〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

「合弁会社」で明暗を分けたエアアジア・ジャパンとジェットスタージャパン

ほぼ2か月ぶりの投稿となりました迷航空会社列伝、今回は初代エアアジア・ジャパンを取り上げました。ANAとエアアジアとの合弁で作られた会社でしたが、結果はご存知の通り1年ちょっとで合弁解消、会社はANAが引き取って別ブランドでのLCCでの出直しと言う結果になりました。現在はYouTubeのみの公開ですが、今週中にはニコニコの方でもアップしますので、ニコニコ派の方はもうしばらくお待ち下さい。

 


迷航空会社列伝「水と油の同床異夢」1年3か月で消えたエアアジア・ジャパン(初代)

 

さて、動画内ではエアアジア・ジャパンが失敗した理由を「東南アジアのビジネスモデルをそのまま持ってきた事」「成田空港を拠点にして柔軟な運用ができなかった事」「ANAとエアアジアの考えの相違」としましたが、実際のところはANAとエアアジアの考えが真逆で、最後まで会社の方針が定まらなかったことが理由の殆どだと思います。もっと言えば経営権や路線計画はANA、ブランドや実際の運航管理をエアアジアにしたことで会社として統一した意思が取れず、双方の領域で対立してしまったのも上手く行かなかった原因ではないでしょうか。

このように複数の企業による合弁会社は出資した会社が対等な立場な分、主導権争いに陥って空中分解するリスクを抱えています。最近の例だと富士フイルムとアメリカのゼロックス(正確にはゼロックスのイギリス法人が出資)が共同で出資した「富士ゼロックス」が、富士フイルムによるゼロックス本体の買収計画を機に富士フイルムとゼロックスとの対立が表面化、喧嘩別れの危機に陥っています。最悪の場合、長年欧米とアジアで事業を棲み分けてきた富士フイルムとゼロックスが別々のブランドで世界規模で対立する事態になり兼ねません。

 

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しかし、JALとカンタスの合弁会社のジェットスタージャパンにはエアアジア・ジャパンのような主導権争いをすることなく、現在でも良好な関係を築いています。ジェットスタージャパンの場合はJALとカンタスのほかに三菱商事と東京センチュリーリースも出資しているため、間に入る出資者がいることで単純にJALとカンタスの対立になりにくいのもあると思います。

それ以上にJALとカンタスは元々同じ「ワンワールド」の加盟会社ですから、以前より関係ができていたことも合弁がスムーズに行っている理由ではないかと思います。さらにJALは出資はするもののジェットスタージャパンの経営には口出しをせず、基本的にカンタスとジェットスターにすべてを委ねていますので、そもそも主導権争いが起こる要素がありません。現在は国際線乗継利用の場合に限りJALとのコードシェアも行っていますので、カンタスとジェットスターとの関係同様、JALとジェットスタージャパンとの関係も上手く棲み分けができているのかもしれません。

 

両社の例を見る限りだと、合弁会社と言えどもどちらかの会社が主導権を握った方が上手く行くのではないかと思います。「船頭多くして船 山に登る」ということわざがありますが、対等の精神にこだわり過ぎると主導権争いが起こり、会社の方針も定まらずに迷走してしまうケースも少なくありません。エアアジアにとっては高い授業料でしたが、今度のエアアジア・ジャパンではそのしくじり経験を生かして成功を納めて欲しいものです。

 

・・・今のところダメそうな雰囲気だけど。

 

日本に影響を与えた海外のLCC

東海道交通戦争、今回は日本のLCCについて取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章⑤「和製LCC三国志」

 

一般的にはピーチ、ジェットスタージャパン、エアアジアジャパンが相次いで就航した2012年を「LCC元年」と呼んでいますが、実際のところはその前から海外のLCCが日本に就航しており、海外LCCが相次いで日本に就航して勢力を広げたことが、ANAやJALにLCC設立を決意させたと言えます。今回は和製LCC設立に影響を与えた海外のLCCを紹介したいと思います。

 

①ジェットスター(オーストラリア・カンタス系列)

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カンタス系列のLCCとして2004年3月25日に運航を開始し、2007年3月25日にカンタスの路線を引き継ぐ形で関空ーブリスベンーシドニー線を開設。日本に就航したLCC第1号となりました。

動画内でも紹介した通り、大手レガシーキャリア系列のLCCは今までのビジネスモデルの感覚のままLCCを運営したため失敗しましたが、ジェットスターはカンタス本体と経営を分け、一切運営に口出しをしなかったことで成功を収めた初めてのレガシー系列LCCとなりました。また、大型機を使用して中長距離路線で成功した初めてのLCCでもあり、エアアジアXやスクートと言った他の中長距離LCCの設立にも影響を与えるなど、多くのLCCに影響を与えたパイオニアの一社とも言えます。

LCCでありながらパッケージツアーの卸売りやJALを始めとしたレガシーキャリアとのコードシェアも行うなど、LCCの原則にはあまりこだわらない方で、ジェットスタージャパンもジェットスター本体の方針には固執していないようです。日本路線就航当初は関西地区や中部地区で大々的にテレビCMを行った事で海外のLCCでありながら日本での知名度はある方で、これがジェットスター・ジャパンの設立にもつながったのかなと思います。

 

②エアアジア(マレーシア・独立系)

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元はマレーシアの政府系重工業企業傘下の航空会社でしたが、業績悪化で2001年にワーナー・ミュージックアジア地域役員だったトニー・フェルナンデスにわずか1リンギットで売却。そこからLCCに転換して徹底した格安運賃で急速にシェアを拡大、2004年にタイとインドネシアに子会社を設立し、2007年には中長距離路線用の「エアアジアX」を設立するなど、急速にアジア各地に路線網を広げています。

日本路線には2010年12月に羽田ークアラルンプール線で就航。羽田空港初のLCCとして話題となり、5000円の就航記念キャンペーン価格もメディアの注目を集めました。「エアアジアX」の名前はX Japanから取ったり、オリックスが10%を出資するなど、エアアジア・ジャパン就航以前から日本との関りがある航空会社です。

