〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

スペースジェットがダメになったANAの次期リージョナル機は何になる?

三菱スペースジェット(MSJ)の開発中止を受けて様々な記事がネット上で出てきていますが、航空ファンとして気になるのは確定発注していたANAやJALが、今後MSJの代わりにどの飛行機を発注するのか。その気持ち?を代弁してくれるかのように乗りものニュースさんが記事を出してくれました。

 

trafficnews.jp

 

記事内ではJALに関してはエンブラエルE-Jetの改良型であるE2の発注になるのではという趣旨の書き方ですが、私も同じ考えです。シミュレーターの利用や地上業務、コードシェアなどで協力関係にあるFDAもMSJへの関心が薄く、次期機材はE2発注が有力だと思いますので、むしろスペースジェット開発中止になったことで国や三菱に気兼ねすることなく発注を決められるのではないかと思います。

 

 

 

さて、今回の本題はANAの方の次期リージョナル機材。この記事内では候補として737-7、エアバスA220、エンブラエルE-Jet E2、ATR72の4機種を挙げていますが、私は737-7の可能性は低いと思っています。

と言うのも以前もANAはA320や737-400の代替として737-700を45機発注していましたが、小さすぎるという理由で18機で打ち止めとなり、以後は737-800に切り替わったという経緯があります。また、737-700は地方間路線用には大きすぎ、逆に大都市~地方間の路線には小さすぎるという中途半端なキャパシティであり、最大離陸重量が大きい737-7はトン数で決められる着陸料の面で不利というデメリットがあります。737-700がANAで持て余されたこと、既にANAから退役したことも考慮すると、同クラスの737-7では同じ轍を踏む可能性があり、ANAは考えていないのではないでしょうか?

また、ダッシュ8を買い増すというのもあり得ないと思います。現在、ダッシュ8の製造権を持っているデ・ハビランド・カナダは自社工場を持っておらず、建設中の新工場の稼働開始も2025年以降。と言うよりダッシュ8の製造自体も工場閉鎖と新型コロナウイルスの感染拡大による航空需要減退を受けて停止したままであり、発注自体が不可能な状態だからです。ANAの社長も会見で少なくとも2025年以降に新機材が必要という見解を示しているので、稼働開始を待てない状況です。現時点ではいつ生産再開するか分からない飛行機を当てにはできないでしょう。

news.yahoo.co.jp

 

と言うわけでANAの次期リージョナル機材はこの3機種のどれかになると思います。

・エアバスA220

・エンブラエルE-Jet E2

・ATR72

 

先に結論から言ってしまうと、私は「グループ会社やコードシェア先も含めてA220とATR72の両方を導入し、路線特性に応じて使い分ける可能性が高い」と思っています。なぜそう思ったのか、理由は以下の通りです。

 

 

・E2よりもA220の方が導入が比較的スムーズ

A220は元を辿ればボンバルディアが開発したCシリーズであり、開発費高騰とボンバルディアの経営悪化でエアバスに事業ごと売却された経緯があります。ANAはボーイングほどではないものの、1990年のA320導入以来エアバスとは30年以上の付き合いがありますし、ボンバルディアともQ400シリーズで20年近い関係があります。無論、同じエアバスの飛行機とは言え、A320とA220は開発経緯が異なる飛行機でタイプレーティングも別々なので、A320との互換性という意味ではあまりメリットはないのですが、エンジンについては同じPW1100なので、部品共通化の面ではメリットがあります(まあ、これについてはE2も同じエンジンですが・・・)

一方のE2はANAとエンブラエルとの取引はなく、むしろJALやFDAとの関係が深い会社。エンブラエルにしてみれば取引のないANAはもちろん食い込みたい会社でしょうが、ANAにしてみれば全く取引経験の無いエンブラエルは未知の相手(接触くらいはしていると思いますが)。MSJの代替機種は導入にあまり時間をかけられない事を考えると、交渉や導入前の準備や訓練面でも未知な部分の多いエンブラエルよりも既に関係ができているエアバスの方がスムーズと考えてもおかしくないのではと思います。

 

