〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

自由競争とは程遠い航空機メーカーの競争

カナダのボンバルディア社の旅客機「Cシリーズ」のアメリカ国内での販売を巡る不当廉売訴訟で、アメリカ国際貿易委員会はボンバルディアの主張を認め、不当廉売はなかったとする決定を下しました。

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これはCシリーズを確定75機、オプション50機発注したデルタ航空に対し、ボンバルディア社が不当に安い値段で売ったとしてボーイングが訴えを起こしていたもので、アメリカ商務省もCシリーズに対し292.1%の関税を課す仮決定をしていました。この決定は国際問題に発展し、カナダ政府は対抗措置としてボーイングの軍用機を購入しないと表明したばかりか、ボーイングに対抗するべくボンバルディアはエアバスとの提携を結び、Cシリーズ事業へのエアバスの出資や一部機体をアメリカのエアバス工場で製造するなどの対抗措置を取りました。さらにボーイング側もこの連合に対抗するべくブラジルのエンブラエルとの提携交渉を行うなど、航空機メーカーの再編にもつながりかねない事態にまで発展しました。

 

しかし、この制裁措置もITCの判断次第と言う事もあり、ITCがどのような判断を下すかが注目されましたが、結果は4人の委員全てが「アメリカ航空機産業には損害を与えない」とボンバルディア側を支持し、満場一致でボーイングの訴えを却下。ボーイング優勢との下馬評を覆し、ボンバルディア側の完全勝利となりました。

 

さて、今回の結果についてですが、私は妥当な判断であったと思います。そもそもボンバルディアのCシリーズは100席~150席級の小型ジェット機であり、ボーイング737の市場を脅かすには一回り小さいサイズ。既に737の売れ筋はCS300と多少バッティングする短胴型の-700型からより胴体の長い‐800型、‐900型に移っており、エアバスA320シリーズにしても長胴型の方に発注が集まっています。Cシリーズにバッティングする機種にしてもボーイング717や737-600は既に生産中止、エアバスA318も新規受注はない状態なので、Cシリーズはこれらの機種の市場を脅かす存在と言うよりは、737やA320が捨てつつあった市場を埋める機種と言う性格が強く、今回のボーイングの主張は少々無理筋な気がします(不当廉売したのがA320シリーズならまだ分かりますが)

さらに航空機の価格がカタログプライス通りに販売されることは皆無に近く、大抵は大量購入などでディスカウントしますし、新機種のローンチカスタマーやそのメーカーの使用経験が無い場合はリスクに対する対価や実績作りの為に大幅に値引きするのはよくある事です。

値引きはボーイングも少なからずやっている事ですし、アメリカ政府がバックに付いてる巨大なボーイングと規模の小さいボンバルディアとではまともにやり合ったら太刀打ちできないのは明らか。立場の強いボーイングが破格の値下げをすれば不当廉売ですが、実績がなく、立場の弱いボンバルディアに取っては値下げはむしろ巨人ボーイングに対抗するための苦肉の策です。

 

普通に見ればボーイングによるライバル潰しの言い掛かりに近いのですが、アメリカファーストの保護主義を進めるトランプ政権下では認められる可能性も十分にありました。

しかし、ITCがボンバルディア支持の決定を下したのは大統領が変わっても国の方針が180度変わるわけではないと言う、アメリカの司法の成熟度を証明したと思います。

そもそもユーザーである航空会社にしてみれば航空機調達でも一社独占で値段が高止まりするよりは複数のメーカーで競合して安く調達できる方がいいですし、長い目で見れば浮いたお金をサービスや値下げの原資にして利用者にも還元されるでしょう。かつてのダグラスDC-10とロッキードL-1011のように無理な過当競争でメーカーが倒産したり、大事故に繋がったら本末転倒ですが、独占もまた航空会社やユーザーの為にはなりません。そう考えると今回の決定はアメリカにもまだ保護主義を是としない人が一定数いるのだと安心しました。