〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

ボーイング797とエアバスA321LR、日本の航空会社が買う可能性は

前回の登録記号と順番が逆になりましたが、今回はYouTube限定でアップした、ボーイング757の後継機を巡る航空会社とボーイング、ボーイングとエアバスの攻防について取り上げました。


迷旅客機列伝「~帯に短したすきに長し?~ボーイング757後釜戦争」

 

動画内ではエアバスA320neoの新しい派生型であるA321LRの販売攻勢と、それに対抗するボーイングの新型機構想、ボーイング797の開発計画に触れて終わりました。今後は757の後継のみならず、単通路機と長距離中型機の間の空白地帯を巡るボーイングとエアバスの陣取り合戦が激化すると思われますが、個人的に気になるのはこれらの機種が日本の航空会社に納入される可能性があるかどうか。今後日本の航空会社がこれらの機種を買う可能性があるか、それぞれ考えてみました。

 

・日本の航空会社がエアバスA321LRを買う可能性

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これに関しては先日のピーチとバニラの統合のニュースの際、統合後のビジョンの一つとして「中距離国際線への進出」を掲げており、その機材としてA321LRが有力視されています。下記の記事でも書かれている通り、中距離路線用の機材には空席リスクのある大型機ではなく、今のA320と座席数がそう変わらない航続距離の伸びた単通路機が最有力候補となっていますが、ボーイング737MAXは航続距離がそこまで長くないことや、現在ピーチとバニラが使用しているA320との共通性を考えるとA321LR一択になりそうです。

toyokeizai.net

 

さらにジェットスタージャパンについても、本体がA321LRを発注した事や、ピーチやバニラと同じくA320を主力機としていること、そして新生ピーチに対抗して中距離国際線に進出する可能性があることを考えると、A321LRを発注する可能性は十分に考えます。

しかし、それ以外の航空会社がA321LRを買う可能性は低そうです。ANA本体はA321neoを順次導入していますが、今のところは国内線専用。仮に国際線に投入したとしてもA321LRが必要な路線は767や787クラスの機材じゃないと間に合いませんし、地方発の長距離路線を開拓する気はANAにはないでしょう。増してやA320シリーズの就航経験がなく、これ以上機種を増やす気のないJALがA321LRに食指を伸ばす可能性はゼロに近いです。とは言え、近い将来JAナンバーのA321LRを見る可能性は高いと思います。

 

・日本の航空会社がボーイング797を買う可能性

これについてはボーイング797が単通路機になるか、双通路機になるかで予測は変わってきますが、ここでは可能性の高い双通路機として開発された場合でお話しします。短通路機だったら737MAXとかぶりますし、A320neoとの優位性もあまりないですからね。

 

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双通路機になった場合、恐らく2-3-2のアブレストになると思いますが、このレイアウトで真っ先に思いつくのがボーイング767。全盛期は過ぎたとはいえ、JALもANAもまだ数十機単位の767を保有しており、国内線やアジア路線、ホノルル線などに投入していますが、90年代に納入された機体は退役が進んでいるのもまた事実。いずれは代替機を考える必要がありますが、787は一回り大きい上に長距離路線用として開発された機体であり、767の置き換え用としては少々オーバースペックです。

797のサイズが今の767に近いものとなれば、座席数、航続距離ともに今のANAとJALの767の運用範囲に合致しますし、797が就航を目指す2025年頃には2000年代に納入された767の更新時期を迎えますから、代替用としてJALやANAが797に食指を伸ばす可能性は十分考えられます。他にも767を使用するエアドゥがANAと歩調を合わせて購入する可能性も考えられますし、スカイマークも737よりも大きい機材が必要になった場合、797を選択肢に入れる可能性も十分あります。今後、797のスペックが767に近いものであれば、日本の航空会社が雪崩を打って発注する可能性は高いと思いますし、787のように日本のメーカーも一定数分担すれば、猶更発注の可能性は高まるのではないでしょうか。

 

もっとも、797が単通路機として開発され、757に近いスペックになった場合は逆に発注する航空会社はないかもしれません。そういう意味では797のローンチ時の最終スペックが、今後日本の航空会社が797を発注するか否かの分かれ道と言えるかもしれません。

 

 