・E-Jetの改良型のE2では目新しさがない

ご存じの通り、E2のベースとなるエンブラエルE-JetはJALが2007年2月に発注を決め、2009年2月からE170を導入して以来、E170型18機、E190型14機の合計32機が導入され、JALグループ地方路線の顔として日本中を飛び回っています。更に2007年9月には静岡空港参入を目指して設立されたフジドリームエアラインズ(FDA)が発注を決め、2009年7月に就航。以来名古屋、松本、丘珠、神戸など就航先を広げ、現在ではE170型3機、E175型13機の合計16機を保有しています。

JALとFDAがまとまった数のE-Jetを飛ばしている現状では「エンブラエル機=JALとFDA」のイメージが強く、仮にANAがE2の発注を先に決めたとしても、新機材導入のインパクトはどうしても薄くなってしまいます。MSJ導入の動機の一つが「国産初のジェット旅客機を世界初就航させることで大きな宣伝効果が得られる」事であること、過去にもボーイング727をJALに先んじてリースで飛ばしたり、787を世界初就航させて世界的にANAの知名度を上げた過去を考えると、MSJの代わりのリージョナルジェットがE2ではインパクトに欠けるのは明らか。それなら日本の航空会社がまだ導入していないA220の方が宣伝効果は高いと考えるのではないでしょうか。

 

・将来のパイロット不足対策

新型コロナの航空需要減退で一時的に落ち着いた感はありますが、世界的にはパイロット不足が慢性化しており、航空需要の急回復でパイロット不足問題は再び表面化してきました。特に日本の場合、バブル期に大量採用されたパイロットが2030年前後に引退の時期を迎えてパイロット不足が深刻化する「2030年問題」が叫ばれていること、世界的にパイロットの取り合いになって引き抜き合戦になり、海外からパイロットを雇うのも難しくなるなど、他国よりもより深刻な状況です。

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上記記事内でも触れていましたが、パイロット不足の処方箋として「機材大型化によって輸送効率を上げる」のは有効な方法と言えます。世界的にはダウンサイジングによる小型化と便数増加がトレンドですし、日本も近年はその方向ですが、機材小型化で便数を増やす=増やした便数分のパイロットを確保する必要があります。国際線や国内幹線では787やA350の就航でそのトレンドになっているように見えますが、逆に小型機では737-800やE190、A321のように同じシリーズの機種でも座席数が多く座席あたりのコストが下がる大型のモデルが好まれるようになっていますし、実際世界的にも売れているのは小型化したモデルよりも大型化したモデルの方です。

2030年問題を考えると、大型化による輸送効率アップを考えるのであればそろそろ対応した機種を考える必要があります。そういう意味ではMSJの代わりの機材はうってつけのタイミングと言えますし、大型化を考えるのであればより大型のA220でも問題ないはずです。特に伊丹空港発着路線は発着枠増加の見込みがないので、A220で大型化してダッシュ8路線の一部を減便し、捻出した発着枠で高需要路線の増発や新規路線開拓を行う余地が生まれるのではないでしょうか?

まあ、ダッシュ8から考えるとE2でも十分大型になるんですけどね。

 

ORCの機材計画や運航計画ともリンクするのでは?

 

ANA単体だけで考えると「ダッシュ8の後継機が100席以上のA220じゃ大きすぎるのでは?E2の方がサイズ的に合ってるんじゃない?」と思われるかも知れません。しかし、近年ANAからの路線移管やコードシェアを拡大しているオリエンタルエアブリッジ(ORC)の機材計画とセットで考えると、また違った見方ができると思います。

ORCの現在の機材はダッシュ8-200型2機と、ANAとの共通事業機となるダッシュ8-400となりますが、ご存じの通り-200型の後継としてATR42型2機を導入する予定であり、既に1機が納入済み。また、ダッシュ8-400は元々MSJに置換えられる予定だったことを考えると、このままORCがANAからの移管路線を続けるのであれば、ダッシュ8-400に代わる機材を用意する必要があります。

 

そこで、一つの仮説を立ててみました。

「A220では大きすぎる路線やプロペラ機でも所要時間の差が出にくい一部の短距離路線をORCに移管し、ORCがATR72を導入して飛ばす」

 

現在、ORCがANAから移管された路線は福岡~対馬・五島福江・宮崎・小松の4路線。更に3月26日からは中部~宮崎・秋田線が移管される予定です。ORCへの経営支援の一環ともとれますが、私はそれ以外にもANAが福岡・中部発着のダッシュ8路線の一部をORCに全部移してプロペラ機の運航から撤退する布石なのでは?と思っています。

