- 個人的に好きだった飛行機・空港愛にあふれた漫画でした
- 「前略 雲の上」の大まかなあらすじと世界観
- 「前略 雲の上より」の4つの魅力
- 魅力①綿密な取材に基づいた空港や飛行機の描写
- 魅力②かゆいところに手が届く「空港小ネタ」
- 魅力③空港グルメや観光など飛行機に詳しくなくても楽しめる要素
- 魅力④変態個性的なキャラクター
- ・まとめ
個人的に好きだった飛行機・空港愛にあふれた漫画でした
最近私が注目しているのが「前略 雲の上より」というマンガ。一言で言えば「空港や飛行機の魅力やあるあるを紹介する漫画」であり、月刊エアラインなどの航空系雑誌でも度々紹介されているので、航空ファンの方ならご存知の方も多いかと思います。
・・・が、先日公式Twitterで「最終回」の文字を見て驚きました。基本単行本派だったのでまだ最終回は見ていませんが、結構ショックです・・・現在は単行本は6巻まで出ていますが、この分だと次に出る7巻が最終巻になるのでしょうか?今のところは電子書籍版で買っていますが、布教用に単行本も買おうかな・・・
突然の最終回、驚かせてしまい
— 前略 雲の上より (@zenryakukumono) January 28, 2020
すみません!
皆様に愛されて飛び続けて参りましたが、しばし羽を休ませたいと思います。
空港と飛行機がある限り
桐谷と課長は永久に不滅です! pic.twitter.com/CwBqdEIklh
そんなわけで今回は今更ながら「前略 雲の上より」の魅力をネタバレにならない程度でお伝えしてみようと思います。とは言え、作品の画像をベタベタ貼り付けるのも著作権的にはよろしくないので、私が撮り溜めた飛行機や空港の画像を使ってご紹介します。ちょっとでも作品の魅力が伝わって単行本を買おうという気になってもらえると幸いです。
「前略 雲の上」の大まかなあらすじと世界観
物語はとある企業の若手社員、桐谷健一が初めての出張で北海道に向かう所から始まります。彼はいわゆる「意識高い系社員」で、ビジネスでの成功以外には興味がなく、初めて乗る飛行機も「ただの交通手段」と冷めた様子。しかし羽田空港に到着して同行する竹内課長と出発ロビーで合流すると思いきや、電話で課長に呼び出されたのは展望デッキ。飛行機初心者の桐谷は課長から空港や飛行機に関してのダメ出しを受け、空港を堪能する課長に振り回されます。そう、竹内課長は飛行機と空港に対して異常なまでの愛情を注ぐ、生粋の飛行機オタクだったのです(本人は否定も肯定もしていませんが)
・・・という感じで、基本的には飛行機に興味がない桐谷が出張のたびに最強の飛行機オタクである竹内課長に日本各地の空港を連れまわされ、飛行機や空港の魅力を叩きこまれる、という内容の1話から2話完結のオムニバスストーリーになります。取り上げられた空港は羽田や伊丹、関空と言った主要空港はもちろん、仙台や鹿児島と言った地域の拠点空港や、庄内や松本と言ったローカル空港、八丈島などの離島空港まで様々。空港の見所(一部マニア向け)や空港グルメ、展望デッキからの飛行機の離着陸風景や空港周辺の観光スポット(半分はマニア向け)や撮影スポット(完全にマニア向け)を紹介してくれるので、航空ファンはもちろん、旅行や出張などで飛行機を利用する機会のある人も楽しめるのではないでしょうか。
最終的に取り上げられた空港はいくつ?
