〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

日本航空の社長交代

1月24日、日本航空の社長交代が発表されました。新社長は整備本部長兼JALエンジニアリング社長の赤坂祐二常務執行役員で4月1日付けで就任、植木義晴社長は代表権のある会長になります。さらにJAL破たん後最初の社長だった大西賢会長は退任となりますので、植木氏が会長に残るものの、稲盛氏の薫陶を受けた経営陣が一線を引くことになります。

 

www.nikkei.co

JAL、新社長に赤坂常務 整備出身、植木氏は会長に

 

新社長となる赤坂氏は1987年に日航に入社、以来整備畑を歩んできました。入社の時期が御巣鷹山事故の2年後と言う事もあり、安全には人一倍気を配っている方のようで、記者会見でも「安全運航を守っていく」と表明しています。これで破たん後のJALの社長は整備畑出身の大西氏、パイロット出身の植木氏、整備畑出身の赤坂氏と現場出身者が3代続く事になり、破たん前の歴代JAL社長が運輸省出身者や営業、企画畑出身者ばかりで現場出身者がいなかったことを考えると隔世の感があります。

 

さて、社長が変わったからと言ってもJALの経営方針が変わることはなく、収益性重視の経営は当面はそのままでしょう。その一方でANAや海外の航空会社との対抗上、国際線の拡大は必要な事ですから、収益性を維持しつつ、どこまで国際線を拡大させるかという匙加減が新社長には求められると思います。昔の日航のように採算度外視の路線を飛ばすことはもうないと思いますが、当面はアライアンスや提携相手先の路線を中心に展開するのではないでしょうか。

 

そして一部の新聞ではJAL再建の立役者である植木氏の社長交代で今後の成長政略を疑問視する論調もありますが、新社長の赤坂氏を選ぶ際も「人柄や考え方を重視した」と植木氏も言っていますし、自分の後継者として最もふさわしい人物であるとしていますから、私は今回の社長交代後もJALがおかしくなることはないと思っています。JALが継続して発展し、世界の空で生き残るためにはこれからが正念場だと思いますが、経営破たん時の事を忘れず、安全運航と高品質なサービスをさらに磨いてJALをさらに成長させてほしいものです。

 

 

それと個人的に気になるのが取締役退任後の大西氏の去就。まだ62歳と完全に引退するには早いので、今後何らかの形でJALに関わっていくのか、それとも別の会社で新たなスタートを切るのか。大西氏ほどの実績があれば他の会社からも引く手あまただと思いますので、JALで培った経験を生かしてもうひと花咲かせてほしいですね。

 

 

JAL再生―高収益企業への転換

JAL再生―高収益企業への転換

 

 

FDAの仙台~出雲線は地方間路線拡大のきっかけになるか

以前から就航の話があったFDAの仙台~出雲線ですが、就航が本決まりになったようです。

 

www.traicy.com

 

12月の発表では仙台~出雲に加え、静岡~出雲線の開設も発表されていましたが、今回は静岡~出雲線には触れられませんでした。しかし、仙台~出雲線と静岡~出雲線は今後の航空業界の動向を左右するかもしれない大きなターニングポイントになる可能性があると私は見ています。

 

・日本の空にも地方都市同士を結ぶ路線が飛びまくっていた時代があった

今の日本の国内線は東京発着路線(羽田・成田)が一番ボリュームが大きく、次いで大阪発(伊丹・関空・神戸)の路線がこれに続き、その後に名古屋、札幌、福岡、那覇発の路線がこれに続くという感じです。言い換えれば国内線の大半はこれら六大都市を発着する路線が大半であり、それ以外の地方都市同士を結ぶ航空路線は鹿児島や長崎、沖縄などの離島路線を除けばほとんどありません。

小規模な地方路線同士を結ぶ路線はもちろん、例えば広島~小松とか鹿児島~仙台とかの政令指定都市クラスの空港を発着する地方路線もほとんどない状態で、これらの都市へは大抵の路線が発着する羽田や伊丹を経由して向かうのが一般的です。航空会社側も乗り継ぎを意識した割引運賃を設定していますし、採算が取れるかどうか怪しい地方間路線を開拓するより乗継便に乗ってもらった方が効率的。要はアメリカなどで一般的なハブアンドスポークシステムに近い形になっているのです。