と言ってもダッシュ8は現在生産がストップしたままであり、少なくとも今後数年間は新規購入が不可能。また、既にATR42の導入を決めたORCにしてみればダッシュ8との併用を続けるのは整備面やパイロット運用の面で非効率ですし、同型のATRに置換えて効率的な運用にしたい、と思うのは自然なことでしょう。今すぐにはないとしても、ダッシュ8-400の初号機納入から20年近く経つことを考えると、そろそろ次を決める必要があるはず。ANAが言う「2025年以降に代替機が必要」というタイミングを考えると、経年化が進んでいる初期導入機を対象に、今後1~2年以内にORCへのダッシュ8一部路線の完全移管、ATR72導入を先行し、残りの路線は時間をかけてA220に置換え、と言うシナリオが考えられます。

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対象となるのは今移管している路線+中部~松山及び一部九州路線になると思います。IBEXエアラインズとの兼ね合いもありますが、これだけの路線が移管されれば8~10機程度のATR72が必要になると思いますので、かつての日本エアコミューターのようにORCの事業規模が一気に大きくなって全国規模の会社になるかも知れません。

 

ここまでA220推しだったけどE2もやっぱりあり得るかも・・・

と、ここまでA220を推してきたわけですが、ここまで書いておきながら「ANAがA220にする決定的な理由にはならないな」とも思ってしまいました。JALやFDAが既に飛ばしているというのはE2を避ける理由としては弱いですし、A220の方が導入がスムーズと言っても日本全体で見れば国内航空会社の導入実績の無いA220よりも運航実績豊富なエンブラエルの方が許認可申請の面ではスムーズかも知れません。E2だって100席級のモデルもありますからパイロット不足問題に伴う大型化にも十分対応できます。

それに、ここまで殆ど触れてきませんでしたがANAグループの次期リージョナル機の選定にはORCと同じくコードシェア運航を行うIBEXエアラインズの存在も忘れるわけにはいけません。IBEXが使用しているCRJ700も現在は生産終了しており、いずれ後継機の選定を考えなければいけないのはIBEXも同じ。IBEXの路線構成を考えても、70席級のCRJ700から100~130席級のA220への更新は大きすぎると思われますので、IBEXとの共通性を重視するならE2も十分選択肢に入ってきます(流石にIBEXがプロペラのATRに変えるとは思えないので・・・)

最も、IBEXとANAが同型の機種を使用した事はありませんし、資本面では完全に別会社で無理にANAと機材を合わせる必要もないので、ANAはA220、IBEXはE2と分かれる可能性も十分考えられますが・・・

 

 

以上、スペースジェット亡き後のANAの次期リージョナル機について考察してみました。個人的には路線特性に併せてANAウィングスはA220、プロペラ機路線はORCに移管した上でATR72を導入、と言うのが一番すっきりするのではと思います。ただ、A220の部分についてはE2でもいいわけですし、別の一部路線をIBEXに移管してIBEX自体はE2に置換え、と言うシナリオも考えられます。ANAの次期リージョナル機はANAだけでなく、コードシェア先の会社も含めて考える必要があり、場合によってはORCやIBEXを含めたANA地方路線の再編につながる可能性があります。今後の発表に注目したいところですね。

 

 

【4月25日追記】

ANAがスペースジェットの契約を正式に解除したことを受け、Aviation wire様でもANAのスペースジェットの後継機の考察記事が出ました。流石にこっちは専門サイトなだけあってより深い考察ですが、やはり後継機はA220とE2の二択になること、ダッシュ8の後継機も含めて考える必要がある点などは私の考えと同じでした。

www.aviationwire.jp

 

そして本日、三菱航空機が「MSJ資産管理株式会社」に社名変更し、公式サイトも閉鎖したというニュースが報じられました。更にスペースジェットの登録も「航空の用に供さない」として全機登録抹消されてしまいました。これで名実ともにスペースジェットの開発は終了したということになり、今後は機体を含めた残存資産の処分と、契約していた航空会社との契約解除や補償などの協議を行うなどの清算業務が行われることになります。分かっていた事とはいえ、スペースジェット事業の後始末が進むとさみしさを感じてしまいますねえ・・・

www.aviationwire.jp

 

news.yahoo.co.jp