〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

富山空港をハブ空港化?航空事業参入を目指すジェイ・キャスについて調べてみた

 

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今日の富山新聞に「富山―関空 新たに計画」という見出しの記事が出て一瞬わが目を疑いました。記事によると、航空会社(正確には航空事業参入を目指す準備会社)の「ジェイ・キャス」という会社が計画しているそうで、関空~富山の他に関空~能登・米子・岩国の各路線の新規就航を計画しているそうです。

計画では70~80席級の小型機2機をリースし、2021年秋の就航を目指し、22年秋には4機体制にして富山と中部・仙台を結ぶ路線を開設して富山空港をハブ空港化。さらに2026年には7機体制としてさらなる路線開設を目指すそうです。

ジェイ・キャスでは関西・中部地域と北陸・山陰地域を結ぶ航空路線網が不十分と考えているそうで、新規就航で関西・中部を利用する外国人観光客やビジネス客の利便性向上に寄与できるとしており、社長は「全日空と競合しない関西・中部と北陸を結ぶことで地方空港の活性化を図りたい」としているそうです。

 

 

この記事だけを見れば、ジェイ・キャスと言う会社は国内線は羽田と札幌しかない富山空港に一気に地方路線を拡充してくれるありがたい存在、と言う事になります。確かに近年ではフジドリームエアラインズ(FDA)などが地方路線を開拓してくれているお陰で、以前よりは地方路線は充実してきています。しかし、最大の旗振り役であるFDAはJALとの関係が深く、ANA単独運航の空港にはほとんど就航していないのが実情です。それ故、ANAしか就航していない空港は総じて路線数が少ない傾向にあります。

 

例えばJAL系しか就航していない出雲空港とANAしか就航していない米子空港の国内線を比較して見ると、

出雲空港(1日最低16往復)・・・羽田(5往復)、伊丹(4往復)、神戸(10月27日より2往復で就航、12月20日以降1往復)、名古屋小牧(2往復)、隠岐(1往復)、福岡(2往復)、札幌(夏期のみ1往復)、仙台(1往復)、静岡(1往復)

米子空港(1日5~6往復)・・・羽田(5~6往復)

 

・・・その差は歴然ですね。米子空港の場合は対大阪ではJRと勝負にならない、出雲には地方路線拡充に積極的なFDAが就航しているなど事情はありますが、それを差し引いてもこれだけ差が開くものかと驚いてしまいます。そう考えるとジェイ・キャスの「ANAと競合しない地方路線に就航」という路線戦略はニッチ市場の獲得やANAの協力を得やすいなどのメリットがありますし、FDAの戦略を参考にしているように見受けられます。

 

 

それではこのジェイ・キャスと言う会社、一体どんな会社なのでしょうか?そして、路線就航を実現させられるだけの実力はあるのでしょうか?

とりあえずネットで調べてみたところ、公式HPを発見しましたので、ここに掲載されている情報を基に検証してみたいと思います。ちなみに、この会社に言及したニュース記事は発見できませんでした・・・

 

www.jcas.co.jp

 

まずこの会社の概要ですが(公式HPより抜粋)

社名:ジェイ・キャス株式会社

設立:平成30年10月23日

代表取締役:白根 清司

資本金:2000万円

本社:東京都千代田区丸の内 郵船ビルディング1階

 

準備会社とは言え、航空会社の資本金としては2000万円は少なすぎる気がします。本社所在地が丸の内とはかなり凄いように見えますが、調べて見たら郵船ビルディングの1階はレンタルオフィスになっているようでした。恐らくジェイ・キャスもこのレンタルオフィスを借りて営業しているものと思われます。

www.servcorp.co.jp

 

次に代表取締役である白根清司氏について調べて見ましょう。ネットで検索して見るとジェイ・キャスとは他に「コノビイズコンサルティング」という航空関連専門のコンサルティング会社を経営しているようです。HP内の代表者経歴によると白根氏は元々日本航空の社員で、運航技術部を中心に勤務、技術部課長を最後に1997年5月に退職しています。その後は新規航空会社の立ち上げに関わったのち(どの会社かは不明)、2001年にコノビイズコンサルティングを立ち上げ、現在に至っています。

