〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ボーイングとエンブラエルが事実上統合へ。MRJかなりヤバい。

オウム真理教事件の犯人の死刑執行のニュースや「数十年に一度」と言われる大雨で日本列島が揺れる陰で、航空機メーカーの大型再編のニュースが飛び込んできました。

アメリカのボーイングとブラジルのエンブラエルとの合弁会社設立のニュースです。合弁会社と言っても実際はエンブラエルのリージョナル機「Eシリーズ」のボーイングの買収であり、昨年のエアバスのボンバルディア「Cシリーズ」事業の合弁会社設立に続き、事実上、リージョナル機も含めた旅客機市場はほぼボーイングとエアバスに二分されます。

今の段階では覚書を交わしただけの暫定合意であり、正式合意までには数か月かかりますが、かねてより囁かれていたボーイングとエンブラエルの統合話が表沙汰になったという事は、ある程度実現の見通しが立ったという事でしょう。後は自国を代表する企業であるエンブラエルを手放す決定をブラジル政府ができるか、各国の公取委、特にEUの公取委がこの合弁を認めるかにかかっています。この辺で決定が覆る可能性もまだありますが、航空業界に大きな影響を与える話であるのは間違いありません。

 

ボーイングとエンブラエル、民間機の合弁会社設立へ MRJさらなる苦戦も

 

 そして、この再編で三菱重工のMRJ計画はより苦しいものとなった、と言わざるを得ません。以前より開発計画の遅れに伴う納入遅れで販売セールスに苦戦していたMRJですが、カスタマーサポートに対する支援契約を結んでいたボーイングが競合のエンブラエルと手を組んだことで、その立ち位置はかなり微妙なものとなってしまいました。

現段階ではボーイングとのサポート契約が打ち切られることはないとされていますが、ボーイングに取ってはまだ納入も始まっていないMRJよりも既に実績があり、世界中に顧客を抱えているエンブラエルの方が提携相手としては遥かに魅力的。同じような旅客機を扱うメーカー2社を同時に支援するのは、長い目で見ればボーイングやエンブラエルの株主から利益相反行為と言われかねませんので、いずれどちらか片方を選ぶよう迫られる時が来るかも知れません。そうなった場合、ボーイングが切るのは間違いなくMRJの方でしょうし、MRJ購入を検討している航空会社もボーイングの支援打ち切りリスクを考えて発注を躊躇するかもしれません。ただでさえ苦戦しているMRJに取って「とどめの一撃」になりかねない状況です。


www.nikkei.com

 

では今後、MRJはどうなるのでしょうか。三菱航空機は元々後発の会社なので、エンブラエルやボンバルディアに比べると知名度も販売網もノウハウもカスタマーサポートも格下です。航空機ビジネスは安全性に非常にシビアな分、案外保守的な所があり、実績のないメーカーの飛行機よりも実績があり、信頼性の高いメーカーや機種を選ぶ傾向にありますので、この点ではエンブラエルの方に大きなアドバンテージがあります。この差を埋めるためにボーイングの支援が必要不可欠だったわけですが、エンブラエルの民間機部門買収でその戦略にも大きな暗雲が立ち込めています。

さらにMRJが開発遅延で手間取っている間にライバルのエンブラエルE2シリーズが完成してしまい、航空会社への引き渡しも始まってしまいました。開発当初はMRJの方が先行していたのですが、そのアドバンテージも開発遅延で結果的には食い潰してしまってます。正直、航空会社に対するセールスポイントが消えてしまった今のMRJの今後のセールスは厳しいと言わざるを得ません。

更にMRJの開発費も当初の3倍以上の6000億円に膨れ上がり、採算ラインも当初の400機から1000機以上に上がってしまってます。三菱航空機も債務超過になって親会社の三菱重工が支援に乗り出しましたが、その重工も業績はいいとは言えず、下手したら共倒れになりかねません。かと言ってここまで資金をつぎ込んでしまった以上、今更撤退の選択肢はあり得ないでしょう。

 

セールス面でも資金面でも八方塞りになってしまっているのがMRJの現実ですが、かと言って劇的な改善策もないので、今まで通り一日でも早く完成させてローンチカスタマーのANAに納入し、運航実績を積み上げて信頼性を高めるしか打開策はないと思います。

そうでなければCシリーズやエンブラエル同様、MRJ事業自体をボーイングかエアバスのどちらかに売るしかありません。その場合、売却先は70〜90席級のラインナップがないエアバスしかないと思いますが(ボンバルディアにもCRJシリーズがありますが、基本設計が古いですし、事実エアバスもCRJ事業は買っていません)、長年三菱重工はボーイングの製造分担を担当して来た経緯がありますから、MRJ事業をライバルメーカーに売却してボーイングとの関係を悪化させるような事は考えにくいです。

 

考えれば考える程好材料がないMRJですが、地道に進めるしかないと思います。今月にはファーンボロ航空ショーでMRJの飛行展示が行われる予定ですので、何とかここで性能をアピールして、新規受注に繋げて欲しいですね。