〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

高知空港胴体着陸事故で見せた高知新聞とANAの執念

迷航空会社列伝、今回はANAの機材運用にまつわる貧乏くじについて取り上げました。


迷航空会社列伝「こんなはずでは・・・ANA機材選定貧乏くじ伝説」前編

 

なんかYouTubeの方はいつもよりもえらく伸びている上に過去の動画の再生回数も軒並み増え、しかも一週間たった今も全動画合計で1日一万回を超える再生回数が続いています。その前はせいぜい1日2~3000再生位、チャンネル登録者数も月500人増えればいい方だったので急な再生回数&チャンネル登録者数増加には素直に喜ぶ一方、戸惑っているのも正直な所。とは言え、多くの方に見て頂いているんだと思うと改めて深く感謝するとともに、下手な動画は出せないという思いも強くなります。今後とも慢心せず、見てよかったと思える動画作りに努めますので、どうぞよろしくお願いします。

 

さて、今回は最初の貧乏くじとして取り上げたボンバルディアダッシュ8-400型について。2007年3月13日に起きた高知空港の胴体着陸事故は、以前よりこの機種のトラブルが相次いでその安全性に疑問が持たれていた時期に発生した事や、胴体着陸までの一部始終が生中継されていた事などで世間の大きな注目を集めることになりました。

着陸までの機長の操縦と判断は見事と言うほかなく、誰もけが人を出さずに機体を下ろせたのは称賛に値します。しかし、この事故によって日ごろこの機種のトラブルに悩まされ、不安を抱いていた高知県民の怒りは頂点に達し、しばらくはダッシュ8-400の安全性に大きな疑問が投げかけられました。

 

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※画像の飛行機は事故機ではありません


そして、高知県の地方紙である高知新聞社もこの事故に対して精力的に取材をします。事故前からダッシュ8-400に関するトラブルを取材し、安全性に疑問を抱いていた高知新聞社にしてみれば、起こるべくして起こった事故であり、なぜ防げなかったのかと言う思いが強かったのではないかと思います。その執念は後にこの事故に関する特集記事を長期に渡り連載するほどでした。


www.kochinews.co.jp

 

今回の動画を作るにあたり一通り記事を読みましたが、就航前後あたりの記事を見るとダッシュ8-400にはむしろ好意を持っていたように思えます。大阪ー高知線の小型化、多頻度運航化と、速く快適な新型機が航空路線や高知空港の活性化につながると、高知新聞も期待を持って迎え入れたのではないでしょうか。

それだけに一連の機体トラブルと胴体着陸事故は、裏切られたと言う思いが強かったのではないかと思います。それ故に長期に渡り特集記事を組んで追求したのだと思いますが、その内容はいち地方紙の特集とは思えないほど綿密に調べ、深く切り込んだものでした。

 

第一部は胴体着陸事故とその後の調査を追ったドキュメントですが、第2部では調査結果に疑問を持った担当記者がカナダに飛び、ボンバルディアやダッシュ8-400を使用するエアラインなどに取材をして行きます。機体整備の省力化やボンバルディアの製造工程、事故調査の問題点に斬り込んでいく姿は大手紙顔負けでした。

さらに第3部では「原因究明」と「責任追及」の間に揺れる事故調査の問題を取り上げ、第4部はダッシュ8-400選定から機体の安全の問題を問いかけ、最後の第5部では日本やアメリカの航空行政の問題に斬り込み、安全面からの問題提起をするものでした。

 

正直、立場の弱い県域地方紙がこれだけの特集を組むのは異例であり、日本や世界の航空業界の問題に一石を投じるものであったと思います。高知新聞のジャーナリズムの意地を見せた特集、時間があれば是非一読して頂きたい記事です。

 

 

一方、胴体着陸事故で「欠陥機」のレッテルを貼られてしまったANAのダッシュ8-400。2007年9月にスカンジナビア航空が胴体着陸事故を起こし、全機の使用中止を決定した際は流石にANA社内でも運航を取りやめるべきだと言う声が上がりましたが、ANAの決断は「使用継続」でした。度重なるトラブルに「脚が格納されない程度のトラブルは普通」と考えるボンバルディア社のつれない対応に苦慮したANAは2005年9月から駐在員として機体計画部副部長の北原宏氏を派遣します。

北原氏の役目はアフターサービスの強化と機体の品質向上。日本側で出た不具合をボンバルディアに伝え、対策を立ててもらうよう交渉するのが主な仕事でしたが、ボンバルディア側との人脈は一から築く必要がありましたし、時にはハイドロの不具合をANA側に問題があると一蹴しようとしたボンバルディア側に「どうしても直せないなら機体を交換しろ」と詰め寄るほど、ボンバルディア側との交渉は根気のいるものでした。

その一方でカナダ側の自尊心にも配慮し、「ボーイングではこうだった」と言うような頭ごなしな言い方はせずに、日本の事情や国民感情などを説明してボンバルディアの社員に理解、協力してもらえるよう交渉します。

 

そんな中で起きた2007年の胴体着陸事故。北原氏は日本での世論や政府サイドの談話を翻訳してボンバルディア側に伝え、先の高知新聞の記事も翻訳して渡しました。ダッシュ8-400の安全性が国会で追及された際も同時通訳を行いましたが、その中で「欠陥機」と言う言葉が出るとボンバルディアの重役の顔は青くなり、その後赤くなったそうです。

自社の製品を欠陥機と言われてしまったボンバルディア社の重役は大きなショックを受け、怒りを覚えたと思いますが、同時にダッシュ8の日本での立場が相当悪くなっている事も理解したのではないかと思います。

これをきっかけにボンバルディアも不具合対策に本腰を入れるようになり、2008年後半には不具合の数は見違えるように減りました。現在ではANAのダッシュ8-400の運行率は99.5%ほどにまで上がり、信頼性の高い機種となっています。ANAの執念とボンバルディアの本気がダッシュ8-400の「欠陥機」の汚名を晴らしたのです。詳しくは以下の記事でご覧下さい。

 

 

「絶対に良い飛行機にしてやる」特集・Q400を鍛え直した男たち(1)

「飛行機を作る人間をチェックしろ」特集・Q400を鍛え直した男たち(2)

「眺めの良い飛行機でBon Voyage!」特集・Q400を鍛え直した男たち(最終回)

