〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

競争激化の欧州市場でまた航空会社が破産。本格的な「顧客への救済制度」が必要な時期なのでは。

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画像はあまり関係な・・・いやここも潰れたか。

  

またもや欧州で起こった航空会社の「突然死」

3月28日、アイスランドの格安航空会社「WOWエアー」が突如廃業を発表し、予定されたフライトは全便運航停止となりました。各種報道ではWOWエアーは資金繰りに窮しており、当日の朝まで資金調達の交渉をしていたようですが、結局失敗に終わって今回の決定となったようです。

WOWエアーはアイスランドのレイキャビクを拠点にロンドンやパリ、アムステルダムやバルセロナなど欧州各地を結ぶ路線に加え、アメリカのニューヨークやボストン、カナダのトロントなど中距離路線にも進出しており、機材はエアバスA320シリーズに統一されていました。今回の廃業で当日出発予定の29便は全便キャンセルとなり、チケットを持っていた2700人は他社に問い合わせるよう会社から連絡があったそうですが・・・

要は「うちは潰れたからもう飛行機には乗せられない。他の会社で「救済運賃」があるかも知れないから後は自分たちで何とかしてね」という、完全な乗客への丸投げです。突然運航停止した会社ではよくある対応なのですが、旅行中だった乗客にとってはチケットが紙くずになった上に、帰りの手段も失われて自分で探さなければならないという踏んだり蹴ったりな目に遭う事になります。この手のニュースを見るたび、理由はあるにせよ平気で乗客を置き去りにする航空会社の無責任さに憤りを感じてしまいます。


ヨーロッパへのご旅行はカタール航空

wowair.com


www.aviationwire.jp

 


www.bloomberg.co.jp

 

欧州ではここ数年航空会社の運航停止が相次いでおり、2017年にはイギリスのモナーク航空とドイツのエアベルリンが消滅、オーストリアのニキ航空も一時は会社が消滅しかけました。今年に入ってからもドイツのLCC、ゲルマニアが2月5日に資金繰りの悪化で破産申請し、全フライトを即時欠航したばかりでした。各航空会社については下記の過去記事やニュース記事をご参照ください。

 
www.meihokuriku-alps.com


www.meihokuriku-alps.com
jp.reuters.com

 

また、WOWエアやゲルマニアのように昨日まで通常通り運航されていた航空会社が、ある日突然何の前触れもなく「突然死」する理由についてはこちらの記事も参照して下さい。 

www.meihokuriku-alps.com

 

運航停止になった航空会社の利用客救済の制度を検討する時期では? 

さて、90年代から始まった欧州での航空自由化ですが、競争激化による運賃下落や、LCCの出現による選択肢の多様化と言った恩恵を利用者にもたらしてきました。しかしその副作用として必要以上に航空会社が乱立し、過当競争に陥った結果、自由化の副作用として体力の弱い小国のフラッグキャリアや高コスト体質のキャリアの破産を招きました。自由化が進んだ以上、体力のない会社や古い体質のままの会社が生き残るのは難しくなりますから、それ自体はある程度は仕方のない事だと思います。

しかし、近年の航空会社の破産はそれまで普段通りに飛んでいたのにある日突然運航が止まってフライトがキャンセルされるケースが多く、何の準備や心構えもないまま利用客が放り出されるケースが増えています。2017年のモナーク航空の場合はイギリス政府が航空会社の破産に備えて代替フライト手配の為の「信託基金制度」を設けていたためまだ利用客の救済が可能でしたが、今回のWOWエアーの場合はそれすらなく、利用客の救済も競合他社による自主的な救済運賃や救済フライト頼み。これだけ航空会社の破産が相次ぎ、何千何万もの乗客が突然飛行機に乗れなくなったり、置き去りにされるケースが相次ぐと、そろそろ対策が必要な時期に来ているのではと思います。

 

 

「航空旅行信託基金制度」か「航空版ブリッジバンク」の創設を

 では具体的にはどうすればいいのでしょうか。私見ではありますが、破産しても当座の利用客の足を損なわないよう、救済フライトをすぐに運航できる体制を整えるか、破産した航空会社自身が当面運航を続けられるようにする制度を整備すればいいのではないかと思います。参考になるのは救済フライト方式はイギリスの「航空旅行信託基金制度」、破産した航空会社が運航を継続する方式は日本の金融危機の時の「ブリッジバンク」ではないかと思います。

 

「航空旅行信託基金制度」は航空会社や旅行会社が破産して帰国便の手配が困難になった時に備えて、救済フライトを運航するための資金を積み立てておくというものです。日本でも旅行会社の破たんの際、利用客に旅行代金を弁済する為に補償金を預ける制度はありますが、それはあくまでも旅行代金に対しての弁済であって、既に旅行中の利用者を救済する制度ではありません。旅行中の利用客にとっては補償よりも先に「無事に帰る事」の方が重要になってきますので、政府が責任をもって何らかの帰国手段を提供するための仕組みは必要だと思います。

 

一方の「ブリッジバンク(承継銀行)」ですが、破たんした金融機関の事業引継ぎ先が現れなかったときに、一時的にその金融機関の業務を引き継いで通常業務を行う一方、2年か3年の間に受け皿となる金融機関を探して事業譲渡し、その後は清算するというものです。

日本では実際に承継銀行が設立されたことが2度あり、1度目は2002年3月に設立された「日本承継銀行」で、2001年に破たんした石川銀行と2002年に破たんした静岡県の中部銀行の業務を引き継ぎました。その後、2003年3月に引継ぎ先の金融機関に無事事業譲渡し、2004年3月に清算されています。

2度目は2004年3月に設立された「第二日本承継銀行」ですが、これは将来破たんして一時的な業務引継ぎが必要な金融機関が現れた時の為に設立された銀行であり、設立後しばらくは事実上の休眠会社として存在していました。その後、2010年9月に日本振興銀行が破たんするとその受け皿となり2011年4月に事業譲受、12月にはイオン銀行に売却されて「イオンコミュニティ銀行」に改称したのち2012年3月にイオン銀行本体に吸収されて消滅しています。いずれのケースも破たんした銀行が無秩序に消滅し、顧客の資産や預金を散逸させないため、融資先の二次破綻を防ぐための措置であり、こうした「顧客に動揺を与えない、円滑な破たん処理の為のセーフティーネット」があるからこそ、顧客は安心して銀行と取引でき、ひいては金融システムの維持に役立っているのです。