初代エアアジア・ジャパンはANAとの考え方の違いで1年余りで運航終了となってしまいましたが、2014年に第二のエアアジア・ジャパンを設立して日本市場再参入を表明。この時は楽天や化粧品大手のノエビア、大手スポーツ用品販売店のアルペンが出資しています。特に楽天はトニー氏と三木谷会長の個人的な親交もあって全面的に協力する姿勢を示しています。就航までには3年以上かかりましたが、2017年10月にようやく中部―札幌線に就航しました。

 

③春秋航空(中国・独立系)

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2004年に設立され、2005年7月18日に初就航した中国初のLCC。国際線に参入したのは2010年7月、上海浦東ー茨城間の定期チャーター便でした。現在では日本9都市に就航し、路線網も東アジアや東南アジアに広がっています。

日本への就航は前述の通り上海ー茨城線。当時は開港間もない上に就航路線がないと騒がれていた茨城に就航した事でメディアの注目を集めることになり、就航後も売り子役に徹するCAや、唯一の無料サービスともいえるエコノミークラス症候群対策の体操などで度々メディアに取り上げられるようになりました。

その後、日本への海外旅行需要の急増の波に乗って急速に路線網を増やし、遂には日本でLCCを立ち上げることになります。そのLCC「春秋航空日本(スプリングジャパン)」は思うように路線網を広げられず、存在感が薄いものの現在も成田発着の国内線、国際線を中心に運航しています。

 

④ライアンエアー(イギリス・独立系)

1985年にアイルランドで設立されたLCCで、当初は普通の航空会社でしたが、1997年のEU航空自由化を機に格安路線に舵を切り、超が付くほどの格安運賃で急成長を遂げた欧州LCCの代表格。そのビジネスモデルはLCCの元祖・サウスウエスト航空のものを忠実に守っていますが、その一方で就航先の空港に着陸料の大幅割引や補助金を要求し、十分な支援が受けられないと判断するとすぐに撤退したり、競合他社に対して露骨なネガティブキャンペーンを行うなど、物議を醸したり、他の航空会社に訴えられたりすることもしばしば。世間の注目を集めるために立ち乗りや機内トイレの有料化などあり得ない提案をするなど、好き嫌いがはっきり分かれる航空会社です。

これも動画内で触れましたが、ピーチ社長の井上慎一氏が会社を立ち上げる際、一番参考にしたのがライアンエアーでした。賛否両論はありますが、利用者に媚びない、エッジの利いたブランドを持つライアンエアーのポリシーはピーチのビジネスモデルを構築する際に大いに参考にしたそうです。言われてみればピーチのサービスやキャンペーンはエッジの利いたものが多いような気がします。たこ焼きの機内販売とか関西弁のアナウンスとかBMW MINIを機内販売するとか。ライアンの物議を醸すようなことまでマネしなくてよかった。

 

以上、日本に影響を与えたLCCについて紹介してきました。この他にも日本にはタイガーエアやスクート、エアプサンやジンエアー、チェジュ航空に香港エクスプレスなど様々なLCCが乗り入れてきています。関空や成田、佐賀などLCCのおかげで利用者減の危機を回避できた空港も多く、もはや日本の航空業界はLCC抜きでは成り立ちません。その一方で日本にはまだLCC空白地帯ともいえる地域が少なからずあります。仙台以外の東北や北陸、山陰地方などはLCCの就航が海外の会社も含めてあまりないので、今後はそう言った地域にもLCCの恩恵が広がればいいなと思います。想像もしなかった路線や格安運賃で利用者を驚かせてきたLCC各社。次はどんな驚きがあるのでしょうか。

チャイナエアラインの富山便、強風で着陸をやり直して重大インシデント。

7月8日、この日はウラジオストク―富山間のチャーター便が来るという事で撮影に行ってきました。運行するヤクーツク航空の機材はロシア製の最新リージョナルジェット機、スホーイスーパージェット。日本では成田に週2便運航されるだけのレア機材で、富山にロシアからのチャーター便が運航されること自体3年ぶりの事。これは是非押さえたいと思ったんですよ。

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で、お目当てのヤクーツク航空のスホーイは撮れたのですが、これだけならブログの記事にすることはありません。実はこの日、チャーター便以上にニュースになってしまった重大インシデントが富山空港発着便で起こってしまい、偶然その飛行機を撮っていたのです。

 

この日はチャイナエアラインの定期便も昼前に来るのでそれも抑えようと思い、スホーイが離陸した後、いったん撮影していた神通川河川敷を離れ、早めの昼食を済ませてから河川敷に戻ってきました。

11時55分頃、富山湾方向から飛んできたチャイナエアライン170便が着陸態勢に入りましたが、風の影響からか、いったん大きく迂回して南側から着陸するルートを撮りました。ちょうど札幌行きのANA便が離陸しようとしていたところで、先にANA便を離陸させてからの着陸になりました。

 

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ところで富山空港は日本で唯一河川敷にある空港なのですが、富山湾からの風が強いときは海側から来た飛行機はいったん空港を通り過ぎて山側に向かい、Uターンして南側から着陸します。すぐ後ろには山が迫っている上にカーブを終えたらすぐ滑走路なのでこれを低空で行わなくてはいけないので着陸難易度の高い空港です。どれだけ難しいかはANAさんの下記の記事をご参照ください。

www.ana.co.jp

 

この日のチャイナエアラインも下の写真のように大きくカーブして滑走路に侵入してきました。写真では分かりにくいですが、機体は強風で結構左右に振られています。

 

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いつもならこれで着陸、となるのですが、どうも着陸するには高度が高いような・・・と思ったら急にエンジン出力を上げて急上昇。そのまま上空へと上がっていきました。どうやらゴーアラウンド(着陸やり直し)の様です。

 

