〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

富山空港をハブ空港化?航空事業参入を目指すジェイ・キャスについて調べてみた

 

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今日の富山新聞に「富山―関空 新たに計画」という見出しの記事が出て一瞬わが目を疑いました。記事によると、航空会社(正確には航空事業参入を目指す準備会社)の「ジェイ・キャス」という会社が計画しているそうで、関空~富山の他に関空~能登・米子・岩国の各路線の新規就航を計画しているそうです。

計画では70~80席級の小型機2機をリースし、2021年秋の就航を目指し、22年秋には4機体制にして富山と中部・仙台を結ぶ路線を開設して富山空港をハブ空港化。さらに2026年には7機体制としてさらなる路線開設を目指すそうです。

ジェイ・キャスでは関西・中部地域と北陸・山陰地域を結ぶ航空路線網が不十分と考えているそうで、新規就航で関西・中部を利用する外国人観光客やビジネス客の利便性向上に寄与できるとしており、社長は「全日空と競合しない関西・中部と北陸を結ぶことで地方空港の活性化を図りたい」としているそうです。

 

 

この記事だけを見れば、ジェイ・キャスと言う会社は国内線は羽田と札幌しかない富山空港に一気に地方路線を拡充してくれるありがたい存在、と言う事になります。確かに近年ではフジドリームエアラインズ(FDA)などが地方路線を開拓してくれているお陰で、以前よりは地方路線は充実してきています。しかし、最大の旗振り役であるFDAはJALとの関係が深く、ANA単独運航の空港にはほとんど就航していないのが実情です。それ故、ANAしか就航していない空港は総じて路線数が少ない傾向にあります。

 

例えばJAL系しか就航していない出雲空港とANAしか就航していない米子空港の国内線を比較して見ると、

出雲空港(1日最低16往復)・・・羽田(5往復)、伊丹(4往復)、神戸(10月27日より2往復で就航、12月20日以降1往復)、名古屋小牧(2往復)、隠岐(1往復)、福岡(2往復)、札幌(夏期のみ1往復)、仙台(1往復)、静岡(1往復)

米子空港(1日5~6往復)・・・羽田(5~6往復)

 

・・・その差は歴然ですね。米子空港の場合は対大阪ではJRと勝負にならない、出雲には地方路線拡充に積極的なFDAが就航しているなど事情はありますが、それを差し引いてもこれだけ差が開くものかと驚いてしまいます。そう考えるとジェイ・キャスの「ANAと競合しない地方路線に就航」という路線戦略はニッチ市場の獲得やANAの協力を得やすいなどのメリットがありますし、FDAの戦略を参考にしているように見受けられます。

 

 

それではこのジェイ・キャスと言う会社、一体どんな会社なのでしょうか?そして、路線就航を実現させられるだけの実力はあるのでしょうか?

とりあえずネットで調べてみたところ、公式HPを発見しましたので、ここに掲載されている情報を基に検証してみたいと思います。ちなみに、この会社に言及したニュース記事は発見できませんでした・・・

 

www.jcas.co.jp

 

まずこの会社の概要ですが(公式HPより抜粋)

社名:ジェイ・キャス株式会社

設立:平成30年10月23日

代表取締役:白根 清司

資本金:2000万円

本社:東京都千代田区丸の内 郵船ビルディング1階

 

準備会社とは言え、航空会社の資本金としては2000万円は少なすぎる気がします。本社所在地が丸の内とはかなり凄いように見えますが、調べて見たら郵船ビルディングの1階はレンタルオフィスになっているようでした。恐らくジェイ・キャスもこのレンタルオフィスを借りて営業しているものと思われます。

www.servcorp.co.jp

 

次に代表取締役である白根清司氏について調べて見ましょう。ネットで検索して見るとジェイ・キャスとは他に「コノビイズコンサルティング」という航空関連専門のコンサルティング会社を経営しているようです。HP内の代表者経歴によると白根氏は元々日本航空の社員で、運航技術部を中心に勤務、技術部課長を最後に1997年5月に退職しています。その後は新規航空会社の立ち上げに関わったのち(どの会社かは不明)、2001年にコノビイズコンサルティングを立ち上げ、現在に至っています。

コノビイズコンサルティングの事業内容は運航規程や整備規程、形式証明飛行規程などの航空関係の規定の設定・改訂支援、国土交通省の認可・承認、航空関係の技術支援やコンサルティング業務などを行なっており、航空関係の認可申請のエキスパートと言う感じです。近年ではJALの航空機のWi-Fi搭載支援にも携わっており、コノビイズコンサルティングとしては実績は十分にありそうです。

 

www.conobbys.co.jp

 

それを踏まえた上でジェイ・キャスの事業計画を見ていきましょう。まずは事業概要から見ていきます。

 

・事業概要(公式HPより抜粋)

・運航コストの低いターボプロップ機を使用する

・関西・中部空港と地方空港を結ぶ近距離路線網を構築し、地方空港の活性化を図る

・JRに比肩する運賃を提供し、時間的に優位な交通手段を提供する

・多頻度運航による利便性向上と採算性の確保を実現する

・人・物・情報の新たな流れを創造し新たな雇用を創出する

・インバウンド旅客を地方に誘引し観光立国に寄与する

 

コンセプトとしては「地方路線の少ない関空・中部を拠点にJRと競合する短距離路線をターボプロップ機で多頻度・低運賃で運航」という感じでしょうか。そう考えると富山新聞の記事で言及された「関空~富山・能登・米子・岩国」はJRだと2~3時間圏内で行けるのでこのコンセプトに合致します。確かにこの範囲の路線であれば大手やLCCが手を出してくることはなさそうなので、競合が少ないニッチ市場であるとも言えます。

 

しかし、過去には似たようなコンセプトで参入を掲げながら破産していった準備会社はいくつも存在しました。私も動画を作った福岡ベースの準備会社「リンク」や、今年1月に破産した「エアリージョナルジャパン」。「リンク」は福岡と北九州を拠点に松山や宮崎への就航を目指していましたし、「エアリージョナルジャパン」は庄内や秋田から成田・関空への路線を計画していました。いずれのケースもコンセプトは悪いものではありませんが、資金調達に失敗したり、国交省や機体メーカーとの調整が不調に終わったりして事業開始のめどが立たず、最後は資金繰りに行き詰まって破産しました。

いずれのケースも十分な資金がなく、有力な後ろ盾もいなかったのが行き詰まりの原因であり、今回のジェイ・キャスも認可関係のノウハウはともかく、資金面では現時点で全く開設の見通しがなく、記事にある就航計画も資金的な裏付けのない絵に描いた餅と言えます。HPの社長挨拶も国交省の事業認可や資金調達をどうするかといった具体的な就航計画にも言及されておらず、どこか抽象的ですし、採用情報欄でも「現在募集していません」と、就航準備が進んでいる様子はありません。公式HPも2018年12月に開設された後更新されている気配もないので、正直、現段階では実現の可能性はかなり疑わしいと思います。

 

www.jcas.co.jp

 

もちろん、関空や中部の活性化や地方路線拡充の観点から言えばジェイ・キャスには就航に向けて頑張って欲しいですし、富山空港を拠点に考えてくれているのは本当にありがたいです。しかし、リンクやエアリージョナルジャパン、あるいはエア奄美のように、過去に似たようなコンセプトを掲げて失敗した準備会社が何社もある事、ジェイ・キャスもこれらの会社と似たような資金力や進捗状況であることを考えると、にわかには今回の就航計画を信じることはできないのです。

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

ジェイ・キャスにはまず事業継続に足りるだけの資金やスポンサー集めが急務でしょう。それには信用に足りるだけの具体的な就航計画や採算見通しを出す必要があり、このハードルをクリアできない限り、地方路線就航計画は本当に「絵に描いた餅」で終わってしまいます。過去の失敗した会社と同じ轍を踏まず、今度こそ地方路線拡充を実現して欲しいところですが・・・

 

【追記】

地元のローカルテレビ局「KNB北日本放送」でもこの話題が取り上げられました。このニュース映像に映った「使用予定の小型機」の画像を見る限り、機材はATR72になるのではないかと思います。就航計画については富山新聞で報じられた内容とほぼ一致しており、10月28日に富山市で会見を開き、説明するとしています。この会見で就航計画の詳細や進捗状況などが具体的に語られるのでしょうか?

