〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

競争激化の欧州市場でまた航空会社が破産。本格的な「顧客への救済制度」が必要な時期なのでは。

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画像はあまり関係な・・・いやここも潰れたか。

  

またもや欧州で起こった航空会社の「突然死」

3月28日、アイスランドの格安航空会社「WOWエアー」が突如廃業を発表し、予定されたフライトは全便運航停止となりました。各種報道ではWOWエアーは資金繰りに窮しており、当日の朝まで資金調達の交渉をしていたようですが、結局失敗に終わって今回の決定となったようです。

WOWエアーはアイスランドのレイキャビクを拠点にロンドンやパリ、アムステルダムやバルセロナなど欧州各地を結ぶ路線に加え、アメリカのニューヨークやボストン、カナダのトロントなど中距離路線にも進出しており、機材はエアバスA320シリーズに統一されていました。今回の廃業で当日出発予定の29便は全便キャンセルとなり、チケットを持っていた2700人は他社に問い合わせるよう会社から連絡があったそうですが・・・

要は「うちは潰れたからもう飛行機には乗せられない。他の会社で「救済運賃」があるかも知れないから後は自分たちで何とかしてね」という、完全な乗客への丸投げです。突然運航停止した会社ではよくある対応なのですが、旅行中だった乗客にとってはチケットが紙くずになった上に、帰りの手段も失われて自分で探さなければならないという踏んだり蹴ったりな目に遭う事になります。この手のニュースを見るたび、理由はあるにせよ平気で乗客を置き去りにする航空会社の無責任さに憤りを感じてしまいます。


ヨーロッパへのご旅行はカタール航空

wowair.com


www.aviationwire.jp

 


www.bloomberg.co.jp

 

欧州ではここ数年航空会社の運航停止が相次いでおり、2017年にはイギリスのモナーク航空とドイツのエアベルリンが消滅、オーストリアのニキ航空も一時は会社が消滅しかけました。今年に入ってからもドイツのLCC、ゲルマニアが2月5日に資金繰りの悪化で破産申請し、全フライトを即時欠航したばかりでした。各航空会社については下記の過去記事やニュース記事をご参照ください。

 
www.meihokuriku-alps.com


www.meihokuriku-alps.com
jp.reuters.com

 

また、WOWエアやゲルマニアのように昨日まで通常通り運航されていた航空会社が、ある日突然何の前触れもなく「突然死」する理由についてはこちらの記事も参照して下さい。 

www.meihokuriku-alps.com

 

運航停止になった航空会社の利用客救済の制度を検討する時期では? 

さて、90年代から始まった欧州での航空自由化ですが、競争激化による運賃下落や、LCCの出現による選択肢の多様化と言った恩恵を利用者にもたらしてきました。しかしその副作用として必要以上に航空会社が乱立し、過当競争に陥った結果、自由化の副作用として体力の弱い小国のフラッグキャリアや高コスト体質のキャリアの破産を招きました。自由化が進んだ以上、体力のない会社や古い体質のままの会社が生き残るのは難しくなりますから、それ自体はある程度は仕方のない事だと思います。

しかし、近年の航空会社の破産はそれまで普段通りに飛んでいたのにある日突然運航が止まってフライトがキャンセルされるケースが多く、何の準備や心構えもないまま利用客が放り出されるケースが増えています。2017年のモナーク航空の場合はイギリス政府が航空会社の破産に備えて代替フライト手配の為の「信託基金制度」を設けていたためまだ利用客の救済が可能でしたが、今回のWOWエアーの場合はそれすらなく、利用客の救済も競合他社による自主的な救済運賃や救済フライト頼み。これだけ航空会社の破産が相次ぎ、何千何万もの乗客が突然飛行機に乗れなくなったり、置き去りにされるケースが相次ぐと、そろそろ対策が必要な時期に来ているのではと思います。

 

 

「航空旅行信託基金制度」か「航空版ブリッジバンク」の創設を

 では具体的にはどうすればいいのでしょうか。私見ではありますが、破産しても当座の利用客の足を損なわないよう、救済フライトをすぐに運航できる体制を整えるか、破産した航空会社自身が当面運航を続けられるようにする制度を整備すればいいのではないかと思います。参考になるのは救済フライト方式はイギリスの「航空旅行信託基金制度」、破産した航空会社が運航を継続する方式は日本の金融危機の時の「ブリッジバンク」ではないかと思います。

