11月19日、ANAとJALは2020年夏ダイヤからの羽田空港国際線発着枠増加に伴う国際線のダイヤを発表しました。大方の予想通り、北米路線を中心に成田→羽田へのシフトが目立つ内容となっています。今回は両社のプレスリリースやニュース記事を基に、羽田発着枠増加後のANAとJALの羽田・成田の国際線勢力図を見て見たいと思います。
↓これまでの流れは以下の記事も参照して下さい。
ANAグループ
ANAへの羽田発着枠割り当てはアメリカ6枠、中国2枠、オーストラリア・ロシア・イタリア・トルコ各1枠、スカンジナビア3国(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)で1枠、インド0.5枠(もう0.5枠は早朝深夜枠活用)の合計13.5枠。今回ダイヤが発表されたのはアメリカとオーストラリア、インド路線ですが、そのほかの地域についても就航先が発表されています。地域ごとに羽田に新設・増便される路線、成田から撤退する路線を見ていきましょう。
羽田発路線
3月29日から就航(各1日1往復)
サンノゼ・シアトル・ヒューストン・ワシントンDC・デリー・ホーチミン
3月29日から増便
ロサンゼルス(1日1往復→2往復)
3月29日から運休(1日1往復)
ハノイ
夏ダイヤ期間中に開設(1日各1往復)
サンフランシスコ・モスクワ・ミラノ・イスタンブール・ストックホルム・青島・深圳
夏ダイヤ期間中に増便
シドニー(1日1往復→2往復)
夏ダイヤが始まる3月29日から一斉に開設、という訳ではなく、初日から運航されるのはサンフランシスコ以外からのアメリカ路線4路線とデリー線のみのようです。3月29日からの路線は後述する成田発着路線からの移管になるので、単純に成田から羽田に移すだけ、とも取れます。夏ダイヤ期間中に開設される路線はいずれも新規開設路線となりますので、相手国との交渉や機材や人員の準備が整った路線から順次開設していくのでしょうか?
羽田に移す路線で注目なのはヒューストン線とワシントンDC線。羽田~ヒューストンは提携相手のユナイテッド航空も申請していましたが却下された路線。その代わりにANAが就航させるという事でしょうか?また、ワシントンDCへ就航しているのはユナイテッドとANAのみですが、ユナイテッドに引き続きANAも移転を決めた事で、日本~ワシントンDCへの路線は羽田のみとなります。一方、サンフランシスコ線の開設とロサンゼルス線の増便、シアトル、サンノゼ線の成田からの移管で西海岸路線は一気に4路線5往復に増えることになります。アメリカ路線全体で見ても9路線10往復に増えることになり、ANAの羽田発着路線の存在感はさらに大きくなりそうです。
更にJALに比べると新規就航地が多いのが特徴的です。羽田からの新規就航はミラノ、モスクワ、イスタンブール、ストックホルム、深圳の5都市と多く、特に欧州の就航地は既存のものと合わせると10都市にまで拡大します。経営破綻前のJALですらここまで多くはなく、現在のJALの欧州の就航地の倍にまで増えることになります。ANA全体でも52都市にまで増えることになり、これも現在はおろか経営破たん前のJALを上回る数。「国内線の全日空」は最早完全に過去のものとなったと言っていいでしょう。
成田発路線
3月29日から運休(1日各1往復)
サンノゼ・シアトル・ヒューストン・ワシントン・デリー
3月29日から減便
ロサンゼルス(1日2往復→1往復)
ホーチミン(1日2往復→1往復)
3月16日から開設
ウラジオストク(週2往復)
3月29日から開設(1日1往復)
ハノイ
ある意味予想通りと言えるのが成田発着路線。アメリカ発着路線5枠分とデリー線が羽田に移る事で、1日6往復分が成田から消えることになります。特にアメリカ路線はロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、ホノルルの5路線6往復と現在に比べて半減することになり、欧州路線に引き続きアメリカ路線でも羽田と成田の本数が逆転することになります。
一方、夏ダイヤでの新規開設路線は今のところウラジオストクとハノイの2路線のみ。このうちハノイは今回唯一羽田から成田に移管されますが、引き換えにホーチミン線が減便される為、実質的にはウラジオストク線が唯一になります。差し引くと週40便のマイナスとなりますが、全般的には後述するJALグループよりは減便は少ないです。当面は羽田発着路線の就航に力を注ぐことになると思うので、成田路線の拡充についてはそれがひと段落してからになるのではないでしょうか。
JALグループ
JALの羽田発着枠割り当てはアメリカ6枠、中国2枠、オーストラリア・ロシア・フィンランド各1枠、インド0.5枠(もう0.5枠は早朝深夜枠活用)の合計11.5枠。ANAと違い、中国路線以外は全て3月29日からの就航と運航スケジュールが発表されています。ANAが毎年のように新規路線を開設しまくっていたのに比べると、JALは控えめな感じでしたが、その分羽田発着枠増加時に一気に開設する余力を蓄えていたのでしょうか?
