〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

結局、バニラエアは成功だったのか。失敗だったのか。

迷航空会社列伝、今回は前回からの続き物でバニラエアを取り上げました。


名航空会社列伝「リゾートに咲いた白く儚い花」究極のリリーフ・バニラエア

 

前回の初代エアアジア・ジャパンからの続き物ですので、まだの方はこちらをどうぞ。


迷航空会社列伝「水と油の同床異夢」1年3か月で消えたエアアジア・ジャパン(初代)

 

最終的にはピーチへの事業譲渡と言う形で統合され、姿を消すことになったバニラエアですが、実際のところ、バニラエアは成功だったのでしょうか、それとも失敗だったのでしょうか。

 

 

1.業績

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直近のバニラエアの決算は2018年3月期。前年度は営業損失約6000万円、当期純損失約7億1100万円でしたが、今期は営業利益8億4600万円、純利益12億3200万円と再び黒字決算になりました。これだけを見ると単独でも持ち直せそうに見えますが、この利益額は赤字決算に伴う法人税減免が反映されている数字です。普通に法人税を納めていれば利益額は5~6億円程度と、売上高に比べると利益率はそこまでは良くなさそうです。

さらに言えば、最悪期よりはマシになったとは言え、累積損失はまだ107憶9100億円あるので、健全経営とはまだ言えない状態。この利益額だと累積損失の一掃にはまだ10年ほどかかりそうですので、業績面からバニラエアを「成功」と言うのはちょっと早いかなと思います。もっとも、バニラエアの累積損失のうち3分の1はエアアジア・ジャパン時代のものですので、一概にバニラエアのせいとも言い切れないのが判断を下すのに困るところですが・・・

 

www.traicy.com

 

2.イールドとユニットコスト

航空会社の収益力を示す数値として「イールド」と「ユニットコスト」があります。「イールド」は旅客1人に対する1キロメートルあたりの収益を示しており、この数字が大きければ大きいほど、高い価格で航空券を販売できていることになり、売上高の増加につながります。一方の「ユニットコスト」は、1座席を1キロメートル運ぶためにかかるコストの額を示しており、この数値が低ければ低いほど、利益を出しやすいと言えます。つまり、イールドが高ければ高いほど、ユニットコストが低ければ低いほど、その航空会社は収益性が高いと言えます。では、バニラのイールドとユニットコストはどうなのでしょうか。他のLCCと合わせて見て見ましょう。なお、数値については下記の記事より抜粋しています。

 

gendai.ismedia.jp

 

            イールド  ユニットコスト

バニラエア        6.6円     5.7円

ピーチ          9.1円     6.8円

ジェットスタージャパン  8.3円     6.9円

春秋航空日本       7.6円     10.5円 

 

こうしてみるとバニラエアはイールドはLCC4社中最低ですが、逆にユニットコストは4社の中で最も低い数値です。「動画内でバニラエアのコストが高いと言っていたのに!」と思われるかもしれませんが、実はこのユニットコスト、輸送距離が長くなればなるほど緩やかに下がっていく傾向にあり、他のLCCに比べて長距離を飛ぶ国際線の比率が高く、平均輸送距ピーチやジェットスタージャパンよりも500km以上長いバニラエアが有利なんです。もしバニラエアの平均輸送距離がピーチやジェットスタージャパンと同等なら、ユニットコストはこの2社と同等か、それより高かったのではないでしょうか。

一方のイールドですが、季節変動が大きく、供給量が決まっていて在庫を持ち越すことが不可能な航空業界の場合、需要動向を見極めて価格設定と販売座席の調整を行い、最大限の販売金額で座席を売り切る能力が求められます。イールドの数値が高ければ高いほどこの販売コントロール能力「イールドマネジメント」が優れているとも言え、この点では最も高い数値を出しているピーチの方がイールドマネジメントに優れていると言え、このイールドの高さがピーチの高収益体質を支えています。一方のバニラエアはイANAからの出向者で固められており、LCC流のシビアなイールドマネジメントを行うのは限界があったのかも知れません。そういう面ではバニラエアは「成功」とは言い難いですが、ユニットコストの低さは平均輸送距離の長さを差し引いても先行2社とそん色ないものですから、「失敗」とも言えないと思います。

