〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

エチオピア航空の737MAX墜落事故、中国当局の運航停止指示で今後はどうなる

※3月12日:その後の各国の対応と運航停止の可能性について加筆しました。

 

3月10日、アディスアベバ発ナイロビ行きのエチオピア航空302便が離陸6分後に消息を絶ち、その後墜落と乗員乗客157名の全員死亡が確認されました。737MAXの墜落事故は昨年10月29日のライオンエア610便に続いて2件目、前回の事故から半年もたたないうちに、再び大惨事が起こってしまいました。まずは今回の事故で亡くなられた方とご家族、関係者の方に深く哀悼の意を表します。


www.aviationwire.jp

 

詳しい事故原因は今後の事故調査を待たなければいけませんが、今回の事故とライオンエアの事故は同じ機種と言うだけでなく、新造から間もないうちに起きた事故である事、また離陸してしばらくした後に急にレーダーから消え、墜落したという共通点があります。憶測で語ってはいけないとは思いますが、両方の事故に何か共通した原因がある、と考えても不思議はないのではないでしょうか。


www.aviationwire.jp

 

そしてこの連続事故は航空業界に大きな影響を与えることになりそうです。今回の事故の当事者であるエチオピア航空は同型機4機の運航を停止すると発表しました。事故を起こしたのと同型の機体を運航するわけには行かないでしょうから、これは妥当な措置だと思います。
trafficnews.jp

 

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※画像は737-800で代用

しかし、それ以上に大きなニュースとなったのが中国当局の737MAXの商業運航停止を指示した事でした。中国民用航空局(CAAC)は国内航空会社が運航する737MAXの全便運航停止を命じました。中国国内で運航されている737MAXは96機。現在世界中で納入されている737MAXは350機程なので、3割近い737MAXが地上に留め置かれることになります。

今のところアメリカやインドネシアなど他の国は中国に追随する事無く、運航を続けるようですが、アメリカ運輸安全委員会(NTSB)の元委員長も2つの事故の類似性と、新型機が5か月に2機も墜落した事が極めて異例の事態であることは認めており、今後の事故調査で両方の事故に何らかの重大な共通点があれば、世界的な運行停止になる可能性もあります。いずれにしても今後の調査が待たれるところです。

 

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jp.reuters.com


さて、今後737MAXが世界的に運航停止となる可能性があるのでしょうか。航空事故の歴史を見ても、全機運航停止になるような事態はそう多くはありませんが、いずれも大きな影響を航空業界に与えています。古くはコメットの連続墜落事故で全世界のコメットが運航停止になった例や、1979年のアメリカン航空191便墜落事故の際は事故機のDC-10の設計不良が疑われたことでFAA(アメリカ連邦航空局)がDC-10の形式証明の効力を取り消し、事故原因が判明するまで1か月以上世界中でDC-10が運航できなくなった例があります。記憶に新しいところでは2013年1月のJALとANAのボーイング787のバッテリー発火事故を受けてFAAが耐空性改善命令を出し、全世界で787の運航が3か月以上停止された例もありました。

一度運航停止になってしまうと航空会社の経営に大きな打撃を与え、機材繰りができず欠航便が大量に出て多くの乗客に影響が出てしまいます。しかし、そのまま運航を続けて事故が起きてはそれこそ取り返しのつかない事態になり兼ねませんから、時には運航停止は必要な事であると思います。実際、DC-10の運航停止の際は事故原因は設計不良ではなく、航空会社の不適切なエンジン整備が原因でしたが、同様に亀裂が入っていた例が多く見つかったため、結果的に運航停止にしたことが同様の事故を防ぐ結果となりました。

中国以外の国で737MAXの運航停止が行われていないのは、事故原因と疑われる個所がまだ特定できておらず、設計不良を疑う証拠がまだ出ていないからだと思います。しかし新型機が立て続けに事故を起こしたこと自体異例の事ですし、737MAXはエアバスA320neo同様、何千機ものバックオーダーを抱える人気機種であり、問題があるのであればまだそれほど就航機数が多くない今のうちに解決した方がいいのではないかと思います。今後の事故調査で疑わしい問題があるのであれば、躊躇する事無くいったん止めるべきだと思いますし、それは今後の737MAXの発展に必要な事なのではないでしょうか。いずれにせよ、一日も早く事故原因が解明され、安心して737MAXに乗れるようになることを祈りたいです。

 

【3月12日追記】

中国に引き続き、インドネシアの航空当局も737MAXの運航停止を指示しました。インドネシアは昨年墜落事故を起こしたライオンエアやフラッグキャリアのガルーダインドネシア航空が737MAXを運航しており、その影響は大きなものです。

さらにシンガポールの航空当局も現地時間12日午後二時以降の737MAXの運航停止を命じました。こちらは国内航空会社だけでなく、シンガポール上空での運航全てでの運航停止を命じるもので、シンガポール国外の航空会社の737MAX乗り入れや上空通過も不可能になります。737MAXの有力市場であるアジア地域での「737MAX離れ」は日を追うごとに深刻になってきています。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

一方、墜落したエチオピア航空機からはフライトレコーダーなどが改修されました。今後解析が進められることになりますが、ライオンエアの墜落事故では、機体の姿勢制御時に迎角を検出する「AOAセンサー」に問題があったことが判明しており、FAAは11月に「耐空性改善命令(AD)」を発行しています。今回の事故でも同様の問題の可能性が出てくれば、改修が終わるまで運航停止が命じられる可能性もあるのではないでしょうか。

www.aviationwire.jp

 

そして、737MAXに対する乗客の信頼はかなり揺らいでいるようです。今のところFAAやアメリカの航空会社は「耐空性要件は満たしている」として運航停止は考えていないようですが、「自分の乗る飛行機は737MAXではないのか」という問い合わせが相次いでいるようで、少なくともサウスウエスト航空は手数料なしで予約変更に応じているようです。短期間で2度も似たような理由で墜落事故が起こり、他国の航空当局が運航停止を指示する今の状況では、乗客が不安がるのも無理もない事ではないでしょうか。

ボーイング株は事故発生後12%も下落し、13日にロールアウト予定だった777Xの式典も延期しました。ボーイングにとっては自社の新型機に対する安全性が揺らいでいる今、今後の大きな稼ぎ頭となる737MAXの全面運航停止は絶対に避けたいでしょう。航空機が重要な輸出産業であるアメリカ政府も全面停止は回避したいところだと思います。しかし、いくら当局やメーカーが「安全」と言っても、事故原因が明確でない今の状態では対策の立てようもなく、利用客の懸念を払しょくはできないのではないでしょうか。

 

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では、今後737MAXが全面運航停止になる可能性はあるのでしょうか?最終的には他の国の航空当局にも影響を与えるFAAの判断次第だと思いますが、今後の事故調査で何らかの問題が浮上すれば、安全確保の為運航停止を命じる可能性は十分あります。

もう一つの可能性としては「安全性を懸念する国際世論に押されて運航停止命令に追い込まれる」事態です。737MAXが運航停止に至っていないのはおひざ元のアメリカやカナダ、欧州や中東の航空会社が今のところ運航停止の動きに追随していないからですが、今後欧米の航空会社でも運航停止の動きが広がれば、その動きに押されるように737MAXの運航停止命令を出すかもしれません。

 

個人的には北米での737MAX最大の発注者であり、創業以来737型機を使い続けていたサウスウエスト航空の動向がカギになると思います。現在サウスウエストは希望者に手数料なしで予約変更を受け付けていますが、今後自社の顧客から737MAX運航継続を望まない声が高まると、顧客重視のサウスウエストは自社のブランドイメージと顧客を守るため、自主的な運航停止を決める可能性があります。

737シリーズ最大の運用者であるサウスウエストが運航停止を決めてしまえば、他の航空会社も追随する可能性があり、なし崩し的にFAAも運航停止命令に追い込まれるかもしれません。しかしこのような形での運航停止はFAAの権威を失墜させ、737MAXに取り返しのつかないダメージを与えてしまいかねません。既にライオンエアが737MAXの納入を辞め、エアバスA320neoへの切り替えを検討しているという報道もあり、対応が後手に回れば回る程、737MAXへの信頼性を失い、更なる利用者離れ、顧客離れを招いてしまうと思います。ここは将来の事を考え、一旦運航を止めて全ての問題を洗い出す必要があるのではないでしょうか。

headlines.yahoo.co.jp

 

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機材のダウンサイジングが進む日本の航空会社。世界的には「国内線に大型機」って少数派なの?

