〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

機材のダウンサイジングが進む日本の航空会社。世界的には「国内線に大型機」って少数派なの?

お待たせしました。東海道交通戦争最終章、新作を発表しました。今回は最近の関東~京阪神間の航空路線の現状と、スカイマークの倒産→再建について。現在YouTubeでのみ公開ですが、近日中にニコニコでもアップする予定です。今後はYouTubeはスパム対策も兼ねて映像の比率を多くしますが、「静止画中心の方が見やすくていい」と言う方もいらっしゃいますので、ニコニコ版は静止画の比率を多くしてアップしようと思います。

 


東海道交通戦争最終章7「東京~大阪航空路線の現在、そして巨大飛行機の夢と挫折」

 

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さて、今回は機体のダウンサイジングが進む日本の航空業界について。

日本の航空業界は1970年代以降、急速に大型化が進みましたが、羽田空港の慢性的な発着枠不足や、伊丹空港が騒音問題でジェット機枠が制限されたことで、各社とも輸送力確保の為、より大型の機材を飛ばすことで対応せざるを得ませんでした。

その象徴ともいえるのが国内線専用機のボーイング747。1972年に日本航空がSR型を導入したのを皮切りに、2014年にANAが400D型を退役させるまでの42年間、幹線を中心に一部高需要地方路線にもジャンボが就航しました。使用された延べ機数はJALが21機、ANAが29機の合計50機(途中で国内線用に改修された機体も含む)。アメリカの航空会社が導入当初に大陸横断路線用に747を使用したケースや、カンタスが同時多発テロ後で国際線の需要が減った一方、ライバルのアンセット航空の破産で一時的に国内線の供給量が減った時期に747-400を国内線に廻したケース、中国国際航空、大韓航空などが国際線の間合い運用で747を使用したケースはありますが、日常的に国内短距離路線に就航させ、専用のモデルまで発注したケースは日本くらいです。

 

 

それ以外でもJALはDC-10、ANAはL1011トライスター、JASはA300を国内幹線や高需要ローカル線に集中的に投入し、日本の国内線は大型ジェット機が飛び交うのが当たり前の光景となりました。

その傾向が最も顕著だったのは1990年代ではないでしょうか。45・47体制廃止後航空需要の伸びが一番大きかった時期であり、大抵の空港のジェット化が完了したり、羽田空港の沖合展開や関西空港開港などで国内線の発着枠が増加した事もあって、参入の縛りが無くなった各社がお互いのドル箱路線に進出して一番国内線が拡大した時期でもあったと思います。

1990年代後半の国内線に就航していた機種を大まかに分けると、羽田~札幌や福岡などの幹線はボーイング747か777。羽田~小松・広島・鹿児島などの高需要地方路線は747、777、A300、767あたり。羽田~釧路・岡山・高知クラスのそこそこ需要がある地方路線は767、A300が基本でたまに777が入ったり、逆にA320やMD-90が入ったりする。羽田~根室中標津や石見のような低需要地方路線や札幌、福岡、名古屋発着地方路線は737やMD-81などの単通路ジェット機と、ジェット機が就航できる空港では極力ジェット機を入れるような機材運用でした。

プロペラ機はジェット機の就航が不可能な路線や鹿児島~岡山など単通路ジェット機では大きすぎる路線に限定されてましたし、その空港の滑走路で就航できる最大の飛行機をできるだけ入れているような印象でした。2000年代前半まではそんな感じの運用だったのではないかと思います。

 

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転機となったのは2010年の羽田空港のD滑走路完成とJALの破たん。羽田空港のD滑走路完成で発着枠がとりあえず余裕が出た事で以前よりも便数を増やすことが可能になるとともに、スカイマークやエアドゥ、スカイネットアジア航空(現ソラシドエア)にスターフライヤーと大手2社以外の航空会社が参入した事で便数や供給座席数が増えた事で、大型機を飛ばすのは搭乗率低下でかえって効率が悪くなってきます。かつては747が普通に飛んでいた羽田~函館や小松、松山などの路線は777や767が中心になり、場合によっては737クラスの単通路機も入るようになりました。

そしてJALの破たんはそれまで減価償却やパイロット訓練の問題などで処分するにできなかった747やA300などの大型機の退役を加速させることになります。破たんの翌年には747-400は全機退役、A300も東日本大震災で退役が延期されたものの、2011年5月末で退役し、JALの機材は急速にダウンサイジングしました。国内幹線は777と767、高需要地方路線は767と737が主力となりますが、以前は大型機が就航するのが当たり前だった羽田~広島・松山・高松線などの路線でも全便737での運航になるなど目に見える形でダウンサイジングが進みました。

 

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さらに小型化が顕著だったのが伊丹や福岡発着路線で、伊丹発着路線は地方路線はほぼ全便エンブラエルになり、破たん前はMD-81を中心に運航されていた福岡ー宮崎線や鹿児島ー奄美線がダッシュ8-400に、福岡ー松山がサーブ340の運航になるなどプロペラ機の運航になってしまいました。その代わりに便数は破たん前よりも増え、中にはジェット機時代の倍の便数になったケースもありました。飛行機が小さくなったことを嘆くか、便数が増えた事を喜ぶかは人それぞれですが、「大型の飛行機が1日3〜4便程度運航される」日本の国内航空路線の姿は過去のものになりつつあると言っていいでしょう。

 

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ところで、国内線に大型機を投入するのは日本だけかと思ってましたが、気になって調べてみると意外と大型機が国内線を飛ぶケースは少なくないようです。そこで世界各地の主要都市を結ぶ路線を中心に調べてみました。

 

