〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

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西日本JRバスが地方間夜行高速バスの開設に積極的なワケ

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西日本JRバスと中国JRバスは12月13日(金)から富山・金沢~岡山・広島間を走る夜行バス「百万石ドリーム広島号」の運行を開始します。政令指定都市が発着地でない夜行高速バスは異例の事で、同様のケースは6月21日に運行開始した「北陸ドリーム四国号」に続いて2例目になります。

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「北陸ドリーム四国号」の運行開始時も「こんな路線作って採算取れるの?」との疑問の声が上がりましたが、蓋を開けてみると利用率は60~70%と堅調な数字。「百万石ドリーム広島号」に関しても、国土交通省の全国幹線旅客純流動調査によると北陸三県~岡山・広島間の旅客流動は年間53万8千人あり、なおかつ両者を直接結ぶ交通機関がないため、勝算ありと踏んだ結果の参入の様です。

 

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以前から西日本JRバスは北陸からの夜行高速バス開設に積極的で、2008年には富山・金沢~名古屋間の「北陸ドリーム名古屋号」を開設し、2017年には金沢・富山~仙台間で「百万石ドリーム政宗号」を土日祝日運航で開設(翌年からは毎日運航)。そこへきての四国と山陽地区への路線開設ですから、いかに西日本JRバスの高速バス事業が好調かが分かります。

 

しかし、全国的に見ればバスの運転手は慢性的に人手不足。特に夜行高速バスは昼夜逆転の勤務体系や一度出発すると3日間は帰ってこれない長丁場な業務、夜行の為ツーマン運航か途中のSAでの長時間休憩が必要になるなど昼間の高速バスよりも余計に人手がかかります。それ故相対的に人件費の高い大都市圏のバス会社は夜行高速バスから手を引くケースが相次ぎ、運行は地方のバス会社で大都市側の会社は予約や支援業務のみ、というケースが増えています。そう考えると西日本JRバスの路線開設ラッシュはその傾向に逆行しているように見えますが、なぜ他の会社よりも新路線の開拓に積極的になれるのでしょうか?

 

 

その秘密はJRバスグループ独自の運行管理体制にあります。元々JRバスは国鉄の自動車部門にルーツを持っており、「ドリーム号」に代表される夜行高速バスのノウハウは古くから有していました。国鉄時代からドリーム号は静岡県の三ケ日で乗務員を交代しており、この方式は全国のJRバスに広がっています。

例えば金沢~東京間の夜行高速バスは長野県の湯ノ丸SAでJRバス関東と西日本JRバスの乗務員が交代する方式を取っており、北陸ドリーム四国号や百万石ドリーム広島号は西日本JRバスの京都営業所で乗務員を交代。つまり、行程の中間地点で乗務員を交代させる変則ワンマン運転を採用しており、運転手の負担軽減と効率的な運用で路線の維持・拡大に成功しているのです。中間地点には乗務員交代と運行管理の為の営業支店を置くか、既存のJRバスの支店を活用。これも全国各地に営業拠点があった国鉄⇒JRバスの資産や国鉄バス時代からのJRバス各社の協力関係が有効活用されていると言っていいでしょう。

この方式なら乗務員も4~6時間程度の運転時間で交代することができ、支店でゆっくり休んで次の日の夜行で引き返せばいいですから、身体的・時間的な負担は軽減されます。また、中間地点に乗務員拠点を置くことで運転手の勤務シフトが組みやすくなり、万が一のスタンバイ要員の確保や派遣も容易です。新路線の開設に関しても他社よりは運転手の融通の心配をしなくても済みますし、共同運行の相手は同じJRバスですから会社間の調整も比較的容易でしょう。ある意味、今のJRバスの立ち位置は高速バス路線の運行に適していると言えます。

www.jrbuskanto.co.jp

 

www.jrtbinm.co.jp

 

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これでJRバスグループが新規路線の開設をしやすい立ち位置にある事はお分かり頂けたと思います。では西日本JRバスはなぜここに来て新規路線の開設に積極的になったのでしょうか?

