〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

4年経っても好調維持の北陸新幹線と3年目にして苦境が続く北海道新幹線。どうして差がついてしまったのか

3月16日のダイヤ改正で北海道新幹線の青函トンネル区間の最高速度が140km/hから160km/hに引き上げられたことに伴い、東京ー新函館間の最速列車の所要時間が4時間2分から3時間58分に短縮されました。時間にしてわずか4分の短縮ですが、以前より新幹線と航空の利用者数が逆転する境目が「新幹線の所要時間4時間」と言われており、航空機との競争で劣勢に立たされている北海道新幹線にとって、この「4時間の壁」を切る事は悲願でした。心理的にも「4時間台」よりも「3時間台」と言われた方が短く感じますので、インパクトは大きそうに思えます。


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しかし、実際の北海道新幹線は開業初年度の2016年度は一日平均6200人、乗車率32%、2017年度は5000人、26%、2018年度は4700人、24%と下がる一方です。開業前の青森―函館間の鉄道利用者数3800人に比べればまだ多いですが、今までの整備新幹線の開業効果に比べると勢いはありません。期待されていた道南地域への経済効果も2016年度は390憶円に対し2017年度は220億円、2018年度は110億円と漸減しており、これまでの新幹線に比べるとその波及効果は限定的。収支面でも2017年度は96億7900万円の収入に対し営業費用195億5600万円、差し引き98億7700万円の赤字と、JR北海道の経営に貢献するどころか逆に足かせになってしまってます。今後は老朽化した青函トンネルの補修費用などもありますので、北海道新幹線の苦境は当面続きそうです。


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一方、開業4周年を迎えた北陸新幹線は好調が続いています。開業4年目の利用者数(上越妙高~糸魚川間)は2月28日現在で840万7千人。初年度が897万人、開業ブームが落ち着いた2016年度でさえ8%減の829万人とほぼ横ばいか微増を続け、利用者数も開業前の3倍に達するなど大きな効果を上げており、北海道新幹線とは対照的です。北陸新幹線の方は収支が公開されていないので比較はできませんが、北陸新幹線のせいでJR東日本や西日本の業績が下がったというニュースはないので黒字基調なのではないかと思います。2023年には敦賀延伸開業を控えており、こちらの方は今後も好調が続きそうです。
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さて、1年の差で相次いで開業した北陸新幹線と北海道新幹線ですが、その明暗はくっきりと分かれています。これまでの整備新幹線は開業後利用者は大幅に増加しており、例えば東北新幹線の盛岡~八戸間は開業前の6割増、九州新幹線の博多~新八代間は38%増加しました。比較的開業効果が薄かった東北新幹線の八戸~新青森間でも22%増加と「新幹線開業=乗客大幅増で地方活性化」というのがこれまでの構図でした。しかし北海道新幹線に関してはこれまでの新幹線に比べると、今のところそれほど効果は大きいとは言えません。北陸と北海道はなぜここまで差が付いてしまったのでしょうか。

 

1.延伸地域の人口と観光資源の差

北陸新幹線の延伸区間である長野~金沢間で直接恩恵を受ける地域は長野県北信地域(飯山市、中野市など約8万4千人)、新潟県上越地方(上越市・妙高市・糸魚川市の約26万5千人)、富山県全域(約105万人)、石川県金沢市とその周辺自治体(白山市、野々市市、津幡町、内灘町、かほく市。約73万人)、合計212万9千人と大きなもの。さらに列車の乗り継ぎや周遊観光などで石川県の他の地域(約41万2千人)や福井県苓北地域(約64万人)、岐阜県飛騨地方(14万4千人)にも間接的な恩恵がある事を考えると、北陸新幹線の影響を受ける地域の人口は330万人以上になります。

これに対し北海道新幹線の新青森~新函館北斗間で直接恩恵を受ける地域は青森県東津軽郡のうち平内町以外の2町1村(1万1千人)、北海道渡島総合振興局(39万6千人)と檜山振興局(3万6千人)の合計44万3千人。北陸新幹線の5分の一程度です。函館都市圏と青森県以南の北東北との交流人口増加など、開業による経済効果は北海道でもあったものの、北陸新幹線に比べるとそもそもの人口差が大きいので開業後の影響に差が出るのも仕方ない事なのかと思います。

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加えて両者の観光資源にも大きな差があります。北陸新幹線沿線には野沢温泉や宇奈月温泉、さらに金沢から少し足を延ばせば和倉温泉、加賀温泉郷と言った日本有数の温泉地があり、白馬や妙高と言ったスキー・避暑地に立山黒部アルペンルート、黒部峡谷のような自然、少し離れますが世界遺産五箇山・白川郷の合掌集落など、観光資源は豊富で旅行会社も北陸新幹線沿線を基点にしたツアーコースを組みやすい地域です。

特に現在の北陸新幹線の終着駅である金沢は開業以降、宿泊者数が約88万人増え、外国人観光客が9万人強から45万人弱と4倍以上も増加しており、「金沢一人勝ち」と言われる程の好調ぶり。金沢ではホテルの開業ラッシュが続き、オフィスビル需要も地方都市にしては堅調な伸びを見せています。

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これに対し、北海道新幹線には地域ブランド調査でトップ争いをしている函館市があり、観光資源としてのポテンシャルは北陸新幹線と互角のように思えます(金沢市は9位)。しかし、函館以外に集客力の高い観光地は沿線にはなく、小樽や洞爺湖、登別と言った道央地域の主要観光地へは函館から遠く離れており、観光の回遊性と言う面では弱いです。函館市自体も観光客数は増えているものの商業売り上げはピーク時の3分の2に減少、人口も1985年の34.2万人から2015年は26.6万人と2割以上も減少するなど都市自体の活力は落ちており、北海道新幹線を函館市の活性化に生かせているとは言えません。

 

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2.首都圏からの距離と所要時間の差

開業前の東京~金沢間のJRの所要時間は平均4時間程度、最速で3時間40分台で結んでいましたが、新幹線開業後は最速列車の「かがやき」でで2時間28分、長野~金沢各駅停車型の「はくたか」でも3時間前後と1時間以上も短縮されました。距離的にも東京~富山間で約390km、東京~金沢間で約450kmと首都圏からも比較的近く、日帰りも可能な所要時間と言うインパクトは大きなものでした。物理的な距離に加え、新幹線開業で心理的な距離が縮まったのも開業後の利用者増加に貢献したのではないかと思います。

 

一方の北海道新幹線ですが、開業前の東京~函館間の鉄道の所要時間は最速で5時間22分。東京~博多間よりも長い上に乗り換えが必要となると鉄道が選択肢になる可能性は低いと言えます。開業後、東京~新函館北斗間は最速列車で4時間2分、平均所要時間は4時間19分と北陸と同じく1時間以上の短縮になりました。しかし、新函館北斗駅は函館駅から18km離れており、函館まで行くには在来線の「はこだてライナー」に乗り換える必要があります。このため東京~函館間のトータルの所要時間は開業後は4時間29分、今回のダイヤ改正でも乗り換え列車の時間を含めると最速でも4時間26分と速達効果はそれほど大きくはありません。

もっとも、新函館北斗駅に降りた利用者の多くは観光バスやレンタカーに乗り換えたり、マイカーで行き来しているようなので函館都市圏全体で見れば速達性は十分ある、とも言えます。しかし、函館空港は函館市内から9km程度しか離れていないので市内へのアクセスと言う面ではむしろ航空機より不利。北海道全体で見ても道外の来訪者の北海道への移動手段は航空機が80.6%、新幹線が8.9%と依然圧倒的航空有利で、函館に限っても関東~函館間の航空と新幹線の割合はほぼ半々。東京から4時間以上かかる現状では、少なくとも関東~北海道の旅客流動では北海道新幹線は主要な選択肢になっているとは言い難いです。

とは言え、東北地方からの北海道新幹線の利用者は関東地方とそう大差ない規模ですし、北東北~北海道になるとむしろ新幹線の割合が多くなります。こちらは函館~東北の区間に航空路線が存在しないのと、首都圏よりも距離的に近く、時間的にも心理的にも短縮効果が大きかったのではないでしょうか。

 