お待たせしました。東海道交通戦争最終章、新作を発表しました。今回は最近の関東~京阪神間の航空路線の現状と、スカイマークの倒産→再建について。現在YouTubeでのみ公開ですが、近日中にニコニコでもアップする予定です。今後はYouTubeはスパム対策も兼ねて映像の比率を多くしますが、「静止画中心の方が見やすくていい」と言う方もいらっしゃいますので、ニコニコ版は静止画の比率を多くしてアップしようと思います。

 


東海道交通戦争最終章7「東京~大阪航空路線の現在、そして巨大飛行機の夢と挫折」

 

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さて、今回は機体のダウンサイジングが進む日本の航空業界について。

日本の航空業界は1970年代以降、急速に大型化が進みましたが、羽田空港の慢性的な発着枠不足や、伊丹空港が騒音問題でジェット機枠が制限されたことで、各社とも輸送力確保の為、より大型の機材を飛ばすことで対応せざるを得ませんでした。

その象徴ともいえるのが国内線専用機のボーイング747。1972年に日本航空がSR型を導入したのを皮切りに、2014年にANAが400D型を退役させるまでの42年間、幹線を中心に一部高需要地方路線にもジャンボが就航しました。使用された延べ機数はJALが21機、ANAが29機の合計50機(途中で国内線用に改修された機体も含む)。アメリカの航空会社が導入当初に大陸横断路線用に747を使用したケースや、カンタスが同時多発テロ後で国際線の需要が減った一方、ライバルのアンセット航空の破産で一時的に国内線の供給量が減った時期に747-400を国内線に廻したケース、中国国際航空、大韓航空などが国際線の間合い運用で747を使用したケースはありますが、日常的に国内短距離路線に就航させ、専用のモデルまで発注したケースは日本くらいです。

 

 

それ以外でもJALはDC-10、ANAはL1011トライスター、JASはA300を国内幹線や高需要ローカル線に集中的に投入し、日本の国内線は大型ジェット機が飛び交うのが当たり前の光景となりました。

その傾向が最も顕著だったのは1990年代ではないでしょうか。45・47体制廃止後航空需要の伸びが一番大きかった時期であり、大抵の空港のジェット化が完了したり、羽田空港の沖合展開や関西空港開港などで国内線の発着枠が増加した事もあって、参入の縛りが無くなった各社がお互いのドル箱路線に進出して一番国内線が拡大した時期でもあったと思います。

1990年代後半の国内線に就航していた機種を大まかに分けると、羽田~札幌や福岡などの幹線はボーイング747か777。羽田~小松・広島・鹿児島などの高需要地方路線は747、777、A300、767あたり。羽田~釧路・岡山・高知クラスのそこそこ需要がある地方路線は767、A300が基本でたまに777が入ったり、逆にA320やMD-90が入ったりする。羽田~根室中標津や石見のような低需要地方路線や札幌、福岡、名古屋発着地方路線は737やMD-81などの単通路ジェット機と、ジェット機が就航できる空港では極力ジェット機を入れるような機材運用でした。

プロペラ機はジェット機の就航が不可能な路線や鹿児島~岡山など単通路ジェット機では大きすぎる路線に限定されてましたし、その空港の滑走路で就航できる最大の飛行機をできるだけ入れているような印象でした。2000年代前半まではそんな感じの運用だったのではないかと思います。

 

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転機となったのは2010年の羽田空港のD滑走路完成とJALの破たん。羽田空港のD滑走路完成で発着枠がとりあえず余裕が出た事で以前よりも便数を増やすことが可能になるとともに、スカイマークやエアドゥ、スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)にスターフライヤーと大手2社以外の航空会社が参入した事で便数や供給座席数が増えた事で、大型機を飛ばすのは搭乗率低下でかえって効率が悪くなってきます。かつては747が普通に飛んでいた羽田~函館や小松、松山などの路線は777や767が中心になり、場合によっては737クラスの単通路機も入るようになりました。

そしてJALの破たんはそれまで減価償却やパイロット訓練の問題などで処分するにできなかった747やA300などの大型機の退役を加速させることになります。破たんの翌年には747-400は全機退役、A300も東日本大震災で退役が延期されたものの、2011年5月末で退役し、JALの機材は急速にダウンサイジングしました。国内幹線は777と767、高需要地方路線は767と737が主力となりますが、以前は大型機が就航するのが当たり前だった羽田~広島・松山・高松線などの路線でも全便737での運航になるなど目に見える形でダウンサイジングが進みました。

 

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さらに小型化が顕著だったのが伊丹や福岡発着路線で、伊丹発着路線は地方路線はほぼ全便エンブラエルになり、破たん前はMD-81を中心に運航されていた福岡ー宮崎線や鹿児島ー奄美線がダッシュ8-400に、福岡ー松山がサーブ340の運航になるなどプロペラ機の運航になってしまいました。その代わりに便数は破たん前よりも増え、中にはジェット機時代の倍の便数になったケースもありました。飛行機が小さくなったことを嘆くか、便数が増えた事を喜ぶかは人それぞれですが、「大型の飛行機が1日3〜4便程度運航される」日本の国内航空路線の姿は過去のものになりつつあると言っていいでしょう。

 

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ところで、国内線に大型機を投入するのは日本だけかと思ってましたが、気になって調べてみると意外と大型機が国内線を飛ぶケースは少なくないようです。そこで世界各地の主要都市を結ぶ路線を中心に調べてみました。

 

まずは世界最大の航空大国アメリカ。羽田~札幌のような国内幹線に相当するのはニューヨーク~ワシントン線やロサンゼルス~サンフランシスコ線、シカゴ~ヒューストン線などがあげられますが、大型機が飛ぶことはまずなく、大きくても737-900やA321、場合によってはERJやCRJと言ったリージョナルジェットが就航しています。特に調べて驚いたのがニューヨーク~ワシントン線で、半数以上の便がリージョナル機の運航でした。まあ、ニューヨーク側とワシントン側で複数の空港に分かれているので需要が分散しているとも考えられますし、この区間はアムトラックのアセラも運航されているのもあると思いますが、幹線でリージョナル機が主体と言うのは日本では考えられませんね。

ただし、これが距離のある路線となると話は変わってきます。例えばニューヨーク~ロサンゼルス線はアメリカン航空はA321が主力ですが、デルタ航空はA330や767、ユナイテッド航空は767や787など大型機が主体となっています。ロサンゼルス~ホノルル線も767やA330、場合によっては777も投入されるなど大型の機体の比率が多くなっています。今では737やA320でもアメリカ大陸横断は余裕ですが、やはり需要が大きく、かつ飛行時間の長い路線では大型の機体が好まれる傾向にあるようです。

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続いて欧州。こちらは国内線が成立するほど国土は大きくない国が多いので、EUというくくりで見て見ました。ロンドン~フランクフルトやパリ~ローマと言った大都市間の短距離路線はA320シリーズだらけ。これについては欧州の主だったフラッグキャリアはA320シリーズのみを採用する会社が多いので、737は分が悪いというのもあるのですが共通しているのは大型機を運航するほどではない、と言う事。LCCとの競争が激化している欧州では悠長に短距離路線に大型機を飛ばしているわけには行かなさそうです。

