〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

大韓航空のナッツ問題から考える飛行機のピーナッツアレルギー問題

 

「ナッツリターン事件」の大韓航空、またもやナッツ絡みのトラブル

昨日何気なしにツイッターを見てたら、大韓航空がまたナッツ絡みでトラブルを起こしたという記事を発見しました。その記事によると、アメリカのジョージア州アトランタ在住の10代の兄弟がマニラに行く際、ピーナッツアレルギーがある事を伝えたにもかかわらず仁川~マニラ間の大韓航空便でナッツが提供され、大韓航空の職員から「ナッツの提供を受け入れるか、飛行機を降りるか選ぶように」言われた結果、押し問答の末にアトランタに引き返したとの事。

その後兄弟の家族は大韓航空に払い戻しと補償を要求しましたが、大韓航空は「デルタ航空との関係が悪化することを避けるため」3月25日から国内外の全路線でナッツの提供を中止したそうです。該当の大韓航空便がデルタ航空とのコードシェアだった事や、アトランタ~仁川間のデルタ航空便では兄弟に配慮してナッツの提供を取りやめていた事も今回のナッツ撤去に関係していたかもしれません。

 大韓航空とナッツと言うと2014年12月のいわゆる「ナッツ・リターン事件」を思い出す方も多いと思いますが、どうも大韓航空はナッツと浅からぬ縁があるようです。

f:id:meihokuriku-alps:20190331154045j:plain

 

this.kiji.is

 

正直言ってこの記事の内容は色々と突っ込みどころ満載なのですが、そもそも何であらかじめアレルギーの事を伝えていたにも関わらずナッツを出し、しかも嫌なら飛行機を降りろと言う話になったのか、この少年のアレルギーの度合いが命に関わるほど深刻なものなのか、なぜ今回のトラブルから全便のナッツ提供中止にまで拡大してしまったのかなど、不明な部分が多すぎます。この記事だけでこの問題の是非を判断するのはちょっと難しいですし、他の新聞社や大手ニュースサイトで取り上げられ、詳しい情報が分かってからでないと詳しく書くことはできないかなと思います。

 

【4月3日追記】

ロイター通信や報道ステーションなどでもこの問題が取り上げられ、だんだん流れが分かってきました。他の記事でも「飛行機を降りるか、ナッツの提供を受け入れるか」と大韓航空側から二者択一を迫られたと記載があるので、どうやらこの対応は事実の様です。記事を見る限りでは、この問題はまずアメリカ側で報道されたのちに韓国側でも取り上げられ、世論の非難を浴びた大韓航空が28日に謝罪とナッツ提供の中止に追い込まれた、という流れの様です。大韓航空では2017年にもニューヨーク行きの機内でピーナッツアレルギーのある子供にマカダミアナッツを提供して呼吸困難になったことがあり、今回騒ぎが大きくなったのも2017年の事件や「ナッツリターン事件」で世間を騒がせた中での「ナッツ」に関わる不祥事だったのも大きかったのではないでしょうか。

今回の問題では大韓航空のみならず、提携先のデルタ航空も「今回の問題を調査するために協力している」との声明を発表するなど、事前に大韓側に通知したにも関わらずとばっちりを受けており、「デルタ航空との関係が悪化することを避けるため」というナッツ撤去の理由もあながち的外れでもなさそうです。いずれにせよ、大韓の対応が自らのブランドのみならず、提携相手のデルタのブランドにも傷をつけてしまった事に変わりはなく、これを機会にアライアンス内での情報共有や、アレルギーや障害を持つ利用客への対応の統一など、再発防止策を考えて欲しいですね。

jp.reuters.com


headlines.yahoo.co.jp

 

カタール航空は世界150以上の都市へ就航!

