〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

FDAの仙台~出雲線は地方間路線拡大のきっかけになるか

以前から就航の話があったFDAの仙台~出雲線ですが、就航が本決まりになったようです。

 

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12月の発表では仙台~出雲に加え、静岡~出雲線の開設も発表されていましたが、今回は静岡~出雲線には触れられませんでした。しかし、仙台~出雲線と静岡~出雲線は今後の航空業界の動向を左右するかもしれない大きなターニングポイントになる可能性があると私は見ています。

 

・日本の空にも地方都市同士を結ぶ路線が飛びまくっていた時代があった

今の日本の国内線は東京発着路線(羽田・成田)が一番ボリュームが大きく、次いで大阪発(伊丹・関空・神戸)の路線がこれに続き、その後に名古屋、札幌、福岡、那覇発の路線がこれに続くという感じです。言い換えれば国内線の大半はこれら六大都市を発着する路線が大半であり、それ以外の地方都市同士を結ぶ航空路線は鹿児島や長崎、沖縄などの離島路線を除けばほとんどありません。

小規模な地方路線同士を結ぶ路線はもちろん、例えば広島~小松とか鹿児島~仙台とかの政令指定都市クラスの空港を発着する地方路線もほとんどない状態で、これらの都市へは大抵の路線が発着する羽田や伊丹を経由して向かうのが一般的です。航空会社側も乗り継ぎを意識した割引運賃を設定していますし、採算が取れるかどうか怪しい地方間路線を開拓するより乗継便に乗ってもらった方が効率的。要はアメリカなどで一般的なハブアンドスポークシステムに近い形になっているのです。

 

しかし、昔から乗継便志向だったのかと言うとそうでもなく、地方間路線が積極的に開拓されていた時代がありました。1990年代の日本の航空業界は45/47体制後の大手三社の参入合戦が一段落し、日本エアコミューターや中日本エアラインサービス、ジェイエアといったコミューター航空会社が軌道に乗り始めた頃。羽田や伊丹の発着枠が満杯で路線の開設や増便の余地が無くなった各社は90年代半ば頃から地方間路線の拡充に力を入れ始めます。最初のうちは札幌線や福岡線など比較的大規模な空港と地方空港を結ぶ路線が主流でしたが、それも一巡すると今度は地方空港間の路線を就航させるようになります。と言うよりもう国内線ではそのくらいしか路線拡大の余地がなかったからとも言えますが、とにかく90年代半ばから2000年ころにかけては今では考えられないような路線がゴロゴロ飛んでいました。

 

例えばジェイエア。当時はCRJ就航前で機材は19人乗りのBaeジェットストリーム31のみ、今は廃止された広島西空港が拠点だったこともありますが、広島西~鳥取、南紀白浜や小松~出雲といった「いったい誰がこんなの使うんだ?」と思う路線を多く飛ばしていました。また、日本エアコミューターも松山~松本や小松~高松と言った謎路線を飛ばしていたり、中日本エアラインサービスも季節運航でしたが富山~長崎、富山~広島西を飛ばして盛大に失敗しています(特に富山~広島西線は乗客ゼロで運休と言う珍記録を出してます)

そして大手三社もかなりやらかしてます。JASは松本~広島線をMD-87で就航と言う暴挙に出ましたが、わずか2年で撤退。ANAも青森~仙台線や青森~広島線を就航させており、しかも青森~仙台は新幹線との対抗上、1日3便で運航していた時期もありました。当然これも長続きせず数年で撤退。JALも福島~帯広をワイドボディ機の767で運航するなど、今飛ばそうとすれば喜ばれる前に採算性や短期撤退を疑われる路線ばかりです。

 

・・・この話、ほじくり返すとキリがないので本題に戻しますが、結局90年代に一気に広がった地方間路線は9.11後の航空不況やJALとANAの合理化、地方間路線の採算性の悪さなどで2000年代前半で一気に縮小し、以後は地方間路線に手を出す会社はなくなりました。

 

・今回のFDAの新路線は地方間路線とFDAの将来像を占う路線になる

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が、ここに来てのFDAの地方間路線開設のニュース。「とうとうFDAもトチ狂ったか?」と思う方もいるかも知れませんが、FDAは元々静岡空港という地方空港発の路線から出発した会社。JALが撤退した松本や小牧発着の路線を引き継いだり、ANAが撤退しようとしていた新潟~福岡線に参入したり(結局ANAも撤退を辞めましたが)するなど地方路線を経営の基盤にし、発展してきたという経緯があります。さらに地方発のチャーター路線も積極的に運航していますから、地方路線運航のノウハウを豊富に持ち、過去のチャーター便実績のデータを持つFDAなら過去の地方間路線ブームのようにろくな需要予測もなく釣り糸を垂れるような真似はしないと思います。参入するからには十分採算が取れると踏んでの事でしょう。

とは言え、今までのFDAの路線の大半は自力で開拓したというよりは、JALグループの撤退路線の引継ぎや、過去にJALグループが運航していた路線の再就航ですので、今回の仙台・静岡~出雲線は久しぶりにFDA自身が切り開き、開拓していく路線となります。と同時にFDAの真価が問われる路線と言っても過言ではありません。

 

この路線が軌道に乗れば「地方間路線でもやりようによっては採算性がある」との認識が広まり、地方間路線の開拓が進むきっかけになるかも知れません。FDAにとってもこの路線が成功すれば路線網を一気に広げ、「リージョナル航空会社の覇者」として航空業界に君臨するかも知れません。地方間路線が増えればそれだけ小型ジェット機の需要が増える要因にもなりますし、MRJにとっても追い風になるでしょう。

しかし、逆に言えばこの路線が盛大にコケれば「やっぱり地方間路線は儲からない」となり、地方間路線に手を出す会社は現れないでしょう。羽田や伊丹などの大都市中心のネットワークが続くことになると思います。無論、この路線が失敗したからと言ってFDAの経営が揺らぐという事はないと思いますが、地方空港活性化の為にも、FDAには是非仙台~出雲線を成功させて、地方間路線開拓のパイオニアになって欲しいと思います。