〜Aviation sometimes Railway 〜 航空・時々鉄道

航空や鉄道を中心とした乗り物系の話題や、「迷航空会社列伝」「東海道交通戦争」などの動画の補足説明などを中心に書いていきます。

「一応」商業運航にこぎ着けたC919とダメだったスペースジェットの違い

2023年5月28日に初めての商業運航を開始した中国商用飛機有限責任公司(COMAC)のジェット旅客機、C919。最初に就航させたのは中国東方航空で、路線も中国国内最大のドル箱路線・北京~上海線。翌日には上海~成都線にも就航し、今後は中国国内の各航空会社が国内線に投入していく見込みです。

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さて、近年の中国製ジェット旅客機の発達は目を見張るものがあり、量産化にこぎ着けたのはなぜかDC-9によく似ているARJ21に続いて2例目。しかもこちらはMD-90の治具を流用しまくったARJ21と違い、完全新設計の機体です。もっとも、当初は2018年の納入開始を見込んでいたものの、試験飛行の遅れや中国当局側の対空審査体制整備の難航などで、4年以上遅れてしまいました。それでも就航までこぎ着けたのは素晴らしいことですし、審査体制整備の遅れは某高速鉄道と違い下手にメンツを優先して安全性をおろそかにしなかった為と考えることもできます。

toyokeizai.net

 

さて、C919の商業運航開始のニュースを見て感じたのは、同じくノウハウが乏しい状態から開発を開始したものの、開発が遅れに遅れて結局計画中止になってしまった三菱スペースジェットの存在。150~200席級で需要が大きい分、ボーイングやエアバスと正面からぶつかるC919と、100席以下で需要もライバルメーカーも違うスペースジェットを同列に扱うこと自体、ナンセンスだとは思いますが、曲がりなりにも就航にこぎ着けたC919と、多額の資金をつぎ込みながら幻に終わったスペースジェットとは何の違いがあったのか、考察してみました。

 

 

1.国家の「本気度」の違い

C919計画は中国のジェット旅客機の国産化という「国家プロジェクト」であり、中国政府も計画段階から深く関わっていました。そもそもCOMAC自体が中国国内の民間航空機製造会社を政府主導で統合して発足した企業ですし、株主構成も中国政府や上海地方政府などが名を連ねる国営企業です。更にC919の開発目的の一つが「国産ジェット旅客機を生産することで、ボーイングやエアバスへの依存度を減らす事」ですから、C919計画は国策に基づいたものであり、中国政府から資金的、人的なバックアップがあったことは容易に想像できます。

 

一方のスペースジェットですが、三菱重工が主体となった民間企業のプロジェクトであり、経済産業省もバックアップはしたものの、国家プロジェクトと言えるC919に比べると、その割合は小さいものでした。

YS-11の時は政府と民間の共同出資で特殊会社「日本航空機製造」を設立し、どちらかと言うと政府主導のプロジェクトでしたが、結果的には格好の天下り先となって経営はうまくいかず、販売網やアフターサービスの構築に失敗。コスト意識も低く、参加したメーカーも軍用機の開発経験はあるものの民間機のノウハウがなく、各社横並びで主導権を取るメーカーもなかったため、責任の所在が曖昧になった事も経営の迷走に拍車をかけました。結局、YS-11は多額の赤字を抱えたまま182機で生産終了。日航製も解散してプロジェクト的には失敗に終わりました。

スペースジェットの時に三菱重工が単独でプロジェクトを立ち上げ、政府の関与が限定的だったのもYS-11の時の教訓を生かしてのことでしたが、それが逆に三菱一社では複雑化したFAAの型式証明取得に対応できず、巨額になった開発費用を賄うことができずに事業中止に追い込まれた原因のひとつになりました。政府の関与が少なかったのも、今にして思えばFAAやEASAとの交渉や審査の面では不利だったのではないかと思います。

 

2.型式証明の申請先の違い

C919は最初から中国国内の需要を満たすことを目的としており、海外への輸出は余り考慮されませんでした。このため、型式証明取得に関しても中国国内のみで行い、FAAやEASAへの型式証明取得申請もしませんでした(EASAの方は後にしれっと申請していたようですが)。当の中国当局が大型ジェット旅客機の型式証明のノウハウがなかったため、結果的に時間はかかってしまいましたが、それでも同じ中国国内での審査や交渉ですから、意思疎通は比較的スムーズだったと思います。

 

これに対してスペースジェットは海外への輸出ありきの計画であり、特にメインターゲットとしていたのはリージョナル機の需要が大きいアメリカ市場。このため、FAAとEASAの型式証明取得は必須であり、試験機をアメリカに送り込んで試験飛行を行うことにします。

しかし、このFAAの型式証明取得が事業化への最大のハードルとなり、当初三菱重工は自社スタッフだけで乗り切ろうとしたこともあって、審査はなかなかうまくいきませんでした。途中から型式証明作業に長けた外国人スタッフを雇ったものの、新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限もあって時既に遅し。結局、FAAの形式取得証明に時間がかかりすぎたことがスペースジェットにとっては致命的な痛手となってしまいました。

 

3.背景にあった「需要」の違い

C919が当初事業展開しようとしたのは中国国内だけですが、既に中国の航空会社だけでも数千機単位のジェット旅客機需要があり、中国国内だけで十分ペイできるだけの発注量が見込めたためです。

中国国内の大手航空会社と言えば中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空の3社ですが、本体だけでも400~500機単位の保有機数を誇り、しかも傘下の航空会社も数十機から100機単位の航空機を保有するなど、大手3社グループだけでもかなりの需要が見込めます。更に大手以外でも海南航空、四川航空、吉祥航空、春秋航空などのグループがあり、ざっと計算したら3200機以上の民間航空機が飛んでいます。

既にC919がオプションも含め1000機程度の受注を得ていることからも分かるとおり、既に中国国内では2~3割のシェアをCOMACが取っている計算になりますし、今後の中国の航空需要の伸びを考えれば、もっと多くの受注が見込めるでしょう。つまり、アメリカやヨーロッパの航空当局の証明が取れなくとも、COMACは中国国内の需要だけで十分食べていける訳であり、旺盛な国内需要で当座の地盤固めをし、運航実績を重ねた上で、将来的にはFAAやEASAの型式証明取得にチャレンジする、という青写真も描けるわけです。

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一方のスペースジェットですが、国内企業で発注したのはANAとJALの2社だけで、オプション分を合わせても僅か57機。日本国内の民間航空機の登録数が600機程度、100席以下のリージョナル機に限ると50席以下のATR機を含めても100機程度しかないことを考えると、とても日本国内だけでは食べていけません。それ故三菱重工は当初からアメリカ市場をメインターゲットにしてFAAの型式証明取得を目指したわけですが、その割にはFAAの審査を甘く見ていた節があるように感じます。C919と違い、国内需要だけでは食べていけない事は最初から分かっていたはずなのに・・・