作品内で取り上げられた空港は以下の39空港です(一部単行本未収録の回もあり。抜けている空港が会ったらごめんなさい)
北海道(6)
新千歳空港、さっぽろ丘珠空港、女満別空港、釧路空港、とかち帯広空港、函館空港
東北(5)
青森空港、秋田空港、仙台空港、山形空港、庄内空港
関東(3)
羽田空港、成田空港、八丈島空港
中部(6)
新潟空港、松本空港、静岡空港、富山空港、小松空港、中部国際空港
近畿(3)
大阪伊丹空港、関西国際空港、南紀白浜空港
中国(4)
岡山桃太郎空港、広島空港、山口宇部空港、出雲空港
四国(3)
高松空港、松山空港、高知空港
九州(7)
北九州空港、福岡空港、長崎空港、熊本空港、宮崎空港、鹿児島空港、沖永良部空港
沖縄(2)
那覇空港、宮古空港
日本で定期路線が就航する空港は86ですから、まだ半分も行っていなかったんですね。利用者数100万人以上の空港だと旭川空港、県営名古屋空港、神戸空港、徳島空港、大分空港、石垣空港がまだ登場していませんし、それ以外でも行政機関が入居し道の駅指定された能登空港や昨年定期路線が復活した下地島空港、伊豆諸島のコミューター路線専門の調布飛行場にLCC仕様の茨城空港などネタになりそうな空港はまだまだ多いだけに、連載終了は本当に残念です。
個人的には県営名古屋空港に行って元国際線ターミナルのエアポートウオーク名古屋を堪能する課長を見て見たかった・・・
「前略 雲の上より」の4つの魅力
それでは、ここからは個人的「前略 空の上より」の魅力を解説していきましょう。
魅力①綿密な取材に基づいた空港や飛行機の描写
原作者の竹本真先生は日本全国ほぼ全ての空港に訪れたそうで、この漫画も竹本氏の実体験に基いたネタが結構あります。また、竹本先生や作画担当の猪乙くろ先生も執筆前には実際に空港に行ってロケハンもしますし、単行本には竹本氏の空港ごとの裏話なども掲載されています。
それだけに漫画で描かれる空港や飛行機の描写は忠実そのもの。空港だけでなく周辺の風景も丁寧に描かれていて、漫画を見ているだけで空港に行った気にさせてくれますし、実際に行ってみたいと思わせてくれます。個人的には地元の富山空港の回で出てきた神通川の河川敷の絵がツボでした。飛行機と神通川と立山連峰のコントラストは絵になる風景ですが、実際に足を運ばないとそれだけの絵は描けないと思います。
魅力②かゆいところに手が届く「空港小ネタ」
この漫画の魅力は、普通ならスルーしてしまうようなネタも丁寧に拾っているところ。例えば秋田空港の回で出てきた記念コイン。普通ならなまはげの等身大モニュメントや釣りキチ三平のレリーフで十分満足するところですが、辛うじて記念コインにその姿をとどめるかつてのシンボルキャラクターにスポットを当てるあたり、この漫画のディープさを表しています。
また、マニアが喜びそうな空港内の施設を紹介しているのもこの漫画の特徴。大多数のなど年末に仙台空港を訪れた際は、この漫画に出てきた「とぶっちゃ」にも実際に行って実際のビジネスクラスの座席やA300-600Rのコクピットを見てきました。この漫画を見てなかったら多分スルーしてたかもw
魅力③空港グルメや観光など飛行機に詳しくなくても楽しめる要素
とは言え、ディープな空港小ネタに特化していたら飛行機マニア以外の支持は得られず、もっと早く連載が終わっていたと思います。「前略 雲の上より」は「空港のおすすめスポット紹介漫画」の要素もあったからこそ、ここまで連載が続いたのではないかと思います。
特に充実しているのは「空港グルメ」。大抵の空港ではその空港内のレストランなどで食べられる「空港グルメ」を紹介しています。一例を挙げると関西空港のスカイホール「コンコルド」の機内食(昨年12月で閉店)、富山空港のブラックラーメン、鹿児島空港の鶏飯バイキング、南紀白浜空港のパンダカレーなど。「空港グルメ」の描写だけを見ても、空港で時間をつぶすのも悪くないなと思わせてくれます。
