1月26日、JR東海が東海道新幹線のN700系と高山本線の「ひだ」で無料社内WiFiサービスを提供すると発表しました。今年の夏から順次サービスが始まり、東海道新幹線は2019年度の冬までに対象のN700系全車に設置、高山線は2018年度中に設置が終わる予定です。さらに東海道新幹線の全駅と管内の主要駅でも無料WiFiサービスを開始するなど、一気に無料ネット環境を整備する大盤振る舞いです。
これまでも車内WiFi設備がなかったわけではありませんが、携帯各社が提供している有料WiFiサービスで事前に事業者との契約が必要なもの。契約や設定が面倒で使ってなかったという人や、そもそもサービスがあったこと自体知らなかった人も多かったのではないでしょうか。
それにしても東海道新幹線だけでなく、高山線特急にも設置するとは意外でした。東海道新幹線は顧客サービスや航空機との対抗上、いずれ設置に踏み切ると思っていましたが、高山線の場合は航空との競合がない上に対象車両のキハ85系も製造から25~30年と古く、WiFiサービスを行うにしても2022年以降投入される新型ハイブリッド気動車からだと思っていましたので。数年後には置き換える予定の車両にあえてWiFiを設置するのはやはり近年伸びている外国人旅行者対策なんでしょうね。
しかし、この車内WiFi設備、他の交通機関では一般的な設備となりつつあり、バス業界では都営バスでは無料WiFiサービスを既に始めてますし、高速バスでも阪急バスや一部のJRバスなどでは無料WiFiサービスを実施。航空会社を見ても昨年6月に国内線機内WiFi無料化に踏み切って話題となった日本航空や4月から追随するANAグループ、優良・無料を問わず機内WiFi提供が当たり前になりつつある海外の航空会社など、ここ数年で急速に増えてきています。大手私鉄や東京メトロでも訪日外国人向けに無料WiFiサービスを提供する会社が増えており、政府も訪日外国人の誘致に向けて鉄道会社にWiFi整備の努力義務を課す法整備を進めています。むしろ新幹線はWiFi環境に関しては周回遅れになっていたくらいです。
さて、ここで気になるのは他のJR各社、特にJR東日本と西日本の対応です。JR東日本で車内インターネットサービスを行っているのは常磐線のみ(しかも有料)、新幹線の車内WiFiは有料すら設定なしと言うJR東海以上の周回遅れ。とは言えごく一部の車両で訪日外国人向けに試験的に無料WiFiサービスを行っていますので、いずれは訪日外国人向けにサービスを行うかもしれません。
JR西日本に関しても駅の無料WiFiサービスは充実していますが、新幹線車内のWiFiサービスは有料も含め今のところなし。2018年夏以降、北陸新幹線で訪日外国人向けの無料WiFiサービスを実施する予定ですが、山陽・九州新幹線に関しては今のところ相互乗り入れを行うJR東海に追随する動きはありません。JR西日本の場合、資金面での問題もそうですが、九州新幹線で相互乗り入れを行うJR九州との調整もありますので、簡単にはWiFiサービス導入に踏み切れない事情があるのかも知れません。
しかし、今回のJR東海の無料車内WiFiサービスがJR西日本側にWiFi設備の設置を促す可能性はあると思います。なぜなら今回WiFiサービスが設置されるのは「JR東海保有のN700A系」のみ。同じ東海道新幹線内を走るN700A系でも「JR西日本保有のN700A系」は今のところ車内WiFiサービス設置の予定はなく、JR東海車とJR西日本車でネット環境に格差が出ることになります。さらにJR東海保有車両も無料車内WiFiのサービスは東海道新幹線区間のみ。新大阪以遠は無料WiFiの対象外となり、特に岡山や広島などの山陽新幹線直通利用客にとっては途中でWiFiが切れる事になります。
JALやANAが機内WiFiを無料化することを考えると、航空機との対抗上、WiFiサービスが全くないのは特に訪日旅行客誘致の面では不利になるのではないかと思いますので、いずれJR西日本も無料車内WiFiサービスの設置に踏み切るのではないかと思います。ただ、その場合でもJR東海との兼ね合いや航空機との対抗上、山陽新幹線区間と東海道新幹線直通対応車両が優先されると思いますので、九州新幹線直通車両やJR西日本管内だけを走る「こだま」用車両は後回しになるのではないでしょうか。
いずれにしろ、海外では公共交通機関の無料WiFiが一般的になっており、日本の新幹線は出遅れ感が否めません。今後日本の人口が減少していくことを考えるとJR各社も訪日旅行者の取り込みは今後の課題になるはず。車内WiFiの設置はもちろんですが、自社の収益向上の為にも外国人にも使いやすい鉄道の整備を期待したいところです。