前編に引き続き、ローカライズ化した航空会社を紹介していきます。前編をまだご覧になっていない方は先にこちらをご覧下さい。
この記事を書くきっかけになった2代目エアアジア・ジャパンについてはこちらの動画をどうぞ。
迷航空会社列伝「郷に入ってもゴーイング・マイウェイ」2代目エアアジアが飛べなかったわけ
・天草エアライン
ローカライズ化航空会社の代表格と言ってもいい会社ですが、前編で紹介した3社が都道府県単位でのローカライズなのに対し、天草エアラインの場合は熊本県の天草諸島が本拠地なので、自然と天草のローカライズになります。と言うよりはこの会社の場合、会社そのものが「新しく作った天草飛行場に定期路線を作るために作られた航空会社」なので、自分たちの島の為に空港と航空会社を作ったという、究極のローカライズ航空会社なのです。
一時は経営不振に陥り、債務超過寸前にまで追い込まれてしまいましたが、JAL出身の奥島透社長(当時)が社長に就任し社内改革を行った事で奇跡の復活を果たしました。1機しかない小さな会社なのを逆手に取り、1日乗り放題切符や手作りの機内誌、社員全員が一人何役もこなすマルチタスク化や、小さな会社ならではのユニークなサービス、1機だけの保有機を青いイルカをイメージした塗装に塗り替え、随所に遊び心を施して人気を博すなど、「目的地に行く為に飛行機に乗る」から「天草エアラインに乗りたいから出かける」という、航空会社そのものに魅力を持たせ、今でも根強い人気を誇っています。最近では天草エアラインの設立から再建までを書いたノンフィクション小説「島のエアライン」が発表され、度々メディアで取り上げられる程の会社になっています。
こうした天草エアラインの地道な努力に地元の天草も応え、「天草の空サポーターズクラブ」を設立して島のエアラインを側面支援。ここまで地元住民と会社の絆が強いケースもそうそうないのではないでしょうか。
しかし、そんな天草エアラインも厳しい状況であることには変わりなく、最近では国土交通省も経営基盤の弱い地域航空会社の在り方として将来的な統合を検討するよう、実務者協議を開いています。個人的には天草エアラインに関しては下手に統合してローカライズを消してしまう方が不利だと思いますので、できれば今のままの方がいいと思うんですが、規模的には不安定で厳しい事には変わりありませんから悩ましいところです。
・ピーチ(peach)
日本で設立された初のLCCであり、和製LCCの中では最も成功しているピーチ。関空を中心に日本中に路線網を築き、国際線も運航しているこの会社を「ローカライズ化されている」と言うのも少々違和感があるのですが、ピーチの成功は地盤である関西地方、もっと言えば大阪を前面に出したブランド展開も大きな理由の一つですので、ここでは関西地方と言う大きなくくりで「ローカライズ化した航空会社」と定義して紹介します。
ピーチは関空を最初の拠点にしたことから本社を大阪に置き、地盤である関西地方に受け入れられるようブランディングを行いました。ブランド発表の際に「おもろい会社を目指す」と宣言し、国籍、年齢、経歴不問、茶髪OKと航空業界の常識を覆すCA募集に関西弁のアナウンス、においの面でタブーとされてきたたこ焼きやお好み焼きの機内販売に踏み切る、様々な企業とのコラボレーションなど、宣言通り「おもろい」事を次々とやって行っています。
これだけピーチがはっちゃけてもドン引きされずに受け入れられ、支持されるのも「おもろい事」をやる会社が受け入れられやすい関西の土壌が大きかったのだと思います。関西の人は値段にはシビアですが、安い理由に理解を示し、納得したら受け入れる懐の深さも持ち合わせており、LCCが受け入れられやすい下地がありました。考えてみればかつて関空発着の国際線が不振に陥り、次々と撤退していった理由は「値段の安いエコノミーは埋まっても高いビジネスやファーストはガラガラで、採算に乗らない」だったので、価格の安さと実利を重視する関西ではフルサービスキャリアよりもLCCの方が水に合っていたのかも知れません。
そんな関西ローカライズ化されたピーチも、2020年までにバニラエアと統合することになります。成田に新たなベースができる以上、今まで通りとは行かないかも知れませんが、地盤の関西で培った「おもろい会社」というイメージを変えず、関東でもピーチらしくどんどんおもろい事をして行って欲しいなと思います。就航当初の知名度が低いころと違い、和製LCCの成功例として知名度が高まった今のピーチなら、積極的に選ぶ人も多いはず。下手に関東の文化におもねってピーチらしさを消してしまったら、それこそ6年かけて築いてきた「おもろい会社」のイメージを捨ててしまう事になり兼ねませんから。
・まとめ
以上、近年の航空会社のローカライズ化について見てきました。大手のブランドを使いつつも地域色を出そうとする会社、地域色を前面に出して地元の支持を得る会社、地元の土壌に上手く乗っかってブランディングをする会社とそのタイプは様々ですが、共通しているのは「地元の人に愛される会社である」と言う事。エアアジア・ジャパンがどこまで名古屋ローカライズ化できるか、本気で東海地方に溶け込む覚悟と努力をするのか、まだ未知数ではありますが、これまでの成功体験だけでは日本市場で成功できないのは前のエアアジア・ジャパンや就航への苦戦で良く分かったはず。今後のエアアジア・ジャパンの取り組みに期待したいところです。