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この日は日本中に甚大な被害をもたらした集中豪雨の影響で風が強かったのですが、まさか目の前でゴーアラウンドをするとは思ってもみませんでした。相当条件は良くないようです。

12時15分頃、再び同じルートで着陸を試みます。が、もうすぐ接地と言う所で再び急上昇して2度目のゴーアラウンド。ゴーアラウンドなんてそうそう見るもんじゃないですし、私自身も実際にゴーアラウンドを見たのはこれが2回目です。が、同じ機体で2度も見るのは初めてでした。

 

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そして12時25分、チャイナエアライン170便は3度目の着陸を試みます。

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が、3回目は近くまでは来たものの、空港上空でそのままUターンして北の方へと飛んで行ってしまいました。恐らくアプローチする前に着陸は不可能と判断し、他の空港に向かったのでしょう。その後中部空港に向かった事が判明し、この後別の用事もあったので引き上げることにしました。

 

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後で気になって調べてみたら、13時過ぎに中部空港に無事着陸し、その後給油を行って再度富山空港に離陸。15:30頃、今度は無事に着陸したようで一安心。

 

・・・と思ったら夜のニュースで実は全然無事じゃなかったことが発覚。中部空港に向かう途中、燃料の残りが少なくなり、緊急事態を宣言して緊急着陸していたのです。国土交通省は事故に繋がりかねない事態としてこの緊急着陸を「重大インシデント」に認定し、調査に乗り出しました。

 

www.knb.ne.jp

 

過去の重大インシデントの事例をみても調査結果が出るまでには1年くらいかかっているようなので、今この時点でとやかく言うのは避けたいと思います。ですが素人考えでは2度目のゴーアラウンドの時点で残りの燃料を確認して他の空港に変更すれば重大インシデントにはならなかったのでは?と思ってしまいます。

調査結果が待たれるところではありますが、国交省とチャイナエアラインには原因をしっかり突き止めて再発防止に活かして貰いたいなと思います。空の安全は何物にも代え難いものですから・・・



ボーイングとエンブラエルが事実上統合へ。MRJかなりヤバい。

オウム真理教事件の犯人の死刑執行のニュースや「数十年に一度」と言われる大雨で日本列島が揺れる陰で、航空機メーカーの大型再編のニュースが飛び込んできました。

アメリカのボーイングとブラジルのエンブラエルとの合弁会社設立のニュースです。合弁会社と言っても実際はエンブラエルのリージョナル機「Eシリーズ」のボーイングの買収であり、昨年のエアバスのボンバルディア「Cシリーズ」事業の合弁会社設立に続き、事実上、リージョナル機も含めた旅客機市場はほぼボーイングとエアバスに二分されます。

今の段階では覚書を交わしただけの暫定合意であり、正式合意までには数か月かかりますが、かねてより囁かれていたボーイングとエンブラエルの統合話が表沙汰になったという事は、ある程度実現の見通しが立ったという事でしょう。後は自国を代表する企業であるエンブラエルを手放す決定をブラジル政府ができるか、各国の公取委、特にEUの公取委がこの合弁を認めるかにかかっています。この辺で決定が覆る可能性もまだありますが、航空業界に大きな影響を与える話であるのは間違いありません。

 

ボーイングとエンブラエル、民間機の合弁会社設立へ MRJさらなる苦戦も

 

 そして、この再編で三菱重工のMRJ計画はより苦しいものとなった、と言わざるを得ません。以前より開発計画の遅れに伴う納入遅れで販売セールスに苦戦していたMRJですが、カスタマーサポートに対する支援契約を結んでいたボーイングが競合のエンブラエルと手を組んだことで、その立ち位置はかなり微妙なものとなってしまいました。

現段階ではボーイングとのサポート契約が打ち切られることはないとされていますが、ボーイングに取ってはまだ納入も始まっていないMRJよりも既に実績があり、世界中に顧客を抱えているエンブラエルの方が提携相手としては遥かに魅力的。同じような旅客機を扱うメーカー2社を同時に支援するのは、長い目で見ればボーイングやエンブラエルの株主から利益相反行為と言われかねませんので、いずれどちらか片方を選ぶよう迫られる時が来るかも知れません。そうなった場合、ボーイングが切るのは間違いなくMRJの方でしょうし、MRJ購入を検討している航空会社もボーイングの支援打ち切りリスクを考えて発注を躊躇するかもしれません。ただでさえ苦戦しているMRJに取って「とどめの一撃」になりかねない状況です。


www.nikkei.com

 

では今後、MRJはどうなるのでしょうか。三菱航空機は元々後発の会社なので、エンブラエルやボンバルディアに比べると知名度も販売網もノウハウもカスタマーサポートも格下です。航空機ビジネスは安全性に非常にシビアな分、案外保守的な所があり、実績のないメーカーの飛行機よりも実績があり、信頼性の高いメーカーや機種を選ぶ傾向にありますので、この点ではエンブラエルの方に大きなアドバンテージがあります。この差を埋めるためにボーイングの支援が必要不可欠だったわけですが、エンブラエルの民間機部門買収でその戦略にも大きな暗雲が立ち込めています。

さらにMRJが開発遅延で手間取っている間にライバルのエンブラエルE2シリーズが完成してしまい、航空会社への引き渡しも始まってしまいました。開発当初はMRJの方が先行していたのですが、そのアドバンテージも開発遅延で結果的には食い潰してしまってます。正直、航空会社に対するセールスポイントが消えてしまった今のMRJの今後のセールスは厳しいと言わざるを得ません。

更にMRJの開発費も当初の3倍以上の6000億円に膨れ上がり、採算ラインも当初の400機から1000機以上に上がってしまってます。三菱航空機も債務超過になって親会社の三菱重工が支援に乗り出しましたが、その重工も業績はいいとは言えず、下手したら共倒れになりかねません。かと言ってここまで資金をつぎ込んでしまった以上、今更撤退の選択肢はあり得ないでしょう。

 