・北海道新幹線開業後における道内旅客流動調査結果(国交省北海道総合政策部作成)

http://www.mlit.go.jp/common/001193700.pdf#search=%27%E5%8C%97%E6%96%97+%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85%E6%95%B0%27

  

3.開業前後のインパクトの差

北陸新幹線も北海道新幹線も1973年に整備計画が決定された「整備新幹線」ですが、その後国鉄の経営悪化で計画は凍結され、1988年以降、一部の区間で建設が始まりました。北陸新幹線は高崎~長野間の着工が先に開始され、その後長野~富山間が2000年に着工、残る富山~金沢間が着工されたのは2005年でした(うち石動~金沢間は既に着工済)一方の北海道新幹線は2005年に新青森~新函館北斗間が着工されました。しかし着工が決まるまでは双方紆余曲折があり、北陸も北海道も一部区間のスーパー特急方式での着工になりかけたり、他の区間よりも着工順位が後回しにされたりと、長い年月をかけて開業にこぎつけたという経緯があります。

開業に至るまでの経緯や着工時期はそう変わらないのですが、開業時のインパクトは北陸の方が大きなものでした。北陸は開業を機に新型車両のE7系を新開発して投入し、列車名も「かがやき」「はくたか」と、長野までの列車「あさま」と別の名前が用意された事で「新しい新幹線が開業する」という世間の期待感は大きなものになり、開業フィーバーにも良い影響を与えたのではないかと思います。

一方の北海道新幹線も開業を機にH5系が投入されましたが、これ自体は北海道新幹線開業の5年前に既に投入されたE5系と同型のもの。列車名も既に東京~新青森間で使用されている「はやぶさ」がそのまま使われており、これでは「東北新幹線の延長」と見られても仕方なかったのではと思います。開業時のインパクトの違いもその後の開業効果の持続に影響があったのかも知れません。

 

4.JRと沿線自治体の誘客活動の差

 北陸新幹線開業で「独り勝ち」と言われた金沢市ですが、実際には開業前から周到に準備を進めていた事も利用者増加に差をつけました。例えば金沢駅のシンボルともいえる「鼓門」ですが、実は2005年には既に完成していました。2005年と言うと富山~金沢間が着工された年ですから、金沢市はその前から新幹線を見越して整備を進めていたのです。開業前には駅前の整備は準備万端整えており、開業前にもキャンペーンやプロモーションで新幹線と金沢市のPRに努めました。元々の金沢のポテンシャルが高かったのも大きいと思いますが、金沢の好調は事前の準備が功を奏した部分も大きいです。JR西日本もこうした沿線自治体の努力に応え、切れ目なく北陸のキャンペーンを打っており、開業5年目を迎える今年は1年半にわたる長期キャンペーンを計画しています。北陸の場合はJRと自治体の連携と誘客活動が上手く行ったケースと言えるのではないでしょうか。

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実は開業のかなり前にできてたんですよね・・・


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一方の北海道新幹線。今のところ最大の受益者であるはずの函館市は金沢市程集客には積極的とは言えません。新幹線駅が隣の北斗市にある事で開業への熱が金沢市程盛り上がらない事、今のところ北海道新幹線の波及効果は道南地域のみの為、北海道が一体となった観光キャンペーンや集客対策を打ちにくい事などが原因なのかなと思います。しかし、道南地域からの売り込みは金沢はおろか対岸の青森県に比べても少ないのは気がかりであり、市民レベルでも新幹線開業を機に交流を活発化させようという動きは下火になっているようです。木古内駅併設の道の駅の好調など、ミクロ的には新幹線開業を躍進につなげた場所もありますが、沿線全体では「どこか他人事」と言う感じがするのは私だけでしょうか。

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以上、北陸新幹線と北海道新幹線に差が付いた理由について考察しました。素人考えの考察ですので、調査が甘い部分や抜け落ちた部分、間違っている部分があるかも知れませんが、全般的には元々の地域の地力の差や最大の市場である首都圏からの距離の差という、地元の努力で埋められない差があるのが大きな理由だと思います。しかし、沿線自治体の積極性や連携の部分でも北陸と北海道では温度差があり、この部分に関しては自助努力で差を埋めることができるのはないのではないでしょうか。

苦境にある北海道新幹線ですが、この時期だからこそ沿線自治体とJRが連携して、誘客の方法を探る時期に来ているのではないでしょうか。「北海道新幹線がスピードを上げればシェアを上げれる」とJRも自治体も考えている節がありますが、その実現には青函トンネル区間の貨物列車がネックとなっており、一部報道である海上輸送への切り替えも農産物などの輸送に支障が出る農業関係者から反発の声が上がっており、早期の解決は望み薄です。

北陸新幹線が当初予想以上の集客に成功したのは金沢市を始めとした沿線自治体の準備やプロモーションが効果を上げ、「北陸に行きたい」と思わせた事が大きかったので、まずは「新幹線で北海道に行きたい」と思わせるキャンペーンを打ち、首都圏や東北地方へのPRや売り込みを強化するのが先決ではないでしょうか。スピードアップも大切ですが、まずは自分たちで利用客を呼び込むという姿勢が大事なのではないかと思います。将来、札幌まで延伸されれば新函館北斗駅は「途中駅」となってしまい、今以上に注目度は薄れてしまいます。「終着駅」のネームバリューがある今のうちに新幹線を地域おこしや集客に利用し、地域の魅力を高めておかないと本当に道南地域は「素通り」されてしまいかねませんし、将来の為にも必要な事なのではないでしょうか。

 

 

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737MAX、全世界で運航停止。ボーイングとFAAの「3日遅れ」の決断がもたらした代償

先日のエチオピア航空機墜落事故から始まる737MAXに関わる記事の続報です。まずは3月12日以降の各国の対応からご紹介します。それ以前の動向は以前の記事もご参照ください。

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まずは3月12日(日本時間13日朝)、EASA(欧州航空安全局)が欧州での737MAXの飛行を一時停止する措置を取りました。事故原因が判明するまでの間としていますが、FAA(アメリカ連邦航空局)に次いで世界の民間航空に影響力を持つEASAが飛行停止措置を取ったことで「737MAX包囲網」は更に狭まってしまいました。しかし、この時点ではまだボーイングもFAAも737MAXの安全性に自信を持っており、運航停止は考えていないとのスタンスでした。


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ところが翌13日、FAAは一転して737MAXの飛行停止を指示しました。ボーイングがFAAに運航停止を提案し「事故現場での新たな証拠や衛星データの分析に基づいて運航停止を判断した」としていますが、中国や欧州などの飛行停止措置や、737MAXの安全性を不安視した利用客の声をかわし切れなくなったのも大きいと思います。12日にトランプ大統領が「現代の航空機は複雑になり過ぎている」「複雑さが危険を生み出す」と、意味深なツイートをしたのも、暗にボーイングに運航停止を求めたものだったのかも知れません。ボーイングのCEOは大統領に直接電話して安全性をアピールしたそうですが、結局、劣勢を覆すことはできませんでした。

 

さて、FAAの飛行停止命令でようやく全世界が運航停止で足並みをそろえることになりました。14日には国土交通省も737MAXの運航停止措置を取っています。

しかし、事故当初は「安全性に絶対の自信を持っている」と言い張って飛行停止の措置を取らなかったボーイングに対する不信感は想像以上に広まっているようです。通常の事故調査は機体の製造国であるアメリカのNTSB(アメリカ国家運輸安全委員会)が調査の主体となるケースが多いのですが、今回のエチオピア航空の場合はBEA(フランス航空事故調査局)が調査を行う事になり、ブラックボックスもパリのBEAに送られて解析されることになりました。中国や欧州が737MAXの飛行停止措置を相次いで行う中、FAAは安全性を表明し続けて飛行停止措置を行わなかった事でエチオピア航空やエチオピア政府が不信感を持ち、「事故原因の特定で信頼できない」と判断したためです。

また、ノルウェーエアシャトルはボーイングに対して補償を求める他、ベトナムのべトジェットエアも737MAXの発注キャンセルを検討しています。ライオンエアの発注キャンセル検討と合わせると、仮に両社が発注キャンセルを行えば400機もの受注が消えることになります。現在はボーイング機が大半を占めるエチオピア航空も、今後のボーイングの対応次第ではエアバス機に全面的に鞍替えするかもしれません。運航停止までの「3日間の遅れ」は、ボーイングからの顧客離反を招きかねない事態になりつつあります。

