〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

バニラエアの異例過ぎる「明るい統合」・消えゆくブランドへのリスペクトの意味は

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6月1日、バニラエアの成田ー那覇線がピーチに移管されました。10月まで続くバニラエアからピーチへの路線移管の第一弾になります。この路線は以前ピーチも運航していましたが、2017年3月に撤退。ピーチ的にはバニラからの移管で再就航となった格好です。就航記念イベントでは井上慎一CEOらがバニラエア名物の「黄色い手袋でハイタッチ」を行って見送りました。

 

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さらにバニラエアでは「バニラエアForever!!」と銘打って統合キャンペーンを実施し、対象便に乗ると社員の熱い思いを書いたカードくじを引き、キラカードが出るとささやかな景品をプレゼントしています。社員をカードくじにすると言う発想自体が斬新ですが、これもお金をかけずにインパクトを残すLCCらしいキャンペーンじゃないかと思います。

 

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昨年10月にピーチの井上CEOがバニラエアのCEOにも就任して以降、バニラとピーチの融合は急速に進んでいるように思えます。3月のピーチ就航7周年祭の時にはピーチとバニラの「結婚式」を行なって統合をアピールするなど、両社の融和に努めています。

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↓バニラエアの特設サイトはこちら

https://www.vanilla-air.com/jp/campaign/vanillaair_forever/

 

普通、会社の統合で消滅する方のブランドがここまで大々的にキャンペーンを行う例はあまりありません。航空業界で見てもJALとJASの統合の場合はJALのブランドばかりが強調され、消滅する方のJASは大したキャンペーンもないまま静かに消えていった印象でした。実際、運行最終日も大したセレモニーもなく、統合の時と比べるとメディアの報道もあまりなかったように記憶しています。

日本の場合、会社の合併は経営の行き詰まった会社が他の会社に救済されるというケースが多く、消滅する方のブランドはマイナスイメージがついているからか出来るだけ露出を避ける傾向にあります。また、統合後のブランドを浸透させる為にもそちらを全面的に押し出し、消滅するブランドの露出は相対的に減りがちです。

JALとJASの統合の場合はJALブランドの方がはるかに強く、国際的にも浸透しているJALブランドを全面に押し出した方がマーケティング的にも有利な為、統合までのJASブランドの扱いが小さくなってしまいました。

 

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ピーチとバニラの統合の場合、JALとJASの統合の例に習えばピーチブランドを浸透させる為にバニラの就航地にピーチの広告を打ちまくり、極力バニラのブランドを隠そうとしたかも知れませんが、井上CEOは敢えてバニラブランドを強調し、「明るいお別れ」を全面に押し出す広告戦略を打ちました。近年のブランド統合では異例のプロモーションです。

ピーチとバニラの統合はブランド力や経営体力の面で優位に立つピーチが黒字化したものの100億以上の累積赤字を抱えるバニラを吸収する形ですが、バニラエアの経営が行き詰まったという訳ではありません。統合の目的は「アジアのLCCとの競争に打ち勝つ為」と言う前向きなものであり、バニラのブランドを敢えて持ち上げるのは「この統合が決して後ろ向きなものではない、競争に打ち勝ち、さらにサービスを充実させるための前向きなものだ」というメッセージを内外にアピールする効果があります。

加えてバニラエアで働く社員やバニラブランドのファンでもある利用客に「ピーチはバニラブランドを大事に思っています。あなた達の事は忘れませんよ」と言うメッセージにもなっていると思います。特にブランドが消滅するバニラの社員にとってはモチベーションが下がって人材流出につながりかねませんし、ピーチとバニラの統合の際もその点が指摘されていました。先の「社員トレーディングカード」もバニラエアの社員の事を大事にします、バニラの事も決して忘れませんと言う井上CEOのメッセージも込められているのではないでしょうか。

 

今回のバニラエアの「明るい統合」キャンペーンは 異例ですが、これだけ消滅するブランドをリスペクトしたものもそうないのではないかと思います。加えてバニラエアの社員と利用客への敬意を払い、統合後の新生ピーチに対する期待感を高めるという意味でも素晴らしいプロモーションではないかと思います。JALとJASの統合の際は旧JASの利用者やファンの中にはJASを消したJALへの反感から離れて行った人もいたと思いますが、バニラエアの場合はそのような事は起こらないのではないかと思います。

消えゆくブランドに宣伝費をかけるのは一見すると無駄なように思えますが、そのブランドにも愛着のある人は少なからずいるわけであり、統合相手の会社がそのブランドを大事にするというメッセージを発信すれば顧客や従業員の離反を食い止める効果があり、統合後のブランドへの期待感も高められるのではないかと思います。そういう意味ではピーチと井上CEOの戦略は上手いと思いますし、今後のブランド統合のベンチマークの一つとなるのではないでしょうか。

 

 ↓ピーチの目指す「おもろい」働き方。バニラエアとの統合でも遺憾なく発揮されています。

 

 

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