリアでボーイングオンリーの会社ですが、メキシコのアエロメヒコ、エルアル・イスラエル航空、ロイヤル・エア・モロッコ、アイスランド航空、LOTポーランド航空、ケニア航空、厦門航空、山東航空の8社。このうちエルアルはアメリカとの強固な同盟関係もあってその歴史の殆どでアメリカ製の旅客機を使い続け、特にジェット時代になってからは1機だけMD-11をリースで使った以外は全てボーイング機という筋金入りのボーイング派です。また、エアバスのおひざ元である欧州でもボーイングのみのフラッグキャリアが2社いるのは特筆されますが、昔に比べるとボーイングだけ、という会社はずいぶん減ったなと言う印象です。
②全部エアバス
昔はエアバスのみ、という会社はいませんでしたが、旧ダグラス機をメインに使用していた会社や欧州の航空会社を中心にエアバスに鞍替えするケースが目立っています。また、近年ではLCCがエアバスA320シリーズを採用する例が目立っており、単一機材に統一というLCCのビジネスモデルも相まってエアバスのみと言う会社は実は結構多いんです。
まずフルサービスキャリアでエアバスだけと言う会社ですが、イベリア航空、フィンエアー、アイルランドのエアリンガス、ブリュッセル航空、TAPポルトガル航空、南アフリカ航空、スリランカ航空、天津航空、吉祥航空、四川航空の10社。将来的には737NGをA320neoに置き換える予定のスカンジナビア航空もこのグループに入る予定です。また、中国でエアバスのみの会社4社のうち3社は海南航空グループに属していますが、海南本体はボーイング寄りな機材構成なのが面白いところです。
次にLCCですが、これは本当に多いです。まずボーイングのおひざ元アメリカではジェットブルー、スピリット航空、フロンティア航空の3社がA320シリーズだけ。かなりアメリカ市場に食い込んできています。さらにアジアLCCの雄、エアアジアもA330とA320のエアバス機のみでボーイング機は創業期に737を使用しただけ。また、イギリスのイージージェットも創業後しばらくは737シリーズを使用していましたが、途中でエアバスに鞍替えして現在はA320シリーズのみの運航です。
この他LCCでエアバス機のみの会社はメキシコのボラリス、インテルジェット(SSJ100も購入してます)、スペインのブエリング航空、ハンガリーのウィズエアー、インドのIndiGo、フィリピンのセブパシフィック航空、ベトナムのべトジェットエア、中国の春秋航空、北京首都航空が挙げられ、LCCでエアバス機だけという会社は14社とボーイングを引き離しています。ちなみに、ルフトハンザ傘下のユーロウィングスも機材の殆どはエアバス機なのですが、なぜか1機だけ737-800を運航しているため、後述の⑥のグループに入ります。
③大型機ボーイング、小型機エアバス
「そんな奇麗に分かれるもんなの?」と思われるかもしれませんが、意外や意外、このタイプの会社は結構あるんです。代表的なのがカンタス系列のLCC,ジェットスター。かつては短距離はA320、中長距離はA330とエアバスオンリーの構成でしたが、近年中長距離機をB787に置き換えたため、このグループになりました。また、ニュージーランド航空もかつてはボーイング機のみの構成でしたが、小型機をA320に置き換える一方、長距離路線は引き続きボーイング製の777や787を購入したため、奇麗に分かれたという経緯があります。この他にもエアインディアとパキスタン航空がこのグループに該当します。
④大型機エアバス、小型機ボーイング
では逆パターンはどうでしょうか?実は意外とこのグループに該当する会社も何社か存在するんです。小型機は長年慣れ親しんで互換性もある737を使い、大型機はエアバスに置き換える、というタイプの会社が多いですね。
代表的なのはマレーシア航空。以前は大型機、小型機共にボーイング製の割合が多かったのですが、大型機に関してはエアバス機の比率が増えてきたところに、2014年にボーイング777の連続事故(もっとも、これはボーイングの責任ではないですが)が発生し、2016年までに全機売却。結果、大型機はエアバス、小型機はボーイングという機材構成になりました。また、インドネシアのLCC、ライオンエアも元々は737オンリーの機材構成でしたが、中距離路線用にA330を購入した結果、このグループになりました。この他、アルゼンチン航空がこのグループに該当します。