 

ボーイングが737MAXの飛行停止措置にすぐに踏み切れなかったのは、737MAXがボーイングにとって最大の稼ぎ頭であり、4636機の受注残を抱える737MAXの製造が止まればボーイングの経営に計り知れない損失を与えるからです。737の月産レートは52機とボーイング機のラインナップで群を抜いて多く(787は12機→2019年に14機に引き上げ、777は4機、747-8は0.5機、767は2機)製造がストップすればその影響は他機種以上に大きく、工場の設備や人員は丸々コストになってしまいます。さらにライバルのエアバスA320neoシリーズの受注は約6500機と737MAXは水をあけられている状態であり、生産を止めたら新規受注が見込めなくなってその差はさらに広がりますので、ボーイングとしても止めるに止められなかった部分はあると思います。

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しかし、結果的にはその対応が顧客や利用者の不信感を招いてしまいました。いくら「安全に自信を持っている」と言っても具体的なデータもなく、他国が次々と飛行停止措置を取る中頑として飛行停止を求めなかったボーイングの姿勢は、連続事故という深刻な事態を軽視したと取られても仕方なかったと思います。737MAXのオートパイロットシステムの問題点を指摘したパイロットも複数いたそうで、これが本当ならボーイングは737MAXの問題点に十分対処していなかった可能性すら出て来ました。事故後、ボーイングの時価総額は400億ドル(約4兆4000億円)も下落しており、ボーイングの事故後の対応は裏目に出てしまった形です。

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ボーイングには一刻も早く事故原因を究明し、必要な対策を施して737MAXの安全性を証明する必要があります。また、航空当局や顧客である航空会社に対し、誠実な対応と納得のいく説明をして信頼を取り戻す努力をしなくてはなりません。ここまで事態が深刻になった以上、「安全だ」と言い続けるだけでは失った信用は取り戻せません。これ以上対応が後手に回れば、737MAXを見限ってエアバス機に乗り換える顧客は更に増えるでしょうし、今後の受注活動でもエアバスに水を空けられる一方です。1967年の就航以来、半世紀以上に渡って改良を繰り返しながら世界最多の生産機数を誇るジェット旅客機となったボーイング737。今回の事故は737シリーズ最大の危機であり、ここで事故原因を突き止められず、対応を誤ってしまえば737シリーズそのものの歴史に幕が下ろされかねません。ボーイングには早急な対策と誠実な対応を望みたいところです。

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エチオピア航空の737MAX墜落事故、中国当局の運航停止指示で今後はどうなる

※3月12日:その後の各国の対応と運航停止の可能性について加筆しました。

 

3月10日、アディスアベバ発ナイロビ行きのエチオピア航空302便が離陸6分後に消息を絶ち、その後墜落と乗員乗客157名の全員死亡が確認されました。737MAXの墜落事故は昨年10月29日のライオンエア610便に続いて2件目、前回の事故から半年もたたないうちに、再び大惨事が起こってしまいました。まずは今回の事故で亡くなられた方とご家族、関係者の方に深く哀悼の意を表します。


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詳しい事故原因は今後の事故調査を待たなければいけませんが、今回の事故とライオンエアの事故は同じ機種と言うだけでなく、新造から間もないうちに起きた事故である事、また離陸してしばらくした後に急にレーダーから消え、墜落したという共通点があります。憶測で語ってはいけないとは思いますが、両方の事故に何か共通した原因がある、と考えても不思議はないのではないでしょうか。


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そしてこの連続事故は航空業界に大きな影響を与えることになりそうです。今回の事故の当事者であるエチオピア航空は同型機4機の運航を停止すると発表しました。事故を起こしたのと同型の機体を運航するわけには行かないでしょうから、これは妥当な措置だと思います。
trafficnews.jp

 

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※画像は737-800で代用

しかし、それ以上に大きなニュースとなったのが中国当局の737MAXの商業運航停止を指示した事でした。中国民用航空局(CAAC)は国内航空会社が運航する737MAXの全便運航停止を命じました。中国国内で運航されている737MAXは96機。現在世界中で納入されている737MAXは350機程なので、3割近い737MAXが地上に留め置かれることになります。

今のところアメリカやインドネシアなど他の国は中国に追随する事無く、運航を続けるようですが、アメリカ運輸安全委員会(NTSB)の元委員長も2つの事故の類似性と、新型機が5か月に2機も墜落した事が極めて異例の事態であることは認めており、今後の事故調査で両方の事故に何らかの重大な共通点があれば、世界的な運行停止になる可能性もあります。いずれにしても今後の調査が待たれるところです。

 

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さて、今後737MAXが世界的に運航停止となる可能性があるのでしょうか。航空事故の歴史を見ても、全機運航停止になるような事態はそう多くはありませんが、いずれも大きな影響を航空業界に与えています。古くはコメットの連続墜落事故で全世界のコメットが運航停止になった例や、1979年のアメリカン航空191便墜落事故の際は事故機のDC-10の設計不良が疑われたことでFAA(アメリカ連邦航空局)がDC-10の形式証明の効力を取り消し、事故原因が判明するまで1か月以上世界中でDC-10が運航できなくなった例があります。記憶に新しいところでは2013年1月のJALとANAのボーイング787のバッテリー発火事故を受けてFAAが耐空性改善命令を出し、全世界で787の運航が3か月以上停止された例もありました。

一度運航停止になってしまうと航空会社の経営に大きな打撃を与え、機材繰りができず欠航便が大量に出て多くの乗客に影響が出てしまいます。しかし、そのまま運航を続けて事故が起きてはそれこそ取り返しのつかない事態になり兼ねませんから、時には運航停止は必要な事であると思います。実際、DC-10の運航停止の際は事故原因は設計不良ではなく、航空会社の不適切なエンジン整備が原因でしたが、同様に亀裂が入っていた例が多く見つかったため、結果的に運航停止にしたことが同様の事故を防ぐ結果となりました。

中国以外の国で737MAXの運航停止が行われていないのは、事故原因と疑われる個所がまだ特定できておらず、設計不良を疑う証拠がまだ出ていないからだと思います。しかし新型機が立て続けに事故を起こしたこと自体異例の事ですし、737MAXはエアバスA320neo同様、何千機ものバックオーダーを抱える人気機種であり、問題があるのであればまだそれほど就航機数が多くない今のうちに解決した方がいいのではないかと思います。今後の事故調査で疑わしい問題があるのであれば、躊躇する事無くいったん止めるべきだと思いますし、それは今後の737MAXの発展に必要な事なのではないでしょうか。いずれにせよ、一日も早く事故原因が解明され、安心して737MAXに乗れるようになることを祈りたいです。

 

【3月12日追記】

中国に引き続き、インドネシアの航空当局も737MAXの運航停止を指示しました。インドネシアは昨年墜落事故を起こしたライオンエアやフラッグキャリアのガルーダインドネシア航空が737MAXを運航しており、その影響は大きなものです。

さらにシンガポールの航空当局も現地時間12日午後二時以降の737MAXの運航停止を命じました。こちらは国内航空会社だけでなく、シンガポール上空での運航全てでの運航停止を命じるもので、シンガポール国外の航空会社の737MAX乗り入れや上空通過も不可能になります。737MAXの有力市場であるアジア地域での「737MAX離れ」は日を追うごとに深刻になってきています。

 

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一方、墜落したエチオピア航空機からはフライトレコーダーなどが改修されました。今後解析が進められることになりますが、ライオンエアの墜落事故では、機体の姿勢制御時に迎角を検出する「AOAセンサー」に問題があったことが判明しており、FAAは11月に「耐空性改善命令(AD)」を発行しています。今回の事故でも同様の問題の可能性が出てくれば、改修が終わるまで運航停止が命じられる可能性もあるのではないでしょうか。

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そして、737MAXに対する乗客の信頼はかなり揺らいでいるようです。今のところFAAやアメリカの航空会社は「耐空性要件は満たしている」として運航停止は考えていないようですが、「自分の乗る飛行機は737MAXではないのか」という問い合わせが相次いでいるようで、少なくともサウスウエスト航空は手数料なしで予約変更に応じているようです。短期間で2度も似たような理由で墜落事故が起こり、他国の航空当局が運航停止を指示する今の状況では、乗客が不安がるのも無理もない事ではないでしょうか。