 

しかし、昔から乗継便志向だったのかと言うとそうでもなく、地方間路線が積極的に開拓されていた時代がありました。1990年代の日本の航空業界は45/47体制後の大手三社の参入合戦が一段落し、日本エアコミューターや中日本エアラインサービス、ジェイエアといったコミューター航空会社が軌道に乗り始めた頃。羽田や伊丹の発着枠が満杯で路線の開設や増便の余地が無くなった各社は90年代半ば頃から地方間路線の拡充に力を入れ始めます。最初のうちは札幌線や福岡線など比較的大規模な空港と地方空港を結ぶ路線が主流でしたが、それも一巡すると今度は地方空港間の路線を就航させるようになります。と言うよりもう国内線ではそのくらいしか路線拡大の余地がなかったからとも言えますが、とにかく90年代半ばから2000年ころにかけては今では考えられないような路線がゴロゴロ飛んでいました。

 

例えばジェイエア。当時はCRJ就航前で機材は19人乗りのBaeジェットストリーム31のみ、今は廃止された広島西空港が拠点だったこともありますが、広島西~鳥取、南紀白浜や小松~出雲といった「いったい誰がこんなの使うんだ?」と思う路線を多く飛ばしていました。また、日本エアコミューターも松山~松本や小松~高松と言った謎路線を飛ばしていたり、中日本エアラインサービスも季節運航でしたが富山~長崎、富山~広島西を飛ばして盛大に失敗しています(特に富山~広島西線は乗客ゼロで運休と言う珍記録を出してます)

そして大手三社もかなりやらかしてます。JASは松本~広島線をMD-87で就航と言う暴挙に出ましたが、わずか2年で撤退。ANAも青森~仙台線や青森~広島線を就航させており、しかも青森~仙台は新幹線との対抗上、1日3便で運航していた時期もありました。当然これも長続きせず数年で撤退。JALも福島~帯広をワイドボディ機の767で運航するなど、今飛ばそうとすれば喜ばれる前に採算性や短期撤退を疑われる路線ばかりです。

 

・・・この話、ほじくり返すとキリがないので本題に戻しますが、結局90年代に一気に広がった地方間路線は9.11後の航空不況やJALとANAの合理化、地方間路線の採算性の悪さなどで2000年代前半で一気に縮小し、以後は地方間路線に手を出す会社はなくなりました。

 

・今回のFDAの新路線は地方間路線とFDAの将来像を占う路線になる

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が、ここに来てのFDAの地方間路線開設のニュース。「とうとうFDAもトチ狂ったか?」と思う方もいるかも知れませんが、FDAは元々静岡空港という地方空港発の路線から出発した会社。JALが撤退した松本や小牧発着の路線を引き継いだり、ANAが撤退しようとしていた新潟~福岡線に参入したり(結局ANAも撤退を辞めましたが)するなど地方路線を経営の基盤にし、発展してきたという経緯があります。さらに地方発のチャーター路線も積極的に運航していますから、地方路線運航のノウハウを豊富に持ち、過去のチャーター便実績のデータを持つFDAなら過去の地方間路線ブームのようにろくな需要予測もなく釣り糸を垂れるような真似はしないと思います。参入するからには十分採算が取れると踏んでの事でしょう。

とは言え、今までのFDAの路線の大半は自力で開拓したというよりは、JALグループの撤退路線の引継ぎや、過去にJALグループが運航していた路線の再就航ですので、今回の仙台・静岡~出雲線は久しぶりにFDA自身が切り開き、開拓していく路線となります。と同時にFDAの真価が問われる路線と言っても過言ではありません。

 

この路線が軌道に乗れば「地方間路線でもやりようによっては採算性がある」との認識が広まり、地方間路線の開拓が進むきっかけになるかも知れません。FDAにとってもこの路線が成功すれば路線網を一気に広げ、「リージョナル航空会社の覇者」として航空業界に君臨するかも知れません。地方間路線が増えればそれだけ小型ジェット機の需要が増える要因にもなりますし、MRJにとっても追い風になるでしょう。