 

 結構対応してくれる?機内食のアレルギー対応

で、今回取り上げたいのは機内食のアレルギー問題について。有り難いことに私は特にアレルギーはないので食事で困る事はないのですが、甲殻類やそば、卵や小麦など世の中には食物に関するアレルギーを持っている方は少なくありません。普段の生活ではアレルギーの食材を避ける事は出来ますが、問題なのが飛行機の機内食。特に長距離の国際線では逃げ場のない狭い空間に長時間いるわけですし、提供される食事の種類も限られますから、事前にアレルギー対応の機内食を依頼するか、事前に持ち込むかしか回避する方法はありません。

それ故大抵の航空会社ではアレルギー対応の特別機内食を用意しており、例えばANAではフライトの24時間前(日本到着便は48時間前)、JALでは72時間前までに電話で予約すればアレルギー食材を取り除いた機内食を準備してもらえます。但し、種類は7大アレルゲン要素(小麦、そば、乳製品、卵、落花生、エビ、カニ)を除いたものと、27品目のアレルゲン要素を除いたものの2種類だけで、例えば甲殻類はNGだけど蕎麦や小麦は大丈夫という人でも自動的に蕎麦や小麦なしのメニューになるなど不便な面もあります。まあ、個々の状態に配慮した機内食をきめ細やかに提供、となると手間やコストが馬鹿にならないので仕方のない部分はあるのですが・・・

www.ana.co.jp

www.jal.co.jp

 

実はかなりヤバい「ピーナッツアレルギー」世界の航空会社の対応は?

で、問題のピーナッツアレルギーですが、調べてみたら他のアレルギー以上に深刻な食物だったようで、アレルギー持ちの人はごく微量のピーナッツでもアレルギー反応を起こすようです。発症すると全身蕁麻疹や呼吸器症状、アナフィラキシーショックなどの症状が出て、ピーナッツに触れたり粉を吸い込んだだけでも発症してしまう為、相当気を使わなければならない食材の様です。

alle-net.com

 

そして各航空会社のピーナッツアレルギーの対応を調べてみると、これまた他の食物以上に気を使っていることが分かります。ANAやJALでは機内食でのピーナッツの使用を取りやめており、ANAはフライトの96時間前、JALでは2週間前までに依頼すれば座席の特別清掃を実施してできる限りのナッツ類の除去に協力してくれます。

ただし、特別清掃も実施対象は国際線と一部の国内線のみであり、大気中の浮遊物などのアレルギー物質そのものまでは除去できません。また、機内食でピーナッツを排除しても、他の乗客がピーナッツを持ち込むことまでは禁止できませんから、ANAもJALも機内からピーナッツを完全に排除することはできないとしており、アレルギー持ちの人自身にも防護マスクや薬や注射を持ち込むなど自衛策も取って欲しいとしています。

www.ana.co.jp

www.jal.co.jp

 

その他の航空会社だとシンガポール航空は2018年4月からスナックとしてのピーナッツの提供は取りやめていますが、シンガポール航空名物のサテイ (鶏肉や羊肉などの串焼き)にピーナッツソースを使用している関係もあって、ピーナッツ自体の機内食からの完全排除は行っていません。

https://www.singaporeair.com/ja_JP/jp/travel-info/requests/passengers-with-nut-allergy/

 

また、台湾のエバー航空ではピーナッツアレルギーの症状自体は認識しているが、ピーナッツを使用した食品やピーナッツ成分の入った食材は幅広く使用されており、完全排除は不可能と言うスタンスです。

www.evaair.com

 

エアカナダでは段階的にピーナッツを使用したスナックを廃止していますが、機内食でのピーナッツの完全排除やピーナッツを除去した特別機内食の対応は行っていないようです。また、事前に申請すればピーナッツアレルギーを持つ乗客の周辺の座席でピーナッツの提供を控える、客室乗務員が周辺席の乗客にピーナッツの摂取を控えるよう説明するなどの対応を行ってくれるようです。

www.aircanada.com

 

ユナイテッド航空では個包装のピーナッツの提供は廃止しているが機内食からのピーナッツ成分の完全排除は不可能である事、事前に相談があれば周囲の乗客にピーナッツを含んだ食品を開封したり、食べたりするのを控えてもらうようにお願いすることはできるとしています。

https://www.united.com/web/ja-JP/content/travel/specialneeds/needs/food-allergies.aspx

 

で、問題の大韓航空とデルタ航空の対応は?

