〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

貸切バス運賃の旅行会社への手数料規制は必要。でもそれだけでは根本解決にはならない。

国は貸切バスの運賃について、バス会社から旅行会社に支払う手数料によって実質的な「下限運賃割れ」を防ぐための規制や対策の強化に乗り出します。5月以降、バス会社が旅行会社に払う手数料を文書に明記することを義務付けます(恐らく運送引受書のことかと思います)。また、事業年度ごとにバス会社が旅行会社に支払った手数料額の国への報告も今年度から義務付けられます。

また、過大な手数料などによる実質的な下限運賃割れについても調査・監査体制が強化され、第三者委員会の窓口に寄せられた情報などを基に国が積極的に調査し、安全運行に影響するような過大な手数料に対しては第三者委員会の助言を受けつつ、悪質なものに関してはバス会社や旅行会社に行政処分を科すことになります。


mainichi.jp

 

現在の貸切バスの運賃は2014年4月1日に制定されたものですが、各地域の運輸局が定めた基準運賃をもとに計算し、上限運賃と下限運賃を超えないようにしなければならない、と言うものです。その計算方法は、

時間制運賃(出庫から入庫までの時間+2時間×1時間当たりの単価)+キロ制運賃(入出庫の回送を含めた走行キロ×キロ当たりの単価)

が基本となり、交代運転手が必要な場合や運行時間が深夜時間帯(22時~5時)にまたがる場合、リフトバスなどの特殊車両の場合は更に割り増しされます。ちなみに、基準となる公示運賃は運輸局によって微妙に異なります。

 

関東運輸局の貸切バス運賃制度

http://www.mlit.go.jp/common/001201037.pdf#search=%27%E8%B2%B8%E5%88%87%E3%83%90%E3%82%B9+%E9%81%8B%E8%B3%83%27

 

北陸信越運輸局の貸切バス運賃制度

http://wwwtb.mlit.go.jp/hokushin/hrt54/bus_taxi/pdf/kashikiri_seido.pdf

 

新しい運賃制度が導入されたきっかけは2012年4月29日の関越道ツアーバス事故であり、規制緩和で貸切バス会社が急増した事で過当競争になり、バス運賃が下がり過ぎて人件費や安全の為のコストも賄えなくなったことが問題視された為でした。それまでも公示運賃はありましたが守られることはなく、実際の運賃は安く仕入れて激安ツアーを造成したい旅行会社の思惑や、後発で知名度が低い上に過当競争で優良顧客を持たず、安くてもいいから安定した仕事が欲しい小規模なバス会社の窮状から採算ぎりぎりの運賃で過酷な運用が続けられており、有名無実化していました。

その後、2016年1月の軽井沢スキーバス事故で規制はさらに強化され、国交省もバス会社への監督や運行中のバスへの立ち入り監査、旅行会社への指導や悪質な下限運賃割れへの行政処分なども行われるなど、以前に比べると下限運賃を大幅に下回るようなケースはかなり少なくなりました。

www.nikkei.com

 

しかし、今度はバス会社から旅行会社に支払われる「手数料」と言う形で事実上の値引きを迫るケースが出て来ました。バス会社に限らず、旅館やレストラン、一部の観光施設や土産物屋など、旅行会社が旅行者を集客して観光施設に送り込んだ場合は代金の一部が手数料として支払われており、これが旅行会社の収入源になります。貸切バスの場合大抵は10%、多くても15%が相場ですが、下記の総務省行政評価局の勧告書にはその相場を大きく上回る手数料の事例が記載されており、30%や40%、ひどいものだと50%という法外な手数料を要求されたケースもあったようです。これら手数料に関してはこれまでは規制の対象ではなかったため、このような「抜け穴」を使って事実上下限割れの運賃を続けるケースが少なからずありました。今回の規制強化はこの「抜け穴」を防ぐためのものであり、一定の歯止めはかけられるのではないかと思います。

 

貸切バスの安全確保対策に関する評価・監視(総務省HPより)

http://www.soumu.go.jp/main_content/000499515.pdf

http://www.soumu.go.jp/main_content/000499517.pdf

 

 

 

旅行業界に身を置いている私としては、手数料自体は旅行会社経営の根幹となるものですし、お客様サイドから取扱手数料を請求するのが困難な現状を考えると、完全に禁止されると事業が立ち行かなくなるのでそれ自体は残して欲しい、と言うのが正直なところです。しかし、いくら何でも30%や40%の手数料は法外ですし、何のために規制を強化したのか分からなくなってしまいます。先の総務省の勧告書にも9割以上は15%以下の手数料と書かれていましたので、こんな法外な手数料を請求する業者はごく一部だと思います。

私が勤めている中小の旅行会社はそんな手数料率を押し通す力はありませんし、悪評が広まってその地域で仕事ができなくなりますから、法外な手数料を取っているのはよほどの大手か、インバウンド業者など大量の旅行者を送り込める会社か、そうでなければ後の信頼関係を築くつもりのない焼畑農業的な会社がやっているのではないでしょうか。そういう一部の業者を締め出し、旅行業界を健全化させるためにも規制の強化は必要だと思います。

 

しかし、手数料規制だけではバス業界が抱える問題の抜本的な解決策にはなりません。問題の根本は「規制緩和で必要以上にバス会社の数が増え、過当競争になっている事」「消費者や旅行会社が低価格に慣れ過ぎ、値下げ圧力が強い事」「運転手への負担は増える一方なのに上記の過当競争や値下げ圧力で賃金上昇が抑制され、新たななり手が現れない事」であり、この大元の問題を解決しない限り、一部の旅行会社はまた別の抜け穴を使って下限割れの運賃を出そうとするでしょう。例えば「年間◯十台以上バスを使ったらインセンティブ〇〇万円」とか、運送引受書に載せない形でキックバックをする方法はいくらでも考えられるからです。

根本的な問題を解決する為には、バス業界や旅行業界の構造そのものを変える必要があります。私なりの考えでは「必要以上に緩い参入規制の再強化」「業界再編などによる事業者の整理統合」「抜け駆けして値下げする業者や優越的地位を利用して圧力をかける業者への厳罰化」が必要なのではないかと思います。長くなってきたので詳細についてはまた改めて書きたいと思います。

 

 

にほんブログ村 旅行ブログへ
にほんブログ村