〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ボーイングとエンブラエルが事実上統合へ。MRJかなりヤバい。

オウム真理教事件の犯人の死刑執行のニュースや「数十年に一度」と言われる大雨で日本列島が揺れる陰で、航空機メーカーの大型再編のニュースが飛び込んできました。

アメリカのボーイングとブラジルのエンブラエルとの合弁会社設立のニュースです。合弁会社と言っても実際はエンブラエルのリージョナル機「Eシリーズ」のボーイングの買収であり、昨年のエアバスのボンバルディア「Cシリーズ」事業の合弁会社設立に続き、事実上、リージョナル機も含めた旅客機市場はほぼボーイングとエアバスに二分されます。

今の段階では覚書を交わしただけの暫定合意であり、正式合意までには数か月かかりますが、かねてより囁かれていたボーイングとエンブラエルの統合話が表沙汰になったという事は、ある程度実現の見通しが立ったという事でしょう。後は自国を代表する企業であるエンブラエルを手放す決定をブラジル政府ができるか、各国の公取委、特にEUの公取委がこの合弁を認めるかにかかっています。この辺で決定が覆る可能性もまだありますが、航空業界に大きな影響を与える話であるのは間違いありません。

 

ボーイングとエンブラエル、民間機の合弁会社設立へ MRJさらなる苦戦も

 

 そして、この再編で三菱重工のMRJ計画はより苦しいものとなった、と言わざるを得ません。以前より開発計画の遅れに伴う納入遅れで販売セールスに苦戦していたMRJですが、カスタマーサポートに対する支援契約を結んでいたボーイングが競合のエンブラエルと手を組んだことで、その立ち位置はかなり微妙なものとなってしまいました。

現段階ではボーイングとのサポート契約が打ち切られることはないとされていますが、ボーイングに取ってはまだ納入も始まっていないMRJよりも既に実績があり、世界中に顧客を抱えているエンブラエルの方が提携相手としては遥かに魅力的。同じような旅客機を扱うメーカー2社を同時に支援するのは、長い目で見ればボーイングやエンブラエルの株主から利益相反行為と言われかねませんので、いずれどちらか片方を選ぶよう迫られる時が来るかも知れません。そうなった場合、ボーイングが切るのは間違いなくMRJの方でしょうし、MRJ購入を検討している航空会社もボーイングの支援打ち切りリスクを考えて発注を躊躇するかもしれません。ただでさえ苦戦しているMRJに取って「とどめの一撃」になりかねない状況です。


www.nikkei.com

 

では今後、MRJはどうなるのでしょうか。三菱航空機は元々後発の会社なので、エンブラエルやボンバルディアに比べると知名度も販売網もノウハウもカスタマーサポートも格下です。航空機ビジネスは安全性に非常にシビアな分、案外保守的な所があり、実績のないメーカーの飛行機よりも実績があり、信頼性の高いメーカーや機種を選ぶ傾向にありますので、この点ではエンブラエルの方に大きなアドバンテージがあります。この差を埋めるためにボーイングの支援が必要不可欠だったわけですが、エンブラエルの民間機部門買収でその戦略にも大きな暗雲が立ち込めています。

さらにMRJが開発遅延で手間取っている間にライバルのエンブラエルE2シリーズが完成してしまい、航空会社への引き渡しも始まってしまいました。開発当初はMRJの方が先行していたのですが、そのアドバンテージも開発遅延で結果的には食い潰してしまってます。正直、航空会社に対するセールスポイントが消えてしまった今のMRJの今後のセールスは厳しいと言わざるを得ません。

更にMRJの開発費も当初の3倍以上の6000億円に膨れ上がり、採算ラインも当初の400機から1000機以上に上がってしまってます。三菱航空機も債務超過になって親会社の三菱重工が支援に乗り出しましたが、その重工も業績はいいとは言えず、下手したら共倒れになりかねません。かと言ってここまで資金をつぎ込んでしまった以上、今更撤退の選択肢はあり得ないでしょう。

 

セールス面でも資金面でも八方塞りになってしまっているのがMRJの現実ですが、かと言って劇的な改善策もないので、今まで通り一日でも早く完成させてローンチカスタマーのANAに納入し、運航実績を積み上げて信頼性を高めるしか打開策はないと思います。

そうでなければCシリーズやエンブラエル同様、MRJ事業自体をボーイングかエアバスのどちらかに売るしかありません。その場合、売却先は70〜90席級のラインナップがないエアバスしかないと思いますが(ボンバルディアにもCRJシリーズがありますが、基本設計が古いですし、事実エアバスもCRJ事業は買っていません)、長年三菱重工はボーイングの製造分担を担当して来た経緯がありますから、MRJ事業をライバルメーカーに売却してボーイングとの関係を悪化させるような事は考えにくいです。

 

考えれば考える程好材料がないMRJですが、地道に進めるしかないと思います。今月にはファーンボロ航空ショーでMRJの飛行展示が行われる予定ですので、何とかここで性能をアピールして、新規受注に繋げて欲しいですね。

 

 

 

数字から見たアジアの最強ハブ空港

最近ブログも動画の更新も滞り気味ですみません。6月は仕事が繁忙期でなかなか時間が取れませんでした。7月はある程度緩くなると思うんで頑張ります・・・

そんな中でアップした東海道交通戦争、今回は羽田空港の国際化を中心に取り上げました。


東海道交通戦争・最終章④羽田国際化で変わる日本の空

 

動画内ではアジアのハブ空港争いに出遅れた日本が、羽田空港の再国際化で巻き返しを図る、という書き方をしましたが、実際、アジア地域は巨大なハブ空港の建設が相次ぎ、人を呼び込むためのし烈な争いをしています。単に空港を作るだけでなく、各国の航空会社によるネットワーク構築による乗り継ぎ客争奪戦や、各空港のサービス競争にも発展しており、この競争がアジア地域のハブ空港の地位を押し上げる原動力になっているようです。