しかし、逆に言えばこの路線が盛大にコケれば「やっぱり地方間路線は儲からない」となり、地方間路線に手を出す会社は現れないでしょう。羽田や伊丹などの大都市中心のネットワークが続くことになると思います。無論、この路線が失敗したからと言ってFDAの経営が揺らぐという事はないと思いますが、地方空港活性化の為にも、FDAには是非仙台~出雲線を成功させて、地方間路線開拓のパイオニアになって欲しいと思います。

 

 

 

デンジャラス過ぎるネパールの空港事情

昨年の大晦日に迷航空会社列伝Liteでネパール航空の生贄騒動を滑り込みでアップしました。

 

 

ネパール航空の生贄はさておき、ネパール特有の航空事情として「危険な航空会社が多い」「危険な空港が多い」事が挙げられます。エアラインレーティングの最新安全度ランキングでも、最低の1つ星の6社中4社がネパールの航空会社で、動画でも出てきたネパール航空はもちろん、ブッダ・エア、タラ・エア、イエティ航空が堂々(?)ランクイン。特に国を代表するフラッグキャリアで1つ星なのはネパール航空だけなので笑えません。

www.asiatravelnote.com

 

確かにネパールの航空会社はかなりいい加減なようなので、ある程度は自業自得な部分がありますが、山岳地帯にあるネパールの空港は離着陸の難易度が高く、安全なフライトが望めない空港が多いという難点も抱えているので、全ての責任を航空会社に転嫁するのは酷な気がします。唯一の国際空港であるカトマンズ・トリブバン国際空港は1992年に着陸失敗による墜落事故が2件も発生、1997年に日本の援助でレーダーが取り付けられるまでは有視界飛行で着陸していたという危険な空港でした。今は衛星測位システムなどを使い、離着陸の安全性は向上してはいますが、それでも普通の空港よりは離着陸の難易度が高い空港です。

カタール航空で人気の世界都市へお出かけください。

 

しかし、最も難易度の高い、と言うか普通ならまず空港として認められないようなデンジャラスな空港があり、それが「世界一危険な空港」と言われるテンジン・ヒラリー空港(旧ルクラ空港)です。標高2840m、山肌にへばりつくように建物が建つルクラの町はヒマラヤ山脈へ向かう観光客の到着地であり、登山客のベース基地にもなる町ですが、車道の整備ができず、陸路での移動は困難です。月刊エアライン2009年12月号で航空写真家のチャーリィ古庄さんがこの空港を訪れた時の記事を書いているのですが、万が一悪天候で飛行機が飛ばない時の戻り方を旅行会社に聞いたら

「近くの村まで数日かけて歩き、そこからカトマンズまで車で10時間」と言われたそうで・・・

 

このため、ルクラへの移動はもっぱら飛行機となり、ネパール航空やタラ・エア(イエティ航空の子会社)など複数の航空会社が頻繁に飛行機を飛ばしていますが、

滑走路の長さはたった500mでしかも斜面。

滑走路の先は片や谷底、片や絶壁。

という空港として認可していいのかと思えるレベルのデンジャラスエアポート。ダッシュ8クラスのプロペラ機の離発着に必要なのが1200m、伊豆諸島に向かうドルニエ228が発着する調布飛行場ですら800mですから、この空港の滑走路がいかに短くて危険かが良く分かると思います。実際、この空港では何度も墜落事故が起こっていますし、悪天候だと何日も飛行機が飛ばないことも珍しくありません。それでも車での移動が不可能な以上、ルクラの町は飛行機が重要なライフラインになりますから、危険と分かっていても運航停止にするわけには行かないのです。

 


世界一危険な「テンジン・ヒラリー空港(旧ルクラ空港)」離陸

 

更にネパールにはもう一つ、ジョムソン空港もという、テンジン・ヒラリー空港と大して条件が変わらない危険な空港が存在します。元々満足に空港を整備するだけの資金がない上に、経路上でも立地条件でも条件が厳しく安全な空港を作るのは困難、それでも航空機に頼らざるを得ないネパールの航空事情は、「安全に飛ばしたくても飛ばせない」と言う特殊な事情があります。この辺はいい加減なタイやインドネシアの一部の航空会社とは違う事情があることを考慮しておきたいものです。