但し、そんな中でも例外的に国内線に大型機を飛ばしている国があります。そう、世界最大の面積をもつおそロシア。流石に短距離路線は小型機主体ですが、モスクワ~ウラジオストックやハバロフスク線と言った大陸横断路線には777やA330といった大型機が充てられています。航続距離の問題もあると思いますが、国内線で長距離国際線用機材が普通に充てられるのはさすがはロシアの広大な国土と言うべきでしょうか。

 

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一方のアジアでは意外と国内線でも大型機が投入されるのはそう珍しい事ではなさそうです。例えば中国の北京~上海線。飛行時間は2時間強と世界的には短距離路線に分類されますが、やはり需要の絶対数が大きいからかA330やA350、787や777と言った大型機が平然と飛びまくっており、日本の国内幹線とそう変わらない光景です。上海~広州になると小型機の比率が高くなりますが、それでもA330や777は結構飛んでいますし、上海~成都でも大型機は使用されています。ただ、それでも北京~大連などの大都市間でない路線は小型機が主体の様です。

韓国は国土の大きさから考えて国内線はそれほどないように思われますが、実は利用者数、運行本数とも世界一の巨大路線のソウル~済州線を抱えています。この路線は世界最大だけあってFSCの大韓、アシアナに加えLCCのチェジュ、ティーウェイ、イースターや大韓系LCCのジンエアー、アシアナ系LCCのエアソウルが就航する激戦区で、運航される機体も737やA320が多いのですが、それでもA330や767、777も就航しています。

 

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東南アジアはどうでしょうか。タイのバンコク~チェンマイ線は基本的に小型機主体ですが、タイ国際航空運航便は777やA330が就航しています。これは小型機は子会社のタイスマイルに移管して自社では保有していないのもあるのですが、それなりに需要の大きい路線であるとも言えます。また、ベトナムのハノイ~ホーチミン線や、インドネシアのジャカルタ~デンパサール線などでも少数ですが大型機が運航されています。

そして中国同様人口の多いインド。世界5位のデリー~ムンバイ線は基本的には小型機での運航ですが、エアインディアとジェットエアウェイズは国際線の間合い運用で大型機を飛ばしています。インドは今後の経済成長が期待できますので、将来的には国内線で大型機運航と言う光景はもう少し増えるかも知れません。

 

その他の地域ですが、オセアニアはシドニ~メルボルンやシドニー~パースでカンタスがA330を運航しているケースがあります。メルボルンは短距離ながら世界二位の利用者を誇り、パースは飛行時間の長い大陸横断路線ですからこの結果は納得です。南アフリカでも利用者の多いヨハネスブルグ~ケープタウン線で南アフリカ航空が、トルコのイスタンブール~アンカラでトルコ航空が大型機を飛ばしているケースがありますが、これは1日1~2便程度なので、国際線の間合い運用と考えたほうがよさそうです。また、サウジアラビアのリヤド~ジェッタ線はサウジアラビア航空が大型機をバンバン飛ばしています。この路線も利用者数の多い路線ですが、メッカ巡礼の需要もあるので大型機が日常的に必要なのではないかと思います。ちなみに南米の国内線で最も需要の大きそうなブラジルのサンパウロ~リオデジャネイロ間は大型機の運航はなさそうです。だってメーデー民が最も着陸したくないコンゴーニャスがあるから大型機は飛ばせないし。

 

こうしてみると国内線で大型機を飛ばしているケースは世界的には決して多くはないものの、そう珍しいものでもないことがお分かり頂けるのではないかと思います。その多くはアメリカやロシアのように長距離だったり、国際線の間合い運用だったりするのですが、アジアでは割と大型機が国内線で運用されているケースが多かったのには驚きました。これもアジアの人口の多さと経済成長率の高さを示しているのではないでしょうか。少なくともアジア地域に限ってみれば、「国内線で大型機がひっきりなしに飛んでいる」と言うのは別段珍しい事ではなく、日本だけが特殊、という訳でもなさそうです。

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JALの新LCC「ZIPAIR」正式発表。成功するかは今後の路線展開とブランディングがカギ

3月8日、JALが設立する中長距離路線LCCの名前が「ZIPAIR」に決まり、今日の記者会見で正式発表されました。2020年夏スケジュールからボーイング787-8型機2機を使用し、成田ーバンコク線とソウル線に就航する予定です。2021年にはETOPS(双発機の長距離洋上飛行)の認定を受けたのちアメリカ西海岸路線に進出し、将来的にはグアムやホノルル路線、欧州路線も視野に入れています。


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trafficnews.jp

  

・姿が見えてきたJALの長距離LCC 

中長距離LCCはJAL本体のローリングプランでも触れられていましたが、今回の発表でいよいよ具体的な姿が見えてきました。以前の記事で最初の就航路線で方向性が見えてくると書きましたが、大都市のバンコクとソウルを選択した事で、とりあえず需要の大きい路線狙いで行くようです。その辺については以前の記事もご参照ください。


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一部報道で「ZIPAIR」という社名が出た時に圧縮ファイルフォーマットの「.zip」から「乗客が詰め込まれるのでは」とtwitterなどで揶揄されましたが、「お客様を詰め込んだり『圧縮』する意図はない」と切り返して、LCCにしては広めのシートピッチである事や、ZIP→矢が素早く飛ぶ擬態語から「フライトの体感時間が短い」とコンセプトを説明する材料に使ったのは上手いなと思いました。この切り口なら今後改修された機内がお披露目された際にも実際の座席を見て「詰め込みじゃないでしょ?」と快適性をアピールできますから「LCC=詰め込み」のイメージを覆すような今後のプロモーションが楽しみです。

 

 

・ZIPAIRの今後の路線展開は? 

さて、中長距離LCCという分野ですが、世界的に言えば決して珍しいものではありません。現在は撤退しましたがマレーシアのエアアジアXがクアラルンプール―ロンドン・パリ線を運航していたことがありますし、シンガポール航空系列のスクートもシンガポール~アテネ・ベルリン線を運航しています。さらにノルウェーのLCC、ノルウェーエアシャトルも大西洋路線に参入しましたし、韓国のイースター航空やティーウェイ航空も中長距離路線進出を計画するなど、より長距離の路線を視野に入れるLCCは少なくありません。日本路線でもジェットスターのオーストラリア路線や、最近ではエアアジアXやスクートの関空ーホノルル線などもあります(ただしスクートは5月30日で撤退予定)

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しかし、会見でも触れられたように「アジアから太平洋を渡る」LCCはまだ存在していません。ホノルルまでならスクートやエアアジアX、大韓航空系列のジンエアーの例がありますが、アメリカ本土まで進出したLCCはまだありません。機材繰りや需要の面から考えてスクートやエアアジアXが太平洋横断までやるのは厳しそうですし、東アジアのLCCも大型機を保有するのはジンエアーくらいなので、この分だとZIPAIRが「定期路線で太平洋横断する初のLCC」になりそうです。長距離路線の最初の路線はアメリカ西海岸との事ですが、可能性として考えられるのは日本との往来が多いロサンゼルス、サンフランシスコか観光需要の大きいラスベガス辺りになるのではないでしょうか。

 

・未知数の「長距離LCC」、成功のカギはブランディング

 「長距離路線LCC」のコンセプトが軌道に乗れば、ZIPAIRが先行者利益を享受するのは間違いないでしょう。仮にピーチが長距離路線に参入しようとしても、機材選定→路線就航の市場調査→機材受領と乗務員育成→路線認可申請と就航地へのプロモーションと、体制を整えるまでに2年はかかりますから、その間に路線網を広げて市場をがっちり押さえてしまえば、後発企業が参入したとしてもしばらくは優位を保てるでしょう。

しかし、10時間以上も飛行機に乗る長距離路線はLCCにとって未知の世界なだけに、事業を軌道に乗せられるかは未知数です。従来のLCCのビジネスモデルが「短距離路線をできるだけ多く運行させて機材稼働率を上げ、固定費を抑える」というものでしたから、元々機材稼働率が高い上に柔軟な運用がしにくい長距離路線ではそのビジネスモデルは通用しません。運行コストを抑えるにしても限度があると思います。