実際、スカイトラックスの2018年の最新空港ランキングではベスト10のうちアジアの空港は羽田と中部を含む5空港がランクインしています(ちなみに北米は一番上でバンクーバーの14位、アメリカのトップはデンバー空港の29位だそうで・・・)
www.bloomberg.co.jp

 

このランキングでは1位がシンガポールのチャンギ、2位が韓国の仁川、3位が羽田、4位が香港、7位が中部となっていますが、このランキングはあくまでも空港の設備やサービス面、乗り継ぎのしやすさなどを総合的に評価したランキング。利用者数や飛行機の発着回数、路線数と言った、空港の実力を表すランキングではありません(第一、お世辞にもハブ空港と言える規模でない中部がランクインしてる時点で(ry)

カタール航空で人気の世界都市へお出かけください。

 

では、実際のところ、アジア最大のハブ空港はどこになるのでしょうか。利用者数や発着回数などの比較しやすい数字で見ていきましょう。

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・利用者数

空港の利用者数は規模を示すには一番の指標。単純に利用者の多い空港=需要の多い空港と言えます。

で、下の記事にある「世界で最も忙しい空港ランキング」要は世界で乗降客数が多いランキングとも言えますが、世界一多いのはアメリカのアトランタ・ハーツフィールド・ジャクソン空港の約1億309万人。2位は北京首都空港、3位はドバイ国際空港、4位に東京の羽田空港がランクインしています。

では、アジア地域に限定したランキングを見て見ましょうか。

1位(全体2位) 北京・首都国際空港 約9580万人

2位(全体4位) 東京・羽田空港   約8540万人

3位(全体8位) 香港国際空港    約7270万人

4位(全体9位) 上海・浦東国際空港 約7000万人

5位(全体13位) 広州・白雲国際空港 約6590万人

6位(全体16位) デリー・インディラガンジー空港 約6350万人

7位(全体17位) ジャカルタ・スカルノハッタ空港 約6300万人

8位(全体18位) シンガポール・チャンギ国際空港 約6220万人

9位(全体19位) ソウル・仁川国際空港 約6220万人

www.bloomberg.co.jp

 

やはり人口の多い中国の空港が上位を占めていますね。日本の空港でランクインしているのは羽田だけで、成田はトップ20位の圏外。関空や中部はお呼びじゃありません。

とは言え、大抵の空港は国内線と国際線を合わせた乗客数ですので、単純に国際ハブ空港としての乗り継ぎ客数を示す数値でないことには留意するべきでしょう。そんな中でも国際線しかなく、人口的にも大きくない香港とシンガポールが上位を占めているのは素直に凄いです。この2空港は早い時期から乗継客を重視した空港運営を行っていますので、さすがはハブ空港の元祖というべきでしょうか。

 

・発着回数

発着回数が多いという事は、それだけ乗り継げる路線が多く、ハブ空港たりえるという事。こちらは少し古い2015年のデータになりますが、国際空港評議会(ACI)の発着回数ランキングを参考にしました。ちなみに世界一位はまたしてもアトランタの88万2497回。二位はシカゴ・オヘア空港の87万5136回、三位がダラス・フォートワース空港の68万1299回、四位がロサンゼルス国際空港の65万5564回とアメリカの空港が上位4位までランクインしています。上位30空港で見てもアメリカの空港は半数以上の16空港がランクインしていますから、改めてアメリカの航空業界の巨大さが分かるのではないでしょうか。

factboxglobal.com

 

それでは、アジアの空港に絞ったランキングを見ていきましょう。

1位(全体5位) 北京首都空港  59万169回

2位(全体15位) 上海虹橋空港 44万8213回

3位(全体18位) 羽田空港   43万8542回

4位(全体22位)香港国際空港  41万6900回

5位(全体26位)広州白雲空港  40万9674回

6位(全体30位)ジャカルタ空港   38万129回

 

うーん、さっきの旅客数ランキングに比べるとちょっと寂しいですね。シンガポールのチャンギや仁川がランク外になったのは意外です。旅客数3位のドバイも発着回数になると27位とかなり下になってしまいます。

発着数ランキングになると「大型機で大量に旅客をさばく空港」よりも「小型機でより多く本数を飛ばす空港」の方が有利になってくるので、大型機の比率の高いアジアの空港はランキングを落とす傾向にあるのかも知れません。

しかしそんな中でも国際線しかないのに発着回数の多い香港には驚きました。恐らく中国本土への利用が多く、便数も多く出ている分、チャンギよりも旅客数や発着回数を稼いでいるのでしょうか。

 

・貨物取扱量

ハブ空港は何も旅客だけではありません。元々ハブアンドスポークシステムは旅客ではなく物流システムのひとつとして生み出されており、最初に航空業界でハブアンドスポークシステムを生み出したのは貨物会社のフェデックスです。アジアのハブ空港争いは航空貨物を巡る争いとも言えます。

貨物取扱量ランキングは先ほどの発着枠ランキングと同じところを参考にしました。今度は前置きなしでアジアのランキングを見て見ましょう。

factboxglobal.com

 

1位(全体1位) 香港国際空港       442万2227トン

2位(全体3位) 上海浦東空港       327万3732トン

3位(全体5位) 仁川国際空港       259万5674トン

4位(全体8位) 成田国際空港       212万2134トン

5位(全体10位) 台湾桃園空港       202万5291トン

6位(全体13位)北京首都空港       188万9830トン

7位(全体14位)シンガポールチャンギ空港 188万6880トン

8位(全体19位)広州白雲空港       153万7759トン

9位(全体22位)バンコクスワンナプーム空港  123万563トン

10位(全体23位)羽田空港         117万3961トン

11位(全体24位)深圳奉安空港       101万3691トン

12位(全体29位)インディラ・ガンジー空港   77万3896トン 

 

貨物に関しては他のランキングよりもアジアの空港が多くランクインしています。ここでようやく成田もランキングに顔を出して来た他、台湾やバンコクなどの他のアジアの巨大空港もランクインしています。ひときわ際立つのは香港。全体でも一位な上にアジア2位の上海を100万トン以上も引き離しています。世界的に見てもフェデックス最大のハブであるメンフィスをわずかに上回る第一位。香港半端ないって!