ボーイング株は事故発生後12%も下落し、13日にロールアウト予定だった777Xの式典も延期しました。ボーイングにとっては自社の新型機に対する安全性が揺らいでいる今、今後の大きな稼ぎ頭となる737MAXの全面運航停止は絶対に避けたいでしょう。航空機が重要な輸出産業であるアメリカ政府も全面停止は回避したいところだと思います。しかし、いくら当局やメーカーが「安全」と言っても、事故原因が明確でない今の状態では対策の立てようもなく、利用客の懸念を払しょくはできないのではないでしょうか。

 

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では、今後737MAXが全面運航停止になる可能性はあるのでしょうか?最終的には他の国の航空当局にも影響を与えるFAAの判断次第だと思いますが、今後の事故調査で何らかの問題が浮上すれば、安全確保の為運航停止を命じる可能性は十分あります。

もう一つの可能性としては「安全性を懸念する国際世論に押されて運航停止命令に追い込まれる」事態です。737MAXが運航停止に至っていないのはおひざ元のアメリカやカナダ、欧州や中東の航空会社が今のところ運航停止の動きに追随していないからですが、今後欧米の航空会社でも運航停止の動きが広がれば、その動きに押されるように737MAXの運航停止命令を出すかもしれません。

 

個人的には北米での737MAX最大の発注者であり、創業以来737型機を使い続けていたサウスウエスト航空の動向がカギになると思います。現在サウスウエストは希望者に手数料なしで予約変更を受け付けていますが、今後自社の顧客から737MAX運航継続を望まない声が高まると、顧客重視のサウスウエストは自社のブランドイメージと顧客を守るため、自主的な運航停止を決める可能性があります。

737シリーズ最大の運用者であるサウスウエストが運航停止を決めてしまえば、他の航空会社も追随する可能性があり、なし崩し的にFAAも運航停止命令に追い込まれるかもしれません。しかしこのような形での運航停止はFAAの権威を失墜させ、737MAXに取り返しのつかないダメージを与えてしまいかねません。既にライオンエアが737MAXの納入を辞め、エアバスA320neoへの切り替えを検討しているという報道もあり、対応が後手に回れば回る程、737MAXへの信頼性を失い、更なる利用者離れ、顧客離れを招いてしまうと思います。ここは将来の事を考え、一旦運航を止めて全ての問題を洗い出す必要があるのではないでしょうか。

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機材のダウンサイジングが進む日本の航空会社。世界的には「国内線に大型機」って少数派なの?

お待たせしました。東海道交通戦争最終章、新作を発表しました。今回は最近の関東~京阪神間の航空路線の現状と、スカイマークの倒産→再建について。現在YouTubeでのみ公開ですが、近日中にニコニコでもアップする予定です。今後はYouTubeはスパム対策も兼ねて映像の比率を多くしますが、「静止画中心の方が見やすくていい」と言う方もいらっしゃいますので、ニコニコ版は静止画の比率を多くしてアップしようと思います。

 


東海道交通戦争最終章7「東京~大阪航空路線の現在、そして巨大飛行機の夢と挫折」

 

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さて、今回は機体のダウンサイジングが進む日本の航空業界について。

日本の航空業界は1970年代以降、急速に大型化が進みましたが、羽田空港の慢性的な発着枠不足や、伊丹空港が騒音問題でジェット機枠が制限されたことで、各社とも輸送力確保の為、より大型の機材を飛ばすことで対応せざるを得ませんでした。

その象徴ともいえるのが国内線専用機のボーイング747。1972年に日本航空がSR型を導入したのを皮切りに、2014年にANAが400D型を退役させるまでの32年間、使用された延べ機数はJALが21機、ANAが29機の合計50機(途中で国内線用に改修された機体も含む)。アメリカの航空会社が導入当初に大陸横断路線用に747を使用したケースや、カンタスが同時多発テロ後で国際線の需要が減った一方、ライバルのアンセット航空の破産で一時的に国内線の供給量が減った時期に747-400を国内線に廻したケース、中国国際航空、大韓航空などが国際線の間合い運用で747を使用したケースはありますが、日常的に国内短距離路線に就航させ、専用のモデルまで発注したケースは日本くらいです。

 

 

それ以外でもJALはDC-10、ANAはL1011トライスター、JASはA300を国内幹線や高需要ローカル線に集中的に投入し、日本の国内線は大型ジェット機が飛び交うのが当たり前の光景となりました。その傾向が最も顕著だったのは1990年代ではないでしょうか。45・47体制廃止後航空需要の伸びが一番大きかった時期であり、大抵の空港のジェット化が完了したり、羽田空港の沖合展開や関西空港開港などで国内線の発着枠が増加した事もあって、参入の縛りが無くなった各社がお互いのドル箱路線に進出して一番国内線が拡大した時期でもあったと思います。

1990年代後半の国内線に就航していた機種を大まかに分けると、羽田~札幌や福岡などの幹線はボーイング747か777、羽田~小松・広島・鹿児島などの高需要地方路線は747、777、A300、767あたり、羽田~釧路・岡山・高知クラスのそこそこ需要がある地方路線は767、A300が基本でたまに777が入ったり、逆にA320やMD-90が入ったりする、羽田~根室中標津や石見のような低需要地方路線や札幌、福岡、名古屋発着地方路線は737やMD-81などの単通路ジェット機と、ジェット機が就航できる空港では極力ジェット機を入れるような機材運用でした。

プロペラ機はジェット機の就航が不可能な路線や鹿児島~岡山など単通路ジェット機では大きすぎる路線に限定されてましたし、その空港の滑走路で就航できる最大の飛行機をできるだけ入れているような印象でした。2000年代前半まではそんな感じの運用だったのではないかと思います。

 

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転機となったのは2010年の羽田空港のD滑走路完成とJALの破たん。羽田空港のD滑走路完成で発着枠がとりあえず余裕が出た事で以前よりも便数を増やすことが可能になるとともに、スカイマークやエアドゥ、スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)にスターフライヤーと大手2社以外の航空会社が参入した事で大型機を飛ばすのはかえって効率が悪くなってきます。かつては747が普通に飛んでいた羽田~函館や小松、松山などの路線は777や767が中心になり、場合によっては737クラスの単通路機も入るようになりました。

そしてJALの破たんはそれまで減価償却やパイロット訓練の問題などで処分するにできなかった747やA300などの大型機の退役を加速させることになります。破たんの翌年には747-400は全機退役、A300も東日本大震災で退役が延期されたものの、2011年5月末で退役し、JALの機材は急速にダウンサイジングしました。国内幹線は777と767、高需要地方路線は767と737が主力となりますが、以前は大型機が就航するのが当たり前だった羽田~広島や松山・高松線などの路線でも全便737での運航になるなど目に見える形でダウンサイジングが進みました。

 

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さらに小型化が顕著だったのが伊丹や福岡などの発着路線で、伊丹発着路線は地方路線はほぼ全便エンブラエルになり、破たん前はMD-81を中心に運航されていた福岡ー宮崎線や鹿児島ー奄美線がダッシュ8-400に、福岡ー松山がサーブ340の運航になるなどプロペラ機の運航になってしまいました。その代わりに便数は破たん前よりも増え、中にはジェット機時代の倍の便数になったケースもありました。飛行機が小さくなったことを嘆くか、便数が増えた事を喜ぶかは人それぞれですが、「大型の飛行機が少ない便数運航される」日本の国内航空路線の姿は過去のものになりつつあると言っていいでしょう。

 

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ところで、国内線に大型機を投入するのは日本だけかと思ってましたが、気になって調べてみると意外と大型機が国内線に飛ぶケースは少なくないようです。そこで世界各地の主要都市を結ぶ路線を中心に調べてみました。

 

まずは世界最大の航空大国アメリカ。羽田~札幌のような国内幹線に相当するのはニューヨーク~ワシントン線やロサンゼルス~サンフランシスコ線、シカゴ~ヒューストン線などがあげられますが、大型機が飛ぶことはまずなく、大きくても737-900やA321、場合によってはERJやCRJと言ったリージョナルジェットが就航しています。特に調べて驚いたのがニューヨーク~ワシントン線で、半数以上の便がリージョナル機の運航でした。まあ、ニューヨーク側とワシントン側で複数の空港に分かれているので需要が分散しているとも考えられますし、この区間はアムトラックのアセラも運航されているのもあると思いますが、幹線でリージョナル機が主体と言うのは日本では考えられませんね。