そうなるとZIPAIRの路線を採算に乗せるにはブランディングと価格設定、機内販売など航空券以外の収入をどう増やすかがカギとなります。LCCと言うと価格勝負と思われがちですが、単なる価格競争では消耗戦に陥ってしまいますから、実はフルサービスキャリア同様、リピーター客の確保がカギとなります。ピーチが成功を納めたのもブランドのコンセプトを明確にし、様々な企業や芸能人などとコラボを行ったり、関西弁のアナウンスや車を機内販売するなどの「型破り」なサービスを行うなど、事あるごとに世間の注目を集めることでピーチのブランドを関西に浸透させ、「ファン」を増やした事が理由の一つです。ブランドコンセプトの確立はLCCにこそ必要な事であり、ブランドを浸透させて積極的にその会社を選ぶ顧客を増やす事がLCC生き残りの重要なポイントです。

 

ZIPAIRがまず行うべき事は「ブランドの認知・浸透」であり、それこそフルサービスキャリアとも既存のLCCとも違う、新しいコンセプトのサービスを打ち出せるかどうかが生き残りの第一歩となります。価格についてもアイキャッチ的なバーゲン運賃は必要ですが、極端な安売りではいずれ疲弊して行き詰まりますから、JAL以上のイールドマネジメントが必要でしょう。

さらには機内サービスをどこまで行うか、機内販売をどれだけ充実させるかがポイントになります。長距離路線は機内にいる時間が長い分、機内食や飲み物の提供を全く行わないという訳にもいかないと思いますが、一通り付けてしまったらフルサービスキャリアと変わりありませんし、機内販売で稼ぐ余地が無くなってしまいます。しかし、機内にいる時間が長いという事は、それだけ機内販売のチャンスが多いという事でもありますので、ピーチやジェットスタージャパン以上に機内食メニューの開発や、機内販売のラインナップに工夫を加える必要があるのではないでしょうか。また、スマートフォンなどを活用した機内エンターテイメントの提供も、売り方によってはいい収益源になるかも知れません。

 

・まとめ

ZIPAIRでは4月以降社員募集を行いますが、職種ごとに分けた募集ではなく、客室乗務員、地上係員、企画業務など複数の業務をこなすマルチタスクな勤務形態になるそうです(流石にパイロットや専門性の高い整備業務はそうはいかないと思いますが)フルサービスキャリアに比べると業務の幅が広く激務っぽく思えますが、幅広い業務に携わる事で、かつてのJALのような職種ごとの縦割りにならずに広くアイデアが出るきっかけになりますし、部門ごとの対立は起こりにくそうに思えます。さらにマルチタスク化が進むという事は、誰かが抜けて穴が開いても他の人でカバーしやすくなるというメリットもあります。「今までにないエアライン」を作れるかどうかはこれからが勝負。まだまだ未知数な部分も多いZIPAIRですが、是非成功して新たな航空会社の姿を見せて欲しいですね。

 

【4月12日追記・機体と制服デザインからブランドコンセプトを推測】

4月11日に「ZIPAIR」の機体デザインと制服が発表されました。機体デザインは基本は白ベースですが、垂直尾翼はZIPAIRのコーポレートカラーのグレー、機体側面の窓枠に細いグリーンのラインを入れるなど、全体的に落ち着いた感じのデザインです。そう言えば窓枠にラインを入れる塗装デザインはかつての大手三社やパンナム、アリタリア航空など80年代までは一般的でしたが、今ではほとんど見なくなりました。そう考えるとこのデザインは一周廻って新鮮に見えます。

そして制服ですが、靴をスニーカーにするのは実用性重視のLCC的発想ですし、その日の天候や気分などに合わせて組み合わせを変えられるというのは斬新です。ですがデザイン的にはこれまた落ち着いた感じで、この点でもカジュアルでフレンドリーなイメージを作るため明るい色や派手な色の制服が多い他のLCCとは一線を画します。ZIPAIRを「LCCと呼ばないで」とJALが言っていたのは、値段的なイメージだけでなく、恐らく良くも悪くも軽くてノリのいい他のLCCと微妙にブランドコンセプトが違うから一緒くたにされたら困る、という意味合いもあったのかな、と邪推w

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機体や制服のデザインから考えると、ZIPAIRが目指すのはピーチやエアアジアのようなインパクト重視で目立つブランドではなく、「FSCよりは気軽で敷居が低いけど、LCCよりは上質で落ち着いた感じ」なハイブリッドLCCではないかと思います。FSCをフォーマルな高級ブランド、LCCをGUのようなローコストブランドとすれば、ZIPAIRが目指すのは両者の中間的なファストファッション。今後発表されるであろうサービスや価格設定、機体の内装などが明らかになれば、ZIPAIRの目指す方向性はよりはっきりするのではないかと思います。今回の機体や制服のデザインを見る限りだとZIPAIR、結構期待できるのではないでしょうか。

 

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「シートのみサービス」の割合が増えるグランクラス、その先行きと航空機の「上級クラス」とのブランディングの差

※3/6 航空会社の上級クラスの部分とグランクラスのブランディングの部分を中心に一部加筆修正しました。

 

 前回の上越新幹線のグランクラス設定についての記事の最後で「シートのみサービス」のグランクラス設定が増えている事に触れました。今回はこの点をもう少し掘り下げ、グランクラスと航空会社の国内線上級クラスを比較しつつ、主にブランディングの面からの問題点を考えてみたいと思います。

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 「シートのみサービス」のグランクラスが増えた理由

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グランクラス付きの車両はE5系とE7系(プラス所属会社違いのH5系とW7系)の2形式です。E5系は投入当初は東京〜新青森間の「はやぶさ」に優先して当てられましたが、その後車両が増えると「やまびこ」や「なすの」などの区間列車にも充当され、全体の半数近くがシートのみサービスとなっています。

E7系を使用する北陸新幹線も東京〜金沢間がフルサービス、東京〜長野などそれ以外の列車がシートのみと分かれており、富山〜金沢間の「つるぎ」はグランクラス車両を閉鎖してサービス自体を行っていません。上越新幹線はとき4往復とたにがわ1往復の全てがシートのみです。この他臨時列車のうち上野発着の列車は全てシートのみの運用です。

 

このようにグランクラス設置列車のうち、シートのみのサービスになっているのは全体の半数近くになっており、その比率は増える一方です。その理由は「JR東日本の新幹線車両の共通化」と「軽食や飲み物などの準備施設の問題」「短距離列車でのグランクラスの需要の低さ」が関わってきます。

 

JR東日本の新幹線車両は線区毎の特性や需要、技術革新などで多様な車両を開発、投入する傾向にありましたが、近年では東北・北海道新幹線はE5系、北陸・上越新幹線はE7系、新在直通列車はE6系に揃える傾向にあります。山形新幹線はまだ置換えの話は出ていませんが、いずれE6系ベースに置き換えられると思いますし、E2系もそう遠くない将来、線区毎にE5系かE7系に置き換えになるでしょう。

しかしそれはグランクラス付きの車両がいずれ全列車で運用されることになり、将来的には「シートのみサービス」のグランクラスが多数派になる事を意味しています。短距離区間用にグランクラス設備を省いた編成を用意することもできますが、そうなるとグランクラスの有無で運用を分ける必要があり、車両を統一する効果は半減してしまうので恐らくJR東日本はやらないでしょう。

かと言って東京〜仙台、郡山などの短距離列車ではグランクラスの利用自体が低調であり、数人しか利用が見込めない列車にアテンダントや食事を手配するのは得策とは言えません。更に言えば始発駅の設定が臨時列車しかない上野駅や、需要の大きい東京駅を発着しない区間列車の為だけにアテンダントや食事の手配をするのも効率が悪く、それならいっそシートのみのサービスにした方が効率的です。増え続けるグランクラス設定列車と採算性・運用コストを天秤にかけたJR東日本の答えが「シートのみサービス」のグランクラスだったのではないでしょうか。