 

 

まとめ

以上、C919とスペースジェットの明暗を分けた理由について考察しました。国家レベルでの力の入れようが違いましたし、型式証明取得へのハードルもスペースジェットの方が高かった事、地盤となる国内需要の差が違いすぎたのも明暗が分かれた理由なのかなと思いました。

思えば日本の自動車産業や電機産業が世界的なシェアを取れたのも、技術力の高さに加え、旺盛な国内需要という「地盤」があったからであり、国内で力を蓄えた上で海外市場に打って出ることができたのが良かったのだと思います。同じ事は鉄道車両業界にも言えることであり、世界的に見ても車両需要の大きかった国内需要があったからこそ近年まで複数の大手車両メーカーが存在していましたし、日立が海外進出してシェアを伸ばす下地があったのだと思います。

言い換えれば戦後航空機産業が育たなかったのも国内需要がそこまで大きくなかったからであり、スペースジェットが失敗に終わったのも、早いうちから海外需要取り込みを目指して型式証明取得を最優先にしなかったのが原因の一つなのかも知れません。そういう意味では「まともに飛ぶ飛行機さえ作れば国内の航空会社が大量に買ってくれる」状況にあったC919は機体の開発さえ上手くいけば、一定の成功が約束されていたのかも知れません。

 

但し、C919が今後中国国内だけの飛行機で終わるのか、世界市場に打って出てボーイングやエアバスを脅かす存在になるかは、また別の問題だと思います。中国国内での商業運航を開始したとは言え、FAAやEASAの型式証明を取得するにはまだ程遠い状況ですし、仮に取得を目指したとしても国内よりも高いハードルがあるのは明白。また、国産機とは言ってもエンジンを始め多くの部品は海外製に依存していますし、ロシアの航空機がそうだったように、今後の国際情勢次第では一気に部品供給を止められて生産さえおぼつかなくなるリスクもあります。

近年の中国脅威論や国際的な不安定要素、アメリカ製品の中国への輸出制限に型式証明の取得問題など、C919が海外市場に打って出るには問題が多すぎるので、当面は国内での安定供給に注力すると思われます。しかし、実績を積んだ5年後、10年後は世界市場に打って出る可能性があるでしょう。案外、中国は航空機の安全に関しては厳しい方ですし、国際関係さえ悪化させず、海外のサプライヤーや航空会社と良好な関係を築いて信頼を高めれば、ボーイングやエアバスに対抗する勢力となる可能性もあると思います。後はロシアによるウクライナ侵攻で自国の航空産業の未来を閉ざしたような事が無いことを祈るばかりですが・・・

 

大韓航空とアシアナ航空の合併が認められないかも・・・破談になったらどうなる?

2020年に発表され、海外の規制当局の審査中だった韓国の大韓航空とアシアナ航空の合併ですが、ここに来て合併が認められない可能性が出てきました。5月17日に両社の合併を審査していた欧州委員会(EC)が予備審査の結果を発表し「合併により圧倒的に大きな航空会社となり、顧客にとって代替手段が失われたり、価格上昇やサービスの低下につながる可能性もある」という内容の見解を大韓航空に送付しました。最終決定は8月3日までに出すとし、大韓航空はその間に異議告知書に対する回答や口頭審理などで反論の機会が与えられますが、競争が制限される恐れがあるのが旅客便はフランス、ドイツ、イタリア、スペインの4カ国、貨物便に至っては欧州全域と広範囲であり、欧州委員会を納得させるには大幅な発着枠放出や路線整理が必要になりそうです。

www.aviationwire.jp

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大韓とアシアナの統合には韓国を含む14カ国の規制当局の承認を受ける必要があり、このうち韓国を含む11カ国で承認を受けています。残りはアメリカ、EU、日本の3カ国ですが、元々EUは独占的地位に繋がりかねない統合には否定的な見解を出す傾向にあり、過去にも航空エンジン大手ハネウェルのGEによる買収や、鉄道車両メーカー大手のシーメンスとアルストムの統合、現代重工業と大宇造船の統合などがEUの不承認で破談になっています。今回の統合に関しても韓国1位と2位の統合であること、傘下のLCCも含めた統合であることから結合審査は難航することが予想されており、計画発表から2年半経った今でも全ての審査をクリアできていません。最大の関門とみられていたEUが否定的な見解を出したことで、大韓とアシアナの統合には黄信号が灯った形です。

 

 

さらに18日には複数のメディアが、アメリカ司法省が大韓航空の提訴を検討していると報道しました。それによると司法省は大韓とアシアナの統合計画が韓国とアメリカの旅客及び貨物双方の競争を阻害すると懸念し、買収阻止のため提訴を検討していると言うものです。現段階ではまだ何も決まっていませんが、仮に提訴となるとアメリカでの審査にも大きな影響を与えることになり、判決が出るまで統合審査そのものがストップする可能性もあります。jp.reuters.com

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では、実際に提訴された場合、統合スケジュールはどうなるのでしょうか?実は司法省は他にも航空会社の提携・統合に対して訴訟を起こしており、アメリカン航空とジェットブルーの提携差し止めの訴訟に加え、ジェットブルーによるスピリット航空の買収差し止めの訴訟を起こしています。このうちアメリカン航空との提携に関しては、30日以内のアライアンス終了を命じる判決がちょうど今日出されました。提訴が2021年9月ですから、約1年8ヶ月で判決が出た計算になります。

www.traicy.com

 

大韓とアシアナの統合差し止めの訴訟が起こされた場合、判決が出るまでに1年以上かかる可能性が高く、少なくともその間は統合審査はストップする可能性が高いと思われます。また、EUに続いてアメリカでも統合却下の機運が高まれば、大韓側は2方向で対応を迫られることになります。更に日本もまだ本審査に至っていないようなので、欧州、アメリカの動向次第では日本も態度を硬化させる可能性があり、統合計画は厳しくなったと言えるでしょう。元々が大型合併過ぎて規制当局の承認を得るのが難しい案件ですが、残り3カ国の規制当局、特にEUの審査をパスできるかどうかはこの数ヶ月が山場と言えそうです。

 

 

さて、もし大韓とアシアナの統合が認められず破談になった場合、韓国の航空業界はどうなるのでしょうか?個人的な見解ですが、このまま統合前と同じになるとは思えず、LCCも含めた業界再編が起こる可能性があると思います。

 