ただし、これが距離のある路線となると話は変わってきます。例えばニューヨーク~ロサンゼルス線はアメリカン航空はA321が主力ですが、デルタ航空はA330や767、ユナイテッド航空は767や787など大型機が主体となっています。ロサンゼルス~ホノルル線も767やA330、場合によっては777も投入されるなど大型の機体の比率が多くなっています。今では737やA320でもアメリカ大陸横断は余裕ですが、やはり需要が大きく、かつ飛行時間の長い路線では大型の機体が好まれる傾向にあるようです。

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続いて欧州。こちらは国内線が成立するほど国土は大きくない国が多いので、EUというくくりで見て見ました。ロンドン~フランクフルトやパリ~ローマと言った大都市間の短距離路線はA320シリーズだらけ。これについては欧州の主だったフラッグキャリアはA320シリーズのみを採用する会社が多いので、737は分が悪いというのもあるのですが共通しているのは大型機を運航するほどではない、と言う事。LCCとの競争が激化している欧州では悠長に短距離路線に大型機を飛ばしているわけには行かなさそうです。

但し、そんな中でも例外的に国内線に大型機を飛ばしている国があります。そう、世界最大の面積をもつおそロシア。流石に短距離路線は小型機主体ですが、モスクワ~ウラジオストックやハバロフスク線と言った大陸横断路線には777やA330といった大型機が充てられています。航続距離の問題もあると思いますが、国内線で長距離国際線用機材が普通に充てられるのはさすがはロシアの広大な国土と言うべきでしょうか。

 

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一方のアジアでは意外と国内線でも大型機が投入されるのはそう珍しい事ではなさそうです。例えば中国の北京~上海線。飛行時間は2時間強と世界的には短距離路線に分類されますが、やはり需要の絶対数が大きいからかA330やA350、787や777と言った大型機が平然と飛びまくっており、日本の国内幹線とそう変わらない光景です。上海~広州になると小型機の比率が高くなりますが、それでもA330や777は結構飛んでいますし、上海~成都でも大型機は使用されています。ただ、それでも北京~大連などの大都市間でない路線は小型機が主体の様です。

韓国は国土の大きさから考えて国内線はそれほどないように思われますが、実は利用者数、運行本数とも世界一の巨大路線のソウル~済州線を抱えています。この路線は世界最大だけあってFSCの大韓、アシアナに加えLCCのチェジュ、ティーウェイ、イースターや大韓系LCCのジンエアー、アシアナ系LCCのエアソウルが就航する激戦区で、運航される機体も737やA320が多いのですが、それでもA330や767、777も就航しています。

 

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東南アジアはどうでしょうか。タイのバンコク~チェンマイ線は基本的に小型機主体ですが、タイ国際航空運航便は777やA330が就航しています。これは小型機は子会社のタイスマイルに移管して自社では保有していないのもあるのですが、それなりに需要の大きい路線であるとも言えます。また、ベトナムのハノイ~ホーチミン線や、インドネシアのジャカルタ~デンパサール線などでも少数ですが大型機が運航されています。

そして中国同様人口の多いインド。世界5位のデリー~ムンバイ線は基本的には小型機での運航ですが、エアインディアとジェットエアウェイズは国際線の間合い運用で大型機を飛ばしています。インドは今後の経済成長が期待できますので、将来的には国内線で大型機運航と言う光景はもう少し増えるかも知れません。

 

その他の地域ですが、オセアニアはシドニ~メルボルンやシドニー~パースでカンタスがA330を運航しているケースがあります。メルボルンは短距離ながら世界二位の利用者を誇り、パースは飛行時間の長い大陸横断路線ですからこの結果は納得です。南アフリカでも利用者の多いヨハネスブルグ~ケープタウン線で南アフリカ航空が、トルコのイスタンブール~アンカラでトルコ航空が大型機を飛ばしているケースがありますが、これは1日1~2便程度なので、国際線の間合い運用と考えたほうがよさそうです。また、サウジアラビアのリヤド~ジェッタ線はサウジアラビア航空が大型機をバンバン飛ばしています。この路線も利用者数の多い路線ですが、メッカ巡礼の需要もあるので大型機が日常的に必要なのではないかと思います。ちなみに南米の国内線で最も需要の大きそうなブラジルのサンパウロ~リオデジャネイロ間は大型機の運航はなさそうです。だってメーデー民が最も着陸したくないコンゴーニャスがあるから大型機は飛ばせないし。

 

こうしてみると国内線で大型機を飛ばしているケースは世界的には決して多くはないものの、そう珍しいものでもないことがお分かり頂けるのではないかと思います。その多くはアメリカやロシアのように長距離だったり、国際線の間合い運用だったりするのですが、アジアでは割と大型機が国内線で運用されているケースが多かったのには驚きました。これもアジアの人口の多さと経済成長率の高さを示しているのではないでしょうか。少なくともアジア地域に限ってみれば、「国内線で大型機がひっきりなしに飛んでいる」と言うのは別段珍しい事ではなく、日本だけが特殊、という訳でもなさそうです。

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JALの新LCC「ZIPAIR」正式発表。成功するかは今後の路線展開とブランディングがカギ

3月8日、JALが設立する中長距離路線LCCの名前が「ZIPAIR」に決まり、今日の記者会見で正式発表されました。2020年夏スケジュールからボーイング787-8型機2機を使用し、成田ーバンコク線とソウル線に就航する予定です。2021年にはETOPS(双発機の長距離洋上飛行)の認定を受けたのちアメリカ西海岸路線に進出し、将来的にはグアムやホノルル路線、欧州路線も視野に入れています。


www.aviationwire.jp


trafficnews.jp

 

 

・姿が見えてきたJALの長距離LCC 

中長距離LCCはJAL本体のローリングプランでも触れられていましたが、今回の発表でいよいよ具体的な姿が見えてきました。以前の記事で最初の就航路線で方向性が見えてくると書きましたが、大都市のバンコクとソウルを選択した事で、とりあえず需要の大きい路線狙いで行くようです。その辺については以前の記事もご参照ください。


www.meihokuriku-alps.com

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一部報道で「ZIPAIR」という社名が出た時に圧縮ファイルフォーマットの「.zip」から「乗客が詰め込まれるのでは」とtwitterなどで揶揄されましたが、「お客様を詰め込んだり『圧縮』する意図はない」と切り返して、LCCにしては広めのシートピッチである事や、ZIP→矢が素早く飛ぶ擬態語から「フライトの体感時間が短い」とコンセプトを説明する材料に使ったのは上手いなと思いました。この切り口なら今後改修された機内がお披露目された際にも実際の座席を見て「詰め込みじゃないでしょ?」と快適性をアピールできますから「LCC=詰め込み」のイメージを覆すような今後のプロモーションが楽しみです。

 

 

・ZIPAIRの今後の路線展開は? 