 

全くのカラで走らせるよりはシートのみでもグランクラスを売って多少なりとも収入を得ようとするのは採算性の面で言えば悪くない判断ですし、上越新幹線のグランクラス割引商品もお試し利用と言う意味では有効な手段かも知れません。しかし、「グランクラス」自体のブランディングと言う観点から見ると、あまり得策とは言えません。その理由をグランクラスがベンチマークにした「国内航空路線の上級クラス」と比較しながら説明しましょう。

 

ハード面はともかく、ソフト面ではグランクラスは飛行機に敵わない

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グランクラスに相当する大手航空会社の上級クラスは、ANAが「プレミアムクラス」JALが「ファーストクラス」になります。サービス内容や座席、設定路線などで差異はありますが、普通席よりも広く快適なシート、食事やアルコールのサービス、ブランケットやスリッパなどのアメニティがあるのは共通しています。特にグランクラスのシートに関してはANAのプレミアムクラス以上、JALのファーストクラス並みです。

こうしてみると座席そのもののサービスは飛行機と互角以上ですし、車内サービスも決して飛行機に見劣りしません。しかし、グランクラスと飛行機の上級クラスには、乗る前後のサービスで決定的な差がついてしまっています。

その理由は下記の記事に詳しく書いていますが、かいつまんで言うと、飛行機には優先搭乗や手荷物の優先返却、専用カウンターといった普通席よりも「優越感」が感じられるサービスや、ラウンジサービス(グランクラスにも東京駅の「ビューカードラウンジ」が利用できる特典がありますが、それ以外の駅にはありません)、予約情報やマイレージなどのデータで顧客管理を行い、上級会員向けのマイル割り増しや混雑時のアップグレード、搭乗時にCAさんが名前を呼んで挨拶するなど、利用の多い上得意客への有形無形のサービスがあります。特に上得意客の優遇は航空側が一枚も二枚も上手であり、日常的にグランクラスを利用してくれる良質な顧客の確保という点では、JR東日本にはまだまだ手を加える余地があるのではないでしょうか。

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さらに上級クラスのブランディングについても飛行機の方が一枚上手。ANAはプレミアムクラスの運賃は普通席と別立て、JALは通常運賃プラス8000円で利用可能(先得割引などの格安運賃は予約不可。当日空席がある場合のみ利用可能)と違いがありますが、どちらも基本的に値引きはしません。ANAのプレミアムクラスは時期によって安く予約できたり、路線によって値段が違うなどはありますが、「期間限定で〇〇円引き!」と言うわかりやすい値引きは決してやりません。安易な値引きは上級クラスの価値を下げてしまう事を分かっているからです。

その一方でマイル特典としての上級クラスへのアップグレードや、上級会員向けの上級クラスアップグレードの優遇などは積極的に行っております。大事な収益源である上級クラスをタダで渡すのは一見すると値引きするのと変わらないどころか収入を自ら放棄するような行為に見えますが、値引きとの決定的な違いは「ヘビーユーザーへの優遇措置」。利用の多い上得意客に上級クラスと言う優遇措置をサービスすることによって「自分は航空会社に大事にされている」という「特別感」を演出し、「こんなに良い思いができるならまたこの会社を使ってマイルを貯めよう」とリピート利用につなげる効果があります。つまり上級クラスアップグレードは航空会社にとっては優良顧客囲い込みの大事な手段であり、自社のブランド力や企業イメージを上げるために必要な事なのです。

 

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さらには短距離路線であってもサービスは極力簡素化しないのも上級クラスの特徴。羽田ー伊丹のような1時間程度の路線でも食事サービスはきちんと提供されますし、羽田ー八丈島のように食事サービスを提供する時間の取れない路線でも茶菓の詰め合わせを渡すなど、短い時間でも最大限上級クラス利用者へのサービスを提供するよう知恵を絞っています。

これも「上級クラスを利用すれば普通席とは違うサービスが提供される」という期待感を持たせるためには大事な事。仮に「短距離だから」という理由でプレミアムクラスやファーストクラスのサービスがシートのみだったら、多少安かったとしても誰も利用せず、逆に「上級クラスに乗っても期待したサービスは受けられない」と思われて上級クラスから利用者が離れてしまいかねません。その便単体では赤字だったとしても、上級クラス全体の収益、ひいては航空会社の収益の為には上級クラス設定路線ではそれに見合ったサービスを提供する必要があるのです。

 

「安売りはしない」「高い料金をもらう分、それに見合ったサービスを提供する」この上級クラスに対する航空会社のこだわりは会社全体の利益の為であり、優良顧客囲い込みの為には必要な手段である事がお分かり頂けるのではないでしょうか。上級クラスはフルサービスキャリアにとって会社の「看板商品」であり、高品質なサービスを提供する事がブランドイメージや客単価の向上には必要な事なのです。

 

「分かりやすい値引き」「サービス簡素化」は「グランクラス」のブランド価値を下げてしまうかも知れない

翻ってグランクラスはどうでしょうか。確かにハード面では飛行機の上級クラスに引けを取りませんが、車両の外も含めたトータルでのサービスや、「特別感」「優越感」の演出、優良顧客の囲い込みと言う点では十分とは言えません。むしろシートのみサービスの列車が増えている現状では、導入当初に比べると「特別感」は薄れてきているように思います。

 

「シートのみのサービス」は「フルサービス」に比べると大体2000円前後安くなりますが、アテンダントや飲食サービスなどを省略した分に見合った金額かと言われると正直微妙です。高いお金を出してグランクラスに乗車する人は豪華なシート以上に「特別なサービス」を求めて乗るのではないかと思います。グランクラス料金が高くてもお金を払うのは食事や飲み物、アメニティや人的サービスといった、プラスアルファの部分があるから。残念ながらシートのみサービスで割り引かれるのはそのプラスアルファ分の必要経費分だけであり、グリーン車との差が広いシートだけとなると割高感は否めません。グランクラスには「静寂な環境」「広く快適なシート」を求める需要もあると思いますが、それならグリーン車でも十分ですからね。

かと言ってグリーン車よりも少し高い程度の料金設定ではグランクラスの安売りになってしまい、フルサービスとの価格差が開きすぎて利用者を遠ざけると言う本末転倒な事になりかねません。価格設定は設備とサービスに見合うものであり、かつ利用者に納得して初めて適正と言えるもの。利用者が割高感を感じたらその商品は売れませんし、安くし過ぎると採算が取れない上にそのサービスの価値自体も下げてしまい、ブランドや会社のイメージを毀損する恐れすらあります。

かつてJALがクラスJを始めた際は「プラス1000円の贅沢」というコンセプトと割安感が利用者の心をつかみ、人気商品となりましたが、その代わりにスーパーシートを廃止した事で単価の高いビジネス客や富裕層がJALから離れてしまい、スーパーシートを高品質化したANAに流れてしまいました。後にJALが幹線で「ファーストクラス」のサービスを始めたのもスーパーシート廃止の反省があったからであり、安易な上級クラス廃止や簡素化は単価の高い利用客を逃がしてしまう恐れのある行為なのです。「シートのみサービス」のグランクラスの増加はある意味「安易な上級クラスの簡素化」とも言えますし、長い目で見ればグランクラスのブランドイメージにはプラスにならないのではないでしょうか。

 

加えて上越新幹線のグランクラス割引商品は一歩間違えればグランクラスのブランド価値を下げかねない諸刃の剣です。目玉商品は短期的には新たな顧客を集める呼び水になりますが、そこでリピート客を確保しなければ割引商品が終わると途端にガラガラになってしまいます。割引は一時的なものと割り切って現実を受け入れるならまだいいのですが、値引き販売はある意味麻薬のようなものですから空席を埋める為また手を出したくなってしまうもの。そうなるとシートのみのグランクラスは値引きがないと売れない商品になってしまい、やがては「安売り上級クラス」のイメージがついてフルサービスを含めたグランクラス全体のブランド価値を下げてしまいかねません。