また、恐らくこの会見をきっかけに富山県や富山県内の企業などに資金的な協力や就航へのバックアップを要請するかもしれません。この計画にどれだけの企業が賛同するのか、どれだけ行政や県民の支持が得られるのか。まずは28日のジェイ・キャスの会見に注目したいと思います。

www.knb.ne.jp

 

【10月28日追記】

本日富山市のANAクラウンプラザホテルでジェイ・キャスの事業説明会が開かれました。事業内容はおおむね報道の通りなのですが、富山県内関係の路線に関しては富山~関空線と中部線は1日各4往復、仙台線は2往復の計画です。機材は70~80人乗りの小型機としていますが、会場に飾られているモデルプレーンはデハビランドダッシュ8-400型でした。ダッシュ8シリーズはANAグループで使用実績があるので、ANAの支援を仰ぐつもりかもしれません。就航計画も富山・能登・米子・岩国とANAだけが就航している空港ばかりですし・・・

 

 

 

trafficnews.jp

headlines.yahoo.co.jp

 

www.knb.ne.jp

 

構想を実現するために必要な資金は30億円で、白根社長は会見で、このうち10億円程度を富山県内の企業から集めたいとしています。富山市内で会見を開き、就航計画を説明したのも、恐らく資金集めの一環ではないでしょうか。

できれば説明会の資料とかを見られればいいのですが、残念ながらジェイ・キャスのHPにアップされる気配はありません。県内外のメディアに取り上げられたことで注目度は集まると思いますが、計画を見る限りANAの協力を得られることが前提のように思えます。まずは就航に耐えられるだけの資金調達が可能かどうかが見極めのポイントになると思えます。IBEXエアラインズに出資したJDLや、FDAを立ち上げた鈴与のような大きなスポンサーを得られるかどうかが就航の分かれ道でしょう。では、ジェイ・キャスがそのようなスポンサーを見つけられる可能性はあるのでしょうか?推測ではありますが、ジェイ・キャスが富山で説明会を開いた理由がここにあるのではと思います。

 

スポンサー候補の会社が多いという意味では実は富山県は有望な場所でもあります。というのも富山県の上場企業数は26社と人口の割には多い方で、総数でも第18位、人口10万人当たりでは6位と上位に位置します。北陸電力が富山市に本社を構える他、大手地方銀行グループのほくほくフィナンシャルグループ、大手アルミ企業の三協立山アルミやスポーツ用品大手のゴールドウィンなどの有名企業や、ITベンダー大手のインテック、ジェネリック医薬品大手の日医工など、巨大企業とまでは行かなくともそれなりの規模を持つ企業が結構います。そして、これらの上場企業の経営規模はJDLや鈴与とそう変わりません。

この中のどこか1社でも出資に応じてくれればジェイ・キャスにとっては資金的な後ろ盾を得られるだけでなく、スポンサーの信用を得て銀行などの融資も受けやすくなるというメリットがあります。世間的な信用を得られるというのも大きなポイントです。ジェイ・キャスが他の就航地ではなく、富山で説明会を開いたのは拠点空港としての可能性以外にも、スポンサー確保の可能性が一番大きいと睨んだからではないでしょうか?

 

とは言え、航空業は初期投資の大きいわりに失敗する可能性が大きい業種。スポンサーに手を上げる会社はそう簡単には現れないでしょう。本気でスポンサーを確保するのであれば、ジェイ・キャスにはこれまで以上に具体的な就航計画や、実現性に足る事業計画を提示する責務があるのではないかと思います。それが出来なければ、就航前に資金調達に失敗し、破たんして夢破れた他の会社と同じ末路を辿ることになるでしょう。果たして、今回のジェイ・キャスはどちらになるでしょうか・・・

 

 

 ↓地域主導型の航空会社の成功例と失敗例。ジェイ・キャスはどちらになるんでしょうか・・・

 

 

 

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もしも東海道新幹線が長期運休に追い込まれたら

も 台風19号で車両センターが被災して多くの車両が浸水し、長野~上越妙高間が不通となっていた北陸新幹線ですが、10月25日に全線復旧する見通しとなりました。台風通過前の計画運休も含めると13日ぶりに東京~北陸の大動脈が復旧することになりますが、この間、首都圏~北陸の旅客移動は米原経由や長岡経由などのルートや航空路、高速バスに頼る事になり、チケットが取りづらい状況が続いています。新幹線の輸送力の大きさ、重要さを改めて実感された方も多いのではないでしょうか?

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 

・実は災害による長期運休を経験していない東海道新幹線 

 ところで、平成に入って以後、地震や台風と言った自然災害で新幹線が長期運休に追い込まれるケースは過去に何度もありました。1995年の阪神・淡路大震災では山陽新幹線の新大阪~姫路間が81日間不通となり、2004年の新潟県中越地震では営業走行中の列車が脱線した事もあって上越新幹線が2か月以上不通となりました。記憶に新しいところでは2011年の東日本大震災の際、東北新幹線が被災して全線での運転再開までに1か月半かかり、速度制限が解除されて完全復旧するまでに半年以上かかったケースや、2016年の熊本地震で九州新幹線が被災し、全線での運転再開まで13日かかったケースもあり、東北新幹線と直通する山形・秋田新幹線も含めると大抵の新幹線は災害による長期運休を経験しています。

 

 

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一方、災害による10日以上の長期運休を経験していないのは東海道新幹線と北海道新幹線の2つだけ。このうち北海道新幹線は開業から3年程度と日が浅いですが、東海道新幹線の方は開業から55年経った今も長期間運休に追い込まれた例はありません(国鉄時代のスト権ストは災害が原因ではないので除く)阪神大震災の時も京都~大阪間が3日間運休しただけで、東海道新幹線全体から見れば途中で寸断されて関東~京阪神間の交通がマヒするという事はありませんでした。

考えて見れば55年間災害による長期運休の経験がないのも幸運な事ですし、災害が起きても被害を最小限に抑えられるよう、国鉄やJR東海が対策をしてきた効果もあると思います。それでも災害による長期運休を経験していない新幹線の方が珍しくなくなった今、いつ東海道新幹線も地震や台風などによる大規模災害で寸断されてもおかしくありません。今回はもし東海道新幹線が長期運休を余儀なくされた場合、その影響や代替交通手段を考察したいと思います。

 

・現在の東海道新幹線の影響力

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平成31年3月期のJR東海の連結決算は営業収益1兆8781億円、営業利益7097億円、当期純利益4387億円。このうち本業の鉄道事業の収入を示す運輸収入は1兆3966億円で、うち東海道新幹線は1兆2918億円です。営業利益に関しても運輸事業が6648億円と利益の9割近くを稼いでおり、無論そのほとんどは東海道新幹線が稼いでいます。JR東海の総収入の7割、運輸収入の9割以上を東海道新幹線が稼ぎ出していることになり、JR東海の高い収益性も東海道新幹線の収入あってこそです。

ちなみに、平成31年3月期現在でJR東海には7000億円以上の手持ち現金があります。1年分の営業利益に匹敵する手持ち現金がありますので、東海道新幹線が1か月止まった程度では資金繰りには窮しない位には財務体質がしっかりしています。長期運休=倒産にはならないのでご安心を。

 

次に東海道新幹線の利用者数ですが、2018年3月期では年間約1億7000万人、一日当たり約46.6万人が利用しています。これだけの旅客流動が突然止まるとなると・・・考えたくもないですね。

 

・旅客流動はどのくらい?