 

↓この記事でも取り上げたチャーリィ古庄さんの著書ですが、テンジン・ヒラリー空港を含む世界中のトンデモ空港を紹介しています。フィクションのような空港ばかりですが全て実話です。

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佐川急便に必要だったのは航空ではなく鉄道だった

去年の動画を振り返っているうちに迷航空会社列伝の動画が溜まってきました。ブログの方も関連記事を書かないと・・・

さて、2017年の年末にアップした新作のギャラクシーエアラインズ。大手宅配便会社の佐川急便を中心に設立された貨物航空会社でしたが、国内航空貨物事業の不振及び佐川とそれ以外の会社との温度差と確執が原因で2年足らずで運航終了、会社解散となってしまいました。


【アジアの銀河は遠すぎた】迷航空会社列伝・2年で消えたギャラクシーエアラインズ

 

正直、国土がそう広くない日本では国内航空貨物事業はそれほど需要は大きくありません。アメリカのようなハブアンドスポークシステムを築くにも高速道路や高速の貨物鉄道が発達している日本では積み替えの時間が逆にネックとなってしまいますし、ダイレクトな輸送も限られている。何より日本では床下に貨物コンテナを積み込めるワイドボディ機が旅客便でバンバン飛んでますから、あえて貨物専用機を飛ばさなくても旅客便の床下を使えば十分賄えます。何せJALは貨物専用機を一機も持っていないにも関わらず、平成29年3月期の国内航空貨物事業は222億6千万円の売り上げがあるのですから、馬鹿にはできません。

 

一方、ギャラクシーエアラインズ設立の少し前にに佐川急便とJR貨物が共同開発し、運行を開始した「スーパーレールカーゴ」は貨物ながら電車方式を採用し、最高時速130km/hで東京-大阪間を6時間12分で結びます。こちらは専用のコンテナや、そのコンテナを積むための専用トラックまで用意し、万が一の際には迅速にトラック輸送に振り替えられるよう万全の体制を取るという力の入れよう。積載量は往復で10トントラック56台分、つまり560トン。ギャラクシーのA300の最大積載貨物量が54トンですから、大体A300×10機以上の貨物量を賄える計算です。

 

↓スーパーレールカーゴに関しては佐川急便のニュースレターに詳しく書いてあります。

http://www.sg-hldgs.co.jp/company/sg-news/pdf/sgnews0808-2.pdf#search=%27%E4%BD%90%E5%B7%9D%E6%80%A5%E4%BE%BF+%E9%89%84%E9%81%93%E8%B2%A8%E7%89%A9%27

 

航空貨物の弱点として積み下ろしに時間がかかる事と単価が高くなることが挙げられますが、いくら移動時間が短くても、東京-大阪位の距離だと積み下ろしや空港での仕分け、空港からの輸送時間を考えるとスーパーレールカーゴやトラック輸送とのアドバンテージは低くなってしまいます。

佐川急便の主力事業は国内貨物や法人メインの宅配便事業なので、高速で大量に、正確な時間で大量に運べるスーパーレールカーゴは最適な輸送手段であると思います。ドライバー不足が叫ばれる昨今の事情を考えると、鉄道貨物輸送の比率はどんどん高くなっていくでしょう。東京-大阪間以外でも1980年代から佐川急便は鉄道貨物を利用していますし、今日も佐川急便のコンテナを積んだ貨物列車が日本中を走っています。

そう考えると国内が主戦場の佐川急便は航空貨物にうつつを抜かさず、鉄道貨物の強化に経営資源を割り振った方が下手に特損を出さずに済み、もっと早く上場できたのでは・・・?実際、ギャラクシーエアラインズも国内貨物はともかく、国際線展開の計画は明確な将来ビジョンもなく、「アジアの総合物流企業」と言う目標もかなりぼんやりしたものでしたし。

 

 

 

 

プラレール スーパーレールカーゴ

プラレール スーパーレールカーゴ

 

 

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JALタスクフォースの功罪

引き続き、東海道交通戦争第7章後編で紹介したJAL破たん関連から、今回はJALタスクフォースを取り上げます。

 


後編:落日のフラッグキャリア【東海道交通戦争 第七章】

 