 

3.路線展開

2018年8月現在、バニラエアの就航路線は以下の通りです。

成田―札幌、函館、奄美大島、那覇、石垣、台北、高雄、香港、セブ

関西ー奄美大島、台北

福岡ー台北

那覇ー石垣、台北

 

国内線7路線、国際線7路線の計14路線とピーチやジェットスタージャパンに比べると少ないですが、その分会社の柱となる路線は便数が多いのが特徴です。例えば国内線の主力の成田―札幌線は1日9往復、成田ー台北は1日4往復と、主力路線に便数を集中させてシェアを取る作戦です。また、「リゾート」を謳い文句にしているだけあって、奄美大島や石垣、セブといったリゾート地への路線を積極的に開拓するほか、函館や高雄と言った観光需要が大きそうな地域にも就航しているのも特徴です。

一方の運休路線は、国内線では成田ー関西線と関西-函館線、国際線では成田-ソウル線と成田ー台北経由ホーチミン線。この他、成田―セブ線も冬スケジュールから運休となります。ピーチも同じくらい運休路線があるのですが、ピーチとバニラの路線数の差を考えるとバニラエアの運休路線は多い方ですし、ジェットスターの運休路線が3路線だけと言う事を考えると、路線開拓の市場調査や就航後のてこ入れに関しては他社より甘いのかなという印象です。この辺もLCC的なシビアさがバニラエアは薄いなと感じる部分ですが、ANAの出向者が多い事を考えると、抜本的なてこ入れは難しそうです。

 

で、結局バニラエアは成功?失敗?

以上の事から考えると、バニラエアを「成功」と言うには今一つな要素が多いですし、「失敗」と断じるのは奄美路線の成功や低いユニットコスト、黒字化した事を考えると無理がありますし酷だと思います。しかし、前身のエアアジア・ジャパンの失敗からの立て直しと言う要素を加味すれば「まあまあ成功だった」と思いますし、奄美大島の観光振興に大きく貢献したという意味では、奄美地方の人々にとってはバニラエアは「大成功」と言えるでしょう。ピーチがかなりの成功を納めているのに比べるとバニラエアの規模と業績はどうしても見劣りしてしまいますが、就航から4年でこの数字ならよくやった方ではないでしょうか。

その一方で、バニラエアがこの先大きく飛躍できたのか、と言われると、現状のままでは厳しいのではないかと思います。関空で絶対的な地位を築き、ジェットスタージャパンを返り討ちにしているピーチと違い、成田でのバニラエアはそのジェットスタージャパンの後塵を拝していることや、リゾートに特化したブランドイメージがピーチやジェットスタージャパンのような幅広い路線展開の妨げになっている事。そしてANAからの出向者で固められ、良くも悪くもANAに依存しているバニラエアがLCC的なエッジの利いたブランド展開や大胆な発想がやりにくい事など、他社に比べると成長の伸びしろは少ないように思います。そう考えると今回のピーチとの統合は、起こるべくして起こった事なのかも知れません。

 

8月2日より2018年度冬ダイヤの販売がスタートしましたが、今回はピーチへの路線移管はありませんでした。恐らく次の2019年春ダイヤからピーチへの路線移管が本格化するのではないかと思います。まだ統合後の新生ピーチの姿は見えて来ませんが、バニラエアの持つ国際線網やユニットコストの安さを新生ピーチには是非生かして欲しいですね。バニラエアが本当の意味で「成功」と言えるようになるのは、新生ピーチがバニラの資産を生かしてさらに飛躍した時なのではないでしょうか。