 

ダッシュ8-400に対する高知新聞とANAのスタンスは一見すると真逆なように見えます。高知新聞は安全性に疑念を持つ一方、ANAは「絶対に良い飛行機にする」と言う想いが強く、ダッシュ8を見捨てる事はしませんでした。

しかし、高知新聞もANAも「空の安全への想い」は同じであると思います。高知新聞の特集記事も根幹にあるのは県民の空への安全への想いですし、ANAも駐在員を派遣してまで不具合対策をしたのはお客様に安心して飛行機に乗って貰うため。メディアと航空会社、批判する側とされる側の違いはあれど、空の安全への執念がボンバルディアを動かし、欠陥機の烙印を押されたダッシュ8-400を蘇らせたのではないのでしょうか。

動画の構成、制作で気をつけている事

先日アップした各航空会社の2018年下半期の運航計画紹介動画で、メインチャンネルの「迷航空会社列伝」の投稿動画が50本になりました。

 


迷航空会社列伝特別編・2018年度下期各社運航計画・ANAグループ編


迷航空会社列伝特別編・2018年度下半期各社運航計画・JALグループ、その他の会社編

何とかここまで続けてこられたのも、ひとえに私の動画を面白いと言って頂き、視聴して頂いている皆様や、YouTubeでチャンネル登録して頂いたメインチャンネル約8100人、サブチャンネル約2100人の視聴者の皆様、ニコニコでフォローして頂いた約5700人のフォロワー様のお陰。改めて厚く御礼申し上げますと共に、今後ともご愛顧のほどよろしくお願い申し上げます。

 

さて、今の私の立ち位置はいわゆる底辺製作者からは脱却し、特定の界隈には名前が知られる程度には有名になりました。動画投稿の世界は意気込んで作っても一向に再生数が伸びない人が大半を占めますので、私は本当に運が良かったと思います。それでも他の界隈を見れば私よりも大きな支持を受けている投稿者の方は多く、まだまだ力不足だなと感じます。

また、有名になった投稿者でも、油断したり反感を買ったりして視聴者が離れたり、炎上したりするケースも少なからずあります。ある意味、浮き沈みが激しいとも言えますし、一寸先は闇。私もいつ足下を掬われるかも分かりません。

そこで今回は自分自身への戒めも含めて、私が動画制作や投稿の際に気をつけている事、注意を払っている事をお伝えしたいと思います。もしこれから動画を作ろうと考えている方、なかなか見てもらえず苦戦してる方、現在進行形で炎上している方にとって少しでも参考になれば幸いです。

 

①極力中立・公平な視点で原稿を作る

私が取り上げる会社を選定し、原稿を作る際は極力中立的な視点で書き、最後のまとめ以外は極力主観を入れないようにしています。話の構成上、少々ツッコミや皮肉を入れたりはしますが、基本的には後述する参考資料に基づいて構成しています。

視聴者の方が知りたいのは「なぜこの航空会社が潰れたのか」「この会社はどういう歴史を辿って来たのか」と言う事実であって、私の意見や主張ではないと思います。私がやってるのはあくまで「解説動画」であって「評論動画」ではありません。その為にも公平な視点で原稿を書くように心掛けています。

 

②出来るだけ参考資料を読み込み、裏付けを取った上でそうなった背景も書く

動画を作る際はその会社や事柄に関する資料を読み込み、原稿の構成を考えています。JALやコンチネンタル航空などのようにその会社の事を書いた本があれば一番いいのですが、それ以外でも航空、鉄道関係の書籍や専門誌、経済誌や郷土資料など、参考になりそうなものは手当たり次第に読んでいます。また、国土交通白書などの国土交通省が出したレポートも非常に役立ってます。何せ役所の出した文書ですから信ぴょう性は高いですし。

特に古い会社だと最近出版された本だけでは当時の情報が少ないので、昔に出版された本や雑誌が頼りです。少し先の話になりますが、11月に投稿予定の「東急視点のJASの歴史」はその70年代〜80年代に出版された本や東急の社史がすごく役立ちました。この手の本は専門の古本屋に行かないとなかなか出てこないのですが、見つけた時は宝物を見つけたようで凄く嬉しいですね。

 

最近の事に関してはどうしてもネットニュースや海外の事だと海外サイトや個人サイトに頼る事になりますが、その際は信頼性の高い大手メディアや専門ニュースサイトの情報を優先しています。その際も一社だけだと飛ばし記事の可能性もあるので、複数社の記事を確認しています。

そして、資料だけでは説明しきれない事はそうなった背景も調べて原稿を書くようにしています。例えばスロバキア航空の回の時は資料本とウィキペディアの情報だけではスロバキア航空破綻の背景を説明するには不足でしたので、ブラチスラヴァとウィーンの位置関係とEUの航空自由化を調べてスロバキア航空が苦戦した理由を補強しました。「本に書いてないから説明できない」という狭い視野ではなく、多角的に物事を見るのが大事かなと思います。

 

③動画で紹介する対象に対し、敬意を払って制作する

「迷○○シリーズ」なんてタイトルがついてしまうと、どうしてもその対象を貶めたり欠点をほじくり返さなければいけないと考える人が出てくるようですが、私は本来「迷○○シリーズ」は「困ったところやおかしなところはあるけど、根本的には大好きで欠点も含め愛すべき存在」を紹介する動画だと思っています。

動画内では「みんな大好きDC-10」とか「ご飯の美味しいブリティッシュエアウェイズ」なんてネタにしていますけど、私はDC-10はメーカーの不義理はあったけど大量輸送時代を支え、貨物機転用で長く活躍した功労者だと思ってますし、BAも機内食はともかく、サービスの高さやネットワーク力、ロンドンシティ~ニューヨーク線のようなユニークな路線を飛ばすチャレンジングな姿勢は称賛に値するものだと思っています。

世の中の航空会社や鉄道会社の多くは一時代を築き、長年人々の足となって経済や観光などの分野で貢献してこられたのですから、基本的には彼らの活躍や功績に敬意を払い、「紹介させて頂く」という気持ちを忘れずに動画を制作し、またマイナスな事柄に対してもそうならざるを得なくなった背景や事情も説明して、できるだけ悪い印象を与えないように構成に気を付けています。

 