 

「航空版ブリッジバンク」はあらかじめ一時的な受け皿となる会社もしくは公的機関を設立し、一定の融資資金を用意して万が一の時に備えます。破綻した航空会社が現れると一時的なつなぎ融資を行って当座の運航を確保する一方、期限を区切って受け皿となる航空会社を探します。

繋ぎ期間は銀行の場合は破綻後2年、最長でも3年ですが、航空会社の場合はせいぜい半年もあれば既存の予約客の分の運航は捌けますし、それだけの期間があれば運航継続を断念した場合の予約客の振替先を探したり、余裕を持ってキャンセル対応もできますので長くても半年以内で充分でしょう。半年以内に譲渡先が見つかればその会社に売却、見つからなければ清算というルールにして先延ばしを認めなければ、破綻した会社がゾンビ化してズルズルと延命するのを防げますし、利用者にとっても破綻しても当座の運航は続くと分かれば安心して飛行機を使えるのではないでしょうか。

 

従来の航空会社の破産処理は国や会社の規模によってまちまちであり、公的資金投入で延命したケースがある一方、突然の破産で空港や旅行先に利用客が取り残されるケースも少なくありません。問題のある航空会社を無闇に延命させるのは好ましくありませんが、消費者保護の観点からは航空会社の破産で著しい不利益を被らないよう、何らかのセーフティーネットは必要になると思います。

特にEUの航空業界はこの手のセーフティーネットは必要だと思います。EUのルール上、加盟国政府レベルでの救済が認められない以上、利用者保護を主導的に行えるのはEUしかいません。航空機がEU域内の移動で重要な地位を占めている以上、航空業界の秩序を保ち、利用客を保護する責任は自由化を推し進めたEU政府にあるのではないでしょうか。「航空会社が破産して利用客が行き場を無くした」と言うニュースが過去のものになるよう、EUを始めとした各国が仕組みを整備する時期に来ているのではないでしょうか。

 

 

 

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日を追うごとに不利な立場になる737MAX、一刻も早い事故原因の究明と信頼回復を

 3月10日のエチオピア航空の墜落事故以降、ボーイングと737MAXには世界中で逆風が吹き続けています。前回、737MAXが全世界で運航停止となった記事を書いた時も、「事故原因を突き止められず、対応を誤ってしまえば737シリーズそのものの歴史に幕が下ろされかねない」と締めくくりましたが、事態はさらに悪い方向に進んでいるように思えます。

なお、これまでの経緯については以下の記事も参照して下さい。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

www.meihokuriku-alps.com

 

3月18日、ボーイングのマレンバーグ会長はメッセージをウェブサイトに掲載し、「安全はボーイングの核心であり、私たちの飛行機によって安全で安心できる旅行を保証することは永続的な価値で、すべての人に対するゆるぎない責任だ」として、安全が同社にとって最優先事項であることを強調しています。その中で737MAXの一連の事故原因と疑われている失速防止システムのソフトウェア改修や訓練プログラムの見直しに言及していますが、その直後に司法当局が737MAXの開発経緯や、安全対策に問題がなかったか調査していると報じられます。

記事内では737MAXの開発担当者に関係する文書を提出するよう罰則付きの召喚状を出したとされており、20日にはFBI(アメリカ連邦捜査局)も刑事事件として捜査に加わったと報道されました。さらにEUやカナダも737MAXの安全性についてFAAの検証結果を受け入れず、独自に調査するとしています。737MAXの安全性だけでなく、FAAの安全認証のプロセスや信頼性にも疑問の目が向けられており、事態は沈静化するどころかアメリカの航空行政を揺るがしかねない状況です。

 

www.aviationwire.jp

headlines.yahoo.co.jp

 

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そして、遂に737MAXの発注キャンセルを表明する航空会社も現れました。インドネシアのフラッグキャリア、ガルーダインドネシア航空は発注済の737MAX49機のキャンセルする意向をボーイングに伝えました。まだ正式なキャンセルではなく、現在はボーイングからの回答待ちと言う状態ですが、インドネシアはアメリカ、中国に次ぐ737MAXの有力市場であり、737MAXの最初の事故が発生したライオンエアの本拠地。その国のフラッグキャリアがキャンセルを表明したのはボーイングにとって大きな痛手です。これが737MAX発注キャンセルドミノの始まりでなければよいのですが・・・

www.aviationwire.jp

 

さて、日を追うごとに立場が悪くなっている737MAXですが、4600機以上もバックオーダーを抱えている今の状態を考えるとこのまま生産中止にするわけにも行きません。しかし、737MAXの安全認証プログラムに何らかの違法性が疑われ、各国の航空当局もFAAの安全審査に疑問を抱いている現状では、早期の路線復帰、生産再開は難しいでしょう。

各国の航空当局や航空会社、ユーザーの737MAXへの不信感は、機体そのものの安全性への疑念よりも製造元のボーイングや安全審査を担当したFAAへの不信感の方が大きいのではないかと思います。それだけボーイングとFAAの立場は危ういものであり、この不信感を払しょくしない限り、FAAが運航再開を指示したとしても他国の航空当局はそれに追随せず、運航停止を継続するでしょうし、長期化すれば航空会社は737MAXを見限り、他の会社の機体(大体はA320neoでしょうが)への鞍替えをする「発注キャンセルドミノ」が起こりかねません。発注キャンセルが大量に起これば信用不安から新規受注も見込めず、737MAXは競争力を失って本当に生産中止に追い込まれかねません。そういう意味では737MAXは崖っぷちに立たされていると言えます。