次に各都市圏間の旅客流動を見て見ましょう。データに関しては国土交通省発表の「全国幹線旅客純流動調査」の「都道府県間流動表・代表交通機関別(出発地→目的地)」のデータを使用しました。

www.mlit.go.jp

 

旅客流動は首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)、東海圏(愛知・岐阜・三重)、京阪神圏(大阪・京都・兵庫)の各相互間で比較します。また、交通機関別ではこのデータに基づき、鉄道・航空・幹線バス(高速バス)・自動車の4種類で分類します。鉄道の方は新幹線と在来線、あるいは私鉄特急の分類はないので、鉄道全体での数値となっています。鉄道、特に近鉄と競合する東海圏~京阪神圏は鉄道の旅客流動=新幹線の旅客流動ではない点をご留意ください。

 

・首都圏~京阪神間

鉄道   3420.6万人(73.1%)

航空        706.4万人(15.1%)

幹線バス 273.7万人(5.8%)

自動車     280.1万人(6.0%)

合計       4680.7万人

 

この区間に関してはほぼ鉄道=新幹線の旅客流動と考えていいかと思います。500km以上離れているので自動車の分担率は小さく、新幹線が7割以上のシェアを握っています。しかし、航空も15%、バスも6%近いシェアがあるので、代替交通機関は多少は見込める区間でもあります。

 

・首都圏~東海圏間

鉄道   3086.5万人(71.9%)

航空          54.0万人(1.3%)

幹線バス 163.3万人(3.8%)

自動車    986.4万人(23.0%)

合計      4290.2万人

 

こちらも鉄道=新幹線と考えていいでしょう。新幹線が7割以上のシェアを握るのは首都圏~京阪神と同じですが、自動車のシェアが23%に達する一方、航空とバスのシェアが小さいのが特徴です。公共交通に限って言えばほぼ新幹線の独占と言える区間です。

 

・東海圏~京阪神間

鉄道     1837.4万人(44.4%)

航空         0.2万人(0.0%)

幹線バス   105.2万人(2.5%)

自動車  2198.2万人(53.1%)

合計     4141.0万人

 

こちらは先の2区間と違い、鉄道=新幹線ではなく、近鉄の名阪特急が一定のシェアを持っている点に留意する必要があります。ただ、近鉄の利用者数やJRと近鉄のシェアなどの資料がなかったので、具体的な数値は不明です。所要時間や輸送量を考えると新幹線優位であることは間違いないのですが・・・ご存知の方がいたらコメント等で補足をお願いします。

こちらは200kmに満たない区間なので、航空のシェアはないに等しいです。その代わりに自動車が過半数のシェアを握っており、ほぼ「新幹線or近鉄特急orマイカー」という図式になっています。首都圏~東海圏との大きな違いは近鉄と言う代替交通機関が存在する事です。

 

それでは、この旅客流動を踏まえて東海道新幹線が長期間止まった場合の影響と代替交通を考えてみましょう。

 

・東京~名古屋間が止まった場合

この区間の運休はすぐに対応可能な代替交通機関がない分、影響が大きくなります。首都圏〜東海圏の旅客流動がストップするだけでなく、首都圏〜京阪神間の旅客流動の大半もストップしてしまう為です。

このうち首都圏〜京阪神間は航空機の大型化や臨時便、北陸新幹線金沢経由の北回りルートである程度はカバーできますが、問題は首都圏〜東海圏。東海道新幹線への依存度が大きい分、万が一止まってしまうと1日8万人以上ある旅客を捌く術がなくなってしまう為です。

 

まず高速バスの臨時便は輸送力は微々たるものなので焼け石に水。航空路線も本数が限られる上に首都圏〜京阪神の代替輸送で手一杯になると思うので当てにはできません。そうなるとやはり鉄道での代替が一番現実的になります。

 

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まず考えられるのは中央西線特急「しなの」の活用。中央東線特急「あずさ」で塩尻乗り換えか、北陸新幹線長野乗り換えの二つのルートが考えられますが、いずれの場合も乗り換えと4時間以上の所要時間が必要となります。しかも「しなの」も1時間に一往復程度、一列車あたりの輸送力も新幹線の三分の一程度なのでパンクするのは確実です。

もう一つのルートは北陸新幹線で金沢まで行き、名古屋行きの「しらさぎ」に乗り換える方法。しかしこのルートも中央線回り以上に時間と距離がある、「しなの」同様輸送力が限られるなど問題が多く、首都圏〜東海圏の旅客流動を全て吸収するのは不可能です。

東海道新幹線の運休期間が長くなればなる程日本経済や生活に与える悪影響は大きくなり、その損失は他の新幹線とは比べ物にはならなくなりそうです。

 

・名古屋~大阪間が止まった場合

この区間は自動車の分担率が大きく、止まったとしてもある程度は自動車に転移する見込みがある事、新幹線以外に近鉄があり、ある程度の代替が可能な事を考えると、先の首都圏〜東海圏よりも影響は少ないと思います。とは言え、1日4万人規模の旅客流動を近鉄や自動車だけで吸収するのは難しくなります。

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しかし、もし在来線が無事であればあふれた分の旅客流動をさらに吸収する事は可能です。と言うのもJR西日本側の米原〜京阪神間には新快速が30分間隔で運転されており、JR東海側も大垣まで新快速・特別快速を運転しています。大垣止まりの快速を米原まで延長運転し、西日本側の新快速に接続させれば名古屋〜京阪神間は乗り換え一回、所要時間2時間台後半で結ぶことが可能です。

車両調達はどうするのかって?そこはJR東海が進めて来た車両共通化が生きてきます。管内各地から予備車や増結用車両をかき集めて東海道線に投入すればカバーできますし、乗務員は運休になった東海道新幹線から一時的に転属させればOK。ダイヤ調整や車両・人員調達の問題はありますが、一番現実的な対応策であると考えます。

ちなみに、首都圏〜京阪神間の旅客は航空や金沢回りに加え、名古屋で近鉄か在来線乗り換えという代替手段が使えますので、こちらも首都圏〜東海圏程の影響はないと考えます(それでも影響は甚大ですが)

 

・東京~大阪間全線で止まった場合

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・・・東海道新幹線が全部止まったらもうお手上げですね。1日46.6万人の利用者の大多数が移動手段を失う事になります。先に挙げた代替交通機関だけでは到底カバーできず、日本最大の大動脈が止まった日本経済には甚大な影響が出るのは確実です。JR東海がリニア中央新幹線建設に躍起になっている理由もここにあります。

 

・JR東海に与える影響

先に挙げた通り、JR東海には7000億円を超える手持ち現金があるので短期的には経営が傾くと言う事はありません。しかし、東海道新幹線が止まる事で単純計算で1日35億円以上の運輸収入が消えるだけでなく、東海道新幹線の復旧費用ものし掛かってきます。