 

・で、数字から見たアジア最強のハブ空港は?

利用者数や発着回数と言う面から見れば、北京首都空港が最強と言えるかもしれません。しかし、北京は人口の多い中国の首都ですから旅客数が多いのはある意味当然と言えますし、利用者の大半は国内線利用です。さらには中国の法律で国際線同士の乗継であっても中国への出入国が義務付けられており、この点でもハブ空港の定義を考えると北京はハブ空港と言えるかどうかは疑問の余地が残ります。

 

下のURLは国土交通省の資料ですが、世界の主要空港の就航都市数を見ても北京は97都市と他の空港と比べても見劣りしてしまいます(その点については日本も同じですが・・・)貨物量と言う面でも他の空港よりも少なく、北京を「アジア最強」とするのは少々ためらいます。

http://www.mlit.go.jp/common/001011127.pdf#search=%27%E7%A9%BA%E6%B8%AF+%E5%B0%B1%E8%88%AA%E9%83%BD%E5%B8%82%E6%95%B0%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%27

 

では、数字の面から見たアジア最強のハブ空港はどこか。個人的には総合的なデータを見る限りでは香港・チェクラプコク国際空港が最強なのではないかと思います。

貨物取扱量は文句なしのアジア1位、利用者数こそアジア3位ですが、国内線主体の北京や成田に対し国際線だけでこの旅客数ですから、国際空港としてはかなりの大規模空港と言えます。さらに発着回数の面でも羽田に匹敵する規模ですし、国際線旅客数に限ればアジア最大と言ってもいいでしょう。

元々香港は中継貿易として栄えた地域であり、現在でも貿易や金融が経済の中心ですので、人や物の往来の手段としてハブ空港は必要不可欠な存在であり、香港の生命線ともいえる施設。それゆえこれだけ強大になったのも納得ですし、昔から大きな影響力を持っているのも当然と言えます。

とは言え、シンガポールや仁川などの他のハブ空港が劣っているという訳ではなく、これらの総合的な力は互角と言えます。そう考えると日本の航空行政の出遅れ感を改めて感じてしまいますね・・・

 

↓データ的なものではないですが、世界の主要空港や旅客ターミナルなどを紹介した本です。私も買いましたがこれ見てるだけでも海外に行った気になれるのでお勧め。

 

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世論を味方につけた両備と敵に回したJR九州の差

当ブログで何度も取り上げている両備グループの問題。先日、岡山市の地域交通の在り方を示す「地域公共交通網形成計画」策定に向けた法定協議会の初会合が開かれました。

headlines.yahoo.co.jp

予想通りバス事業者間にも温度差はありますが、今後の公共交通の在り方を考える協議会の設置にこぎつけたのは両備グループの運動の大きな成果と言えます。慢性的な利用者減少に加え、バス運転手の不足で路線の維持が困難になり、路線休止になるケースも出始めており、地方の公共交通問題は待ったなしの状態。各事業者の思惑はあると思いますが、是非議論を深めて今後のモデルケースとなるような解決策を見出して欲しいと思います。

www.sanyonews.jp

 

一方、今年3月のダイヤ改正で大規模な減便に踏み切ったJR九州ですが、改正後も余波は続いており、5月には九州各県からダイヤの見直しの要望が出され、JR九州は7月14日の久大本線の復旧に合わせてダイヤの一部修正や列車の増結を行う方針を示しました。路線の復旧時に合わせてとは言え、ダイヤの修正に応じざるを得なかったのは、減便で通学に支障が出たという声が無視できないくらい多かったという事でしょう。

mainichi.jp

 

昨年12月の減量ダイヤの発表以降、九州各県では利便性低下による客離れや通勤、通学への悪影響を懸念する声が多く、沿線自治体も猛反発しましたが、結局は一部の修正には応じたものの、基本的には当初の内容通りの減便となりました。

toyokeizai.net

www.nishinippon.co.jp

 

両備グループの訴えもJR九州の減便も、根本にあるのは慢性的な利用者減少と交通事業の採算性悪化であり、このままでは路線の維持ができないという危機感から起こした行動です。しかもJR九州は減便だけなのに対し、両備は大規模な路線廃止(のちに撤回)とストと、両備の方がより深刻で利用者への影響が大きいもの。おまけに両備の場合はドル箱路線への参入認可に対する反対という、見方によっては参入妨害で世論の反発を招きかねない案件です。にも拘らず両備グループは支持する人が多かったのに対しJR九州は大きな反発を招きました。この違いは一体何なのでしょうか。

 

  

1.今まで積み上げてきた実績と印象の差

両備グループと言うと和歌山電鉄設立による南海貴志川線の引き受けを始め、三重県の津エアポートラインの設立や、経営不振に陥った中国バスの再建、最近では破産した井笠鉄道バスの事業引き受けなど、地盤である岡山県以外でも公共交通の引き受けに積極的な事で有名です。

特に和歌山電鉄の再建は動物駅長の元祖ともいえる「たま駅長」の起用や「いちご電車」「おもちゃ電車」など列車そのものに魅力を持たせるなどして沿線の魅力を高めて乗客を増やし「地方ローカル線再生のモデルケース」として度々メディアにも取り上げられるほど。グループ代表である小嶋光信氏も「地方公共交通の再生請負人」としてその名を知られており、公共交通を地域社会をつなぐ「血管」ととらえ、社会的弱者の為にも公共交通の維持が必要と言う信念の持ち主です。