旅客機の登録記号のこぼれ話

迷航空会社列伝、今回は番外編として航空機の登録記号にまつわる迷走を紹介しました。


迷航空会社列伝・外伝「登録記号狂奏曲~急成長が招いたJA8000番台の迷走~」

 

JA8000番台のひっ迫によるゴタゴタは本編をご覧頂くとして、ここでは動画では書ききれなかった登録記号にまつわるエピソードをご紹介しましょう。

 

①JA8000番台にはまだ空き番号があった

実はJA8000番台にはまだ登録されていない空き番号が若干ですが存在しています。例えば各番台のトップナンバーのうち、JA8200、8300、8400、8500と8900は旅客機として登録され、JA8600はアジア航測の事業用機、JA8700は航空局所有のYS-11、JA8800は海上保安庁の軽輸送機に使われましたが、「JA8000」「JA8100」は現在でも未登録です。

元々各番台のトップナンバーは割り当てが避けられる傾向にありましたが、残りの番号がひっ迫してくるとそうも言ってられなくなり、次々と割り当てられていきましたが、JA8000番台のトップナンバーであるJA8000は流石に登録を躊躇したのでしょうか。そうしているうちに新ルールでの登録がスタートし、最後まで残ったJA8000とJA8100は使われることなく欠番となったのではないかと思います。

 

また、「JA8093」も未登録のまま。しかもその前に登録された「JA8091」と「JA8092」は登録からわずか半年ほどで登録抹消となっています。登録記号がひっ迫している時期にそんな贅沢なと思いますが、実はその登録抹消になった機体、今でも日本の空を飛んでいるのです。

種明かしをすると、この「JA8091」と「JA8092」は実は政府専用機の747-400の事。当初は総理府が発注して受領したため、JAナンバーでの登録となりましたが、運用開始前に航空自衛隊に移籍し、自衛隊の機体識別番号が付けられたために登録抹消となったのです。

で、問題の「JA8093」ですが、政府専用機は合計3機を購入する計画があり、3機目の747の登録用として、この番号が用意されていました。最初の2機の納入から数年後をめどに購入するつもりで、実際に3機目の購入予算も原案に組み込まれたことがありました。しかし、その頃の日本はバブル崩壊後の経済低迷で、とてもじゃないけど数百億円もかかる専用機の購入などできない状態。3機目の予算は大蔵省の査定であえなく却下され、幻の政府専用機となってしまいました。政府専用機用の番号と言う特殊要素があったからか、以後「JA8093」の登録番号は一度も使われることなく、現在も欠番のままです。

この他にも確認できる限りではJA8592とJA8593が未使用っぽいです。他にも探せば出てくるのかも知れませんが、全部調べるのは流石に勘弁して・・・

 

②JA8500番台にターボプロップ機が登録されたわけ

動画内でも触れていますが、本来は3発ワイドボディ機用に割り当てられていたJA8500番台は最終的には小型ターボプロップ機から大型ワイドボディ機まで多彩な機種が登録される無法地帯となってしまいました。

で、そのJA8500番台のうち、ターボプロップ機が登録されたのはジェイエアのジェットストリーム31のJA8590とJA8591、日本エアコミューターのサーブ340のJA8594の3機。なぜ3発ワイドボディ機の枠にターボプロップ機が登録されたのか。理由は簡単。「本来登録されるはずだった機体が納入されず、宙に浮いていた番号だから」です。

本来JA8590~8599の枠に登録されるはずだったのは日本航空のMD-11。1990年にJALはMD-11を確定10機、オプション10機発注しており、確定発注分は1993年から順次納入されましたが、その際、JA8580~JA8589の登録記号が割り当てられました。一方のオプション発注分にはJA8590~JA8599の割り当てが想定され、登録が避けられてきましたが、MD-11が想定通りのパフォーマンスを発揮できなかった事と、双発機の長距離洋上飛行の制限が緩和され、777-200ERの投入が可能になったことで結局オプション分の10機は確定発注に切り替えられないままに終わりました。

いつまでたっても発注されないMD-11用にいつまでも登録記号を空けておくわけには行かず、結局JA8590~JA8599の登録記号は順次他の機体に付けられていきます。で、その頃に納入されたのが前述のジェットストリーム31やサーブ340ですが、本来のターボプロップ用だったJA8600~JA8800番台がパンク寸前だったため、宙に浮いていたJA8590番台の番号が割り当てられた、と言うわけです。