動画内では前原誠司国土交通大臣の私的諮問機関として、JAL再生の実働部隊的役割が期待されたものの、あいまいな立ち位置と銀行に債権放棄を迫ったことで不興を買い、解散に追い込まれた何がしたかったのかよくわからない組織、という描き方をしました。

実際、JALタスクフォースの位置づけは曖昧でしたし、政治主導でJAL問題を解決しようとしたけど、独断専行過ぎて官僚や銀行団から総スカンを喰らったのは事実です。解散後、タスクフォースの資産査定にかかった費用約10億円がJALに請求されたのもタスクフォースの評価を下げた一因でした(実際のところ、その10億円の請求は冨山和彦氏や高木新二郎氏らタスクフォースのメンバー個人の報酬ではなく、人手を出した法律事務所や会計事務所などに対する報酬なのですが、メンバーの中にはその会計事務所の取締役もいた事と、大臣の私的諮問機関と言う位置づけを考えると全く問題なしとも言い切れません)タスクフォースのJAL問題を題材にした半沢直樹シリーズの「銀翼のイカロス」でも、タスクフォースが完全に悪者になっているのも、未だにタスクフォースに対する評判がよくない原因の一つでしょう。

 

しかし、それでも私はJALタスクフォースの存在は無意味ではなかったと思います。仮にタスクフォースがなかったらJALの再建はもっと不透明なものになっていたかもしれず、抜本的な対策も取られず、最悪二次破綻して消滅していたかもしれません。JAL再建の立役者となった稲盛和夫名誉会長や、財務面での実働部隊であった企業再生機構のスタッフと違い、JALタスクフォースのメンバーには日の目は当たりませんでしたが、彼らも立派な「JAL再生の功労者」であったと思います。

タスクフォースの功績1・JALの経営が想像以上にヤバい事が分かった

JALタスクフォースのメンバーが直接JALに乗り込み、資産査定を行ったことで、営業キャッシュフローが赤字になって資金繰りが破たん寸前だった事、航空機の資産価値が帳簿上よりもかなり低く、評価損の計上を迫られそうな事、JALを救うには公的資金の投入が避けられず、3000億以上が必要になることが分かりました。つなぎ融資の調達ができない場合、12月には手元資金が枯渇して支払い不能となり、飛行機が止まることも判明します。

破たん前のJALは路線別の収支も大雑把にしか分からず、はっきりした数字が出てくるのに数か月かかる、日々の現金残高も良く分からないとかなりいい加減でした。もしいい加減なJAL側の財務情報だけを鵜呑みにしていたら、資金繰りが危うい事に気づかず、本当に必要な再建資金を手当て出来なかったかもしれません。それどころかJAL自身ですら会社の本当の財務状態を知らない状態ではある日突然金庫にお金がない事に気づき、慌てた頃には燃料供給をストップされ、飛行機を差し押さえられてなし崩し的に運航停止、破産という最悪の事態を迎えていたかもしれません。そう考えるとJALタスクフォースが資産査定を行い、正しい財務情報が分かっただけでもタスクフォース設置の意義はあったと思います。

 

タスクフォースの功績2・JAL社内の抵抗勢力の影響を排除できた

タスクフォースが資産査定を行い、再建案を練っている頃、JALの役員の一人がタスクフォースの言動をICレコーダーにひそかに録音し、関係官庁に「密告」していました。JALと懇意にしている強力な運輸族議員がいた自民党政権であれば、この「密告」は運輸族議員や官僚を動かし、タスクフォースのメンバーのクビを飛ばすこともできたかも知れません。

実際、日航ジャンボ機墜落事故後、JAL改革の目玉として乗り込んできた伊藤淳二会長もJAL内外で反発を招き、社内スキャンダルがマスコミにリークされるなど、政府を巻き込んだ伊藤会長の追放に発展しました(もっとも、伊藤氏も労使協調を謳いつつ「密告」を暗に奨励したり、総理から贈られた額縁を自分の権威に利用したりとどっちもどっちな事をしていますが)