公共交通の維持に人一倍努力し、再生を成し遂げてきた両備グループだったからこそ、突然の廃止申請にも「あの両備がこれほど大規模なバス路線の廃止をするからには何か理由があるはず」と両備の訴えに耳を傾け、理由を知って支持したのではないでしょうか。

 

一方のJR九州も民営化後早い時期から水戸岡鋭治氏デザインの鉄道車両を次々と投入し、早くから観光列車に力を入れたり、九州新幹線開業時には新幹線からの乗り継ぎ客をターゲットにした観光特急を多数設定するなど、鉄道の魅力を高め、興味を持ってもらうための積極的な投資を次々と行っていきました。

しかし近年は九州新幹線の全線開通やクルーズトレインの「ななつ星」、関連事業の好調などで景気のいいニュースが続き、極め付けは2016年のJR三島会社初の東証1部上場。これらの明るいニュースが度々報じられると「JR九州は儲かっている」と思ってしまうのではないでしょうか。

そんな景気のいい話が続いた後の突然の大規模減便のニュース。対象となった路線の自治体や利用者にしてみれば「あれだけ景気のいい話をしておいて減便とは何だ!」と、JR九州に不信感を抱いて反感を買うのも仕方のない事ではないでしょうか。

 

2.上場企業と非上場企業の差

2016年に東証一部に上場し、完全民営化を果たしたJR九州ですが、上場企業ともなれば不特定多数の株主を抱えることになり、また株価の維持や上昇の為、配当を出すことが求められます。株主サイドも会社がいい加減な経営をして倒産したら自分の資産が紙くずになるわけですから、自然と赤字事業に対する目は厳しくなります。JRに取って株式公開や完全民営化は国の監視下から解放され、自由な経営が可能になるメリットがありますが、一方で株主の監視を受け、利益の一部を配当として還元する義務を負う事になります。

JR九州も上場に伴い鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全株式を放出し、完全民営化を果たしました。2018年3月期のJR九州の決算は売上高約4133.7億円に対し、営業利益639.6億円、当期純利益504.1億円。数字だけを見ればかなり優秀ではありますが、これは上場前に経営安定化基金を取り崩し、鉄道資産の減損処理を行って減価償却費負担が減ったため。今でこそ鉄道事業は黒字ですが、減損処理前はギリギリ赤字であり、今の鉄道事業の利益は経営安定化基金取り崩しで過去の負債を一掃して出した利益とも言えます。

今後は税制優遇措置の終了や鉄道事業の減価償却費の増加で減益が見込まれ、地方ローカル線の赤字と長期低落傾向で内部補助が困難になる可能性も出て来ます。そうなれば株主、特に地方の実情を知らない外国人株主から減益の元凶である赤字ローカル線対策を求められるのは必至。遅かれ早かれこうなる可能性はあったと思いますが、一方で決算上は十分な利益を上げているのもまた事実であり、本来であればネットワークの維持の為に拠出された経営安定化基金を償却して出した利益ですから、沿線自治体は釈然としないのではと思います。

 

一方の両備グループは現在も非上場であり、創業一族の松田家が現在でも経営の中枢にいます(小嶋氏は松田家出身ではありませんが、いわゆる娘婿なので松田家の一員です)。同族企業というとどうしても会社の私物化やワンマン経営というイメージを持ってしまいますが、外部の意見に左右されず、長期的な視野に立った経営ができるというメリットがあります。要はオーナー一族がしっかりした考えや長期的なビジョンを持った優秀な人物であれば問題はなく、むしろ会社はいい方向に回りますので、同族企業は良くも悪くもオーナー一族の質に左右されます。

両備グループの場合は代表も小嶋氏自身が公共交通に対する確固たる信念を持っており、他の役員も特に反対もせず協力した事を考えると考えは小嶋氏と同じでしょう。組合のストもある意味経営陣の理念に賛同した行動とも言えます。もし両備グループが上場企業だったら株主の反発を恐れてこれまでの行動はとれなかったでしょうし、それ以前に赤字の会社の引き受けは不可能だったと思います。非上場の同族企業であったがゆえに、信念に基づいて思い切った策が打てたのではないかと思います。

3.大義名分と事前準備の差

両備グループがバス路線の大規模廃止を発表した時、その理由を「めぐりん益野線参入により2億8000万円の減収が見込まれ、内部補助ができなくなる」と、路線バス事業の窮状を訴えるものであり、あえて問題提起として赤字路線の廃止を発表した、としています。異例な発表ではありましたが、「地方の公共交通の持続性」「数少ない黒字路線への参入というクリームスキミング」「ネットワークの維持が困難になる地方交通の将来」という、地方交通の問題点を問うという大義名分を前面に押し出しており、決して自分たちが得をするための廃止ではないという点が世論の共感を得たのではないかと思います。

これまでの両備グループの公共交通に対する取り組みもこの主張に説得力を持たせており、その後の廃止届の撤回や組合のスト通告→集改札ストに変更などの手並みも鮮やかでした。恐らく、めぐりん益野線参入が表面化したあたりから、両備グループ内である程度世論に訴えるための戦術を練っていたのだと思います。一見すると衝撃的な発表で世間の注目を集め、ある程度の成果を得たらすぐに引っ込めて迷惑をかけたことを詫びる。場当たり的な対応では法定協議会設置までは持ち込めなかったと思いますし、世論の共感も得られなかったと思います。

 

一方のJR九州。発表が突然だったことや、既に決定事項として発表した事はマズかったと思います。減便をするにしても発表前に影響のある自治体に説明をする、利用率調査をしてその結果を公表し、利用者が少なく減便するしかないという事を利用者に訴える、路線ごとの利用者数や収支を公表して窮状を訴えるなど、世論の理解を得る努力や根回し、判断に必要なデータを公表するなどの事前準備をしてから減便に踏み切るべきでした。景気のいいニュースや好調な決算発表が発表された後でいきなり「ローカル線の維持が苦しいから減便します、ご理解ください」と言われても納得する人なんていないでしょう。