セールス面でも資金面でも八方塞りになってしまっているのがMRJの現実ですが、かと言って劇的な改善策もないので、今まで通り一日でも早く完成させてローンチカスタマーのANAに納入し、運航実績を積み上げて信頼性を高めるしか打開策はないと思います。

そうでなければCシリーズやエンブラエル同様、MRJ事業自体をボーイングかエアバスのどちらかに売るしかありません。その場合、売却先は70〜90席級のラインナップがないエアバスしかないと思いますが(ボンバルディアにもCRJシリーズがありますが、基本設計が古いですし、事実エアバスもCRJ事業は買っていません)、長年三菱重工はボーイングの製造分担を担当して来た経緯がありますから、MRJ事業をライバルメーカーに売却してボーイングとの関係を悪化させるような事は考えにくいです。

 

考えれば考える程好材料がないMRJですが、地道に進めるしかないと思います。今月にはファーンボロ航空ショーでMRJの飛行展示が行われる予定ですので、何とかここで性能をアピールして、新規受注に繋げて欲しいですね。

 

 

 

数字から見たアジアの最強ハブ空港

最近ブログも動画の更新も滞り気味ですみません。6月は仕事が繁忙期でなかなか時間が取れませんでした。7月はある程度緩くなると思うんで頑張ります・・・

そんな中でアップした東海道交通戦争、今回は羽田空港の国際化を中心に取り上げました。


東海道交通戦争・最終章④羽田国際化で変わる日本の空

 

動画内ではアジアのハブ空港争いに出遅れた日本が、羽田空港の再国際化で巻き返しを図る、という書き方をしましたが、実際、アジア地域は巨大なハブ空港の建設が相次ぎ、人を呼び込むためのし烈な争いをしています。単に空港を作るだけでなく、各国の航空会社によるネットワーク構築による乗り継ぎ客争奪戦や、各空港のサービス競争にも発展しており、この競争がアジア地域のハブ空港の地位を押し上げる原動力になっているようです。

実際、スカイトラックスの2018年の最新空港ランキングではベスト10のうちアジアの空港は羽田と中部を含む5空港がランクインしています(ちなみに北米は一番上でバンクーバーの14位、アメリカのトップはデンバー空港の29位だそうで・・・)
www.bloomberg.co.jp

 

このランキングでは1位がシンガポールのチャンギ、2位が韓国の仁川、3位が羽田、4位が香港、7位が中部となっていますが、このランキングはあくまでも空港の設備やサービス面、乗り継ぎのしやすさなどを総合的に評価したランキング。利用者数や飛行機の発着回数、路線数と言った、空港の実力を表すランキングではありません(第一、お世辞にもハブ空港と言える規模でない中部がランクインしてる時点で(ry)

 

では、実際のところ、アジア最大のハブ空港はどこになるのでしょうか。利用者数や発着回数などの比較しやすい数字で見ていきましょう。

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・利用者数

空港の利用者数は規模を示すには一番の指標。単純に利用者の多い空港=需要の多い空港と言えます。

で、下の記事にある「世界で最も忙しい空港ランキング」要は世界で乗降客数が多いランキングとも言えますが、世界一多いのはアメリカのアトランタ・ハーツフィールド・ジャクソン空港の約1億309万人。2位は北京首都空港、3位はドバイ国際空港、4位に東京の羽田空港がランクインしています。

では、アジア地域に限定したランキングを見て見ましょうか。

1位(全体2位) 北京・首都国際空港 約9580万人

2位(全体4位) 東京・羽田空港   約8540万人

3位(全体8位) 香港国際空港    約7270万人

4位(全体9位) 上海・浦東国際空港 約7000万人

5位(全体13位) 広州・白雲国際空港 約6590万人

6位(全体16位) デリー・インディラガンジー空港 約6350万人

7位(全体17位) ジャカルタ・スカルノハッタ空港 約6300万人

8位(全体18位) シンガポール・チャンギ国際空港 約6220万人

9位(全体19位) ソウル・仁川国際空港 約6220万人

www.bloomberg.co.jp

 

やはり人口の多い中国の空港が上位を占めていますね。日本の空港でランクインしているのは羽田だけで、成田はトップ20位の圏外。関空や中部はお呼びじゃありません。

とは言え、大抵の空港は国内線と国際線を合わせた乗客数ですので、単純に国際ハブ空港としての乗り継ぎ客数を示す数値でないことには留意するべきでしょう。そんな中でも国際線しかなく、人口的にも大きくない香港とシンガポールが上位を占めているのは素直に凄いです。この2空港は早い時期から乗継客を重視した空港運営を行っていますので、さすがはハブ空港の元祖というべきでしょうか。

 

・発着回数

発着回数が多いという事は、それだけ乗り継げる路線が多く、ハブ空港たりえるという事。こちらは少し古い2015年のデータになりますが、国際空港評議会(ACI)の発着回数ランキングを参考にしました。ちなみに世界一位はまたしてもアトランタの88万2497回。二位はシカゴ・オヘア空港の87万5136回、三位がダラス・フォートワース空港の68万1299回、四位がロサンゼルス国際空港の65万5564回とアメリカの空港が上位4位までランクインしています。上位30空港で見てもアメリカの空港は半数以上の16空港がランクインしていますから、改めてアメリカの航空業界の巨大さが分かるのではないでしょうか。

factboxglobal.com

 

それでは、アジアの空港に絞ったランキングを見ていきましょう。

1位(全体5位) 北京首都空港  59万169回

2位(全体15位) 上海虹橋空港 44万8213回

3位(全体18位) 羽田空港   43万8542回

4位(全体22位)香港国際空港  41万6900回

5位(全体26位)広州白雲空港  40万9674回

6位(全体30位)ジャカルタ空港   38万129回

 

うーん、さっきの旅客数ランキングに比べるとちょっと寂しいですね。シンガポールのチャンギや仁川がランク外になったのは意外です。旅客数3位のドバイも発着回数になると27位とかなり下になってしまいます。