一方、737MAXを待つという選択をした会社に対しても、納入停止が年単位となれば787の納入遅延時のように、1世代前の737NGを補償として納入する必要が出てくるかも知れません。737NGは今年中にも生産中止になるはずでしたが、737MAXの運航停止が長期化すればそうも言っていられなくなると思いますので、補償用や早急な置き換えが必要な航空会社用として当面は生産継続になるのではないかと思います。旧式の737NGではA320neoよりは競争力は落ちますが、それでも全く対応できないよりはマシですし、万が一737MAXが生産中止になった場合はそれに代わる新型機を完成させるまでの間の繋ぎにはなるでしょう。そう考えると737NGの生産ラインが完全に閉じる前だったのは不幸中の幸いかも知れません。

 

とは言え、本当は737MAXの事故原因が解明され、必要な対策を打って安全に運航できるようになるのが一番なのは言うまでもありません。しかし、737MAX開発の過程で安全に対する重大な瑕疵や過失、問題の隠ぺいがあったのだとしたら、今後の安全の為にも真実を明らかにし、関わった人物には厳しい処罰がなされるべきだと思います。関係当局には改めて一日も早い事故原因の解明と対策の徹底、早期の信頼回復を望みたいです。

今後のYouTubeメインチャンネルの投稿について

2月6日にメインチャンネルの収益化停止を受けてから一か月半。今日は停止後の状況と今後のメインチャンネルの方向性についてご報告します。

収益化停止の経緯についてはこちらの過去記事もご参照ください。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

まず収益化の再申請ですが、3月9日に一度再申請を行いました。収益化停止後、メインチャンネルではYouTubeliveのアーカイブを1本、2019年度の航空各社の運航計画紹介動画を1本追加した程度で、既存動画の削除や差し替えは特に行っていませんでした。これは仕事が忙しくてなかなか動画の方の対応ができなかったのも大きいのですが、急に収益化が復活したチャンネルもちらほら出てきたので「もしかしたら大した修正をしなくても行けるかも知れない」と、ある種の「実験」をしてみたくなったのもありました。また、信ぴょう性は不明ですが、動画のタグ付けを減らしただけで収益化復活したというツイートを見かけたので、それが事実なら原因は機械音声や静止画でなく、タグの整理をすれば復活するのか?と試してみようとしたのもあります。

 

しかし、再審査の結果は「パートナープログラムポリシーに準拠していない」、つまり却下でした。やはり静止画だけの動画が多い今の状況では審査に通る事はなさそうです。正直言って「多分そう簡単には通らないだろうな」と思っていましたし、大して対策も取っていなかったので予想通りと言えば予想通りですが、やっぱりショックではありますね。

 

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しかし、これで動画の差し替えをする覚悟は決まりました。静止画がダメとなると動画内容の一部を映像に差し替えないといけないので、今後1か月間かけて差し替えを行います。実は差し替え用の映像を確保する為に先月成田と羽田に行って動画素材を撮って来たんですよ。慣れない作業だったのであまり使える素材はないのですが・・・

 

とりあえず、当座の差し替え対象の動画は以下の通りです。

・迷航空会社列伝

・スイス航空(全3回)

・アリタリア航空(全3回)

・登録記号狂奏曲

・あの迷航空会社は今

・初代エアアジアジャパン

・バニラエア

・エアポートウオーク名古屋

・迷旅客機列伝

・ボーイング717

・ボーイング737-700(前後2回)

・航空会社運航計画

・2018上期(会社ごとに3回構成→1回にまとめる)

・2018下期(2回構成を1回にまとめる)

 

手持ちの映像で差し替えても問題が少なそうな動画を中心に、全体の3割の動画は再構成することになりそうです。2017年3月以前に作成した動画は前のPCにデータが残っており、再編集には手間がかかる事、また、カナディアン航空やUSエアウェイズ、モナーク航空など既に消滅した会社は映像の入手そのものが困難な事から今回の差し替えからは除外します。また、2代目エアアジアジャパンなど今は手持ちの映像がなくても将来的な調達は可能な動画は調達後に再編集することにし、ANA機材貧乏くじ伝説など再生回数の多い動画は収益化基準に影響する可能性があるので当面差し替えは見送ります。

それと現在作成中の「東急の空の夢」シリーズですが、とりあえず可能な限り映像パートを入れた上でYouTubeにもアップすることにしました。このシリーズに関しては先にニコニコにアップするつもりでいましたが、そうなると後でYouTubeにアップした時にスパム判定される恐れがあるので、先にYouTubeにアップ→それほど間を置かずにニコニコにもアップ、というやり方に変えたいと思います。とりあえず新作はもうすぐ完成しますので、早ければ明日にでもYouTubeにアップしたいと思います。

今後の動画投稿も先に映像の比率の多いものをYouTubeにアップ→静止画の割合を増やし、セリフも手直ししたものを後でニコニコにアップという流れになって行くと思います。一連の差し替え作業を行ったうえで、改めてYouTubeの審査に臨みたいと思います。皆様にはもうしばらくご迷惑をおかけしますが、なにとぞご容赦頂ければと思います。

 

それと、YouTubeメインチャンネルの収益化停止後、ブログの投稿ペースが増えていることに気が付かれましたでしょうか。実は収益化停止以後、YouTubeに極度に依存していた反省から、リスクヘッジも兼ねてブログの運営を強化しています。幸い最近でははてなブログの公式Twitterにも記事を取り上げられる回数が増えて来ましたし、車内販売に関する記事が多数のブックマークを頂き、スマートニュースにも取り上げてもらった事でブログ運営の方にも自信が付いてきています。ブログ記事なら調査や映像素材の確保、編集作業が必要な動画よりも投稿にかかる手間は少ないので、動画の投稿ペースが落ちる分、ブログの方でカバーしていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします!