しかし、良くも悪くも強力だった自民党運輸族議員と違い、民主党政権は今まで官僚や財界に相手にされなかった分、しがらみもありませんでした。しがらみや族議員の圧力がない以上、JAL役員の「密告」が政権や関係官庁を動かす事は無く、ある意味抵抗勢力は蚊帳の外に置かれたまま事は進む事になります。JALの既得権とは無関係だった民主党政権だったからこそ、タスクフォースは自由に動く事ができ、法的整理と言う思い切った手が打てたのだと思います。

 

 

 とは言え、結果だけ見ればJALタスクフォースは資産査定を行っただけで具体的な再建策に取り組む前に解散してしまったので「何の成果も挙げずに1か月という時間と10億円を浪費し、JALに払わせた」と見られてしまうのも仕方ありません。しかし、強大な権力を持つ大統領府直属の組織で十分な権限を与えられたGMタスクフォースと、大臣の私的諮問機関に過ぎなかったJALタスクフォースを同列に語るのは酷だと思います。

 もしJALの再建案が国交省やJALの経営陣の言うがままに進められていれば、JALの責任感の希薄な経営や上層部のモラルハザード、いい加減な財務やコスト意識のなさに大ナタが振るわれないままJALに公的資金がつぎ込まれ、いずれ二次破綻してもっと深刻な事態になっていたと思います。例え政治主導のパフォーマンスだったとしても、JALタスクフォースが本当のJALの資産状態をあぶりだし、JALの抵抗勢力を再建案から遮断したことがその後のJALの法的整理と短期間での再生につながったのではないでしょうか。

 

 

2018年の抱負と今後の動画作成について

大晦日から続いた振り返りシリーズ(勝手に命名)もこれで最後です。

今回は2018年の展望と抱負、今後の動画作成についてです。

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 2018年の抱負と目標

1.東海道交通戦争本編を完結させる

  はい、これはもういい加減ケリをつけないといけないなと思います。原型となる動画をニコニコにアップしたのが2011年11月、途中何度もストップした上に昨年は一からやり直してるわけですから、もう今年こそは本編だけでも完結させないといけないでしょう。

とは言ってもこの後書くのはJAL再生とANAとの確執、羽田国際化、スカイマークの破たんと再生、LCCの台頭、リニア計画のその後と結構あります。しかもJALの再生とリニアに関してはかなりデリケートな問題でもありますので、恐らくこの部分が一番難しいんじゃないかと思います。恐らく最低でもあと動画5~6本分は必要じゃないですかね?

2.YouTubeチャンネル登録者数、メイン1万5千人、サブ3千人

 我ながら結構高い目標を立てたなと思います。1年かけてやっと5000人行ったのを次の1年で3倍にしようと言うのですから。サブチャンネルはまだ1000人にも行っていないのに・・・

 しかしまだ伸びしろはあると思います。心なしか昨年はテレビでも空港や航空会社など、航空機関連の特集を組んだ番組が増えてきていますし、鉄道趣味が市民権を得たように、飛行機に興味を持つ人もこれから増えていくんじゃないかと思います。それにYouTubeではチャンネル登録者数1万人というのが一つの基準になるようで、これを超えるか超えないかで知名度も変わってきますし、YouTubeのアルゴリズムにも引っかかりやすくなって動画が掲載されやすくなるみたいです。最低でも1万人突破は行きたいなと思います。

 

3.空港をテーマにした新たな解説動画シリーズの立ち上げ

そろそろ新しいシリーズを追加したいなとも思います。航空会社、旅客機と来たら次は空港でしょ!と言うわけで・・・

空港に関しては今まで出してきた動画とは趣向を変えて、実際にその空港を訪れて、空港の内部やお店、周辺地域の撮影スポットを紹介しつつその空港の歴史にも触れる、という形を取りたいと思います。イメージとしては漫画の「前略 雲の上より」的な感じで。

natalie.mu

 

 

前略 雲の上より(1) (イブニングKC)

前略 雲の上より(1) (イブニングKC)

 

 

 

今後の動画作成について

今年は引き続き「迷航空会社列伝シリーズ」「東海道交通戦争シリーズ」の2本柱に加え、上記空港をテーマにした新たな動画シリーズ、YouTube限定の「迷旅客機列伝シリーズ」を展開する予定です。それと1月後半にはJALとANAの運送事業計画が出ると思いますので、それを紹介する動画も作れたらなと思います。本数的には昨年と同じ30~40本程度を出していければなと思いますが、比率としては航空関係の割合が増えていくかなと思います。鉄道系は競争率高いしね(ボソ