今更「他の事業で黒字を出してるんだから内部補助をしろ」とは言えないにしても、そもそもJR九州は九州地方の国鉄路線を継承し、九州の公共交通を維持、発展するために作られた会社ですから、その責務を考えると今回の減便発表は少々乱暴であったと思います。減便が路線維持の為にやむを得ないものであったとしても、事前の説明や世論への喚起は必要でした。

www.jrkyushu.co.j

JR九州も反発の声に流石にまずいと感じたのか、ダイヤ改正日に「高速道路の延伸などによる他の交通機関との競争激化や人口減少、少子高齢化で今後も厳しい状況が予想されるので、今回のダイヤ改正で列車本数や運転区間の見直しを行う事にしました」との意見広告を出しましたが、遅きに失した感があります。

この意見広告を減便発表前に出して窮状を訴え、沿線自治体に協力を呼びかけた方が理解を得られたかも知れませんし、話し合いの場を設けて双方の妥協点を見いだせたかも知れません。窮状を知って危機感を持った自治体が路線維持の為、支援に乗り出した可能性もあります(まあ、JR北海道みたいに窮状を訴えても沿線自治体が全然理解してくれず、口は出してもカネは出さないというケースもあるわけですが)残念ながら減便ありきのJR九州の発表は、沿線自治体や利用者との間に溝を作り、公共交通の在り方を議論する機会や路線活性化に向けた自治体の支援を得るチャンスを失ってしまったのではないかと思います。

 

まとめ

両備グループの問題もJR九州の問題も根っこにあるのは今のままでは公共交通の維持が困難であるという危機感であり、一事業者だけに交通ネットワークの維持・責任を丸投げしていればいい時代ではなく、行政や利用者も問題意識を持つ必要があるという点では同じです。しかし、問題提起の仕方やアプローチの仕方は対象的であり、用意周到に行動を起こした両備と事前の準備や根回しを行わなかったJR九州の差がその後の世論形成に決定的な差を生んでしまったなと思います。

もちろん、両備のやり方に反発を覚えた人も少なからずいたと思いますし、JR九州に理解を示す人も多いと思いますので、私の考えが全てだというつもりは毛頭ありません。しかし、地方交通の問題は両備やJR九州だけでなく、日本全体の問題でもありますので、そろそろ国民的な議論が必要な時期なのではないかと思います。

一事業者の内部補助で赤字路線を維持するのは厳しくなってきてますし、本来であれば黒字路線の利益は黒字路線の利用者や事業者に還元されるべき利益ですので、内部補助は根本的な問題の解決にはなりません。

赤字ローカル線を維持するにしても、黒字化とまでは行かなくても行政の支援が可能な範囲内に収める必要がありますし、行き過ぎた内部補助や公的支援は事業者や利用者のモラルハザードや危機感の希薄化を引き起こす恐れがありますので、ある程度の危機感を持ちつつ、長期的に路線を維持する仕組みを作る必要がある時期に来ているのではないでしょうか。

 

両社の対応の違いは、自社を「交通事業者」としてとらえるか、「営利企業」としてとらえるかの違いだと思います。「交通事業者」としてとらえた両備は公共交通ネットワークの維持という社会的責務の為にああいう行動を起こしたと考えれば説明が付きますし、JR九州の取った行動も利益の最大化や株主への利益の還元という「営利企業」として損失を減らすため当然の事をした、と考えれば合点が行きます。

しかし、JR九州が儲け一辺倒に走った、とは私は思いません。本当に利益だけを考えているのであれば赤字ローカル線などとっくに廃止していると思いますし、大規模減便は路線維持のための苦肉の策であったと思います。JR九州が間違ったのは減便と言う結論を先に持ってきたことであり、減便の前に利用者や自治体に理解を得る努力を怠ったこと。鉄道の魅力を高め、利用してもらうために様々な仕掛けを行い、JRグループの中でも異質な存在として注目を集めてきたJR九州だけに、その努力を無にしかねない今回の事は残念でなりません。「交通事業者」としての矜持があるのなら、今からでも沿線の声に耳を傾け、お互いが納得のいく解決策を見出して欲しいですね。

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JAL再建問題の「負」の部分

東海道交通戦争、今回は2回に渡ってJALの再建を取り上げました。

 


東海道交通戦争・最終章②~沈んだ太陽は再び昇るのか~カリスマ経営者最後の挑戦


東海道交通戦争・最終章③~陽はまた昇る~意識改革と部門別採算制度が起こした奇跡の復活劇

 

正直、JALの再建話そのものは東京~大阪間の競争には直接関係ない話ですが、ここの話をやらないと、その後の羽田国際化やJALとANAの確執などの話に支障が出ますし、話の流れ抜きにJALの破たんと再建はやるつもりでした。本題は東京~大阪間の新幹線と航空の争いですが、裏テーマが戦後日本の交通史と言う事を考えると、避けては通れない話題ですからね。でもこれでもかなり端折ったんですよ。今回からは動画内では書けなかったJAL再建問題に関して取り上げていきたいと思います。

 

今回はJAL再建問題の「負」の部分を取り上げます。話の構成上、負の部分については人員削減や整理解雇、資本金の減資に不採算路線の撤退と、一通り触れてはいますが、個々の部分に関してはそこまで深く触れませんでした。ここでは負の部分についてもう少し深く触れてみたいと思います。

 

1.人員削減と整理解雇

JALの人員削減は約1万6000人。このうちの何割かはJALホテルズや機内食製造会社、旅行業などの子会社売却による切り離しですが、パイロットや客室乗務員、整備士など航空機の運航に直接関わる人員も削減の対象となりました。大半は希望退職によるものですが、事実上は退職勧奨。それでも退職に応じなかった一部の従業員に対しては整理解雇の対象となってしまいます。