発着数ランキングになると「大型機で大量に旅客をさばく空港」よりも「小型機でより多く本数を飛ばす空港」の方が有利になってくるので、大型機の比率の高いアジアの空港はランキングを落とす傾向にあるのかも知れません。

しかしそんな中でも国際線しかないのに発着回数の多い香港には驚きました。恐らく中国本土への利用が多く、便数も多く出ている分、チャンギよりも旅客数や発着回数を稼いでいるのでしょうか。

 

・貨物取扱量

ハブ空港は何も旅客だけではありません。元々ハブアンドスポークシステムは旅客ではなく物流システムのひとつとして生み出されており、最初に航空業界でハブアンドスポークシステムを生み出したのは貨物会社のフェデックスです。アジアのハブ空港争いは航空貨物を巡る争いとも言えます。

貨物取扱量ランキングは先ほどの発着枠ランキングと同じところを参考にしました。今度は前置きなしでアジアのランキングを見て見ましょう。

factboxglobal.com

 

1位(全体1位) 香港国際空港       442万2227トン

2位(全体3位) 上海浦東空港       327万3732トン

3位(全体5位) 仁川国際空港       259万5674トン

4位(全体8位) 成田国際空港       212万2134トン

5位(全体10位) 台湾桃園空港       202万5291トン

6位(全体13位)北京首都空港       188万9830トン

7位(全体14位)シンガポールチャンギ空港 188万6880トン

8位(全体19位)広州白雲空港       153万7759トン

9位(全体22位)バンコクスワンナプーム空港  123万563トン

10位(全体23位)羽田空港         117万3961トン

11位(全体24位)深圳奉安空港       101万3691トン

12位(全体29位)インディラ・ガンジー空港   77万3896トン 

 

貨物に関しては他のランキングよりもアジアの空港が多くランクインしています。ここでようやく成田もランキングに顔を出して来た他、台湾やバンコクなどの他のアジアの巨大空港もランクインしています。ひときわ際立つのは香港。全体でも一位な上にアジア2位の上海を100万トン以上も引き離しています。世界的に見てもフェデックス最大のハブであるメンフィスをわずかに上回る第一位。香港半端ないって!

 

・で、数字から見たアジア最強のハブ空港は?

利用者数や発着回数と言う面から見れば、北京首都空港が最強と言えるかもしれません。しかし、北京は人口の多い中国の首都ですから旅客数が多いのはある意味当然と言えますし、利用者の大半は国内線利用です。さらには中国の法律で国際線同士の乗継であっても中国への出入国が義務付けられており、この点でもハブ空港の定義を考えると北京はハブ空港と言えるかどうかは疑問の余地が残ります。

 

下のURLは国土交通省の資料ですが、世界の主要空港の就航都市数を見ても北京は97都市と他の空港と比べても見劣りしてしまいます(その点については日本も同じですが・・・)貨物量と言う面でも他の空港よりも少なく、北京を「アジア最強」とするのは少々ためらいます。

http://www.mlit.go.jp/common/001011127.pdf#search=%27%E7%A9%BA%E6%B8%AF+%E5%B0%B1%E8%88%AA%E9%83%BD%E5%B8%82%E6%95%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%27

 

では、数字の面から見たアジア最強のハブ空港はどこか。個人的には総合的なデータを見る限りでは香港・チェクラプコク国際空港が最強なのではないかと思います。

貨物取扱量は文句なしのアジア1位、利用者数こそアジア3位ですが、国内線主体の北京や成田に対し国際線だけでこの旅客数ですから、国際空港としてはかなりの大規模空港と言えます。さらに発着回数の面でも羽田に匹敵する規模ですし、国際線旅客数に限ればアジア最大と言ってもいいでしょう。

元々香港は中継貿易として栄えた地域であり、現在でも貿易や金融が経済の中心ですので、人や物の往来の手段としてハブ空港は必要不可欠な存在であり、香港の生命線ともいえる施設。それゆえこれだけ強大になったのも納得ですし、昔から大きな影響力を持っているのも当然と言えます。

とは言え、シンガポールや仁川などの他のハブ空港が劣っているという訳ではなく、これらの総合的な力は互角と言えます。そう考えると日本の航空行政の出遅れ感を改めて感じてしまいますね・・・

 

世論を味方につけた両備と敵に回したJR九州の差

当ブログで何度も取り上げている両備グループの問題。先日、岡山市の地域交通の在り方を示す「地域公共交通網形成計画」策定に向けた法定協議会の初会合が開かれました。

headlines.yahoo.co.jp

予想通りバス事業者間にも温度差はありますが、今後の公共交通の在り方を考える協議会の設置にこぎつけたのは両備グループの運動の大きな成果と言えます。慢性的な利用者減少に加え、バス運転手の不足で路線の維持が困難になり、路線休止になるケースも出始めており、地方の公共交通問題は待ったなしの状態。各事業者の思惑はあると思いますが、是非議論を深めて今後のモデルケースとなるような解決策を見出して欲しいと思います。

www.sanyonews.jp

 

一方、今年3月のダイヤ改正で大規模な減便に踏み切ったJR九州ですが、改正後も余波は続いており、5月には九州各県からダイヤの見直しの要望が出され、JR九州は7月14日の久大本線の復旧に合わせてダイヤの一部修正や列車の増結を行う方針を示しました。路線の復旧時に合わせてとは言え、ダイヤの修正に応じざるを得なかったのは、減便で通学に支障が出たという声が無視できないくらい多かったという事でしょう。

mainichi.jp

 

昨年12月の減量ダイヤの発表以降、九州各県では利便性低下による客離れや通勤、通学への悪影響を懸念する声が多く、沿線自治体も猛反発しましたが、結局は一部の修正には応じたものの、基本的には当初の内容通りの減便となりました。