業界は違いますが、かつてのマツダが売れない車の在庫を捌くために他社よりも大幅な値引きをしたことでマツダ自体のブランドイメージを毀損し、値引きしないと売れない悪循環に陥って経営危機に陥った例があります。サービス内容に見合わない「安易な安売り」は長い目で見れば企業にとってはマイナスであり、一度傷ついたブランドイメージを回復させるには安売りよりも遥かに難しい事です。

 

もし今回の割引商品が人気を集めてグランクラスの座席が埋まってしまうと、JR東日本は空席を埋めたいが為に同様の割引商品を乱発してしまうかも知れません。しかし、それは将来的なグランクラス、ひいてはJR東日本のブランドイメージを下げてしまう行為であり、高額なシートを安易に安売りしたり、簡素化したりするのはプラスにならない事の方が多いのです。正直に言うと、今回の割引商品は売れない方がグランクラスの将来にとっては良いのではないかと思います。

 

ブランド価値を下げるよりは、いっそ「シートのみのグランクラス」は辞めた方がいい

以上の事から、グランクラスのブランディングの面からは「シートのみサービス」のグランクラスが氾濫するのはプラスになるとは思えません。しかし現状ではグランクラスを連結した列車は増える事はあっても当分減る事はありませんので、今後もシートのみサービスの列車は増えていくものと思われます。シートのみサービスの列車が増えれば増えるほど、JR東日本は空席を埋めたいが為に割引商品を出したい衝動に駆られるのではないかと思いますが、その先に待っているのはグランクラス自体のブランド低下と上得意客のグランクラス離れ。本来のターゲットである富裕層が離れると、かつての一等車が廃止されたように、将来的にはグランクラス廃止すらあり得るのではないかと思います。

 

それを防ぐ為にはどうするか。利用率が悪いのであれば、いっそ短距離列車のグランクラス提供自体をやめ、該当の列車のグランクラスは入れないようにしてしまった方がいいと思います。一部車両の閉鎖は既に「つるぎ」の前例がありますし、グランクラスは先頭車両にあるので閉鎖しても車両の移動に影響はありません。

更にグランクラス設定列車を絞り込む事でグランクラス自体の希少性も上がり、フルサービスのみの列車に絞れば「グランクラス=豪華なシートと高いサービスを受けられる」と言うイメージが広がり、グランクラスのブランド力を上げる事にもつながります。短期的にはシートのみ利用のグランクラス料金分の売上は減少するでしょうが、利用していた人はグリーン車や普通車に移るだけでしょうし、それ程大きな減収にはならないと思います。

 こう書くと「あんな高いシートを遊ばせておくのは勿体ない!」と思われるかも知れません。しかし時には敢えて遊ばせておく事で結果的にプラスになる事もありますし、シートの利用を抑えればその分劣化も遅らせることもできます。いくらサービスが良くてもシートがボロボロでは高いお金を出してグランクラスに乗りたいとは誰も思わないでしょうからね。

 

折角多額の投資をして開発したグランクラスですから、JR東日本そのもののブランド力を上げるためにもグランクラスは大切にして欲しいですし、決して安売りはして欲しくないと思います。その為にも敢えて中途半端な「シートのみのグランクラス」は減らしていった方が良いのではないでしょうか。グランクラスは紛れもなく日本の新幹線最高峰のサービスです。願わくばこれからも最高峰のサービスであり続けて欲しいですし、飛行機と切磋琢磨しつつサービスを磨いていって欲しいですね。

 

 ↓世界のフルサービスキャリアで主戦場となっているのは客単価が高く利用率もいいビジネスクラス。そんなビジネスクラスの世界を垣間見ることができる本です。世界中の顧客やライバルにもまれてJALもANAもサービス力を上げてきました。

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上越新幹線のグランクラスが「シートのみ」は勿体ない。フルサービス実施の可能性は?

2月27日、JR東日本は上越新幹線で運行を開始するE7系の「グランクラス」を対象に、期間限定の旅行商品「ふらっとグランクラス」を発売すると発表しました。利用期間は4月1日から6月30日までの間で、料金は「グリーン車+1000円」で販売。しかもNewDaysやkioskで使用できる1000円分の商品券付きですから、実質的にグリーン車料金でグランクラスに乗れるかなりおトクな商品です。

 

trafficnews.jp

 

グランクラスと言うと飛行機のファーストクラス並みのシートに専属アテンダントがつき、軽食サービスやアルコールも含めた飲み物飲み放題など、新幹線最高水準のサービスを誇りますから、これだけ聞くと物凄い大盤振る舞いです。

しかし、上越新幹線のグランクラスには「シートのみのサービス」と言う落とし穴があります。一口にグランクラスと言っても、専属アテンダントが乗務し、軽食や飲み物のサービスも行ってスリッパやブランケットもある「フルサービス」の列車と、基本的には座席のみでアテンダントも乗らず、飲食物やスリッパのサービスもない「シートのみサービス」の列車の2種類があります。今回の上越新幹線に投入されるE7系は1日2往復ですが、全て「シートのみサービス」です。

 

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東北も北陸も「フルサービス」の列車と「シートのみサービス」の列車の両方がありますが、なぜ上越新幹線だけが「フルサービス」の列車がないのでしょうか。恐らくですが「走行距離」と「所要時間」が関係しているのではないかと思います。

東北新幹線は東京発盛岡以北行きがフルサービス、東京発仙台以南行きと仙台〜新函館北斗などの区間列車がシートのみとなり、北陸新幹線は東京〜金沢間の列車がフルサービス、それ以外がシートのみとなります(「つるぎ」はグランクラスの設定自体なし)この事からグランクラスがフルサービスを行う目安は「東京発着列車」かつ「終点までの走行距離400km以上、所要時間2時間台前半以上」になるのではないかと思います。

東京発着に限定しているのはアテンダントのシフトや軽食積込みの関係でしょう。途中駅始発の列車は1日1〜2往復程度な上にわざわざグランクラスを利用する乗客も限られますから、その僅かな乗客の為にアテンダントを一泊させたり軽食を発注するのはどう考えても効率が悪いですからね。

走行距離と所要時間に関してはアテンダントのサービスや軽食やドリンクの提供などを考えると所要時間が短いと十分なサービスができない事、短距離利用主体の「なすの」「あさま」ではそもそもグランクラスの手厚いサービス自体さほど求められていないのが理由かと思います。以前はフルサービスが実施されていた東京〜仙台間運行の「はやぶさ」「やまびこ」もシートのみサービスに切り替えられたのは需要の問題なのか人員配置の問題なのかは不明ですが、フルサービスを辞めたのは優先順位が高くなかったのだろうと思います。

 

しかし「上越新幹線のグランクラスはシートのみ」というのはちょっとどうなのかな、と言う思いはあります。先程の「終点までの走行距離400km以上、所要時間2時間台前半以上」の条件に当てはめれば確かに上越新幹線は条件を満たしていませんし、似たような距離の東京〜仙台間のみ運転の「やまびこ」「はやぶさ」もグランクラスはシートのみですから、それに合わせたと考えれば納得できないでもありません。

しかし、東北、北陸新幹線の場合は「新函館北斗行きのはやぶさを仙台まで利用」「金沢行きのかがやきを長野まで利用」など、長距離タイプの列車を途中駅まで使うという形で「フルサービスの列車」の乗車が可能なのに対し、上越新幹線の場合は最初から「シートのみ」の選択肢しかありません。所要時間にしても東京~新潟間2時間程度なら軽食やドリンクサービスを提供できないという程でもありませんし、「とき」に関しては東京~長岡・新潟の通し利用も一定数あるはずですから「フルサービス」への需要がないとも思えません。

 