⑤大型機ボーイング、小型機両方
このグループの代表格はユナイテッド航空でしょう。元々ユナイテッドはボーイングとは同根企業だったうえに、合併相手だったコンチネンタル航空もボーイングのみの機材構成とボーイング寄りな会社でしたが、今でもエアバス機はA320シリーズのみでボーイング機が主力です。ただし、そのユナイテッドもA350を45機発注していますので、将来的には⑨のグループに移行する見込みです。
この他ロシア航空と30機以下ではありますがウズベキスタン航空も該当しますが、実はこのグループ、該当するのはこの3社しかありません。大型機はボーイング、エアバスともに複数機種あるのに対し、小型機に関してはボーイングは737のみ(生産中止になった機種も含めると717、757もあり)、エアバスもA220が加わるまではA320のみとバリエーションが少なく、航空会社も機材統一の観点からどちらか片方に集約する傾向にありますので、今後もあまり出てこないグループと言えます。ちなみに、ANAも少し前まではこのグループでしたが、空飛ぶサンパチ君A380を導入してエアバスの大型機も運航するようになったため、後述する⑨のグループに移動しました。
⑥大型機エアバス、小型機両方
現在はスカンジナビア航空がこのグループに該当しますが、前述の通り、将来的にはエアバス機に統一される予定で②のグループに移行します。あとは深圳航空が大型機はA330型4機だけですが、一応このグループに該当します。また、767が退役して大型機はA330のみになったハワイアン航空も今はこのグループですが、将来的にA330は787に置き換えられる予定ですので、⑤のグループに移行します。ちなみにハワイアン航空はボーイングの小型機は717のみという、レアパターンな航空会社です。
こちらのグループも⑤のグループと同じ理由で今後出てくることはあまりないでしょう。
⑦大型機両方、小型機ボーイング
⑤や⑥とは打って変わり、このグループは該当する会社が結構出て来ます。つい最近A350が納入されたJALも①のグループからこちらのグループに移行しました。
このグループの代表格はKLMオランダ航空。ヨーロッパの航空会社の中では珍しく、伝統的にボーイングと親密な航空会社ですが、エールフランスとの統合後はA330がフリートに加わっています。と言ってもA330は5機だけであり、ボーイング優位の機材構成に変わりはありません。また、スペインのチャーター会社、エアヨーロッパもこのグループに該当します。
また、中東ではオマーンエア、アフリカではエチオピア航空、アジアではガルーダ・インドネシア航空やチャイナエアライン、海南航空、上海航空が該当します。オセアニアではカンタス、ヴァージン・オーストラリアの2大エアラインが機材構成は違えど仲良くこのグループに入りました(会社自体は仲良くはないですが)
しかし、このグループは将来的には数を減らすかもしれません。737MAXの連続事故に伴う運航停止でA320に切り替える動きが出ているためです。事故の当事者の一人であるエチオピア航空は737MAXの発注をキャンセルしましたし、ガルーダも発注取り消し。チャイナエアラインも次期小型ジェット機としてA321neoを発注しましたので、将来的には⑧のグループに移る事が見込まれます。ボーイングにとって737MAXを諦められないのはこういった事情もあるんです。
⑧大型機両方、小型機エアバス
実はこのグループに該当する航空会社は今までのパターン以上に多いんです。欧州の有力キャリアが小型機をA320に統一したり、以前は737を使用していた会社が置き換えを機にA320に鞍替えしたりするケースが多い為です。これも単通路機がエアバス優位という今の航空機情勢を示していると言えます。