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両備グループの訴えもJR九州の減便も、根本にあるのは慢性的な利用者減少と交通事業の採算性悪化であり、このままでは路線の維持ができないという危機感から起こした行動です。しかもJR九州は減便だけなのに対し、両備は大規模な路線廃止(のちに撤回)とストと、両備の方がより深刻で利用者への影響が大きいもの。おまけに両備の場合はドル箱路線への参入認可に対する反対という、見方によっては参入妨害で世論の反発を招きかねない案件です。にも拘らず両備グループは支持する人が多かったのに対しJR九州は大きな反発を招きました。この違いは一体何なのでしょうか。

 

  

1.今まで積み上げてきた実績と印象の差

両備グループと言うと和歌山電鉄設立による南海貴志川線の引き受けを始め、三重県の津エアポートラインの設立や、経営不振に陥った中国バスの再建、最近では破産した井笠鉄道バスの事業引き受けなど、地盤である岡山県以外でも公共交通の引き受けに積極的な事で有名です。

特に和歌山電鉄の再建は動物駅長の元祖ともいえる「たま駅長」の起用や「いちご電車」「おもちゃ電車」など列車そのものに魅力を持たせるなどして沿線の魅力を高めて乗客を増やし「地方ローカル線再生のモデルケース」として度々メディアにも取り上げられるほど。グループ代表である小嶋光信氏も「地方公共交通の再生請負人」としてその名を知られており、公共交通を地域社会をつなぐ「血管」ととらえ、社会的弱者の為にも公共交通の維持が必要と言う信念の持ち主です。

公共交通の維持に人一倍努力し、再生を成し遂げてきた両備グループだったからこそ、突然の廃止申請にも「あの両備がこれほど大規模なバス路線の廃止をするからには何か理由があるはず」と両備の訴えに耳を傾け、理由を知って支持したのではないでしょうか。

 

一方のJR九州も民営化後早い時期から水戸岡鋭治氏デザインの鉄道車両を次々と投入し、早くから観光列車に力を入れたり、九州新幹線開業時には新幹線からの乗り継ぎ客をターゲットにした観光特急を多数設定するなど、鉄道の魅力を高め、興味を持ってもらうための積極的な投資を次々と行っていきました。

しかし近年は九州新幹線の全線開通やクルーズトレインの「ななつ星」、関連事業の好調などで景気のいいニュースが続き、極め付けは2016年のJR三島会社初の東証1部上場。これらの明るいニュースが度々報じられると「JR九州は儲かっている」と思ってしまうのではないでしょうか。

そんな景気のいい話が続いた後の突然の大規模減便のニュース。対象となった路線の自治体や利用者にしてみれば「あれだけ景気のいい話をしておいて減便とは何だ!」と、JR九州に不信感を抱いて反感を買うのも仕方のない事ではないでしょうか。

 

2.上場企業と非上場企業の差

2016年に東証一部に上場し、完全民営化を果たしたJR九州ですが、上場企業ともなれば不特定多数の株主を抱えることになり、また株価の維持や上昇の為、配当を出すことが求められます。株主サイドも会社がいい加減な経営をして倒産したら自分の資産が紙くずになるわけですから、自然と赤字事業に対する目は厳しくなります。JRに取って株式公開や完全民営化は国の監視下から解放され、自由な経営が可能になるメリットがありますが、一方で株主の監視を受け、利益の一部を配当として還元する義務を負う事になります。

JR九州も上場に伴い鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全株式を放出し、完全民営化を果たしました。2018年3月期のJR九州の決算は売上高約4133.7億円に対し、営業利益639.6億円、当期純利益504.1億円。数字だけを見ればかなり優秀ではありますが、これは上場前に経営安定化基金を取り崩し、鉄道資産の減損処理を行って減価償却費負担が減ったため。今でこそ鉄道事業は黒字ですが、減損処理前はギリギリ赤字であり、今の鉄道事業の利益は経営安定化基金取り崩しで過去の負債を一掃して出した利益とも言えます。

今後は税制優遇措置の終了や鉄道事業の減価償却費の増加で減益が見込まれ、地方ローカル線の赤字と長期低落傾向で内部補助が困難になる可能性も出て来ます。そうなれば株主、特に地方の実情を知らない外国人株主から減益の元凶である赤字ローカル線対策を求められるのは必至。遅かれ早かれこうなる可能性はあったと思いますが、一方で決算上は十分な利益を上げているのもまた事実であり、本来であればネットワークの維持の為に拠出された経営安定化基金を償却して出した利益ですから、沿線自治体は釈然としないのではと思います。

 

一方の両備グループは現在も非上場であり、創業一族の松田家が現在でも経営の中枢にいます(小嶋氏は松田家出身ではありませんが、いわゆる娘婿なので松田家の一員です)。同族企業というとどうしても会社の私物化やワンマン経営というイメージを持ってしまいますが、外部の意見に左右されず、長期的な視野に立った経営ができるというメリットがあります。要はオーナー一族がしっかりした考えや長期的なビジョンを持った優秀な人物であれば問題はなく、むしろ会社はいい方向に回りますので、同族企業は良くも悪くもオーナー一族の質に左右されます。

両備グループの場合は代表も小嶋氏自身が公共交通に対する確固たる信念を持っており、他の役員も特に反対もせず協力した事を考えると考えは小嶋氏と同じでしょう。組合のストもある意味経営陣の理念に賛同した行動とも言えます。もし両備グループが上場企業だったら株主の反発を恐れてこれまでの行動はとれなかったでしょうし、それ以前に赤字の会社の引き受けは不可能だったと思います。非上場の同族企業であったがゆえに、信念に基づいて思い切った策が打てたのではないかと思います。

3.大義名分と事前準備の差

両備グループがバス路線の大規模廃止を発表した時、その理由を「めぐりん益野線参入により2億8000万円の減収が見込まれ、内部補助ができなくなる」と、路線バス事業の窮状を訴えるものであり、あえて問題提起として赤字路線の廃止を発表した、としています。異例な発表ではありましたが、「地方の公共交通の持続性」「数少ない黒字路線への参入というクリームスキミング」「ネットワークの維持が困難になる地方交通の将来」という、地方交通の問題点を問うという大義名分を前面に押し出しており、決して自分たちが得をするための廃止ではないという点が世論の共感を得たのではないかと思います。

