〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

航空会社が「突然死」するワケ

迷航空会社列伝、今回は昨年10月に破産したモナーク航空を取り上げました。


迷航空会社列伝「業態転換は破滅のもと?~イギリス版て〇み〇らぶ・モナーク航空」

 

ご存知の通り、モナークの破産は突然だったため、欧州各地で11万人が取り残されるという、イギリス航空史上最大の倒産劇となってしまいます。イギリス民間航空局が帰国の為の臨時便を大量に手配する事態となり、日本を含めた世界中で大きく報道されました。当ブログでも破産直後にモナーク航空について取り上げています。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

また、突然の破たんでツアーキャンセルになり、お金が戻ってこなかったり旅行先から帰ってこれなくなったりして社会問題となった「てるみくらぶ」を思い出した方も多いのではないでしょうか。てるみくらぶについては係長様の「しくじり企業L」で取り上げられていますので、詳しくはこちらをご覧下さい。

 


【ゆっくり解説】しくじり企業L 01話 ~てるみくらぶ~

 

さて、モナーク航空に限らず、航空会社はなぜかある日突然破産して飛行機が止まる、というケースがしばしば起こります。古くはタイのエア・サイアムが突然運航停止となり、旅行者が国外に取り残された例や、同時多発テロ後にスイスのフラッグキャリア・スイス航空が資金ショートを起こして飛行機が差し押さえられ、全便運航停止となった例、記憶に新しいところでは台湾のトランスアジア航空が前日に運航停止を表明した後、会社解散を決めた例など、何の前触れもなく「突然死」してしまう事例が過去に何度もありました。

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そう言えばこの会社のお金って返金されたんでしょうか?

 

日本の航空会社も経営破綻した前例はありますが、運航開始前に破産したか、破たんはしても航空機の運航は続けられたケースばかりでしたので、チケットが紙くずになったり乗る飛行機がなくなったという例はありません。利用者からしてみればたまったものではない航空会社の突然の破産ですが、なぜこのような「突然死」が起こりえるのでしょうか?

カタール航空で人気の世界都市へお出かけください。

 

理由①イベントリスクによる急激な経営悪化

このケースは1991年の湾岸戦争や2001年の同時多発テロ、2008年のリーマン・ショックなど、航空需要が急激に悪化して利用者が激減する場合に起こります。元々業績の悪かった会社や、多額の負債を抱えて返済に苦しんでいた会社が、頼みの綱だったドル箱路線の採算悪化でお金が入って来なくなり、資金繰りに行き詰まって力尽きるケースが多いです。

湾岸戦争時に運航停止になったイースタン航空やミッドウェイ航空などがこれに当たります。

 

理由②当てにしていた資金がストップされ、万策尽きた

航空会社に限らず、会社が倒産するのは「お金が無くて支払いができなくなった時」ですが、言い換えれば資金繰りのメドさえ付けば会社は存続できます。しかし、その当てにしていた資金が入って来ず、支払いができなくなればその会社はある日突然潰れてしまいます。

このケースの代表的な例がパンナムとスイス航空。パンナムは湾岸戦争による経営悪化でチャプター11を申請後、大西洋路線を他社に売却し、自らはデルタの支援を受けつつ、マイアミ近辺の国内線と一部の中南米線だけを運航する中規模航空会社として存続する計画でした。しかし、その当てにしてたデルタからの資金は株主の猛反対にあってストップされ、資金繰りのメドが立たなくなったパンナムは運航停止に追い込まれました。

スイス航空のケースについては私の動画を見て頂ければと思いますが、これについても当てにしてたUBSの資金が遅れた事で世界中を揺るがす事態になってしまったので、資金不足がどれだけ恐ろしいかがお分かり頂けると思います。

 

理由③毎日の現金収支で会社が回ってしまうから資金不足に気づきにくい

例えば製造業だと商品の代金が振り込まれるのは大抵納品後。それまでの間の材料費や人件費などは一旦会社建替えになりますし、工場や製造ラインなどの設備投資費も膨大になりますので、常に潤沢な資金を用意する必要があります。それ故に多額の損失で資金繰りが逼迫すれば東芝やシャープのように早い段階で経営危機が表面化するケースが多いです(粉飾してたら気づきようはないですけど)しかし、見方を変えればどうしようもなくなる前に問題発覚すればまだ手を打つことができる、とも考えられます。

 

ところが航空会社の場合、航空機などの設備投資はかかるものの、収入である航空運賃は基本的に前払い。一方の燃料代や着陸料などの運航経費は到着時の支払いか、後払いになりますので、一時的に現金が手元に残ります。無論後払いになったお金もいずれ必ず支払うべきお金なのですが、前払いの航空券のお陰で毎日お金が入って来ますので「これだけ現金があればなんとかなるし、毎日現金が入って来るから何とか乗り切れる!」と思ってしまいがちです。が、その「何とか乗り切れる」を繰り返しているうちに負債はどんどん膨らんでいき、利払いも増えていきます。そして、資金繰りが苦しくなってきたときにはどうしようもない位の負債になり、支払いに窮してある日突然破産、となってしまいます。

 

クレジットカードでの決済だと実際の支払いまで間があり、買物してお金を払ったという感覚が薄れる為「まだ大丈夫」と思ってガンガン使い、気が付いたら支払いが膨れて首が回らなくなってカード破産する人と考え方は同じですね。経営破綻前のJALもこれに近い感じでしたし(最も、JALの場合はそれ以外にも問題は多かったのですが、問題を先送りにして金遣いもユルユルでしたので、まあ本質的には同じです)業界は違いますがてるみくらぶも同じような考えで目先の現金欲しさに安売りを続けた結果、負債が膨らんで首が回らなくなりました。日銭が入ると資金繰りは楽ですが、財務がいい加減だとこう言うリスクもあるわけです。

 

理由④過剰な投資や需要を見誤った投資をして負債が膨らんだ

航空会社は何百億もする航空機を使うビジネスなので、機材計画は5年先、10年先を見据えたものでなければいけません。資金面の他にも保有機を一機増やすだけでパイロット10人、客室乗務員数十人、整備士や地上スタッフも考えると100人近い人材を確保する必要がありますから、何年も前から準備する必要があります。

 

しかし、会社の体力を超えた機材を買ったり、機材を過剰に購入してしまうと、その機材が就航して稼ぐまでの間、何十億、何百億というお金を負担しなければなりません。また、就航後も目論見通りに乗客が乗らないと利益を出して投資資金を回収するどころか、下手したら損失を出して会社にダメージを与えてしまいます。

スロバキアのスカイヨーロッパのように、急成長を遂げた会社がある日突然資金繰りに行き詰まって破産するのは大体このパターンで、会社の成長スピードに資金が追いつかず、少しでも需要が減って搭乗率が下がると入るお金も減って資金繰りに行き詰まり、破産してしまう会社が現れます。「急成長=将来安泰」とは限らないのが、航空ビジネスの難しいところです。

 

以上、航空会社が突然行き詰まる理由について書いてみました。突然の破産は何も航空業界に限った話ではないのですが、毎日休みなく飛行機が動く分、突然止まった時のインパクトは他の業界よりも大きいもの。本当はそんな終わり方をする航空会社はない方がいいのですが、航空ビジネスの特性を考えると、今後もないとは言い切れないのが難しいところ。色んな意味で「ご利用は計画的に」。

 

 

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