さて、中長距離LCCという分野ですが、世界的に言えば決して珍しいものではありません。現在は撤退しましたがマレーシアのエアアジアXがクアラルンプール―ロンドン・パリ線を運航していたことがありますし、シンガポール航空系列のスクートもシンガポール~アテネ・ベルリン線を運航しています。さらにノルウェーのLCC、ノルウェーエアシャトルも大西洋路線に参入しましたし、韓国のイースター航空やティーウェイ航空も中長距離路線進出を計画するなど、より長距離の路線を視野に入れるLCCは少なくありません。日本路線でもジェットスターのオーストラリア路線や、最近ではエアアジアXやスクートの関空ーホノルル線などもあります(ただしスクートは5月30日で撤退予定)

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しかし、会見でも触れられたように「アジアから太平洋を渡る」LCCはまだ存在していません。ホノルルまでならスクートやエアアジアX、大韓航空系列のジンエアーの例がありますが、アメリカ本土まで進出したLCCはまだありません。機材繰りや需要の面から考えてスクートやエアアジアXが太平洋横断までやるのは厳しそうですし、東アジアのLCCも大型機を保有するのはジンエアーくらいなので、この分だとZIPAIRが「定期路線で太平洋横断する初のLCC」になりそうです。長距離路線の最初の路線はアメリカ西海岸との事ですが、可能性として考えられるのは日本との往来が多いロサンゼルス、サンフランシスコか観光需要の大きいラスベガス辺りになるのではないでしょうか。

 

・未知数の「長距離LCC」、成功のカギはブランディング

 「長距離路線LCC」のコンセプトが軌道に乗れば、ZIPAIRが先行者利益を享受するのは間違いないでしょう。仮にピーチが長距離路線に参入しようとしても、機材選定→路線就航の市場調査→機材受領と乗務員育成→路線認可申請と就航地へのプロモーションと、体制を整えるまでに2年はかかりますから、その間に路線網を広げて市場をがっちり押さえてしまえば、後発企業が参入したとしてもしばらくは優位を保てるでしょう。

しかし、10時間以上も飛行機に乗る長距離路線はLCCにとって未知の世界なだけに、事業を軌道に乗せられるかは未知数です。従来のLCCのビジネスモデルが「短距離路線をできるだけ多く運行させて機材稼働率を上げ、固定費を抑える」というものでしたから、元々機材稼働率が高い上に柔軟な運用がしにくい長距離路線ではそのビジネスモデルは通用しません。運行コストを抑えるにしても限度があると思います。

そうなるとZIPAIRの路線を採算に乗せるにはブランディングと価格設定、機内販売など航空券以外の収入をどう増やすかがカギとなります。LCCと言うと価格勝負と思われがちですが、単なる価格競争では消耗戦に陥ってしまいますから、実はフルサービスキャリア同様、リピーター客の確保がカギとなります。ピーチが成功を納めたのもブランドのコンセプトを明確にし、様々な企業や芸能人などとコラボを行ったり、関西弁のアナウンスや車を機内販売するなどの「型破り」なサービスを行うなど、事あるごとに世間の注目を集めることでピーチのブランドを関西に浸透させ、「ファン」を増やした事が理由の一つです。ブランドコンセプトの確立はLCCにこそ必要な事であり、ブランドを浸透させて積極的にその会社を選ぶ顧客を増やす事がLCC生き残りの重要なポイントです。

 

ZIPAIRがまず行うべき事は「ブランドの認知・浸透」であり、それこそフルサービスキャリアとも既存のLCCとも違う、新しいコンセプトのサービスを打ち出せるかどうかが生き残りの第一歩となります。価格についてもアイキャッチ的なバーゲン運賃は必要ですが、極端な安売りではいずれ疲弊して行き詰まりますから、JAL以上のイールドマネジメントが必要でしょう。

さらには機内サービスをどこまで行うか、機内販売をどれだけ充実させるかがポイントになります。長距離路線は機内にいる時間が長い分、機内食や飲み物の提供を全く行わないという訳にもいかないと思いますが、一通り付けてしまったらフルサービスキャリアと変わりありませんし、機内販売で稼ぐ余地が無くなってしまいます。しかし、機内にいる時間が長いという事は、それだけ機内販売のチャンスが多いという事でもありますので、ピーチやジェットスタージャパン以上に機内食メニューの開発や、機内販売のラインナップに工夫を加える必要があるのではないでしょうか。また、スマートフォンなどを活用した機内エンターテイメントの提供も、売り方によってはいい収益源になるかも知れません。

 

・まとめ

ZIPAIRでは4月以降社員募集を行いますが、職種ごとに分けた募集ではなく、客室乗務員、地上係員、企画業務など複数の業務をこなすマルチタスクな勤務形態になるそうです(流石にパイロットや専門性の高い整備業務はそうはいかないと思いますが)フルサービスキャリアに比べると業務の幅が広く激務っぽく思えますが、幅広い業務に携わる事で、かつてのJALのような職種ごとの縦割りにならずに広くアイデアが出るきっかけになりますし、部門ごとの対立は起こりにくそうに思えます。さらにマルチタスク化が進むという事は、誰かが抜けて穴が開いても他の人でカバーしやすくなるというメリットもあります。「今までにないエアライン」を作れるかどうかはこれからが勝負。まだまだ未知数な部分も多いZIPAIRですが、是非成功して新たな航空会社の姿を見せて欲しいですね。

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「シートのみサービス」の割合が増えるグランクラス、その先行きと航空機の「上級クラス」とのブランディングの差

※3/6 航空会社の上級クラスの部分とグランクラスのブランディングの部分を中心に一部加筆修正しました。

 

 前回の上越新幹線のグランクラス設定についての記事の最後で「シートのみサービス」のグランクラス設定が増えている事に触れました。今回はこの点をもう少し掘り下げ、グランクラスと航空会社の国内線上級クラスを比較しつつ、主にブランディングの面からの問題点を考えてみたいと思います。

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 「シートのみサービス」のグランクラスが増えた理由

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グランクラス付きの車両はE5系とE7系(プラス所属会社違いのH5系とW7系)の2形式です。E5系は投入当初は東京〜新青森間の「はやぶさ」に優先して当てられましたが、その後車両が増えると「やまびこ」や「なすの」などの区間列車にも充当され、全体の半数近くがシートのみサービスとなっています。

E7系を使用する北陸新幹線も東京〜金沢間がフルサービス、東京〜長野などそれ以外の列車がシートのみと分かれており、富山〜金沢間の「つるぎ」はグランクラス車両を閉鎖してサービス自体を行っていません。上越新幹線はとき4往復とたにがわ1往復の全てがシートのみです。この他臨時列車のうち上野発着の列車は全てシートのみの運用です。

 

このようにグランクラス設置列車のうち、シートのみのサービスになっているのは全体の半数近くになっており、その比率は増える一方です。その理由は「JR東日本の新幹線車両の共通化」と「軽食や飲み物などの準備施設の問題」「短距離列車でのグランクラスの需要の低さ」が関わってきます。

 

JR東日本の新幹線車両は線区毎の特性や需要、技術革新などで多様な車両を開発、投入する傾向にありましたが、近年では東北・北海道新幹線はE5系、北陸・上越新幹線はE7系、新在直通列車はE6系に揃える傾向にあります。山形新幹線はまだ置換えの話は出ていませんが、いずれE6系ベースに置き換えられると思いますし、E2系もそう遠くない将来、線区毎にE5系かE7系に置き換えになるでしょう。

しかしそれはグランクラス付きの車両がいずれ全列車で運用されることになり、将来的には「シートのみサービス」のグランクラスが多数派になる事を意味しています。短距離区間用にグランクラス設備を省いた編成を用意することもできますが、そうなるとグランクラスの有無で運用を分ける必要があり、車両を統一する効果は半減してしまうので恐らくJR東日本はやらないでしょう。

かと言って東京〜仙台、郡山などの短距離列車ではグランクラスの利用自体が低調であり、数人しか利用が見込めない列車にアテンダントや食事を手配するのは得策とは言えません。更に言えば始発駅の設定が臨時列車しかない上野駅や、需要の大きい東京駅を発着しない区間列車の為だけにアテンダントや食事の手配をするのも効率が悪く、それならいっそシートのみのサービスにした方が効率的です。増え続けるグランクラス設定列車と採算性・運用コストを天秤にかけたJR東日本の答えが「シートのみサービス」のグランクラスだったのではないでしょうか。

 

全くのカラで走らせるよりはシートのみでもグランクラスを売って多少なりとも収入を得ようとするのは採算性の面で言えば悪くない判断ですし、上越新幹線のグランクラス割引商品もお試し利用と言う意味では有効な手段かも知れません。しかし、「グランクラス」自体のブランディングと言う観点から見ると、あまり得策とは言えません。その理由をグランクラスがベンチマークにした「国内航空路線の上級クラス」と比較しながら説明しましょう。

 

ハード面はともかく、ソフト面ではグランクラスは飛行機に敵わない

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グランクラスに相当する大手航空会社の上級クラスは、ANAが「プレミアムクラス」JALが「ファーストクラス」になります。サービス内容や座席、設定路線などで差異はありますが、普通席よりも広く快適なシート、食事やアルコールのサービス、ブランケットやスリッパなどのアメニティがあるのは共通しています。特にグランクラスのシートに関してはANAのプレミアムクラス以上、JALのファーストクラス並みです。