そもそもなぜ大韓航空とアシアナ航空の経営統合が持ち上がったかというと、アシアナ航空及び親会社である錦湖アシアナグループの経営危機が発端です。2015年頃からアシアナ航空の経営はLCCとの競争激化で悪化しており、2018年には本社ビルを売却していますがそれでも経営を立て直せず、2019年4月にはアシアナ航空の売却を発表。一度は現代財閥系の現代産業開発(HDC)と未来アセット大宇のコンソーシアムに売却が決まりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で2020年9月に破談。その後、政府主導で大韓航空によるアシアナ買収に至った、と言う経緯です。

www.nikkei.com

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アシアナ航空の経営危機が買収の理由な訳ですから、それが破談になると言うことはアシアナ航空の経営が行き詰まるリスクを抱えています。2020年ほど危機的状況ではないとは言え、アシアナ航空の経営は低迷を続けており、LCCとの競争激化も続く一方。もし大韓とアシアナの統合計画が破談になれば売却交渉も振り出しに戻り、資金確保の当てが無くなったアシアナ航空が法的整理に追い込まれる可能性は十分にあります。

ティーウェイ航空やチェジュ航空の経営は好調とは言え、韓国2位のアシアナ航空をまるごと飲み込む体力は無く、大韓航空の他に有力な買収先が現れる保障はどこにもありません。最悪の場合、アシアナ航空は再建も買収もうまくいかず、傘下のLCCごと他社に切り売りされて消滅する可能性すらあると思います。その場合の引受先は、欧米路線は大型機導入で長距離路線進出に意欲を見せるティーウェイ航空に売却か、アシアナ航空の受け皿会社を作って一部路線を移管、近距離路線やLCCは大韓航空も含めた他の航空会社で取り合い、国内線は路線維持の観点から大韓航空に譲渡、といった感じでしょうか。

もしアシアナ航空が助かる可能性があるとすれば、所属アライアンスのスターアライアンスが韓国での権益確保のために支援に乗り出した時だろうと思います。特にユナイテッド航空は大韓とアシアナの統合に対して問題提起もしており、アシアナ航空を救うことがアライアンス全体の権益確保に繋がると判断すれば支援に乗り出す可能性があります。その場合、ルフトハンザやANAなども協力する可能性があるでしょう。

sky-budget.com

 

統合が認められるかは予断を許しませんが、仮に統合不承認で破談になったとしても、アシアナ航空のブランドが残るかどうかは不透明です。EUとアメリカの動きで一気に不透明感が増した大韓航空とアシアナ航空の統合問題ですが、考えようによっては2年半経っても出なかった結論が出るときが近いのかも知れません。今後の動きに注目です。

 

スターラックス航空会長の「神対応」に見る経営トップの危機管理対応

5月6日に強風で欠航し、成田空港で一夜を明かす羽目になったスターラックス航空の乗客に対し、張国煒会長が取った「神対応」がTwitterなどで話題となりました。

 

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リンク先の記事によると、この日の成田空港は強風による悪天候で多くの便が着陸やり直しや他空港へのダイバードを余儀なくされており、スターラックス航空の台北発成田行きJX800便も成田空港で何度も着陸やり直しをしましたが着陸できず、やむなく中部国際空港にダイバード。その後天候の回復を待って再度成田に飛び、当初の予定時刻12時45分よりも7時間以上遅れの19時52分にようやく着陸しました。

しかし問題だったのはこの便の折り返しとなる成田発台北行きのJX801便。当然、これだけの遅れとなると折り返しの準備や代替乗員の手配が付かず欠航になり、後続のJX803便への振り替えや代替便の準備で対応する予定でした。しかし間の悪いことに振り替え先のJX803便も機材故障で出発が遅延し、乗務員の勤務時間を超過することからこの便も欠航。代替便も調整に失敗して成田に飛ばすことができず、最終的にJX801便と803便の乗客合計308人が制限エリア内に取り残され、寝袋で一夜を過ごす羽目になりました。

 

で、ここから凄かったのがタイトルにもある張会長の「神対応」。乗客が取り残されたことを知るや、一番早く成田に到着できるジェットスタージャパンの深夜便で7日早朝に成田空港に到着。その足で乗客のところに出向いて謝罪し、往復分のチケットの全額払い戻しと他社便も含めた帰国便の手配を約束しました。そして、航空機のパイロット資格を持つ会長自ら立ち往生していた自社機を操縦して帰るという、並の経営者ではまず聞かないであろう最強エピソードを残して台湾に帰っていきました。

 

さて、私は最初このニュースを聞いたとき「悪天候が原因の欠航なら会社責任じゃないし、わざわざ会長が出張る必要は無いんじゃない?」と思っていましたが、振り替え便も機材故障で欠航するなどスターラックス側にも落ち度は見られたこと、プレミアム路線でブランディングを行っているスターラックスにとってこの手のトラブルで顧客満足度を下げることは決して得策ではないことを考えると、今回の張会長の迅速な対応はむしろ賞賛に値するものではないかと思いました。

実際、今回の対応は日本でも台湾でも好意的に報道され、SNSでも賞賛の声が挙がるなど、結果的にスターラックス航空の企業イメージ向上に大きく寄与しました。危機管理対応の原則である「速やかな情報の共有」「迅速な対応」「顧客への誠意ある謝罪」を実践し、自社の被害を最小限に抑えた素晴らしい対応ではなかったかと思います。ここまで完璧な対応を会長自ら取れるスターラックス航空は、今回の対応で今後急成長する可能性が高い有力航空会社に育つのではないかと思えてきました。

 

 

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当ブログでもスターラックス航空はコロナ渦前に一度取り上げたことがあり、この時は期待半分、不安半分で成功の可能性は五分五分と書いていました。そして、成功のカギは他社とのブランド差別化と早期の乗り継ぎネットワークの構築、リピート客の獲得にあるとも書いています。

しかし、2020年1月23日に台北~マカオ・ペナン・ダナン線を就航させた直後ににコロナ渦で航空需要が蒸発。就航直後でこれは危ないかな・・・と思いましたが、その後もスターラックスは路線拡大の手を緩めず、その年の12月15日には発の日本路線として台北~関空線、翌16日には成田線を開設。コロナ渦で利用客も見込めないのに強気すぎるのでは?と思ったのですが、他社の運休でむしろ希望する時間帯が取れる好機と判断したようで、成田線の初便は張会長自ら操縦桿を握って就航させる力の入れようでした。

 

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更にスターラックスは2022年に福岡・札幌・那覇便を開設し、2023年4月からは仙台線も開設。4月26日には初の太平洋路線となる台北~ロサンゼルス線も開設し、今後は東南アジア~北米の乗り継ぎ需要開拓を本格化させることになると思います。

 