 

【4月14日追記】

本日差し替え動画の第一弾をアップしました。当初の予定から変更して2017年2月以降にアップした動画は基本的に差し替えます。オープニングを映像に変えたのと、関連性は薄くとも一部だけでも映像に差し替えればスパム認定は回避できるのでは?と判断した為です。

また、収益化を通すにはAIの基準を通らない動画を残しておくのはあまり良くないみたいなので、再審査時に一気に消した後、順次再アップと言う形を取るかもしれません。その場合は再アップまではニコニコ動画の方で見てもらえればと思います。

 

 

それにしても、一度アップして何万も再生された動画を消すのは辛いですね。今まで積み上げてきたものを自分の手で壊さなければならないのがこんなに辛いものだとは・・・

 

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愛知県との連携協定に新路線、エアアジアジャパンはようやく成長軌道に乗るのか

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3月22日、エアアジア・ジャパンと愛知県は包括連結協定を締結しました。締結式にはエアアジアグループCEOのトニー・フェルナンデス氏も出席し、エアアジア側の本気度が伺えます。今後愛知県の観光振興や食のPRなどで連携し、具体的には西尾茶を使ったお菓子を県がエアアジアに無料提供し機内で配布、有松絞の機内販売などを行う予定です。昨年には名古屋市とも協定を締結しており、エアアジア・ジャパンの愛知県の「地元化」は着々と進んでいるようです。

headlines.yahoo.co.jp


www.aviationwire.jp

 

そして同じ日、トニー氏は今年の夏前までの仙台線就航と冬ダイヤでのソウル線就航計画を示しました。仙台は当初の計画で札幌便と同時に就航するはずが、運航開始が遅れた事で流れてしまったので、今回は再チャレンジと言う事になります。合わせてエアアジアXによる中部~クアラルンプール線の8月までの就航を発表しましたが、こちらの方は昨年も同じような発表をしてたのにいつの間にかうやむやになっていたので、果たして実現するのかどうか・・・
www.aviationwire.jp

カタール航空で人気の世界都市へお出かけください。

 

さらにトニー氏は三菱航空機の「MRJ」を20機導入する意向を表明しました。現在は三菱側の回答待ちと言う状態だそうですが、もしこれがリップサービスではなく本気の検討であれば、開発遅れや新規受注の停滞で閉塞感があるMRJにとっては久々の明るい話題と言えます。東南アジアの大手LCCが発注するとなれば、アジア地域でのMRJのセールスにも弾みがつくのではないでしょうか。MRJと言えば生産拠点があるのは愛知県。ここでも「地元」である愛知県へのエアアジア側の配慮が伺えます。

www.traicy.com

 

さて、中部空港の拠点化と地元との連携を強化しているエアアジア・ジャパンですが、ようやく成長軌道に乗せる事が出来るのでしょうか。

2018年第3四半期の搭乗率は72%、4月〜12月の搭乗率は80%と、前年度の68%よりも4%改善しています。徐々にではありますが、エアアジアブランドが浸透しているのが搭乗率からも見て取れます。

とは言え、エアアジアグループ全体で見ればまだまだ搭乗率は低い方。他国のエアアジアが80%台の搭乗率なのに比べるとまだ開拓の余地はあるように思えます。今年2月からは中部〜台北線にも就航しましたが、激戦区のこの路線の搭乗率が加わる次の四半期の搭乗率が今後を占う鍵と言えます。

そして1番の鍵となるのは今後の路線展開でしょう。韓国LCCが乗り入れるソウルはともかく、中部〜仙台路線は事実上ANAグループの単独運航路線なので、上手く需要開拓すれば伸びしろは十分あると思います。中部発着路線はこの他にも宮崎、長崎、松山など意外と潜在需要はありそうなのにANA単独運航の路線が他にもあるので、こういった地域に進出すればまだまだ開拓の余地はあるのではないでしょうか。

 

将来の路線開拓の為にも、拠点となる東海地方でのエアアジアブランドの浸透は急務と言えます。個人的には大手2社の影響を受けない独立勢力の存在は必要だと思いますので、エアアジア・ジャパンには是非頑張って欲しいですね。

 

 

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航空激戦区・台湾で「スターラックス航空」は成功する?

世間ではANAのA380受領と日本初飛来が大きな話題となっていますが、これはあえて無視して今日は他の話題を取り上げたいと思います。だって成田行ってないしw

 

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今回は来年の就航を目指して準備を進めている台湾の新興航空会社・「スターラックス航空(星宇航空)」について。

エアバスは3月19日、元エバー航空会長の張國煒氏が設立した台湾の新興航空会社「スターラックス航空(星宇航空)」がA350XWB17機(内訳-900型5機、-1000型12機)を確定発注したと発表しました。2021年後半から順次受領する予定です。既にエアバスA321neo10機を確定発注済で今年10月から受領を開始、2020年の春節前をめどに東京、大阪、香港に就航させる予定です。その後A350の受領後2022年をメドに北米路線に進出し、2024年度にはアジアと北米20都市に就航する計画です。

 

www.aviationwire.jp

 

sky-budget.com

 

スターラックス航空社長の張國煒氏はエバー航空を傘下に持つ台湾大手物流・ホテルグループ「エバーグリーングループ(長栄集団)」の創業者・張栄発氏の四男ですが、エバーグリーングループ内の後継者争いに敗れ、グループを追われた経緯があります。そんな張國煒氏が再起を図るべく設立したのが「スターラックス航空」であり、ある意味エバー航空とは同根企業。「台湾のエミレーツ航空」を目指したプレミアムエアラインという立ち位置で他社との差別化を図る戦略を取ります。

日本ではまだそれほど名は知られていませんが、台湾での注目度は非常に高く、CA1期生の募集は倍率68倍と非常に狭き門となっています。張氏自身もボーイング777型の操縦資格を持って自ら定期路線で操縦桿を握った経験があるほか、700億円の資産を持ち、エバーグループ時代の経験と人脈もスターラックス航空の資金調達と政財界の支持取り付け、許認可時の規制緩和に大きく役立ちました。大手企業集団の内紛に敗れたプリンスが新会社で反撃ののろしを上げるという分かりやすいストーリー性も台湾世論の支持に一役買い、現地では航空ビックバンの旗手として最も注目される航空会社と言えます。

 

courrier.jp

 

さて、早ければ来年にも姿を見せることになる「スターラックス航空」ですが、果たして台湾の「第三極」、ひいては「台湾のエミレーツ航空」として成功するのでしょうか?個人的な考えですが、正直言って可能性は五分五分だと思います。