 

さて、この「整理解雇」ですが、基本的に日本は解雇規制が強く、大抵の場合は従業員に重大な落ち度(犯罪を犯したり横領したりなど)があり「客観的に合理的理由があり、社会通念上相当であると認められる」場合を除き、解雇されることはありません。しかし、経営不振による使用者側の都合による解雇ができないわけではなく、1)人員削減の必要性がある(2)使用者が解雇回避努力を尽くした(3)人選が合理的(4)手続きが妥当、のいわゆる「整理解雇の4条件」を満たせば解雇は可能です。

JALの場合、最終的には最後まで希望退職に応じなかった84人を整理解雇としましたが、これは日本ではかなり異例の事。ある意味、法的整理になった企業は条件さえ満たせば整理解雇もOKという前例を作ったことになりますが、実際、整理解雇が認められる基準自体も以前よりは多少緩くなっているようです。

人員削減が進められた時期はリーマンショック後、航空業界自体が冷え込んで採用が抑制された時期でもありますので、特に専門性が強いパイロットに関しては高齢のパイロットや航空機関士から副操縦士に転身した人が削減の対象となったため、再就職に関してはかなり厳しく、操縦かんを奪われた人も多いと聞いています。特に航空機関士からの転身組は過去のJALの採用計画に振り回された経緯もありますので、会社に人生を狂わされたと言っても過言ではないでしょう。

 

2.資本金の全額減資

 会社更生法の申請後、JALの資本金は全額減資となり、それまでの株主は株主責任として株を失いました。株式会社の原則から言えば出資者である株主には「株式の引受価格を限度とした出資義務」があり、会社が潰れたりすれば出資金を失うのは当然の事だと言えます。

とは言え、JAL位の大企業になるとその影響は大きく、大株主や個人株主にも大きな被害を与えました。例えばJASの筆頭株主で統合後のJALの大株主であった東急電鉄。経営が危ないと言われた2010年下半期でJAL株を全て売却し、90億円の特別損失を計上しました。この特損で田園都市線の車両更新計画にストップがかかり、置換え予定の車両を延命するなど影響がありましたが、東急の場合は早めに見切りをつけた分、まだ傷口は小さく済んだ方です。

他にも三菱商事と双日がJAL株で150億の特別損失を計上した他、JALと取引があり、付き合いでJAL 株を保有していた旅行会社などの取引先もJAL破綻で損失を出しています。

そして、株主優待目当てでJAL 株を買った多数の個人投資家も損失を蒙ることになりました。株は自己責任とは言え、個人株主が多かったJALの破綻と減資は被害を受けた人が多かったのではないでしょうか。

 

3.不採算路線の撤退

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本編でも不採算路線の撤退には触れていましたが、これについては破綻前にも撤退した路線や空港は少なからず存在しました。計画自体は2009年には既に作成されており、動画内で触れた拠点以外にも国際線はメキシコシティ、青島、杭州、アモイから撤退。国内線も静岡、松本、神戸、粟国の4か所から撤退しています。

特に松本や粟国、動画内で触れた小牧や広島西はJAL 撤退=定期路線消滅=廃港の危機でしたが、松本と小牧はFDAが路線を引き継いで存続、広島西はそのまま廃港、粟国は第一航空が路線を引き継いだものの運航は安定せず、補助金のゴタゴタもあって今年3月に撤退と明暗が分かれています。

この他にも国内線は中部路線を中心に大量に撤退、国際線も関空、中部発着路線は半減と、特に名古屋地域で大幅に縮小されています。元々この地域はANAが強く、後発のJALは苦戦していましたが、破綻で路線網を維持する余裕もなくなってしまいました。中部空港は元々羽田国際化で苦戦していますが、それに拍車を掛けたのがJALの大幅縮小であり、JAL破綻で運営計画か狂った空港も、ある意味破綻の犠牲者とも言えます。

ただし、そんな中でも離島路線はほぼ破綻前のネットワークを維持していますし、経営が回復した後は撤退路線の復活や季節運行も行なっています。元々公共性を強く意識していたJAL ですから、この辺はしっかりしてるな、と思いますね。特に近年では天草エアラインとの提携や、ストレッチャーの搭載が可能なATR42の投入、沖縄の離島の貨物需要を考慮して貨客混載型のダッシュ8-400を入れるなど、離島路線に配慮した機材を相次いで投入しています。公共性に対する意識が強いJALならではの機材選択とも言えます。

 

以上、JAL 破綻の負の部分について触れてきましたが、放漫経営で会社を潰したと言う事実や、破綻で大きな影響を受けた人が少なからずいた事は忘れてはいけないと思います。勿論、その事はJAL 自身が一番よく分かっていると思いますし、忘れる事はないと思います。その上で破綻の教訓を生かし、日本を代表する航空会社としてANAと切磋琢磨して欲しいですね。

 

 

JALの長距離LCC参入発表、新たな路線開拓に期待

先日の一部報道でJALの中長距離LCC参入のニュースが報じられましたが、今日、正式に参入計画が発表されました。7月に準備会社を設立し、2020年の春ダイヤをメドに就航を目指す計画です。

 

headlines.yahoo.co.jptrafficnews.jp

 

LCC事業に積極的なANAに対し、これまでのJALはジェットスタージャパンには出資したものの、一定の距離を置いてきました。LCC参入が本格化したころはJALはまだ再建中であまり身動きが取れなかった事、再建後もいわゆる「8.10ペーパー」による縛りで事業拡大に制限があったことで、LCC事業拡大がし辛かったのもあると思いますが、JAL自身、どちらかと言うとフルサービス事業を発展させる方向に行っていたのもあるのかと思います。長距離路線は運航コストが掛かる分、ビジネスクラスやプレミアムエコノミーの比率を上げて客単価を上げる戦略を取る会社が多く、JALもANAも長距離用機材はエコノミーの比率が低くなっています。恐らくJALも下手にLCCに参入して自分から客単価を下げるのは得策ではないと考えていたと思います。