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それにしても就航からわずか3年、しかもコロナ渦という逆風がある中での拡大っぷりは目を見張るものがあります。張会長自身が700億もの個人資産があり、181億台湾元(約818億円)の資本金を集めるなどそれなりに潤沢な資金を確保しているとは言え、就航からしばらくはコロナ渦の影響をもろに受けてしまい、2022年第三四半期には111億元(約502億円)の累積損失を計上。それでも「台湾のエミレーツ」を目指した高品質・高サービス・高価格帯のコンセプトは崩さず、コロナ渦が収束に向かうと業績を急回復させました。今年1月の売り上げは15億2000万元と過去最高を記録し、2月の売り上げは前年同期比20倍の13億7000万元(約62億円)を計上。この急成長を好感してスターラックス株は2月14日から急上昇し、19.55元から最高50.5元に伸びるなど、台湾国内でも注目度が高まっています。

張会長自身、パイロット資格の他に整備士資格も持つなど現場感覚も持っており、現場を知っているトップの方が大成する可能性が高いのはコンチネンタル航空やJALの再建などの過去の例からも明らか。成長軌道に乗ったことで、今後スターラックス航空は本格的に拡大路線を進めるものと思われます。

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今後は先発2社であるチャイナエアラインやエバー航空との競争に加え、スターラックス航空がいつアライアンスに加盟するかが焦点となるでしょう。加入するとしたらほぼワンワールド一択になると思われますが、加入すればアジア地域で加盟会社が少ないワンワールドにとって、有力なパートナーになると思います。ただ、現段階では就航から日が浅く、路線網も十分ではないので、まずは路線拡大とブランドの世界的な浸透が優先になるでしょう。今後スターラックスがどのような成長戦略を見せ、どんな拡大を見せるのか。今後も注目していきたいと思います。

 

スペースジェットの保存先はどこになる?

三菱航空機の社名変更に試験機全機の登録抹消と、スペースジェット撤退に関するニュースが相次ぎましたが、三菱重工からアメリカで試験飛行を行なっていた4機の解体が終了したと言う、衝撃的なニュースが飛び込んで来ました。

 

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以前の記事でも試験機の去就には触れていましたが、アメリカに保管されていた機体は日本への輸送が困難だと思うので恐らく解体だろうと言う予想をしていました。しかし、まさかこれだけ早く解体されるとは思っていませんでした。少なくともアメリカの機体に関しては三菱重工も引き取り手はいないと判断し、モーゼスレイクの試験施設も閉鎖した関係で長期保管が難しいこともあって早期解体に踏み切ったものと思われます。

 

スペースジェット事業撤退の際に書いた記事はこちら↓

 

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さて、アメリカの機体が消えた事で今後気になるのは日本に残る試験機の去就。国内に現存している可能性があるのは飛行試験用の10号機に加え、地上試験用の5号機や疲労強度試験用の6号機、製造途中だった7号機と11号機ですが、このうち製造途中の7号機と11号機は廃棄された、もしくは廃棄される可能性が高いと思った方がいいでしょう。また、6号機に関しても疲労強度試験用と言う性質上、展示保存には向かないと思いますので、これも廃棄される可能性が高いと思われます。従って、展示保存される可能性があるのは5号機と10号機の2機になるのではないでしょうか?そこで今回は、スペースジェットの試験機が保存されるとしたらどこになるか、考察してみたいと思います。

 

本命・あいち航空ミュージアム

スペースジェットの実機保存が実現した場合、真っ先に候補となるのはやはりここでしょう。試験機が置かれている場所から一番近く、敷地内の移動のみで搬入可能なこと、展示機もMU-300やMU-2、MH2000ヘリコプターと三菱重工由来の機体が多いこと、博物館の構造上、展示機の入れ替えが可能な上に将来の拡充が可能な事も挙げられますが、何よりあいち航空ミュージアム自体が将来のMRJ試験機の展示を視野に入れて建設されており、将来的に試験飛行が終了した後は試験機の展示が予定されていたことが大きな理由です。

結果的にはスペースジェットは開発中止で「幻の飛行機」となってしまいましたが、そのプロジェクトの意義や中部地方の航空機産業のシンボル、ネガティブな理由になりますが過去の失敗に対する反省と教訓として、試験機を展示する意義は大いにあると思います。もし展示するとしたら、地上試験機の5号機になるでしょうか?

 

対抗・かかみがはら航空宇宙博物館

「中部地方の航空機産業のシンボル」「将来の航空宇宙産業を担う人材育成の一環」として展示するのであれば、岐阜県各務原市にある「かかみがはら航空宇宙博物館」も候補の一つです。あいち航空ミュージアムに比べればスペースジェットの縁は薄いですが、比較的小牧市に近く、機体搬入の面で有利なこと、すぐ近くに航空自衛隊岐阜基地があり、許認可面や安全面さえクリアできれば、飛行試験機の10号機を岐阜基地まで飛ばして搬入される事も可能な事がその理由です。また、国内有数の航空博物館として展示保存体制はしっかりしていますし、年間20万人規模の集客力がありますから、保存に行き詰まって解体というリスクも比較的低いでしょう。個人的な希望を言えば、あいち航空ミュージアムとかがみがはら航空宇宙博物館の両方で展示してくれれば嬉しいんですけどね・・・

 

一発逆転・航空科学博物館(成田市)

正直、機体の搬入面ではかなり不利な場所ですし、展示スペースの確保も難しい場所ですが、首都圏から近い場所での展示というのは大きな魅力です。機体丸ごとの展示は難しくても、前頭部だけの保存なら何とか行けませんかねえ・・・頭だけなら製造途中の機体や疲労強度試験機でもいいわけですし。

 

大穴・能登空港

「何で能登空港?」と思われるかも知れませんが、実は能登空港は国内でMRJの飛来実績がある数少ない空港。加えて能登空港には航空大学校のキャンパスもあり、航空大学校の教材としても活用できるというメリットがあります。ただ、他の候補が正規の博物館なのに対し、こちらは空港に置くわけですから長期保存に耐えられるか、そもそも輸送をどうするかという問題もありますが・・・

 

 

以上、駆け足ながらスペースジェットの保存先候補を考察してみました。ただ、三菱重工は小牧の機体の去就については「検討中」としており、解体の可能性があるのが心配なところ。願わくば、1機でも多く博物館などに保存され、少しでも国産ジェット旅客機に触れる機会を作って欲しいですね。三菱重工の英断に期待します。

 

そう言えばジェイ・キャスってどうなったっけ?