運休期間が1カ月を超えると減収額は1000億を超えますので、運休期間が長引けば長引くほど、JR東海が受けるダメージが大きくなり、経営への悪影響は広がっていきます。他のJRのように別の路線の収入でカバーすることもできないので、最悪の場合はリニアの建設をストップしてでも東海道新幹線の復旧に経営資源を振り向けざるを得なくなるのではないでしょうか?そうなればリニアの開業時期やJR東海の財務状態に大きな影響を与える可能性もあります。当然、株価や格付けにも悪影響を与えるでしょう。

 

・日本経済や国民生活に与える影響

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東海道新幹線はビジネス需要の割合が大きいので、それが止まると出張が不可能となり、企業の経済活動に悪影響を与えるのは確実です。今のご時世、wedカメラで映像を見ながらやり取りできたりメールやSNSなどですぐにやり取りできるので昔ほど現地に出向く必要性は高くないのですが、それでも重要な取引や打ち合わせは直接出向く必要があるわけですから、すぐに移動出来て日帰り出張も可能な東海道新幹線が使えなくなるのは大きな支障が出ます。東京はもちろん、東海道新幹線沿線に本社を構える大企業は多く、官公庁としても国の行政機関や沿線大都市の自治体の出張に影響を及ぼすため、その影響は他の新幹線の比ではありません。経済的、行政的な損失は計り知れないものになるでしょう。

また、東海道新幹線で通勤・通学する人にとっても長期運休は死活問題です。小田原くらいなら時間はかかりますが在来線に切り替えることができますが、三島や静岡となると毎日の通勤・通学は困難。最悪の場合、一時的に会社や学校の近くに転居せざるを得なくなります。身近な在来線に比べると影響を受ける人は少ないですが、確実に生活に支障が出る人は存在するのです。

 

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さらに東海道新幹線の長期運休は観光産業や宿泊業にも大きな打撃を与える事でしょう。長期運休となる東海道新幹線沿線はもちろん、飛騨や南紀、伊勢志摩など東海道新幹線利用者の需要が大きい地域、直通運転を行う山陽新幹線沿線など、その先への旅行も東海道新幹線の運休でキャンセルせざるを得ず、旅行需要は大きく減る事になります。そうでなくとも日本最大の大動脈である東海道新幹線の長期運休は心理的にも旅行への意欲を減少させ、復旧するまでは旅行を控える動きが出るのではないでしょうか。

また、インバウンド需要も東海道新幹線の不通と言う物理的な移動の不便さに加え、災害によるマイナスイメージもプラスされて激減するでしょう。そうなればインバウンド需要に頼っている宿泊施設や免税店はもちろん、外国からの航空需要も減少して航空会社の経営にも影響を与えると思います。観光産業の発展と外国人観光客の誘致を目標に掲げている日本政府にとっても大きな痛手です。

 

東海道新幹線の長期運休は直接的には日常生活に支障が出る人は多くありません。しかし、人が動かないと経済も廻らず、人が動かないと立ち行かない業界も少なからず存在する為、運休期間が長引けば長引くほどその経済的損失は大きいものになります。東海道新幹線は日本の大動脈であり、その沿線人口もけた違いなだけに影響は他の路線の比ではなく、回り回って日本経済に大きなダメージを与え、景気悪化で国民生活にも影響を与える事になるのです。

 

・・・書いてて恐ろしくなってきました。

 

・まとめ

いかがでしょうか。「東海道新幹線が止まると大変になる」と言う事は何となくわかると思うのですが、こうして実際の旅客流動を基にして考えてみると思った以上に影響が大きい事、意外と代わりの移動手段がない事に気がつくのではないでしょうか。それだけ東海道新幹線が担っている役割が大きい事、万が一の際の悪影響が大きいと言う事です。

災害は起こらないのが一番いいのですが、過去の事例から考えても「東海道新幹線だけは大丈夫」と言う事は絶対にありません。他の新幹線の被災事例を教訓に災害時の被害を最小限に抑える為の対策や、万が一長期運休になった場合の代替ルートを考える事が必要なのではないでしょうか。

 

最も、ここで言及するまでもなく、JR東海は対策を立てていると思いますけどね・・・

 

 

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737MAX運航停止問題で新たな疑惑・・・本当に運航再開できるの?

ボーイング737MAXの運航停止問題で新たな疑惑です。10月18日、アメリカの主要メディアは一斉にボーイングが737MAXの認可に際して、FAA(アメリカ連邦航空局)に実際とは異なる報告をしていた事、そのやり取りの記録を数か月前に把握しながらFAAへ開示していなかったと報じました。この報道を受けてボーイング株は前日比6%も下落し、この日のニューヨーク株式市場の下落の大きな要因の一つとなりました。

 

 

www.afpbb.com

 

www3.nhk.or.jp

 

 ↓これまでの737MAX問題の経緯はこちらの記事もご覧下さい。

www.meihokuriku-alps.com

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 

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ボーイング737MAXの連続事故の原因は失速防止システム「MCAS」の誤作動との見方が強いですが、2016年の737MAXの認証試験の際、ボーイングのチーフテクニカルパイロットが同僚に「MCASが作動しまくっている」と言った旨のメッセージを送っていました。シミュレーター試験の際に作動していたようですが、FAAはボーイングとのやり取りでMCASはまれにしか作動せず、航空機の安全性に問題はないという認識を示していました。

もしこれが本当だとすれば、ボーイングはMCASの問題を認識していたにも関わらず、737MAXの認可手続きを進めていた可能性があり、FAAにも不具合の可能性がある事を報告せずに認可を通した事になります。FAAはボーイングを非難する声明を出して即時の説明を求めており、ボーイングとFAAとの溝は更に深まっています。

737MAXの運航再開に関してはアメリカン航空が年内のFAAの安全認証発行を見越して2020年1月16日からの運航再開を計画していますが、そのFAAはこの問題が解決しない限り、安全認証を発行することはないと思われます。今後のボーイングの対応次第とも言えますが、上記の疑惑が真実だった場合はボーイングはFAAを欺いて737MAXの認可を通したことになり、安全認証どころか737MAXの形式証明自体が取り消される可能性すら考えられます。

既にボーイングは737MAXの運航停止に伴い、少なくとも84憶ドル(9100億円)のコストを負担していますが、万が一形式証明取り消しとなると、既に納入した387機の737MAXの補償やすでに製造した737MAXの廃棄、受注済みの737MAX約4600機の受注取り消しに発注した航空会社への補償など、取り返しのつかない大ダメージを負う事になります。下手したらボーイングという会社そのものが吹き飛びかねず、アメリカの航空産業全般への信用問題にもなりかねない程大きな問題に発展する可能性がありますが、それだけこの疑惑が重大な問題であることの裏返しとも言えます。ボーイングには速やかな情報開示と疑惑の全容解明、FAAやカスタマー、取引先に対する誠意ある説明が必要なのではないかと思います。

  

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そして、737MAXの運航停止問題は日本も他人事ではありません。幸か不幸か、737MAXに関しては日本のメーカーが関わる割合はそれほど大きくありませんが、現在日本の航空会社が使用している737NGの置き換えと言う問題があります。現在は各社様子見というところですが、もしこのまま737MAXの運航再開の見通しが立たない場合、置き換えはどうなるでしょうか?