しかし、世界のLCCはここ数年で短距離から中長距離路線に拡大しており、アジア地域でもエアアジアXやシンガポール航空傘下のスクートが日本→東南アジア路線やホノルル線を運航したり、カンタス傘下のジェットスターがオーストラリア路線を飛ばしたりしています。大西洋路線でもノルウェーエアシャトルなどが参入するなどLCCの守備範囲は年々広くなっています。今のところ日本から北米大陸や欧州に飛ばすLCCはありませんが、今後も参入がないとは言えません。ANAがピーチを作った時と同様、どうせLCCが来るならいっそ自分たちで、という事なのでしょう。

 

ビジネス需要が大きいロンドンやパリなどの大都市や乗り継ぎ需要の大きい路線は今後もフルサービスキャリアのJALで運航する方が得策だと思いますが、例えばローマやアテネ、デンパサールなど観光需要は大きいけど客単価は低い路線はLCCの方がいいかもしれません。また、関空発着の長距離路線は観光需要主体で客単価が低い傾向にあるので、こちらをLCCで飛ばすのもアリではないかと思います。ANAが今のところ長距離LCCに関心がないのも参入の理由でしょうが、長距離路線のノウハウが豊富なJALの強みを生かす、と言う点でも中長距離LCCの方がいいのかも知れません。

 

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機材はボーイング787-8型2機の予定ですが、新造機になるのか、JALの787を改修するのかはまだ決まってません。座席数は300席程度になるようですが、上級クラスを設置するかどうかもこれから。JALのLCCが成功するかどうかは、JAL本体のブランドとどれだけ差別化できるか、ピーチのような単なる格安にとどまらない、魅力のあるブランディングができるかどうかにかかっていると思います。恐らくLCCの詳細が分かるのは来年以降かと思いますが、787の航続距離なら例えばかつてJALが就航していた路線で観光需要が高いローマやラスベガス、あるいはこれまで直行便がほとんどなかったマイアミやアテネ、タヒチなども十分射程圏内に入ってくるのではないでしょうか。これまでなかった長距離LCCの分野でJALがどんな一手を打ってくるのか。期待して待ちたいところです。

マロウドインターナショナル成田の滑走路ビューが素晴らしすぎた

5月5日に東京に行ってきましたが、宿泊先は東京都内ではなく、なぜか成田空港で取りました。その理由は「マロウドインターナショナル成田」の高層滑走路側確約ランウェイ16プラン。このホテルに滑走路ビューの部屋がある事は知っていましたが、まさかゴールデンウィークの時期に空いているとは思っていませんでした。という訳で東京での用事を済ませた後、一路ホテルへと向かいました。

 

www.marroad.jp


 

ホテルに到着したのは16時半頃。チェックインした後に気付いたんですが、通常だと15時チェックインなのにこのプランだけ13時チェックインだったみたいです・・・他のプランよりも高額なのはこの辺も理由の一つなのかも知れません。だとしたらちょっともったいない事をしましたね・・・次は13時ちょうどにチェックインするか。

 

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部屋は12階のセミダブルでした。で、肝心の部屋なんですが、あまりの滑走路ビューぶりに興奮して部屋の写真撮るの忘れてました・・・ちなみに部屋からは滑走路だけではなく京成電鉄の線路も見下ろすことができます。

 

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では、この滑走路ビューで撮れた航空機の数々をご紹介しましょう。なお私は撮影技術、機材とも素人レベルですので、写真の質については余り期待しないでくださいw

まずはアメリカン航空のボーイング787。去年さくらの山に来たときはデルタとユナイテッドはバンバン撮影できたんですが、アメリカンだけは第二滑走路着陸、離陸もタイミングが合わなかったので撮ることができなかったんですよね。1年越しでようやくアメリカビッグスリーを押さえることができました。

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続いてエミレーツ航空のA380。これは去年も撮影できたんですが、滑走路間近だとその大きさはけた違いですね。

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タイ国際航空のA380とエアタヒチヌイのA340。距離があるとは言え、同じエアバス機でもその大きさの差は歴然。ちなみにこのエアタヒチヌイの成田~パペーテ線は週二便の運航ですが、就航地自体も成田、オークランド、ロサンゼルス、パリの4都市だけで、日本はもちろん、アジア全体でもこの機体が見られるのは成田だけと言うレア機材です。さらに言えばエアタヒチヌイのA340も今年から787に順次置き換えられる予定ですので、個人的に貴重なショットになったとニヤニヤ。どうでもいい事ですが個人的に好きな旅客機はボーイング757とエアバスA340。747やA380のような巨大な飛行機も好きなんですけど、スマートな機体の方が好きなんですよね。

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キャセイパシフィック航空のボーイング777-300と747-8F。キャセイ自体は成田のほかに羽田、中部、関西、千歳にも就航してますし、成田からは直行便4往復、台北経由2往復の合計6往復が飛んでますから珍しくもなんともないのですが、こうやって2機が並ぶ光景、それも旅客便と貨物便が並ぶのは日本では珍しいのではないでしょうか?ちなみにキャセイパシフィックのボーイング747-400は2016年に退役してますが、貨物機に関しては747-8Fに置き換わり当分安泰。この下の画像で紹介する日本貨物航空の747-8Fと合わせ、貨物に関してはまだまだ747は現役の様です。

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明けて5月6日、日本貨物航空の747-8Fとマレーシア航空のA350。これも撮った後で知ったのですが、マレーシア航空のA350はこれが日本初就航だったようで、何気に初就航機材をゲットしてしまったみたいですw