プラス要素としては前述の通り、台湾国内での大きな支持でしょう。少なくとも台湾国内では「星宇航空」のブランドはかなり浸透しており、張氏のカリスマ性もあって就航後しばらくは大きな注目を集めるのではないかと思います。また、スターラックス航空の目指すプレミアムブランドは、東アジア地域では意外と同じようなコンセプトの会社は少ないので(アジアで中東御三家的なプレミアムかつトランジット需要がメインの会社はシンガポール航空とキャセイパシフィック位でしょうか)、このコンセプトがアジアで受け入れられれば、強いブランド力を持った航空会社として人気を集めるかも知れません。

カタール航空で人気の世界都市へお出かけください。

 

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一方、不安要素は近年の台湾市場の競争の激しさです。当初スターラックス航空が就航する台湾~日本線と香港線はアジア有数の激戦区であり、FSCとLCCが多数入り乱れて激しい競争を繰り広げています。台湾の会社に限っても少し前までFSCのチャイナエアラインとエバー航空、トランスアジア航空にファーイースタン(遠東)航空、LCCのタイガーエア台湾(チャイナエアライン系列)とVエア(トランスアジア系列)の6社がしのぎを削っており、人口2000万人台の台湾市場では明らかに供給過剰でした。この過当競争のあおりを受けてトランスアジア航空は2016年9月にVエアの運航を終了した直後に突然運航停止し、会社解散に追い込まれましたファーイースタン航空も1度破産して数年間運航が止まった時期もあります。

スターラックス航空はプレミアム路線を取り、価格競争はしないと言っていますが、目論見通りに乗客が伸びないと安売りに手を伸ばさざるを得ないかも知れません。就航後1~2年はアジア路線が中心になると思いますので、その間いかに価格競争に巻き込まれずにブランド力とリピーター客を構築できるかが最初の壁になると思います。

 

しかしスターラックス航空にとって最大の正念場は北米路線の開設後になると思います。スターラックス航空自身も台湾市場だけでの市場拡大は難しい事を認めており、アジア地域の北米・欧州へのトランジット需要、高運賃・高サービスでハイエンド市場を狙っていくとしています。台湾市場を基盤とし、ミドルエンド~ハイエンド市場が中心のチャイナエアラインとエバー航空、ローエンド市場が主戦場で価格競争が激しいLCCとは別の市場を狙う、と言う点では経営的には正しい判断です。

 

www.ys-consulting.com.tw

 

しかし、ハイエンド市場狙いのブランド構築はともかく、こういった乗り継ぎ需要を狙う会社はアジア地域には多く存在します。台湾周辺だけを見てもスターラックス自身ベンチマークの一つとしている香港のキャセイパシフィック航空、仁川ハブで乗り継ぎ客取り込みを基本戦略としている韓国の大韓航空とアシアナ航空、そして近年アジアー北米間の乗り継ぎ需要獲得に力を入れている日本のANA、JALと、実は乗り継ぎ需要も結構競争が激しいです。もちろんチャイナエアラインやエバー航空も乗り継ぎ需要取り込みを狙っていますから、余計スターラックス航空には他社とのブランド差別化と、乗り継ぎ需要を取り込むための仕掛けづくりが必要になってくるのです。

北米路線開設後、いかに早く台北のハブ機能を確立できるか、どれだけリピート客を確保できるかでスターラックス航空の成否が分かれるのではないかと思います。アライアンス加入については特に言及されていませんが、乗り継ぎ需要を重視するのであれば、いずれどこかのアライアンスに属す必要があるかも知れません。とは言え、台湾航空業界のカリスマがどんな航空会社の形を見せてくれるかは楽しみなところ。まだスターラックス航空の全容は見えませんが、どんなサービスで私たちを驚かせるのか、これからの動きに注目していきたいですね。

 

 

【7月7日追記】

一部のネットニュースでスターラックス航空の日本路線が台湾当局から承認されたと報じられました。記事によると承認されたのは台北(桃園)から成田・関西・中部・福岡・那覇・仙台・新千歳・函館の8路線。この他定期チャーター便として台中~成田・関西線が承認されたほか、台北~バンコク・チェンナイ線も承認を受けたそうです。

sky-budget.com

 

計画では2019年10月にA321neoの初号機を受領後、近距離アジア路線を開設。日本路線は2020年後半以降に就航し、A350受領後に北米路線就航を目指すとしています。恐らくETOPSの関係もあるので当初は近距離路線で実績を積んでからになると思いますが、そうなればスターラックス航空のA350最初の就航先は案外日本になるかも知れません。

それにしても8都市に就航とはずいぶん強気な計画です。機材納入計画の関係や人員の準備、日本側との航空交渉や乗り入れ準備もありますから、一気に全部就航とはならず、まずは2~3都市程度になるとは思いますが、スターラックス航空が日本市場を重視していることがこの強気な就航計画からも伺えます。秋に機材が到着する頃には具体的な就航スケジュールも見えてくると思いますので、続報を待ちたいところです。

 

 

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4年経っても好調維持の北陸新幹線と3年目にして苦境が続く北海道新幹線。どうして差がついてしまったのか

3月16日のダイヤ改正で北海道新幹線の青函トンネル区間の最高速度が140km/hから160km/hに引き上げられたことに伴い、東京ー新函館間の最速列車の所要時間が4時間2分から3時間58分に短縮されました。時間にしてわずか4分の短縮ですが、以前より新幹線と航空の利用者数が逆転する境目が「新幹線の所要時間4時間」と言われており、航空機との競争で劣勢に立たされている北海道新幹線にとって、この「4時間の壁」を切る事は悲願でした。心理的にも「4時間台」よりも「3時間台」と言われた方が短く感じますので、インパクトは大きそうに思えます。


headlines.yahoo.co.jp

 