 

③登録記号の迷走は地上作業にも影響を与えていた

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日本の旅客機には空港のグランドスタッフなどが作業を行う航空機を識別しやすいよう、上の写真のようにノーズギアドアに登録記号のうち3桁を記入しています。しかし、かつてはこのペイントも下2桁だけでした。

かつての登録記号の区分であれば同じ機種の下2桁が同じ番号になる事はあり得ませんでしたが、登録記号の原則が崩れてくると、下2桁がかぶってしまう機体が出現してしまいます。例えば全日空のボーイング767は納入機体が多かった上にそこらじゅうの番台で登録されてしまったので、「JA8257とJA8357」や「JA8569とJA8669」のように、登録記号の下2桁だけで機体を判別するのが不可能となってしまいました。万が一これらの機体が隣同士のスポットに止まってしまうと、下2桁の数字だけを見て取り違えが発生してしまうかもしれません。そこでこの部分の登録記号は下2桁から下3桁に書き換えられることになりました。

しかし、登録記号が新ルールに移行すると、今度は同じ機種で下3桁のうち末尾が同じアルファベットの機体が続出します。例えば上記のANAの787の場合、登録記号は今のところ全て「JA8〇〇A」、777はJA8000番台で登録された機体を除くと「JA7〇〇A」となっており、下三桁だけを書く方式だとJA805AとJA705Aの下3桁がかぶってしまい、取り違えの可能性が出て来ます。まあ、先ほどの下2桁の例と違い、777と787は形も大きさも違いますから取り違えの可能性は少ないですが、それでも安全上間違いのリスクはないに越したことはありません。そこで今度は登録記号の上3桁を書く方式になったというわけです。

最も、これに関しては一部の機体を見ただけですので、末尾アルファベット2桁の機体がどう書かれているかは分かりません。そのうち確かめたいところではありますが、こうしてみると登録記号一つとってもいろんなエピソードがあるもんですね。

 

旅客機に詳しい方でない限り、気に留めることはない機体の登録記号。しかし、その登録記号の一つ一つから航空業界の発展の歴史が垣間見えたり、個々の旅客機の歴史やドラマが詰まっているもの。もし今度飛行機に乗ったり、空港に飛行機を見に行く機会があれば、そういった旅客機の登録記号にも目を向けてみてはいかがでしょうか。案外、新しい発見があるかも知れません。

 

何で今更?ANAとアリタリア提携へ

先週のピーチとバニラの統合の記事を書いたと思ったら、今度はANAとアリタリア航空の提携のニュースが飛び込んできました。最近デカいニュース多すぎでしょANAさん・・・

 

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ANAとアリタリア、提携へ

 

正直、この組み合わせは全く考えていませんでした。以前のブログでも触れたとおり、アライアンスも違うANAがアリタリアと組むメリットは少なく、むしろ破たんして財務状態も労使関係もガタガタのアリタリアと組んでも過去の提携相手のように振り回されて終わるだけになる可能性の方が高いからです。それだけに当時のブログでも、ANAがアリタリアを買う可能性はない、と言い切っていましたが、資本提携ではないと言え、まさかアリタリアに手を出すとは思ってもみませんでした。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

ANAの中期計画でもイタリアやスペインへの観光需要取り込みを挙げていましたが、普通に考えればルフトハンザグループとの提携強化、捻って成田ーイタリア路線の自社運航開始かと思ってましたので、まさか経営状態の悪いアリタリアとの提携という意味だったとは・・・

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さて、今回の提携はまだANAサイドからの正式な発表はないので、詳しい内容は発表待ちとなります。が、当ブログや動画でも散々ご紹介した通り、アリタリア航空は慢性的な高コスト体質と強すぎる組合のスト、度重なる補助金に会社のモラルハザードと問題をいくつも抱えており、これまでにKLM、エールフランス、エティハド航空が再建のスポンサーに名乗りを挙げましたが、ことごとく失敗に終わっています。

 


迷航空会社列伝 「イタリアのフラッグキャリア」アリタリア航空 前編:マルペンサの乱

 