2019年に当ブログで取り上げた航空準備会社「ジェイ・キャス」。あれから3年以上経ち、半分存在を忘れかけていましたが、最近また名前を聞くようになったのでこの会社のその後を調べてみたいと思います。

 

www.meihokuriku-alps.com

 

2019年に取り上げた時の事業計画では「関空・中部空港と地方空港を結ぶ近距離航空路線を構築し、地方空港の活性化を図る」として、70~80席級のターボプロップ機2機をリース購入し、関空を拠点に富山・能登・米子・岩国に就航、2021年秋の就航を目指すとされていました。

 

公式HPは現在も存在しており、そのHP内では新型コロナウイルスの感染拡大でしばらく活動自粛せざるを得なかったものの、航空経験者数名が入社しており、2022年7月には石川県志賀町に北陸準備室を設置。9月には米子に山陰準備室を、12月には富山市内に富山オフィスを開設し、地域への情報発信や人脈作りに本腰を入れているようです。

 

www.jcas.co.jp

 

最近では就航予定先のメディアでも紹介されたり、月刊エアラインでも取り上げられるなどメディア露出も徐々に増えているようです。

 

しかし、今のところはまだ準備会社の域を出ず、資金調達にも苦戦しているようで、12月にはクラウドファンディングを実施して支援を呼びかけたようです(現在は終了しています)

congrant.com

 

しかし、そのクラウドファンディングも目標の500万円に対し実際に集まったのは100万円と2割程度。就航予定も2024年秋にずれ込むなど、傍目から見ても苦戦しているのは明らかです。資金調達についても新たな出資先や支援企業などの話も聞こえてこないので、うまくいっているとは言い難い状況です。

sky-budget.com

 

ところで、新規参入を目指す地域航空会社というと、新潟を拠点に就航準備を進めているトキエアが挙げられます。会社設立は2020年7月とジェイ・キャスよりも後ですが、こちらは新潟県内の企業や金融機関から順調に出資金を集め、新潟県からも11億6000万円の融資を受けたことで目標金額の45億5000万円の調達に成功。リース会社の経営破綻などはあったものの、今年に入って2機が無事新潟空港に到着し、3月31日には東京航空局からも航空輸送事業許可を取得し、スタートラインに立つことができました。現在は6月30日の新潟~丘珠線の就航を目指し、訓練飛行を続けています。その後も新潟~仙台・中部・神戸線の就航を目指しており、将来的にはSTOL機のATR42-600Sを使用して佐渡空港から東京方面への直行便開設を計画するなど、新規参入を目指している他の会社に比べると順調に進んでいます。

tokiair.com

 

では、なぜ先行していたはずのジェイ・キャスが未だに計画の域を出ず、後から設立されたトキエアが就航までこぎ着けられたのでしょうか?ジェイ・キャスの場合、計画発表後にコロナ渦に見舞われたという不運はありますが、トキエアの場合はコロナ渦の渦中に設立された訳ですから、外的な条件は一緒なはず。両社に決定的な差がついた理由は「就航地域のバックアップを得られたか否か」ではないかと思います。

 

トキエアの場合、設立当初から新潟空港を拠点にすることを明言しており、資金調達の際も新潟県内の企業や行政にターゲットを絞って活動しています。「新潟県の航空会社」というイメージや新潟県や佐渡の活性化といった「大義名分」が企業や行政の共感を呼び、出資金や融資を受けやすくなったのではないかと思います。

加えて、トキエア社長の長谷川氏は日本航空での勤務後に新潟県庁交通政策局での勤務経験があり、新潟空港活性化にも携わっています。この時の経験と人脈がトキエアの資金調達や新潟県との折衝にプラスに働いたのではないでしょうか?

www.travelvision.jp

 

一方のジェイ・キャスですが、就航予定地域が富山・能登・米子と分散しており、拠点や人員も3カ所に分散しています。一応、最初の就航路線は関空~富山線のようですが、2024年内に関空~能登・米子・石見への路線も展開するとしており、どの地域をメインにするかはあまりはっきりしていません。この辺の曖昧さや人的リソースの分散が就航予定地域での機運が盛り上がらず、資金調達がうまくいっていない理由なのではないかと思います。

sky-budget.com

 

資金力や人的リソースが豊富な大手企業がバックに付いているならともかく、ジェイ・キャスのようなゼロからのスタートの場合は就航予定地域を一カ所に絞り、その地域に溶け込む覚悟で資金調達や人脈作りに注力した方が成功の可能性は上がるのではないかと思います。トキエア以外に就航までこぎ着けた新規参入会社の例を見ても、北海道を拠点にしたエアドゥ、宮崎を拠点にしたソラシドエア、北九州を拠点にしたスターフライヤー、静岡を拠点にしたフジドリームエアラインズと、最初の拠点は一カ所で就航してそこから拠点を拡大したケースが多く、最初から複数拠点で準備して就航にこぎ着けたケースは余り見当たりません(IBEXエアラインズは複数拠点で就航したケースに近いですが、一応拠点は仙台に置いてます)

残念ながら東京に本社を置き、地方拠点も分散している今のジェイ・キャスの営業体制では、就航予定地域の共感も広がらず、出資企業も現れないのではないかと思います。せめて最初の就航地域を北陸か山陰のどちらかに絞り、人的リソースを集中させて資金調達をしないと、どちらも中途半端になって計画倒れに終わる可能性が高くなるのではないでしょうか?

個人的には地方間の航空路線をもっと増やして交流を活発させて欲しいですし、ジェイ・キャスの地方創生というコンセプト自体は共感できるものです。ですが、今の状態のままでは就航など夢のまた夢というのも事実。ここまで来てどこか一カ所に絞るというのは難しいかも知れませんが、就航の可能性を上げるためにも決断するべき時期に来ているのではないでしょうか?

 

日本の航空会社で購入表明が相次ぐ737MAX、A320neoの巻き返しや主力機の鞍替えはある?