・・・ただし、私の動画を欠かさず見て頂いている方なら、その姿勢にも「例外」があった事にお気づきかと思います。そう、唯一「フォローは一切ない」と言い切ったオリエントタイ航空。

この会社に関しては東京タワーのニアミスに始まり子会社の墜落事故、自社責任での運休にも関わらず返金に応じずバックレ、アジア各地に飛行機をポイ捨て、いい加減な機材管理に安全管理で一時飛行禁止処分と、フォローの余地がありませんでしたしする気も失せるくらい酷いものでした。

 

・・・まあ、流石にオリエントタイを超える会社はそうそう出てこないと思いますが、この位酷い会社でない限りは、紹介する会社に対するリスペクトは忘れずに、敬意を払って紹介していきたいなと思います。

 

④常に画面の向こう側にいる視聴者の事を考えて動画を作る

 

これは私に限らずどの動画投稿者様もそうだと思いますが、やはり見て頂いている視聴者の存在が動画作りを続けるモチベーションになると思います。少しでも多くの視聴者の方に見てもらえるよう、飽きさせない為のネタ仕込みに気を配り、見終わった後何か一つでも心に残ったり、教訓にしてもらえるよう、構成を考えたり伝えたい事を伝えられるようメッセージを込めたりしています。

また、過激な言い回しや度を超えた対象への非難、的外れな批判や私的な感情による攻撃は厳に慎むべきだと思います。こう言った物申す系は一時的には共感を得られてもいずれ辟易した視聴者は離れて行きますし、長い目で見ればマイナスでしかありません。そのような物言い自体を嫌う視聴者の方も多いですし、私自身も物申す系は好きじゃないですから。

 

また、動画投稿者に取っては視聴者の方からのコメントも大きな楽しみの一つ。「面白かった」「勉強になった」と言うコメントは本当に嬉しいですし、仕込んだネタに反応があった時は思わずニヤリとしてしまいます。

時には間違いを指摘するコメントや動画の構成に対するお叱りを受ける事もあります。間違いやご批判は真摯に受け止め、改善していくよう努めますが、構成、編集、チェックを一人でやっているので、どうしても誤字や読み間違いが出てしまいます。明らかな間違いは逆にご指摘頂けるとありがたいですが、多少の誤読は見逃して貰えると助かります・・・

 

とは言え、視聴して頂いたり、コメントを頂いているうちが華だと思いますので、ニコニコ、YouTubeを問わず、見て頂ける視聴者の皆様に深く感謝し、今後も期待を裏切らないよう精進して参ります。

 

 

以上、取り留めのない感じになってしまいましたが、私の動画制作の姿勢や気をつけている事をお話しました。とどのつまり、公平性、正確性、紹介対象や視聴者の方への感謝と敬意を忘れずに謙虚な気持ちでやって行けばいいのかなと思います。

口にするのは簡単ですが、実際にはなかなか出来ていないもの。勿論私自身もこう書いておきながら考察が甘かったり、感情的になってしまう事があるので、日々反省です。でもこの気持ちは忘れずに、長く好きな動画作りを続ける為にも、気をつけて行きたいなと思います。

 

 

 

関空に新千歳・・・相次ぐ大空港の災害

9月4日から5日にかけて日本中で猛威を振るった「最強台風」台風21号は大きな爪痕を残していきました。この件について書こうと思った矢先、9月6日に北海道で最大震度7の地震が発生し、北海道中が停電、新千歳空港も閉鎖されました。今年は災害が多すぎるような・・・被災された皆様にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方に対し心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

まず関空の方ですが、5日の午後から閉鎖されましたが、利用者や職員の方8000人が取り残された上に、連絡橋にフェリーが衝突して亀裂が入り、空港島からの脱出も不可能になりました。翌6日の早朝から関空~神戸空港間の高速船や、連絡橋の無事だった反対側の道路を使用してバスでピストン輸送するなどして順次取り残された人を空港島から脱出させましたが、脱出までには時間がかかり、全ての人が空港島から出られたのは深夜になってからでした。


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関空の被害状況や空港連絡橋の損傷状況を考えると早期の再開は難しいかなと思っていたのですが、明日7日から比較的被害の少なかった第2ターミナルとB滑走路を使って国内線の一部を再開させるとの発表がありました。 再開させるのは第2ターミナルを使用しているピーチで、ひとまず7日は関空発6便、関空着11便。また、JALも羽田―関空線一往復を運航させるようで、わずかでも関空の運航再開が可能となったことは良かったと思います。

国際線や貨物路線の再開に関してはまだ見通しが立っていませんが、メインで使用している第1ターミナルとA滑走路の被害が甚大な事を考えると、早期の復旧は難しそうです。航空各社は成田や中部などの他の日本発着路線への振り替えを受け付けるほか、デルタ航空やアシアナ航空などは関空の代替として中部発着路線の臨時便を運航する予定。伊丹空港や神戸空港に一時的に国際線機能を移転させる構想も上がっており、今後関空が使用できない穴埋めをどうするのかという議論が本格化しそうです。

www.traicy.com

trafficnews.jp

 

一方の新千歳空港。震源地に一番近かったことや停電の影響もあって始発から全便の欠航が決まりました。新千歳以外の空港は非常用の電源を使用して運用を続けましたが、女満別空港はその非常用電源も尽きてしまったため午後2時以降欠航。23時現在、明日7日以降の運航の見通しは立っていません。

 

www.traicy.com

正直、関空に関してはここまで大きな被害になるとは思っていませんでしたが、もしこれが運用中だったと思うとぞっとします。早めに運用を止めたからこそ死者を出さずに済んだと思いますし、これだけの巨大台風は関空も想定外だったと思うので、今回の事態は仕方なかったのかと思います。新千歳に関しても停電という外部要因ではお手上げでしょうし、もし地震が運用時間中だったり冬場だったりしたら、被害はもっと大きかったのかも知れません。

飛行機に限らず近年の交通機関は台風などの災害が予想される場合、被害が大きくなる前に早めに運休する傾向にあります。一昔前なら早めの運休はむしろ非難されることもあったくらいですが、下手に動かして被害を拡大させるよりは賢明な判断だと思いますし、交通機関が止まる事で企業も早めの帰宅や臨時休業の判断がしやすくなったのではと思います。以前に比べると災害の規模や頻度は間違いなく大きくなっていますし、今後はいかに早く「止める」決断をして被害を最小限に抑えるかが問われてくると思います。我々利用者サイドもその決断を尊重し、身を守る行動を最優先に取りたいものですね。

意外と広範囲?航空会社の本社所在地

2代目エアアジア・ジャパン関連でもう一つ。動画内で「愛知県に本拠を置く唯一の航空会社」と書きましたが、実際のところ、日本の航空会社の本社所在地はどのようになっているのでしょうか?