2017年5月の2度目の破たんの後も政府がつなぎ融資を行いつつ次のスポンサーを探していましたが、交渉期限を延長したにも関わらず、今のところアリタリアを丸ごと引き受けるスポンサーは現れていません。交渉期限が4月に迫る中、このタイミングでのANAの提携発表は、はた目から見れば先行き不透明な中での提携は悪手としか思えません。

しかし、私はANAが何の考えもなしにアリタリアと手を組むとは到底思えません。これだけやらかしているアリタリアと組む以上、何らかの勝算があっての事ではないかと思います。ひょっとしたら、アリタリアの部分買収にも手を挙げているルフトハンザとアリタリアとの間で何らかの合意がまとまっており、ANAとアリタリアとの提携はそれに連動したものである、と考えれば辻褄が合います。実際、日本→欧州の路線で強い提携関係にあるルフトハンザと組んでいるANAにとっては、今のところライバル会社であるアリタリアとの提携はその関係に泥を塗るようなもの。それをあえてやるという事はルフトハンザと何らかの合意があっての事と考えるのが自然でしょう。

 

もっとも、何の見通しもなく、ルフトハンザに話を通さずにイタリアの路線欲しさにアリタリアと組もうとしているのならANAへの見方を変えざるを得ませんが・・・とにかく、記事内では今週中に正式発表とのことですので、まずはそれを待ちたいところ。場合によってはそのタイミングでアリタリアの今後の動向も分かるかも知れません。さてさて、どうなることやら・・・

 

【2018年3月23日追記】

ANAとアリタリアとの提携が正式に発表されました。冬ダイヤが始まる10月28日からアリタリアが運航する成田-ローマ・ミラノ線とローマ発着のイタリア国内千6路線ににANA便名を付け、逆に成田発着のANA国内線5路線にアリタリア便名を付けるそうです。また、ANAとアリタリアのマイレージプログラムに相互にマイル積算ができるようにするようですが、ANAのアリタリアへの出資や、ANAのイタリア線自主運行については計画していないようです。また、アライアンスについてもそのままで、今回の発表ではアリタリアの今後の見通しやルフトハンザに関する動きも特に語られませんでした。

ANA、アリタリアとコードシェア 冬ダイヤから

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流石にスターアライアンスの承認を取り付けた上での提携のようですが、今のところは出資は考えていないようなのでまずは一安心。破たんして経営再建中のアリタリアには深くかかわらない方がいいと思いますので、ANAの路線網を補う程度の提携でちょうどいいのでしょう。

10月からのコードシェア開始なので、これから詳細を詰めて準備を行うのでしょうが、半年先の事を考える余裕があるという事は、アリタリアの見通しに一定のメドが付いたという事なのでしょうか。そうなると近いうちに今後の展開についての発表があるのかも知れません。間違ってもコードシェアが始まる前に提携先が消えていたなんて笑えない事態になりませんように・・・

 

ピーチとバニラの統合でLCCはどう変わるか

3月16日の夜にANAホールディングス傘下のピーチアビエーションとバニラエアの統合のニュースが飛び込んできました。統合方法や一本化の時期などは未定ですが、統合後はピーチのブランドに一本化される予定です。

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www.traicy.com

 

昨年にピーチが子会社化されたあたりからピーチとバニラの経営統合は十分あり得る話だとは思っていました。機材は同じA320ですし、路線の重複も少ない。それでいて同じANAホールディングス傘下の航空会社になったわけですから、似たようなLCCが2社もあるのも非効率ですし、1社にまとめたくなるのも自然な事です。

 

しかし、ピーチとバニラは似ているようで社風も出自も全くの別物。ピーチは和製LCCの第一号として2012年に運航を開始したいわば和製LCCのパイオニア。当初はANAの出資は3分の1にとどめ、関西弁のアナウンスや高級車の機内販売、たこ焼きやお好み焼きなどの型破りな機内食販売など、安売りだけでない独自のサービスで顧客の支持を集めました。就航三年目で早くも黒字転換、日本のLCCでは唯一累積損失を一掃し、2017年の当期純利益は49億円と目下の業績は好調そのものです。