昨年から今年にかけて日本の航空各社で737MAXの購入表明が相次いでいます。かねてより737MAXを購入する意向を表明していたANAホールディングスは2022年7月11日に737-8シリーズ20機の確定発注の最終購入契約を締結したと発表。2025年から導入予定となります。また、今年の1月18日にはスカイマークも次期主力機として737MAXを正式発注したと発表。737-8と-10を各2機ずつで2026年度納入予定ですが、その前の2025年4-6月期から737-8を6機リース導入する予定です。

さらに3月21日には日本航空が737-8型21機を確定発注したと発表。こちらも2026年からの運航開始を予定しており、2025年から26年は737MAXの就航ラッシュになりそうです。

 

皆様ご存じの通り、737MAXは2018年と2019年に相次いで墜落事故を起こし、FAA【アメリカ連邦航空局)をはじめとした世界各国の航空当局から運航停止処分を受けていましたが、ボーイングが安全確保のための改修措置を行い、2020年12月以降、順次運航が再開されています。運航再開後は墜落事故はもちろん、目立った不具合や運航トラブルは起きておらず、ANAやJALも安全性の面で問題ないと判断して発注に踏み切ったようです。各航空会社に737MAXが納入される頃には更に運航実績を重ねて信頼性が上がり、初期不良や不具合も出尽くしていると思いますので、今回の発注のタイミングは「絶妙」と言えるでしょう。

 

↓737MAXについては当ブログの過去記事もご参照下さい。

 

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さて、これだけ相次いで737MAXの発注表明が相次ぐと、ライバルのエアバスA320neoシリーズの動向が気になるところ。当初は737MAXの「敵失」もあってANAやピーチ、ジェットスターやスターフライヤーで発注されてきましたが、これらの会社は元々A320シリーズを使用していた会社であり、737ユーザーがA320に鞍替えするケースは今のところ日本ではありません。また、今回737MAXを発注した航空会社にしても元々737を使用しており、こちらもA320からの鞍替えとなるケースはありません。見方によっては「それぞれの機種のユーザーが改良版を発注した」というある意味順当な結果になっているとも言えます。

では、これから先、A320ユーザーが737に鞍替えしたり、その逆のケースが発生するといったことは今後あり得るのでしょうか?

 

まずはANAグループ。今やANAの子会社となったピーチや、ANAとコードシェア関係にあるエアドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーを含めても、当面は鞍替えする可能性は低いと思います。

当ブログでも過去に取り上げたことがありますが、ANA位の規模で737とA320の両方を保有するケースは実はそれほど多くはなく、世界的に見ても珍しい事。当時の記事では否定的に書いていましたが、今は「両方の機種を持っていてもそこまで不利ではないかもな」と思うようになってきました。

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確かにANA単体で見れば737MAXとA320neoをそれぞれ30機程度というのは余り効率がいいとは言えません。しかし、ANAグループ全体や提携航空会社も含めてみれば、実はかなり大きな規模を持っていることで、両方の機種を保有していてもスケールメリットは十分生かせますし、リスクヘッジもできているのではと思うのです。

ANAグループ及び提携会社(独立性が強く、ANAへの依存度が薄いスカイマークは除く)の737とA320の保有機数は以下の通り。

 

ANA本体(ANAウィングスも含む)

737      39機

A320・A321  36機

ピーチ

A320・A321  33機

エアドゥ

737      8機

ソラシドエア

737      14機

スターフライヤー

A320    11機

 

合計 737 61機 A320 80機

 

いかがでしょうか?ANA単体だとそれぞれ3~40機程度しかなさそうですが、グループや提携航空会社も含めると結構な規模になりますし、ピーチやスターフライヤーも合わせるとむしろエアバスの方が機数が多いことが分かります。既にANAはピーチの分もまとめて発注していますし、今後は経営統合したエアドゥとソラシドエアが共同で新型機を発注と言うことも考えられますから、グループ全体で見れば両方の機種を保有しても十分スケールメリットを生かせられそうです。

また、エアドゥとソラシドエアの後継機も今の機種との連続性やANAグループ全体の単通路機のバランスを考えると737MAXに傾く可能性が高いと思われます。ただ、もし将来的にスターフライヤーとの統合を考えているなら、思い切ってA320neoに切り替えるという選択肢もあります(既にA320neoを導入する予定のスターフライヤーが737に合わせるとは思えませんし)。

ただ、他の2社に比べて独自性も高く、上場会社であるスターフライヤーが今更この2社に合流するとは考えにくいので、統合や鞍替えの可能性は低いかなと思います。

 

 

一方のJALグループ。現在保有している単通路機は737-800のみ56機ですが、今回発注したのは21機と3分の1強。全ての737-800を737MAXで置換えるわけではありません。JALの場合、同じ737-800でも初期導入期は2005年製と間もなく更新時期を迎えるのに対し、日本トランスオーシャン航空に納入された機材は2016~2019年製と比較的新しいなど納入時期にかなりのばらつきがあるため、慌てて全機置換える必要が無いと言う事情があります。また、JALは737-800以外にも28機の767-300ERの置換えも控えていますので、一部の767-300ERを737-10かA321neoで置換えるというシナリオも考えられます。

下記のリンク先の記事にもあるように、今回の発注だけで「JALの次期単通路機=737MAX」と決めるのは早計であり、ANAと同様、今後A320neoシリーズも発注して737MAXと併用する可能性も十分考えられます。よって、JAL本体に関しては「A320neoに統一される可能性はなくなったが、737MAXと併用する可能性は残っている」と思います。

 

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また、JALグループでもジェットスタージャパン(JALが50%出資)とスプリング・ジャパン(JALが66.7%出資)というLCC2社を抱えており、前者はA320シリーズ21機を、後者は737-800を6機保有しています。特にスプリング・ジャパンは2024年4月からJALとヤマト運輸の合弁貨物航空会社の運航受託を予定しており、その機材はA321ceoの貨物機改造型。スプリング・ジャパンの出資先の一つである中国の春秋航空もA320シリーズの単一機種であり、今後A320の機種移行養成も春秋航空と協力する予定ですので、将来的にはA320neoに移行してもおかしくないのではと思います。よって、今後鞍替えの可能性があるとすればスプリング・ジャパンではないでしょうか?

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JAL本体は737、傘下のLCCはA320と棲み分ける可能性もありますが、JAL本体は737だけでもグループ全体で見れば実はA320の割合もそれなりにあり、この点も今後JAL本体がA320neoシリーズを発注する可能性が十分考えられる理由です。以前JALの社長、会長を務めた大西賢氏も「基本的に機材計画は20機が目安。1機種あたり20~30機の規模になれば、別の機種を投入しても投資が無駄にならない」と発言しており、グループ会社も含めたJALの規模から考えると、737MAXとA320neo、両方持っても問題ないと言うことになります。今後はJAL本体がA320neoシリーズも発注するのか、スプリング・ジャパンの主力機鞍替えがあるのか、この点に注目していきたいですね。

 

 

城端線・氷見線のLRT化とは何だったのか

2020年1月にJR西日本から富山県と沿線4市(高岡・砺波・南砺・氷見)にLRT化を含めた新しい交通体系の検討を提案したことで、突如として浮上した城端線・氷見線のLRT化問題。当初はLRT化に好意的・前向きな意見が多かったのですが、今年2月2日に開催された第5回検討会で、LRT化、BRT化、新型車両投入の3パターンでの事業費調査結果が出ると、LRT化は費用面や長期運休、冬期運休リスクなどが懸念されて急速に議論がしぼみ、一転して新型車両投入を求める声が相次ぎました。