 ちなみに、今回の騒動の当事者の大韓航空とデルタ航空の対応ですが、大韓航空はピーナッツは普通に提供しているので除去は不可能。搭乗する場合は事前にアレルギーについて申し出、搭乗前に同意書に署名する事、基本的に特別な対応はしないが、空席の場合は席を離すなどの配慮はするとしており、あまりピーナッツアレルギーに対して特別な配慮はしていなかったようです。これなら大韓航空がナッツの提供を控えるのを拒んだり、特別な対応をしていなかったのも仕方がないのかなと思います。

www.koreanair.com

一方のデルタ航空ですが、ピーナッツアレルギーがある事を事前に申し出れば、その搭乗便でピーナッツ類の提供はしないそうです。また、希望すれば搭乗前にゲート係員が座席周辺の清掃を行うなど、アレルギーの申し出があれば最大限配慮してくれるようです。同じスカイチーム内の航空会社でも対応は違っており、今回の問題が起こったのは航空会社によるアレルギーへの対応や理解の差と、乗客サイドと航空会社サイドの認識の差が理由の一つなのかなと思います。


pro.delta.com

 

 

まとめ

こうしてみると航空会社によって対応には差がありますが、共通しているのはピーナッツアレルギーの症状や危険性は認識しており、可能な限りの配慮はするという姿勢、他の乗客のピーナッツ持ち込みは止めることはできない事、機内からのピーナッツ成分の完全排除は不可能であり、乗客側にも自衛策を求めている事です。それでも以前に比べるとピーナッツアレルギーに対する航空会社の理解は広がっているようで、ピーナッツを機内食から外している航空会社が結構あった事に驚きました。言われてみれば、最近飛行機の機内でピーナッツの小袋はあまり見なくなったような・・・

もちろんアレルギーを持つ乗客への配慮と言う面が大きいのですが、一種のリスク回避の側面もあるかも知れません。アレルギーが原因で乗客と航空会社との間でトラブルになったのはこれが初めてではなく、昨年12月にもスペインのイベリア航空がピーナッツアレルギーを持つ少年がいる家族がナッツの提供中止やアレルギーを持つ乗客がいることをアナウンスして欲しいと伝えたところ、CAが拒否して降機せざる得ず、イベリア航空が大きな非難にさらされたことがありました。

 


news.livedoor.com

 

アレルギー持ちの乗客にしてみれば命に関わる事なので一定の配慮を求めるのは当然ではありますが、航空会社もアレルギー持ちの乗客だけを特別扱いするわけにも行きませんし、それで他の乗客が不利益を被るわけにも行きません。航空会社によってピーナッツアレルギーに対する認識や対応に温度差があるのも、アレルギーを持つ乗客への配慮と他の乗客との公平性との板挟みになっている結果とも言えます。

それでもゆくゆくはアレルギーへの配慮は強化しないといけないのではないかと思います。国内移動や陸続きの国への移動なら車や鉄道など飛行機以外の手段を使う事も可能ですが、日本のような島国や、太平洋横断や大西洋横断などの長距離移動になると飛行機以外の選択肢はあり得ません。アレルギーを理由に移動の自由が制限されるのは健全とは言えませんし、機内食からピーナッツを取り除くことでそのリスクが軽減されるのであれば、仕方のない事なのかなと思います。

とは言え、アレルギー持ちだからと理不尽な要求を航空会社にするのは論外ですし、航空会社にも出来る事とできない事があります。難しい問題ではありますが、下手に対立を煽るのではなく、アレルギー持ちの人もそうでない人も快適な空の旅が楽しめるよう、お互い配慮して行けるようになればいいですね。

 

↓アレルギーとは無縁の私ですが、仕事上、アレルギーを持ったお客様の対応を求められることはあります。周りにアレルギー持ちの人がいたり、アレルギー症状の疑いがある場合は一読してもいいのかも知れません。

にほんブログ村 その他趣味ブログ 航空・飛行機へ
にほんブログ村 にほんブログ村 旅行ブログ 飛行機旅行・空の旅へ
にほんブログ村