 

現在、日本の737NGのうち各社最も古い機材と保有機数は以下の通りです。

ANA 2005年11月登録 737-700型・JA01AN 保有機数48機

JAL  2006年11月登録 737-800型・JA301J 保有機数50機

JTA   2016年1月登録 737-800型・JA01RK 保有機数12機

SKY 2007年8月登録 737-800型・JA737N 保有機数29機

SNA 2011年6月登録 737-800型・JA801X 保有機数13機

ADO 2006年10月登録 737-700型・JA06AN 保有機数8機

SJO 2013年7月登録 737-800型・JA01GR 保有機数6機

 

合計すると166機の737NGが日本の空を飛んでいますが、一番古い機材でも13~14年程度なので、当面は置き換えの必要はありません。しかし、一般的に20年程度とされる航空機の置き換えサイクルを考えると、既にA320neoと737MAXを発注しているANAはともかく、JAL、ADO、SKYの3社はそろそろ後継機を考える必要があります。また、737NGの製造が終了した事で737NG1機種のみ運行しているSNA(ソラシドエア)とSJO(スプリングジャパン)の2社も追加機材導入の際はどうするかと言う問題も出て来ます。

 

で、本題の737MAXかA320neoかという問題ですが、実際のところは「ボーイングの対応次第では全部A320neoにひっくり返ってもおかしくない」と思います。A380問題でエアバスに迷惑をかけたSKYや長年ボーイング機だけだったJALなど、簡単にはエアバスに靡かなそうな会社もいるように見えますが、SKYは佐山会長が737MAXの安全性に度々懸念を示すツイートをしており、ボーイングに対する微妙な温度差が見受けられます。

また、JALにしてもA350導入でかつてのボーイング一辺倒から「周りに左右されず、その時のJALにとってベストな機材を選択する」と言うスタンスに変わって来ている感がありますので、737NGの後継機に関してもゼロベースで考える可能性が高いです。その場合、ゴタゴタが続く737MAXを選ぶとは思えず、機種選定のタイムリミットまでに737MAXの問題が解決しない場合、A320neo鞍替えを決断するかも知れません。

他の各社も似たり寄ったりでしょう。ADOはANAの動向次第とも言えますが、そのANAもA320neoを既に使用しているだけに、737MAXに見切りをつけようと思えばつけられます。SJOも春秋航空本体はA320シリーズを使用していますし、残るSNAも737MAXの導入は様子見の姿勢です。他社に比べると737NGの投入は遅かった分、当面機材繰りに困る心配はないですが、長期的に737NGの調達が難しいとなると、エアバスへの鞍替えも選択肢の一つになりますし、事実ソラシドエアの社長もエアバス機導入の可能性を否定していません。今後のボーイングの対応が不誠実なものであれば、様子見の各社も737MAXに見切りをつけ、A320neoに殺到する可能性も否定できません。

 

www.aviationwire.jp

 

そしてこれは日本のみならず、世界中の737カスタマー全てに言えることでもあります。特におひざ元であるアメリカのメガキャリアが737MAXに見切りをつけたら、737MAXのみならず、ボーイング自体が揺らぎかねない事態に陥るかも知れない危機的状況であると言えます。ボーイングはこれまで以上にこの問題や疑惑に対して真剣に応える義務があるのではないかと思います。どれだけ大きな航空機メーカーでも、「安全」という基本かつ最も重要なことをおろそかにしてはいずれ航空会社や利用客の信用を失い、立ち行かなくなってしまいますから。

 

 

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台風の影響で北陸新幹線が長期運休の危機・・・復旧はいつになる?⇒10月25日に復旧予定!

10月12日から13日にかけて日本列島に上陸した台風19号は日本各地に大きな爪痕を残していきました。被災した方には心よりお見舞いを申し上げます。

さて、鉄道各社や航空各社は台風に備えてあらかじめ列車や航空機の運航を止める「計画運休」を行いました。この為運行中の事故や台風通過中の突発的な運休を防ぐことができましたが、一方でいくつかの路線ではまだ復旧のメドが立っていません。中には深刻な被害が出て長期間の運休が見込まれる路線もあり、台風の影響はまだしばらく続きそうです。

 

 

そんな中、最も深刻な影響を与えそうなのが北陸新幹線。千曲川の氾濫により長野市にあったJR東日本の新幹線車両センターが水没し、JR東日本所有のE7系8編成とJR西日本所有のW7系2編成が合計10編成120両が浸水してしまった事で、東京~富山間の全列車が引き続き運休となりました。車両センターの職員の方が全員避難して無事だったのは不幸中の幸いでしたが、北陸新幹線の車両30編成の3分の1が浸水してしまった事や、工場にあるメンテナンス機器や変電所なども水につかったことで早期の復旧は困難な状態です。

 

headlines.yahoo.co.jp

 

headlines.yahoo.co.jp

 

それでは北陸新幹線の復旧にはどのくらいかかるのでしょうか?現時点では正確な被害状況が分からないのではっきりした事は言えませんが、車両センター付近の水が引いた後の点検で本線の被害状況が深刻でなければ、運行再開自体はそう長くは掛からないのではないかと思います。しかし、全体の3分の1の車両とJR東日本側の車両基地が使用不能になった今の状態では、運行再開しても本数は半分程度になるのではないでしょうか。

日常の点検整備に関してはJR西日本の白山総合車両所があるので、運行自体は問題ないと思います。運行は当面は残る20編成で廻す必要がありますが、実際には予備や検査代替用で2編成程度は残しておく必要がありますので、実際に運用できるのは18編成となります。そうなると通常の5~6割程度の本数での運行となりますが、恐らく減便されるのは同じ時間帯を走る「はくたか」で代替可能な速達型の「かがやき」や、長野どまりの「あさま」になると思います。当面は残りの編成で廻すことができ、かつ長野滞泊を極力発生させないよう、1時間に1本程度の「はくたか」と数往復程度の「かがやき」、富山~金沢間の「つるぎ」だけになるのではないでしょうか。

 

また、水没した10編成が復帰できるか否かも完全復旧の時期を左右することになります。修理可能であれば再整備して復帰させればいいのですが、修理不可能だったり、費用面や修理期間の面で新造した方が早いと判断されれば水没した編成は廃車となり、新たに大体新造する必要があります。

そうなると10編成で300億以上の費用が掛かる上に発注から製造までに年単位での時間がかかり、完全復旧は更に遠のきます。しかも水没した車両の中にはJR西日本所有のものも2編成あり、JR東日本と西日本との間での費用負担の割合の問題も発生します。車両センター周辺は長野県のハザードマップで「付近の川が氾濫した際は10メートル以上浸水するおそれがある」とされており、JR東日本の過失の有無で揉める可能性があります。

車両自体は現在上越新幹線用のE7系が製造中なので、この車両を北陸新幹線に廻して既存の車両の廃車を先送りにすれば何とかなりそうですが、場合によっては上越新幹線にも影響が出そうなのが心配です。何とか修理できればいいのですが、映像を見る限りでは窓枠下の部分まで水没しているようなので厳しそうですね・・・車でもここまで浸水したら冠水車扱いになりますし。

www3.nhk.or.jp

 

一方、北陸新幹線の運休を受けてANAでは20:10富山発羽田行きの臨時便の運航を決定しました。14日以降も臨時便の運航を検討している他、JALも羽田~小松線の一部大型化を決定しました。JR西日本でも14日に金沢~米原間で臨時の「しらさぎ」の運行を決めた他、2時間に1本程度、金沢~糸魚川間で臨時の「はくたか」を運転する予定です。