3月に入ると沿線自治体の市長は相次いで新型車両導入の支持を表明し、3月8日には富山県の新田知事も新型車両導入の支持の意向を表明したことで、城端線・氷見線の活性化策は新型車両導入で決着する可能性が高くなりました。年度内に活用策の方向性をまとめた上で、新年度以降、国の交付金申請など具体案をまとめる見込みです。まだ正式な結論が出たわけではありませんが、城端線・氷見線のLRT化は事実上なくなったと見ていいでしょう。

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個人的には通学輸送の割合が大きく、商業地や住宅地よりも田園地帯が多い城端線・氷見線をLRT化しても効果は薄いと思っており、非電化かつ比較的距離のあるこの路線のLRT化には多額の費用がかかる割に問題が多いのではと懸念していました。特に1本の列車で100人以上の通学客を輸送する朝夕の時間帯は定員の少ない路面電車型の車両では捌ききれない恐れもあり、逆にサービス低下と通学客離れを招く恐れさえあると懐疑的な目で見ていたので、新型車両導入の流れになったのは落ち着くべきところに落ち着いたなと思います。

 

なぜJR西日本はLRT化を提案したのか

JR西日本は北陸、中国地方に赤字ローカル線を多数抱えており、かつJR東日本やJR東海に比べて収益性が低いと言う構造的問題を抱えています。決して公共交通に対する意識や使命感が低いわけではありませんし、むしろ使命感があるからこそ今までローカル線を維持してきたと思いますが、民間企業としての本音を言えばできれば好転の見込みがない赤字ローカル線は切り離したいと思っているでしょう。過去には月一ペースで計画運休を行ったり、保線費用節約のために徐行運転をしたりしています。

その一方で沿線自治体が存続や改良に前向きで、費用負担も厭わない路線には積極的に協力する傾向にあります。山陰線や姫新線などの高速化や、七尾線、播但線などの電化、可部線可部~あき亀山間の復活など、意外とローカル線の改良・再生には協力的。富山港線のLRT化も最初はJR西日本が提案したのが切っ掛けですし、個人的にはJRグループの中で一番ローカル線に好意的なのではと思っています。

今回の城端線・氷見線の場合、輸送密度は2000人を越えており、いわゆる「収支状況公開」の対象ではありませんでしたが、それでも長期低落傾向で何らかのテコ入れが必要な時期に来ているのは事実。それでいて人口16万人台の高岡市を起点とし、沿線自治体も4~5万人程度とまだ沿線人口は多い方なので、テコ入れ次第ではまだ活性化の可能性がある路線でもあります。

JR西日本が城端線・氷見線のLRT化を打ち出したのは、沿線の活性化と路線の再生、そして地元サイドに路線の将来を真剣に考えてもらう「切っ掛け作り」だったと思います。そのとっかかりとして、富山港線の「成功例」があり、県民にもインパクトがあるLRT化を提案したのではないかと思います。

 

なぜ沿線はLRT化に乗り気になったのか

では、沿線自治体はなぜ城端線・氷見線のLRT化に前のめりになったのでしょうか?富山港線のLRT化の成功を間近に見たこともあると思いますが、富山市同様路面電車への心理的抵抗が少ないことも挙げられます。

沿線自治体の中で一番大きい高岡市には高岡駅と射水市旧新湊地区を結ぶ万葉線があり、90年代後半に廃線の危機にあったものの、草の根的な市民運動の盛り上がりで存続の気運が高まり、第三セクター方式で存続した経緯があります。この時、当時の高岡短大学長の蝋山昌一氏が経済学に基づいた科学的な説明で「鉄道単体では赤字でも地域社会全体ではメリットがある」と、社会的便益を理由にした存続提言をしたことで廃止から存続に風向きが変わったこと、存続決定後も官民協働でイベントや利用促進策を継続的に行ったことで、万葉線の利用者数は僅かながら増加傾向に転じました。万葉線自体は現在でも赤字ですが、必要な社会インフラという認識が高岡市・射水市でも浸透していること、赤字額も両市の補助で賄える範囲に収まっていることから廃止の話は全く起こっていません。

toyokeizai.net

 

万葉線という「成功体験」があることで、高岡市でもLRT化を受け入れやすい土壌はありました。万葉線存続の原動力となった市民団体・RACDA高岡も城端線のLRT化を提言したり、高岡市も万葉線の延伸構想を検討したりと、実は以前から路面電車の拡大が検討されていました。JR西日本からの提案は「渡りに船」とも言えたのです。

加えて高岡市には城端線・氷見線の直通化という長年の「悲願」がありましたが、軽量のLRT車両なら立体交差の建設も比較的容易という事も、LRT化検討の後押しになりました。高岡市の調査資料でも、城端線・氷見線の満足度が低い一方、万葉線の満足度が他と比べて高かったことや、城端線・氷見線への乗り継ぎへの不満が高かったことからも、城端線・氷見線は何らかのテコ入れが必要であり、その解決策としてLRT化に前向きになったと考えていいでしょう。

https://www.city.himi.toyama.jp/material/files/group/4/ennsenntiikikoukyoukoutuukeikaku202206zenbun.pdf

 

検討会で見られたLRT化が厳しいという「前兆」

JR西日本、沿線自治体ともにLRT化には前向きだったはずなのに、最終的な結論は「新型車両の導入」なぜこのような結論になったのでしょうか?富山県のHPで公開されている「城端線・氷見線LRT化検討会」の議事録を読んでいくと、回を重ねるごとにLRT化の機運が徐々にしぼんでいき、新型車両の導入に傾いていった「前兆」が垣間見えました。

 

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2020年(令和2年)6月8日に開かれた第一回検討会では、LRT化というJR西日本の提案に対し好意的な意見も多かったものの、導入費用や整備後のランニングコストを懸念する声もあり、需要予測や将来のまちづくりも含めた検討をすることになりました。

翌2021年3月25日に開かれた第二回検討会で鉄道のまま現状維持、本数そのままでLRT化、LRT化して富山ライトレールと同じ運行間隔の3パターンでの需要予測結果が公表され、LRT化して運行間隔を増やせば大幅な利用者増加が見込めるという結果が出ました。一方でまちづくりに関しては新駅設置やパークアンドライド、二次交通整備などの課題が挙げられたものの、LRT化についてはやはり初期投資やランニングコストの検討が必要であり、それも含めて引き続き検討していくという方針が示されました。

 