 

「航空旅行信託基金制度」は航空会社や旅行会社が破産して帰国便の手配が困難になった時に備えて、救済フライトを運航するための資金を積み立てておくというものです。日本でも旅行会社の破たんの際、利用客に旅行代金を弁済する為に補償金を預ける制度はありますが、それはあくまでも旅行代金に対しての弁済であって、既に旅行中の利用者を救済する制度ではありません。旅行中の利用客にとっては補償よりも先に「無事に帰る事」の方が重要になってきますので、政府が責任をもって何らかの帰国手段を提供するための仕組みは必要だと思います。

 

一方の「ブリッジバンク(承継銀行)」ですが、破たんした金融機関の事業引継ぎ先が現れなかったときに、一時的にその金融機関の業務を引き継いで通常業務を行う一方、2年か3年の間に受け皿となる金融機関を探して事業譲渡し、その後は清算するというものです。

日本では実際に承継銀行が設立されたことが2度あり、1度目は2002年3月に設立された「日本承継銀行」で、2001年に破たんした石川銀行と2002年に破たんした静岡県の中部銀行の業務を引き継ぎました。その後、2003年3月に引継ぎ先の金融機関に無事事業譲渡し、2004年3月に清算されています。

2度目は2004年3月に設立された「第二日本承継銀行」ですが、これは将来破たんして一時的な業務引継ぎが必要な金融機関が現れた時の為に設立された銀行であり、設立後しばらくは事実上の休眠会社として存在していました。その後、2010年9月に日本振興銀行が破たんするとその受け皿となり2011年4月に事業譲受、12月にはイオン銀行に売却されて「イオンコミュニティ銀行」に改称したのち2012年3月にイオン銀行本体に吸収されて消滅しています。いずれのケースも破たんした銀行が無秩序に消滅し、顧客の資産や預金を散逸させないため、融資先の二次破綻を防ぐための措置であり、こうした「顧客に動揺を与えない、円滑な破たん処理の為のセーフティーネット」があるからこそ、顧客は安心して銀行と取引でき、ひいては金融システムの維持に役立っているのです。

 

「航空版ブリッジバンク」はあらかじめ一時的な受け皿となる会社もしくは公的機関を設立し、一定の融資資金を用意して万が一の時に備えます。破綻した航空会社が現れると一時的なつなぎ融資を行って当座の運航を確保する一方、期限を区切って受け皿となる航空会社を探します。

繋ぎ期間は銀行の場合は破綻後2年、最長でも3年ですが、航空会社の場合はせいぜい半年もあれば既存の予約客の分の運航は捌けますし、それだけの期間があれば運航継続を断念した場合の予約客の振替先を探したり、余裕を持ってキャンセル対応もできますので長くても半年以内で充分でしょう。半年以内に譲渡先が見つかればその会社に売却、見つからなければ清算というルールにして先延ばしを認めなければ、破綻した会社がゾンビ化してズルズルと延命するのを防げますし、利用者にとっても破綻しても当座の運航は続くと分かれば安心して飛行機を使えるのではないでしょうか。

 

従来の航空会社の破産処理は国や会社の規模によってまちまちであり、公的資金投入で延命したケースがある一方、突然の破産で空港や旅行先に利用客が取り残されるケースも少なくありません。問題のある航空会社を無闇に延命させるのは好ましくありませんが、消費者保護の観点からは航空会社の破産で著しい不利益を被らないよう、何らかのセーフティーネットは必要になると思います。

特にEUの航空業界はこの手のセーフティーネットは必要だと思います。EUのルール上、加盟国政府レベルでの救済が認められない以上、利用者保護を主導的に行えるのはEUしかいません。航空機がEU域内の移動で重要な地位を占めている以上、航空業界の秩序を保ち、利用客を保護する責任は自由化を推し進めたEU政府にあるのではないでしょうか。「航空会社が破産して利用客が行き場を無くした」と言うニュースが過去のものになるよう、EUを始めとした各国が仕組みを整備する時期に来ているのではないでしょうか。

 

 

 

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