北陸新幹線の運休が長期化するとなると、当面は航空路線や米原経由に頼る必要が出て来ます。場合によってはかつての主力ルートだった長岡経由も考える必要があるかも知れませんが、在来線の特急車両の数やJR東日本との調整を考えると現実的ではないかな・・・越後湯沢経由はもっと無理だと思いますし。

www.ana.co.jp

 

trafficinfo.westjr.co.jp

 

また、今回の北陸新幹線の運休で交通インフラを分散させる必要性が改めてクローズアップされたのではないかと思います。以前の記事で私が東京に行くのにあえて空路を使う最大の理由を「使わないと富山空港が無くなるから」と言いましたが、今回の運休で改めて万が一の際の富山空港の必要性を再認識しました。東日本大震災の際も長期不通となった東北新幹線の代替交通機関として山形空港や福島空港の存在がクローズアップされ、多数の臨時便が運航されて復興の大きな助けになったことは記憶に新しいと思います。同じような事が北陸新幹線でも起こった今、富山空港が富山と首都圏を結ぶ大事なライフラインとなっています。運休が長期化すれば機材大型化や臨時便で対応する事になりそうですが、まずは北陸新幹線の1日も早い復旧を願いたいですね。復旧にあたるJRの方はどうかご安全に。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

 【10月14日追記】

北陸新幹線は13日の夜に東京~長野間で「あさま」のみ運転を再開しました。また、北陸側も運転区間を金沢~糸魚川間に拡大し、金沢~富山間の「つるぎ」の他に金沢~糸魚川間に臨時の「はくたか」を13往復運行します(1~4号車の自由席のみ。他の車両は閉鎖)。また、ANAも14日の午後に羽田~富山線の臨時便運航を決定しました。

www.aviationwire.jp

 

www.toyama-airport.jp

しかし、残る長野~糸魚川間は運転再開の見通しが立っていません。未確認情報ですが車両基地だけでなく、変電所や本線の設備も浸水の被害を受けている可能性があるそうで、まだ水が引いていない現状では点検もままならないようです。被害ができるだけ小さいといいのですが・・・

本線の被害状況によってはこの区間の運休が長期化するかもしれず、その場合は現行の米原廻り以外の代替ルートを考える必要がありそうです。恐らく、羽田~富山間や小松間の航空便も大型化や臨時便運航が検討されると思います。

 

www.nikkei.com

 

trafficinfo.westjr.co.jp

 

この他にも吾妻線長野原草津口~大前間、両毛線足利~小山間、中央線高尾~大月間、水郡線前線が土砂流入や橋りょう流出などで長期運休の見通しとなっており、特に中央線の不通で山梨県や長野県中信地方への鉄道ルートが寸断されてしまっています。30名を超える死者も出てしまい、改めて被害の大きさに戦慄するとともに、亡くなられた方には心からお悔やみを申し上げます。まだ復旧作業にかかれる状態ではないと思いますが、一日も早い復旧と作業をされる方の安全をお祈りしております。

 

【10月17日追記】

10月15日にJR東日本が北陸新幹線の復旧見通しについて「1~2週間はかかる」と正式に発表しました。但し、今後信号設備等のほかの設備に不具合が見られた場合はさらに時間を要する、としており、まだ予断は許さない状況です。一方、3分の1の編成が水没した事で、復旧後も東京~金沢間の運行本数は通常の5~6割程度にとどまる見通しで、長期間首都圏~北陸の旅客輸送に影響を与えることは確実になりました。

https://www.jreast.co.jp/aas/20191015_o_typhoon19_multjp_01.pdf

 

そんな中、従来からの米原廻りに加え、金沢~上越妙高間の運転が再開されたことで上越妙高から特急「しらゆき」に乗り換え、更に長岡で上越新幹線に乗り換えるルートも加わりました。JRの他経路乗車もこのルートが認められ、富山県内からはこちらのルートの方が時間的にも料金的にも有利なようです。また、ANAやJALも東京~北陸の航空路に大型機を投入したり、臨時便を設定したりと可能な限りの輸送力確保に努めていますが、依然満席状態が続いています。

https://webun.jp/item/7607549

 

 

そして冠水した新幹線車両ですが、やはりと言うか、残念ながら廃車の公算が大きいようです。床下の電気機器に重大な被害があったらしく、そのまま使用することは困難なようです。部品が使われたとしても台車など一部にとどまるようで、このままだと新しく作り直すことになりそうです。JR東日本は上越新幹線のE4系の置き換え用に製造予定のE7系を北陸新幹線に廻し、廃車予定のE4系を延命させる方向で調整しているそうで、これが実現すれば北陸新幹線の車両不足は予想よりも早く解消されるかも知れません。ただし、その場合は上越新幹線の置き換え計画に影響を及ぼすことになりますが・・・

日を追うごとに被害の深刻さと北陸地方への影響が大きくなっています。秋の観光シーズンを迎える中での北陸新幹線のストップは宿泊業や観光産業、一般のビジネスにも影響を及ぼしています。できるだけ早い復旧が望まれますね。

this.kiji.is

 

newswitch.jp

 

【10月18日追記】

北陸新幹線が10月25日から全線復旧するとJRから発表がありました!復旧作業や安全確保のめどが立ったためで、運行本数も当初見通しの5~6割から8割程度、東京~金沢間の直通列車は9割程度の運行になる見通しで、当初の予想よりも良い形での復旧になりそうです。

当初見通しよりも本数が増えたのは予備車両の点検時期を調整するなどして運航可能な編成を増やした事や、東京~長野間の「あさま」や富山~金沢間の「つるぎ」の本数を調整して東京~金沢直通列車に廻したことなどが挙げられます。不足する車両についても上越新幹線用に製造中のE7系を北陸新幹線に転用し、置き換え予定だったE4系を延命する方向でねん出することになりそうです。但し、被災した長野の車両センターの検査機能や車庫は使用不能のままなので、当面はJR西日本の白山総合車両所や、東北・上越新幹線の車両センターを活用することになりそうです。

正直、復旧や本数の回復はもっと後だろうと思っていたので、予想よりもいい形での復旧は嬉しい誤算と言えます。これもJR東日本や西日本が早期復旧に向けて最大限尽力してくれたからであり、頭が下がる思いです。あとはこれ以上、想定外の不具合や被災箇所が出ずに、無事に復旧してくれることを祈りたいですね。

trafficnews.jp

 

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JAL旅客機コレクション第二号・第三号が届きました!