気になったのでまとめてみたのですが、意外や意外、思ったよりも東京に本社を置く会社は少なく、割と日本各地に散らばっています。今回はそんな日本の航空会社の本社所在地が置かれている場所とその理由を見ていきましょう。

 

・北海道・東北地方

・北海道

札幌市:エアドゥ、北海道エアシステム

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これは当然と言えば当然ですね。「北海道の翼」の本社所在地が東京では興醒めですし、エアドゥの路線展開や設立経緯を考えると札幌に本社を置くのは当然と言えます。北海道エアシステムも路線の殆どは道内なので当然といえば当然。本州との往来は航空機への依存度が高い北海道ならではですね。

 

え?エアトランセ?はて何の事やら。

 

・関東地方

・東京都

港区:ANAホールディングス、日本貨物航空(本店)

品川区:日本航空

大田区:スカイマーク、ANAウィングス、エアージャパン(本社)

江東区:アイベックスエアラインズ

 

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冒頭で「日本全国に散らばっている」と書きましたが、やはり日本の首都、大手2社を始めとして6社が本社を置いています。特に目立つのはLCC以外のANA系の航空会社が東京に本社を置いている事。JAL系の航空会社の本社が日本各地に散らばっているのとは対照的です。

意外だったのがIBEXエアラインズも本社を東京に置いていた事。ここの運行上の本拠地は仙台空港、路線的にも仙台、伊丹、中部が中心で羽田路線はゼロですから、東京に本社機能を置く必要性は薄いと思うのですが・・・親会社との兼ね合いでしょうか?

 

・千葉県

成田市:日本貨物航空(本社)、ジェットスタージャパン、バニラエア、春秋航空日本、エアージャパン(本店)

 

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成田空港があるだけに、LCCを中心に本社を置く航空会社は結構多いです。日本貨物航空とエアージャパンは東京と成田の両方に本社機能を持つのが特徴的ですが、両者とも法人客主体の貨物航空がメインですから、荷主への営業拠点が東京、オペレーション拠点が成田と分けているのでしょうね。

 

・茨城県

竜ヶ崎市:新中央航空

 

ここも意外な組み合わせです。コミューター路線は調布飛行場が拠点なのでそちらに本社を置きそうなものですが、新中央航空は元々事業航空がメインの会社。事業航空部門の本拠地は茨城県の龍ヶ崎飛行場なので、会社的にはこちらに本拠地を置く方が理にかなっているという訳です。

 

・中部地方

・静岡県

静岡市:フジドリームエアラインズ

 

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親会社が静岡の流通グループ・鈴与というのと、静岡空港からの路線開拓を目的に作られた会社ですからある意味納得。今でこそ路線的には名古屋空港が主体ですが、本社はあくまでも静岡というところにFDAの矜持が見られます。

 

・愛知県

常滑市:エアアジア・ジャパン

 

これは動画内でも触れたので説明不要ですね。ちなみに、過去に愛知県に本社を置いていたのは名古屋拠点のローカル線を運航していた中日本航空(1969年に定期航空事業をANAに譲渡。会社自体は事業航空会社として現在も存続)と、その中日本航空を含めた名鉄グループとANAの合弁会社、中日本エアラインサービス(2005年にANAの完全子会社「エアーセントラル」に改称後、ANAウイングスに吸収)がありました。

また、ジェイエアも一時期本社を名古屋空港に置いていた時期がありましたが、名古屋路線撤退と同時に本社を大阪に移転しました。

 

あと、オレンジカーゴという会社も名古屋にあったみたいですが、まあそれはそれ。

 

・関西地方

・大阪府

池田市:ジェイエア

田尻町:ピーチ・アビエーション

 

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日本第二の都市圏であるにも関わらず、関西地方を本拠地にしているのは2社だけと少なめです。古くは西日本のローカル線が割当てられ、大阪拠点に路線を広げた極東航空と、飛行艇路線を飛ばし、近鉄も出資していた日東航空が大阪に本社を置いていましたが、いずれも他社との合併で消滅し、その後30年以上関西本社の航空会社はゼロになりました。

1997年、日本航空がJALエクスプレスを設立し、本社を伊丹空港に置いた事で久々に関西本社の会社が復活しました。当時のJALはボーイング737-400型を導入して大阪発着のローカル線を広げようとしていましたが、後発ゆえに営業面では苦戦していました。この為、低コスト運航の別会社を設立し、大阪発着の地方路線をJAL本体から移管して先行2社に対抗しようとします。

JALエクスプレスの客室乗務員は「スカイキャスト」と呼ばれ、本来の業務に加え機内清掃も行う事でコスト削減と折返し時間短縮による飛行機の稼働率上昇を狙ったものでした。当初は塗装もJAL本体とは別なものでしたが、JASとの合併後はJAL便の受託運航会社の色が強くなり、塗装もJAL本体と同じになりました。

その後JALエクスプレスは羽田発着路線の比率が高くなった事もあり、2011年10月に本社を羽田に移転。JALエクスプレスと入れ替わるように本社を移転したのがジェイエアでした。時を同じくして関空に本社を置いたのがピーチ。JALエクスプレスもジェイエアもJALグループの経営戦略と路線展開上、大阪に本社を置いているだけとも言えますが、ピーチの場合は本気で関西を拠点にした航空会社でしたので、そう言う意味ではピーチの方がより関西拠点の航空会社と言えるかも知れません。

ちなみにピーチの本社は関空にありますが、所在地は田尻町のエリアにあるため、日本の航空会社で唯一本社所在地が町にあると言う珍記録を持っています。

 

