名航空会社列伝「リゾートに咲いた白く儚い花」究極のリリーフ・バニラエア
バニラエア関係でもう一つ補足説明です。動画内で多少触れたものの、詳しい説明は省略したLCC初の航空アライアンス「バリューアライアンス」について、もう少し深く掘り下げます。
- ・バリューアライアンスはスクートとノックエアが中心
- ・バリューアライアンスはアジア太平洋のLCC二大巨塔への対抗策
- ・アライアンスと言ってもバリューアライアンスは既存のとは別物
- ・ピーチとの統合後、バリューアライアンスとの関係はどうなる?
・バリューアライアンスはスクートとノックエアが中心
バリューアライアンスは2016年5月16日に、アジア太平洋地域のLCC8社が結成した、世界初のLCCの航空連合です(厳密にいえば2016年1月に設立されたU-Flyの方が先なのですが、こちらは設立時の加盟会社が全て海南航空系の会社なので、系列の違う会社が手を組む航空アライアンスとはちょっと違います)。加盟会社は以下の8社です。
・セブパシフィック航空(フィリピン・独立系)
・チェジュ航空(韓国・独立系)
・ノックエア(タイ・タイ国際航空系列)
・ノックスクート(タイ・ノックエアとスクートの合弁会社)
・スクート(シンガポール・シンガポール航空系)
・タイガーエア(シンガポール・シンガポール航空系)
※タイガーエアは2017年2月にスクートに統合されブランド消滅
・タイガーエア・オーストラリア(オーストラリア、シンガポール航空系列を経て
現在はヴァージン・オーストラリア系列)
・バニラエア(日本・ANA系列)
こうしてみるとLCC初のアライアンスと言っても、8社中5社はスターアライアンス加盟会社が絡んでいるのが分かります。さらに残る3社のうちタイガーエア・オーストラリアは元々はシンガポール航空系列でしかも現親会社のヴァージン・オーストラリアはニュージーランド航空とシンガポール航空が大株主、セブパシフィック航空もタイガーエアとの提携を結んだ過去がありますので、チェジュ航空以外は何らかの形でスターアライアンス系列の会社に関りがあります。さらに言えばバリューアライアンスの元となったのはスクート、ノックエア、ノックスクートの3社の提携関係でしたから、バリューアライアンスはスクートとノックエアが中心となって、そこから親会社同士の関係も使って加盟会社を広げた事が伺えます。
・バリューアライアンスはアジア太平洋のLCC二大巨塔への対抗策
バリューアライアンスが設立された背景には、アジア太平洋地域でのLCC競争激化が大きいのですが、その中でもマレーシアのエアアジアグループとカンタス系列のジェットスターグループが頭一つ抜き出ている現状に対抗するため、という側面が大きいです。
エアアジアグループは本国のマレーシアのほかにタイ、インドネシア、フィリピン、インド、日本(ただしこの時はまだ就航のメドが立たず)に系列会社を持ち、2015年のグループ保有機は171機、路線数221、年間旅客数5070万人を誇ります。
一方のジェットスターは本国のオーストラリアに加えニュージーランド、シンガポール、ベトナム、日本に系列会社を持ち、グループ保有機は122機、路線数180、年間旅客数3400万人。これら二大巨塔の特徴は知名度が高い統一したブランドを持ち、グループ会社間のネットワークでLCCながら乗り継ぎによる長距離移動が可能と言う点にあります。さらに近年ではインドネシアのライオンエアが急速に勢力を拡大しており、タイとマレーシアに系列会社を設立。アジアLCCの王者のエアアジアですらライオンエアの攻勢に苦しめられています。
バリューアライアンスはこれらの巨大LCCグループに対抗するために、中堅規模のLCCが手を組んだものです。中心となったスクートこそタイガーエアとの統合で保有機は40機、路線数62とそれなりの規模にはなりましたが、それでも2大巨塔には遠く及びません。この規模の差を補うために、バニラエアを含めたアジア太平洋地域のLCCに声をかけた、という訳です。
・アライアンスと言ってもバリューアライアンスは既存のとは別物
さてこのバリューアライアンス、アライアンスとは言ってもスターアライアンス、ワンワールド、スカイチームと言ったフルサービスキャリア中心の三大アライアンスとは全くの別物です。三大アライアンスは予約システムの接続やコードシェアによる旅客の融通に加え、マイレージの相互利用や共同でのラウンジなどによるサービスの共通化、チェックインカウンターや整備施設の相手先の加盟会社に委託など、その協力関係は多岐にわたっています。
加盟会社には一定水準のサービスとそれなりのネットワーク、経営の安定化が求められ、過去にはブラジルのヴァリグが倒産で国際線の大幅縮小を余儀なくされ、ネットワークとサービス水準が維持できないとしてスターアライアンスを脱退させられた事がありました。アライアンス加盟を希望する会社はそのメリットを享受する代わりに他の加盟会社やアライアンスの評判を落とさないよう、それ相応のサービスとネットワークが求められるのです。
これに対してバリューアライアンスが提供するのは、エア・ブラックボックス車が開発したシステムを使って加盟会社間の予約システムをつなぎ、専用予約サイトで最終目的地までの一括予約を可能にしたことと、万が一乗継便に間に合わなかった場合、無償での振り替えを可能にしたことのみ。マイレージサービスがないのはもちろん、整備やグランドハンドリング業務の共通化やコードシェアなど三大アライアンスが当たり前のように行っているような協力関係はなく、「加盟会社間の航空券購入を共通化し、乗り継ぎを容易にした」だけの関係とも言えます。
三大アライアンスに比べると単なる多国間提携程度の関係ですが、それでも乗り遅れの際の無償振替を可能にしただけでもLCCとしては画期的な出来事です。元々LCCは2地点間の移動のみに焦点を当てた路線展開をしており、同じ会社の便の乗り継ぎですら、一旦荷物を受け取った後再度チェックインが必要な場合もあります。ピーチなんかは自社便でも乗り継ぎに関しては自己責任で、自社都合による遅れや欠航以外は振替は一切不可となかなか厳しいもの。それ故に乗り遅れの無償振替はLCCでは思い切った措置であり、LCC間の乗り継ぎのハードルが下がってバリューアライアンス内での利用が活発化すると言う寸法です。
・ピーチとの統合後、バリューアライアンスとの関係はどうなる?
そんなバニラエアも、ピーチとの統合で近い将来のブランド消滅が決まってしまいました。ここで気になるのが完全統合後のバリューアライアンスとの関係です。
今の時点では継続、脱退どちらでもないですが、バリューアライアンスの共通サイト自体も4月に立ち上がったばかりのようですし、当面は様子見でどれだけ効果があるかを見極めるのではないかと思います。恐らく来年には最終判断を下すだろうと思いますが、ピーチは東南アジアでの知名度はゼロに近いですから、将来的な中距離路線進出を考えると、個人的にはこのままアライアンスに残ってスクートやノックエアとのパイプを残した方が得策なように思います。いずれにしてもせっかく立ち上げたバリューアライアンス、上手く軌道に乗せてエアアジアやジェットスターに対抗する第三極を作り上げて欲しいですね。