コノビイズコンサルティングの事業内容は運航規程や整備規程、形式証明飛行規程などの航空関係の規定の設定・改訂支援、国土交通省の認可・承認、航空関係の技術支援やコンサルティング業務などを行なっており、航空関係の認可申請のエキスパートと言う感じです。近年ではJALの航空機のWi-Fi搭載支援にも携わっており、コノビイズコンサルティングとしては実績は十分にありそうです。

 

www.conobbys.co.jp

 

それを踏まえた上でジェイ・キャスの事業計画を見ていきましょう。まずは事業概要から見ていきます。

 

・事業概要(公式HPより抜粋)

・運航コストの低いターボプロップ機を使用する

・関西・中部空港と地方空港を結ぶ近距離路線網を構築し、地方空港の活性化を図る

・JRに比肩する運賃を提供し、時間的に優位な交通手段を提供する

・多頻度運航による利便性向上と採算性の確保を実現する

・人・物・情報の新たな流れを創造し新たな雇用を創出する

・インバウンド旅客を地方に誘引し観光立国に寄与する

 

コンセプトとしては「地方路線の少ない関空・中部を拠点にJRと競合する短距離路線をターボプロップ機で多頻度・低運賃で運航」という感じでしょうか。そう考えると富山新聞の記事で言及された「関空~富山・能登・米子・岩国」はJRだと2~3時間圏内で行けるのでこのコンセプトに合致します。確かにこの範囲の路線であれば大手やLCCが手を出してくることはなさそうなので、競合が少ないニッチ市場であるとも言えます。

 

しかし、過去には似たようなコンセプトで参入を掲げながら破産していった準備会社はいくつも存在しました。私も動画を作った福岡ベースの準備会社「リンク」や、今年1月に破産した「エアリージョナルジャパン」。「リンク」は福岡と北九州を拠点に松山や宮崎への就航を目指していましたし、「エアリージョナルジャパン」は庄内や秋田から成田・関空への路線を計画していました。いずれのケースもコンセプトは悪いものではありませんが、資金調達に失敗したり、国交省や機体メーカーとの調整が不調に終わったりして事業開始のめどが立たず、最後は資金繰りに行き詰まって破産しました。

いずれのケースも十分な資金がなく、有力な後ろ盾もいなかったのが行き詰まりの原因であり、今回のジェイ・キャスも認可関係のノウハウはともかく、資金面では現時点で全く開設の見通しがなく、記事にある就航計画も資金的な裏付けのない絵に描いた餅と言えます。HPの社長挨拶も国交省の事業認可や資金調達をどうするかといった具体的な就航計画にも言及されておらず、どこか抽象的ですし、採用情報欄でも「現在募集していません」と、就航準備が進んでいる様子はありません。公式HPも2018年12月に開設された後更新されている気配もないので、正直、現段階では実現の可能性はかなり疑わしいと思います。

 

www.jcas.co.jp

 

もちろん、関空や中部の活性化や地方路線拡充の観点から言えばジェイ・キャスには就航に向けて頑張って欲しいですし、富山空港を拠点に考えてくれているのは本当にありがたいです。しかし、リンクやエアリージョナルジャパン、あるいはエア奄美のように、過去に似たようなコンセプトを掲げて失敗した準備会社が何社もある事、ジェイ・キャスもこれらの会社と似たような資金力や進捗状況であることを考えると、にわかには今回の就航計画を信じることはできないのです。

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

ジェイ・キャスにはまず事業継続に足りるだけの資金やスポンサー集めが急務でしょう。それには信用に足りるだけの具体的な就航計画や採算見通しを出す必要があり、このハードルをクリアできない限り、地方路線就航計画は本当に「絵に描いた餅」で終わってしまいます。過去の失敗した会社と同じ轍を踏まず、今度こそ地方路線拡充を実現して欲しいところですが・・・

 

【追記】

地元のローカルテレビ局「KNB北日本放送」でもこの話題が取り上げられました。このニュース映像に映った「使用予定の小型機」の画像を見る限り、機材はATR72になるのではないかと思います。就航計画については富山新聞で報じられた内容とほぼ一致しており、10月28日に富山市で会見を開き、説明するとしています。この会見で就航計画の詳細や進捗状況などが具体的に語られるのでしょうか?