・中国・四国地方

すいません、現在は本当にないんです。但し、過去には広島本社の航空会社は存在していました。

1953年に設立され、1971年に日本国内航空と合併した東亜航空は広島に本社を置いており、建材メーカーの不二サッシが親会社でした。1956年に鹿児島~種子島線の開設を皮切りに定期航空事業に参入し、広島を拠点に西日本一帯にローカル線を飛ばしていました。1950年代に次々と作られたローカル線航空会社の中では一度も合併せずに単独で勢力を広げた会社でした。

しかし、航空業界の不況に伴う運輸省の「国際線は日航1社、国内線は日航と全日空の2社」という方針の元、東亜航空は提携相手であった全日空との合併を迫られます。渋々合併交渉のテーブルに着いたものの、合併比率を巡って全日空との交渉は決裂。そうしているうちに国内の航空需要が急回復し、各社とも業績は好転します。そこで日航への吸収を免れたい日本国内航空(東急系)が東亜航空に接近し、全日空との合併交渉が行き詰まっていた東亜航空も渡りに船とばかりにJDAとの合併に方針転換。第三の航空会社「東亜国内航空」誕生へとつながりましたが、存続会社は日本国内航空、本社も東京へと移り、広島、と言うか中四国を本拠地とする航空会社はなくなりました。

 

しかし、考えてみると羽田~中国・四国路線のうち四国は航空路線の依存度が高いドル箱路線なのに、未だにJALとANAの複占になっているのは不思議と言えば不思議。同じく航空路線への依存度が高い九州地区にスターフライヤーやソラシドエアと言った新規参入会社が相次いで設立され、大抵の羽田~九州路線に最低一社はJALとANA以外の会社が参入しているのとは対照的です。そのうち四国拠点の新規参入会社、できないもんですかねえ・・・

 

羽田発着枠の問題があるし設立するにも大金が必要だから難しいか。

 

・九州地方

・福岡県

北九州市:スターフライヤー

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本社は東京にあると思われがちですが、元々スターフライヤーは2006年の新北九州空港開港時に就航した会社。今でも本社及び運航拠点は北九州にあります。

が、九州の中心であるにも関わらず、福岡市に本社を置く航空会社は一つもありません。過去にはハーレクインエア、エアーネクスト、壱岐国際航空が福岡市を本社にしていましたが、いずれも長続きしませんでした。この為「福岡市が本社の航空会社は短命」と言うジンクスができてしまいました。あと設立前に潰れた会社が一つありましたが触れないでおきます。

 

・長崎県

大村市:オリエンタルエアブリッジ

・熊本県

天草市:天草エアライン

これら2社は第三セクターの離島路線コミューター会社という共通点がありますが、オリエンタルエアブリッジは元は長崎航空と言う60年近い歴史のある老舗、天草エアラインは2000年の天草飛行場開港に合わせて作られた新興企業と言う違いがあります。

 

・宮崎県

宮崎市:ソラシドエア

ここも九州・沖縄に路線網を広げている事もあって東京本社と勘違いされがちですが、スターフライヤー同様、設立当初は宮崎ー羽田線の参入を目指して宮崎の政財界が中心となって立ち上げられた会社でした。現在も宮崎交通を始め宮崎県内の企業が大株主です。

 

・鹿児島県

霧島市:日本エアコミューター

鹿児島の離島路線を結ぶために当時の東亜国内航空と奄美群島の自治体が中心となって設立された会社。一時期西日本全体に路線網が広がりましたが、資本的にはJALと鹿児島県の第三セクターと言う立場は変わりませんでした。

近年では本州の地方路線の大半をジェイエアに任せ、自らは本来の立ち位置であった鹿児島の離島路線に回帰しつつあります。

 

・沖縄地方

・沖縄県

那覇市:日本トランスオーシャン航空、琉球エアコミューター

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会社設立以来、一貫して沖縄の翼として飛び続けたJTAとRAC(一時期名古屋〜山形線を飛ばしていた事がありますけど)JALグループではありますが、資本的には沖縄の自治体や企業も出資しています。本土と文化の違う沖縄県に進出する大手企業は地元を知り尽くしている地場企業と組むケースが多く、JALがJTAを別会社のままにしているのもこうした沖縄の特性を考慮しての事でしょう。

 

ちなみにレキオス航空と言う会社もありましたが飛ぶ前に会社が飛んでしまいましたね。

 

以上、日本の航空会社の本社所在地を見てきました。規制が強かった90年代までの航空業界は東京本社の会社が大半でしたが、大手のグループ会社が細分化され、新規参入会社も増えた今では航空会社のあり方も多様化しています。

東京一極集中と言われて久しいですが、少なくとも航空会社に関してはそれなりに分散している感じです。地方に本社を置く航空会社が増えれば地域の雇用や経済にも好影響を与えますし、税収面でも本社を置く自治体に地方法人税が入ります。今後も地方に本社を置く航空会社は増えていくと思いますので、そういった点にも注目して飛行機に乗るのも面白いかも知れません。

ローカライズ化する航空会社が増えている?(後編)

前編に引き続き、ローカライズ化した航空会社を紹介していきます。前編をまだご覧になっていない方は先にこちらをご覧下さい。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

この記事を書くきっかけになった2代目エアアジア・ジャパンについてはこちらの動画をどうぞ。

 


迷航空会社列伝「郷に入ってもゴーイング・マイウェイ」2代目エアアジアが飛べなかったわけ

 

 

・天草エアライン

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ローカライズ化航空会社の代表格と言ってもいい会社ですが、前編で紹介した3社が都道府県単位でのローカライズなのに対し、天草エアラインの場合は熊本県の天草諸島が本拠地なので、自然と天草のローカライズになります。と言うよりはこの会社の場合、会社そのものが「新しく作った天草飛行場に定期路線を作るために作られた航空会社」なので、自分たちの島の為に空港と航空会社を作ったという、究極のローカライズ航空会社なのです。

一時は経営不振に陥り、債務超過寸前にまで追い込まれてしまいましたが、JAL出身の奥島透社長(当時)が社長に就任し社内改革を行った事で奇跡の復活を果たしました。1機しかない小さな会社なのを逆手に取り、1日乗り放題切符や手作りの機内誌、社員全員が一人何役もこなすマルチタスク化や、小さな会社ならではのユニークなサービス、1機だけの保有機を青いイルカをイメージした塗装に塗り替え、随所に遊び心を施して人気を博すなど、「目的地に行く為に飛行機に乗る」から「天草エアラインに乗りたいから出かける」という、航空会社そのものに魅力を持たせ、今でも根強い人気を誇っています。最近では天草エアラインの設立から再建までを書いたノンフィクション小説「島のエアライン」が発表され、度々メディアで取り上げられる程の会社になっています。