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一方のバニラエアはANAとエアアジアの合弁で設立された「エアアジア・ジャパン」が前身ですが、2013年10月に両社の合弁は解消。その後ANAがエアアジアの持ち株分を買い取り、12月に「バニラエア」という新しいブランドで再スタートを切っています。「リゾート」をコンセプトに成田~奄美線などこれまであまり注目されなかった地域の需要を掘り起こすなど、一定の成果はありましたが、そもそもの出自が合弁解消で宙に浮いた会社を急遽衣替えした会社ですから、最初から十分に準備期間を設け、ブランディングを徹底させたピーチとの差は歴然。業績についてもピーチと比べると芳しくなく、累積損失は120億円に上っています。両社の統合に関してはバニラの業績の悪さがピーチの業績にまで影響を与えないかが気がかりです。

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そして、業績以上に懸念しているのがピーチとバニラの社風の違い。独力で経営規模を拡大し、ベンチャー気質のあるピーチと、ANAの傘下にあり、各セクションの責任者もANAからの出向者で固められているバニラとでは社風も経営方針も別物。この社風の違いが経営統合が進まなかった理由でもあり、今回の統合はある意味レガシーキャリアとLCCを統合するようなものかも知れません。

それでも両社が統合に踏み切るのは、ANAグループの中期計画で掲げられた中距離LCCの参入計画があるからでしょう。すでにエアアジアXやスクートが中距離路線に進出し、ピーチとしても今後の成長には中距離路線の進出が不可欠ですし、それには一定の人員が必要になる。バニラとの統合で重複路線を整理し、空いた人材や機材を新規路線の開拓や中距離路線進出に振り向けるという事でしょう。それには両社の社員の融和が不可欠なので、人材流出を最小限に食い止めるためにも、一刻も早く新しい体制を整えるべきです。近いうちに両社から正式な発表があるかと思いますので、そこで統合の方法や社内融和の方法、統合後の経営戦略や路線計画がどこまで出てくるか。まずはその発表を待ちたいところです。

 

なかなか馬鹿にできないアメリカの地域航空会社


【前編:成り上がり会社の誤算】迷航空会社列伝「買収攻勢の馴れの果て」USエアウェイズ


後編後半・合併の果てに見たものは【迷航空会社列伝・USエアウェイズ】

 

USエアウェイズの回で触れた「アレゲニー・コミューター・システム」に端を発した大手航空会社のフィーダー輸送を担当するアメリカの地域航空会社。日本ではJAL系列のジェイエアや日本エアコミューターなどの大手航空会社系列の会社やIBEXエアラインズ、フジドリームエアラインズなどの地方間路線を運航する会社がこれに近いですが、一口に地域航空会社と言っても、アメリカの場合は単なる大手の子会社や特定の会社の下請けばかりではありません。中には複数の会社の委託運行を行ったり、大手顔負けの規模を誇る地域航空会社も存在します。今回は日本ではあまりなじみがないけど実は結構凄い、アメリカの地域航空会社をご紹介しましょう。

なお、各航空会社の情報はイカロス出版の「エアライン年鑑2015-2016」から抜粋しています。少し古い情報ですが、ご了承ください。最新の情報が知りたい方は下記の最新版をどうぞ。

 

 

エアライン年鑑2017-2018 (イカロス・ムック)

エアライン年鑑2017-2018 (イカロス・ムック)

 

 

 

①スカイウエスト・エアラインズ

1972年に設立された独立系リージョナルエアライン。デルタ航空とユナイテッド航空のフィーダー路線が中心ですが、アメリカン航空やアラスカ航空便の運航も受託しており、ビッグスリー全ての受託運航を行っている珍しい会社です。

保有機材はボンバルディアCRJシリーズを中心にエンブラエルERJ175など、合計350機。売上高32億ドル、営業利益3.88億ドルと地域航空会社にしてはなかなかの規模です(と言ってもビックスリーは売り上げや利益の桁が一つ違いますけどね。やっぱアメリカの航空会社はデカい)。FAA(アメリカ航空局)の主要航空会社にも名を連ねています。

 

②メサ・エアラインズ

アリゾナ州フェニックスがベースのコミューター航空会社。当初はアメリカウエスト航空のフィーダー路線を行っていましたが、現在はアメリカンやユナイテッドの受託運航が中心です。保有機材はCRJシリーズ78機とERJ175型17機の計95機。

一時期は受託運航からの脱却を目指したのか、2006年にハワイで独自のLCCブランド「GO」を立ち上げましたが、本業に集中する為2014年に撤退しました。また、中国でもリージョナルエアラインの設立に加わりましたが、肝心のアメリカ国内の事業が低迷し、2011年にチャプター11申請で破産。現在は破産から回復しています。