こうしてみると座席そのもののサービスは飛行機と互角以上ですし、車内サービスも決して飛行機に見劣りしません。しかし、グランクラスと飛行機の上級クラスには、乗る前後のサービスで決定的な差がついてしまっています。

その理由は下記の記事に詳しく書いていますが、かいつまんで言うと、飛行機には優先搭乗や手荷物の優先返却、専用カウンターといった普通席よりも「優越感」が感じられるサービスや、ラウンジサービス(グランクラスにも東京駅の「ビューカードラウンジ」が利用できる特典がありますが、それ以外の駅にはありません)、予約情報やマイレージなどのデータで顧客管理を行い、上級会員向けのマイル割り増しや混雑時のアップグレード、搭乗時にCAさんが名前を呼んで挨拶するなど、利用の多い上得意客への有形無形のサービスがあります。特に上得意客の優遇は航空側が一枚も二枚も上手であり、日常的にグランクラスを利用してくれる良質な顧客の確保という点では、JR東日本にはまだまだ手を加える余地があるのではないでしょうか。

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さらに上級クラスのブランディングについても飛行機の方が一枚上手。ANAはプレミアムクラスの運賃は普通席と別立て、JALは通常運賃プラス8000円で利用可能(先得割引などの格安運賃は予約不可。当日空席がある場合のみ利用可能)と違いがありますが、どちらも基本的に値引きはしません。ANAのプレミアムクラスは時期によって安く予約できたり、路線によって値段が違うなどはありますが、「期間限定で〇〇円引き!」と言うわかりやすい値引きは決してやりません。安易な値引きは上級クラスの価値を下げてしまう事を分かっているからです。

その一方でマイル特典としての上級クラスへのアップグレードや、上級会員向けの上級クラスアップグレードの優遇などは積極的に行っております。大事な収益源である上級クラスをタダで渡すのは一見すると値引きするのと変わらないどころか収入を自ら放棄するような行為に見えますが、値引きとの決定的な違いは「ヘビーユーザーへの優遇措置」。利用の多い上得意客に上級クラスと言う優遇措置をサービスすることによって「自分は航空会社に大事にされている」という「特別感」を演出し、「こんなに良い思いができるならまたこの会社を使ってマイルを貯めよう」とリピート利用につなげる効果があります。つまり上級クラスアップグレードは航空会社にとっては優良顧客囲い込みの大事な手段であり、自社のブランド力や企業イメージを上げるために必要な事なのです。

 

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さらには短距離路線であってもサービスは極力簡素化しないのも上級クラスの特徴。羽田ー伊丹のような1時間程度の路線でも食事サービスはきちんと提供されますし、羽田ー八丈島のように食事サービスを提供する時間の取れない路線でも茶菓の詰め合わせを渡すなど、短い時間でも最大限上級クラス利用者へのサービスを提供するよう知恵を絞っています。

これも「上級クラスを利用すれば普通席とは違うサービスが提供される」という期待感を持たせるためには大事な事。仮に「短距離だから」という理由でプレミアムクラスやファーストクラスのサービスがシートのみだったら、多少安かったとしても誰も利用せず、逆に「上級クラスに乗っても期待したサービスは受けられない」と思われて上級クラスから利用者が離れてしまいかねません。その便単体では赤字だったとしても、上級クラス全体の収益、ひいては航空会社の収益の為には上級クラス設定路線ではそれに見合ったサービスを提供する必要があるのです。

 

「安売りはしない」「高い料金をもらう分、それに見合ったサービスを提供する」この上級クラスに対する航空会社のこだわりは会社全体の利益の為であり、優良顧客囲い込みの為には必要な手段である事がお分かり頂けるのではないでしょうか。上級クラスはフルサービスキャリアにとって会社の「看板商品」であり、高品質なサービスを提供する事がブランドイメージや客単価の向上には必要な事なのです。

 

「分かりやすい値引き」「サービス簡素化」は「グランクラス」のブランド価値を下げてしまうかも知れない

翻ってグランクラスはどうでしょうか。確かにハード面では飛行機の上級クラスに引けを取りませんが、車両の外も含めたトータルでのサービスや、「特別感」「優越感」の演出、優良顧客の囲い込みと言う点では十分とは言えません。むしろシートのみサービスの列車が増えている現状では、導入当初に比べると「特別感」は薄れてきているように思います。

 

「シートのみのサービス」は「フルサービス」に比べると大体2000円前後安くなりますが、アテンダントや飲食サービスなどを省略した分に見合った金額かと言われると正直微妙です。高いお金を出してグランクラスに乗車する人は豪華なシート以上に「特別なサービス」を求めて乗るのではないかと思います。グランクラス料金が高くてもお金を払うのは食事や飲み物、アメニティや人的サービスといった、プラスアルファの部分があるから。残念ながらシートのみサービスで割り引かれるのはそのプラスアルファ分の必要経費分だけであり、グリーン車との差が広いシートだけとなると割高感は否めません。グランクラスには「静寂な環境」「広く快適なシート」を求める需要もあると思いますが、それならグリーン車でも十分ですからね。

かと言ってグリーン車よりも少し高い程度の料金設定ではグランクラスの安売りになってしまい、フルサービスとの価格差が開きすぎて利用者を遠ざけると言う本末転倒な事になりかねません。価格設定は設備とサービスに見合うものであり、かつ利用者に納得して初めて適正と言えるもの。利用者が割高感を感じたらその商品は売れませんし、安くし過ぎると採算が取れない上にそのサービスの価値自体も下げてしまい、ブランドや会社のイメージを毀損する恐れすらあります。

かつてJALがクラスJを始めた際は「プラス1000円の贅沢」というコンセプトと割安感が利用者の心をつかみ、人気商品となりましたが、その代わりにスーパーシートを廃止した事で単価の高いビジネス客や富裕層がJALから離れてしまい、スーパーシートを高品質化したANAに流れてしまいました。後にJALが幹線で「ファーストクラス」のサービスを始めたのもスーパーシート廃止の反省があったからであり、安易な上級クラス廃止や簡素化は単価の高い利用客を逃がしてしまう恐れのある行為なのです。「シートのみサービス」のグランクラスの増加はある意味「安易な上級クラスの簡素化」とも言えますし、長い目で見ればグランクラスのブランドイメージにはプラスにならないのではないでしょうか。

 

加えて上越新幹線のグランクラス割引商品は一歩間違えればグランクラスのブランド価値を下げかねない諸刃の剣です。目玉商品は短期的には新たな顧客を集める呼び水になりますが、そこでリピート客を確保しなければ割引商品が終わると途端にガラガラになってしまいます。割引は一時的なものと割り切って現実を受け入れるならまだいいのですが、値引き販売はある意味麻薬のようなものですから空席を埋める為また手を出したくなってしまうもの。そうなるとシートのみのグランクラスは値引きがないと売れない商品になってしまい、やがては「安売り上級クラス」のイメージがついてフルサービスを含めたグランクラス全体のブランド価値を下げてしまいかねません。

業界は違いますが、かつてのマツダが売れない車の在庫を捌くために他社よりも大幅な値引きをしたことでマツダ自体のブランドイメージを毀損し、値引きしないと売れない悪循環に陥って経営危機に陥った例があります。サービス内容に見合わない「安易な安売り」は長い目で見れば企業にとってはマイナスであり、一度傷ついたブランドイメージを回復させるには安売りよりも遥かに難しい事です。

 

もし今回の割引商品が人気を集めてグランクラスの座席が埋まってしまうと、JR東日本は空席を埋めたいが為に同様の割引商品を乱発してしまうかも知れません。しかし、それは将来的なグランクラス、ひいてはJR東日本のブランドイメージを下げてしまう行為であり、高額なシートを安易に安売りしたり、簡素化したりするのはプラスにならない事の方が多いのです。正直に言うと、今回の割引商品は売れない方がグランクラスの将来にとっては良いのではないかと思います。

 