欧州ではルフトハンザ、エールフランス、ブリティッシュエアウェイズといった三大キャリアが揃ってこのグループ。大型機に関してはルフトハンザはエアバス優位、エールフランスは中間、BAはボーイング優位と差はありますが、小型機はA320に統一している点は共通です。この他欧州ではルフトハンザグループのオーストリア航空とスイスインターナショナルエアラインズ、その他ではアリタリア航空の合計6社が該当します。
中東でもこのパターンの会社は多く、エティハド航空とカタール航空、サウジアラビア航空、オマーンエア、クウェート航空、ガルフエアの6社が該当します。アジアではアシアナ航空、エバー航空、フィリピン航空、ベトナム航空が該当。また、子会社運行分も含めるとタイ国際航空とキャセイパシフィック航空もこのグループです。
また、南米では二大航空グループのLATAMとアビアンカもこのグループ。LATAMの前身のうちブラジルのTAMはエアバス寄り、チリのLANはボーイング寄りでしたが、近年はLANもエアバス機の比率が増えていました。こうしてみると小型機をA320シリーズに統一する会社はかなり増えて来ている事が分かりますね。
⑨大型機も小型機もごちゃ混ぜ
このグループは保有機数が多くなればなるほど該当する会社が増えてきます。数百機にもなるとどちらかのメーカーで統一してもスケールメリットは小さく、逆に両方の機種を保有して両者を競わせた方が値引きやリスクヘッジの観点から有利な為です。
実際、アメリカン航空とデルタ航空、中国国際航空、南方航空、東方航空とアメリカの三大メガキャリアのうち2社と中国の三大メガキャリアは両方の機種を保有してますし、基本大型機のみですがエミレーツ航空とシンガポール航空も両方の機種を導入しています。ちなみにエミレーツは2機種に絞られていますが、その2機種がA380と777。絞り方おかしいでしょ・・・
その他アエロフロートやエジプト航空、ターキッシュエアラインズや大韓航空もこのグループ。また、大型機のみですがヴァージンアトランティック航空、小型機のみですがアラスカ航空とS7航空もこのグループに該当します。また、以前は⑤のグループだったANAもA380導入で大型機もボーイング・エアバス両方の機種を保有する事になりました。
⑩ボーイング?エアバス?両方ないわ!
冷戦時代はこのパターンは珍しくはありませんでした。ソ連を中心とした東側諸国は西側の機体を買わないのが当たり前だったからです。
しかし冷戦崩壊後はアエロフロートを含めた旧東側のキャリアはこぞって西側の機体を買うようになり、このグループの航空会社はほとんどいなくなりました。例外はスカイウエストなど元々小型機のみの運航なアメリカの大手地域航空会社くらいです。
しかし、「フラッグキャリアで30機以上」と言う縛りを外せば一社だけ、ボーイングもエアバスも使ったことのない航空会社が存在します。北朝鮮の高麗航空です。政治的な理由で西側の新造機が買えない上に、イラン航空のように中古機購入のツテもない高麗航空は事実上ロシア製の機体しか調達できません。そのロシア製の機体も稼働しているのは比較的新しい4機だけで、後は野ざらしらしいので西側の機体を買えたとしてもまともに飛ばせないかも知れませんが・・・
まとめ
いかがでしたでしょうか?こうして見ると一口にボーイング・エアバスと言っても、その機材構成は航空会社によってさまざまなパターンがあるのが分かります。どちらか片方だけ、と言うケースは少ないですが、航空会社の機材戦略や路線特性、メーカーとの関係や時には外交関係も絡んで機材構成が分かれているのが分かりますね。
また、エアバス機のみ保有と言う会社や以前よりエアバス機の比率が増えている会社が多い事も分かるのではないでしょうか。特に単通路機ではエアバスの方が優勢になっていますので、小型機はA320シリーズに統一、という会社が欧州を中心に増えている事も伺えます。逆に737MAXで躓いたボーイングはただでさえ劣勢の単通路機市場で更に不利になってしまいましたので、是が非でも早期に運航再開させなければエアバスとの差は開くばかりです。
とは言え、ボーイングも787などの大型機ではエアバスよりも優位ですし、長年の実績や顧客との信頼関係でまだまだ多くのユーザーがいますので、今のところはエアバスが若干優勢だがまだまだ互角、と言ったところでしょうか。こういった観点からも航空会社の機材構成を見るのも面白いと思いますよ。