2月12日、石井国土交通大臣は記者会見で2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けた羽田空港国際線の発着枠について、日本とアメリカの航空会社に12便ずつ割り当てると発表しました。国際線の発着枠増加は50便なので、半数近くが日米路線の増強に充てられることになります。
・なぜ今回の配分はアメリカに手厚いのか
さて、他の国の割合がまだ出ていないので断定はできませんが、今回の配分はアメリカに手厚いものになりそうです。
2010年の再国際化の時は全体で40便に対し、アメリカ路線の割り当ては8便、2016年の配分の時は同じく全体40便に対しアメリカ路線は実質4便(全体の割り当ては12便ですが、うち8便は前回の早朝深夜枠の昼間枠移行)と、実は太平洋路線のボリュームの割に多くはありませんでした。今回日米路線の割り当てが多いのも、以前の配分との兼ね合いや需要動向に合わせたものでないかと思います。
また、日本のハブ空港戦略の面からもアメリカ路線の強化は理にかなっています。日本の地理的位置を考えると最も乗り継ぎ需要が見込めるのは北米→アジア間、特にアメリカからの直行便が少ない東南アジアからの乗り継ぎです。これまでは成田空港がその役割を担っていましたが、近年の羽田空港の国際化でハブ機能は強化されており、仁川や上海、台北といったアジアの他の空港との競争を考えると羽田からのアメリカ路線強化は必要な事ではないでしょうか。
さらにANAはユナイテッド航空と、JALはアメリカン航空と提携しており、提携先の会社からの乗り継ぎも見込めるのも大きなポイントです。昔はアメリカ側の会社が無制限の以遠権を使って日本からアジア各地に路線を拡げており、航空権益の拡大を巡り度々日本側との対立の火種となっていました。しかし現在はATI(独占禁止法の適用除外)を受けて運賃共通化やダイヤの調整などを行なっており、協力して他グループとの競争に対抗する方向になっており、以前のような会社間での対立は起こりにくくなっています。またアメリカ側の会社も合理化でアジア路線の直接運行を縮小する傾向にあり、その穴をANAやJALのアジア路線のコードシェアという形で埋めていますので、アメリカ路線の強化は日米の航空会社双方にとって願ったりな事です。
・・・まあ、日本側がアメリカ側に配慮した面もあるとは思いますが。
・日本の航空会社の割り当ての行方
では日米それぞれの割り当てはどうなるでしょうか。勝手に予想してみたいと思います。あくまでも個人の妄想なのでまともに取り合わないで下さいw
まず日本側ですが、前回は「8.10ペーパー」がまだ効力を持っており、傾斜配分でANA4便、JAL2便とANAに有利な配分になりました。しかしその「8.10ペーパー」は2017年3月末で終了しましたので、今回はその影響を受けない初めての配分となります。
恐らくANAは「JAL破綻時の過剰な公的支援の格差是正」JALは「前回の傾斜配分で不利になった羽田国際線の格差是正」を求め、自社に有利な配分を求めてくると思います。しかし私は「ANA6、JAL6」の双方折半な配分になる可能性が高いのではないかと思います。
すでに「8.10ペーパー」の失効後はANAへの優遇措置を行わないと国交省が明言していますし、今回JALに有利な配分をすれば暗に傾斜配分が間違いだったと国交省が認めたようなものですから、1便でもどちらか片方に有利な配分を行うとしこりが残ります。少なくとも今回は双方同じ便数でバランスを取るのではないでしょうか。
ちなみに、ANAとJAL以外の会社に配分される可能性はないでしょう。理由は簡単。長距離国際線を飛ばす体力も、その気もないであろうからです。但し、近距離国際線はスカイマーク、スターフライヤー、ソラシドエアは意欲を見せているので、これらの会社に近隣国の枠が配分される可能性はあると思います。
・アメリカの航空会社の割り当ての行方
前回(2016年)の配分は昼間枠5(うち4枠は早朝深夜枠からの移行)、早朝深夜枠1の合計6枠でしたが、この時はデルタが昼間枠2、ハワイアンが昼間枠と早朝深夜枠各1、ユナイテッドとアメリカンが昼間枠1でした。
気になる各社への割り当てですが、ユナイテッドとアメリカンについては日本側にそれぞれANAとJALが提携相手として存在する一方、デルタだけが日本側のパートナーがいないことを考えると、前回同様デルタに多めに配分されるのではないかと思います。またハワイアンに関しては基本ハワイ路線のみの運航である事や、JALとコードシェアを開始した事、前回の配分でデルタ同様優遇された事を考えると、今回の配分はなしか、割り当てがあってもせいぜい1枠位なのではないかと思います。
問題はどの会社に何枠割り当てられるかですが、デルタの出方次第ではないかと思います。と言うのも近年デルタは成田路線の縮小を進めており、現在はアトランタ、デトロイト、シアトル 、ポートランド、ホノルル、マニラ、シンガポールの7路線週47便のみ。前回の配分ではアメリカ路線だけ配分が先送りにされましたが、これもデルタが成田路線の羽田移転という到底無理な要求をしていたのも一因です。
デルタにしてみれば成田ハブは自社のアジア地域の拠点であり、重要拠点でしたが、日本側に提携航空会社が存在しない事や、羽田路線が充実すれば自社の成田ハブが不利になるなど、羽田路線の拡充は決して喜ばしいものではありませんでした。2011年には週196便を飛ばしていたのが近年はアジア路線の直行化と、大韓航空との提携強化によるソウル路線強化で成田路線は減少の一途を辿っています。
しかし、今の縮小した状態かつ今回の羽田発着枠の大幅配分はデルタにとってはハブ機能の羽田移転の絶好のチャンスと言えます。6〜7便程度なら発着枠の配分は十分可能ですし、既存の羽田〜ロサンゼルス・ミネアポリス線と合わせれば十分ハブ機能は維持できます。できればこのタイミングでスカイマークあたりと提携できれば国内線との連携が取れて双方メリットがあると思いますが、まあANAが許さないでしょうね・・・
言い換えれば今回の配分がデルタを日本市場に繫ぎ止める最後のチャンスになるかも知れません。今回の配分でデルタに不利な配分になれば、デルタは日本市場を見限り、最低限の路線以外は撤退してしまうかも知れません。関西〜シアトル線の開設など、日本路線拡充をまだ諦めていないデルタ。ノースウェスト航空以来半世紀以上続く日米航空路線の一角をこのまま撤退させるのは日本にとってもプラスにはならないと思います。是非今回の配分が日米双方にプラスになるよう、知恵を絞っていい方向に向かえば良いですね。