 

③エンボイ航空

元々はアメリカン航空の親会社のAMR傘下のコミューター会社「アメリカン・イーグル」でしたが、アメリカンとUSエアウェイズの合併時に体制が変わり、現在の社名に変更。資本的には現在でもアメリカン航空の傘下にあります。

保有機材はCRJ700型46機とERJ145型117機の計163機。ちなみにスカイウエスト同様、エンボイ航空も主要航空会社に名を連ねています。

 

④エクスプレスジェット・エアラインズ

1986年にコンチネンタル航空が小さなリージョナルエアラインを買収して設立。2002年に独立して2010年にアトランティック・サウスウエスト・エアラインズと合併して現在の体制になりました。アメリカン、ユナイテッド、デルタの3社のコミューター便の運航を行っています。

保有機材はCRJシリーズ141機とERJ145シリーズ242機の計383機。こちらも主要航空会社のうちの一社ですが、先に紹介したスカイウエストグループの一員です。

 

つーか大手級の地域航空会社を2社も持ってるってどれだけ大規模なんだスカイウエストは・・・

 

⑤ホライゾン・エア

1981年に設立したアラスカ航空傘下の地域航空会社。当初はワシントン州内のコミューター路線を運航していましたが、1985年からアラスカ航空とノースウエスト航空のフィーダー路線の運航を受託。その後アラスカ航空の子会社となり、現在はカラーリングもアラスカ航空と統一し、マーケティングもアラスカ航空と一体化しています。イメージ的にはJAL系列のコミューター会社のようなものですね。

保有機材はボンバルディアダッシュ8-400型51機。日本では小型機でもジェット機が好まれる傾向にありますが、アメリカでは路線特性や利用率、コストなどを勘案してジェットとプロペラが使い分けられているようで、日本ほどジェット信仰は強くないようです。

 

 

以上、アメリカの地域航空会社をざっとご紹介しましたが、これはあくまでもほんの一部。何百機も保有する巨大地域航空会社もあれば、イメージ通りの小規模な会社、大手の受託運航をせず、独自の路線網を築いている会社もありますから、正直全部を把握できない位です。全米規模の会社はかなり集約されてきましたが、それでも航空大国アメリカには大小さまざまな会社があり、その魅力は尽きない物です。

 

いつかアメリカに行って、この目で航空大国の凄さを見て見たい・・・

続・両備グループバス廃止問題 ボールを投げられた行政と住民はどう答えを出すのか

 2月10日に両備バスの廃止問題を取り上げた記事を書きましたが、その後の進展はどうなったのでしょうか。

www.meihokuriku-alps.com

 

まず仕掛けた側の両備グループ。バス廃止問題に対する特設サイトを設け、これまでの経緯や路線廃止届提出に至った理由、両備グループの地域交通に対する考えと想い、今の地方交通が抱えている構造的な問題を訴えており、利用者に対しても文書の端々で迷惑をかけていることに対して詫びており、問い合わせ窓口を設置して電話番号やメール送信フォームを公開するなど、問題を提起した当事者として利用者の不安や疑問に対処する姿勢を示しています。

バス路線廃止届提出に関する特設情報サイト |

 

一方、問題の発端になった八晃運輸。中国運輸局の認可が下りた後は予定通り新規路線の運行準備を始めています。まだ正式な運行開始日の発表はありませんが、近々プレスリリースを出すとしており、今のところ参入を撤回するつもりは無さそうです。

一方で両備グループの廃止問題については今のところ新たな言及はありません。まあ、下手に発言して反発を買うわけには行きませんし、直接的には無関係ですから、黙っていた方が得策だとは思いますが・・・

headlines.yahoo.co.jp

 

そして両備グループバス廃止問題は国会の場でも取り上げられました。2月16日には衆議院予算委員会が岡山で公聴会を行い、22日には予算委員会での質問でこの問題が取り上げられ、安倍首相も問題解決の為、支援などで協力したいと答弁しています。

世論も今のところ両備グループと小嶋社長を支持する声の方が多く、世論や国会を動かしたと言う点ではバス路線廃止という「劇薬」を使ってまで地方の公共交通問題を訴えた両備グループの捨て身の主張は、ある程度は「成功」と言えるでしょう。

http://www.ksb.co.jp/sp/newsweb/detail/8997

www.nikkei.com

 