しかし、実際の北海道新幹線は開業初年度の2016年度は一日平均6200人、乗車率32%、2017年度は5000人、26%、2018年度は4700人、24%と下がる一方です。開業前の青森―函館間の鉄道利用者数3800人に比べればまだ多いですが、今までの整備新幹線の開業効果に比べると勢いはありません。期待されていた道南地域への経済効果も2016年度は390憶円に対し2017年度は220億円、2018年度は110億円と漸減しており、これまでの新幹線に比べるとその波及効果は限定的。収支面でも2017年度は96億7900万円の収入に対し営業費用195億5600万円、差し引き98億7700万円の赤字と、JR北海道の経営に貢献するどころか逆に足かせになってしまってます。今後は老朽化した青函トンネルの補修費用などもありますので、北海道新幹線の苦境は当面続きそうです。


headlines.yahoo.co.jp 

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一方、開業4周年を迎えた北陸新幹線は好調が続いています。開業4年目の利用者数(上越妙高~糸魚川間)は2月28日現在で840万7千人。初年度が897万人、開業ブームが落ち着いた2016年度でさえ8%減の829万人とほぼ横ばいか微増を続け、利用者数も開業前の3倍に達するなど大きな効果を上げており、北海道新幹線とは対照的です。北陸新幹線の方は収支が公開されていないので比較はできませんが、北陸新幹線のせいでJR東日本や西日本の業績が下がったというニュースはないので黒字基調なのではないかと思います。2023年には敦賀延伸開業を控えており、こちらの方は今後も好調が続きそうです。
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さて、1年の差で相次いで開業した北陸新幹線と北海道新幹線ですが、その明暗はくっきりと分かれています。これまでの整備新幹線は開業後利用者は大幅に増加しており、例えば東北新幹線の盛岡~八戸間は開業前の6割増、九州新幹線の博多~新八代間は38%増加しました。比較的開業効果が薄かった東北新幹線の八戸~新青森間でも22%増加と「新幹線開業=乗客大幅増で地方活性化」というのがこれまでの構図でした。しかし北海道新幹線に関してはこれまでの新幹線に比べると、今のところそれほど効果は大きいとは言えません。北陸と北海道はなぜここまで差が付いてしまったのでしょうか。

 

 

1.延伸地域の人口と観光資源の差

北陸新幹線の延伸区間である長野~金沢間で直接恩恵を受ける地域は長野県北信地域(飯山市、中野市など約8万4千人)、新潟県上越地方(上越市・妙高市・糸魚川市の約26万5千人)、富山県全域(約105万人)、石川県金沢市とその周辺自治体(白山市、野々市市、津幡町、内灘町、かほく市。約73万人)、合計212万9千人と大きなもの。さらに列車の乗り継ぎや周遊観光などで石川県の他の地域(約41万2千人)や福井県苓北地域(約64万人)、岐阜県飛騨地方(14万4千人)にも間接的な恩恵がある事を考えると、北陸新幹線の影響を受ける地域の人口は330万人以上になります。

これに対し北海道新幹線の新青森~新函館北斗間で直接恩恵を受ける地域は青森県東津軽郡のうち平内町以外の2町1村(1万1千人)、北海道渡島総合振興局(39万6千人)と檜山振興局(3万6千人)の合計44万3千人。北陸新幹線の5分の一程度です。函館都市圏と青森県以南の北東北との交流人口増加など、開業による経済効果は北海道でもあったものの、北陸新幹線に比べるとそもそもの人口差が大きいので開業後の影響に差が出るのも仕方ない事なのかと思います。

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加えて両者の観光資源にも大きな差があります。北陸新幹線沿線には野沢温泉や宇奈月温泉、さらに金沢から少し足を延ばせば和倉温泉、加賀温泉郷と言った日本有数の温泉地があり、白馬や妙高と言ったスキー・避暑地に立山黒部アルペンルート、黒部峡谷のような自然、少し離れますが世界遺産五箇山・白川郷の合掌集落など、観光資源は豊富で旅行会社も北陸新幹線沿線を基点にしたツアーコースを組みやすい地域です。

特に現在の北陸新幹線の終着駅である金沢は開業以降、宿泊者数が約88万人増え、外国人観光客が9万人強から45万人弱と4倍以上も増加しており、「金沢一人勝ち」と言われる程の好調ぶり。金沢ではホテルの開業ラッシュが続き、オフィスビル需要も地方都市にしては堅調な伸びを見せています。

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これに対し、北海道新幹線には地域ブランド調査でトップ争いをしている函館市があり、観光資源としてのポテンシャルは北陸新幹線と互角のように思えます(金沢市は9位)。しかし、函館以外に集客力の高い観光地は沿線にはなく、小樽や洞爺湖、登別と言った道央地域の主要観光地へは函館から遠く離れており、観光の回遊性と言う面では弱いです。函館市自体も観光客数は増えているものの商業売り上げはピーク時の3分の2に減少、人口も1985年の34.2万人から2015年は26.6万人と2割以上も減少するなど都市自体の活力は落ちており、北海道新幹線を函館市の活性化に生かせているとは言えません。

 

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2.首都圏からの距離と所要時間の差

開業前の東京~金沢間のJRの所要時間は平均4時間程度、最速で3時間40分台で結んでいましたが、新幹線開業後は最速列車の「かがやき」でで2時間28分、長野~金沢各駅停車型の「はくたか」でも3時間前後と1時間以上も短縮されました。距離的にも東京~富山間で約390km、東京~金沢間で約450kmと首都圏からも比較的近く、日帰りも可能な所要時間と言うインパクトは大きなものでした。物理的な距離に加え、新幹線開業で心理的な距離が縮まったのも開業後の利用者増加に貢献したのではないかと思います。

 

一方の北海道新幹線ですが、開業前の東京~函館間の鉄道の所要時間は最速で5時間22分。東京~博多間よりも長い上に乗り換えが必要となると鉄道が選択肢になる可能性は低いと言えます。開業後、東京~新函館北斗間は最速列車で4時間2分、平均所要時間は4時間19分と北陸と同じく1時間以上の短縮になりました。しかし、新函館北斗駅は函館駅から18km離れており、函館まで行くには在来線の「はこだてライナー」に乗り換える必要があります。このため東京~函館間のトータルの所要時間は開業後は4時間29分、今回のダイヤ改正でも乗り換え列車の時間を含めると最速でも4時間26分と速達効果はそれほど大きくはありません。

