昨年の大晦日に迷航空会社列伝Liteでネパール航空の生贄騒動を滑り込みでアップしました。
ネパール航空の生贄はさておき、ネパール特有の航空事情として「危険な航空会社が多い」「危険な空港が多い」事が挙げられます。エアラインレーティングの最新安全度ランキングでも、最低の1つ星の6社中4社がネパールの航空会社で、動画でも出てきたネパール航空はもちろん、ブッダ・エア、タラ・エア、イエティ航空が堂々(?)ランクイン。特に国を代表するフラッグキャリアで1つ星なのはネパール航空だけなので笑えません。
確かにネパールの航空会社はかなりいい加減なようなので、ある程度は自業自得な部分がありますが、山岳地帯にあるネパールの空港は離着陸の難易度が高く、安全なフライトが望めない空港が多いという難点も抱えているので、全ての責任を航空会社に転嫁するのは酷な気がします。唯一の国際空港であるカトマンズ・トリブバン国際空港は1992年に着陸失敗による墜落事故が2件も発生、1997年に日本の援助でレーダーが取り付けられるまでは有視界飛行で着陸していたという危険な空港でした。今は衛星測位システムなどを使い、離着陸の安全性は向上してはいますが、それでも普通の空港よりは離着陸の難易度が高い空港です。
しかし、最も難易度の高い、と言うか普通ならまず空港として認められないようなデンジャラスな空港があり、それが「世界一危険な空港」と言われるテンジン・ヒラリー空港(旧ルクラ空港)です。標高2840m、山肌にへばりつくように建物が建つルクラの町はヒマラヤ山脈へ向かう観光客の到着地であり、登山客のベース基地にもなる町ですが、車道の整備ができず、陸路での移動は困難です。月刊エアライン2009年12月号で航空写真家のチャーリィ古庄さんがこの空港を訪れた時の記事を書いているのですが、万が一悪天候で飛行機が飛ばない時の戻り方を旅行会社に聞いたら
「近くの村まで数日かけて歩き、そこからカトマンズまで車で10時間」と言われたそうで・・・
このため、ルクラへの移動はもっぱら飛行機となり、ネパール航空やタラ・エア(イエティ航空の子会社)など複数の航空会社が頻繁に飛行機を飛ばしていますが、
滑走路の長さはたった500mでしかも斜面。
滑走路の先は片や谷底、片や絶壁。
という空港として認可していいのかと思えるレベルのデンジャラスエアポート。ダッシュ8クラスのプロペラ機の離発着に必要なのが1200m、伊豆諸島に向かうドルニエ228が発着する調布飛行場ですら800mですから、この空港の滑走路がいかに短くて危険かが良く分かると思います。実際、この空港では何度も墜落事故が起こっていますし、悪天候だと何日も飛行機が飛ばないことも珍しくありません。それでも車での移動が不可能な以上、ルクラの町は飛行機が重要なライフラインになりますから、危険と分かっていても運航停止にするわけには行かないのです。
更にネパールにはもう一つ、ジョムソン空港もという、テンジン・ヒラリー空港と大して条件が変わらない危険な空港が存在します。元々満足に空港を整備するだけの資金がない上に、経路上でも立地条件でも条件が厳しく安全な空港を作るのは困難、それでも航空機に頼らざるを得ないネパールの航空事情は、「安全に飛ばしたくても飛ばせない」と言う特殊な事情があります。この辺はいい加減なタイやインドネシアの一部の航空会社とは違う事情があることを考慮しておきたいものです。
↓この記事でも取り上げたチャーリィ古庄さんの著書ですが、テンジン・ヒラリー空港を含む世界中のトンデモ空港を紹介しています。フィクションのような空港ばかりですが全て実話です。