また、空港やその周辺の観光スポット(ただし半分は飛行機絡み)を紹介してくれるのもこの作品の魅力。例えば出雲空港の縁結びスポットや松山空港のミカンジュースが出る蛇口など、飛行機ファンでなくとも興味をそそるスポットが紹介されています。また、空港周辺の見どころにも触れてくれるので観光気分も楽しめます。鹿児島・宮崎空港や帯広空港での女子会旅行回では後半は観光スポットの紹介が中心でしたし、松本空港の回では空港そのものよりも隣接するスポーツ公園の紹介のほうがメインになっていたくらいです。
その一方で熊本空港や富山空港などの飛行機撮影スポットや飛行機が眺められる公園、小松空港向かいの航空プラザなど、マニア向けのスポット紹介も充実しています。特に注目なのが度々登場する「ミニ滑走路」。事あるごとに竹内課長は桐谷にミニ滑走路からの「離陸」を強要しており、その度に桐谷が断固拒否したり何かと理由を付けて回避しようとするのが「お約束」になっています。
・・・桐谷でなくとも普通の感覚を持った人なら大の大人がミニ滑走路で飛行機ごっこするのは嫌だと思いますがw
魅力④変態個性的なキャラクター
そして、「前略 雲の上より」の最大の魅力と言えるのが一癖も二癖もある変態個性的なキャラクターでしょう。この多彩で特徴的なキャラクターがいたからこそ、「前略 雲の上より」は単なる空港紹介漫画にとどまらず、読者の心をひきつけたのではないかと思います。
まずは主人公の桐谷や竹内課長のいる営業一課に所属する女子社員の繭田さん。一見するとちょっと気の強い感じの美人女子社員ですが、寝るのが大好きで快眠できる環境を研究した結果「飛行機で寝るのが一番気持ちいい」という結論に達し、「寝るためだけに飛行機に乗る」という常人には理解できない趣味を持っています。まあ、確かに乗り物でうたたねするのって結構気持ちいいですが、寝るためだけに高い金出して飛行機に乗る人なんてまずいないですから、繭田さんは立派な変態です(それ以外は比較的まともなんですけどね)
そして営業一課にはもう一人、橋本さんという女子社員がいます。こちらは繭田さんのような変態要素はありませんが、お姉さんの旦那さん(既に故人)がパイロットなので飛行機と無縁というわけでもありません。その橋本さんの姪で大阪在住の西野チカは亡き父の面影を飛行機に求め、バイトでお金を貯めてはLCCに乗りまくっているなど、なぜか飛行機に縁のあるキャラクターが多いです。この他にも空港カメラ女子で密かに竹内課長の弟子入りを狙っている経理課の育山さんや、その育山さんが好きだけど高所恐怖症の菊坂さん、物語後半に登場し、営業一課に配属されたアイドル並みの容姿とオーラを持ちながら実は竹内課長並みに強烈な飛行機マニアの星野聖子といった飛行機に縁のある女性キャラクターが物語に花を添えてくれます。ともすれば男性キャラばかりになりがちなテーマや内容なだけに、個性的な女性キャラが航空ファン以外の男性読者を繋ぎ止めたと言っても過言ではない?
一方、飛行機のライバルと言えば鉄道ですが、鉄道側の代表(?)として竹内課長の前に立ちはだかるのが鉄道好きな変態社員が集まる営業二課の渡丈一郎。桐谷を営業2課に引き抜こうと、事あるごとに課長と桐谷の出張先に現れては鉄道の魅力をアピールしようとします。小倉出張に行くのにわざわざ終点の博多まで乗って引き返す「博多返し」で大喜びしたり、静岡駅を通過する「のぞみ」に拍手喝采したりと中々の変態ぶりですが、実はかつて竹内課長の営業一課にいた過去があり、昔は桐谷以上の「飛行機好き」だったようです。それがなぜ飛行機嫌いになり、鉄道に走ったのか。渡の過去と心情の変化も見どころの一つ(?)です。
とまあ、様々な変態個性的なキャラクターがいますが、一番の変態はもう一人の主人公である竹内課長でしょう。この人の飛行機と空港に対する知識と愛情は作品中ダントツであり、その反動からか、異常なまでに鉄道(特に新幹線)を毛嫌いしています。「飛行機マニア以外の人も楽しめる」と書きましたが、事あるごとに鉄道をディスりまくる竹内課長の言動はかなり過激なので、鉄道大好きな人は読まない方が良いかもしれません(笑)