もっとも、新函館北斗駅に降りた利用者の多くは観光バスやレンタカーに乗り換えたり、マイカーで行き来しているようなので函館都市圏全体で見れば速達性は十分ある、とも言えます。しかし、函館空港は函館市内から9km程度しか離れていないので市内へのアクセスと言う面ではむしろ航空機より不利。北海道全体で見ても道外の来訪者の北海道への移動手段は航空機が80.6%、新幹線が8.9%と依然圧倒的航空有利で、函館に限っても関東~函館間の航空と新幹線の割合はほぼ半々。東京から4時間以上かかる現状では、少なくとも関東~北海道の旅客流動では北海道新幹線は主要な選択肢になっているとは言い難いです。

とは言え、東北地方からの北海道新幹線の利用者は関東地方とそう大差ない規模ですし、北東北~北海道になるとむしろ新幹線の割合が多くなります。こちらは函館~東北の区間に航空路線が存在しないのと、首都圏よりも距離的に近く、時間的にも心理的にも短縮効果が大きかったのではないでしょうか。

 

・北海道新幹線開業後における道内旅客流動調査結果(国交省北海道総合政策部作成)

http://www.mlit.go.jp/common/001193700.pdf#search=%27%E5%8C%97%E6%96%97+%E5%88%A9%E7%94%A8%E8%80%85%E6%95%B0%27

  

3.開業前後のインパクトの差

北陸新幹線も北海道新幹線も1973年に整備計画が決定された「整備新幹線」ですが、その後国鉄の経営悪化で計画は凍結され、1988年以降、一部の区間で建設が始まりました。北陸新幹線は高崎~長野間の着工が先に開始され、その後長野~富山間が2000年に着工、残る富山~金沢間が着工されたのは2005年でした(うち石動~金沢間は既に着工済)一方の北海道新幹線は2005年に新青森~新函館北斗間が着工されました。しかし着工が決まるまでは双方紆余曲折があり、北陸も北海道も一部区間のスーパー特急方式での着工になりかけたり、他の区間よりも着工順位が後回しにされたりと、長い年月をかけて開業にこぎつけたという経緯があります。

開業に至るまでの経緯や着工時期はそう変わらないのですが、開業時のインパクトは北陸の方が大きなものでした。北陸は開業を機に新型車両のE7系を新開発して投入し、列車名も「かがやき」「はくたか」と、長野までの列車「あさま」と別の名前が用意された事で「新しい新幹線が開業する」という世間の期待感は大きなものになり、開業フィーバーにも良い影響を与えたのではないかと思います。

一方の北海道新幹線も開業を機にH5系が投入されましたが、これ自体は北海道新幹線開業の5年前に既に投入されたE5系と同型のもの。列車名も既に東京~新青森間で使用されている「はやぶさ」がそのまま使われており、これでは「東北新幹線の延長」と見られても仕方なかったのではと思います。開業時のインパクトの違いもその後の開業効果の持続に影響があったのかも知れません。

 

4.JRと沿線自治体の誘客活動の差

 北陸新幹線開業で「独り勝ち」と言われた金沢市ですが、実際には開業前から周到に準備を進めていた事も利用者増加に差をつけました。例えば金沢駅のシンボルともいえる「鼓門」ですが、実は2005年には既に完成していました。2005年と言うと富山~金沢間が着工された年ですから、金沢市はその前から新幹線を見越して整備を進めていたのです。開業前には駅前の整備は準備万端整えており、開業前にもキャンペーンやプロモーションで新幹線と金沢市のPRに努めました。元々の金沢のポテンシャルが高かったのも大きいと思いますが、金沢の好調は事前の準備が功を奏した部分も大きいです。JR西日本もこうした沿線自治体の努力に応え、切れ目なく北陸のキャンペーンを打っており、開業5年目を迎える今年は1年半にわたる長期キャンペーンを計画しています。北陸の場合はJRと自治体の連携と誘客活動が上手く行ったケースと言えるのではないでしょうか。

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実は開業のかなり前にできてたんですよね・・・


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一方の北海道新幹線。今のところ最大の受益者であるはずの函館市は金沢市程集客には積極的とは言えません。新幹線駅が隣の北斗市にある事で開業への熱が金沢市程盛り上がらない事、今のところ北海道新幹線の波及効果は道南地域のみの為、北海道が一体となった観光キャンペーンや集客対策を打ちにくい事などが原因なのかなと思います。しかし、道南地域からの売り込みは金沢はおろか対岸の青森県に比べても少ないのは気がかりであり、市民レベルでも新幹線開業を機に交流を活発化させようという動きは下火になっているようです。木古内駅併設の道の駅の好調など、ミクロ的には新幹線開業を躍進につなげた場所もありますが、沿線全体では「どこか他人事」と言う感じがするのは私だけでしょうか。

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以上、北陸新幹線と北海道新幹線に差が付いた理由について考察しました。素人考えの考察ですので、調査が甘い部分や抜け落ちた部分、間違っている部分があるかも知れませんが、全般的には元々の地域の地力の差や最大の市場である首都圏からの距離の差という、地元の努力で埋められない差があるのが大きな理由だと思います。しかし、沿線自治体の積極性や連携の部分でも北陸と北海道では温度差があり、この部分に関しては自助努力で差を埋めることができるのはないのではないでしょうか。

苦境にある北海道新幹線ですが、この時期だからこそ沿線自治体とJRが連携して、誘客の方法を探る時期に来ているのではないでしょうか。「北海道新幹線がスピードを上げればシェアを上げれる」とJRも自治体も考えている節がありますが、その実現には青函トンネル区間の貨物列車がネックとなっており、一部報道である海上輸送への切り替えも農産物などの輸送に支障が出る農業関係者から反発の声が上がっており、早期の解決は望み薄です。