 

それとコメント欄で良くリクエストを頂きます。おなじみの会社から私が知らなかったマイナー会社まで様々なリクエストを頂き、ありがとうございます。リクエストは基本、書き留めてはいますが、資料の有無や制作スケジュール、私の筆の乗り具合で必ずしもリクエストにお応えできるとは限りません。また、「必ず作る」「〇月までに作る」と言ったお約束は一切できないことをご了承いただければと思います。私の性格上、こういった期限を区切った約束をしてしまうと急に作れなくなるという少々難のある欠点を抱えてしまいますので・・・ですので、リクエストを出して頂けるのはありがたいのですが、基本的には「いつかやってくれればラッキー」程度に考えて頂けると幸いです。

 

それともう一つ、最近は減りましたが「〇分〇秒のBGMの曲名を教えて」というコメントもよく頂きます。最初のうちは全てお応えしていましたが、あれ一々曲名まで把握はしていないので、リクエストをもらう→曲名と掲載サイトを調べる→回答する、と結構手間のかかる作業なんです。

おかげ様でチャンネル登録者や動画の再生回数が増え、コメントの数も増えて来ましたが、全てのコメントに返事を書くのも難しくなってきました。もちろん、頂いたコメントは全て読ませて頂いておりますし、動画制作の励みになっておりますが、正直返信に手間のかかる「BGM教えて」コメントに対応するのはもう限界なんです。なので、申し訳ありませんが今後は単に「BGM教えて」というだけのコメントには一切お返事は書きません。以前出した記事によく使用しているフリーBGMサイトのリンクが張ってありますので、そちらで探して下さい。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

なんか抱負と言いつつ最後は愚痴とお願いになってしまいましたね。ですができるだけ動画作成に時間を当てたいですし、リクエストにすべて答えられない分、できるだけいい動画を作って皆様に喜んでもらいたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いします!

 

 

 

 

2017年にアップした動画を振り返りました(9月~12月)

前回に引き続き、2017年にアップした動画を振り返ります。

今回は9月から12月にアップした動画です。

 

9月13日 迷航空会社列伝 カナディアン航空(全3回)

(原稿文字数:13,323文字)


迷航空会社列伝「仁義なき空中戦」カナディアン航空 前編・官と民のぶつかり合い

 

9月はかつて存在したカナダ第二位の航空会社・カナディアン航空を全3回で取り上げました。JALを追い抜いてトップに立ったANAを「二番手企業の成功例」とするならば、カナディアン航空は「二番手企業の失敗例」に挙げられるのではないでしょうか。

2位の会社の経営戦略は大まかに分けて2つ。一つ目は1位の会社に徹底的に対抗し、1位の会社の商品では満足できない、あるいは好きになれない人の受け皿となる事(日本生命に対抗する第一生命みたいな)二つ目は1位の会社にないサービスや商品を提供し、差別化を図って1位とは別な顧客層を狙う事(マクドナルドに対するモスバーガー的な)。

かつてのエアカナダとカナディアンは棲み分けを図ることで共存できましたが、航空自由化でお互いのテリトリーへの参入が可能となると、単純に会社の体力勝負となってしまいます。元々地力に勝り、規制時代でもカナディアンよりは競争に晒されて鍛えられていたエアカナダと、そのエアカナダの半分程度の規模しかなく、収益性も低かったカナディアンとでは力の差は明らかだったのに、無理にアメリカ路線を拡大させてエアカナダやアメリカ側の会社に返り討ちに遭ってしまったのが致命傷となってしまったと思います。

今の航空業界はメガキャリアのように規模の大きさで押し通すか、ジェットブルーやヴァージンアトランティックのように個性的なサービスでヘビーユーザーを獲得するか、あるいは中東御三家やシンガポール航空、フィンランド航空のようにハブアンドスポークで乗り継ぎ需要を取り込むのかであり、いずれの条件も満たさない中途半端な会社は顧客の支持を失い、大手の軍門に下るか最悪倒産して消えてしまいます。カナディアン航空はまさに「中途半端な会社」であり、いずれこうなる運命だったのかも知れません。

