7月24日にボーイングが発表した2019年第二四半期決算は29億4000万ドルの純損失を計上し、四半期ベースでは3年ぶりの赤字となってしまいました。言うまでもなく原因は737MAXの運航停止問題で、キャンセルや出荷遅れなどに伴う航空会社への補償として49億ドルを計上した事と、ボーイングの受注数の7割、売上高の3割、営業利益の半分近くを稼ぎ出す主力機の出荷停止で売上高が35%減少したのが大きく響きました。幸いなのは軍用部門とサービス部門が好調で利益が伸びている事ですが、それでも737MAXの穴を埋めるには至っていません。
現在、ボーイングは737MAXの生産レートを月産52機から42機に縮小させていますが、運航再開のめどが立たないため、レントン工場やキング郡国際空港の駐機場には納入される見込みのない737MAXや修理待ちの737MAXが大量に置かれ、その数は増える一方。とうとう置き場所が無くなって空港の駐車場に737MAXを置くなど、問題の深刻さは目に見える形になっています。
ボーイングは10-12月期の早い時期にFAA(アメリカ連邦航空局)などの承認を得て運航再開させるという想定で生産や補償の計画を立てていますが、そのFAAの安全審査に時間がかかっており、6月には制御ソフトに新たな潜在リスクが見つかったり、アメリカ議会や各国の航空当局が安全承認に厳しい条件を求めるなど737MAXの運航再開にはまだ時間がかかりそうです。恐らく、ボーイングの想定通りの運航再開は絶望的なのではないでしょうか。
そして、運航停止の影響は737MAXを保有する航空会社にも出て来ました。737MAXを34機保有するサウスウエスト航空は7月25日、ニューアーク・リバティ空港への乗り入れを11月3日から停止すると発表しました。サウスウエストは基本的には一度就航した空港からは撤退せず、例外は空港移転で空港利用料が上がり、低運賃を実現できないとして撤退したデンバーくらいです(その後デンバーには2006年に再就航)が、737MAXの運航停止で2019年4~6月期決算では1億7500万ドル分の利益が押し下げられており、背に腹は代えられなかったようです。近くのラガーディアにも拠点があるため影響は大きくないですが、サウスウエストのポリシーを崩さなければならない程追い詰められたというのは衝撃的です。
24機を保有するアメリカン航空も737MAXの運航停止によって2019年通年で4億ドル分の利益が失われるという試算を出しており、運航停止が長引けばこれらの航空会社は経年機の退役引き延ばしや代替機の調達で凌ぐしかなく、特に737以外の航空機を使用していないサウスウエストの経営への影響は大きくなるでしょう。場合によってはしびれを切らせたサウスウエストがビジネスモデルへの影響を覚悟のうえで737以外(と言うかエアバスA320neo)の航空機の調達に動くかもしれません。世界最大の737ユーザーであるサウスウエストが737MAXを見限れば、ボーイングと737MAXにとっては致命的なダメージになり兼ねず、この点でも早期の運航再開が必須になってきます。
そして737MAXの発注意向を示していた会社がエアバスに鞍替えしたり、長年737を使用してきた航空会社がエアバス機に切り替える動きも多くなってきました。サウジアラビアのLCC、フライアディールは昨年12月にボーイングと結んだ737MAX50機発注の覚書を破棄し、全く同じ内容でエアバスA320neoの発注に切り替えました。親会社のサウジアラビア航空のA320neo大量発注を受けてのものですが、737MAXの運航再開の見通しが立たない事も鞍替えの決め手になったようです。
更に台湾のフラッグキャリア、チャイナエアラインもA321neo25機を導入する覚書をエアバスと取り交わしました。現在チャイナエアラインの単通路機は737-800型19機のみですので、機数的にこの機材の置き換え用と考えるのが自然でしょう。元々大型機はエアバスの割合が大きかったのですが、この発注が実現すればチャイナエアラインは完全にエアバス寄りの会社となる見込みです。
一方でブリティッシュエアウェイズやイベリア航空などを傘下に持つインターナショナル・エアラインズ・グループ(IAG)は6月に737MAXを200機発注する覚書を交わしたと発表しました。現在IAG傘下の航空会社の単通路機はA320シリーズが主力ですが、この時期にあえて737MAXを発注すると発表したのは価格競争を促す狙いがあるようです。ただし、こちらはまだ覚書の段階で正式契約には至っていないので、フライアディール同様途中で破棄される可能性はまだ残っています。
ここ一か月の間、737MAXに関するニュースは良いものがあまりありません。日本ではANAが737MAXの発注を決めたものの、次期主力機を検討しているスカイマークや、いずれ後継機の選定を検討しなければいけないJALやソラシドエアなど、現在737型機を使用している顧客は何社もあります。運航再開が長引けば、そして737MAXの安全性が証明されなければこれらの会社はエアバスに鞍替えするかも知れませんし、実際、スカイマークも佐山会長がツイッターで737MAXの運航再開には時間がかかるとし、度々疑問を呈しています。今後の展開次第ではボーイング優勢な日本市場も一気にひっくり返される可能性すらあり、そう言う意味でもボーイングは危機的状況であると言えます。
2度の墜落事故を起こし、事故後のボーイングの対応も後手後手に回り、運航停止後も不具合や問題の隠ぺいととられかねない事例が出てきたりとネガティブな情報が多すぎた事もあって各国の航空当局の心証を悪化させ、運航再開へのハードルを自ら上げてしまった点もボーイングにとっては不利に動いてしまったのではないかと思います。運航再開が長引けば長引くほどボーイングや運行会社には不利なのですが、だからこそ徹底的に問題点を洗い出して737MAXの安全性を証明する以外に事態打開の道はないと思います。ボーイングには失った信用を取り戻すためにも慎重かつ早急な対応を期待したいですね。
↓日本のボーイング737を紹介した本。これで打ち止めにならない事を祈ります・・・