これまでの両備グループの公共交通に対する取り組みもこの主張に説得力を持たせており、その後の廃止届の撤回や組合のスト通告→集改札ストに変更などの手並みも鮮やかでした。恐らく、めぐりん益野線参入が表面化したあたりから、両備グループ内である程度世論に訴えるための戦術を練っていたのだと思います。一見すると衝撃的な発表で世間の注目を集め、ある程度の成果を得たらすぐに引っ込めて迷惑をかけたことを詫びる。場当たり的な対応では法定協議会設置までは持ち込めなかったと思いますし、世論の共感も得られなかったと思います。

 

一方のJR九州。発表が突然だったことや、既に決定事項として発表した事はマズかったと思います。減便をするにしても発表前に影響のある自治体に説明をする、利用率調査をしてその結果を公表し、利用者が少なく減便するしかないという事を利用者に訴える、路線ごとの利用者数や収支を公表して窮状を訴えるなど、世論の理解を得る努力や根回し、判断に必要なデータを公表するなどの事前準備をしてから減便に踏み切るべきでした。景気のいいニュースや好調な決算発表が発表された後でいきなり「ローカル線の維持が苦しいから減便します、ご理解ください」と言われても納得する人なんていないでしょう。

今更「他の事業で黒字を出してるんだから内部補助をしろ」とは言えないにしても、そもそもJR九州は九州地方の国鉄路線を継承し、九州の公共交通を維持、発展するために作られた会社ですから、その責務を考えると今回の減便発表は少々乱暴であったと思います。減便が路線維持の為にやむを得ないものであったとしても、事前の説明や世論への喚起は必要でした。

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JR九州も反発の声に流石にまずいと感じたのか、ダイヤ改正日に「高速道路の延伸などによる他の交通機関との競争激化や人口減少、少子高齢化で今後も厳しい状況が予想されるので、今回のダイヤ改正で列車本数や運転区間の見直しを行う事にしました」との意見広告を出しましたが、遅きに失した感があります。

この意見広告を減便発表前に出して窮状を訴え、沿線自治体に協力を呼びかけた方が理解を得られたかも知れませんし、話し合いの場を設けて双方の妥協点を見いだせたかも知れません。窮状を知って危機感を持った自治体が路線維持の為、支援に乗り出した可能性もあります(まあ、JR北海道みたいに窮状を訴えても沿線自治体が全然理解してくれず、口は出してもカネは出さないというケースもあるわけですが)残念ながら減便ありきのJR九州の発表は、沿線自治体や利用者との間に溝を作り、公共交通の在り方を議論する機会や路線活性化に向けた自治体の支援を得るチャンスを失ってしまったのではないかと思います。

 

まとめ

両備グループの問題もJR九州の問題も根っこにあるのは今のままでは公共交通の維持が困難であるという危機感であり、一事業者だけに交通ネットワークの維持・責任を丸投げしていればいい時代ではなく、行政や利用者も問題意識を持つ必要があるという点では同じです。しかし、問題提起の仕方やアプローチの仕方は対象的であり、用意周到に行動を起こした両備と事前の準備や根回しを行わなかったJR九州の差がその後の世論形成に決定的な差を生んでしまったなと思います。

もちろん、両備のやり方に反発を覚えた人も少なからずいたと思いますし、JR九州に理解を示す人も多いと思いますので、私の考えが全てだというつもりは毛頭ありません。しかし、地方交通の問題は両備やJR九州だけでなく、日本全体の問題でもありますので、そろそろ国民的な議論が必要な時期なのではないかと思います。

一事業者の内部補助で赤字路線を維持するのは厳しくなってきてますし、本来であれば黒字路線の利益は黒字路線の利用者や事業者に還元されるべき利益ですので、内部補助は根本的な問題の解決にはなりません。

赤字ローカル線を維持するにしても、黒字化とまでは行かなくても行政の支援が可能な範囲内に収める必要がありますし、行き過ぎた内部補助や公的支援は事業者や利用者のモラルハザードや危機感の希薄化を引き起こす恐れがありますので、ある程度の危機感を持ちつつ、長期的に路線を維持する仕組みを作る必要がある時期に来ているのではないでしょうか。

 

両社の対応の違いは、自社を「交通事業者」としてとらえるか、「営利企業」としてとらえるかの違いだと思います。「交通事業者」としてとらえた両備は公共交通ネットワークの維持という社会的責務の為にああいう行動を起こしたと考えれば説明が付きますし、JR九州の取った行動も利益の最大化や株主への利益の還元という「営利企業」として損失を減らすため当然の事をした、と考えれば合点が行きます。

しかし、JR九州が儲け一辺倒に走った、とは私は思いません。本当に利益だけを考えているのであれば赤字ローカル線などとっくに廃止していると思いますし、大規模減便は路線維持のための苦肉の策であったと思います。JR九州が間違ったのは減便と言う結論を先に持ってきたことであり、減便の前に利用者や自治体に理解を得る努力を怠ったこと。鉄道の魅力を高め、利用してもらうために様々な仕掛けを行い、JRグループの中でも異質な存在として注目を集めてきたJR九州だけに、その努力を無にしかねない今回の事は残念でなりません。「交通事業者」としての矜持があるのなら、今からでも沿線の声に耳を傾け、お互いが納得のいく解決策を見出して欲しいですね。

JAL再建問題の「負」の部分

東海道交通戦争、今回は2回に渡ってJALの再建を取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章②~沈んだ太陽は再び昇るのか~カリスマ経営者最後の挑戦


東海道交通戦争・最終章③~陽はまた昇る~意識改革と部門別採算制度が起こした奇跡の復活劇

 

