〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

京急の「各駅停車に乗ったらポイント付与」は通勤を変えるかも知れない

6月24日、京急電鉄は平日の朝ラッシュ時に上り普通電車を利用した乗客に対し、ポイントを付与するサービスを7月から始めると発表しました。スマートフォン向けアプリの「KQスタんぽ」を使用し、平日7時30分から9時の間に運転される普通列車の車内放送で「ほぼ聞き取れない」非可聴音を流して「KQスタんぽ」に認識させ、ポイントを付与するというシステムです。

このような取り組みはもちろん日本初ですし、非可聴音を認識させてポイントを付与するという仕組みも恐らく日本の鉄道会社では初めてなのではないでしょうか。
trafficnews.jp

 

f:id:meihokuriku-alps:20190624215359j:plain

京急の目的は「ラッシュ時の快速特急の混雑緩和」であり、特急の退避でどうしても時間がかかり、敬遠される各駅停車に乗客を振り分けることで優等列車の混雑率を下げ、通勤時の快適性を高めるのが狙いです。

しかしこのシステム自体が、これまでは不可能と思われていた顧客データのない不特定多数の利用客に「同時に」「公平に」ポイントを付与する画期的なものであり、このシステムが他の鉄道会社にも普及すれば、将来の混雑緩和や顧客囲い込みにも貢献するかも知れません。

 

利用率の低い列車に割引運賃を設けて乗車率向上を図るやり方自体は以前から存在しました。代表的なのがJR東海の「ぷらっとこだま」であり、各駅停車で利用率の低いこだまに割安な料金とドリンク券を付けて「旅行商品」として売り、特にグリーン車は正規料金よりもかなり割安な料金で乗れるようにした事で好評を博し、今でも人気商品です。

しかし、この手法は運賃の他に特急料金が必要な新幹線や有料特急だからできるもの。優等列車に乗ろうが各駅に乗ろうが運賃は変わらず、乗客がどの列車に乗るか把握も指定もできない通勤電車では不可能でした。ポイントや特典で利用率の低い列車に誘導しようにも、個別に手渡しするのは物理的に不可能ですし、電子マネーなどで割引するにしても「その乗客が本当に利用率の低い列車に乗ったのか」と言う証明ができませんから、思い付いても実現は不可能でした。

 

京急はこのハードルを「非可聴音」による認証システムでクリアしました。「非可聴音」と言うのも聞き慣れない言葉ですが、人の耳では聞き取れない高周波の音の事で、認証技術の一つとしても注目されています。昨年NECが高周波の非可聴音を外耳道に送出し、その反射音で個人を識別する技術を開発しています。

 

NEC、人間の耳には聴こえない音で個人を識別する耳音響認証技術を開発 (2018年2月27日): プレスリリース | NEC

 

今回の京急の取り組みが軌道に乗れば非可聴音による認証技術が注目されるだけでなく、鉄道各社が同様のサービスを採用すれば首都圏のラッシュの混雑緩和と乗車率の平準化に繋がるかも知れません。利用客にもポイントと言う形で恩恵が受けられます。

 

そしてもう一つ、このサービスは鉄道会社による顧客囲い込みの大きなきっかけになるかも知れません。今回の京急の場合、ポイントを貯めるには「京急プレミアカード」の保有とウェブ会員の登録が必要ですが、京急にとってはカードを作ってもらう事で顧客データを入手する事ができますし、ポイントが溜まればそれを使う為に京急グループのサービスを利用してくれます。そこでもポイントを付与すれば、顧客は積極的に京急グループのサービスを利用してくれる、と言う訳です。

 

京急プレミアポイントのサービス自体は以前から存在していましたが、今回のニュースで存在を知ったり、作ってみようかと興味を持った方も少なくないのではないでしょうか。少子高齢化で全体のパイが縮小する中、鉄道各社は顧客の囲い込みが必要になってくるでしょう。そんな中で他社に先駆けて混雑緩和に手を打った京急のサービスは面白いなと思いますし、将来の得意先確保と言う点でも有効な手だと思います。今回の取り組みが上手く軌道に乗り、混雑緩和に寄与して京急の業績にも寄与するといいですね。

 

 

にほんブログ村 鉄道ブログへ
にほんブログ村