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フェデックスのMD-11Fの着陸。旅客型からは全機引退して久しいMD-11ですが、貨物型はまだ現役の機材が多いです。が、生産中止から20年近くたつ機体ですから、その貨物機からも退役する機体が出ているようで、成田にもいつまで飛んでくるかは分かりません。恐らく日本で撮れる最後の三発大型ジェット機になると思いますので、撮れるうちに撮っておきたい機体です。

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そして、今回の成田訪問で最大の目的だったのがデルタ航空のボーイング757。この機種自体が日本ではレアな機体ですが、2003年ころからノースウエスト航空が成田発のアジア路線用に757を常駐させて定期運用した事で、成田では757の撮影が比較的容易となりました。デルタ合併後も757の常駐は続き、グアム、サイパン、パラオ路線に使用されてきましたが、今年に入ってこれらの路線が相次いで運休となり、この日のサイパン線を持って成田でのデルタ757使用路線は消滅してしまいました。この部屋を撮ったのも最後にどうしてもこの機体を撮影したかったからで、無事目的を果たすことができたのは良かったです。

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ANAの767とのツーショット。757と767は操縦資格を共通化した初めての機種ですが、こうして並べると似ているようないないような。

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そして定期路線最後のテイクオフ。残念ながら離陸の瞬間は窓の向こう側になってしまったので撮影することはできませんでした。でも最後にデルタの757を見ることができて良かったです。ここ数年、デルタの日本路線の運休、撤退が相次いでいますが、ノースウエスト時代から日本とアメリカの空の懸け橋になった会社、お願いだから全面撤退だけはしないで・・・

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デルタの757を見送ってから少ししてチェックアウトの時間になったので泣く泣く退出。ちなみにチェックアウト時間も11時ですので、滑走路ビュープランを使えば22時間は滞在できる計算です。この滞在時間の長さと間近に航空機が見える絶景ぶり、大浴場やスポーツジムの利用券が付くことを考えると「リピート率ナンバーワン」のプランなのも納得です。ホテル内もコンビニやレストランなど最低限の飲食施設もありますし、空港や成田市内への無料バスも出ていますし、東京駅からも直通の高速バスがありますから、空港利用者だけでなく、飛行機撮影が目的でも十分すぎるくらいの環境の良さです。

ただ、今回は滑走路ランウェイ16に近い部屋で、航空機の着陸が多かった時間帯だったのが幸いでした。翌朝はホテルの反対側の第二滑走路の着陸が多かったですし、確か冬場は離着陸の方向が反対だったので、必ずしも今回のように撮影三昧となるとは限りません。ですがそれを考慮してもホテルからの飛行機撮影にはこれ以上ないくらいのロケーションであることには変わりありません。

 

これはまたリピートしたいなあ・・・もちろん今度は13時チェックインでたっぷり粘ります。その前に撮影技術と機材を何とかしろ

 

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イラン航空の「古い飛行機を大切に使いましょう計画」継続?

今週はJALの長距離LCC参入やエールフランスの経営危機など大きなニュースが多かった航空業界ですが、ここに来てアメリカのイラン制裁のニュースが飛び込んできました。制裁対象には航空機の輸出も含まれ、アメリカ製のボーイング機はもちろん、アメリカ製部品を使用しているエアバス機も対象になるようです。

headlines.yahoo.co.jp

 

経済制裁の是非はさておき、これで一時は制裁解除で新型機の納入が進んでいたイラン航空を始めとしたイランの航空会社の機材更新が、にわかに危うくなってきました。2016年の制裁解除後はイラン航空はエアバス、ボーイングに新型機を大量発注し、100機を発注したエアバス機に関しては2017年から順次納入されてきましたが、777や737など80機を発注したボーイング機はアメリカ政府の許可が下りなかったのか、納入が先送りにされてきました。そこへきての今回の制裁ですから、やはり水面下では納入をストップされていたのではないでしょうか。イラン航空以外にもアーセマーン航空から737MAX30機を受注しているボーイングに取って、今回の経済制裁は大きな痛手になるのは間違いありません。

 

一方、イラン航空に納入された新型機も下記のサイトを見る限り、納入されたのはA330-300型2機とA321型1機、ATR72-600型8機の計11機。発注から納入までは通常1~2年かかる事を考えると、本来であればこれからが納入のピークだったはず。しかし、エアバス機の納入が2017年3月で止まっていることを考えると、ひょっとしたらアメリカ側から何らかの圧力がかかって納入がストップしていたのかも知れません。

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さて、今後経済制裁が正式に発動された場合、イラン航空の機材更新はかなり苦しいものになる事が予想されます。ボーイング機の納入は絶望的ですし、エアバス機にしても欧州各国は今のところアメリカの制裁に追随する気配はありませんが、アメリカ製の部品をある程度使っている以上、イランへの輸出はかなり厳しくなります。残るATR機ですが、こちらはフランスとイタリアとの共同開発な上にエンジンもカナダ製(ただしメーカーはアメリカのプラットアンドホイットニーのカナダ子会社ですが)なので、こちらの方は輸出禁止の対象にはならず、何とか納入できるかもしれません(よくみたらATRだけは2017年12月まで納入が続いてましたし)。しかし、近距離路線用のATRだけでは到底間に合いませんし、より老朽化が深刻なのは中長距離用の大型機ですから、今回の経済制裁でイラン航空が受ける影響はとても深刻です。そうなるとまた中古のエアバスで凌ぐしかなくなるんですかね・・・

 

イラン航空の機材老朽化の深刻さは以前私が制作したこの動画を見て頂ければわかるかと思いますが、正直、空の安全に直結する民間の航空機の更新はイランに取って急務ですし、他国にも乗り入れる以上、その国の空の安全にも関わってきます。それだけに今回のトランプ大統領の決定は非常に憤りを感じていますし、ボーイングがダメとしても、せめてエアバスの納入は認めて欲しいところ。今後のイランの空が心配になるニュースですので、今後の展開が気になります。


迷航空会社列伝「古い飛行機を大切に末永く使わざるを得ない」イラン航空