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こうした天草エアラインの地道な努力に地元の天草も応え、「天草の空サポーターズクラブ」を設立して島のエアラインを側面支援。ここまで地元住民と会社の絆が強いケースもそうそうないのではないでしょうか。

しかし、そんな天草エアラインも厳しい状況であることには変わりなく、最近では国土交通省も経営基盤の弱い地域航空会社の在り方として将来的な統合を検討するよう、実務者協議を開いています。個人的には天草エアラインに関しては下手に統合してローカライズを消してしまう方が不利だと思いますので、できれば今のままの方がいいと思うんですが、規模的には不安定で厳しい事には変わりありませんから悩ましいところです。

www.sankei.com

 

 ・ピーチ(peach)

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日本で設立された初のLCCであり、和製LCCの中では最も成功しているピーチ。関空を中心に日本中に路線網を築き、国際線も運航しているこの会社を「ローカライズ化されている」と言うのも少々違和感があるのですが、ピーチの成功は地盤である関西地方、もっと言えば大阪を前面に出したブランド展開も大きな理由の一つですので、ここでは関西地方と言う大きなくくりで「ローカライズ化した航空会社」と定義して紹介します。

ピーチは関空を最初の拠点にしたことから本社を大阪に置き、地盤である関西地方に受け入れられるようブランディングを行いました。ブランド発表の際に「おもろい会社を目指す」と宣言し、国籍、年齢、経歴不問、茶髪OKと航空業界の常識を覆すCA募集に関西弁のアナウンス、においの面でタブーとされてきたたこ焼きやお好み焼きの機内販売に踏み切る、様々な企業とのコラボレーションなど、宣言通り「おもろい」事を次々とやって行っています。

これだけピーチがはっちゃけてもドン引きされずに受け入れられ、支持されるのも「おもろい事」をやる会社が受け入れられやすい関西の土壌が大きかったのだと思います。関西の人は値段にはシビアですが、安い理由に理解を示し、納得したら受け入れる懐の深さも持ち合わせており、LCCが受け入れられやすい下地がありました。考えてみればかつて関空発着の国際線が不振に陥り、次々と撤退していった理由は「値段の安いエコノミーは埋まっても高いビジネスやファーストはガラガラで、採算に乗らない」だったので、価格の安さと実利を重視する関西ではフルサービスキャリアよりもLCCの方が水に合っていたのかも知れません。

 

そんな関西ローカライズ化されたピーチも、2020年までにバニラエアと統合することになります。成田に新たなベースができる以上、今まで通りとは行かないかも知れませんが、地盤の関西で培った「おもろい会社」というイメージを変えず、関東でもピーチらしくどんどんおもろい事をして行って欲しいなと思います。就航当初の知名度が低いころと違い、和製LCCの成功例として知名度が高まった今のピーチなら、積極的に選ぶ人も多いはず。下手に関東の文化におもねってピーチらしさを消してしまったら、それこそ6年かけて築いてきた「おもろい会社」のイメージを捨ててしまう事になり兼ねませんから。

 

・まとめ 

以上、近年の航空会社のローカライズ化について見てきました。大手のブランドを使いつつも地域色を出そうとする会社、地域色を前面に出して地元の支持を得る会社、地元の土壌に上手く乗っかってブランディングをする会社とそのタイプは様々ですが、共通しているのは「地元の人に愛される会社である」と言う事。エアアジア・ジャパンがどこまで名古屋ローカライズ化できるか、本気で東海地方に溶け込む覚悟と努力をするのか、まだ未知数ではありますが、これまでの成功体験だけでは日本市場で成功できないのは前のエアアジア・ジャパンや就航への苦戦で良く分かったはず。今後のエアアジア・ジャパンの取り組みに期待したいところです。

ローカライズ化する航空会社が増えている?(前編)

迷航空会社列伝、今回はエアアジア・ジャパン(2代目)を取り上げました。YouTubeでは既に公開中ですが、本日ニコニコ動画の方にもアップしましたので、そちらもどうぞご覧下さい。

 


迷航空会社列伝「郷に入ってもゴーイング・マイウェイ」2代目エアアジアが飛べなかったわけ

 

さて、2代目エアアジア・ジャパン就航までのグダグダは本編でじっくりご覧頂くとして、最近のエアアジアジャパンは愛知と札幌のFM局に自社提供番組を流したり、名古屋市と協定を結んだりと、本拠地である愛知県に溶け込もうとする努力をしていると触れました。エアアジア・ジャパンの姿勢の変化を表すエピソードとして紹介しましたが、エアアジア・ジャパンに限らず、近年の航空会社は本拠地の特色を自社カラーに取り入れる「ローカライズ化」が進んでいます。

ANAやJALのような全国津々浦々に路線網を張り巡らす大手航空会社は「日本の代表」として日本全国どこでも高品質なサービスを提供する傾向にありますが、中堅以下の規模の会社は自社の特色を出し、本拠地となる地域に根差したサービスやプロモーションを行う事で他社との差別化を図り、地域の支持を集めて根強いファンを作った方が得策です。今回はそんなローカライズ化が進む航空会社を紹介しましょう。

 

 

 

・日本トランスオーシャン航空・琉球エアコミューター

ローカライズ化の元祖ともいえる日本トランスオーシャン航空。ここではその子会社である琉球エアコミューターもまとめて紹介します。日本トランスオーシャン航空の前身の南西航空が設立されたのは1967年。この時はまだ沖縄はアメリカの占領下にありましたが日本の航空会社との位置づけを強くしたかったこと、また日本航空系列の会社として設立されたことから、初期の塗装は日本航空の塗装に近いものとなり、尾翼にも日の丸が付けられました。

その後、1972年に沖縄が返還され、名実ともに日本に復帰すると、南西航空は「沖縄の翼」としての立ち位置が強くなります。当時はまだ航空運賃はほぼ横並び、グループ間の乗り継ぎやブランドイメージの統一などもさほど行われていなかった時代でしたので、日本航空に合わせた塗装を施すよりも独自のカラーリングで沖縄色や日本航空との違いを打ち出した方がいいとの判断が動いたのか、1978年のボーイング737導入を機にオレンジベースの南国らしい塗装に塗り替えられます。以後15年間、南西航空は「沖縄の翼」としての位置づけを強めました。