まずは世界最大の航空大国アメリカ。羽田~札幌のような国内幹線に相当するのはニューヨーク~ワシントン線やロサンゼルス~サンフランシスコ線、シカゴ~ヒューストン線などがあげられますが、大型機が飛ぶことはまずなく、大きくても737-900やA321、場合によってはERJやCRJと言ったリージョナルジェットが就航しています。特に調べて驚いたのがニューヨーク~ワシントン線で、半数以上の便がリージョナル機の運航でした。まあ、ニューヨーク側とワシントン側で複数の空港に分かれているので需要が分散しているとも考えられますし、この区間はアムトラックのアセラも運航されているのもあると思いますが、幹線でリージョナル機が主体と言うのは日本では考えられませんね。

ただし、これが距離のある路線となると話は変わってきます。例えばニューヨーク~ロサンゼルス線はアメリカン航空はA321が主力ですが、デルタ航空はA330や767、ユナイテッド航空は767や787など大型機が主体となっています。ロサンゼルス~ホノルル線も767やA330、場合によっては777も投入されるなど大型の機体の比率が多くなっています。今では737やA320でもアメリカ大陸横断は余裕ですが、やはり需要が大きく、かつ飛行時間の長い路線では大型の機体が好まれる傾向にあるようです。

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続いて欧州。こちらは国内線が成立するほど国土は大きくない国が多いので、EUというくくりで見て見ました。ロンドン~フランクフルトやパリ~ローマと言った大都市間の短距離路線はA320シリーズだらけ。これについては欧州の主だったフラッグキャリアはA320シリーズのみを採用する会社が多いので、737は分が悪いというのもあるのですが共通しているのは大型機を運航するほどではない、と言う事。LCCとの競争が激化している欧州では悠長に短距離路線に大型機を飛ばしているわけには行かなさそうです。

但し、そんな中でも例外的に国内線に大型機を飛ばしている国があります。そう、世界最大の面積をもつおそロシア。流石に短距離路線は小型機主体ですが、モスクワ~ウラジオストックやハバロフスク線と言った大陸横断路線には777やA330といった大型機が充てられています。航続距離の問題もあると思いますが、国内線で長距離国際線用機材が普通に充てられるのはさすがはロシアの広大な国土と言うべきでしょうか。

 

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一方のアジアでは意外と国内線でも大型機が投入されるのはそう珍しい事ではなさそうです。例えば中国の北京~上海線。飛行時間は2時間強と世界的には短距離路線に分類されますが、やはり需要の絶対数が大きいからかA330やA350、787や777と言った大型機が平然と飛びまくっており、日本の国内幹線とそう変わらない光景です。上海~広州になると小型機の比率が高くなりますが、それでもA330や777は結構飛んでいますし、上海~成都でも大型機は使用されています。ただ、それでも北京~大連などの大都市間でない路線は小型機が主体の様です。

韓国は国土の大きさから考えて国内線はそれほどないように思われますが、実は利用者数、運行本数とも世界一の巨大路線のソウル~済州線を抱えています。この路線は世界最大だけあってFSCの大韓、アシアナに加えLCCのチェジュ、ティーウェイ、イースターや大韓系LCCのジンエアー、アシアナ系LCCのエアソウルが就航する激戦区で、運航される機体も737やA320が多いのですが、それでもA330や767、777も就航しています。

 

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東南アジアはどうでしょうか。タイのバンコク~チェンマイ線は基本的に小型機主体ですが、タイ国際航空運航便は777やA330が就航しています。これは小型機は子会社のタイスマイルに移管して自社では保有していないのもあるのですが、それなりに需要の大きい路線であるとも言えます。また、ベトナムのハノイ~ホーチミン線や、インドネシアのジャカルタ~デンパサール線などでも少数ですが大型機が運航されています。

そして中国同様人口の多いインド。世界5位のデリー~ムンバイ線は基本的には小型機での運航ですが、エアインディアとジェットエアウェイズは国際線の間合い運用で大型機を飛ばしています。インドは今後の経済成長が期待できますので、将来的には国内線で大型機運航と言う光景はもう少し増えるかも知れません。

 

その他の地域ですが、オセアニアはシドニ~メルボルンやシドニー~パースでカンタスがA330を運航しているケースがあります。メルボルンは短距離ながら世界二位の利用者を誇り、パースは飛行時間の長い大陸横断路線ですからこの結果は納得です。南アフリカでも利用者の多いヨハネスブルグ~ケープタウン線で南アフリカ航空が、トルコのイスタンブール~アンカラでトルコ航空が大型機を飛ばしているケースがありますが、これは1日1~2便程度なので、国際線の間合い運用と考えたほうがよさそうです。また、サウジアラビアのリヤド~ジェッタ線はサウジアラビア航空が大型機をバンバン飛ばしています。この路線も利用者数の多い路線ですが、メッカ巡礼の需要もあるので大型機が日常的に必要なのではないかと思います。ちなみに南米の国内線で最も需要の大きそうなブラジルのサンパウロ~リオデジャネイロ間は大型機の運航はなさそうです。だってメーデー民が最も着陸したくないコンゴーニャスがあるから大型機は飛ばせないし。

 

こうしてみると国内線で大型機を飛ばしているケースは世界的には決して多くはないものの、そう珍しいものでもないことがお分かり頂けるのではないかと思います。その多くはアメリカやロシアのように長距離だったり、国際線の間合い運用だったりするのですが、アジアでは割と大型機が国内線で運用されているケースが多かったのには驚きました。これもアジアの人口の多さと経済成長率の高さを示しているのではないでしょうか。少なくともアジア地域に限ってみれば、「国内線で大型機がひっきりなしに飛んでいる」と言うのは別段珍しい事ではなく、日本だけが特殊、という訳でもなさそうです。

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