先月から定期購読を開始したデアゴスティーニの「JAL旅客機コレクション」の第二号と三号が昨日届きました。既にYouTubeで動画は出していますが、改めてこちらでも取り上げたいと思います。

 

 ↓以前の記事はこちらをどうぞ。

www.meihokuriku-alps.com

 

www.meihokuriku-alps.com

 

今回は第2号がJALのボーイング747-100型、第3号がJASのボーイング777-200型「レインボーセブン」になります。以前にも触れましたが、この「JAL旅客機コレクション」の最大の特徴はJALのグループ会社や統合相手のJASの機体もきっちり出してくれるところ。普通、統合で消えた会社なんてなかったことにされる事が多い中、きちんとJASの機体も出してくれることにデアゴスティーニさんと監修したJALさんの心意気を感じることができます。

 

 さて、さっそく実物を見て見ましょうか。

 

 

 

・・・あれ?何か箱のデザインが違うような。まあいいか。

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まずは第2号から。JAL躍進の立役者とも言える初代ジャンボ機・ボーイング747-100型。当初はアメリカ軍の大型輸送機用として開発されたものの、肝心の受注争いでロッキードに競り負けてしまったので旅客機に転用したという経緯があります。

当時はコンコルドやボーイング2707、ツポレフTu-144といった超音速旅客機が一般的になると考えられており、ボーイング自身も旅客型で使われるのは10年程でその後は貨物機に転用する腹積もりだったようです。
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箱から出して実物を見てみましょう。
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クオリティに関しては前回同様相応のものだと思います。ただ窓周りのデザインはちょっと甘いかな・・・


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次に第三号を見ていきましょう。さっき箱の違いが気になっていましたが、開封してみて分かりました。第一号、第二号に比べると箱の作りがペラペラで、蓋もなし。うーん、これはちょっとあからさまなコストダウンですなあ・・・


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箱を見て心配しましたが、中身のダイキャストモデルのクオリティは変わらなかったので一安心。

 

元々JASの機材はエアバスとダグラス機ばかりで、ボーイング機はTDA発足直後に短期間だけ使用したボーイング727だけでした。ボーイング777は国内幹線用のフラッグシップとして1997年から導入された、JASにとって23年ぶりのボーイング機になります。

 

しかし、実はJASは最初から777を発注したわけではなく、当初は長距離国際線用としてボーイング747-400型9機を発注していました。しかし、バブル崩壊に伴うJASの経営悪化で国際線どころではなくなり、苦労して開設したホノルル線とシンガポール線も廃止。747-400も宙に浮いてしまいましたが今更キャンセルしたら違約金が発生してしまいます。

そこでJASは発注を一回り小さいが最新型で燃費の良い777-200に変更し、A300では供給不足気味の国内幹線に投入することにしたのです。

 

その際、塗装は公募でデザインを募集する事になり、採用されたのが「レインボーセブン」の塗装です。まあ、JASのレインボーカラー自体、エアバスのデモ機に使われていたものを譲り受けたものなので、それを最大のライバル会社のボーイング機に使われるのはエアバスもボーイングも良い気分はしないでしょうからね・・・
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この塗装最大の特徴は左右非対称である事。左側は前方にJASロゴ、尾翼に「JAPAN AIR System」の文字を記載。右側は尾翼にJASロゴを記載しています。虹を機体にぐるぐる巻きつけるデザインの為、左右で印象が変わるのも当時では、いや今見ても斬新で十分現代でも通用するデザインです。

MD-90もそうですが、機種限定とは言えこれを通常塗装として使用するJASは、先発2社とはまた違ったユニークで愛された会社だったんだなと、このモデルプレーンを見て改めて思いました。


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次回は恐らく11月初旬に第4号と5号が届くと思います。予定通りなら3代目塗装の747-400とJAS塗装のA300-600Rになると思いますので、届いたらまたレビューして行きたいなと思います。個人的にはJASのA300は好きな機材で楽しみにしていますので。

 

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JALとハワイアン航空の独禁法適用除外却下・・・憧れのハワイ航路の競争の行方は?

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アメリカ運輸省は10月3日までにJALとハワイアン航空が申請していたJV(共同事業)について、独占禁止法の適用除外(ATI)を認めない判断を下しました。「ATIを認可する事が公共の利益を利用者に提供するとは言いがたい」と言うのが理由で、JALとハワイアン航空はハワイ戦略の見直しを迫られそうです。

 

 

JALとハワイアン航空の共同事業、独禁法適用除外認めず 米運輸省(Aviation Wire) - Yahoo!ニュース

 

JALとハワイアン航空は2017年9月に包括的業務提携を結び、2018年3月から相互コードシェアやラウンジの相互利用を開始しました。ハワイ路線に強いJALとハワイが本拠地のハワイアン航空との提携は「強者連合」と言えるものであり、日本〜ハワイ路線のJVはその集大成と言えるものでした。

しかし、今回のATI申請にはその強大さが仇となってしまったようです。JVが実現すればダイヤ調整や運賃の統一などが両者の間で可能となり、実質的に一体運行が可能となりますが、日本〜ハワイ路線で両社のシェアが5割を超える点が問題視されたようです。

 

アメリカ運輸省、JALとハワイアン航空の独禁法適用除外認めず - TRAICY(トライシー)

 

さらに、競合相手でもあるANAがATI適用に反発していたのも影響したと思われます。今年4月、ANAはアメリカ運輸省に「実質的な独占になって消費者が不利益を被る懸念がある」と、JALとハワイアン航空のJVに反対する意見書を提出しています。

ハワイ諸島内の路線はハワイアン航空が9割以上のシェアを握っており、JALとハワイアン航空がJVを行えばハワイ内の島間路線から他の会社を排除する事が可能だとANA

恐らく意見書だけでなく、提携相手のユナイテッド航空と共同でロビー活動を行なっていたのではないかと思います。

 

JALとハワイアン航空、共同事業認めず 米当局「公益の根拠なし」:朝日新聞デジタル

 

今回の決定はまだ仮決定であり、今後JALとハワイアン航空の反論を聞いた上で最終決定をするとしています。認可されるには両社が持つ日本〜ハワイ路線の一部権益放出などでシェアを下げる必要があると思われますので、JVを諦めるか、権益放出してでもATI認可を優先するかの判断を迫られると思います。まだまだもう一波乱ありそうです。

 

 

さて、5月のANAのA380投入以来、日本〜ハワイ路線の力関係は微妙な変化を見せています。A380就航前に大々的なキャンペーンを行った事もあり、就航後のANAの成田〜ホノルル線の搭乗率は9割近くに達する一方、JALのハワイ路線は10%以上利用者が減少しました。導入の経緯はともあれ、A380は日本〜ハワイ路線のゲームチェンジャーになったようです。

 

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では今後のハワイ路線はどうなるのでしょうか?今はANAが優位に立っていますが、来年の春スケジュール以降は羽田発ホノルル線が増える見通しなので、他の会社がある程度巻き返してくるのではないかと思います。

まずデルタ航空がホノルル線を羽田に移しますし、ハワイアン航空も羽田〜ホノルル線を1往復増便させます。JALもホノルル線の一部を羽田に移すのは間違いないでしょう。JALとハワイアン航空のJVが認められずとも、来年の春以降は羽田〜ホノルル線が増える事で十分ANAに対抗できるのではないでしょうか?

一方、ANAは羽田のA380乗り入れが認められない現状では、今まで通り成田から飛ばすしかありません。羽田〜ホノルル線を増便して他社に対抗する方法もありますが、自社の成田線と共食いになるリスクもありますので、安易に増便はできないでしょう。ANAがハワイ路線に注力しているのも、これを見越しての事かもしれません。

 

しかし、羽田のA380乗り入れは他にもカンタスが求めていますし、乗り入れの障害さえクリアできれば認められる可能性もあるでしょう。そうなれば日本〜ハワイ路線はA380と言う競争力も収容力もある機材を持つANAが圧倒的に優位になるでしょう。それで相対的に他社のシェアが下がれば、或いはJALとハワイアン航空のJVも認められるかも・・・?