本来グランクラスは飛行機の上級クラスを意識してグリーン車よりも広くて快適な座席と手厚いサービスを提供するコンセプトであり、グリーン車の倍の料金設定もアメニティや飲食サービスがあってこそです。シートのみの場合はフルサービスよりも2000円程度安くなっていますが、それでもグリーン車よりは3000〜4000円程度高い料金であり、シートの差を考慮しても「シートのみサービスのグランクラス」はグリーン車よりも割高感が出てしまいます。

先の大盤振る舞いな旅行商品も、裏を返せば上越新幹線のグランクラスの売れ行きに対するJR東日本の危機感とも言えます。同じグランクラスでも「フルサービスの列車」と「シートのみの列車」では乗車率に開きがあるので、今回の旅行商品は「お試し利用」「需要動向喚起の方法」になるのかなと思います。

 

では実際のところ、上越新幹線でグランクラスの「フルサービス」が実施される可能性はあるのでしょうか?今すぐには難しいかと思いますが、将来的には可能性はあるのではと思います。

フルサービス実施には「新潟側の軽食積込体制」と「アテンダントの増員」が必要になりますが、E7系運用の「とき」は4往復しかなく、今軽食積込を行うには個数が少ないので納入業者の採算が合わないのではと思います。さらに東京〜仙台間のみ運行列車がフルサービスを取りやめた例からも、JR東日本が似た区間のフルサービス運用に二の足を踏んでいるかも知れません。

恐らくですが、上越新幹線のグランクラスでフルサービスが実施されるとしたら「E7系使用列車がある程度揃う来年以降」かつ「JR東日本がフルサービスを実施しても一定の利用が見込めると判断」した時ではないかと思います。そうなるとE7系投入後のグランクラス利用率がカギになるのではないでしょうか。可能なら上越新幹線でもフルサービスが実施されるといいですが、今後の認知度と利用率次第ではないでしょうか。

 

ところで、近年ではE5系、E7系の増備でグランクラス設置車両は増えてきていますが、「シートのみサービス」の割合が多くなっています。次の記事ではそうなった理由と、「シートのみサービス」がグランクラスのブランディング面に及ぼす影響を考えてみたいと思います。

 

↓意外とグランクラスの座席やサービスを特集した本ってないんですよね・・・その中でもこちらの雑誌にはグランクラス特集が載っています。

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JAL中期計画ローリングプラン改定、中距離LCCの姿も見えてきた?

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2月25日、JALは2017‐2020年度中期経営計画ローリングプランの改訂版を発表しました。同時に発表された中距離LCCの参入を始め、先日の路線便数計画でも発表されたエアバスA350と国内線用787の投入や、顔認証システムやセルフバゲージドロップの導入などによるスマート空港の実現、ビジネスジェットやデジタルマーケティング事業などの新事業の立ち上げ、昨年のパイロットの飲酒問題を受けての社員教育などの「安全・安心の再構築」が重点項目になります。

このうち国内線用787については10月の投入が決定、羽田-伊丹線を中心に投入されます。また、これとは別に既存の国内線用767と737にもUSB電源を全シートに設置、順次改修工事を行っていきます。国際線についても欧米豪路線でビジネスクラスのフルフラット化が実施される予定で、引き続きサービス向上に投資していくようです。


www.aviationwire.jp

 

press.jal.co.jp

 

さて、今後の注目は来年就航予定の中距離LCC「TBL(仮)」の動向でしょう。今回のローリングプラン発表と同時にTBLについても発表があり、3月上旬に国土交通省に航空輸送事業(AOC)の許可申請を行い、早ければその段階で正式な社名も発表される見込みです(既に一部報道で「ZIPAIR」になるのではとされていますが、一応JALの正式発表まではTBLで表記します)サービス内容や制服のお披露目は4月頃になりそうです。
www.aviationwire.jp

 

 以前の記事はこちらをご覧下さい。

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さて、気になるTBLの機材ですが、JAL保有の787初期導入機2機を改修して投入する事になります。世界的な引き合いが多くリース機も調達しやすい737やA320ならともかく、787はそう簡単には空いてるリース機も見つからないので妥当なところだと思います。将来的には6機体制になる見込みですが、JAL本体に取っても主力である787をそうそう廻すわけには行かないと思いますから、立ち上げ期はJALからのリース機で、経営が軌道に乗ったら新造機のリースに切り替えるのではないかと思います。

さらに気になるのは就航路線とTBLのブランディングやサービス内容ですが、今回の発表では特に触れられませんでした。これはJALの発表を待たなければいけませんが、2機で廻せる路線となると一機で運用できる東南アジア路線でしょう。ホノルルやオーストラリアも一機で廻せなくもないですが、ほぼフル稼働になるので2機で2路線を飛ばすのは運用的に厳しくなり、現実的ではありません。

当初は東南アジアなどの中距離路線、将来的には欧米路線となるのではないかと思いますが、最初の路線がどこになるかで今後の方向性も見えてきます。最初がバンコクやシンガポールといった大都市ならJALを含めた他社との競合覚悟で需要の大きい路線に切り込む戦略、デンパサールやプーケットといった日本の会社が就航してない路線なら、カンタスとジェットスターの関係のようにJALとの棲み分けを図る戦略になるのではないでしょうか。

 

いずれにしてもJALの新LCCの全貌が判明するのはもう少し後になりますので、今後の情報を楽しみに待ちたいところ。また現在のローリングプランは2020年度までの計画であり、羽田発着枠の配分が決まる来年には次の中期経営計画も出てくる事でしょう。来年のJALは大きく変わるかもしれませんね。

 

 

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羽田発着枠のアメリカ航空会社割り当ての行方

前回アップした車内販売終了に関する記事が過去になかった勢いでPV数が伸び、多くのスターやブックマークを頂きました。スマートニュースにも載ったみたいで、今そちらからのアクセスがもの凄い勢いです。皆様本当にありがとうございます!

 

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さて、今回は以前も触れた、2020年の羽田空港発着枠のアメリカ路線割り当ての続報です。2月20日から21日にかけてアメリカ側の大手、アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空、ハワイアン航空の4社がアメリカ運輸省(DOT)に路線開設を申請しました。

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以前の記事はこちらをご覧下さい。

 

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・配分予定の枠を越える申請で発着枠の取り合いに

改めて各社の申請内容をおさらいしましょう。(2月25日追記:各社の優先希望を追加してます)

 

・アメリカン航空(1日4往復・うち1往復は早朝深夜枠)

ダラス(2往復・777-200ER)

ロサンゼルス(早朝深夜枠1往復増便・787-8)

ラスベガス(1往復・787-8)

(優先1位ダラス1便目、2位ロサンゼルス、3位ダラス2便目、4位ラスベガス)

 

・デルタ航空(1日6往復)

シアトル(1往復・A330-900neo)

デトロイト(1往復・A350-900)

アトランタ(1往復・777-200ER)

ポートランド(1往復・A330-200)

ホノルル(2往復・767-300ER)

(1位シアトル、2位デトロイト、3位アトランタ、4位ポートランド、5.6位ホノルル)

 

・ユナイテッド航空(1日6往復)

ニューアーク(1往復・777-200ER)

シカゴ(1往復・777-200ER)

ロサンゼルス(1往復・787-10)

ワシントン(1往復・777-200ER)

ヒューストン(1往復・777-200ER)

グアム(1往復・777-200ER)

(第一希望ニューアーク、シカゴ、ワシントン 第二希望ロサンゼルス、第三希望ヒューストン、グアム)

 

・ハワイアン航空(1日3往復)

ホノルル(3往復・A330-200)

 

4社合計で昼間枠18往復、早朝深夜枠1往復の合計19往復分と、割り当て予定の昼間枠12枠を大きくオーバーしています。前回2016年の配分の際も昼間枠5枠、早朝深夜枠1枠に対し届出は9路線ですから、今回も各社最大限認められる可能性のある路線を申請したのではないかと思います。

 