北陸新幹線が当初予想以上の集客に成功したのは金沢市を始めとした沿線自治体の準備やプロモーションが効果を上げ、「北陸に行きたい」と思わせた事が大きかったので、まずは「新幹線で北海道に行きたい」と思わせるキャンペーンを打ち、首都圏や東北地方へのPRや売り込みを強化するのが先決ではないでしょうか。スピードアップも大切ですが、まずは自分たちで利用客を呼び込むという姿勢が大事なのではないかと思います。将来、札幌まで延伸されれば新函館北斗駅は「途中駅」となってしまい、今以上に注目度は薄れてしまいます。「終着駅」のネームバリューがある今のうちに新幹線を地域おこしや集客に利用し、地域の魅力を高めておかないと本当に道南地域は「素通り」されてしまいかねませんし、将来の為にも必要な事なのではないでしょうか。

 

 

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737MAX、全世界で運航停止。ボーイングとFAAの「3日遅れ」の決断がもたらした代償

先日のエチオピア航空機墜落事故から始まる737MAXに関わる記事の続報です。まずは3月12日以降の各国の対応からご紹介します。それ以前の動向は以前の記事もご参照ください。

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まずは3月12日(日本時間13日朝)、EASA(欧州航空安全局)が欧州での737MAXの飛行を一時停止する措置を取りました。事故原因が判明するまでの間としていますが、FAA(アメリカ連邦航空局)に次いで世界の民間航空に影響力を持つEASAが飛行停止措置を取ったことで「737MAX包囲網」は更に狭まってしまいました。しかし、この時点ではまだボーイングもFAAも737MAXの安全性に自信を持っており、運航停止は考えていないとのスタンスでした。


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ところが翌13日、FAAは一転して737MAXの飛行停止を指示しました。ボーイングがFAAに運航停止を提案し「事故現場での新たな証拠や衛星データの分析に基づいて運航停止を判断した」としていますが、中国や欧州などの飛行停止措置や、737MAXの安全性を不安視した利用客の声をかわし切れなくなったのも大きいと思います。12日にトランプ大統領が「現代の航空機は複雑になり過ぎている」「複雑さが危険を生み出す」と、意味深なツイートをしたのも、暗にボーイングに運航停止を求めたものだったのかも知れません。ボーイングのCEOは大統領に直接電話して安全性をアピールしたそうですが、結局、劣勢を覆すことはできませんでした。

 

さて、FAAの飛行停止命令でようやく全世界が運航停止で足並みをそろえることになりました。14日には国土交通省も737MAXの運航停止措置を取っています。

しかし、事故当初は「安全性に絶対の自信を持っている」と言い張って飛行停止の措置を取らなかったボーイングに対する不信感は想像以上に広まっているようです。通常の事故調査は機体の製造国であるアメリカのNTSB(アメリカ国家運輸安全委員会)が調査の主体となるケースが多いのですが、今回のエチオピア航空の場合はBEA(フランス航空事故調査局)が調査を行う事になり、ブラックボックスもパリのBEAに送られて解析されることになりました。中国や欧州が737MAXの飛行停止措置を相次いで行う中、FAAは安全性を表明し続けて飛行停止措置を行わなかった事でエチオピア航空やエチオピア政府が不信感を持ち、「事故原因の特定で信頼できない」と判断したためです。

また、ノルウェーエアシャトルはボーイングに対して補償を求める他、ベトナムのべトジェットエアも737MAXの発注キャンセルを検討しています。ライオンエアの発注キャンセル検討と合わせると、仮に両社が発注キャンセルを行えば400機もの受注が消えることになります。現在はボーイング機が大半を占めるエチオピア航空も、今後のボーイングの対応次第ではエアバス機に全面的に鞍替えするかもしれません。運航停止までの「3日間の遅れ」は、ボーイングからの顧客離反を招きかねない事態になりつつあります。

 

ボーイングが737MAXの飛行停止措置にすぐに踏み切れなかったのは、737MAXがボーイングにとって最大の稼ぎ頭であり、4636機の受注残を抱える737MAXの製造が止まればボーイングの経営に計り知れない損失を与えるからです。737の月産レートは52機とボーイング機のラインナップで群を抜いて多く(787は12機→2019年に14機に引き上げ、777は4機、747-8は0.5機、767は2機)製造がストップすればその影響は他機種以上に大きく、工場の設備や人員は丸々コストになってしまいます。さらにライバルのエアバスA320neoシリーズの受注は約6500機と737MAXは水をあけられている状態であり、生産を止めたら新規受注が見込めなくなってその差はさらに広がりますので、ボーイングとしても止めるに止められなかった部分はあると思います。

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しかし、結果的にはその対応が顧客や利用者の不信感を招いてしまいました。いくら「安全に自信を持っている」と言っても具体的なデータもなく、他国が次々と飛行停止措置を取る中頑として飛行停止を求めなかったボーイングの姿勢は、連続事故という深刻な事態を軽視したと取られても仕方なかったと思います。737MAXのオートパイロットシステムの問題点を指摘したパイロットも複数いたそうで、これが本当ならボーイングは737MAXの問題点に十分対処していなかった可能性すら出て来ました。事故後、ボーイングの時価総額は400億ドル(約4兆4000億円)も下落しており、ボーイングの事故後の対応は裏目に出てしまった形です。

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ボーイングには一刻も早く事故原因を究明し、必要な対策を施して737MAXの安全性を証明する必要があります。また、航空当局や顧客である航空会社に対し、誠実な対応と納得のいく説明をして信頼を取り戻す努力をしなくてはなりません。ここまで事態が深刻になった以上、「安全だ」と言い続けるだけでは失った信用は取り戻せません。これ以上対応が後手に回れば、737MAXを見限ってエアバス機に乗り換える顧客は更に増えるでしょうし、今後の受注活動でもエアバスに水を空けられる一方です。1967年の就航以来、半世紀以上に渡って改良を繰り返しながら世界最多の生産機数を誇るジェット旅客機となったボーイング737。今回の事故は737シリーズ最大の危機であり、ここで事故原因を突き止められず、対応を誤ってしまえば737シリーズそのものの歴史に幕が下ろされかねません。ボーイングには早急な対策と誠実な対応を望みたいところです。

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