そんな中、ヤフーニュース上に出たあるネット記事。この記事では両備グループの今回の措置を否定的にとらえ、廃止発表の日の夜に唐突に八晃運輸の新規路線を認可した中国運輸局の措置を「行政のやり方が不服だから国民を困らせる」という両備グループの施策を拒絶する行政サイドの強い意思表示、ととらえています。

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両備グループの訴えに賛同する人が多い中、あえて逆行する記事を出して問題提起をしたこと自体は評価したいと思います。八晃運輸の新規参入も両備グループの大規模路線廃止も法律にのっとった正規の手続きとは言え、今回の両備グループの廃止発表はある意味利用者と自治体を人質に取ったようなものですから、この記事の主張も分からなくはありません。

しかし、昨年3月の八晃運輸の認可申請以降、両備側は何度も国や自治体に申し入れを行い、国交省にも認可反対の意見書を提出するなど事あるごとに問題を訴えてきました。また、地域交通の在り方を自治体や事業者、利用者や地域住民などで議論する協議会の設置を何度も申し入れるなど、両備サイドからは問題提起や話し合いの場を設ける提案は何度もされていました。にも関わらず、一部の自治体(というか岡山市)では協議会の設置すらなく、両備側の意見もろくに反映されないまま八晃運輸の路線認可が下りる見込みになるなど、両備グループの訴えは半ば黙殺されました。

今回の路線廃止申請はいわば両備グループの「最後の手段」であり、真に責められるべきは地域の公共交通をバス会社に丸投げし、将来の公共交通の在り方を真剣に考えてこなかった行政サイドであり、バス会社の窮状を見て見ぬふりをして来た一部の地域住民でしょう。この記事では「行政は両備のわがままに同調せず、毅然とした態度を取るべき」というスタンスの様ですが、むしろ今回の問題は地方交通の問題を放置してきた行政サイドに責任があるのではないでしょうか。

 

一方、こちらの記事は両備の姿勢を「規制緩和一辺倒の国交省と調整役を果たさない岡山市に投じた一石」としてとらえ、公共交通の維持には行政の支援が不可欠であり、行政が事業者と住民の調整役としてもっと積極的に動くべき、というスタンスです。その上で住民側も行政任せにせず、積極的に協議に参加して最善の方向に結論が出るように見守るべきとしています。地域の公共交通はその地域の自治体の問題であり、そこに暮らす住民の問題です。今までは路線の維持を事業者の良心や使命感に依存していましたが、そのやり方はもう限界に来ています。近年の井笠鉄道バスの破産や、青森の南部バスの経営破たんと隣県の岩手県北自動車への事業譲渡など、全国的にバス会社の経営が行き詰って来たのも明らかです。

headlines.yahoo.co.jp

 

今回の両備グループのバス路線廃止の手段そのものが正しい行動だったかと言われると、正直言って微妙です。しかし、これまでの経緯を考えると、こうでもしないとこの問題に注目が集まりませんでしたし、両備グループも正攻法ではないと分かった上であえて問題提起として行動を起こしました。実際にこの廃止発表が全国的に報道されたことで地方交通の窮状がクローズアップされましたし、自治体も問題解決の為、協議会の設置に動き出しました。今後は岡山のバス路線の在り方をどうするか、両備や八晃運輸だけでなく、行政や住民も真剣に議論する必要があるでしょう。両備が届け出た最初の廃止日まではあと7か月。もうこれ以上バス会社任せで問題の先送りはできないでしょう。部外者の私が言う事ではないとは思いますが、この協議会設置を機に、事業者、行政、地域住民の双方にとって最善の道を見つけられるよう、議論を重ねて納得のいく答えを出してもらいたいですね。

 

日本一のローカル線をつくる: たま駅長に学ぶ公共交通再生

日本一のローカル線をつくる: たま駅長に学ぶ公共交通再生

 

 

社員を幸せにする会社

社員を幸せにする会社

 

 

 

世界最大の航空会社のCEOに成り上がった男 ダグ・パーカー

 