 

11月10日 迷航空会社列伝 アリタリア航空(全3回)

(原稿文字数:13,033文字)


迷航空会社列伝 「イタリアのフラッグキャリア」アリタリア航空 前編:マルペンサの乱

 

ニコニコ動画の方の「迷列車八周年記念祭」に合わせて全3回で投稿しました。期間内に終わらそうと無理したので疲れた・・・

 

5月の破産のニュースを聞いたときは「え?あそこまた潰れたの⁉」と思ったのですが、この動画を作るためにアリタリアの事を調べていくうちに「よくこんなグダグダ経営で今まで生き残ったな」と考えを改めたくらいのグダグダぶりでした。基本的に経営危機になる度に政府が支援してきたので、赤字体質でも生き残れたのだと思います。

しかしもう今までのようなやり方ではもう生き残れないでしょう。欧州では昨年、航空会社の経営破たんが相次ぎ、エアベルリンと傘下のニキ航空、イギリスのモナーク航空が運航停止となり、消えていきました。元から競争が激しく、淘汰されてる会社も出てきているのに評判の良くないアリタリアがこのサバイバルを生き残れるとは思えません。

経営破たん後、よほど現金が欲しいのか客が乗らないのか、アリタリアでは日本~欧州路線の往復航空券が6~7万円台とかなりの破格で出回っていますし、1月にはマイレージサービスもリニューアル(と言う名の改悪でしょう・・・)する予定ですが、今まで貯めたマイレージは3月末までにアリタリアに4区間以上乗らないとマイル消滅という、今までのヘビーユーザーと過去のマイルを切り捨てる気満々なリニューアルです。口コミを見る限り、特に経営破たん後は否定的なコメントが多いですし、今のところ、好転する要素は全くありません。3月のタイムリミットまでの間にどうなるのか、でも今の状況を見る限り、ダメな方向になりそうです・・・

新しいミッレミリアプログラム

 

12月29日 迷航空会社列伝 ギャラクシーエアラインズ

(原稿文字数:5,964文字)


【アジアの銀河は遠すぎた】迷航空会社列伝・2年で消えたギャラクシーエアラインズ

 

貨物航空会社を取り上げるのは何気にこれが初めてです。佐川急便系列のギャラクシーエアラインズですが、狙ったわけではないですがSGホールディングスの上場のタイミングでの発表になりました。

結局、航空貨物の方は2年足らずで撤退してしまいましたが、ギャラクシーとほぼ同時期に運転を開始した佐川急便専用貨物電車「スーパーレールカーゴ」を始めとした鉄道貨物輸送に関してはうまく行っているようです。やはり宅配便を中心とした国内小口貨物輸送で成長した会社ですから、航空機よりも安いコストで、そこそこ速く大量に運べる鉄道貨物の方が佐川のビジネスモデルには合っていたんでしょうね。

 

12月31日 迷航空会社列伝Lite ネパール航空

(原稿文字数:1,390文字)


【いにしえから来た不具合対策】迷航空会社列伝Lite ネパール航空

年の瀬ギリギリでもう1本アップしたネパール航空。きっかけは2016年12月のパキスタン航空のいけにえのニュースでした。そこから調べるうちにネパール航空のいけにえ事件に行きつきました。生贄を捧げるというのは前近代的な気もしますが、それ自体は文化の違いですからとやかく言うつもりはありません。しかし、ネパールのような小国の航空会社は常に資金面や整備面で悩まされており、万策尽きて神に縋るほかないという状態だったのかも知れません。

ネパールの場合、高地にあるので航空路線は国外への大事なライフラインですから、この辺は民間企業だけにすべての責任と金銭的負担を押し付けるのも酷なのかなと思います。政府が関与するナショナルフラッグキャリアは自由競争の現代航空業界では役割を終えたと思われがちですが、国によってはインフラの一環として政府の関与が必要なケースもあるのではないでしょうか。

 

以上、2017年にアップした動画を振り返りました。次回は2018年の動画の方針と抱負を書きたいと思います。