また、恐らくこの会見をきっかけに富山県や富山県内の企業などに資金的な協力や就航へのバックアップを要請するかもしれません。この計画にどれだけの企業が賛同するのか、どれだけ行政や県民の支持が得られるのか。まずは28日のジェイ・キャスの会見に注目したいと思います。

www.knb.ne.jp

 

【10月28日追記】

本日富山市のANAクラウンプラザホテルでジェイ・キャスの事業説明会が開かれました。事業内容はおおむね報道の通りなのですが、富山県内関係の路線に関しては富山~関空線と中部線は1日各4往復、仙台線は2往復の計画です。機材は70~80人乗りの小型機としていますが、会場に飾られているモデルプレーンはデハビランドダッシュ8-400型でした。ダッシュ8シリーズはANAグループで使用実績があるので、ANAの支援を仰ぐつもりかもしれません。就航計画も富山・能登・米子・岩国とANAだけが就航している空港ばかりですし・・・

 

 

 

trafficnews.jp

headlines.yahoo.co.jp

 

www.knb.ne.jp

 

構想を実現するために必要な資金は30億円で、白根社長は会見で、このうち10億円程度を富山県内の企業から集めたいとしています。富山市内で会見を開き、就航計画を説明したのも、恐らく資金集めの一環ではないでしょうか。

できれば説明会の資料とかを見られればいいのですが、残念ながらジェイ・キャスのHPにアップされる気配はありません。県内外のメディアに取り上げられたことで注目度は集まると思いますが、計画を見る限りANAの協力を得られることが前提のように思えます。まずは就航に耐えられるだけの資金調達が可能かどうかが見極めのポイントになると思えます。IBEXエアラインズに出資したJDLや、FDAを立ち上げた鈴与のような大きなスポンサーを得られるかどうかが就航の分かれ道でしょう。では、ジェイ・キャスがそのようなスポンサーを見つけられる可能性はあるのでしょうか?推測ではありますが、ジェイ・キャスが富山で説明会を開いた理由がここにあるのではと思います。

 

スポンサー候補の会社が多いという意味では実は富山県は有望な場所でもあります。というのも富山県の上場企業数は26社と人口の割には多い方で、総数でも第18位、人口10万人当たりでは6位と上位に位置します。北陸電力が富山市に本社を構える他、大手地方銀行グループのほくほくフィナンシャルグループ、大手アルミ企業の三協立山アルミやスポーツ用品大手のゴールドウィンなどの有名企業や、ITベンダー大手のインテック、ジェネリック医薬品大手の日医工など、巨大企業とまでは行かなくともそれなりの規模を持つ企業が結構います。そして、これらの上場企業の経営規模はJDLや鈴与とそう変わりません。

この中のどこか1社でも出資に応じてくれればジェイ・キャスにとっては資金的な後ろ盾を得られるだけでなく、スポンサーの信用を得て銀行などの融資も受けやすくなるというメリットがあります。世間的な信用を得られるというのも大きなポイントです。ジェイ・キャスが他の就航地ではなく、富山で説明会を開いたのは拠点空港としての可能性以外にも、スポンサー確保の可能性が一番大きいと睨んだからではないでしょうか?

 

とは言え、航空業は初期投資の大きいわりに失敗する可能性が大きい業種。スポンサーに手を上げる会社はそう簡単には現れないでしょう。本気でスポンサーを確保するのであれば、ジェイ・キャスにはこれまで以上に具体的な就航計画や、実現性に足る事業計画を提示する責務があるのではないかと思います。それが出来なければ、就航前に資金調達に失敗し、破たんして夢破れた他の会社と同じ末路を辿ることになるでしょう。果たして、今回のジェイ・キャスはどちらになるでしょうか・・・

 

 

 ↓地域主導型の航空会社の成功例と失敗例。ジェイ・キャスはどちらになるんでしょうか・・・

 

 

 

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