後編後半・合併の果てに見たものは【迷航空会社列伝・USエアウェイズ】

USエアウェイズの後編後半で名前が出てきた現アメリカン航空CEOのダグ・パーカー。彼に関しては日本でもそれほど名前は知られていませんが、どんな人物なのでしょうか。

まずはアメリカン航空ホームページに掲載されている彼の経歴を見て見ましょう。流石に本人の写真を張り付けるわけには行かないので、彼の顔を見たい方は下記のリンクから見に行ってください。

 

Doug Parker - Leadership bios - American Airlines

 

ダグ・パーカーは1984年にアルビオン・カレッジで経済学学士を取得後、1986年にヴァンタービルト大学でMBOを取得。その後1986年から1991年までアメリカン航空で財務関連の管理職を経験しています。彼とアメリカン航空の関係は何も合併の時が初めてではなく、最初のキャリアがアメリカン航空だったんですね。

その後、ノースウエスト航空に転じて副社長兼財務副本部長、財務計画・分析担当副社長を務めています。MBO取得からわずか5年で副社長ポストとはかなり優秀な方の様です。

アメリカウエスト航空に転じたのは1995年。その後2001年にはCEO(最高経営責任者)に昇り詰めています。MBO取得から15年でCEO・・・年齢や生年月日は非公開なので何歳でCEOになったのかは不明ですが、30代後半~40代前半位で大手航空会社のトップに昇り詰めているのではないでしょうか。

 

そして、彼が航空業界の表舞台に出てくるのがUSエアウェイズとの合併でCEOになった辺りから。アメリカン航空HPによると、彼の指揮の下、USエアウェイズは記録的な収益成長を実現し、運行成績及び利益率において同業他社をはるかに上回る業績をもたらしたそうです。元々財務畑出身ですから数字には強そうですし、アメリカウエストの時もそうですが、経営難の会社を立て直して業績を回復させ、その好業績を武器により上位の会社に合併を仕掛ける、と言うのがダグ・パーカーのやり方なのかも知れません。

 

そして、彼を象徴するのが積極的な合併推進論者であるという事。彼は航空会社を合併させて整理することが業界にとっても従業員にとっても顧客にとっても株主にとっても安定と競争力をもたらすという考えで、2000年代後半の相次ぐUSエアウェイズの合併攻勢は彼の信念に基づいたものであると言えます。

 

 そして、USエアウェイズとアメリカン航空の合併で新生アメリカン航空のCEOに就任し、アメリカ第8位の中堅航空会社のCEOが、2度の合併を経て世界最大の航空会社のCEOに昇り詰めた訳ですが、意外にも彼がアメリカン航空の立て直しに重視したのは「オープンな社風と従業員との対話」。ダグ・パーカーの就任後、厳重なセキュリティと警備員、来訪者には常に2名の同行者が付くなど「要塞」とも言える役員スペースを改装し、警備員の配置を辞めてドアも開けっ放しにするなど、敷居を低くしています。さらに彼らは従業員との対話を増やし、会社の風通しを良くしようと努力しています。

詳細は下記の記事を参照して下さい。と言っても向こうの記事なので全部英語ですが。

 

www.dmagazine.com

 

ダグ・パーカーのこのオープンな姿勢は親交のあるサウスウエスト航空創業者のハーブ・ケレハーの影響を受けたものであり、コンチネンタル航空の奇跡の再建を成し遂げたゴードン・ベスーンが行った社内改革と同じもの。これらの事から人的リソースが大きなウエイトを占める航空会社の経営は、従業員の士気とコミュニケーションが重要になることを示しています。そして、従業員との対話を重視し、オープンで隠し事をしない彼らは、長期間に渡って経営の中枢にとどまっていることも大きな特徴です。

考えてみれば2001年以降、ずっと航空会社のCEOの椅子に座り続けているわけですから、それだけ長期間トップの座にいるという事は非常に優秀なリーダーである証明とも言えます。

誰とは言いませんがユナイテッド航空の前CEOも、合併後は色々と調子に乗って最後は不正疑惑で会社を追われてしまいましたし。

悲願の航空業界の再編を成し遂げ、今なおトップの座に君臨し続けるダグ・パーカーもまた、アメリカ航空史に名前を残す名経営者の一人と言えるでしょう。今後もオープンな姿勢を忘れず、アメリカン航空とアメリカ航空業界を引っ張って行って欲しいものです。