正直、JALの再建話そのものは東京~大阪間の競争には直接関係ない話ですが、ここの話をやらないと、その後の羽田国際化やJALとANAの確執などの話に支障が出ますし、話の流れ抜きにJALの破たんと再建はやるつもりでした。本題は東京~大阪間の新幹線と航空の争いですが、裏テーマが戦後日本の交通史と言う事を考えると、避けては通れない話題ですからね。でもこれでもかなり端折ったんですよ。今回からは動画内では書けなかったJAL再建問題に関して取り上げていきたいと思います。

 

今回はJAL再建問題の「負」の部分を取り上げます。話の構成上、負の部分については人員削減や整理解雇、資本金の減資に不採算路線の撤退と、一通り触れてはいますが、個々の部分に関してはそこまで深く触れませんでした。ここでは負の部分についてもう少し深く触れてみたいと思います。

 

1.人員削減と整理解雇

JALの人員削減は約1万6000人。このうちの何割かはJALホテルズや機内食製造会社、旅行業などの子会社売却による切り離しですが、パイロットや客室乗務員、整備士など航空機の運航に直接関わる人員も削減の対象となりました。大半は希望退職によるものですが、事実上は退職勧奨。それでも退職に応じなかった一部の従業員に対しては整理解雇の対象となってしまいます。

 

さて、この「整理解雇」ですが、基本的に日本は解雇規制が強く、大抵の場合は従業員に重大な落ち度(犯罪を犯したり横領したりなど)があり「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる」場合を除き、解雇されることはありません。しかし、経営不振による使用者側の都合による解雇ができないわけではなく、1)人員削減の必要性がある(2)使用者が解雇回避努力を尽くした(3)人選が合理的(4)手続きが妥当、のいわゆる「整理解雇の4条件」を満たせば解雇は可能です。

JALの場合、最終的には最後まで希望退職に応じなかった84人を整理解雇としましたが、これは日本ではかなり異例の事。ある意味、法的整理になった企業は条件さえ満たせば整理解雇もOKという前例を作ったことになりますが、実際、整理解雇が認められる基準自体も以前よりは多少緩くなっているようです。

人員削減が進められた時期はリーマンショック後、航空業界自体が冷え込んで採用が抑制された時期でもありますので、特に専門性が強いパイロットに関しては高齢のパイロットや航空機関士から副操縦士に転身した人が削減の対象となったため、再就職に関してはかなり厳しく、操縦かんを奪われた人も多いと聞いています。特に航空機関士からの転身組は過去のJALの採用計画に振り回された経緯もありますので、会社に人生を狂わされたと言っても過言ではないでしょう。

 

2.資本金の全額減資

 会社更生法の申請後、JALの資本金は全額減資となり、それまでの株主は株主責任として株を失いました。株式会社の原則から言えば出資者である株主には「株式の引受価格を限度とした出資義務」があり、会社が潰れたりすれば出資金を失うのは当然の事だと言えます。

とは言え、JAL位の大企業になるとその影響は大きく、大株主や個人株主にも大きな被害を与えました。例えばJASの筆頭株主で統合後のJALの大株主であった東急電鉄。経営が危ないと言われた2010年下半期でJAL株を全て売却し、90億円の特別損失を計上しました。この特損で田園都市線の車両更新計画にストップがかかり、置換え予定の車両を延命するなど影響がありましたが、東急の場合は早めに見切りをつけた分、まだ傷口は小さく済んだ方です。

他にも三菱商事と双日がJAL株で150億の特別損失を計上した他、JALと取引があり、付き合いでJAL 株を保有していた旅行会社などの取引先もJAL破綻で損失を出しています。

そして、株主優待目当てでJAL 株を買った多数の個人投資家も損失を蒙ることになりました。株は自己責任とは言え、個人株主が多かったJALの破綻と減資は被害を受けた人が多かったのではないでしょうか。

 

3.不採算路線の撤退

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本編でも不採算路線の撤退には触れていましたが、これについては破綻前にも撤退した路線や空港は少なからず存在しました。計画自体は2009年には既に作成されており、動画内で触れた拠点以外にも国際線はメキシコシティ、青島、杭州、アモイから撤退。国内線も静岡、松本、神戸、粟国の4か所から撤退しています。

特に松本や粟国、動画内で触れた小牧や広島西はJAL 撤退=定期路線消滅=廃港の危機でしたが、松本と小牧はFDAが路線を引き継いで存続、広島西はそのまま廃港、粟国は第一航空が路線を引き継いだものの運航は安定せず、補助金のゴタゴタもあって今年3月に撤退と明暗が分かれています。

この他にも国内線は中部路線を中心に大量に撤退、国際線も関空、中部発着路線は半減と、特に名古屋地域で大幅に縮小されています。元々この地域はANAが強く、後発のJALは苦戦していましたが、破綻で路線網を維持する余裕もなくなってしまいました。中部空港は元々羽田国際化で苦戦していますが、それに拍車を掛けたのがJALの大幅縮小であり、JAL破綻で運営計画か狂った空港も、ある意味破綻の犠牲者とも言えます。

ただし、そんな中でも離島路線はほぼ破綻前のネットワークを維持していますし、経営が回復した後は撤退路線の復活や季節運行も行なっています。元々公共性を強く意識していたJAL ですから、この辺はしっかりしてるな、と思いますね。特に近年では天草エアラインとの提携や、ストレッチャーの搭載が可能なATR42の投入、沖縄の離島の貨物需要を考慮して貨客混載型のダッシュ8-400を入れるなど、離島路線に配慮した機材を相次いで投入しています。公共性に対する意識が強いJALならではの機材選択とも言えます。

 

以上、JAL 破綻の負の部分について触れてきましたが、放漫経営で会社を潰したと言う事実や、破綻で大きな影響を受けた人が少なからずいた事は忘れてはいけないと思います。勿論、その事はJAL 自身が一番よく分かっていると思いますし、忘れる事はないと思います。その上で破綻の教訓を生かし、日本を代表する航空会社としてANAと切磋琢磨して欲しいですね。