 

恐らく、JALとハワイアン航空のJVが認可されるか否か、羽田のA380乗り入れが認められるか否かで日本〜ハワイ路線の力関係は変わって来ると思います。今はANAに勢いがありますが、JALとハワイアン航空が本腰入れて巻き返して来るとどうなるかは分かりません。

ハワイ路線は飛行機を降りてからもホテルやオプショナルツアーなどで収益が見込める路線。その点では長年のノウハウがあるJALや地の利があるハワイアンが有利と言えます。各社切磋琢磨してハワイ路線全体が伸びていければいいですね。

 

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LATAMワンワールド脱退・・・曲がり角に来ている「航空アライアンス」

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南米最大の航空会社グループでワンワールドに加盟しているLATAM(ラタム)は9月26日、デルタ航空との関係強化とワンワールドからの脱退を発表しました。デルタ航空がLATAM株20%を19億ドルで取得した上でLATAMに3億5000万ドルを投資、LATAMの債務削減のためにLATAM保有のA350型4機を引き取るほか、LATAM発注のA350型10機もデルタが受領する方向で調整しているようです。

提携には関係国の承認が必要ですが、デルタとLATAMは路線の重複がほとんどなく、承認はスムーズに行くだろうとの予測で、1~2年で承認が降りるのではないかとのこと。LATAMのワンワールド脱退時期やスカイチーム加盟の有無については未定ですが、承認が得られる見通しが立った段階で去就がはっきりするのではないでしょうか?

 

www.traicy.com

 

sky-budget.com

 

LATAMは2012年にチリのフラッグキャリア・LANグループとブラジル最大の航空会社・TAMの統合でできた南米最大の航空会社グループです。合併に際してはLANグループがTAMを買収した格好であり、グループの本社はチリのサンディアゴ、CEOもLAN側のCEOが就任し、アライアンスもLANグループが加盟していたワンワールドを選択してTAMは加盟していたスターアライアンスを脱退するなど、LAN側が主導権を持っています。

南米各国に子会社を設立して南米屈指のネットワークを誇ったLANと、南米一の大国であるブラジルで1位のTAMの組み合わせはまさに「強者連合」というべきものであり、LATAMを抱えるワンワールドはアメリカン航空の豊富な南米路線を含め、南米地域では他のアライアンスを圧倒していました。

今回のLATAMの脱退とデルタとの提携は、その南米でのパワーバランスが根底から覆るほどの大事件であるといえます。南米での拠点を失う事になるワンワールドと、LATAMを手に入れた事で広大な南米路線を手にするデルタ。南米地区のアライアンス間の競争に大きな影響を与える事になりそうです。

 

ところでデルタとLATAMの提携のニュースが出る前、デルタのCEOは「スカイチームのアライアンス事業は成功していない」との見解を示しました。スカイチームが利用客や加盟航空会社にとって価値のあるものになっていないと不満を漏らしており、デルタは異なるアプローチでネットワーク構築を図るとしています。

スカイチーム内の力関係を考えるとデルタは盟主と言える立場ですが、そのデルタ自身がアライアンスのあり方に疑問を持ち、距離を置くのは異例と言えますが、最近のデルタの動きを見ているとそう思っていても無理はないなと思えるのです。

近年のデルタは大韓、エールフランスKLM、中国東方、ヴァージンアトランティック、アリタリアと言ったスカイチーム内外の航空会社に出資をしたり、出資表明をしたりと個別に提携関係を強化する動きが目立ちます。大半はスカイチーム加盟会社なのでアライアンス内の提携強化と取れなくもありませんが、単にアライアンスの結束を高めるだけなら自己資金を投入してまで出資する必要はないでしょう。

もしかしたらデルタはスカイチームは自社が主導権を握る形でのアライアンス再構築を目論んでいるのかも知れません。外資規制の問題があるので子会社化や合併は不可能ですが、この動きは90年代初頭にKLMがノースウェストに出資したりアメリカン航空がカナディアン航空に出資したような2社間提携に近いものを感じます。スカイチームの枠組みは維持しつつ、戦略上重要と判断した会社とは個別出資と言う形でより強固な関係を築く、と言うのがデルタの今後の提携戦略になるのではないでしょうか。

sky-budget.com

 

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一方、LATAMを失う見通しとなったワンワールドですが、他にも「脱退予備軍」は存在します。中東御三家では唯一アライアンスに加盟しているカタール航空。以前からアメリカン航空やカンタスとの不仲が囁かれ、独自のアライアンス設立を模索しているとの噂があり、ワンワールド脱退の噂が度々起こっています。

今のところは残留の方向ですが、アメリカンとは中東の航空会社の乗り入れ制限問題で対立し、カンタスともカタールと政治的に対立関係にあるUAEのエミレーツ航空と提携関係にある事から名指しで批判するなど関係はいいとは言えません(実際、ワンワールド加盟会社でありながらアメリカン航空とカンタスとは提携してません)

一方でカタール航空はキャセイパシフィック航空やIAG(ブリティッシュエアウェイズやイベリア航空などの親会社)にも出資しており、そのIAG内のブリティッシュエアウェイズもカンタスとは2013年に提携解消されるなどワンワールド内の関係は複雑化しており、あまり纏まりがあるとは言えません。今後の展開次第では他のアライアンスの草刈り場になったり、第4のアライアンス設立の際に引き抜きに遭う可能性も十分考えられます。

 

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そして日本でもスカイチーム加盟会社を中心にANAとJALの提携会社の取り合い合戦が激化しています。ANAがJALと提携関係にあったベトナム航空に出資して鞍替えさせたかと思えばJALはANAが提携していたハワイアン航空やアエロメヒコと提携してかっさらって行きました。その後もANAはアリタリア航空と、JALはアエロフロートと提携し、ガルーダインドネシアに至ってはANA、JAL両方とコードシェアを結んでいます。

流石にカンタスのようにアライアンス内の会社と手を切ってまで個別提携をするケースはありませんが、ワンワールド加盟前のJALは個別に海外の航空会社と提携関係を結ぶ「全方位外交」を模索していた時期があり、その時のパイプがあるので個別提携をやりやすい環境にあるのではないでしょうか。万が一ワンワールドが空中分解してしまったとしても、案外「全方位外交」を復活させて単独でやって行ったりして・・・?

 

そしてもう一社気になる存在は昨年スカイチームを脱退した中国南方航空の動向。当初は中国本土の加盟会社がいないワンワールド入りが囁かれていましたが、未だにその気配はありません。南航にもカタール航空が5%を出資しており、来年1月からはコードシェアも開始する予定。ひょっとしたらワンワールドとカタール航空の新アライアンスのどちらにつくか、動向を伺っているのかも知れません。

そう考えると今後の動向によってはカタール航空と中国南方航空が中心となった新アライアンス結成と言う、LATAM脱退よりも遥かに衝撃的なニュースが駆け巡るかも知れません。その場合、21世紀の航空業界の中心となって来たスターアライアンス、ワンワールド、スカイチームの三大アライアンスの枠組みが大きく変わる可能性は高いと思います。

カタール航空が新アライアンスを立ち上げた場合、恐らく真っ先に切り崩されるのはワンワールド加盟会社だと思いますので、JALにも影響が出てくる話になるかも知れません。航空アライアンスのあり方そのものに疑問を呈するアナリストも複数いるそうですし、近い将来、加盟会社のアライアンス移動に止まらない大きな変動があるかも知れません。今後の動向に注目です。

 

【11月24日追記】

LATAMのワンワールド脱退日は2020年10月1日に決まったようです。と言ってもLATAM自身が発表したわけではなく、提携相手のカンタスが「LATAMでのマイル積算は9月30日まで」と発表した事で分かったようです。近いうちにLATAM自身から正式に発表があるとは思いますが、脱退日のみの発表なのか、脱退後スカイチームへの加盟を表明するのかが注目です。しかし、LATAMがスカイチーム加盟となれば南米市場はワンワールド優位から一気にスカイチーム優位に傾くことになりそうですね・・・

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