ところが、11月16日に開かれた第三回検討会では、新駅設置による需要予測は数パーセント程度の増加と余り大きくなく、停車駅増加による所要時間増加というデメリットも提示されたこと、「LRT以外にも電気式気動車の導入やBRT(バス高速輸送システム)など幅広い交通体系を検討するべき」「城端線・氷見線をLRT化することが目的ではない」「雪に対応可能な交通体系を検討しておきたい」と、この辺りからLRT化への議論がトーンダウンし始めたことが窺えます。当初はJR西日本が提案したLRT化のメリットが強調されていましたが、検討を進めるにつれてLRT化のデメリットや不安点も出てきたのではないかと思います。

 

そして2022年5月17日に開かれた第四回検討会では電化されたLRT以外の交通モードについて検討調査することが正式に決定され、蓄電池式での非電化LRT、新型車両(電気式気動車)の導入、BRT化などの概算整備費などを調査することになりました。この時の検討会でも他の交通モードについては調査が必要などという意見が合った一方、新型車両導入については一定のメリットがあると言う声があり、この時点で他の交通モードよりも好意的に見られていることが伺えます。

 

費用と便益という「現実」を突きつけられ・・・

そして迎えた2023年2月2日の第五回検討会。城端線・氷見線のLRT化等の事業費調査結果と、LRT化以外の交通モードの概算整備費の調査結果が公表されました。

その結果、LRT化の場合は電化設備の設置も必要になるため1~2年程度の運休期間が発生すること、現在と同等の輸送力を確保するためには全駅の行き違い設備設置や現在の3倍の車両数が必要になること、低床・軽量車両では冬期の運行障害リスクが高いことなど問題点が多数あることが判明し、事業費も最大435億円かかるなど、費用対効果の面でかなり疑問が残る予測が出され、委員からも「運休期間の長さは沿線住民の鉄道離れに繋がる」「持続可能性という点で相当厳しい」との意見が出されました。

更にLRT以外の交通モードについても、非電化LRTは電化LRTに比べて事業費も殆ど変わらない上に問題点は同じ、BRTは事業費こそLRTよりも小さいものの輸送力や所要時間が落ちる上にLRT以上の運休期間が必要なためお話になりません。一方の新型車両導入については既存の施設をそのまま使えるため運休の必要が無いこと、あいの風とやま鉄道への乗り入れが容易なこと、そして事業費も161億円(高岡駅での直通化費用込み)と他の交通モードよりも遙かに安上がりなことから、検討会の意見は「新型車両導入」に一気に傾き、LRT化を求める声はなくなりました。

3月末までに開かれる次回の検討会で一定の方向性が示される予定ですが、3月に入ると議会開催時期ということもあり、前述の通り沿線市長は相次いで新型車両導入の支持を表明。そして3月8日に新田知事が新型車両導入支持を表明したことで、城端線・氷見線のLRT化の可能性はほぼ絶たれたと言っていいでしょう。今後は新型車両導入を軸に、車両タイプの検討や導入費用の負担割合、高岡市が求めている城端線・氷見線の直通について検討されるものと思われます。

 

「新型車両導入」後の城端線・氷見線の将来

これで城端線・氷見線の将来は「新型車両導入による活性化」で決まりました。3年かけて比較検討して出した結論ですし、費用対効果の面で言えば新型車両導入が一番望ましいと思っていたので、落ち着くところに落ち着いたなと言うのが正直な感想です。

 

今後の課題は沿線住民のマイレール意識の浸透や、高岡市以外の自治体での利用促進策のノウハウ構築でしょう。氷見・砺波・南砺の三市は高岡市以上にマイカー依存度が高く、鉄道に対する利用促進策やマイレール意識が弱い印象があります。官民が協働でイベントや利用促進策を行う土壌も富山市や高岡市ほどありません。

また、新型車両導入というのは言い換えれば「ただ車両が新しくなるだけ」であり、沿線活性化の起爆剤にするには、高岡市が求める城端線・氷見線の直通化に加え、利用客の不満が大きい他路線への乗り継ぎ改善や増発による利便性改善が不可欠になります。

幸い、これらの課題に関しては富山県には万葉線や富山ライトレールで築いた「官民協働」「鉄道を核にしたまちづくり」のノウハウがあり、運行形態は異なるものの、城端線・氷見線沿線でも応用は可能です。また、過去5回の検討会でJR西日本と沿線自治体、沿線自治体同士のつながりも生まれ、議論を深める土壌もできあがっていると思いますので、利便性改善の議論や利用促進策のノウハウ構築は割とスムーズに行くのではと期待しています。

 

一方の新型車両ですが、最有力候補の電気式気動車はJR東日本や北海道では既に実用化されて大量配備されているのに対し、JR西日本ではようやく2021年に試験車両「DEC700型」が作られて試験走行中。2023年3月現在では具体的な投入時期はおろか、量産化についてもJR西日本からの公式発表はなく、この車両が城端線・氷見線に投入されるかも不透明です。

蓄電池式車両やハイブリッド式にしても他のJRからノウハウ込みで購入する必要がありますし、キハ127型などの既存の液体式ディーゼル車の導入も今更感がありますから、どの方式を取っても課題が残ります。この辺りは沿線自治体ではなく、JR西日本に最終的な決定権がありますから、どの車両を導入するか決まるまではもうしばらくかかるのではないかと思われます。

 

いずれにしても、城端線・氷見線が新型車両に置き換わるまでにはまだ数年単位の時間が必要になると思われます。一方、現在この路線を走っているキハ40系もいつの間にか他のJRでは数を減らし、全国的にも貴重な存在になりつつあります。考えようによっては国鉄時代の姿を色濃く残す城端・氷見線の姿は今しか見られない貴重なものですし、将来の姿に想いを馳せつつ、今の姿を記憶にとどめておくのも一興ではないでしょうか?

 

【3月30日追記】

本日開かれた検討会で城端線・氷見線のLRT化断念と新型車両導入が正式に決まりました。今後は運行本数の増便や交通系ICカードの導入、直通化などの利用促進策、また関係機関の役割分担や負担割合などを話し合う新たな組織が立ち上げられて新型車両導入と活性化策の話し合いが本格化することになりそうです。

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気になる車両ですが、上記ニュース内では電気式気動車を念頭に置いているようで、JR西日本が開発中のDEC700が量産化できるのであれば、これが最有力かなと思います。ただ、前述したとおりまだ実用化の表明がされていないのが不安要素です。それまで待てないと言うならJR東日本のGVーE400かJR九州のBEC819系(これは蓄電池電車ですが・・・)をライセンス生産して投入するか、既存のキハ127系を投入するかでしょうが、この辺はこれからの議論になるのでしょうね。また、運営主体についても議論の対象となっているので、ひょっとしたら三セク移行の可能性もあるかも知れません。

検討会の議事録がHPにアップされたらその辺りの方向性が書いてあるかも知れませんので、またこの記事で追記したいと思います。