竹内課長は普通の人はもちろん、並みの飛行機マニアでも絶対にやらないような様々な伝説を作っています。飛行機に乗るときは2時間前に空港に着いて飛行機と空港を堪能するのは序の口。この人は飛行機と空港を堪能するためなら(そして大嫌いな新幹線を回避するためなら)どんなことでもしますし、飛行機を愛するあまり物議を醸す発言をしたり変態的な特技を身に着けていたりしています。その一端をご紹介しましょう。
・朝食を食べに行くためだけに飛行機で山口宇部空港に行く
・「飛行機より電車のほうが良い」と言った子供にマジ切れし「あんな地べたを這いずる乗り物を好きになったら一生浮かぶことのないみじめな人生を送ることになるぞ!」と凄む
・飛行機の傾きだけでどのあたりを飛んでいるかが分かる
・エンジン音だけで機種を言い当てる
・スケジュールに6時間の空きができると八丈島往復して時間を潰した
・新幹線を回避するために女子会内の仲間割れを煽って飛行機に乗らざるを得ない状況を無理やり作り出した
・静岡出張の際、新幹線を回避するために無理やり福岡のアポをねじ込んだ(しかも往復分)
・・・書けばまだまだ出てくるのですが、これだけでも竹内課長の変態特異ぶりがお分かり頂けるでしょう。
しかし、この「極端な飛行機オタク」な竹内課長と「飛行機には興味ないが潜在的な飛行機オタクの素質はある」桐谷のコンビは飛行機や空港の魅力を伝えるには最適な組み合わせでした。マニア的な視線は竹内課長、一般人的視線は桐谷が受け持つことで双方の視点から空港や飛行機の魅力を楽しむことができたからこそ、この漫画が航空ファンとそれ以外の読者の支持を受け、長く続いたのではないでしょうか?これら4つの魅力がかみ合わさった事で「前略 雲の上より」は魅力的な作品になったのではないかと思います。
・まとめ
以上、自分なりに「前略 雲の上より」の魅力を書いてみました。鉄道旅をテーマにした漫画は「鉄子の旅」「駅弁ひとり旅」などそれなりにありますが、飛行機旅をテーマにした漫画は恐らくこれが初めてだと思いますし、長く連載が続いていただけに連載終了は本当に残念です。最終巻となる第7巻は2月21日発売予定ですので、敢えて続きは読まず、単行本発売の楽しみに取っておこうと思います。そしていつか、連載再開して残りの空港や海外の空港もやってくれると嬉しいですね。
・・・単行本が売れればいつか連載再開してくれるかな?
【2月24日追記】
2月21日に最終巻の7巻が発売されました。桐谷の2課移動騒動も無事(?)決着し、いつもの雰囲気に戻ったところでの連載終了だったので、せめてもう少しいつもの桐谷と課長の掛け合いを堪能してから終わって欲しかった・・・というのが正直なところです。
ですが最終回で取り上げられた成田空港で、課長の奥様登場と言う爆弾(そしてもれなく重度の飛行機オタクという変態淑女)を投下するあたり、最後の最後まで振り切ってくれたなあとある意味安心しましたwこのまま転職して世界の空港紹介をやってくれても良かったんですが、桐谷の「俺は飛行機乗りとして国内でまだ何の実績も成し遂げていない」という〆の一言は謎の変態イケメンカッコよさがあってよかったです(遂にそっち側に行ったか・・・)ある意味連載再開しても大丈夫な終わり方だったのに安心しました。
・・・と思ったら原作者の竹本真先生のコメントでは「成田空港は最初の構想では最終回用ではなく、3回ぐらい出したい空港だったけど終わるという事で急遽登場させた」そうで、今回の連載終了自体、作者サイドとしても急な話だったようです。この話自体も最終回用に構想されたものではなく、元々成田空港の1回目の話として考えられたものを最終回に廻したそうで、そう考えると作者のお二人としても不本意な形での終わり方だったのかも知れません・・・
連載終了は本当に残念ですが、どんな形でもいいのでいつかまた復活させてほしいと思います。そして、今からでもいいので少しでも興味を持たれた方は是非作品を手に取って頂きたいと思います。少しでも作品が売れれば連載再開に近づくかも知れませんから・・・