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しかし1993年4月、南西航空は社名を「日本トランスオーシャン航空」に変更し、塗装も尾翼以外は親会社のJALに準じた塗装になりました。これは沖縄県内路線だけだった南西航空が1986年の那覇~松山線を皮切りに次々と本土路線に進出し、「沖縄のローカル航空会社」のイメージがべったりついてしまった「南西航空」の社名と塗装が、全国展開の面で逆に足かせになって来たためでした。さらにこの頃になると国内幹線のみだったJALグループも全国にネットワークを広げるようになり、このままJALと無縁の南西航空の名前で飛ばすよりもブランド力の高いJALのグループの一員として路線展開した方が特に本土の利用者の集客には有利との判断も動きました。

現在では社名以外はJALと共通の塗装であり、子会社の琉球エアコミューターの機体もしっかり鶴丸塗装です。しかし、現在でも日本トランスオーシャン航空はJAL本体には吸収されず、便名も別会社のまま。これはJALだけでなく、沖縄県を始めとした沖縄資本も出資してる関係もあると思いますが、「沖縄の翼」として発展した経緯があるだけに、JAL本体に吸収するよりは沖縄ローカライズの別会社で残して独自色を残した方が沖縄県の支持を得やすく、集客面でもANAとの差別化ができるとの判断でしょう。

実際、JTAはJALの機内誌とは別に独自の機内誌「Coralway」を発行していますし、RACはCA手作りのルートマップを搭載してローカライズ感を出しています。機内に関してもクラスJのヘッドレストカバーは沖縄伝統工芸の「紅型(びんがた)」ですし、LEDライティングも沖縄の海をイメージしたエメラルドグリーンを採用するなど、基本的にはJALと同じサービスながら所々にさりげなく沖縄らしさを出しています。こうしたさりげない独自性はブランドはJAL一色でも完全には染まらず、「沖縄の翼」のアピールを忘れないJTAの意地と誇りを感じることができます。

 

・日本エアコミューター

JALとJASの経営統合でJALグループとなった日本エアコミューター。設立当初は奄美群島のコミューター路線開拓が目的であり、会社の出資比率もJASが60%、鹿児島県や奄美群島の市町村が40%を出資する第三セクターでした。

しかし、大阪発着のYS路線を移管されたあたりから会社の性格はJAS系列のプロペラ機路線担当会社になり、路線も西日本一帯に広がりました。さらにJALグループとなった後は伊丹空港のジェット機乗り入れ制限でボンバルディアダッシュ8-400型が伊丹路線で大量に必要になったこともあって、松本や新潟と言った東日本の空港にまで路線網が拡大。遂には松本~新千歳線就航で鹿児島の第三セクターが北海道路線を運航するという事態になってしまいました。

しかし近年はATR42-600の就航とダッシュ8-400の退役で、本来の設立目的であった、鹿児島の離島路線を中心にしたコミューター航空会社に回帰しつつあります。伊丹空港のジェット規制緩和で無理矢理プロペラ機で飛ばす必要が無くなり、ジェイエアのエンブラエル機で代替できるようになったためです。ATRの1号機と2号機は奄美群島の多くの市町村の花となっているハイビスカスを描いた特別塗装となり、医療設備の少ない離島の特性に配慮してストレッチャーを搭載可能にしたりとローカライズな機体。2016年秋からはJAC独自の機内誌も発行するなど、鹿児島を中心とした地域の翼としての立ち位置を強めています。伊丹~但馬線など鹿児島県に関係のない路線も多少は残りますが、今年の6月からは奄美群島アイランドホッピングルートも開設されるなど、今後のJACは「鹿児島・奄美群島のためのエアライン」としての性格を強めていくのではと思います。

 

・エアドゥ

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元々スカイマークに次ぐ「新規航空会社」の第2号として1998年12月に就航した北海道国際航空ことエアドゥ。当初から北海道の地場企業が中心となって設立し、北海道庁も出資した「北海道の翼」でしたが、スカイマークに比べて脆弱な地盤と航空事業に明るい人材の不足、甘い需要予測と経営計画が災いし2003年に経営破たん。その後はANAを中心とした新たなスポンサーの下で再建しましたが、予約システムはANAのものを使用、全便ANAのコードシェアと、経営的には独立しているものの、事実上のANA傘下の航空会社となりました。

とは言え、エアドゥが現在でも「北海道の翼」である事には変わりありません。現在のエアドゥの路線は全て北海道の空港を発着しており、北海道外で完結する路線はひとつもありません。機内誌も北海道各地を紹介するものですし、サービスに関してもドリンクは日本茶以外は全て北海道に関係したものを用意。機内オーディオも北海道にゆかりのある人物がパーソナリティを務めたり機内販売のビールもサッポロクラシック。ここまで一地域を前面に押し出している航空会社もそうはないのではないでしょうか。航空券販売はANAに依存しても、サービスには北海道色を前面に出してエアドゥらしさを出す。これも一つのローカライズ化の形なのかも知れません。

 

と、ここまで3社を紹介してきましたが、ローカライズ化している航空会社はまだまだあります。ここでいったん区切って、後編では究極のローカライズ航空会社、天草エアラインと関西拠点にローカライズ化したLCC、ピーチをご紹介しましょう。

 

後編へはこちらからどうぞ↓

www.meihokuriku-alps.com

 

 

バリューアライアンスと既存の三大アライアンスとの違い


名航空会社列伝「リゾートに咲いた白く儚い花」究極のリリーフ・バニラエア

 

バニラエア関係でもう一つ補足説明です。動画内で多少触れたものの、詳しい説明は省略したLCC初の航空アライアンス「バリューアライアンス」について、もう少し深く掘り下げます。

 

・バリューアライアンスはスクートとノックエアが中心

バリューアライアンスは2016年5月16日に、アジア太平洋地域のLCC8社が結成した、世界初のLCCの航空連合です(厳密にいえば2016年1月に設立されたU-Flyの方が先なのですが、こちらは設立時の加盟会社が全て海南航空系の会社なので、系列の違う会社が手を組む航空アライアンスとはちょっと違います)。加盟会社は以下の8社です。