羽田発路線
3月29日から就航
ホノルル(1日2往復)・シカゴ・ダラス・ロサンゼルス・ヘルシンキ・モスクワ・デリー・シドニー(各1日1往復)
3月29日から増便
ニューヨーク(1日1往復→2往復)
夏ダイヤ期間中に開設
大連(1日1往復)
夏ダイヤ期間中に増便
上海浦東(1日1往復→2往復)
今まで傾斜配分で羽田発着枠が抑えられていた分、JALのアメリカ路線は主要都市やハワイ路線への就航・増便が目立ちます。注目なのはホノルル線に2枠分を充てた事。ANAはA380を成田路線に就航させましたが、現状羽田空港にはA380の乗り入れはできない為、A380を羽田〜ホノルルに入れる事は不可能。JALのホノルル線2往復の羽田移転はANAに押され気味だったハワイ路線の反転攻勢のきっかけにするつもりなのでしょう。提携相手のハワイアン航空の枠も合わせると、羽田〜ハワイ路線はJAL-ハワイアン連合が圧倒的なシェアを持つ事になりますので、共同で大規模なキャンペーンを仕掛けるかもしれません。
また、就航日は未定ですが羽田〜大連はJALのみの運行路線になる予定。ですが全般的にはANAに比べると新たな就航地はなく、良く言えば手堅い、悪く言えば地味な路線展開とも言えます。
成田発路線
3月29日から運休(1日各1往復)
ダラス・ニューヨーク・ヘルシンキ・モスクワ・デリー・シドニー
シカゴ(2020年2月14日まで)
3月29日から減便
ホノルル(1日4往復→2往復)
2月28日から開設
ウラジオストク(週3往復、3月29日以降1日1往復に増便)
3月29日から開設
ベンガルール・サンフランシスコ(各1日1往復)
7月1日から増便
グアム(1日1往復→2往復)
ANAが羽田開設路線の半分は新規就航なのに対し、JALは羽田開設路線の殆どが減便となり、事実上成田から羽田にスライドするだけなのが大きな違いです。3月29日から開設する路線がANAより多いのも実はこの辺りに理由がありそうです。
それでもANAに比べるとウラジオストクやベンガルールへの就航プラス成田ーサンフランシスコ線の開設、グアム線の増便に来年2月からの成田ーシカゴ線の再開と、成田路線も一定の配慮がされているのが伺えます。この為、最終的な成田路線のマイナスは1日6往復、週42往復に抑えられる見込みです。
そしてもう一つ、JALが来年の就航を進めている長距離LCC「ZIPAIR」の成田ーバンコク線(2020年5月24日就航予定)と成田ー仁川線(2020年7月1日就航予定)の開設も控えており、2020年度内にアジアでもう1都市の開設を検討中。2021年にアメリカ西海岸への就航も目指しています。
さらにJAL本体でも2020年度中に成田発着路線を3~5路線追加することを赤坂社長が明言しており、一時的には成田発着路線は減少しますが、ZIPAIRの路線も含めると1~2年程度で回復しそうです。
まとめ
以上、ANAとJALの羽田と成田の開設・撤退路線をまとめてみました。やはり3月29日以降、成田路線の減便は避けられず、特に欧米路線は羽田が逆転する事になります。これだけを見ると、成田の地盤沈下を懸念する声が出るのも無理はないと思います。
しかし、新たな滑走路を造らない限り羽田空港の発着枠が増える事は当分ないと考えられますので、中長期的には首都圏空港からの路線増便は成田を活用せざるを得ないでしょう。また、JALもANAも成田を国際線乗り継ぎのハブと位置づけており、今後は乗り継ぎ需要を重視した路線や、ウラジオストクのようなホワイトスポットへの路線が増えるものと思います。特にJALは成田の活用や新規路線開設を明言していますので、報道で言われる程成田の将来に悲観的にならなくてもいいのではないでしょうか?