・「ホノルル線」「デルタ航空」の動向が発着枠配分のカギに

さて、ここから実際に認可される路線はどこになるのでしょうか。ポイントになるのは「ホノルル線」と「デルタ航空」の2つになると思います。

今回の各社の届け出を見るとホノルル線がハワイアン3往復、デルタ2往復と突出しているのが分かります。近年羽田ーホノルル線は搭乗率が高く、ハワイアン航空も羽田ーホノルル線はANA便も合わせて90.8%、ハワイアン単体では91.9%に達しており、旅客需要が高い事をアピールしていますので、確かにホノルル線の増便は理にかなっています。

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しかし、今年はANAが成田ーホノルル線にA380を投入するなど、ハワイ路線全体で見れば今後は急激な供給量増加が見込まれます。恐らく日本側の会社も羽田発ハワイ路線の増便は申請してくるでしょうし、さらにハワイアンとデルタの申請をそのまま認めるとハワイ路線は一気に供給過多になって激しい安売り合戦に陥り、採算を悪化させかねません。恐らくホノルル線に関しては満額認められることはなく、せいぜいデルタ1往復、ハワイアン1往復の認可になるのではないでしょうか。

 

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次にデルタ航空の動向ですが、下記記事内でも触れている通り、JALとアメリカンの連合、ANAとユナイテッドとの連合に比べて日本側の提携航空会社のないデルタは羽田路線で不利であり、今回の割り当てでその是正を求めています。さらにハワイアンとJALの共同事業が承認された場合、デルタは羽田路線で更に不利になるため、デルタ6、アメリカンとハワイアン3、ユナイテッド3の配分にするべきだと主張しています。

www.traicy.com

 

今回のアメリカ側の発着枠配分は運輸省がデルタの主張を認めるか否かで分かれるのではないかと思います。仮に3グループ均等に配分された場合、アメリカン3、ハワイアン1、デルタとユナイテッド各4となりそうですが、その配分は日本側の航空会社のコードシェアは考慮されていません。アメリカンはJALと、ユナイテッドはANAとのコードシェアを行う事で実際は配分枠を越える便数を手にすることができる事を考えると、デルタの主張にも一理あると思います。

とは言え、デルタの主張通り認めてしまうと今度は他の会社からの反発も予想されますから、6枠配分も少々考えにくいです。となると間を取ってデルタ5、ユナイテッド4、アメリカン2+早朝深夜枠1、ハワイアン1になるのではないかと予想します。アメリカンに早朝深夜枠を認めて実質3枠にする代わりに、前回1便しか配分のなかったユナイテッドにはアメリカンよりも多い枠を認めてバランスを取るのではないでしょうか。

 

・今回の配分で認可される路線はどこ?

(2/25 各社の優先順位を踏まえた上で加筆修正しました)

配分の見通しを立てたところで、実際にどの路線が認可されることになるのでしょうか?まずデルタは5枠認可が下りればホノルル線の1往復以外は全て就航させることになるのではないかと思います。もし4枠認可なら希望順にシアトル、デトロイト、アトランタ、ポートランドを羽田に移し、ホノルル線のみ残留になりそうです。ハワイアンは元々の申請がホノルル線増便のみですが、既存のホノルル線の一部をを週3往復運航のコナ線に振り向けるかも知れません。

 

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問題はユナイテッドとアメリカンの配分でしょう。恐らくこの2社に関しては希望通り認められる可能性は低いと思いますので、どの路線が認可されないかという問題になります。

まずアメリカン航空ですが、ダラス便のうち一往復と深夜早朝枠のロサンゼルス線は認可されると思います。あとはダラス線2往復のみ認可か、ダラス線1往復とラスベガス線の認可になるかですが、これは甲乙つけ難いです。ダラスは言うまでもなくアメリカン航空最大のハブであり、乗り継ぎ需要を考えると2往復でも十分需要が見込めます。一方のラスベガス線はその知名度と観光需要の大きさの割には直行便がなく、羽田からの直行便ができれば大きなインパクトになります。アメリカン側はダラス線2便目を優先希望に上げていますが、DOTの裁定でラスベガス線を認可するかも知れません。個人的にはラスベガス線を実現させてほしいですね。

一方のユナイテッド航空ですが、6路線とも大都市だったり、ユナイテッドのハブ空港だったりする路線なのでどの路線が認可されても不思議はありませんし、言い換えればどの路線も却下される可能性があります。ユナイテッドの希望順ならニューアーク、シカゴ、ワシントン、ロサンゼルスですが、ロサンゼルスは既にANAとデルタが就航している上にアメリカンも申請してますので、下位希望のヒューストンかグアムでの認可になる可能性も考えられます。

もっとも、最後はDOTの判断次第ですし各社思惑もあると思いますから、この予想は素人の戯言程度にとらえて下さい。

 

・羽田発着アメリカ線の大増発でどうなる成田ハブ

さて、これだけ大規模な増便が行われると、現在の成田空港の路線やハブ機能がどうなるかが気がかりなところです。既に前回の配分では欧州路線のうちロンドンやパリ、フランクフルトといった主要路線がごっそり羽田に移りましたので、今回の配分で同じ事が北米路線でも起こるかも知れません。

実際、ダラスやアトランタ、ニューアークといった基幹ハブ空港への路線や、ニューヨークやロサンゼルスといった大都市への路線は成田からは激減するかも知れません。しかし北米路線自体のボリューム自体はそれほど減らないのではないかと思います。

 

その予想の根拠になるのは欧州路線。羽田にはロンドン、パリ、フランクフルト、ミュンヘンといったビジネス需要の大きい主要都市への路線が移管され、成田からは1日1〜2便程度に縮小しています。

これだけを見ると成田発欧州路線は壊滅的なように見えますが、その分ANAはデュッセルドルフとブリュッセルに、JALはヘルシンキに就航していますし、イベリア航空やLOTポーランド航空など新規就航した会社もあるので、主要都市の路線が減った分、それ以外の都市への路線は増えており、首都圏全体では欧州路線の便数や就航地はむしろ増えているのです。路線的にも羽田と成田で棲み分けができていると言えますし、北米路線に関しても主要都市の路線が羽田に移る分、成田には新規路線開拓の余地ができるのではないでしょうか。

 

もう一つの要素はアジアー北米間の乗り継ぎ需要。欧州路線の場合は地理的に東南アジアからの乗り継ぎは見込めず、中国、韓国からも地理的には日本乗り継ぎは逆戻りになるので、自国路線か香港、中東経由が主流になります。つまり日本発の欧州路線は基本的に日本国内の需要が大半になり、乗り継ぎ需要は多く見込めない為、昼間の羽田路線が解禁になると国内乗継が便利な羽田にこぞって路線を移したわけです。

 

一方の北米路線はアジアの東に位置する日本の方が地理的に有利であり、ANAもJALも近年はこの区間の乗り継ぎ需要を重視しています。特にANAは羽田を国内→海外乗継ハブ、成田をアジア→北米乗継ハブと位置付ける「デュアルハブ戦略」を取っており、当分はこの流れは変わらないでしょう。

今回の羽田発着枠増加でアメリカ路線が充実すれば、他の地域の路線配分にもよりますがアジア→北米の乗継需要の一部が羽田に移るのは避けられないと思います。しかし、全ての需要を満たすまでの本数はないですし、前述の通り新規路線開設の余地もありますから、成田にも一定のハブ機能は残るのではないでしょうか。と言うより成田発の東南アジア路線が乗継重視のダイヤを組む一方、羽田発は日本国内で使いやすいダイヤを組んでいますし、羽田路線に乗客が集中するのは航空会社サイドも本意ではないでしょうから、今後も羽田と成田の棲み分けは続くものと思われます。

 

羽田発着枠増加後の姿は今後の配分と航空会社の路線申請が出揃うまではまだ見えて来ません。しかし首都圏の航空需要の大きさや万が一の二重系統を考えると羽田と成田の共存は今後も必要です。上手く役割を棲み分けて今後も日本の空の玄関口の役割を果たしていってほしいですね。

 

 

 

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