 

・セブパシフィック航空(フィリピン・独立系)

・チェジュ航空(韓国・独立系)

・ノックエア(タイ・タイ国際航空系列)

・ノックスクート(タイ・ノックエアとスクートの合弁会社)

・スクート(シンガポール・シンガポール航空系)

・タイガーエア(シンガポール・シンガポール航空系)

※タイガーエアは2017年2月にスクートに統合されブランド消滅

・タイガーエア・オーストラリア(オーストラリア、シンガポール航空系列を経て

 現在はヴァージン・オーストラリア系列)

・バニラエア(日本・ANA系列)

www.vanilla-air.com

 

こうしてみるとLCC初のアライアンスと言っても、8社中5社はスターアライアンス加盟会社が絡んでいるのが分かります。さらに残る3社のうちタイガーエア・オーストラリアは元々はシンガポール航空系列でしかも現親会社のヴァージン・オーストラリアはニュージーランド航空とシンガポール航空が大株主、セブパシフィック航空もタイガーエアとの提携を結んだ過去がありますので、チェジュ航空以外は何らかの形でスターアライアンス系列の会社に関りがあります。さらに言えばバリューアライアンスの元となったのはスクート、ノックエア、ノックスクートの3社の提携関係でしたから、バリューアライアンスはスクートとノックエアが中心となって、そこから親会社同士の関係も使って加盟会社を広げた事が伺えます。

 

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・バリューアライアンスはアジア太平洋のLCC二大巨塔への対抗策

バリューアライアンスが設立された背景には、アジア太平洋地域でのLCC競争激化が大きいのですが、その中でもマレーシアのエアアジアグループとカンタス系列のジェットスターグループが頭一つ抜き出ている現状に対抗するため、という側面が大きいです。

エアアジアグループは本国のマレーシアのほかにタイ、インドネシア、フィリピン、インド、日本(ただしこの時はまだ就航のメドが立たず)に系列会社を持ち、2015年のグループ保有機は171機、路線数221、年間旅客数5070万人を誇ります。

一方のジェットスターは本国のオーストラリアに加えニュージーランド、シンガポール、ベトナム、日本に系列会社を持ち、グループ保有機は122機、路線数180、年間旅客数3400万人。これら二大巨塔の特徴は知名度が高い統一したブランドを持ち、グループ会社間のネットワークでLCCながら乗り継ぎによる長距離移動が可能と言う点にあります。さらに近年ではインドネシアのライオンエアが急速に勢力を拡大しており、タイとマレーシアに系列会社を設立。アジアLCCの王者のエアアジアですらライオンエアの攻勢に苦しめられています。

バリューアライアンスはこれらの巨大LCCグループに対抗するために、中堅規模のLCCが手を組んだものです。中心となったスクートこそタイガーエアとの統合で保有機は40機、路線数62とそれなりの規模にはなりましたが、それでも2大巨塔には遠く及びません。この規模の差を補うために、バニラエアを含めたアジア太平洋地域のLCCに声をかけた、という訳です。

 

 

・アライアンスと言ってもバリューアライアンスは既存のとは別物

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さてこのバリューアライアンス、アライアンスとは言ってもスターアライアンス、ワンワールド、スカイチームと言ったフルサービスキャリア中心の三大アライアンスとは全くの別物です。三大アライアンスは予約システムの接続やコードシェアによる旅客の融通に加え、マイレージの相互利用や共同でのラウンジなどによるサービスの共通化、チェックインカウンターや整備施設の相手先の加盟会社に委託など、その協力関係は多岐にわたっています。

加盟会社には一定水準のサービスとそれなりのネットワーク、経営の安定化が求められ、過去にはブラジルのヴァリグが倒産で国際線の大幅縮小を余儀なくされ、ネットワークとサービス水準が維持できないとしてスターアライアンスを脱退させられた事がありました。アライアンス加盟を希望する会社はそのメリットを享受する代わりに他の加盟会社やアライアンスの評判を落とさないよう、それ相応のサービスとネットワークが求められるのです。

 

これに対してバリューアライアンスが提供するのは、エア・ブラックボックス車が開発したシステムを使って加盟会社間の予約システムをつなぎ、専用予約サイトで最終目的地までの一括予約を可能にしたことと、万が一乗継便に間に合わなかった場合、無償での振り替えを可能にしたことのみ。マイレージサービスがないのはもちろん、整備やグランドハンドリング業務の共通化やコードシェアなど三大アライアンスが当たり前のように行っているような協力関係はなく、「加盟会社間の航空券購入を共通化し、乗り継ぎを容易にした」だけの関係とも言えます。

三大アライアンスに比べると単なる多国間提携程度の関係ですが、それでも乗り遅れの際の無償振替を可能にしただけでもLCCとしては画期的な出来事です。元々LCCは2地点間の移動のみに焦点を当てた路線展開をしており、同じ会社の便の乗り継ぎですら、一旦荷物を受け取った後再度チェックインが必要な場合もあります。ピーチなんかは自社便でも乗り継ぎに関しては自己責任で、自社都合による遅れや欠航以外は振替は一切不可となかなか厳しいもの。それ故に乗り遅れの無償振替はLCCでは思い切った措置であり、LCC間の乗り継ぎのハードルが下がってバリューアライアンス内での利用が活発化すると言う寸法です。

 

・ピーチとの統合後、バリューアライアンスとの関係はどうなる?

そんなバニラエアも、ピーチとの統合で近い将来のブランド消滅が決まってしまいました。ここで気になるのが完全統合後のバリューアライアンスとの関係です。

今の時点では継続、脱退どちらでもないですが、バリューアライアンスの共通サイト自体も4月に立ち上がったばかりのようですし、当面は様子見でどれだけ効果があるかを見極めるのではないかと思います。恐らく来年には最終判断を下すだろうと思いますが、ピーチは東南アジアでの知名度はゼロに近いですから、将来的な中距離路線進出を考えると、個人的にはこのままアライアンスに残ってスクートやノックエアとのパイプを残した方が得策なように思います。いずれにしてもせっかく立ち上げたバリューアライアンス、上手く軌道に乗せてエアアジアやジェットスターに対抗する第三極を作り上げて欲しいですね。