西日本JRバスにとって一番大きな需要があるのは大阪・京都・神戸からの高速バス路線ですが、この路線には阪急バスや南海バスなどの大手私鉄系のバス会社も路線を多数開設しています。特に一番のドル箱と言える京阪神~四国間の路線は私鉄系の会社や四国側のバス会社などの路線と競合する激戦区。路線に関しても一通り開拓された後なので、まだ路線がなく、競合の可能性も少ない路線を探した結果が北陸~四国の高速バス路線だったのではないでしょうか。

 

では、次に開設の可能性があるとしたらどの路線になるのでしょうか?北陸ドリーム四国号のデータを基準に、前述の全国幹線旅客純流動調査から予想してみましょう。

まず基準となる北陸ドリーム四国号のデータですが、北陸~徳島・香川・高知間の旅客流動を調べて見ると年間13.8万人。北陸ドリーム四国号に使用されるバスは28人乗りですから、28人×往復×365日で年間の提供座席数は20,440席。乗車率60%としたら年間の推定利用者数は約1万2200人という事になり、前述の旅客流動の人数で割ると約8.9%のシェアを取る計算になります。もちろん、他の交通機関の本数や所要時間などにも左右されますので一概には言えないと思いますが、大体旅客流動の1割程度、1万2~3千人程度が見込めるのであれば開設の可能性は十分に考えられます。

また、夜行路線を開設するには概ね300~350kmの範囲内で中間地点を設ける必要があります。1日1~2往復程度で新規に営業所を開設するのは難しいと思うので、既存の西日本JRバスの営業所を活用する、という前提で路線を考えてみたいと思います。

 

まず真っ先に考えられるのは富山・金沢・福井~米子・松江・出雲間。北陸~山陰間の旅客流動は17.2万人と北陸ドリーム四国号よりも多く、なおかつ北陸ドリーム四国号や百万石ドリーム広島号のようにダイレクトに結ぶ交通機関が存在しません。乗務員交代に関しても前述の2路線同様、京都営業所で交代すれば十分対応可能です。出雲大社ブームもありますし、高速バス1往復程度なら十分やって行けるのではないでしょうか?

次に可能性があるのは北陸~松山路線。こちらの旅客流動は年間11.8万人と少なめですが、愛媛県は北陸ドリーム四国号で唯一カバーできていませんし、丸亀や坂出と言った北陸ドリーム四国号が通らない香川県西部にも停車すれば何とか基準はクリアできるのではないかと思います。ただ、富山~松山間は700km以上あるので、夜行運転の乗務員の運行距離最大400kmという基準を考えると大阪での交代になるか、金沢発にしてしまうかも知れません。

そしてもう一つ有力なのが北陸~静岡の路線。北陸3県~静岡の旅客流動は年間72万人と岡山・広島よりも多く、しかもダイレクトにつなぐ交通機関がありません。東海道新幹線乗り継ぎにしても米原での接続は良くないので、この区間は意外と夜行高速バスの需要はあるのではないかと思います。やるとすれば富山⇒金沢⇒福井で北陸道経由と福井⇒金沢⇒富山で東海北陸道経由のどちらになるか、浜松や掛川・磐田と言った途中の都市にも止めるのかといった問題がありますが、乗務員交代できそうなのがJR東海バスの名古屋支店しかなさそうな事を考えると北陸道経由になるのではと思います。細かく停車して需要を拾っていけば勝算は十分あると思うんですがどうでしょうか?

 

 

こうして見ると発表時は無謀に見えた北陸発着の地方間路線も、意外と開拓の余地がある事がお分かり頂けるのではないかと思います。西日本JRバスのこうした試みが上手く行けば、他のJRバスもこれまで考えられなかったようなルートでの夜行高速バス路線開設を試みるかも知れません。まずは13日から運航開始する「百万石ドリーム広島号」が上手く軌道に乗って欲しいところです。この路線が成功すれば、北陸ドリーム四国号の成功は決してまぐれでは無いことが証明され、地方間の夜行高速バス開設の弾みになるのではないでしょうか。

かつて「東海道昼特急」という、従来の常識では考えられないような長距離昼行高速バスを作って成功させた経験のある西日本JRバス。果たして「百万石ドリーム広島号」を成功させて地方間夜行高速バスのパイオニアとなれるのか。個人的には是非成功させて他の路線も開拓して行って欲しいなと思います。

 

 

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