ブランド価値を下げるよりは、いっそ「シートのみのグランクラス」は辞めた方がいい

以上の事から、グランクラスのブランディングの面からは「シートのみサービス」のグランクラスが氾濫するのはプラスになるとは思えません。しかし現状ではグランクラスを連結した列車は増える事はあっても当分減る事はありませんので、今後もシートのみサービスの列車は増えていくものと思われます。シートのみサービスの列車が増えれば増えるほど、JR東日本は空席を埋めたいが為に割引商品を出したい衝動に駆られるのではないかと思いますが、その先に待っているのはグランクラス自体のブランド低下と上得意客のグランクラス離れ。本来のターゲットである富裕層が離れると、かつての一等車が廃止されたように、将来的にはグランクラス廃止すらあり得るのではないかと思います。

 

それを防ぐ為にはどうするか。利用率が悪いのであれば、いっそ短距離列車のグランクラス提供自体をやめ、該当の列車のグランクラスは入れないようにしてしまった方がいいと思います。一部車両の閉鎖は既に「つるぎ」の前例がありますし、グランクラスは先頭車両にあるので閉鎖しても車両の移動に影響はありません。

更にグランクラス設定列車を絞り込む事でグランクラス自体の希少性も上がり、フルサービスのみの列車に絞れば「グランクラス=豪華なシートと高いサービスを受けられる」と言うイメージが広がり、グランクラスのブランド力を上げる事にもつながります。短期的にはシートのみ利用のグランクラス料金分の売上は減少するでしょうが、利用していた人はグリーン車や普通車に移るだけでしょうし、それ程大きな減収にはならないと思います。

 こう書くと「あんな高いシートを遊ばせておくのは勿体ない!」と思われるかも知れません。しかし時には敢えて遊ばせておく事で結果的にプラスになる事もありますし、シートの利用を抑えればその分劣化も遅らせることもできます。いくらサービスが良くてもシートがボロボロでは高いお金を出してグランクラスに乗りたいとは誰も思わないでしょうからね。

 

折角多額の投資をして開発したグランクラスですから、JR東日本そのもののブランド力を上げるためにもグランクラスは大切にして欲しいですし、決して安売りはして欲しくないと思います。その為にも敢えて中途半端な「シートのみのグランクラス」は減らしていった方が良いのではないでしょうか。グランクラスは紛れもなく日本の新幹線最高峰のサービスです。願わくばこれからも最高峰のサービスであり続けて欲しいですし、飛行機と切磋琢磨しつつサービスを磨いていって欲しいですね。

 

 

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上越新幹線のグランクラスが「シートのみ」は勿体ない。フルサービス実施の可能性は?

2月27日、JR東日本は上越新幹線で運行を開始するE7系の「グランクラス」を対象に、期間限定の旅行商品「ふらっとグランクラス」を発売すると発表しました。利用期間は4月1日から6月30日までの間で、料金は「グリーン車+1000円」で販売。しかもNewDaysやkioskで使用できる1000円分の商品券付きですから、実質的にグリーン車料金でグランクラスに乗れるかなりおトクな商品です。

 

trafficnews.jp

 

グランクラスと言うと飛行機のファーストクラス並みのシートに専属アテンダントがつき、軽食サービスやアルコールも含めた飲み物飲み放題など、新幹線最高水準のサービスを誇りますから、これだけ聞くと物凄い大盤振る舞いです。

しかし、上越新幹線のグランクラスには「シートのみのサービス」と言う落とし穴があります。一口にグランクラスと言っても、専属アテンダントが乗務し、軽食や飲み物のサービスも行ってスリッパやブランケットもある「フルサービス」の列車と、基本的には座席のみでアテンダントも乗らず、飲食物やスリッパのサービスもない「シートのみサービス」の列車の2種類があります。今回の上越新幹線に投入されるE7系は1日2往復ですが、全て「シートのみサービス」です。

 

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東北も北陸も「フルサービス」の列車と「シートのみサービス」の列車の両方がありますが、なぜ上越新幹線だけが「フルサービス」の列車がないのでしょうか。恐らくですが「走行距離」と「所要時間」が関係しているのではないかと思います。

東北新幹線は東京発盛岡以北行きがフルサービス、東京発仙台以南行きと仙台〜新函館北斗などの区間列車がシートのみとなり、北陸新幹線は東京〜金沢間の列車がフルサービス、それ以外がシートのみとなります(「つるぎ」はグランクラスの設定自体なし)この事からグランクラスがフルサービスを行う目安は「東京発着列車」かつ「終点までの走行距離400km以上、所要時間2時間台前半以上」になるのではないかと思います。

東京発着に限定しているのはアテンダントのシフトや軽食積込みの関係でしょう。途中駅始発の列車は1日1〜2往復程度な上にわざわざグランクラスを利用する乗客も限られますから、その僅かな乗客の為にアテンダントを一泊させたり軽食を発注するのはどう考えても効率が悪いですからね。

走行距離と所要時間に関してはアテンダントのサービスや軽食やドリンクの提供などを考えると所要時間が短いと十分なサービスができない事、短距離利用主体の「なすの」「あさま」ではそもそもグランクラスの手厚いサービス自体さほど求められていないのが理由かと思います。以前はフルサービスが実施されていた東京〜仙台間運行の「はやぶさ」「やまびこ」もシートのみサービスに切り替えられたのは需要の問題なのか人員配置の問題なのかは不明ですが、フルサービスを辞めたのは優先順位が高くなかったのだろうと思います。

 

しかし「上越新幹線のグランクラスはシートのみ」というのはちょっとどうなのかな、と言う思いはあります。先程の「終点までの走行距離400km以上、所要時間2時間台前半以上」の条件に当てはめれば確かに上越新幹線は条件を満たしていませんし、似たような距離の東京〜仙台間のみ運転の「やまびこ」「はやぶさ」もグランクラスはシートのみですから、それに合わせたと考えれば納得できないでもありません。

しかし、東北、北陸新幹線の場合は「新函館北斗行きのはやぶさを仙台まで利用」「金沢行きのかがやきを長野まで利用」など、長距離タイプの列車を途中駅まで使うという形で「フルサービスの列車」の乗車が可能なのに対し、上越新幹線の場合は最初から「シートのみ」の選択肢しかありません。所要時間にしても東京~新潟間2時間程度なら軽食やドリンクサービスを提供できないという程でもありませんし、「とき」に関しては東京~長岡・新潟の通し利用も一定数あるはずですから「フルサービス」への需要がないとも思えません。

 

本来グランクラスは飛行機の上級クラスを意識してグリーン車よりも広くて快適な座席と手厚いサービスを提供するコンセプトであり、グリーン車の倍の料金設定もアメニティや飲食サービスがあってこそです。シートのみの場合はフルサービスよりも2000円程度安くなっていますが、それでもグリーン車よりは3000〜4000円程度高い料金であり、シートの差を考慮しても「シートのみサービスのグランクラス」はグリーン車よりも割高感が出てしまいます。

先の大盤振る舞いな旅行商品も、裏を返せば上越新幹線のグランクラスの売れ行きに対するJR東日本の危機感とも言えます。同じグランクラスでも「フルサービスの列車」と「シートのみの列車」では乗車率に開きがあるので、今回の旅行商品は「お試し利用」「需要動向喚起の方法」になるのかなと思います。

 

では実際のところ、上越新幹線でグランクラスの「フルサービス」が実施される可能性はあるのでしょうか?今すぐには難しいかと思いますが、将来的には可能性はあるのではと思います。

フルサービス実施には「新潟側の軽食積込体制」と「アテンダントの増員」が必要になりますが、E7系運用の「とき」は4往復しかなく、今軽食積込を行うには個数が少ないので納入業者の採算が合わないのではと思います。さらに東京〜仙台間のみ運行列車がフルサービスを取りやめた例からも、JR東日本が似た区間のフルサービス運用に二の足を踏んでいるかも知れません。

恐らくですが、上越新幹線のグランクラスでフルサービスが実施されるとしたら「E7系使用列車がある程度揃う来年以降」かつ「JR東日本がフルサービスを実施しても一定の利用が見込めると判断」した時ではないかと思います。そうなるとE7系投入後のグランクラス利用率がカギになるのではないでしょうか。可能なら上越新幹線でもフルサービスが実施されるといいですが、今後の認知度と利用率次第ではないでしょうか。

 

ところで、近年ではE5系、E7系の増備でグランクラス設置車両は増えてきていますが、「シートのみサービス」の割合が多くなっています。次の記事ではそうなった理由と、「シートのみサービス」がグランクラスのブランディング面に及ぼす影響を考えてみたいと思います。

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