〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

両備グループバス廃止問題③だんだん「両備vs岡山市」になってきた

2月に2度取り上げた両備グループの路線バス廃止問題、最近また話題になってきましたので再び取り上げたいと思います。この問題の経緯は過去記事をご覧頂ければと思いますが、簡単に言えば両備のドル箱路線であり創業路線でもある「西大寺線」に八晃運輸のバス「めぐりん」が参入しようとし、両備グループが問題提起として赤字31路線の廃止を届け出た問題です。単なるバス路線参入の諍いにとどまらず、地方の公共交通の在り方に一石を投じたものでした。

 

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あれから2か月以上が経ちましたが、その後の経緯を簡単にご紹介します。

まず赤字路線の廃止問題ですが、廃止日を来年3月にそろえた後、3月15日に廃止届を取り下げました。元々が公共交通の在り方への問題提起が目的ですし、両備も本気で廃止にするつもりではなかったのでしょう。岡山県も公共交通の在り方と路線の維持・確保に向けた検討会を立ち上げるとして一定の成果を得ましたし、問題が長引けば両備サイドにも批判が来たでしょうから、ここが引き時であったと思います。

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その後、両備グループは4月17日にめぐりんの認可取り消しを求めて東京地裁に提訴し、舞台は法廷へと移ります。両備側の主張としてはめぐりんの停留所設置に際し、岡山市の道路占有許可手続きに誤りがあったにも関わらず認可され、手続きに瑕疵があり採算を度外視しためぐりんの認可は違法としています。

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これに対して岡山市は2か所については土地利用者の理解は得られていないものの、すでに両備グループのバス停があるから新設の影響はすくないから「有効」と判断、残り一か所は民間所有地なので感知しないと国に報告。両備側は反発して抗議文を提出するなど、問題の対立軸は「両備vs八晃運輸」から「両備vs岡山市と中国運輸局」になりつつある感があります。

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そして今度は両備バスと岡山電気軌道の労働組合が4月23日以降のストを通告。しかもそのストの理由が「めぐりん益野線参入による収益悪化で賃金カットになる可能性があり、雇用と生活水準の維持と益野線参入阻止を会社が国に働き掛けること」というこれまた異例のもの。建前は組合員の生活維持の為ですが、競合他社の参入阻止を掲げるストは聞いたことがありません。

そして23日には本当にストを実施。と言っても影響の少ない昼間の1時間だけですが、26日には午後1時~4時にストを実施、めぐりんの運航開始日の27日には大半の路線で終日ストを実施するなど、更なる混乱が懸念されました。

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そして今日、組合側はバスは運行するものの、運賃の収受はしない「集改札スト」に変更すると発表。実質的に無料でバスを走らせるという、これまた異例の対応となりました。昔は近鉄でも切符の収受をしない「集改札スト」が行われていたようですが、ICカードが普及した現在では困難なのか、近年では見られない手法です。

この方法ならお客様には迷惑をかけずに経営だけにダメージを与えられますが、ダメージを与えるのは競合路線であるめぐりんも同じ。よりによって運航開始初日に「集改札スト」をぶつけられるわけですから、いくら格安運賃でも「実質無料」にはかなう訳がありません。これはかなりうまい手だなと思います。最初から組合側はこれを狙ってたんじゃね?と思うくらいの手際の良さです。

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それにしてもこの間の岡山市の両備に対する対応は「塩対応」と言ってもいい位。先の認可問題に対する対立もそうですが、今回のストに関しても「労使間で話して回避して欲しい」と当事者意識ゼロの他人事と言わんばかりの発言です。

岡山市にしてみれば、廃止届やストでいたずらに岡山市の交通を混乱させる両備に対していい印象はないのかも知れません。しかし、元はと言えば赤字の路線バス問題を両備任せにして放置し、競合会社の参入発表があり両備が何度も問題を訴えてもろくに取り合わなかった岡山市にも責任があるはず。ここまで問題がこじれた以上、岡山市も当事者のひとりとして本気で問題に取り組む必要があるはずなのに、今のところそんな素振りはありません。

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とは言え、このままゴタゴタが続くのは両備にも、岡山市にも、利用者にも決していいことではありません。両備が認可取り消し訴訟と一緒に訴えていためぐりんの認可執行停止は24日に裁判所に却下されましたので、少なくとも4月27日の運行開始は阻止できなくなりました。今後認可取り消しの判決が出たとしても、それまでは西大寺線は2社競合になりますので、組合のスト戦術も長期的に見れば有効な手段とは言えず、むしろ更なる収益悪化や利用者の非難と言う形で組合に襲い掛かるかも知れません。

今のところ世論は両備に味方する人が多いものの、問題が長引けば次第に批判の矛先は八晃運輸や岡山市ではなく、両備側に向けられる可能性さえあります。そろそろ第三者(この場合は岡山県か政府になるかと思いますが)が間に入って、八晃運輸や周辺市町村も交えた問題解決の話し合いをする頃ではないでしょうか。そして、この問題だけでなく、岡山の公共交通の在り方、地方の公共交通を維持するための仕組みを真剣に議論する場も作る必要があるでしょう。

 

国会もこういう問題をもっと積極的に取り上げて議論する必要があると思うんですけどねえ・・・